Tail of Twin   作:グラコ口

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第2話:俺、それとツインテール。

 

 

 

 

 観束 総二は、ツインテールになった。

 

 かなり意味不明だが、自分でも何が起こったのやら分からなかった。謎の少女トゥアールによくわからないブレスレットを付けられて、ツインテールを狙う謎の怪人が現れて、ツインテールを守るために変身してほしいと言われ、無我夢中で飛び出した。

 

 そこまでは、よかった。

 怪人が出たのも、変身して戦うのもまだ、ギリギリ許容範囲だったかもしれない。

 

 

 しかし―――――。

 

 

 

「はぁ、はぁ…っ、ツインテールゥ…ッ! そのツインテールを親指と人差し指で軽く摘んでっ! 俺の頬をぺちぺち叩いてくれぬか……!」

 

 

 

 血走った目、荒い息。更には口元に滲む涎。それだけでも文句なしの10.00点を貰えるだろう変態ぶりだが、それをしているのが眼前の2メートルを超す爬虫類っぽい怪人ともなれば、人智を超えた恐怖になる。……しかも、それが自分に向けられているともなれば。

 

 

「きゃー!」

 

 

 これまでの生涯であげたことのないか弱い悲鳴を上げ、尻もちをついてしまう。

 それもそのはず、どういうわけか変身してツインテールに――――素晴らしいツインテールな女の子になってしまった総二は、目の前のツインテールを手中に収めるとのたまう怪人からすれば絶好の獲物だろう。変態に狙われて初めて変態の本当の怖さを知ってしまった心境である。できれば一生知りたくなかったが。

 

 

「無理だ! やっぱり男に、男に戻してくれ! おごごごごご!」

 

 

 眼前の大変な変態のあまりの変態ぶりに取り落としてしまった剣を拾うどころではなく、ガッツンガッツンと望みの武器を出してくれるというフォースリヴォンとやらを叩く。

 

 しかし先ほどトゥアールが「願いを叶えるものではない」と言ったように、総二はツインテールのまま、無情にも眼前に怪人が迫り――――。

 

 

 

「はぁ、はぁ、ツインテール―――――むがぁっ!?」

 

 

 

 なにかが着弾したかのような炸裂音とともに、その胴体が勢い良く真横から吹き飛ばされて視界から変態がいなくなり。その代わりとでも言うかのように、鮮烈な純白の輝きが視界に焼きついた。

 

 

 

 

「―――――…ん」

 

 

 

 

 そこにいたのは、小さくなってしまった自分とほとんど同じくらいの背丈の1人の女の子。その白と水色を基調とした防護服は自分のものよりもより露出を少なくしたようになっているものの、それでも似通ったものであることは明らかで。

 

 何より、その髪。

 

 やや後頭部寄りに結ばれたその二房の純白の髪は、ただの白髪とは違う新雪のような輝きを秘めて、せせらぎのように滑らかに膝下まで伸び。毛先に近づくにつれて蒼色を帯びるという神秘的な色彩ではあるものの、紛れもないツインテール。

 

 そのツインテールは、ツインテールになった自分のツインテールが美麗見事でポップなものだとすれば。荘厳美麗、クールな輝きを秘めて、そこにあった。

 

 

 

 そして、怪人の脇腹を殴り飛ばして拳を振りぬいた姿勢だった少女はおもむろに構えを解くとこちらを振り返り、無表情ながらどこか人形のような愛らしさを滲ませる顔に真剣な雰囲気を漂わせ。まるで氷の鈴を鳴らしたような、透き通った声で呟いた。

 

 

 

 

 

「……ついん、てーる。好き?」

「大っ好きだ!」

 

 

 

 ま た し て も 条 件 反 射 で 返 答 し て し ま っ た。

 しかも、変態の恐怖の直後に素晴らしいツインテールを目にしたせいか、自制などない全力全開で。

 

 

 まずい、これでは自分も小さな女の子を怖がらせるあの怪人と同じなのではないか?

