Tail of Twin 作:グラコ口
―――――目が覚めて、真っ先に自分の髪に触れる。
かつては毎日のようにしていたその癖があることに僅かに違和感を覚える。
それと同時に、目の前に見慣れた顔があることに気づいた。
「……トゥアール、さん…?」
「――――…っ、よかった…リィリアッ」
一瞬だけ、夢かな。と思ったのは抱きしめられたことで全身に走った鋭い痛みによって否定され。思わず出たうめき声に、慌てて離され。そこでようやくトゥアールさんに抱えられていたことに気づく。
「す、すぐに消毒と滋養強壮剤を! あ、ああっ!? 総二様用に用意したいろいろな意味で元気になる薬しかないっ!?」
「……わたし、けっこう元気ですよ?」
「いえ、ダメです。このすごい傷薬をつかいましょう」
色々なものを燃やし尽くして戦ったからか、やけにさっぱりした気分だった。
とはいえやっぱり気になるのか、白衣のポケットから取り出した軟膏を塗りつけてくれる。……なんとなく、昔みたいで少し嬉しかった。
と、そこで蛮族として有名なブルーが凄まじく意外そうな目でトゥアールさんを見て言った。
「……アンタ、普段幼女好きだ、痴女だって公言してる癖にこんな時は案外真面目なのね」
「……え?」
ちじょ? ようじょずき?
あ、知女に洋書好きでしょうか。
「ぎゃあああ!? なんてこと口走るんですか、愛香さん!?」
「……わたしも好きですよ、洋書?」
「――――ほら! これが愛香さんみたいな蛮族と幼女の違いですよ! 可愛いですよね、そうですよね! あの裏では黒そうな会長とは比べられないくらい白いんです! だから妙なこと吹き込まないで下さい!」
「……なんか癪だけど、アンタのファンの夢は壊さないでおいてあげる」
これが幼女好きの原因か、と小さく呟く声が聞こえた気がしたが、そこでようやくそれどころじゃなかったことを思い出した。
「―――――…っ、そうです! あぉっ……ホワイトは!?」
「――――大丈夫です。レッドもいますから、絶対に負けません。……ほら、お二人があんな戦いをしています―――」
言われて、トゥアールさんの視線を追い―――――“ソレ”を見てしまった。
白銀色に変わったツインテールを靡かせ、居合の構えのまま姿勢を低くして戦場を滑る白い影。普通ならば絶対にできないだろう動きを可能にするのは、ホワイトの
その分厚い氷の上でドラグギルディは動きを制限され、ホワイトはまるで舞うようにその氷上を滑走していた―――――満面の笑みで。
「――――――…ぁははあ! ツインテール…っ!」
(リ、リミッターが壊れてますぅぅぅっ!?)
恐らく、というか間違いなく先ほど自分がテイルギアを暴走させた影響だろう。
かつて
それにツインテールを見た時に急激に高まる分の葵さんの属性力を貯めこんでおくことで、ドラグギルディ戦用の定期預金とする。おまけとして葵さんの情緒も安全に安定する。……もちろん世界を救うためとはいえ、とんでもなく勝手な真似なので後で可能な限りの罪滅ぼしはするつもりだったけれど。
つまり感情の高まりのリミッターになっていたそれが壊れた今、トゥアールさん謹製“おしゃべりリィリアちゃん”改良型こと
それも、深夜テンションのように暴れまわるテイルホワイトの動きと顔で。
(……あ、後で神宮寺さん用に調整しましょう……)
思わず遠い目になるリィリアは、結局自分の背中に軟膏を塗ってくれるトゥアールの顔が大変なことになっているのには気づかなかった。
―――――――――――――――――――――
―――――属性力をリィリアに搾り取られたので、戦える状態じゃない。
とは言うものの、それは本当だろうか。
先ほどはレッドに合わせてなんとなく言ったが、心に限界なんてないはずだ。
つまりは、ただ徹夜でずっと作業していたかのような状態になって心が弱っているだけなのだ。急激なダイエットでリバウンドするように、深夜テンションで限界を超えるように。今、俺も
「―――――…レッド、ツインテールの陣…っ!」
「――――ああ!」
レッドは「分かってる」と言いたげな顔で自信ありげに頷き、ドラグギルディは油断なく身構える。
「―――…むぅっ、来るか!」
―――――ふはははぁぁぁっ! そんな陣など無いわ!
