Tail of Twin 作:グラコ口
そんなこんなで放課後。
……かつて、これほどまでに放課後が恋しかったことがあるだろうか。
流石にまだ一度しか戦っていないだけあってそれほどまでに画像や動画の種類はないのだが、現状でこれでは二度、三度と戦ったらどうなってしまうのか、考えるのも恐ろしい。
無視できればいいのだが、変身しているとはいえ自分に向かって吐かれる致死級の世迷言の数々は、俺の精神を削り切るのに十分すぎる威力を持っていた。……不幸中の幸いなのは、入学したばかりでほとんど知り合いがいないことだろうか。もし友人にあんなことを言われたら立ち直れない気がする。
「……なぁ、総二。お前たしか中等部から上がったって言ってたよな…? 中等部も“こんな”感じだったのか…?」
「絶対に違う……って言いたいんだけど、悪い。正直自信がなくなってきた……」
二人して必死に変態どもを宥めたり武力介入したりした観束こと総二と仲良くなったのは恐らく必然だったのだろう。
「大丈夫よ、そーじ。アイツらが来るまでは間違いなくマトモだったから……」
と、いうわけで総二の幼馴染の津辺さんも交えて3人で下校していた。なんでも二人は家が隣なのだとかで、ついでに俺も途中までは道が同じようだった。
……というか津辺さんの言うアイツら、ってのは恐らくアルティメギルのことなのだろうが、なんとなく他にも誰か指しているような気もした。何かあったのだろうか?
(……まぁ、俺もアルティメギルとリィリアが来てから大変だけどな……)
お昼のお弁当を渡されたのはいいのだが、弁当箱の中に巨大オムライスが突っ込んであるのはギャグなのだろうか? ……明らかに弁当の本来の容量をオーバーしていたのだが、どうやって突っ込んだのだろう。美味いことは美味かったのだが。
と、そこで総二がふと思い出した。という様子でぽつりと呟いた。
「そういやツインテール部とか書いて部活動が有耶無耶になってたなぁ……部活どうすっかな」
「え、お前あれ本気じゃなかったのか?」
てっきり本気でやってるものだと。
なんてったって、どうやったらうっかりツインテール部なんて部活動希望アンケートに書くのか。
「違ぇよ!? ちょっ、待ってくれ。俺のイメージってどうなってるんだ!?」
「……え? ツインテール部を立ち上げるほどのツインテール好きで、幼馴染をツインテールにさせてて、ツインテールにしか興味のないツインテーラーって聞いたんだが」
ちなみに情報源は総二と同じく中等部から上がってきた連中。津辺さんが総二にベタ惚れという情報も、残念ながらすでに筒抜けだったりする。
「ツインテーラー!? ……ちょっといいかも――――じゃねぇよ!? 大体間違ってないけど違うからな!?」
「べ、べつに私はそーじのためにツインテールにしてるわけじゃな……ないんだから!」
大体間違ってないのかよ。じゃあ何が違うんだ、何が。
というか総二、これは気づいてあげろよ。ここまでテンプレ通りにツンデレしてくれてるんだからさ……ああ、だからツインテールにしか興味ないって言われるのか。
「そういや総二、ツインテール好きならテイルレッドのことはどう思ってるんだ?」
「……い゛っ!?」
……? なぜ焦るのだろうか。
いや、ひょっとしてツインテールは好きだけどそれを小さい子に向けるのは恥じてる、ってことなのだろうか。なんて常識人。
「い、いや、確かに凄く良いツインテールだとは思うんだけどさ……ほら、小さい子を妙な目で見るのは良くないだろっ!?」
「そうだな。さすが総二だ」
「――――う、おぉぉっ!? やめてくれ、そんな素直に尊敬したみたいな目で俺を見ないでくれぇぇぇっ!」
と、そこでそんな総二に救いの手が。
『この世界に住まう全ての人類に告ぐ! 我らは異世界より参った選ばれし神の徒、アルティメギル!』
「………」
「………」
「………」
違った。ただの変態だった。
しかも、空に巨大スクリーンが浮かぶという変態的な謎技術だし。
更に住宅街のあちこちから同じ音声が聞こえてくる上、総二が慌てて開いた携帯のワンセグからも同じものが。……全世界電波ジャック?
