三国志異伝~演算する剣鬼(守銭奴)~最強の秘書官・李司が通る道には死体と領収書しか残らない~   作:斉宮 柴野

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反董卓連合は、確かに結成された。

ただ一つ問題があった。

ラスボスが全員、最初から出てきたのである。


第十三話:地獄のオールスターと、美髭公の推参

「ほ、報告申し上げます!緊急事態でございます!」

 

私は筆を止めずに書類に朱を入れ続けるが、耳だけはしっかりと彼の報告にチューニングを合わせる。

 

「東方の南陽にて、反乱軍が蜂起いたしました!各地の諸侯が結集し、『反董卓連合』なるものを結成したとの情報が入っております!」

 

「何?反董卓連合だと!?」

 

「盟主は誰だ!どこのどいつがこの儂に喧嘩を売ってきたのだ!」

 

「は、はい!盟主は、南陽に拠点を構える袁術公路とのことです!」

 

名門袁家の出ではあるが、実務能力は極めて低く、自己顕示欲だけが肥大化した典型的な無能経営者タイプである。

 

資産価値は低い。倒産リスクは極めて高い。

 

「ガハハハハ!袁術だと!」

 

「袁術ごときが、この儂に歯向かうとは小賢しいわ!あんな蜂蜜を舐めることしか脳のないひ弱な坊ちゃんが、束になってかかってきたところで痛くも痒くもないわ!」

 

「今の儂には、かつての忌まわしい脂肪を完全に削ぎ落とし、李司殿の愛のムチによって鋼のように鍛え上げられたこの究極の肉体があるのだ!」

 

確かに見事な仕上がりである。プロテインの過剰摂取が心配になるレベルだ。

 

「奴らなど、わざわざ軍隊を派遣するまでもない!この儂が単騎で突っ込み、儂の必殺技である『董卓ボンバー(ラリアット)』で、一人残らず消し飛ばしてくれるわ!連合軍の雑兵どもを、儂の筋肉の栄養分に変えてやるわァァッ!」

 

その筋肉至上主義の思考回路は、極めて短絡的であり非効率の極みである。

一国のトップが自ら最前線に出てラリアットをかますなど、リスク管理の観点から言ってあり得ない。

 

「お待ちください」

 

「ど、どうしたのだ李司殿。儂の筋肉の仕上がりに何か不満でも?」

 

「貴方の筋肉は素晴らしいですが、トップが前線に出るのはコスト計算が狂うのでやめてください。それよりも……」

 

「最近、毎日毎日デスクワークばかりで、私の肉体は完全に運動不足の極みに達しています。領収書のチェックと帳簿の計算で、私のストレスゲージはすでに限界を突破しているのです」

 

「私の愛刀が、長らく血を吸っていないせいで『早く誰かの首を斬らせろ』と鞘の中でギャン泣きしています。運動不足解消、および溜まりに溜まったストレスの抜本的な発散のため、今回の討伐戦、ぜひ私が先鋒を務めさせていただきます」

 

「とりあえず、ノルマとして『千人斬り』を達成してきます。千人分の首を刎ねれば、私の肩こりも少しは改善するでしょう。敵の装備品はすべて回収して中古市場に流すので、死体回収の荷馬車を多めに手配しておいてください」

 

もはや戦争を週末のフィットネスか何かと完全に勘違いしている発言である。

 

「いや、ちょっと待て李司!先鋒は俺が出よう!」

 

「お前は書類仕事で疲れてるんだから、休んでいればいい!俺に行かせてくれ!最近、お前との毎晩の激しいスパーリングの成果を、どうしても実戦で試したくて試したくてウズウズしているんだよ!」

 

奉先は手にした方天画戟をブンブンと振り回し、空気を切り裂く音を鳴らす。

その風圧だけで、近くの書類の束が飛び散りそうになるので非常に迷惑である。

 

