DCユニバースvsプラスチック姉さん   作:スカンジナビア半島

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The Crisis vs スーパーマン:星座になれたら(上)

 

  男の子の作り方。

  それはカエルとカタツムリと仔犬のシッポを混ぜる。

  男の子って、それらで出来ている。

 

  女の子の作り方。

  お砂糖とスパイスと素敵なもの全てを混ぜる。

  女の子って、それらで出来ている。

 

「……えー、これって嫌な気分になります。

 あまりにも性別を画一的に見過ぎと言うか、在り様を固定しています」

 

「まあ昔の詩だからなあ」

 

「私に心はありませんが、

 これは記録する必要はないと思います」

 

「まあ文学史じゃなくてタイムマスターの記録だから

 ここは兄弟の感情を尊重するとして……

 そんならこれはどうよ?」

 

  スーパーマンの作り方。

  空から落ちて、愛情を受け取る。

  スーパーマンってそうやって出来る。

 

#######################

 

過去の記憶とは、大事な記憶とは、良いことばかりがくっついているものではない。

スーパーマン/クラーク・ケントがまだ就職して間もない頃。

 

メトロポリスにはまだ顔見知りもいなく、

ワンルームアパートと職場を往復する毎日。

青年は毎日一人で起きて朝食を取り、

バッグを背負って家に帰る。

バスも電車も使わない。

歩いて一時間くらいなら十分に徒歩圏内だ。

 

スモールヴィルは広かった。

ここは故郷よりさらにずっと広いのに、

何倍も孤独に感じられる。

インターンのクラークに任される仕事なんてそう多くはない。

 

すでに新進気鋭記者としてバリバリ働いているロイス・レーンの下に就かせてもらったのは光栄だが、

やっていることはひたすら誤字脱字のチェックと、文法ミスの修正。

 

記者になれば、真実を鋭く見抜いて

力では倒せない悪を倒し、

空を飛んでも救えない人たちの助けになれると思っていた。

子供っぽい理想だった。

 

現実はChromebookの拡張機能と似たようなことだけさせられている。

誤字脱字の正確さと速さだけ評価されて部署中の校正を担当させられたから。

 

評価の第一歩ではある。

これを真面目にやれば記事を任せてもらえるかもしれない。

そう考えると胸が弾んだが、

一週間もずっとそれをやっていては、だいぶ辛抱が効かなくなってきた。

両親に電話して愚痴ってみると

「今は耐える時」と言われた。正論だろう。

 

しかし、初めて、都会での一人暮らしと仕事をしている青年に

正論は耐えるのが困難なものだった。

まだ街が眠るには早く、

すれ違う人々は遊行目的か仕事中かもわからない。

 

「しばらく空を飛んでないなあ」

 

そう言ってクラークは上を見た。

正確には飛行はしている。

超聴力と視力によって犯罪の防止と人助けの必要があれば、

すぐに低空を高速飛行する毎日だ。

 

    助けて! 子どもがまだ!

 

聞こえた音を頼りに弾丸となって現場に急行する。

 

道行く人々の間を縫って僅かな突風を残し、

火に包まれた家屋に突入し、

二階の寝室に残された女の子を助けた。

 

助けた子どもをすぐに親御さんに預け、元の位置に戻った。

 

姿を見られても問題ない。

スーパーマンになっていたから。

 

初めて母が作ったコスチュームを見た時は

絶対にもう着ないと言ったものだ。

その通り、まだ着ていない。

その宣言は守られている。

 

青いジーンズに白シャツで真ん中にはSのエンブレム。

シャツだけは母のデザインを参考にした。

いつかはあのパジャマタイツを着る日が来るのだろうか。

そんなことを考える。

 

故郷より、自分にしかできないことを探して遠い土地に出てきたのに、

暇があれば両親と故郷のことを考えてしまう。

こんなことでは自分はいつまで経っても──

 

「あのインターン使えるな」

 

「スモールヴィルのこと?

 彼、無口だし、たまに話しても退屈だしねえ」

 

「あいつに延々と故郷のパイのレシピを語られた奴もいるぜ」

 

「あんなのがいたらこっちもカンザスになっちまう。気をつけたいよなあ」

 

「ていうか何であいつだけスーツで働いてんだよ。

 みんな私服なの見えねえのか」

 

超聴力が自然と知っている声を聴き取ってしまう。

普段なら意識して聞かないようにするのに。

一人で大都会を歩く、すれ違う人々が星よりも遠く感じられた。

 

「ちょっとあたし、抜けるわ!!