強いていうのなら、その場のノリに任せて突っ込むだけの攻撃陣。
しかし嫌がらせとばかりに強度を様々にしたこの氷の戦場の上では、ドラグギルディの巨体では滑りやすいだけではなく、迂闊に踏み込むと氷が割れて体勢を崩しかねない。
逆にこちら。レッドは腰のブースターで瞬間的には足場がなかろうと全力の一撃を繰り出すことができ、俺は自分で冷気を出して足場を補強すればいい。あとスケートは割と得意だったりするし。元々氷を使うホワイトのテイルギアは氷の上での行動もできるように調整してあるらしいし。
それでも自在に動くドラグギルディのツインテールの闘気がこちらに向けて襲い掛かってくるが――――左腕のアーマーを犠牲に受け流し、あとついでにちょっと触ってから懐に飛び込む。
「―――――馬鹿なっ! 痛みを恐れぬというのか!?」
「それが―――…ツインテール、なら!」
――――――我々の業界ではご褒美です! あとちょっと触ってみたかった!
ドラグギルディのツインテールの内側に飛び込み、両手を氷についてしゃがみ込むことで踏み込みが甘くなった斬撃を回避し。そこからウサギのように一気に跳び上がる。調子に乗って、冷気を噴射して加速する! やりすぎて飛び上がりすぎたけど気にしない!
「―――――秘剣……
「ぬ、おぉぉぉぉっ!」
何かとんでもない技が来る!
と、見せかけて―――――普通の斬撃だぁぁぁっ!
しかし必殺技を警戒して距離を取ろうとしたドラグギルディは若干体勢を崩してまでそのごく普通の縦斬りを回避。だが、それがこちらの狙いでもある―――!
――――だって、レッドいるから相手の体勢崩せばなんでもいいじゃん?
瞬間、ドラグギルディが踏み抜いた氷のところに着地してしまったせいでコケた。
――――――――――――――――――――――――――――――
前方の氷の上を、縦横無尽にホワイトが駆け抜ける。
その背に輝くツインテールは天使の翼の如く。いつもよりも美しさを増したそれを羽ばたかせ、動きにくはずの氷の上を、無人の空でも歩くかのように軽やかに舞う。
踏み込みが甘くならざるを得ないために鈍ったドラグギルディの剣を軽々と避け、あるいはその斬撃を受け流す勢いすら利用して加速。氷を生み出して自分に有利な足場を創り、氷の地面にその手を突いて動くことも厭わない。
それは普段から蛮族呼ばわりされるブルーよりもあるいは野生の獣じみた動きだったかもしれないが、真剣にドラグギルディのツインテールを見据えるその顔には僅かな迷いもなく、そのことがホワイトの神秘的な魅力を失わせず。氷のように気高くありながら、炎の情熱を秘めて羽ばたこうとする姿を印象づけられた。
―――――そう、ツインテールを求めてひたむきに戦う。その尊さを。
『――――総二様』
「――――いいや」
申し訳無さそうなトゥアールの声に、そっと首を横に振る。
トゥアールがツインテールを、そして先程のツインテールが大好きな女の子のことをどんなに大切に思っていたかはしっかりと伝わった。
だから、謝る必要なんてない。
トゥアールにはトゥアールの考えがあったのだろう。そして、俺には俺の考えがある。
―――――トゥアールの想いは、このテイルギアに確かにある。だから。
「(……俺たちが、ツインテールを愛する限り――――!)」
「俺たちは! 同じ
ブレイザーブレードが、俺の心に応えるかのようにこれまでになく力強い炎を宿す。
そしてホワイトは振り返らず、ただ簡潔に告げた。
「―――――…レッド、ツインテールの陣…っ!」
「――――ああ!」
その言葉に、そこまで深い意味は感じない。
――――つまり、その言葉の通り!
(ツインテール、つまり二段構えの攻撃!)
更に、自分のようなオーソドックスなツインテールならば左右からの挟み撃ちという意味になるだろうし、事実ドラグギルディもそちらを警戒するだろう。
――――けど、ホワイトのツインテールは。
やや後頭部よりのそのツインテールは、普通のものより房と房との感覚が少しだけ短いために別々に揺れるだけではなく、その二つの房が重なるように揺れるという新たな可能性を持った翼なんだ――――!