「アイツら、ほんとに地球まるごと侵略する気なのか!!」
と驚く総二だが、リィリアの言うとおりなら精神エネルギーからなるエレメリアンには通常兵器が通用しない。……つまり、物量なんて物の数じゃないのだろう。
もし、リィリアもテイルレッドもいなければ――――そう考えたらいかに絶望的か分かるが、逆に対抗手段(ジョーカー)を2つも持つこの状況は決して悪いものじゃない。
と、いつの間にか竜みたいな怪人が話し終え。スクリーンには交代で亀みたいなヤツが映っていた。
『ふははは、我が名はタトルギルディ! ドラグギルディ様の仰るとおり、抵抗は無駄である! 綺羅星と光る青春の輝き……体操服(ブルマ)の属性力を頂く!』
……ブルマって、日本以外にあるのかなぁ……。
なんて惚けている場合じゃなかった。
……いや、待てよ。ツインテールを奪われた女の子は髪が解けたが、ブルマを奪われた女の子はどうなってしまうのだろう。
まさか、ブルマが消えてそのまま下着姿に―――――…。
「すまん、総二。今ウチに来てる親戚の女の子が心配だから家に帰る。……もしブルマだったら狙われるかもしれないんだよな?」
「あ、ああ! そうだな。俺も、トゥア―――「居候よ!」……居候の子が心配だから急いで帰るよ!」
一応リィリアがいるのでイザという時の誤魔化しもきくだろう。
総二とほぼ同時に家への近道に向けて駆け出し、路地裏に入ったところで携帯電話で自分の家に連絡する。と、ワンコールでリィリアが出た。
『は、はいっ! こちら神宮寺ですっ!?』
「俺だ!」
『ふぇっ!? い、いえっ、オレオレ詐欺にはひっかからないのです――――…その声、神宮寺さんですか?』
こほん、とリィリアは軽く咳払いしてから言った。
『アルティメギルは隣町の高校に出現しました! ナビゲートしますから、変身して向かってください!』
「……うん、まぁ、了解」
なんか出鼻を挫かれたが、急がなければなるまい。
ブルマを守るため――――あと、もし履いていたブルマが消滅する場合に女の子が恥ずかしい思いをするのはさすがに可哀想すぎる。
『それじゃあ、変身のキーワードは打ち合わせ通りでお願いしますっ!』
「………テイル、オン」
『―――無口っぽく言われましたっ!? せ、せっかくカッコイイセリフにしたのに…っ』
少なくとも変身後を無口にしたのはお前だろうに。
若干釈然としないような、微笑ましいような気分とともに身体が光に包まれ、変身が完了すると同時に垂直に飛び上がって一軒家の屋根に乗る。
「―――――…ん。ヘンタイ、死すべし」
『慈悲はない、のですっ!』
女になってる俺もHENTAIになるのだろうか。
一瞬だけそんなことを考え、すぐに考えるのをやめた。……大切な何かを失いそうな気がするので。
―――――――――――――――――――――――――――
「ふはははぁぁぁぁ、あるではないか、あるではないか、ブルマァァァッ!」
「「「キャーーっ!」」」
「―――――…そこ、まで」
戦闘員(アルティロイド)たちに校門や昇降口を封鎖され、逃げ惑うブルマな女子高生たちを追いかける亀っぽい怪人。おまわりさんを呼びたなくなる光景だったが、テイルレッドより先に到着したからには俺が戦うしかない。
『……一応、おまわりさんも呼びますか? 避難誘導くらいはしてもらえそうですけど』
「………んん(いらない)」
せっかくのリィリアの気遣いだが、正直その後もれなく俺も事情聴取される未来が見える。なんたってばっちり銃刀法違反なのである。
と、校庭のど真ん中に降り立った俺に亀怪人は律儀に(?)ブルマを追いかけるのを止め、高らかに名乗りをあげる。
「ほう。貴様が噂の! 改めて名乗ろう――――我が名はタトルギルディ! ブルマこそ青春の輝きの結晶という信念のもとで戦う戦士よ!」
「………戦士(ヘンタイ)…?」
そんな信念で大丈夫か…?
