DCユニバースvsプラスチック姉さん   作:スカンジナビア半島

10 / 17
メメメメメメメメメメンヘラぁ…VSタイタンズ前日譚:The Back of a hero(下)

 

IBACとなった市長は地上に出た。

 

ステッペンウルフを見捨てることになったが、生存パワーとして仕方がない。

あのサバエナが来るのが見えたのだ。

市長のようなパワー信者には概念攻撃が天敵だ。

 

「めっっっっっっっっっっっっさイイイ気分だでやぁー!!」

 

腕を振り回し、試しにパワー試しをしてみる。

 

「があああああ!!」

 

フレディの腕がへし折れ、SHAZAMの中でも体力自慢で鳴らした者が絶叫した。

べつにIBACに彼を狙う理由はない。

ただ近くにいたし強かったからだ。

市民でないし、民間の所有物でもない。

パワーをぶつけて平気だからそうした。

 

「ンンン……4,000点!!」

 

秘書が感涙の涙を浮かべて、新たなパワーの市長を採点した。

IBACになったことで点数の上限がアンロックされたのだ。

 

「何やってんだ……!?」

 

ビリーが呆然として呟く。

ヤリマンの介抱をしていたら、突如として地下から市長が飛んできてフレディにチョップをしてきたのだ。

パワー信者ではない少年には刺激が強すぎる。

どうしていきなり市長が生えてくるのだろう。

 

「正しいことをしている。何か問題でもあるのかね?」

 

ゴッサムによくいる禍々しく清らかな瞳。

汚いし危ないからとあまり行くことがないSHAZAMにとっては、相対するだけで正気を削られるものがあった。

 

「バカ……なのか? いきなり出てきて人の腕に思いっきりチョップしてんだぞ?」

 

「そうかい? でぇやー! でやー!」

 

「ぐわあああああ!!」

 

「ふざけんな! その執拗なチョップをやめろ!!」

 

ビリーの訴えを無視して市長はフレディに手刀を降ろし続ける。

異様な光景であり、凶行であった。

ジャスティス・リーグにいた頃はバットマンが度々わけのわからない言い分でこちらを殴ってきたものだが、あらゆるヒーローを気まぐれと癇癪で殴るのが彼だ。

 

いちいち気にしても仕方がなかった。

それならばこの市長は? 市長だ。

唐突に他人を殴って良い訳がない。

 

「コラ―! やめるですよー!!」

 

「ヒーローの腕をそんなにいじめて何がしたいですかー!」

市長と顔見知りのウノサノもビリーと一緒に、目の前の出来事を糾弾した。

 

「見ればわかると思うが、私はIBACの力を手に入れた。おっと”外付けの力なんて手に入れて嬉しいのか”だなんて錆びついたことは言わないでくれよ? 外付けを使いこなすならそれも立派なパワーだ」

 

「それでなんでシャザムをイジメてんだコラ!」

 

「そうですよ、おかしいですよ!」

 

「ちゃんと説明しろ―!」

 

「”近くにいた”、”The市民ではない”、”壊しても器物損壊罪にならない”。これで十分ではないか。まさかThe市を傷つけろというのか? 政敵でもないのに」

 

The市特有の己の間違いを一切考慮しない、ドブ川の清流が如き論法。

優等生として大学に進学し、社会的立場のある人物への無条件の信頼を持っていたメアリーが、白目を剥きかけていた。

 

「なんなのこの人……!?」

 

「シャザムちゃん、がんばって」

 

「元気あげる」

 

メアリーによってたかって宇佐美のヤリマンが群がる。

ビリーには何がどうなっているのか見えないし全く想像できないが、メアリーはヤリマンに任せ、とにかくフレディを助けねば。

ケープをはためかせて右の拳を振り下ろす。

 

IBACが片手で受け止め、逆の手でアッパーを浴びせた。

凄まじい威力の一撃だ。

街の端まで吹き飛ばされて、慌てて起き上がると追い打ちに軽自動車が顔面にあたった。

 

「おいお前……! これThe市民の車だろ!」

 

真っ二つに折れたナンバープレートを持ってビリーは叫んだ。

正論では市長は止まらない。

一歩ずつ地面が陥没して、戯れに握った電柱が溶解した。

 

「娘に望む道を歩んでもらうにはどうすればいい? もちろん彼女の意志は尊重する。夢を叶えることもパワーだ。だがね、”男の趣味”だけは無理だ。どうしてか、弱い男に性的興奮を催すようになってしまった」

 

「べつに誰を好きになろうと自由だろ!」

 

「それでも私はパワー信者だ。パワーの良さを知らしめたい欲もある。だからとりあえずはIBACになってパワー政策を敷くことにしたよ。アポコリプスの力も借りた」 

 

「アポコ……!?」 

 

予想外の名前が出てきてシャザムは絶句した。

あらゆる世界、惑星を一律に滅ぼしてきた異次元に存在する暗黒悪星。

まがりなりにも市長の口から聞くとは思わなかった巨悪だ。

 

「馬鹿なのか……!?」

 

「ダメよシャザム!! どう考えてもそれ以外の答えはないわ!」

 