冷気をまき散らすことで背後に続く俺を隠し、動きが制限されるホワイトに向けて、ツインテールの闘気が振るわれる―――。
それは氷の上で普通に受け止めてしまえば、大きく吹き飛ばされてしまうことは避けられない一撃。それ故か、ホワイトは“防がなかった”。
「―――――馬鹿なっ! 痛みを恐れぬというのか!?」
「それが―――…ツインテール、なら!」
(――――っ!)
いかなるものでも、それがツインテールである限り恐れない。
というだけではない。あろうことか、ホワイトは俺の道をつくるためにドラグギルディの闘気によって生み出されたツインテールに“故意に触れて”、その軌道を僅かに逸らしていた。
(―――――ぅ、ぉおおおおっ!)
ホワイトが生み出した僅かな隙間。そこに決死の思いで飛び込む。
ツインテールを死守するために体勢を崩してしまったが、咄嗟にエクセリオンブースターを使うことで氷の上を滑るように加速。
そして、そこまで読み切ったかのようなタイミングでホワイトがドラグギルディに斬りかかっていた。
「―――――秘剣……
「ぬ、おぉぉぉぉっ!」
砕けて煌めく氷の粒子を纏う、ツインテールの翼を靡かせて。そしてレッドのグランドブレイザーのように冷気を噴射してホワイトが翔ぶ―――!
「――――ブレイク…!」
そうだ。これが、俺たちの――――!
「レリ―――――――――ズ!」
――――――――――――――――――――――――
「―――――秘剣……
「ぬ、おぉぉぉぉっ!」
眼前に飛び上がったホワイトの、白銀のツインテールの輝きが視界に焼きつく。激しい動きの関係で二房のうちの片方が顔に掛かりそうな勢いで視界を埋め尽くす。
……これほど眼福な目潰しが他にあるだろうか。
思わず視界にしっかりと焼き付け、氷に脚を取られながらも確実に回避し。
――――その瞬間、白銀の髪の向こうに見えたのは、連続攻撃を叩きこもうと翔ぶ、テイルレッドの炎を宿したかのように赤いツインテールだった。だが!
「――――惜しかったな! その程度の連携が見きれぬと思ったか!?」
良くも悪くも、先ほどのわざわざツインテールの
まさに無防備な状態で必殺技を放とうと飛び上がるテイルレッドに、カウンターで放たれる斬撃を回避する術はない。
「―――――さらばだ!」
しかし、大上段に剣を構えたテイルレッドの瞳には、ツインテールには、一点の迷いもなく。
そして―――――ドラグギルディは、どんなに力を込めても己の身体が動かないことに気づいた。
「―――――ば、馬鹿な…!?」
そして、気づいた。
それは、テイルレッドの存在に気づいていたが故の慢心。
そもそも、テイルホワイトの攻撃自体が二段構えだったのだ!
先ほど初撃を空振ったテイルホワイトはドラグギルディの足元でその力を
「テイル、ホワイトオオオオ―――――ッ!!」
「―――――…行って、レッド!」
「―――――甘いぜ、ドラグギルディ! ツインテールに囮も本命もねえ!」
氷に下半身を完全に固められた状態ではレッドが技を発動させた後に迎え撃つことなど不可能! 咄嗟に全て力を込めて大剣を握る右腕の氷を砕いて振り上げ――――!
「グランドッ、ブレイザアアアアア――――――!」
「う、おおおおぉぉぉぉ――――――――ッ!」
激しい激突に耐え切れず、遂にテイルレッドの剣が砕け。ドラグギルディが勝利を確信したその瞬間――――――その目に焼きついたのは、レッドの手に輝く“二刀目”の炎の剣だった。
エクセリオンブースターがこれまでにない勢いで噴射され、剣を振りぬいたレッドが空中でツインテールを靡かせながら縦に一回転する―――――!