 とくダネが入った!! 明日の一面は決まりね!!」

 

小柄ながらも大きな足音と声。

聞き違えるはずがない。ロイス・レーンだ。

懐でスマホが振動し、すぐに出た。

 

「はい、クラークです!」

 

『出るの速っ!!

 今から取材だから付いて来なさい!!!』

 

「僕も行っていいんですか?」

 

『あなたインターンでしょ!

 ならもううちの記者同然よ!!』

 

絶対に違う。

このロイス・レーンという女性。

人名以外の全てを誤字し、

その上で書き上げる記事はどれも大好評。

 

なんか変なスーパーパワーを持っているとしか思えなかった。

クラークにとって未知の存在だった。

これが本当の天才というものなんだろう。

 

クラークが真面目に誤字脱字と文法ミスに目を凝らす横で、

めちゃくちゃな文章で何処までも高く飛んでいく。

近所にいたルーサー家のレックスという少年と同じ人種だった。

 

違いは、彼は父親に虐待され、妹を愛する偏屈で繊細な男だったが、

ロイスはどこまでも豪快で自分と真実を信じていることだった。

 

「とりあえずホワイトさんに相談してから……」

 

『はぁ!? ペリー・ホワイトのクソオヤジからの許可を待ってたら

 蝸牛が世界一周するっての!

 インターンの坊やは特ダネってのがいつもいつも爆速で取らないと

 すぐに他人の物になるのを知らないようね!』

 

「いえ、そうじゃなくて……段取りというものを……」

 

『ちょうどいいわ! そのペリーの車が路駐されてたからぶんどってきた!

 良い脚ゲットしたから迎えに行くわね!!』

 

「あんた気が狂ってるんですか!?」

 

『ながら運転はしないから通話切るけど。

 そっちに行くまでにこれだけは直して。

 “敬語をやめて”、“呼び捨てでいい”。

 いいこと!? 年功序列なんて欠伸のでるクソシステムに従ってたらあっという間に腰が曲がるわ!』

 

通話が切れ、嵐が止んだ。

これまでの人生で火事・強盗・ヴィラン犯罪・噴火・地震・飛行機事故・隕石を止めてきたが、

彼女ほど自分を振り回し、圧倒する女性を初めて見た。

あの小さな体の何処にあれほどのパワーが眠っているのか。

 

「乗りなぁ!」

 

物思いに沈むよりもロイスの大声がやって来た。

内側から助手席のドアを蹴り開けて、

手招きをしている。

あれは上司の車なのに……どうして一切の迷いがないんだ……。

 

気が触れているとしか思えない。

だが、その光はクラークにはまりに未知で、強力だった。

これまでに一度も会ったことがない鮮烈な人種だった。

パワーとムチャの権化だった。

 

彼女の背中を追いかけたいと、

クラークはサッカー少年がセリエAの選手に憧れるような気持ちを抱いた。

上司の車を盗んでインターン相手にルール無視の取材同行を要請するクレイジー。

ようやく見つけた一番星へと、夢見がちな青年の脚は勝手に動いた。

 

「OK、ロイス!!」

 

この日、クラークは初めて法律を破って

牢屋に入ることになる。

ペリーが起訴を取り下げるまでロイスと勾留されたのだ。

もう二度としない、恥ずべき行いだと彼は後に強く自分に言い聞かせた。

 

クラーク・ケントは本当の意味でメトロポリスに来たのだ。

眩しい小さな星を追いかけて。

 

################################

 

マルチバースは広大で無限だ。

かつては52に限定されていたものも、

今や無限の数の宇宙が広がっている。

 

そうすると、多くのスーパーマンがいると知ることになる。

多種多様なイデオロギー、アイデンティティ、パーソナリティの持ち主がいて、

その誰もが世界に対してなんらかのことを成そうとしている。

 

マルチバースのスーパーマン達を一箇所に集め、

情報交換と交流をするために設立した議事堂、

名をスーパーマン評議会と言う。

 

「僕の宇宙の太陽が黒くなった。

 アポコリプスがなにかしているらしい、

 反生命方程式関連の事件かもしれない。みんなも気をつけてくれ」

 

