フリーレン「そうだ。社会主義革命を起こそう」   作:あっさーだ

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初投稿です。


再会

党中央委員会初代書記長・偉大なる指導者ヒンメルの死から20年後。

中央管区プラウダ特別区(旧聖都)郊外。

 

 

「この森、いつも迷うな……」

 

 初夏の冷たい風が赤い星のついたピロートカから出る特徴的な耳をなでる。同志フリーレンはカーキ色のギムナスチョルカと動きやすいスカートに身を包み、森の中の道を一歩ずつ進んでいた。

 フリーレンはかつての中央委員会イデオロギー担当書記ハイターのもとへと向かっていた。かつてイデオロギー担当書記として人民の心を腐らせる唾棄すべき女神教を科学の力で浄化し真の価値を抽出するという偉業を成し遂げ、大十月社会主義革命の中心人物のひとりであった彼も、今は公務を退き森の奥にあるダーチャで静かに余生を過ごしていた。

 道の脇には、苔むした女神像が転がっていた。顔の部分は削り取られ、代わりに「歴史の必然」という文字が雑に彫り込まれている。フリーレンはそれを一瞬だけ眺め、何も言わずに通り過ぎた。

 

「何かお探しでしょうか?」

 

 しばらく進んでいると、道に迷っている姿を見ていたのか、ひとりの少女が話しかけてきた。濃紺の共産主義青年同盟(コムソール)の制服に身を包み、髪には共産主義の象徴たる赤のリボンをつけている。

 

「どうかなさいましたか?」

 

「いや……、ハイターっていう人の家を探しているんだけど」

 

「そうでございましたか。ではお客様でございますね。」

 

 そういうと礼儀正しい少女──フェルンというらしい、は背を向けて歩き始めた。フリーレンはフェルンの背を追って再び歩き始めた。

 

 

 

 やがて、木造の家が見えてきた。かつてイデオロギー担当書記として党としての理念を定め、ボリシェヴィキ党史略解やヒンメル語録をまとめ上げた者の家とは思えないほど、質素で静寂に満ちている。玄関に飾ってある赤い星のマークだけがその家に党員が住んでいることを静かに伝えていた。そんな家の前に一人の老人が立っていた。茶の長袖シャツをまくりゆったり目のズボンをはいている。さっきまで農作業をしていたのだろうか。ズボンの裾は土で汚れていた。

 

「まだ生きてたんだ。生臭坊主」

 

「格好よく死ぬのは弁証法的にも難しいものですな。お久しぶりです。同志フリーレン。いや──、終身党中央特命全権代表と呼ぶべきですかな?」

 

 はっはっはと乾いた肺を震わせるような笑い声でその老人──ハイターは答えた。かつての中央委員会イデオロギー担当書記。党のナンバー2として君臨し、「灰色の枢機卿」、「陰の実力者」という異名を誇ったその老人も、引退した後は健やかに過ごしているらしい。

 諸悪の根源である帝政の象徴たる魔王(ツァーリ)を打ち倒した10年におよぶ苦難の行軍と大十月社会主義革命から約70年、偉大なる指導者にして党中央委員会初代書記長ヒンメルの死から20年。革命の熱狂は歴史の彼方へ過ぎ去り、かつて党の中心人物であった二人の間には穏やかな風が流れていた。

 

 

 二人は傾いた陽光が差し込む部屋で、きしむ椅子に腰を下ろした。テーブルの上には、長年の激務を物語るような膨大な報告書の束はなく、ただ静かな時間が流れている。どうやらハイターは酒をやめたらしい。ハイターの手元には、かつての彼を象徴したウォッカの瓶はない。かわりに彼は小皿に盛られた苺のジャムをスプーンで丁寧に掬って口に含み、それを熱いストレートの紅茶で流し込んでいた。

 

「酒はやめたんだ」

 

「ええ。党の配給も厳しくなりましたし、何より健康は労働者の義務ですから」

 

 フリーレンは、荷物に忍ばせていたウォッカと黒パンの包みに触れた。本来なら彼の墓前に供えるつもりだったそれは、どうやら無用の長物となったらしい。

 