市長の言葉のパワーに脳髄を焼かれかけていたメアリーが戦場に復帰してIBACを背後から攻撃した。

しかしそれより早く、市長が彼女の腕を掴んで地面に叩きつけた。

ボルジアの邪智が攻撃を察知させたのだ。

 

「君たちが何故戦えているかわかるかい? パワーだ。君たちが何故、そうまで理想的な肉体を持てた? パワーだ。君たちが後世に語り継ぐべきは? パワーだ。生涯パワー! パワー第一! それが私のマニフェスト! おめえらみんなオラに清き一票を分けてくれえい!」

 

「ふわわわわわ、市長……サイッコー!!」

 

そこにビリーがタックルし、さながらヤリマンが獲物にとびかかるかのように両腕でガッチリと固定した。

 

「SHAZAM!!」

 

変身が解けるのを代償にした最大の攻撃。

周囲を真っ白な雷光が包み、変身が解けたビリーをメアリーが抱きかかえて退避する。

フレディたちがいる方に行き、ビリーを置いて戦線に戻ろうとしたメアリー。

しかし、まだ視界が戻るのに時間があったはずが、急速に光が晴れていく。

正確には、雷光がなにかに巻き取られていく。

 

「でやぁー」

 

光が大きく旋回し、中央へと向かっていく。

そこにいるのはハガ市長。

ダブルラリアットの回転が、シャザムの雷を取り込んでいた。

 

「なにあれえ……!?」

 

口を大きく開けてメアリーが驚いた。

IBACと戦ったことは何度かある。

侮れない敵なのも知っていた。

 

しかし、それでもパワーでシャザムの最大攻撃を巻き取れるなど考えたこともなかった。

メアリー達に知る由もない、専門家にのみ伝わることだが、IBACに名を連ねる雷帝イヴァン。

雷帝であることから雷属性には強い適性があった。

それを市長が限界まで伸ばせばこんなこともできるのだ。

「でやあああああああ」

 

踏みしめた両足が地面に深く埋まり、それを起点に市長が歯を食いしばって雷を放り投げた。

 

「ふううんっ!」

 

流石にムチャなパワーの使い方だったのだろう。

市長が膝を屈して動きを停止させた。

無計画に両腕を突き出したメアリーの全身を、シャザムにIBACのパワーも加わった雷がうちつけた。

 

「危ねえ!!」 

 

片腕が玩具にされたマッチ棒のようにされたフレディが、肩で姉の背中を押さえた。

二人がかりでも強力無比な雷撃。

 

「がんばれ!! ここを乗り切ったら逆転のチャンスが有るぞ!」

 

市長はSHAZAM達のふんばり、それを無情に吹き飛ばすかのように気合を入れた。

スタンした全身に筋肉を強張らせ、血液の流れをマグマのように激しく活性化させた市長が動き出す。

 

「おいおいどうした、だらしないぞ君たち」

 

「流石市長だ! スタンしてもレバガチャ速度が爆速過ぎる!」

 

戦闘についていけない元殺人鬼予備軍である市長秘書が、何度も飛び跳ねて喜んだ。

 

憧れに出会わなければ1,000人は稲妻の速さで殺していた男だ。

そんな男の目の前で、憧れがシャザムに極大の腕力を叩き込まんとしているのだから、興奮を押さえられるわけもないだろう。

 

右拳を地に付け、姿勢を低く落とした市長。

アメフトにおけるタックルの姿勢だ。

アメフトといえばパワーのスポーツ。

アポコリプスの国技でもあった。

 

「でやぁー!」

 

掛け声よりも先に市長が消えた。

遅れてパワーに空気の壁が破砕された音が響く。

 

「クソぅ!」

 

片腕がおしゃかになった弟が姉を押しのけて市長の攻撃を受けようとする。

そこを姉が無理やり押さえつけ、先頭から動かずに市長のタックルが直撃した。

 

「あぁっ!」

 

風圧どころか次元に罅が入るほどのパワー。

地下にて稼働を始めていたファイアピット、惑星テラフォーミング化の施設がコンクリートを溶かしてマグマを噴き上げる。

IBACを使いこなす市長にパワー留学先が力を貸しているのだ。

マグマジェットのパワータックルが最強の定命者達を蹴散らす。

 

「大人というのはね。子供をたまには導かなければ。特に私は市長だ。追うべき、目指すべき背中を見せるのが義務なのだよ」

 

メアリーとフレディが並んで地に臥せった。

トドメを刺す気はない。

だがパワーを示すには戦果を誇示するのは有効だ。

なんなら彼らを縛って市庁舎に吊し上げるのも良いだろう。

 

「彼らを吊るして市庁舎の屋上で国旗みたいにたなびかせる準備をしておけえい!」

 

「合点承知の助でさァ!」

 

愛する市長に命令され、秘書は至福の表情で跳び立った。

 

「お、お前……!!」

 

「ラ、ライン超えやがった……! えぐいほどライン超えやがったですよ〜!!」

 

「安心したまえ。ジャスティスリーグが来ようとアポコリプスが来ようと、この街は私が守ってみせる」

 

「なんでジャスティスリーグと敵対する前提なんですかー!?」

 

「おめえがちょっとパワー信仰を収めるだけで丸く収まりますから」

 