そう警告し、集まりは終わった。

 

ホールでの発表が終わり、

スーパーマンは食堂に来た。

ここではスーパーマンが持ち回り制で料理人係を担当している。

 

今日は巨大な喋るウサギのスーパーマン、

キャプテンキャロットが担当だ。

 

山盛りのケーキとキャンディをトレイに載せ、

何処に座るかと空いている席を探す。

そうしていると、いつものようにうず高く食器が積み重なった一角があった。

 

「ここ座っていい?」

 

食器に顔を突っ込んで食事に夢中なスーパーマンが頷く。

スーパーマンと言っても全員がタイツにマントなわけではない。

このスーパーマンは武術家の道着を愛用していた。

 

向かいの椅子に座り、ケーキを食べた。

スーパーマンの味覚とスキルが生み出した万華鏡の如き甘味。

これほど美味しいスイーツは母のアップルパイとパンケーキ以外に食べたことが……

 

アルフレッドのワッフルも美味しかったな。クラークは思い直した。

 

「ぷはぁ! 相変わらずここの飯はうめーな。

 オッス、クラーク。お前も食え食え!」

 

「僕には僕の食べるペースがあるんだよ、悟空」

 

そう言って静かにコーヒーに口をつける。

個人的にはこちらはもう少し甘さ抑えめが良かった。

孫悟空。ドラゴンボールを使っての死者復活システムが普及したアースのスーパーマンだ。

 

他のスーパーマンと違って強い正義感は見えないが、

かといって正義感と無縁なわけではない。

何より現役農家のスーパーマンというのは

希少な存在であり、クラークにも馴染みやすかった。

まあ多くのスーパーマンはどうしてか農家育ちなのだが。

 

「食い終わったらどうすんだ?

 また組手すっか」

 

「もういいよ。

 トレーニングルームが全壊して修理が大変だったからね」

 

「また直せばいいだろ。オラも手伝うぞ」

 

「アハハ。君がまた新しい変身を覚えたらにしようか」

 

そう言って断ると悟空は気分を害した様子もなくお茶を飲んだ。

お茶もおそらくは甘いのだが、彼は平気なのだろうか。

キャプテンキャロット、トゥーン世界のスーパーマンは

何もかもがお菓子のように甘いのが難点だった。

 

「座っていい?」

 

「もちろんだよ、ビリー」

 

シャザムが隣に座った。

こちらのアースのシャザムではない。

シャザムがスーパーマンの世界のシャザムだ。

わかりにくいようだが、オリジンはこちらのアースのビリーと同じ。

 

違いがあるとすれば目の前のビリーは

クラークのビリーよりも素直で真面目な性格をし、

子どもながらもラジオボーイとして働いているということ。

それと姉弟がメアリーとフレディのみということだ。

 

「相変わらずよく食べるねえ、悟空さん。

 クラークがあんまり多くを食べてるのは見たことないかも」

 

「人並みに食べるくらいかな」

 

「僕は──SHAZAM!

 もっと食べろってよく言われる」 

 

変身を解いて少年に戻ったビリーが

フォークでパスタをまとめた。

 

「おう、じゃあもっと食っとけ。

 オラのまだあるから。

 オラの息子も子供の頃からそりゃあもうガツガツ食ってた」

 

「えー。子どもは何をされてるんですか?」

 

「学者やってる。オラはよくわかんねえから想像だけど、

 勉強するにも何するにも飯食って力つけた方がいいんじゃねえかな」

 

「そう言えばお子さん、もう成人してるんだったね」

 

「孫もいるぞ」

 

「息子さん、学者してるんですか!?」

 

ビリーが驚いて興味津々に訊いた。

スーパーマンの中では

悟空は間違いなく最年長にあたる。

とてもそうは見えない若々しさだが。

 

そうか、ビリーには彼に孫がいることより、

息子が学者をやっていることの方が衝撃的なんだなとクラークは思った。

ビリーが先に驚かなかったら、孫持ちのスーパーマンに驚いていた。

 

「凄えよな。ビリーよりもっと小さい頃から、オラよりずっと勉強できてたぞ」

 

「家ではどんな勉強してたんですか?