「赤兎も、ずっと馬小屋で待機させられてるもんだから、外を走りたがって嘶きまくってるんだ!千人斬りなんてケチくさいこと言わず、俺が敵軍を丸ごとすり潰してきてやるから、先鋒は俺に任せてくれ!」

 

すると、その横からさらに暑苦しい筋肉の塊が乱入してくる。

 

「お待ちくだせぇ!!」

 

「俺も行きますぜ!いや、俺を行かせてくだせぇ!」

 

「李司様の厳しい筋肉指導によって鍛え抜かれたこの肉体と、この大剣!こいつの破壊力を、連合軍の軟弱な連中相手に試させてくだせぇ!先鋒は俺の役目だ!呂布将軍にも絶対に譲れねぇ!」

 

華雄までが、筋肉をアピールしながら出撃の許可を求めて吠え立てる。

 

「……おい本初。あいつら、明らかに戦意が高すぎるだろ」

 

「いくらなんでもテンションがおかしい。こいつら、戦争を休日のレジャーか、ストレス発散のスポーツジムか何かと完全に勘違いしてないか?反董卓連合軍の兵士たちが、本気で不憫に思えてきたぞ」

 

「……全く同感だ、孟徳。俺もあの輪の中に入れられなくて本当にホッとしている」

 

「俺たちは『貴方たちは安全な場所で、平和な行政と内政の事務処理をしてなさい。怪我でもされたら資産価値が下がりますからね』って李司に命じられているからな。最初は武人として屈辱的だと思ったが、今となっては事務仕事がこんなに平和で素晴らしいものだとは思わなかったよ」

 

「ああ。俺たち、完全に牙を抜かれて家庭的な裏方担当になっちまったな。まあ、あの化け物どもの血みどろのレジャーに付き合わされて命を削るよりは、デスクで書類のハンコを押してる方が百万倍マシだがな」

 

かつて天下の覇権を争うはずだった二人の英雄が、完全に私の用意した安全な檻の中で、社内事務を楽しむだけの小市民と化している。

 

そんな大広間のカオスな空気を、一ミリも読めていない男が一人いた。

董卓の側近を務める文官、臣下Aである。

 

彼は自分の手柄を立てることしか頭になく、現在のこの場の力関係や、誰が一番地雷であるかを全く理解していない。

 

「お待ちください、董相国!」

 

「先ほどの報告によれば、反董卓連合の盟主は、あの南陽の袁術とのこと!袁術といえば、名門袁家の嫡流を名乗る男!ならば、その従兄弟である袁紹も、当然ながら逆賊の一味であると考えるのが自然であります!」

 

「今すぐ、ここにいる袁紹を捕縛し、反逆罪として一族郎党すべてを『族滅』の刑に処すべきです!身内から反乱の芽を完全に摘み取ることこそ、相国の威信を天下に示す絶好の機会!さあ、直ちに処刑の命令を!」

 

彼は「これで自分は相国から褒めちぎられ、出世街道まっしぐらだ」と本気で信じているようだ。

 

自分の言葉が、この世界で絶対に踏んではいけない地雷を、それも核爆弾級の地雷をトリプルで踏み抜いたことにも気づかずに。

 

「……あ?」

 

最初に動いたのは、董卓である。

 

「……あん?」

 

次に反応したのは、奉先である。

 

奉先にとって、本初は「妻の所有物」であり、同じ家庭の身内である。その身内を殺せなどとほざく輩は、ただのミンチの材料でしかない。

 

そして。

 

「……ああ??」

 

無表情のまま、首をコキリと嫌な音を立てて鳴らしながら振り返ったのは、私である。

 

「今……なんと言いましたか?」

 

「私の……手塩にかけて育て上げ、ようやく安定して利益を生み出すようになった、極めて優秀な『資産(夫)』を……廃棄処分しろと、そう言いましたか?」

 

「ひっ……!?」

 

彼はここで初めて、自分が取り返しのつかない特大の失言をしたことに気づいたのだ。

 

「あ、いえ……その……ち、違います!誤解でございます!も、申し訳ございませ……」

 

『不良資産、処分決定』。

『エラーコード検知。対象プログラムを直ちに削除します』。

 

「斬首(デリート)」

 

その瞬間。

ズンッ!!