「ば、馬鹿な―――――!?」
「―――――ツイン、ブレイザアアアアアアア―――――――ッ!」
「テイルレッドオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「――――――
袈裟斬りに切り落とされる炎の剣。
大竜の身を焼く炎は太陽の
それは、月と太陽が重なりあって美しい輝きをもたらすように。互いが互いの美しさを高め合っているかのようで―――――。
「―――――美しい……まさに神の髪……神、型………」
思わずと言った風情と呟いて、自分でも驚くほど満足気な笑みを浮かべ。
「み、見事……!! 見事だ、テイルホワイト! テイルレッド!!」
「「……ツインテールが?」」
その言葉が何故かおかしく感じ、ニヒルに笑った。
「無論だ! わーっはっはっはっはっは!!」
全身は凍りついた上に業火で両断され、それでも豪快に笑ってみせる。
「麗しき幼女に倒される……うむ、これも生涯を添い遂げたことに変わりはあるまいて!!」
「どこまでもポジティブなやつ……」
「……のーてんき?」
それでいい。
侵略をしにきた戦士として。自身に打ち勝ち、この世界を守った戦士が悔いることがないように、最期くらいは笑って逝く――――。それが己の戦士として誇りだ。
「
「お前がツインテールを愛する限り………そんなこともあるかもな」
「………こんどは、きっと。ただのツインテール好きとして」
二人の戦士の背中を見送り、ドラグギルディは大爆発と共に消えた――――。
――――――――――――――――――――――――――
なんてことはない日常が戻ってきた。
葵さんは学校に行っているが、そろそろ帰ってくる。
スク水属性のタイガギルディとやらが出現してすぐにブルーに倒されたようだから、もう今日は襲撃はないだろう。
世間は相変わらず危機感がなく、強いて変化を挙げるならレッドと一緒にいると時々笑顔を見せるようになったホワイトの人気が上昇傾向なことくらいだろうか。
けれども、“あの世界”のように無機質でなく、みんながそれぞれ好きなものを持つ。“個性”が侵略を恐れずに輝いていることは、きっといいことなのだろう。
……わたしも、この“日常”が好きだから。
「―――――ただいまー」
声とともに玄関から葵さんが入ってくる音がする。
――――心臓が痛いほど高鳴っている。
髪型はツインテール。結局のところ、あの時トゥアールさんに守ってもらったツインテール属性を手放すことはできず。常に
……あんなに準備に時間が掛かったこと、あったでしょうか。
そんなことをぼんやり考えながら羽織っていた毛布を脱いで、もう一度“例の本”に目を遣り。顔がどんどん熱を持つのを感じながら、その写真と同じポーズ、かつツインテールになるように調整する。
―――――そう。例の、ツインテールが折れちゃった、18歳未満お断りな。
「いやー、今日は雑魚だった―――――って」
「……そ、そのっ、やっぱりその、は……はだかは、無理なのでっ! その、し、下着は…っ」
自分でもみっともなくくらいに狼狽えながら、それだけ言い切って固く目を瞑り。
「―――――…あぁ、その、可愛いよ」
「…………そ、そうですよね!? がんばって、準備したツインテールですよ…っ!」
どうせツインテールしか見てくれないのは分かってるのだから――――。
けどわたしは、とても大事なことをわすれていた。
「……その、な。可愛いけど、別にポーズが同じなら服着て良かったんだけど――――」
「…………ふぇ…?」
そういえば、『同じポーズで写真を取らせろ』としか言われていなかった。
誰も『服を脱げ』なんて言っていないのだ。……普通は誤解するだろうが。
この人は、ほんとうにどうしようもないツインテール馬鹿なのだから、それくらい、わかって、しかるべき、だった、のでしょう……けど…っ!
わたしはそっとベッドの上に起き上がり、そのスプリングを活かし―――跳んだ。
「―――――ぁぁぁあああっ!」
「ぎゃああああっ!? ちょっ、おまっ、そんな格好で飛びついてきたら、当たる…っ!」
叫びを無視してその腕を押さえつけ、指からテイルリングを抜き取る。
「ふ、ふふふふ……」
「……え、ちょっ。リ、リィリア……さん?」
「……あ、こんなところにツインテール属性のエレメリアンがいます……」
「………え、えーと……?」
「―――――テイル、オン…ッ!」
「ぎゃああああっ!?」
かざした右手で、その指輪が無情に煌めいた。
――――テイルホワイトの戦いはこれからだ!
さもすぐ終わるように言っておきながら長くなってしまって申し訳ありません。ドラグギルディ隊長は強敵でしたね…。
妄想が(色々な意味で)爆発しただけの小説でしたが、もし楽しんでいただけたなら幸いです…っ!