 

 今の自分も小さい女の子だということを半ばうっかり失念しつつ、思わず頭のなかが真っ白になった俺の前で――――その女の子は、まるで雪解けとともに咲いた花のような笑みを浮かべて、言った。

 

 

 

「――――…うん。わたしも、大好き」

 

 

 

 こくり、と女の子が頷いた拍子にそのツインテールが揺れ、それを思わず目で追う。

 

 

 

(――――綺麗だ)

 

 

 ぼんやりとそんな事を考えつつ視線を戻すと、同じくこちらのツインテールを見ていたらしい女の子と視線が交錯し。

 

 

「「……(ガシッ)」」

 

 

 

 気がついたら握手していた。

 あと、行き場のなかった互いの左手が当然のように相手のツインテールに触れているあたりに何か疑問を持つべきかもしれなかったが、あいにく素晴らしいツインテールの感触に魅入られた俺にはそれどころじゃなかった。とはいえそんな状況ではないのも確かで。

 

 この白ツインテールの女の子が乱入してから静かになっていた通信に、トゥアールの声が響いた。

 

 

『総二様、左です! 左!』

「――――っ! 危ねぇっ!?」

 

 

 俺は即座に、かつ丁寧に女の子のツインテールから手を離し、いつの間にか凄まじい勢いで突撃してきていた怪人と白い少女の間に割って入り―――――。

 

 

 

 

 

「――――――うぉぉおおおぉぉっ! 我はアルティメギルの切り込み隊長リザドギルディ! 少女が人形を抱く姿にこそ男子は心ときめくべきという信念のもと戦う者よ! 故に! 二人でこの人形を持って名乗りをあげてくれんかぁぁぁっッ!」

 

 

 

―――――丁重に、かつ無駄に洗練された無駄にダイナミックな動きで大きな人形を差し出された。

 

 

 

「――――…なんでだぁぁぁぁっ!」

 

 

 

 思わず叫んでしまったが、それ以外にどうしろというのか。というかどうしてそうなる。

 ここは攻撃を受け止めるところじゃないのか。何故人形を受け取る流れなのか。俺が間違っているのか? と想定外すぎる流れと大真面目そうな表情の怪人に頭が混乱してくる。

 

 

『総二様、名乗り! 名乗りは大切ですよ! 第一印象というのは何にしても重要です! 今度こそバッチリ決めちゃいましょう!』

『……それ、アンタが言うの?』

 

 

『第一印象が貧乳で失敗してる人にはわからないでしょうけど! 大事なんですよ!』

『……遺言も大事だと思うけど。アンタはそれでいいのね?』

 

 

『あだ、あだだだだだ!!? もげる、おっぱいもげちゃいますぅぅぅ!!』

 

 

 ああ、こういう時に最も頼りになりそうな幼馴染の愛香のツッコミも心なしかキレがないというかキレて惨劇になってる……。そしてそれとは真逆に、目の前の変態……リザドギルディは絶好調だと言わんばかりに天を仰いで叫ぶ。

 

 

 

「―――――二人だ! なるほど愛らしい少女が人形を抱く姿は素晴らしい、だがな! それが二人になるということは単純な数の増加には留まらぬ! 少女と少女、そして人形! 三位一体の境地が拓かれるのだ! そしてそのツインテール! これほどまでに心を駆り立てられるものがあろうか! いや、無いっ! さぁ、これを抱いて名乗ってくれ! さぁ!」

 

 

 

 どう、しろと…?

 

 通信は『そーじ、構わず人形ごとぶん殴っちゃいなさい!』やら『幼女が人形を抱えて名乗る……アリですね! うぇへへへ』やら不穏な言葉が飛び交うだけで、道を指し示してはくれそうにない。

 

 だが、今は女の子の姿でも観束総二は歴とした、歴とした男である。間違っても大きな人形を抱えて名乗りを上げるような真似はしたくない。断固として。

 

 しかし、目の前の血涙を流さん勢いのリザドギルディを見ていると、悪徳セールス以上に断りずらすぎて思わず後ずさってしまい――――。

 

 

 

「………(スッ)」

「ちょっ!?」

 

 

 

 白ツインテールの女の子が、後ずさった俺とリザドギルディの間に割って入っていた。

 ダメだ、こんな小さい女の子なんだ。俺が守ってやらなければ――――そんな思いに突き動かされて俺が再び前に出ようとする直前。女の子はきっぱりと言った。

 

 

 