 

何かが空気を切り裂き、鈍い肉の破砕音とともに、臣下Aの首に直撃する。

それは、私が腰から抜き放ち、手首のスナップだけで投擲した愛刀である。

 

私の計算し尽くされた軌道と速度で飛翔した刀は、ギロチンの刃よりも正確に、そして容赦なく臣下Aの頸動脈を断ち切り、その首を胴体から綺麗に切り離した。

 

「…………」

 

臣下Aは、悲鳴を上げる間も、痛みを自覚する間もなく、一瞬にして斬首にて即死した。

彼の首のない胴体が、数秒遅れてバッタリと床に倒れ込む。

 

「…………」

 

誰も声を発することができない。

 

(そ……そんなあぁぁぁ!!!!発言を一つミスっただけで即・死刑!?いや、裁判も宣告もなく物理的に即殺!?この相国府のコンプライアンスはどうなっているんだぁぁぁ!!)

 

「の、のう……」

 

「儂よりも暴虐ではないか?李司殿……。いくらなんでも、いきなり刀を投げ首を切り落とすのは……その、やりすぎというか、もう少し段階を踏むべきではないか……?」

 

「同意します」

 

広間の隅から、孟徳が深く深く頷きながら声を上げる。

 

「俺も全く同意見だ」

 

本初も、ガクガクと震えながら激しく同意する。

 

「俺たちの妻は、この世で一番怒らせてはいけない生き物です。自分の資産(俺たち)に傷をつけようとするバグには、一切の慈悲も容赦もない。俺たちを守ってくれるのは非常にありがたいことだが、身内から見ても純粋に背筋が凍るほど怖い」

 

「一罰百戒です」

 

「私の完璧なポートフォリオに傷をつけようとするバグ(害虫)は、発見次第、即座に修正(デリート)します。組織の健全な運営と利益の最大化のためには、このようなリスク要因は早期に物理排除するのが最もコストパフォーマンスが良いのです。無駄な裁判費用もかかりませんからね」

 

「これを見てもなお、私の夫たちに手出しをしようと考える愚か者がいるなら、次は一瞬では殺しません。じっくりと利息をつけてから回収してあげましょう」

 

もはやこの空間で、私に逆らえる者など一人として存在しない。

 

「修正っていうか、それ完全に破壊だけどな」

 

「いくらなんでも、罰が強すぎるぜ。まあ、俺のダチ(本初)を殺そうとした馬鹿だから一切同情はしねえがな。お前、本当に戦場に出る前から戦闘力カンストしてるな」

 

「褒め言葉として受け取っておきますよ、奉先」

 

「さて、無駄な割り込み処理(バグ退治)で時間をロスしました。早くこの書類の決済を終わらせて、反董卓連合の討伐という名のレジャーに出発しますよ。先鋒は私が譲りません。皆さんは私の後ろからついてきて、荷物持ちと死体の回収作業を頑張ってくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

「良いですか?孟徳、本初」

 

私は馬に跨ったまま、振り返って二人に声をかける。

 

「洛陽のことは、完全に貴方たちに任せましたよ。内政、いわゆるバックオフィス業務を完璧に回し、民心をつかんで『善政』を敷くように。市場の安定こそが私たちの利益の源泉ですからね」

 

「私が帰ってくるまでに、政権の支持率をキッチリ二〇%上げておいてください。一パーセントでも未達だった場合、帰還後に恐ろしいペナルティ(減給と私との過酷なスパーリング)が待っていると思ってくださいね」

 

「は、はい!お任せを!書類仕事から街のドブさらい、町民のクレーム対応まで、完璧にこなしてみせます!」

 

(やった……!あの頭のおかしい筋肉どもと一緒に戦場に行かなくていい……!涼しい部屋でハンコを押すだけの仕事、最高すぎるだろ……!支持率二〇%アップくらい、あの地獄のような戦場に比べれば造作もないわ!)