というかリザドギルディの時も思ったが、戦士ってなんだっけ。ヘンタイのことだっけ。
「むぅっ!? その無表情ながら蔑みを含んだ瞳、そしてその輝かんばかりのツインテール……たまらん! お主、ブルマを履いてみんか!?」
「…………嫌。」
ああ、学校で削り取られた精神力が更にゴリゴリと…。
正直やってられないので黙ってフォースリヴォンを叩いてブレード―――――叢雲を出現させ、構える。
「剣で語るか! ならば是非もなし! 来るがいい――――我の悟りしブルマの素晴らしさ、その目に焼き付けてくれよう!」
「―――――っ!?」
その言葉と共にタトルギルディは甲羅の中に四肢を引っ込めて飛び上がり――――なんと、空中で静止した。
「――――女子の下半身に付かず、離れず! 走る時も、飛び上がる時も、いかなる時も寄り添う! それこそがブルマッ! ブルマとは、重力を超えた存在! 故にこのブルマ属性を持つ我は、重量を操作する!」
「………暴論。」
思わず文句を言いたくなるほどの暴論である。
というかアレか、特撮番組とかアニメとかみたいにわざわざ能力を解説してくれるのか。……序盤だからか、あるいは余裕の現れか、はたまたこっちの見た目が幼女だからか。
「――――しかぁし! 我がこのブルマの境地に辿り着いたのは事実よ! さぁ、わが力、受けてみるがいいぃぃぃぃぃ――――ッ!」
その言葉とともにタトルギルディは凄まじい速度で回転を始め、その声がドップラー効果? を帯び―――――全速力のトラックもかくやという猛烈な勢いで突進してきた。
「―――――…はや、い…っ!?」
咄嗟に叢雲を構えて迎え撃ち、激突――――信じられないほど重い感触が刀を通して伝わり、腕と刀身が悲鳴をあげる。
「―――――――っぅ!? こ、れは……っ!?」
「ふはははははぁぁぁぁぁぁ、こぉぉれぇぇぇこそがぁぁぁぁっ! 軽量の回転とぉぉぉっ、重量の突進んんんっ、それらをあわせたぁぁぁぁっ! 重甲螺旋突(ブルマアタック)よぉぉッ!!」
………なんかカッコよさげな漢字と残念なふりがなの気配を感じてしまった。
思わず刀がすっぽ抜けそうになったくらいである。なんて恐ろしい相手なんだ…。
『―――――ホワイト! 危険です、その重量と回転を刀身で受け続けたらテイルギアでも持ちませんっ!』
「……まず…っ。」
高速回転する甲羅と激突している刀身はギャリギャリと耳障りな音と火花を撒き散らし、しかも高速回転しているせいで甲羅を上手く切り裂けず、更にはその突進の勢いを抑えるのに必死で逃げることもままならない!
「………うぐ、ぅ……」
『これがぁぁぁぁっ、これこそがブルマじゃあぁあぁぁぁっ!』
こんな時、テイルレッドの剣なら耐久性を気にせず無理矢理押し切れたのだろうか。
というかこの甲羅は刀だと刃が滑ってしまうので致命的に相性が悪い気がする。なら、どうするか。亀の甲羅を攻略するには、どうすればいい――――!?