「――――それは、受け取れない」

「むぅっ。何故だ!? この人形の良さが分からんと!?」

 

 

 女の子が泣きだしてしまうのでは――――悪気はなさそうながら思わずそう思ってしまうほど凄まじい形相になったリザドギルディに、女の子はいささかもその無表情を崩すこと無く言った。

 

 

 

「―――――わたしが抱くのは、ツインテールだけ…! それが、わたしの信念(ツインテール)…!」

「「――――っ!?」」

 

 

 

『え、ちょっと何感銘受けたみたいになってんのよ!?』

 

 

 奇しくも、その言葉に感じるものがあったのは俺も、そしてリザドギルディも同じようだった。

 

 

 

―――――そうだ。俺にも、譲れない信念(ツインテール)がある! だから俺は、戦うと決めたんだ! なのに、こんなことでビビってどうするんだ!?

 

 

 

 俺は、そっと落とした剣―――ブレイザーブレイドを拾い上げ、どこか心配そうに振り返る女の子に頷いてみせ、言った。

 

 

 

「―――――そういうことだ、悪いな。俺が……俺達がこの手に、この心に抱くのは、いつだってツインテールだ!」

 

 

 

 

 あらん限りの想いを込め、僅かな笑みと共に目の前の“敵”を見据え。

 リザドギルディもまた、獰猛な笑みを浮かべて言った。

 

 

 

 

 

「ならば、是非もなし―――――改めて聞こう、貴様らの名は!?」

「――――テイルレッド!!」

 

「―――――――――――…テイルホワイト?」

 

 

 

 俺は、おどろくほど自然にそう名乗りをあげていた。

 このスーツが、ツインテールが俺に伝えてくれた。そんな気さえしていた。そして、戦うという想いに呼応するかのように、抑えきれないほどの力が沸き上がってくる。

 

 

 

「……しかと聞いた!!」

 

「ならついでにコイツも受け取りやがれぇぇぇッ!」

「なんのっ!」

 

 

 俺は宣言と共にブレイザーブレイドを構えて突進し、リザドギルディは背中にある無数のヒレを分離させて、その一つ一つが意思を持ったかのように飛び、襲い掛かってくる。

 

 

 

 

「だああああああぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 回避しようとも急旋回して襲ってくるそれらは、さながら誘導ミサイルの群れの如く。ブレイザーブレイドでも、その全てを撃ち落とすことはできず――――。

 

 

 

 

「――――…来て、叢雲(ムラクモ)」

 

 

 

 響くのはホワイトの澄んだ声。その手にまばゆい白光が集ったかと思えば、握られているのは純白の柄。そしてそこに輝くのは氷のような鋭さを宿した蒼銀の刃。

 刀、そう呼ぶべき得物を握り、テイルホワイトが駆けた。

 

 

 

「――…押し、通る!」

 

 

 

――――――疾い!

 

 

 

 風が駆け抜けるような、そんな感覚とともに純白の翼(ツインテール)が俺の横を通りぬけ。僅かな間の後、俺の撃ち漏らしたヒレが全て真っ二つになって爆発する。

 

 

 

「――――…ツインテール以外、見えなかった…!」

『……それ、いつも通りツインテールに目がないだけじゃないの?』

 

 

 

 愛香の言いたいことは確かに分かる。俺がツインテールに目がないのは間違いない。しかし――――そんな俺でもギリギリなんとかツインテールを見ることができる、それほどの疾さがホワイトにはあった!

 

 と、そんな戦慄を抱く俺にホワイトは僅かに振り返り。ただ一言だけ呟く。

 

 

 

 

「―――――…ツイン、テール」

「―――――!! ああ、わかった!」

 

 

『えっ、ちょっ!? 何でさも当然のように謎言語で分かり合ってんのよ!? 戻ってきて、そーじ!?』

『な、なんてことですか! “二人だけに通じる言語”……くっ、なぜ初回からこんな強敵がっ!?』

 

 

 愛香とトゥアールが何か叫んでいるのを尻目に、ツインテール――――高速で駆け抜けるホワイトのツインテール、つまりは背後の守りを託された俺は、ホワイトと共にヒレの嵐の中を一陣の風のように駆け抜け――――。

 

 

 

「―――――…チェック、メイト」

「ぬ、おおぉぉぉぉぉっ?!」

 

 

 

 ホワイトがリザドギルディをすれ違いざまに切り裂き、残っていたヒレもほとんどが両断される。しかし、リザドギルディの眼にはまだ闘士があり――――。

 

 

 

―――――逃すか!