 進学する時の面接とかも知りたいです」

 

「悪い。オラ、悟飯が進学する時は死んでたから……。

 知りたいことあったらメモしてくれ。

 あいつに聞いとくから、次会った時に教える」

 

「ありがとうございます!」

 

本当に手帳を出してビリーが質問したいことを書き始めた。

今の時代に手帳を持ち歩く子ども……

いつ会っても実に大人びていて感心する。

それにしても息子の就職……。

 

孫ができるのは流石に遠い話だが、

息子の独り立ちはクラークにとっても近い未来だ。

ジョンがどういう大人になるのか。

想像しようとしても中々に難しい。

 

「君は進学とか就職になにか言った?」

 

「好きなもんやれって言ったくらいだな。

 だってそのために修行して世界を守ったんだしな。

 やりたくないことやるなんてもったいねえだろ」

 

「子どもをそんなに信用できるなんてスゴイね」

 

「だってオラよりずっと頭いいもん。

 物心ついた時から学者を目指してたくらいだ」

 

そう話しているとガーリックと醤油の甘しょっぱい匂いがしてきた。

 

この食堂の今日のメニューに最も似つかわしくないもの。

豚鼻マスクの王も来たのだ。

 

「やあやあみんな!

 私を待って首を長くしてたじゃろ!

 ん〜〜ビリーも勉強頑張ってるか?」

 

「ちょっと、やめて! 醤油臭くなる!」

 

出会い頭にビリーの額に接吻の嵐を浴びせようとする。

あくまでフリだけだが、

少年は本気で身を捩って逃げようとした。

彼はキン肉マン、本名はキン肉スグル。

キン肉星の大王だ。

 

自分は絶対に大統領にも王にもなれないが

中には王になったスーパーマンもいる。

アメリカ大統領になったカルヴィン・エリスと

キン肉星の大王になったキン肉スグルが代表的だ。

 

「はいこれお土産。養老乃瀧の牛丼ね。

 いっぱい持ってきたから家族で食べてちょ」

 

「ありがとう」

 

山のように積み重ねられた牛丼の山から、

家族の分を受け取る。

 

そうだ息子の彼氏の分も持っていこうとクラークは思った。

こうやって父親から子どもの恋人に歩み寄ると、できるパパって感じがするからだ。

 

お土産を受け取った時、

クラークの通信機が鳴った、

バットマンからだった。

 

########

 

怪異とは土着のものだ。

 

特にThe市は、The市という極めて特殊な環境と、

魔界と深海、神界が妥協し合うことなく混ざり合っていることから、

土地がバグを怪異として排出せざるを得ない。

河童のおっちゃんもその一種だ。

光があれば闇もあるのが世の常。

怪異には究極進化した河童もいれば、

世界を戯れにひっくり返すものもいた。

 

それがひっくり返しババアだ。

The高校七不思議において不動の一角に君臨していたそれは、

万物を反転させる権能を持っている。

 

「お前さんが呼んだのかえ?」

 

姉さんことイロエ・ゲンマに屠られた婆さんが復活した。

ババア達が立っているのは

テラが作っていた黒い太陽の上。

 

ひっくり返しババアを復活させたのは

暗黒を極めしアポコリプスの王、ダークサイド。

ルーサーとデスストロークに依頼をし、

ひっくり返しババアの灰を回収させていた。

 

「反転の意義とはなんだ?」

 

「常識の転換じゃよ。車を、銀行をひっくり返すと、

 人は自分の正義を維持できないものじゃよ。

 そして終わらぬ争い、破綻する年金問題、少子高齢社会を社会に訴えられるのじゃ」

 

「やはり怪異か。目的が手段にまるで釣り合わん。

 このダークサイドが本当の反転を見せてやろう」

 

「なるほど……過激化する配信者問題から切り込むわけじゃな?」

 

「このダークサイドをスーパーマンにしろ。

 ひっくり返しババア。いや、反生命方程式よ」

 

########

 

ウォッチタワーはジャスティスリーグの衛星基地だ。

バットマン謹製のIDを持つ者はいつでも

ここへワープすることができる。

 

バットマンに呼ばれて来たスーパーマンだったが、

来るように言われた管制室にはバットマンの姿がなかった。

席を外しているのだろうか。

 

しかし、バットマンがこちらの到着タイミングを確定予測していないわけがない。

秒単位でスーパーマンがいつウォッチタワーに来るかも掴んでいるはず。

 