「だがそれではパワー布教ができない。君たち若人は覚えておいて欲しい。大人はね、常に若者に憧れて欲しいんだ! 特に娘にはね!」

 

SHAZAMの二人の首根っこを掴もうとした瞬間、意識を失っているように見えたメアリーとフレディが同時に囁いた。

 

「「SHAZAM」」

 

双つの落雷が落ち、市長が片手を顔の前にかざす。

その掌を真紅のコスチュームの両手が包む。

シャザムがゼウスの全能以外を揃えてIBACを投げ飛ばした。

 

「おぉっと」

 

空中で身を翻した市長が着地。

しかし、それよりも速いのが全能以外を揃えたシャザム。

ヘルメスの神速がアトラスの体力によって、限界以上にヘラクレスの剛力を引き出していた。

 

「ほおおっ、紳士の仮面に罅が入ってきたああああ!」

 

「最初から紳士じゃないだろ!」

 

雷鳴のキャプテンが繰り返し繰り返し、市長の腹部に拳を浴びせる。

あのシャザムの攻撃ともなれば、ゼウスがなくともパワーは相手にも十分に伝わるのだ。

 

「素晴らしい……全力でお相手しよう!」

 

足元からピットのマグマが噴き出した。

The市でなければ、街中にマグマが出れば大惨事だろう。

弾丸もマシンガンもバズーカも効かないシャザムの身体。

 

しかし、アポコリプスのピットが生み出すマグマは数千度の温度を誇る代物だ。

少しでも浴びれば重症は必至。

The市の市街地が次々に溶けていく。

 

「ふざけやがって……!! どんどん街を壊してんじゃねえかテメエ!!」

 

「知識パワーが不足しているな。道路が壊れたら公共事業を斡旋できて、市民はむしろ潤うのさ。これは正義だ。政治家としての政策だ! 反論する奴はぶん殴ってやる」

 

「グッ…………!!」

 

学校の勉強関連の知識を突かれ、ビリーは何も言えずに口ごもってしまう。

公共事業がそういうものなのか、市長と議論するほどの教養がビリーにはない。

ソロモンの知恵を使うにも、活用するには十全の学校での勉強がなければ。

 

「流されるんじゃねえですよ!!」

 

「どうしたとこで結局自作自演じゃねーか!」

 

「そ、そうだ!! だいたい何し腐ってんだテメエ!! アポコリプスまで喚んでよぉ!」

 

「こちらを狙っているという情報があってね。あえて招き入れて情報を集めた。機会を見てステッペンウルフを真っ二つにし、母校へのパワー型恩返しをするつもりだったが……まあいいだろう。少し忍びなくもあったからね」

 

「で、で、でも無関係なヤリマンを巻き込んだだろ!」

 

「彼女らは定期的に男と女を襲って腹上死チャレンジする邪悪な種族だ。一人も殺していないし問題ない」

 

「うううううるせえ! 本当にやってるかはわかんねえだろ! ヤリマンだからって決めつけてんじゃねえ!」

 

「ヤってますよ!」

 

「リバありでやってますよ! そこから否定するのは無理ゲーです!」

 

「えっと………………いくら殺人ヤリマンだからって、相手の意思を無視するのはなあ! いけないんだぞ!!」

 

「久しぶりにお家でゴロゴロできて楽しかった〜」

 

「たまには良いよね〜」

 

「むしろ良い具合にデトックスして溜まった気分」

 

ヤリマンの妹だけでなくヤリマン本人にも否定をされてしまい、憤りに火花を散らせていたシャザムはもどかしげに下唇を噛んだ。

 

「とにかく! お前を絶対に許さねえからな!」

 

「何故だ? 大人しく殴られてくれればいいだけなのに」

 

「それがダメなんだボケナスが!!!」

 

「ヒーローなのにかい?」

 

「ヒーローはヴィランのサンドバッグに立候補してるわけじゃねえぞ!? 殴られたら当然殴り返すんだよ!」

 

「その言葉が聞きたかった! 私はいっぱい君を殴る! だから君はいっぱい私を殴ってくれ! そこをパワーでガツンだ!!」

 

メアリーとフレディを沈めた時と同じ、超音速弾道ミサイルめいたタックルの予備動作に入る。

放つ鬼気はより上昇している。

パワーとIBACがより馴染んでいるのだ。

 

「私は君を思いっきり殴り! 君は私を思いっきり殴る! そして負けた君たちを市庁舎に吊るして、パワーポイントは…………何点かな?」

 

「シャザム三人を独りで倒したらですね!? ンンンンンンンン…………655332526576点!!!!!」

 

「エクセレント!」

 

秘書の採点を聞いたIBACが、胸囲と体格を倍のスケールに拡大させた。

それが発する熱気だけで周囲の空気が歪み、背後の電柱が直角に曲がりそうにすら見えた。

 

「手加減は無用だ。来なさい」

 

そう言い残して市長の姿が掻き消えた。

超高速でタックルをするさまは、まさに超高速の隕石。

軌道にはPITのマグマが刻まれていく。

 

いつものIBACならここまで強くはない。

ただのホームレスが変身するのと、パワー信者が変身するのはここまで天地の差が出るのか。

 