「同志フリーレン、何故わたしのところへ? 終身党中央特命全権代表として党の方針が貫徹されているか巡察していたのではないのですか? 」

 

「特別区で配給をもらうついでだよ。巡察先で会う人はなるべくかかわるようにしているからね。ほんとに行列が長くて嫌になってしまうよ」

 

 フリーレンは窓の外、灰色の空を見つめながら言葉を継いだ。

 

「それにハイターには借りがたくさんあるから。死なれる前に返しに来たんだ」

 

 ハイターは静かに、少しの間沈黙した。そして紅茶を一口のんだあと、意を決したように紅茶のカップを置いた。

 

「ではひとつ頼みごとを。見習いを取りませんか。同志フェルンには魔導科学使いとしての素質があります。あなたの巡察に随行員として連れていってはくれませんか?」

 

「──ごめん。同志ハイター。それはできない」

 

 フリーレンの返答は、冷徹だった。

 

「足手まといになるから。実践での見習い魔導技師の損耗率は党の統計資料でも明らかだ。同志から預かった貴重な人的資源を、無意味に死地に送るつもりはないよ」

 

「そうですか。では別の頼みを」

 

 ハイターは落胆することなく、よどみのない動作で本棚から一冊の本を取り出した。

 

「これは旧体制下の科学者、エーヴィヒの墓所より回収した遺物です。この機密文書には、『生物学的基盤によるプロレタリアートの永続的稼働および損耗回避に関する極秘研究』が詳述されていると推定されています。我が党がこの魔導科学を完全掌握し蘇生や不死を達成した暁には死と疲労という生物学的限界を克服した、『完璧なる社会主義的超人(ホモ・ソビエティクス)』の量産が可能となるでしょう。これは世界革命の完遂に向けた、歴史的必然としての最終兵器です。」

 

 フリーレンはつまらなそうに、その本を手に取った。

 

「そう。なら党中央特命全権代表として、イデオロギー的に無視できない案件だね。まあ、弁証法的魔導唯物論の観点から言わせてもらえば、そのような魔導が実在するとは思えないけど」

 

 フリーレンは無造作にページをめくる。

 

「不死や不老なんてものは旧体制のブルジョワジーどもが遺した、腐敗した幻想だ。奴らは労働者から最後の一滴まで資本を搾り取ることしか考えていない。これは大衆の階級的自覚をそらすために捏造された偽科学に過ぎないと思うよ。」

 

「それも含めて解読をお願いしたいのです。できますか?」

 

「まあ、5、6年もあれば。」

 

 フリーレンの言葉に、ハイターは満足げに深く頷いた。そして、付け加えるように、あくまで「ついで」であるかのような口調で言った。

 

「──それと、解読の片手間で構わないので同志フェルンに魔導を教えてあげてはくれませんか? 私はあくまでイデオロギー担当書記。イデオロギーの指導はできても、具体的な魔導科学については、どうも勝手がわからないのです。」

 

「まあ、そのくらいなら。」

 

 ハイターは静かにほほ笑んだ。

 

 

「……いた」

 

 ハイターと会話した後にフェルンを探しに行ったのだが、随分と時間がかかってしまった。フェルンは、峡谷の淵から空へと突き出した巨大な岩の先端に、彫像のように佇んでいた。共産主義青年同盟の団員であることを示す襟についたヒンメルの横顔のバッジが、日に照らされ鈍く輝いている。

 

「探すのが大変だったよ。いつも人民の目の届かない森で修業しているの?」

 

 フリーレンの問いかけに、フェルンは音もなく振り返った。その表情は少女特有のあどけなさがありつつも、無表情で規律に満ちている。

 

「フリーレンさまでも私を見つけるのが大変でございましたか。存在感が薄いとハイター様からもよく言われます。集団の中に埋没し、目立たぬ歯車として機能することは党員の美徳。とても良いことでございますね」

 

「そうだね」

 

(やっぱり魔力資本探知にほとんど引っかからない。卓越した魔力資本の操作技術だ)