どうやってかは知らない。何故ならバットマンだからだ。

 

「バットマン。ブルース。いないのかい?」

 

呼んでみたが返事はない。

代わりにブラック・アウトしていた壁一面のスクリーンに電源がついた。

 

『クライシスが始まった』

 

「やはりそうなのか?」

 

突如として空に浮かんだ太陽。

スーパーマン評議会から帰ってきても変化は見えないが、

それが不気味な沈黙だった。

バットマンはすでに事態の解明に動いていたのだろう。

探偵の中の探偵は伊達じゃない。

自慢の親友だ。

 

『反生命方程式を使われた。

 The市に向かい、老婆の姿をした反生命方程式を倒せ』

 

「The市。The市か……」

 

宇宙二の暗黒都市。

全ての悪徳と超常が集う坩堝。

スーパーマンには不向きな街だった。

 

彼はカンザスの農家の子であることから、

ドゥーム・パトロールやジャスティスリーグ・インターナショナル系の事件は

てんで不得手だった。

 

なので、対処はもっぱら他のヒーローに任せていた。

地に足ついた凡人の感性で

どれだけ彼らのノリについていけるだろうか。

 

「君は来ないのかい?」

 

『私はできない。

 これから私は赤ちゃんになりティーン・タイタンズに加入し、

 デスストローク達と雌雄を決する必要がある』

 

「…………それは何かの呪文か?」

 

「I'm Batman.」

 

バットマンが深く重々しく頷いた.

相変わらず彼の言うことは度々こちらの理解を超える。

流石と感服せざるをえない。

 

『説明の暇はないが、謝罪だけはしておく。

 これから君達スーパーマンは世界の敵になる。

 敵は恐らくは新種のクリプトナイトを使ってくるだろう。

 私の責任だ。すまなかった』

 

バットマンが謝罪。

聞き慣れない言葉だ。

ジョーカーの更生の方が馴染深い。

 

「まだ未知のクリプトナイトがあったのか……?」

 

『私が作ったものだ。

 その名も……いや、先に君の弱点を見つけた。

 私は当然だが、長年に渡る君とロイスの夜の営みを記録してきた』

 

言われるまでもない。

全てのヒーローは愛する人との営みもバットマンに盗撮されている。

それを覚悟し、受け入れなければならない。

 

「君は常にみんなの寛容さに感謝すべきだぞ……」

 

『そして私は発見した。

 ロイスとの夜が燃え上がると、君の身体には精神面を超えた疲労があった。

 私はそのシステムを研究し、探求した。

 君の弱点は、愛。それもセックスだ。超性交力場(ハイパーセックスエナジー)は

 クリプトン星人だろうと変わらず憔悴させる』

 

「そうか……」

 

『安心してくれ。私はもう信頼できるヒーローの盗撮も盗聴もしていない。

 私は幼く、ベイビーで、他者を信ずる愛を持ちきれなかったのだ。

 本当にすまなかった……許してくれ……』

 

「ブルース……許すことなんて何も……」

 

『君とロイスのセックスの記録と研究データは全てアポコリプスに奪われ、

 新兵器セックスクリプトナイト精製に使われてしまった……これも許してくれ……償いようがない』

 

「許さんぞ、貴様。このクソ野郎が.

 今すぐここに姿を見せろ。

 首根っこ引っこ抜いてやる」

 

頭に血が上りすぎて淡々と罵倒してしまった。

言い過ぎ……とは思えないが、恥ずべき行いだ。

こんなことをしては妻子と両親に申し訳が立たないとクラークは思った。

 

深呼吸し、この男をぶち殺したい欲求を鎮めた。

だがバットマンはスーパーマンにそう言われ、救われたように微笑んだ。

 

『それでいい。私の犯した傲慢の罪、心からオギャっていたことへの罰に相応しい……』

 

「何を一人で許された気になっているんだ、おい。

 “バットマン”するのもいい加減にしろよ」

 

『君になら殺されてもいいが……もう時間切れだ。

 他のスーパーマンと合流するんだ』

 

そう言ってバットマンは通信を切った。

罵りたいことは山ほどあるが、

またより強く深呼吸をして考える。

 

彼はバットマンだ。人道に背いても戦略に誤りはない。

彼の言う通りにしよう。

他のスーパーマンと合流、

それからThe市に向かってダークサイドと対決だ。

 