「このキチガイがぁ!! なんでこんなゴッサムな奴と!」

 

シャザムが飛翔し、雷球を3発放つ。

これだけでは相手にダメージを与えられない。

高速で動く相手より、ずっと遅いのだ。

 

事実、市長が高速タックルしながら手でキャッチし、投げ返した。

先程のメアリーにやったのとほぼ同じ。

そこを雷の反射ドームを展開させ、相手に倍加した光を撃つ。

攻撃の当たった市長がよろめき、そこを逃さずにシャザムが突撃した。

 

わずかながらも勢いが弱まった敵へとシャザムががっちりと組み合い、最大級の雷撃を落とした。

 

「SHAZAM!」

 

単体では受け止められるなら、こうして羽交い締めにして直接攻撃を叩き込めば良い。

受け止めることもできず、市長に何度も雷が落ちていく。

 

「ぬううう! 効くじゃないかああ!」

 

髭が焦げ付き出した市長。

組み合った指を解こうとはせず、愚直に腕力で押し潰そうという気だ。

それもこの男の猛烈な信仰心によるものなのだろう。

 

「ぜぇ……!! どうだ、とっとと降参しやがれ!」

 

「冗談だろう。ようやく肩の凝りが解れてきたところだ」

 

「後悔すんなよ!」

 

大きく息を吸って元の姿に戻るほどの雷鳴を呼び寄せようとした。

だが先に、ドラム缶ほどはある太腿、膝が魔術師の鳩尾に入っていた。

 

「オエッ……!!」

 

えづくシャザムの顎を市長が打ち上げる。

拳ではない高い金属音がした。

剣ではない、いったい何だ。

その手に握られていたのは長物。

鈍い銀色をした細長い筒。

何処にでもある凶器だった。

 

「これが私の奇跡と魔法だあ!!」

 

IBACの力とマグマで強化したスチールパイプ。

落ちてきたシャザムへとさらに振り上げて上方に打ち上げた。

飛行で逃れる暇もないめった打ち上げ。

高度の極点に到達したシャザムを掴んだ市長が、錐揉み回転しながらコンクリートのキャンパスに落ちていく。

 

「パイルドライバー!!」

 

###############

 

カーンダック、その宮殿の奥深く。

救世主にして王の執務室。

光差さぬ孤高の玉座に、

ブラックアダムは腰掛けて思索に耽っていた。

 

「なにをしに来た」

 

そこに強い光がやって来た。

空を思わせる青色に大きなSを胸につけたヒーロー、スーパーマンが。

 

「少しお願いがあってね」

 

「私が聞くと思うか」

 

「良心に響けばね」

 

暗に拒絶を仄めかしても一向に動じた様子はない。

それがスーパーマンであり、ブラックアダムにとってもあまり好ましくない図々しさだった。

どういうわけか、スーパーマンはこの世界に対話が不可能な相手はいないと思っている。

 

「SHAZAMのことを頼みたい」

 

「先代がいるだろう。養父母もいる」

 

「あの夫妻はとても素晴らしい人達だ。けれども、彼らはSHAZAMに人間としての目標になれても、ヒーローとしての目標、特にSHAZAMとしての目標にはなれないだろう」

 

「先代がいるのではないか……?」

 

こちらの意図が伝わっていないのかと疑問に思ったブラックアダムは、改めて先代の名前を出した。

彼を封印した者ではあるが、それはそれとしてSHAZAMを導く存在といえばあの者を置いて他にない。

スーパーマンは大きく深く頷いて再度言った。

 

「SHAZAMのことを頼みたい」

 

「洗脳されているのか?」

 

「以前、彼らの正体を知った僕は、ロック・オブ・エタニティに乗り込んだ。そして魔術師に直談判した。”子どもたちを戦場に立たせるなんて何事だ、彼らはすでに傷ついているのだから、家族と周りの愛情以外に必要なものはない。せめて学校生活を優先させるようにしろ”と。こんなことを自分で言うのも何だが、激しく糾弾した。ロビンやティーンタイタンズのことを受け入れているのに、欺瞞ではあったかもしれないが、とにかくだ」

 

聞いてもいないのに語り始めたが、とりあえず聞くことにした。

 

自分を追いやった者への感情は非常に複雑であり、時には敵愾心も抱いたが、今となってはそれだけとは言えないものがあった。

 

「魔術師は深い知性を讃えた瞳で僕を見つめて、穏やかに”導くことはできるのだよ”と諭した。僕はその通りにできるだけ彼らを気にかけ、ビリーに誘われて一緒に学食を食べもした。だが、しばらくしてから、仕事も一段落してシャワーを浴びてベッドに横になってぼんやり天井を見つめてると、ふと過る思考があった。”あの男はなにかやっているのか?”」

 

「あの魔術師だぞ。やっていないわけがないだろう」

 

その時、クラークはアダムに向けて微笑みかけた。

あのスーパーマンがするとは思えない表情だった。

まるで”この人は他人を疑うことが苦手なんだな”と、大人が子供に無言で語りかけてくるかのようだった。

 

ブラックアダムは、自分がこの宇宙で唯一、あの魔術師を偉大だと尊敬している人間であるのを自覚していない。

あの世界最高の善人にしてお人好しとされる彼に、こんな表情を向けられるとは。

ブラックアダムの王としてのアイデンティティが激しく揺らいだ。

 