 

 フリーレンは心の中で驚く。この年でいったいどれだけの研鑽を積んだのだろうか。確かにこの少女は天才かもしれないがそれ以上に鍛錬を感じさせるものだった。

 

 フェルンは視線を、峡谷の対岸に立つ古びた女神像へと戻した。かつての旧体制下で崇められていたその偶像は、今や風化し、時代の遺物として打ち捨てられている。

 

「ハイター様からは、『あの旧時代の迷信の象徴を打ち抜けば一人前だ』と教導されております」

 

「へぇ。ハイターもわかってんじゃん。あれはね──」

 

 言い終わらないうちにフェルンが魔導回路を励起した。迷いのない、極めて効率的な魔力資本の出力。しかし、放たれた青白い光弾は、対岸に届く前に大気の中に離散し、虚しく霧散した。

 

「このように魔力資本が離散してしまい届かないのです。どのような合理的修行をすればよろしいのでしょうか」

 

 フリーレンは、肩をすくめて彼女に歩み寄った。

 

「ねぇ。先に一つ聞いていい?同志フェルン。魔導科学は好き?」

 

「ほどほどでございます」

 

「じゃあ共産主義は?」

 

「愛しております。狂おしいほどに、この赤い理想を。共産主義こそが、搾取に腐りきった旧世界の鎖を焼き切り、全人類に真の労働の光をもたらす唯一の夜明けだと信じています。私はこの身を、社会主義を築くための生きた礎石として捧げることに、一片の後悔もありません」

 

「私と同じだ」

 

 フリーレンは静かに微笑む。

 

「えーとね、長距離魔導は────」

 

夕闇が迫る森の中で、党中央特命全権代表による講義が始まった。

 

 

 フリーレンがハイターの家に泊まるようになってから四年がたった。特別区近くの森には、連日連夜、魔導の行使音が響き渡る。

 ある日の午後、フリーレンは書斎でもう日課となった文書の解読にいそしんでいた。

 

「……同志フェルンの修業は順調ですか?」

 

 ハイターの声は、四年前よりもさらに細く、掠れている。

 

「順調すぎるよ。常人なら十年の研鑽を要する道を、彼女はわずか四年の期間で完遂した。あの子は……自分を追い込みすぎだ。労働者の適正な休息を無視した超過勤務は、長期的には精神の摩耗を招く。あまりいいことじゃない」

 

「彼女は根っからの模範的労働者(ストハノフ)ですからね。最近は食事の時間以外、ずっと森にこもりきりです。それだけ、魔導科学というものに心酔しているのでしょう」

 

「それでも、彼女が社会主義者として一人前になるのは、まだ先のことだよ。……この調子なら、私のほうの魔導書解読のほうが早く終わる」

 

「そうですか……。我が国の科学的進歩に、また一つ足跡が残りますな」

 

 フリーレンは、手元の古びた本──旧体制の遺物──に視線を落とした。

 

「ねぇ、ハイター。この『生物学的限界の克服』に関する記述だけど……。徹底的に検証した結果、おそらくこれは……ハイター?」

 

 返答はなかった。フリーレンが後ろを振り向くとそこには床に倒れこんだ同志ハイターの姿があった。

 

 

 窓の外は、鉛色の雲から冷たい雨が降り注いでいた。特別区の灰色の景色を濡らす雨音だけが、室内を支配する沈黙を辛うじて埋めている。ベッドに横たわったハイターは、もはや党の重役についていた頃の威厳はなく、ただの痩せ衰えた老人の姿を晒していた。

 

「……そんな顔をしないでください、同志。私の肉体は、社会という巨大な機械を回すための、たった一つの消耗品に過ぎません。とっくに耐用限界は過ぎていたのです。今日まで動いていられたのは奇跡、……いえ、明日への歴史的必然だったのですよ」

 

ハイターは自嘲気味に笑い、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

 

「……死は、労働者にとっての最後の休息です」

 

フリーレンは、雨に濡れる窓から外を見つめた。森の中ではフェルンが一人、黙々と魔導を放ち続けているだろう。

 