 

 

 それと同時に、周囲に倒れている子たちに危険がないように。確実に倒さなければ――――。そう強く考えた瞬間、俺の頭に真紅の円柱が鮮明に浮かんだ。

 

 

 

「――――オーラ、ピラーッ!」

 

 

 

 その言葉に応えるかのようにブレイザーブレイドから放たれた炎がリザドギルディを取り囲み、閉じ込める円柱型の結界を形成。更に完全開放(ブレイクレリーズ)された刀身から炎が吹き出し、その長さを倍にも伸長させる。

 

 

 

「うおおおおおおおお!!」

 

 

 

 必殺の<グランドブレイザー>が轟炎の軌跡を描き、結界で避けることもままならなかったリザドギルディは激しいスパークを散らし、苦悶の声を上げながらも、笑った。

 

 

「ふ、ふははは……これほどまでに素晴らしきツインテールらに優しく頬を撫でられて果てる……何の悔いがあろうか! まさに男子本懐の極み!! さらばだ――――ッ!」

 

 

 

 

リザドギルディその言葉とともに激しく爆発して消え。後にはテイルレッドの叫び声と、煌めく菱型の石だけが残った。

 

 

 

「か、勝手に変な幻想見て消えるなぁぁぁぁっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その後。テイルレッドが神堂生徒会長に話しかけられているのを尻目に、テイルホワイトこと神宮寺 葵は、こっそりと、かつ全速力でその場を離脱しつつ、変身指輪を渡してきた少女と通信をしていた。

 

 

 

「………どういう、こと? (ねぇ、なんか凄くしゃべりづらいというか思い通りに話せないんだけど!? どうなってんのさ、おい!? というかそもそも、なんで俺女になってんの!?)」

 

『……はい? あ、正体バレを防止するための、認識撹乱装置(イマジンチャフ)と並ぶ双璧……虚無之言霊(シーカーウィスプ)のことです?』

 

 

 シーカー…? なんか凄いアレな字を感じたような気がしたのだが、気のせいだと思いたい。

 

 

「……ん。(もうそれからでいいよ! なんでもいいから説明してくれ!)」

『はい。簡単に言えば、喋ろうとしたことをテイルギア―――その強化服が即座に認識して、無口系幼女みたいなセリフをラグタイム0.01秒未満で即座にでっち上げることで正体の発覚を防止する機能です』

 

 

 

 なにその無駄機能。凄いんだか凄くないんだか判断しにくいというかしたくない。……いや、確かに口が滑らないならバレにくくはなるかもしれないが、これはコミュニケーションにも障害が出るレベルな気がする。真面目に話してるつもりなのに耳に入るのはコミュ障幼女な声ってのは軽くホラーだし。

 

 というか、そんなことよりもっと大きな問題があるのだが。そっちは。

 

 

 

「……ツイン、テールは? (じゃあ、なんで……女になってんだよぉぉぉっ!? こっちもなんか理由があんのか!? あると言ってよ! 納得できる理由が!)」

『はい…? あ、もしかして「なんでツインテールか」って話です?』

 

 

「………ん(ち・が・う!)」

『何故かと言われれば、ツインテールの持つ属性力は他の――――』

 

 

「………んん(だから違うってんだよぉぉぉぉッ!)」

『……え、ちがうのです? ……面倒ですし、そこの角を曲がって路地裏に入って変身を解除して下さい』

 

 

 

 もう、一言喋るためだけでも相当な精神力を持っていかれる気がするんだが…。

 

 戦闘の疲労と合わせて疲れ果てた俺は路地裏に入ると同時に倒れこむように変身を解除し、待っていた銀髪の少女は僅かに微笑んで言った。

 

 

 

 

 

 

「初めまして、テイルホワイト。私は異世界の科学者……見習いのリィリアです。この世界――――ひいては全てのツインテールを救うため、力を貸してください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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