「もう一度、今度はとことん納得するまで話そうと思い、彼らに魔術師に会わせて欲しいってね。ずっと逃げられているよ。ずーーーーーーーーーーーーーーっっと」

 

「きっと魔術師にも考えがあるのだ。部外者が口出しすることではあるまい」

 

「だとしてもお前は当事者だ。白状すると、僕はブースターゴールド、コンスタンティン、マンチェスターブラックと同じくらいにはお前のことがどうにも苦手だけれども、それでも魔術師よりは信頼できる。最低でも、お前は子供に力を与えて放置は絶対にしない」

 

そう言って、スーパーマンは手を差し出した。

ブラックアダムは躊躇った。

かつては何度も殺そうとした相手の見本になろうとするなど、仮にこの男が言うことが的を射ているとしても、許容できることではない。

 

「自分に自信を持て。お前ならそれができる。彼らに同じSHAZAMとしての背中を見せてやるんだ」

 

玉座にもたれかかり、顎に手を乗せながら謁見をしていたブラックアダムは、眉間に皺を寄せて思考した。

これまで殺した人々、償いのために跪いて従った歴代の王、力を独占するために殺した家族。

あの少年の眼差しを常に背後に感じ、ブラックアダムは数千年の月日を過ごしてきた。

だのにあんな無垢な子どもたちの視線を受けるなど。

 

「私は…………」

 

指を揺らし、雷光の火花を放つブラックアダムはうなだれた。

 

############

 

「出てくるがいい」

 

最強の必殺技、絶対のフェイバリットのパイルドライバー。

SHAZAMを瀕死に追いやりはしたが、それでも威力には不備があった。

技が最高潮に達した時、そこからのカタルシスを迎えるのを遮る第三者の気があったのである。

 

「悪を前に隠れたつもりはない」

 

そう言って物陰から姿を現したのは一糸纏わぬ姿の少年。

街の守護天使こと国木/お尻警察。

股間から天へと奔流するペニスが、あらゆるリングマッチよりも危険な愛のデスマッチへと勃起で誘っている。

 

「君になにがあるのだい? ただ”愛”だけじゃないか」

 

「愛は無敵だ。それがわからないのか? 安心しろ、歳上マッチョは大好物だ。少しだけ我慢したらお尻がちょっと粘つくだけで気持ちよくなれる。なれなくても俺は気持ちいい。気持ちよくならないか? 気持ちよくしてやる」

 

「相変わらず狂人特有の、自分の思想しか語らない男だ」

 

「気持ちよくしてやるー!!」

 

フルチンポの国木が襲いかかろうとしたところ、全身が震えて顔色が悪くなった。

超健康優良スポーツ少年にはありえないものだ。

 

「HA……クッ……! HAHA!」

 

いつものドブのように清らかな眼差しは変わらない。

しかし、口が両耳まで裂けて、高らかに狂った笑いを発している。

ジョーカーの笑気ガスを浴びた者の症状だが、国木は愛を消費することで必死にジョーカー化を抑えていた。

 

「なるほど、ジョーカーにお仕置きをしたが、お尻との相打ちになったわけか。スーパーマンもワンダーウーマンもヤツの笑気ガスには勝てないものだが、まったく大した抵抗パワーだ」

 

「HA、HAHAHAイヤッホウ!! イヤッホウ! HAHAッホウ!」

 

腰を前後に振って愛を高めているが、それでも笑気ガスによる症状の緩和に大半を取られている。

 

「やめておけ。愛しか使えず、愛を封じられて何ができる? 性欲を満たす余裕もないだろう」

 

「HAHA……!」

 

哄笑を腰ヘコで軽減し、国木は口から血を流しながら正気を維持した。

 

「そこに何が残る? 君には愛しかないだろう。そして今は愛を使えない」

 

「イヤッホウ!! イヤッホウ!!! 大義さ。あんたに立ち向かわないと、俺は悪いお尻にお仕置きする名分をなくしてしまう。HAHAHA……善なる人を守らなければ」

 

解毒に集中する国木の顔面は蒼白、唇も真紫。

ジョーカーのお尻にお仕置きをした代償は国木に――。

 

「それも性欲をカバーするための虚構だろう。君の正義は常に軽い。それはパワーか?」

 

「………………あいつをずっと言い訳に利用できる程度の自分ではいたいんだ」

 

誰のことを指しているのか、市長にはわからない。

その行動に賛同する要素は一切ない。

しかし、それはそれとして市長はお尻警察に頷いた。

後天的思想でしかないヒーローごっこでも、それを貫こうとする姿勢にはたしかなパワーが見えた。

両手を頭の後ろに回しての国木の腰前後運動は、空気の壁を突破して周囲にソニックブームが発生しているほどだ。

 

「ガトリングエアファックで解毒か。無駄だ。あらぬアナルに魔羅を突き立てたところで、笑気ガスは星一個を包む毒性を凝縮したものだ。不可能さ」

 