 

本初も全く同じ気持ちのようで、ぶんぶんと首を縦に振って同意している。

 

「必ずや期待に応えてみせる!留守は俺たちに任せて、存分に暴れてきてくれ!」

 

(安全な場所で書類仕事ができる!最高だ!あの筋肉バカどもの汗臭い息を嗅がなくて済むなんて、ここは天国か!俺はもう一生、事務員でいい!)

 

二人の心の声がダダ漏れだが、適材適所の人材配置が完了しているのでよしとする。

 

「では行ってきます。お土産は、敵将の首と、袁術の悲鳴です。楽しみに待っていてくださいね」

 

さあ、楽しいレジャー(殺戮)の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃。

 

洛陽の東に位置する防衛の要衝、汜水関(しすいかん)の戦場。

 

そこでは、反董卓連合軍の先陣を切る孫堅軍が意気揚々と進軍している。

江東の虎と恐れられる孫堅は、馬上で部下たちに熱いハッパをかけている。

 

「者ども!よく聞け!我らが目指す汜水関を守っているのは、華雄という男ただ一人と聞く!董卓の主力部隊はまだ洛陽でチンタラしているはずだ!」

 

孫堅の声に、兵士たちも「おおーっ!」と気合の入った声を上げる。

 

「今こそ、我が孫家の強さを天下に示す時!先陣の手柄は、我らがもらうぞ!一番槍を入れた者には、特別ボーナスを弾むからな!華雄の首を取って、連合軍の連中に我らの実力を見せつけてやれ!」

 

「孫堅様、万歳!華雄の首は俺がもらいますぜ!」

 

「いや、俺だ!俺の槍で串刺しにしてやる!」

 

孫堅軍の士気は完全に最高潮に達している。

敵はたった一人の将軍。こちらは士気旺盛な大軍。勝負は火を見るより明らかだと、彼らの脳内はお花畑の計算式で満たされている。

 

しかし、彼らはまだ知らない。

乱世における情報というものが、いかに当てにならない不良債権のようなものかを。

そして、彼らがこれから直面する絶望の深さを。

 

「よし、全軍突撃ィィィッ!!」

 

孫堅の号令とともに、軍勢が地響きを立てて前進を開始する。

だが、その土煙の向こう側から、彼らの想像を絶する「何か」が猛スピードで近づいてくる。

 

「ん……?なんだ、あの土煙は……?」

 

「ぬおおおおお!!」

 

最初に土煙を突き破って飛び出してきたのは、全身の筋肉を限界までパンプアップさせた巨漢だ。

 

「李司メソッド筋トレの成果を見ろオラァ!!俺の大胸筋が火を噴くぜェェェッ!!」

 

華雄だ。だが、孫堅が事前に仕入れていた情報と大きさが明らかに違う。軽く二倍はデカい。

 

「な、なんだあいつは!?熊か!?あんなデカい人間がいるか!」

 

「ぬうううううん!!」

 

「雑骨が!俺の方天画戟の風圧だけで細切れになって飛び散れ!!今日は李司にいいところを見せてご褒美をもらうんだから、お前ら一秒で死ねェェェッ!!」

 

奉先が方天画戟をデタラメに振り回すだけで、物理法則を無視した竜巻のような風圧が発生し、孫堅軍の先頭の兵士たちが文字通り空高く舞い上がる。

 

「ぎゃああああっ!?」

 

「空飛んでる!俺、空飛んでるぅぅっ!」

 

だが、彼らの悪夢はこれで終わらない。

 

「そいやあああああああ!!」

 

地鳴りのような咆哮とともに現れたのは、かつての脂肪の鎧を完全に脱ぎ捨て、筋肉の要塞と化した相国、董卓だ。

 

「マッスル・チャージ!!儂のこの鍛え抜かれた肉体の前には、盾も槍も紙切れ同然よ!まとめて跳ね飛ばしてくれるわァァッ!!」

 