その瞬間、あることが閃いた。
「………ぇいっ」
ギアの性能に任せて無理矢理に左足だけで踏ん張り、右足で思い切り蹴りをタトルギルディの甲羅の下側に叩きこむ。爪先の装甲が削り取られる肝の冷える音と共に比較的柔らかい感触が爪先に伝わり―――――なんとかタトルギルディを上にカチ上げた。
「む、おぉぉぉぉおおっ!?」
バランスを崩したタトルギルディが俺の頭上を通り越してから落下して地面に不時着。校庭の砂をえぐり取りながら驀進して、校庭の端でようやく盛大な土煙とともに停止した。
「――――…腹部は、少し柔らかい」
そう、亀の甲羅で硬いのは上側だ。柔らかい腹側なら蹴ってもこちらの脚は大丈夫なはずと踏んだのだが――――。
「だが、ブルマよッ!」
タトルギルディは、平然と起き上がってみせた。
対するこちらも、地面に片膝と刀を突いた状態から起き上がろうとするが――――左脚に走った鋭い痛みに顔を顰める。
「ふ、無理をして左脚を痛めたようだな。ブルマの加護を持つ私に“ひっくり返って起き上がれない”などという無様はないぞっ! 貴様は私に敗れるのではない……ブルマに敗れたのだッ!」
やはり、重量を操作できると豪語するだけあって起き上がるのは得意らしい。
そしてタトルギルディの言うとおり、蹴った右よりむしろ無理に踏ん張った左脚にダメージがきていた。……しかし、まだ勝ってもいないのにそのドヤ顔は少々ムカつく。
勝機は、見えた。感じた。
「―――――…ツインテール」
「む!?」
「――…じゃあ、あなたはツインテールに敗れる」
「ふ……まだ諦めておらぬと? ―――――よかろう、これで終いじゃぁぁぁ!」
再びタトルギルディが浮かび上がり、高速で回転を始める。
対するこちらは叢雲と共に実体化させた腰の鞘に刀を収め、静かに目を閉じる。
例え目を閉じようと、今なら聞こえるはずだ。
耳障りな回転音でも、女子高生たちの悲鳴でもない。
そうだ、俺の聞くべきもの。それは―――――ッ!
「ブルマァァァァァ、アタァァァァ―――――ック!」
―――――仲間(ツインテール)の、声だ!
「さ、せるかぁぁぁぁ――――ッ! グランドォォォッ、ブレイザァァァッ!」
校舎の屋上から、弾丸のような勢いで飛び立った炎が――――テイルレッドが、轟炎の軌跡を描きながら俺の眼前に着弾。完全開放(ブレイクレリーズ)されたブレイザーブレイドの刀身がその勢いのままタトルギルディの甲羅に振り下ろされ、重力をも力に変えて激突する。
「な、なんだとぉぉぉぉっ!?」
「―――――…私(ツインテール)は、ひとりじゃ、ない…っ!」
「いっけぇぇぇっ、ホワイトォォォッ!」
激しい激突でレッドは後方に弾かれ、校庭の砂を削りながらも着地。
対するタトルギルディは地面に叩きつけられて力なく回転するのみ――――!
「――――……完全(ブレイク)、開放(レリーズ)……!」
鞘に収められたまま完全開放された叢雲が眩い白光を放ち、そこから漏れだした冷気がタトルギルディを封じ込める結界――――氷のオーラピラーを形成する。
「―――――――…アイシクル…っ、イレイザァァァァッ!」
一閃。
白い光そのものになった刃が閃き、タトルギルディが真っ二つに切り裂かれる。
俺が静かに刀を鞘に収めると、タトルギルディは自分がすでに切られていることに驚いたような顔になった後、笑顔を浮かべて叫んだ。
「ふ、ははははは! なるほど! 常に一対である以上、孤独なツインテールなどありえぬか―――――我の負けだ!」
そしてもちろん。だが、と付け加えるのも忘れずに。
「――――お前たちの友情! その、青春の煌き! まさしく……ブルマよ! ナイス・ブルマであった――――テイルホワイト、テイルレッド! 見事だッ!」
わが人生(ブルマ)に、一点の曇りなしぃぃ―――――ッ!
そんな魂の叫びとともに、タトルギルディは爆発して消えた。
「………また、たいへんなヘンタイを斬ってしまった」
「あー、うん。今来たばっかの俺でもなんとなく分かった……」
レッドと二人、顔を見合わせて苦笑いした後―――ハイタッチで勝利の喜びを分かち合った。
なんかレッドが不意打ちしたみたいになってますが、あらかじめレッドが来てるようなことは言ってるのと、状況的に多分アルティメギル的感性でもセーフなはず。