市長の言葉は事実だ。

人の体に過ぎたエアファック、音を置き去りにするピストンは、国木をもってして骨という骨に罅を入れていた。

加えて、今の彼は愛をヒーリングファクターに転用もできない。

愛で毒を少しでも治癒しなければとっくに正気が焼ききれていた。

 

「イヤッホウ! イヤッホゥ!! イヤッホウ!! 愛は無限の力を持っているのさ。早く来いよ。このまま貴様のお尻に飛ばしてやる。HA……HA…………HAHAHAHAH!!」

 

「良かろう。ならば君もSHAZAMと一緒に、旗になって市歌斉唱を歌われるの刑だ」

 

腰を高速で振り、毒を抜こうとする国木だが間に合わない。

ジョーカーの笑気ガス、それもお尻を愛そうとしたことで吹きかけられたものは、非常に強い毒性を持っている。

時間があまりに足りない。

それを知っても市長は待つ人間ではない。

 

「でやー」

 

「イヤッホウ!イヤッホウ! イイイイイヤッホウ!」

 

「起きてビリー!」

 

市長とお尻警察、この市のトップにあるだろうヴィランとヒーローが激突しようという時、ダーラが意識を失った兄を揺さぶる。

 

市長のパイルドライバーは、ビリーのゼウス以外の六柱を持ってしてもなお意識を根こそぎ断ち切ったものだ。

万全にキマったフェイバリットなら、とっくに勝負は決していただろう。

 

「……ダーラ?」

 

「よかった! 自転車レンタルして頑張って走ってきたの!」

 

意識を戻したビリーがヒーローとヴィランをぼんやりと見つめた。

裸の少年が残像を生み出す速度で腰を振り、

ヒーローとしてヴィランに挑んでいる。

想像の範囲を遥かに超えた光景だ。

こんなのJLIでしかSHAZAMは見たことがない。

 

「クソッ、あの中に入るには……」

 

姉弟に託していた力を受け取っても、SHAZAMのZが無ければ。

やはりパワーが必要なのか……あの狂人が抜かすように。

 

「どうしたの? 疲れちゃった?」

 

「いや全然平気」

 

「本当に?」

 

いつも明るいダーラが不安げに兄の顔色を伺っている。

滅多に見ない表情だ。

妹の頭を撫で、ビリーは全身にパワーを込めて立ち上がる。

 

「まあ兄ちゃんに任せとけ」

 

解毒中のお尻警察に振るわれたラリアット。

駆けるビリー、さっき負けた言葉を叫ぼうとするが、別の雷の存在を感じた。

遠くから、こちらを避雷針に時空間を超えて流れてくる雷だった。

 

「BLACK ADAM!!」

 

腰を振ってるヒーローの前に高速の影が割って入り、市長に雷が落ちた。

SHAZAMの真紅のケープが漆黒に変容し、これまでの二倍近くの威力がIBAC市長に向かっていた。

市長が膝を地に付け、痛みに冷や汗を流す。

 

「驚いたね。ゼウスはこのヤリマンの地では使えないだろうが、そこで出すのが宿敵の力とは。SHAZAM……いやブラックアダムの力も載った「SHAZAM!」か……良いパワーだ…………もう………最高だ……最高過ぎんぜ……紳士してる場合じゃねえっ! パワー(全能)の異名をいただくぜ!」

 

「いつ紳士やってたんだコラ!」

 

国木が稼いだ時間でダウンから復帰し、いつの間にか解放されていた変身呪文を唱えた。

 

所有している神の力により、神通力を持つブラックアダムはカーンダックでは現人神として信仰の対象になっている。

故に、ブラックアダムはSHAZAMと違い、神として変身の権能を行使できていた。

 

IBACとブラックアダム化したSHAZAM。

またも四つ指で組み合い、今度は市長が迷わず腕力勝負を避けて股間を蹴ってきた。

その前に指を離したシャザムが、市長の顔面に拳を叩き込んだ。

 

「でやぁーーーー!!」

 

ローリングラリアットによる超高速回転が竜巻を呼び寄せて雷雲を作り出した。

 

「IBAC!」

 

人造の雷を自力で即製し、シャザムに落とす。

それを両手で受け止めたシャザムが、二の腕までを炭化させながら雷を手から放った。

 

「はああああああ……! パワー負け……!? 私がパワー負けだと……!」

 

「喰らええ!」

 

ビリーの足が市長の胸を蹴る。

相手がやったやり方を真似てタックルを仕掛けて、宇佐美家の壁に突き飛ばした。

激突すれば全壊免れない速さ。

雷球を相手の体の周囲に舞わせておき、すんでのところでシャザムが地に落とした。

 

「SHAZAM!!」

 

「でやああああ!!!」

 

本能でかつてない危機を察知した市長がパワーであえて飛び上がり、全身に稲妻を浴びた。

イヴァン雷帝の権能を持つとは言え、SHAZAMの魔術を100%浴びては死なないのが奇跡だ。

しかしIBACにはアッティラの苛烈さがある。

己を窮地に晒してこそパワーが奮い立つのが人間の王というもの。

 

「これほどの興奮は留学以来だ! だが窮地にこそ人間は……!!」

 

全身から線香花火のように雷の残滓が散っている。

市長が全身を捻って最強のラリアットをお見舞いする姿勢に入った。

空気が乱れるほどの鬼気が出ているが、予想に反することが起きたのか、IBACが眉を顰めた。

 