董卓は馬にも乗らず、自らの足でドスドスと猛スピードで突進してくる。

その姿は完全に暴走する重戦車(ダンプカー)だ。

 

「ヒィィィッ!なんだあの筋肉ダルマは!?董卓はただのデブだって聞いてたのに!いつの間にあんなバキバキにライザップしたんだ!?」

 

 

そして、極めつけ。

その筋肉の祭典の最後尾から、最も恐ろしい存在が飛び出してくる。

 

「ヒャッハー!!!!!」

 

「私の愛刀の錆にしてあげますよぉぉ!さあ、経験値と所持金をよこしなさい!全額没収です!」

 

私は双頭戟を頭上でプロペラのように高速回転させ始める。

ブォォォォォン!!という恐ろしい風切り音が響く。

もはや武器というより、巨大な人間ミンチ製造機だ。

 

「は!?」

 

「ちょ、待て……!話が違うぞ!」

 

「華雄一人じゃないのかよ!なんで天下無双の呂布がいるんだ!?なんで董卓本人が走ってきてるんだ!?そしてあの桃色髪の女は誰だ!?双頭戟を回しながら飛んでくる奴なんて、どこの兵法書にも載ってないぞ!!」

 

「なんでラスボスが全員ここに揃い踏みしてるんだ!?イベントのフラグ管理どうなってんだよォォォッ!!バランス調整おかしいだろ!!」

 

「ギャアアアアアッ!!!」

 

孫堅の悲鳴とともに、江東の虎と恐れられた孫堅軍は、わずか数分で完全に崩壊する。

 

「退け!退けェェッ!死ぬ!これは戦争じゃない、ただの自然災害だァァッ!」

 

孫堅は兜をかなぐり捨て、プライドも何もかも捨てて命からがら馬を反転させて敗走する。

 

孫堅軍、見事なまでの瞬殺である。利益回収率は最高だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

孫堅軍が瞬殺されたという敗報が届き、諸侯たちは全員ガタガタと震え上がっている。

 

「さあ!出てこい袁術!!」

 

「『蜂蜜が舐めたい』とか呑気な寝言を言っている場合ですか!早く出てきて、私の双頭戟の錆にしてくれるぅ~!!」

 

「今なら特別に、苦しまずに一瞬で死ねるオプション付きですよ!追加料金なしの特別サービスです!今すぐ出てくれば、御一族の資産の差し押さえは三割引きにしてあげますよ!!」

 

砦の中では、盟主(自称)の袁術が、豪華な椅子の陰に隠れてガタガタと震えている。

 

「ひ、ひぃぃぃっ!!な、なんだあの女は!?」

 

「人間か!?あの江東の虎と言われた孫堅が子供扱いだと!?あんな化け物がいるなんて聞いてないぞ!!俺は安全な場所でふんぞり返っているだけの盟主だぞ!!」

 

「盟主殿、落ち着いてください!ここであなたが取り乱しては軍の士気が……」

 

「落ち着けるかバカモノ!!士気なんてとっくにゼロを振り切ってマイナスだよ!!」

 

「誰か……誰か……あやつを討ち取る勇者はおらんか!頼む、誰か行ってくれ!」

 

袁術は藁にもすがる思いで、居並ぶ諸侯や武将たちを見渡す。

 

「褒美は弾む!金も地位もやる!俺の秘蔵の高級蜂蜜も一年分やるぞ!!だから誰か、あの血まみれの悪魔をどうにかしてくれ!!」

 

しーん……………………。

 

連合軍の本陣に、恐ろしいほどの沈黙が落ちる。

諸侯たち、そして彼らが誇る猛将たちは、全員が一斉にスッと目を逸らす。

誰一人として、袁術と目を合わせようとしない。

 

天井のシミを数える者、自分の爪の手入れを真剣に始める者、突然咳き込んで体調不良をアピールする者。

 

(無理だろ)

 