「魔導書の解読を急ぐよ」

 

「……お願いします」

 

 フリーレンはドアノブに手をかけた。

 一人の老書記の死と、一人の若き魔導技師の旅立ち。その境界線まで、残された時間はあとわずかだった。

 

 

「フェルン。修業は中止だ」

 

フリーレンの声は、いつも以上に淡々としていた。それがかえって、事態の深刻さを物語っている。

 

「同志ハイターが倒れた。側にいてやってくれ」

 

 フェルンは相変わらず魔導杖を抱えたまま動かないでいる。視線の先には、霧に霞む旧時代の女神像が変わらず佇んでいた。

 

「……まだ、あの偶像を打ち抜けておりません」

 

「それはいずれ必ずできることだ。今は、彼を看取ることが優先だ」

 

「『いずれ』では、だめなのです!」

 

 フェルンが声を荒らげる。思えば、彼女がここまで感情をあらわにすることは初めてかもしれない。杖を握る手は震えていた。

 

「『いずれ』では、ハイター様が死んでしまいます。……私は、あの方に命を救われました。あの方に『救ってよかった』と思っていただかなければ、私の革命は始まらないのです」

 

 

 目を閉じれば、あの日──灰色の空の下で、すべてを諦めていた自分の姿が鮮明に蘇る。

 私は一人、絶壁の縁に立っていた。手の中には、色あせた家族の写真がある。私の両親は、いまだ南側諸国にはびこる強欲なブルジョワジーによる過酷な搾取の中で、文字通り「摩耗」して死んだ。彼らにとって労働者は、交換可能な部品に過ぎなかったのだ。16時間を超える労働、日曜日しかない休み。粉塵の充満する工場。コレラのひしめく住環境。生活するのもギリギリで、金がなければ人としてすら扱われない。両親の遺体は集団墓地に埋葬された。そして数か月後、あまりに粗末な墓を見に行った時、遺体は解剖のために盗まれ、そこにはただかつて両親がいた穴だけがあった。両親の亡骸は、社会主義の夜明けを見ることもなく、もはやどこにあるかもわからない。

 未来のない絶望の中で、私もまた、その写真とともに奈落へ身を投げようとしていた。その時だった。背後から、酒臭くも温かみのある声が届いたのは。

 

「──今死ぬのは、もったいないと思いますよ」

 

 振り返ると、そこには党の制服を崩して着た、一人の男が立っていた。

 

「もったいない……?」

 

「ええ。もうずいぶん前になりますが、私は古くからの同志を亡くしましてね。その男は、私とは違って、ひたすらまっすぐで、困っている労働者を見捨てることができない人間でした」

 

 その男──ハイター様は、遠く地平線の先を見つめるような目をしていた。

 

「我らが偉大なる指導者・初代書記長ヒンメル。もし私ではなく彼が生き残り、党を率い続けていれば、より多くの人民が救われ、人類の理想郷へもっと早く近づけたはずです。……私は彼ほどの英雄ではない。だから、彼を見送った後は、ただ静かに余生を過ごそうと思っていました。ですが、ある時ふと気が付いてしまったのです」

 

 ハイター様は私に歩み寄り、その大きな手を私の肩に置いた。

 

「私が死ねば、彼から学んだ勇気や意志、友情、そして彼と共に歩んだ大切な思い出や思想までもが、この世から消滅してしまう。それは党にとっても、人類にとっても、あまりに大きな損失ではないかと」

 

 その瞳には、かつての激動の時代を戦い抜いた男の、静かな覚悟が宿っていた。

 

「あなたの中にも、両親から受け継いだ大切な思い出や、理不尽への憤りがあるはずだ。ならば、ここで命を投げ出すのは、貴重な精神的財産をドブに捨てるようなもの。……実にもったいない」

 

 

 対岸の女神像は、相変わらず冷ややかにフェルンを見下ろしていた。

 

「ハイター様はずっと、私を遺して死ぬことを危惧しておりました。……あの方は正しいことをしたのです。私を救ったことを、後悔してほしくない」

 