「なんだ……? 私の力が……ヤリマンに向かおうとしている!!」

 

「IBACの一人、アッティラはフン族の王だ。ソロモンの知識によれば、アッティラ[注釈 1](Attila、406年? - 453年)は、フン族とその諸侯の王。中世ドイツの『ニーベルンゲンの歌』などの叙事詩にはエツェル(Etzel)の名で登場する。現在のロシア・東欧・ドイツを結ぶ大帝国を築き上げ、西方世界の「大王」を自称した。ローマ帝政末期に広がっていたキリスト教の信者からは、「神の災い」や「神の鞭」、「大進撃(The Great Ride)」と言われ恐れられた。だがこの間の授業で先生が言ってたぜ。騎馬民族、それもアッティラは残忍で知られるフン族の中でも女好きを極め、毎晩老若男女と寝て悦楽の限りを尽くしてたってな。ところでこの”寝た”ってそういう意味でいいの? まあ合ってるだろ。なら人間でも同じだ、神と同じくヤリマンに権能が引き寄せられるんじゃないか?」

 

「…………!!」

 

人類の歴史において、ヤリマンとはむしろパワーを示すことが多い。

それほどの体力がある以上は子を成し、共同体を構成するのに役立つ人材だからだ。

神とは9割が好色であるが、人類は文化、遺伝子レベルでヤリマンに屈するようにできていると言えるだろう。

 

「ゼウスじゃなくてもきついのが宇佐美のハイパーセックスエナジーだ。アッティラの残忍さとスケベさは神に勝ると劣らないっても歴史の先生が言ってたぜ。なら俺らと同じく影響受けるはずだ。それもIBACは四文字だから、四分の一はヤリマンに行こうとしているはず!」

 

宇佐美のヤリマンハウスを壊さないように距離感を意識しつつ、「SHAZAM!」が市長に指をさした。

 

「ふっ……よかろう! 口先煽りパワーだ! ジャスティスリーグのメンバーともあろうものが、己のアークヴィランになって恥ずかしくないのか! 君のメンターと神々は泣いているぞ! 自分の心に尋ねてみるが良い。ゼウスとBLACK ADAMならどちらになりたいか!」

 

「そりゃブラックアダムの方がマシに決まってんだろバーカ!!」

 

ラリアットがシャザムの頬に入り、カウンターのストレートが市長に入った。

 

「笑止! ブラックアダムは人を殺している! そんな者になるのがマシなど……そうか君の正体は学生か! 親御さんが悲しむに違いない!」

 

「ゼウスの方がその1万倍は殺してんだろ!!!!」

 

「ヘラの殺害数も入れたら間違いないが、こいつは一本取られたでやぁー!!」

 

市長の言葉によるパワーも、シャザムの攻撃を少しも緩めはしない。

徐々にアッティラに連動し、他の王もヤリマンに引かれているのか、市長が纏うオーラが大きく乱れた。

 

「……私は娘に憧れられたかった。つまんねえ弱者男のチンポに跨るのが好きなど、パワー信者の娘にあるまじき行い! ヤリマンでも良い! 強いペニスを喰べてくれるなら!! でも娘が好きなのは弱々ペニス! パパは心配! 悪い虫にハマってしまうのでは? そんなパパの心配症は! 今すぐ政策にしてやろう」

 

「サ、サンケンブンリツ!!」

 

「パワァーーーー!!」

 

もはや自前の筋肉のみに依存し、シャザムに殴りかかった。

ここまで来ても市長のパワーは度を超えている。

超腕力に殴られたビリーの足が震えた。

市長が言ったように、外付けの力でも使いこなすにはパワーがいる。

 

技術がなければ、コントロールできなければ、余剰の制御ができずに消費が行き過ぎてしまう。

 

「揺らぐ権能は右腕だけに集中! トドメだ! 掟破りの片腕マッスルディスコース!」

 

邪悪なオーラを纏った市長の連打。

右の頬を打ち抜かれ、次に左の頬も打ち抜かれる。

 

パワー、パワー、パワー、この男にはそれしかない。

鼻の骨が折れて、変身した体なのに血で詰まった鼻がスムーズな呼吸を阻害する。

ここまで接近されては魔術を使うのは危険だ。

殴られた分だけ殴り返す。市長の口から歯が飛んでいく。

 

「でやぁー!」

 

片腕のラリアットがシャザムの首にかかり、下に一度沈んでから宙に浮かんだ。

そこに市長が空中追撃を仕掛ける。快音。

片腕でスチールパイプが魔術師の頭部を打たんとする。

目の前に鈍色の棒が走る中、シャザムが極大の稲妻を呼び寄せた。

「BLACK ADAM!!」

 

周囲に煙が立ち込め、爆風とともに視界を遮った。

 

「旗になれえ!!」

 

市長は妄執の鬼になってパイプを振るい、子供に戻ったビリーの頭上を空振った。

 

「でやぁ…………!?」

 

予想外の不発。力みに力みを入れて維持していた敵の意識が大きく揺らぐ。

背中から落ちたビリーの肺が空気を締め出し、激痛が背骨を走った。

 