(あんなの死にに行くようなもんだ。費用対効果が悪すぎる)

 

(目が合ったら殺される。絶対に目を合わせるな。俺はただの背景モブだ)

 

袁術の側近である兪渉が、気配を消すように小声で呟く。

 

「……いやです。あんなミンチ製造機に突っ込むなんて、罰ゲームでもやりません。俺の命の価値はもっと高いはずです」

 

同じく猛将として名高い潘鳳も、腹を押さえてしゃがみ込む。

 

「あ、イタタタ……。急に持病の腹痛が……。昨日食べた生牡蠣が当たったみたいです。ちょっとトイレ行ってきますんで、出番は次に回してください……」

 

「ええい、誰もいないのか!!お前ら給料泥棒か!!」

 

「このままでは、あの女がこの砦の壁を素手でよじ登ってきて、俺の首を直接ねじ切るぞ!!誰でもいい、時間を稼ぐだけでもいいから行ってくれ!!ボーナス三ヶ月分出すから!!」

 

袁術が半狂乱になって叫び続けている、その時である。

 

諸侯たちがひしめき合う末席のほうから、ひとりの大男が静かに進み出た。

身長は九尺近くあり、見事なまでに長く美しい髭を蓄えている。

 

身に纏うのは、鮮やかな緑色の戦袍。

その男は、周囲のパニックなどどこ吹く風といった様子で、極めて涼しい顔をしている。

 

「――拙者が参ります」

 

低く、しかしよく通る重厚な声が響いた。

 

「お、お前は……?」

 

「劉備のところの……馬弓手(下級兵士)か?お前ごときが、あの化け物に勝てると言うのか?孫堅すら瞬殺されたんだぞ!?格が違いすぎるだろ!」

 

身分が低い関羽を見下す袁術だが、関羽は全く意に介さない。

関羽は目を細め、砦の隙間から、下で血まみれになってヒャッハーと叫んでいる私を静かに見下ろす。

 

「……あの女の剣筋、ただの力任せではない」

 

「双頭戟の回転速度、踏み込みの角度、そして敵の急所を的確に捉える視線。あれは狂気に身を任せているように見えて、実は極めて緻密な『理』で斬っている。常に最短距離で、最大の利益(ダメージ)を引き出す計算がされている。無駄な動きが一切ない」

 

「……面白い」

 

「酒が冷める前に、あの女の『演算』を狂わせてきましょう。拙者の青龍偃月刀が、あのプロペラを止めてみせます。義に背く者に、我が刃の重みを教えてやろう」

 

関羽はそう言い残し、傍らに置かれていた温かい酒の杯には目もくれず、静かに背を向けて歩き出す。

 

その背中は、圧倒的な自信と「義」のオーラに満ち溢れている。

狂乱の戦場に、ついに武神・関羽雲長が立つ。

 

 

 

 

 

私は砦の下で、新たに出てきた挑戦者を見上げる。

 

緑の服を着た、髭の長い男。彼の戦闘力を測定しようと試みる。

 

(……エラー。戦闘力の数値が測定不能(オーバーフロー)を起こしていますね)

 

どうやら、久しぶりにやりがいのある大型案件(ボスキャラ)のお出ましらしい。

 

「ふふっ。いいでしょう。その長い髭、全部むしり取って原価ギリギリで売ってあげますよ!」

 

利益率が読めない戦いは嫌いだが、たまにはこういうイレギュラーなイベントも悪くない。




今回は

・反董卓連合の戦場
・孫堅軍の崩壊
・そして関羽の登場

を書きました。

ここからいよいよ

李司 vs 関羽

という、この作品でも大きな対決になります。

皆さんは今回の話で

・董卓の筋肉突撃
・呂布の暴風攻撃
・李司の双頭戟
・関羽の登場

どのシーンが一番印象に残りましたか?

また

「この世界の三国志で一番強そうなキャラ」

が誰だと思うかも、ぜひ教えてください。

感想やコメントをいただけると、とても励みになります。
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