 フェルンは杖を握り直し、資本を練り上げた。それは単なる破壊のエネルギーではない。ハイターから、そして彼が愛した初代書記長から受け継がれた、不滅の「意志」の奔流だ。

 

「魔導使いでも、党の尖兵でも、何でもいい。一人で生きていく術を身につけることこそが、私の最大の恩返しなのです。あの方に『救ってよかった』『もう大丈夫だ』と、そう確信して、安らかに最期を迎えてほしいのです!」

 

 フリーレンは、少しの間、フェルンの横顔を黙って見つめていた。やがて、フリーレンは小さく溜息をつき、わずかに口角をあげた。

 

「……私の教えた技術体系、そのすべてを、プロレタリアートの規律をもって記憶しているね?」

 

「はい。一言一句、忘れてはおりません」

 

「なら、好きにすればいい。……計画の完遂を、同志として見届けよう」

 

「ありがとうございます!」

 

 フェルンが晴れやかな顔で答える。空は依然として重く垂れ込めているが、フェルンの視界はかつてないほどに、澄み渡っていた。

 

 

 数か月後。峡谷に立ち込める霧を切り裂き、フェルンの放った魔導が一直線に空間を奔った。それはもはや、ただのエネルギーの放出ではない。過去の搾取を拒絶し、ハイターから受け継いだ「生の意志」を物理的な破壊力へと昇華させた、研ぎ澄まされた階級的鉄槌であった。

 直撃。

 旧体制の残滓、迷信と欺瞞の象徴であった女神像は、その傲慢な首から砕け散り、無残な石塊となって谷底へと消えていった。静寂が戻る。フェルンの荒い呼吸の音だけが、革命の成就を告げる祝砲のように響いていた。

 

 その後、ハイターはフリーレンと彼女の巡察にフェルンを同行させるという約束を取り付けた。そして、フェルンとともに穏やかな最期を過ごした。

 

 ハイターの葬儀は国葬として執り行われた。遺体はヒンメルグラード(旧王都)へ移送され、かつての貴族の舞踏会場を接収した労働組合の家の柱の間に安置された。葬送行進曲が重く響き渡る中、遺体を載せた砲車は、六名の儀仗兵と数百人の兵士に守られながら、赤の広場、そしてヒンメル廟へとゆっくり進んだ。

沿道には、党によって動員された数万の労働者たちが赤い小旗を振り、沈黙の中で行進を見守っている。同志ハイターの死は、女神という旧時代の幻影を粉砕し、人民の魂に党の科学的教義という揺るぎない背骨を叩き込んだ国家的英雄として厳かに総括された。

 葬儀が終わり、人々が去った後の墓地。冷たい風が吹き抜ける中、フリーレンとフェルンは、ハイターの墓石の前に立っていた。

 彼女は鞄から、かつて無駄になったはずのウォッカの瓶を取り出した。蓋を開けると、鋭いアルコールの香りが冬の空気に混ざり合う。

 

「……格好よく死ぬのは難しいって言ったけど、結局、君の計画通りじゃないか。生臭坊主」

 

 トクトクと、無色透明の液体が墓石に注がれる。それはかつて彼が愛した「労働の後の潤い」であり、今は亡き同志への、党中央特命全権代表なりの献杯であった。

 

「フリーレン様」

 

 背後からフェルンが話しかける。

 

「……ありがとうございました。おかげで、ハイター様に恩を返すことができました。あの方は、最期まで微笑んでおられました。『計画は順調だ』と」

 

「私はただ、してやられただけだよ。あの食えないイデオロギー担当書記にね。……まんまと、生きがいのありすぎる助手を押し付けられた」

 

 フリーレンは空になった瓶を片付け、フェルンの方を向いた。

 

「じゃあ、行こうか。同志フェルン」

 

「はい、同志フリーレン。歴史的必然の赴くままに」

 

 二人の影が、墓地を離れ、地平線の先へと伸びていく。それは、世界革命の残光を追い、あるいは真の「人間解放」の意味を探す、長い長い巡察の始まりであった。

 

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