「お前がパワーでも……」

 

急いで起き上がったビリー。

再起動した市長が襲いかかってきているのを確信。

それよりも、少年は後ろでダーラと、目を覚ましたフレディ、メアリーも固唾を呑んで観戦しているのがわかった。

 

「こっちは意地だけでやりきってやるぜ、SHAZAM」

 

甲高い音と光を引き裂いて、市長がパイプに全存在パワーを篭めてくる。

煙の中で、色も不確かな魔法の王者が仁王立ちする。

最強攻撃である変身時の雷を耐えられ、シャザムが深呼吸してまた呟いた。

 

「BLACK ADAM」

 

アダムより雷を委譲されたことでのみ可能となる、最強の二段階変身。

赤から黒になり、不意打ちを喰らったIBACからついに全権能が剥がれた。

 

「せめて男に会ってから言えよ!!」

 

シャザム/ブラックアダムのパンチが、市長を300mほど遠くへと突き飛ばす。

大の字になって天を仰ぐハガ市長はぴくりともしない。

最期はほとんど人間同然のボディだったはずだ。

まさかと思ったシャザムは、疲労困憊の身体を押して敵の方に歩み寄った。

 

「よぉ…………生きてるか、おっさん」

 

「それで私の心が変わると思うかね? パワーなき男に会ったところで」

 

「知らんけど、こんな街に生きてるなら何かしらあるだろ。じゃないと死んでるんじゃないの?」

 

「ふむ……」

 

上体を起こした市長は髭を撫でて思案に耽った。

 

「一理あるな」

 

激闘に敗北したばかりだというのに、まるでそのことを感じさせない振る舞い。

ボロボロになった身体のはずなのに、なんというタフさだ。

 

「よし! 私の負けだ! パワーの掟に従って君にアポコリプスの情報を全て渡そう。地下で何を創っていたのかもだ!」

 

「まあとりあえず警察に連行されといてくれよ」

 

パトカーのサイレンがようやく鳴ってきた。

市長とはいえ、これほどのことをしたら間違いなく刑務所だろう。

しばらくは出てこられないはずだ。

 

「それじゃあまた会おう」

 

市長がそう言って到着したパトカーに大人しく乗り込んだ。

やって来た警察官に事態をどう説明したものか。

そもそもどういうことなのかよく理解していないビリーは困った。

 

「大丈夫。ここは私がやるから」

 

変身したメアリーが引き継いで、状況説明と認識の共有を警察相手に始める。

いつも思うことだが、どうして数歳の違いであんなにハキハキ、大人と喋られるのだろうか。

 

「あれ、お尻警察いなくなった?」

 

助けてくれたヒーローにお礼を告げようとしたのだが、どうやらすぐにここを去ったようだ。

それと一緒に、あの絶世の美少女のことも思い出した。

国木のことを口実に会ってみようか。

 

しかし、少し緊張する。嘘だ、とても緊張する。

それにもしも下心と思われたらとても悲しい。

自分は他のような、美少女とのあわよくばを狙う下品な男とは違うのだ。

ただちょっと出来れば彼女になってくれるとすっごい嬉しいだけであり、それは真っ当なる誠実さの現れだった。

 

「これだ!」

 

名案が浮かんでスマホにあった連絡先に電話をかけた。

数回のコールの後に電話が取られ、意気揚々とビリーは喋りだす。

 

「よぉコートニー! 俺今The市にいるんだけどさあ。すっごい可愛い子を見つけて友達になりたいんだ。でも俺とフレディだけだと気まずいしお前も…………うん? キャメロン? って誰だっけ……あ、アイシクルjrか。なんでこの電話に? 改心したの? そりゃ良かったじゃん。それで付き合ってる。それは良かった。じゃあ……せっかくだし君も来る? 来ない。遠い。まあ……そうか。元カノに話すことじゃない。それも……そうか」

 

初めはたったひとつの冴えたやりかたに思えても、時間が経過するとそうでもなくなるもの。

元カノの今カレに滔々と元カレの在り方を説かれ、ビリーはひどく暗い気分になっていく。

 

「じゃあ……はい。今度機会があったら一緒に飯でも。うん。はい。バイバイ」

 

電話を切って大きく伸びをしたビリー。

 

「よう、どうした!」

 

「これから何処行く!?」

 

同じく変身したフレディとダーラがやって来て、ここに来た初心に立ち返った。

ダーラと合流したなら、もう変なことは不可能だ。

 

「マンに会いに行こうぜ!」

 

「やったー!」

 

ぴょんぴょんと音速で跳んで喜ぶダーラ。

フレディが興味深そうに、ビリーのコスチュームを指さして言った。

 

「やっぱ黒ってカッコいいよな」

 

「わかる。今の俺は暗黒の力に身を染めながらも、光の心を維持した最強になってるもん」

 

「ク〜〜〜〜ッ! 良いなあ!!」

 

「たまにお願いしてみようぜ」

 

「怒られそうじゃね」

 

「ジジイに比べたらなんだかんだで甘いだろあいつ」

 

「まあそりゃそうか」

 

ブラックアダムを適当におだてて頼み事ができるかどうかの相談をしながら、姉に面倒事を任せて三人は空へと飛んで行った。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。