「とにかく探り探りやるしかないか」

 

「何をだって?」

 

その瞬間、スーパーマンの視界の端で真紅の流星が走った。

正体に気づく前に、全身に数千の打撃が加えられた。

フラッシュがスーパーマンに襲いかかったのだ。

 

「な、何故だ、フラッシュ……?」

 

遅れてウォッチタワー中を真っ赤な警戒灯とサイレンがのろまに歩き回る。

侵入者を探知した時のものだ。

いったいどういうことか。

 

「落ち着いてくれ、戦う相手を間違えている」

 

「誰が間違えてるって? ダークサイド!」

 

「違う。僕はダークサイドじゃ……」

 

洗脳を疑ったが、バットマンの話を思い出した。

スーパーマンがダークサイドになるのが

反生命方程式を用いたクライシスなのだろうか。

 

その意味、狙いがわからない。

 

翠光のチェーンソーが肩に刺さった。

掌底でとっさに破壊する。

グリーンランタンのソリッドライトか。

 

この翠の光はクリプトナイトと似た成分がある。

チェーンソーの刃を喰らったのは一瞬だが、

それでも消耗は大きい。

ダメージの回復が遅い。

 

「何がしたくて、敵地真っ只中に現れたのか知らねえが」

 

管制室の入口を戦闘機の機首が鎮座する。

 

「無事に帰られるとは思わないでほしい」

 

こちらの逃走経路を尽くフラッシュが潰す。

この二人を一度に相手取るのはマズイ。

親友でもあるフラッシュとグリーンランタンは

ブレイブ&ボールド(勇者の中の勇者)の代表例だ。

無職と公務員という正反対の二人だが、

ヒーローとしても親友としても相性は抜群である。

 

「待つんだ、バリー、ハル。

 僕だ。君達の友人のクラークだ」

 

「何を意味わかんねえこと言ってんだ」

 

グリーンランタンが機銃を掃射した。

管制室中を翠の弾嵐が吹き荒れる。

やむを得ない。スーパーマンは両腕を大きく開き、

それから全力で手を打ち鳴らした。

 

衝撃波がフラッシュを飛ばし、耐性を整えられる前にウォッチタワーの壁を壊して宇宙に逃げた。

グリーンランタンなら追いつかれない。

フラッシュは宇宙空間で走ることはできない。

 

「逃さないよ」

 

だがフラッシュとグリーンランタン'の連携は完璧だ。

翠の道を、翠の宇宙服に身を包んだフラッシュが走ってくる。

最悪だ. これでは絶対に追いつかれる。

 

飛行速度を上げる前に、フラッシュがスピードフォースの稲妻を推進力に跳躍した。

 

これはやりたくなかったが仕方がない。

ウォッチタワーの壁の破片を両手で磨り潰し、

極小の破片にし、フラッシュが来る方に振り分けた。

 

光速でやって来る人体に宇宙塵が刺さった。

フラッシュならすぐに回復するだろう。

 

「ごめん、バリ)!」

 

心苦しいが、仕方がない.

スーパーマンは一目散に地球に飛び立った.

 

############

 

大気圏を通り抜け、

摩擦熱に全身が燃え盛る。

火の塊になって地上に落ちた。

 

地球の領域に踏み入った瞬間から、

地上からも周囲からも謎の光線に囲まれた。

赤色太陽光線やクリプトナイト光線ではない。

スーパーマン/クラーク・ケントが知らない技術、力が混じっていた。

 

避けられず、どうにかThe市のある国に墜落した。

基本は治安が悪いわけではない国。

 

しかし、焼かれた身体で起き上がると

周囲にはピースメーカーの軍があった。

 

平和のためならどれだけ人を殺しても良いという狂った自警団だ。

元は一人しかいないキャラだったのが、

いつのまにか軍になっていた。

 

「ダークサイドだ、撃て!!」

 

「人違いだ!!」

 

嫌な予感がして赤いレーザーを避けた。

観察してわかる. 掠めても命取りだ。

あれは赤い太陽の光を再現している。

 

すぐにこの場から離れなければ、と思うが

そうしている間にも次に何が起きるかわかったものではない。

まず、今の状況を把握したい。

 

「教えてくれ! 君達はなんで僕を狙うんだ」

 

「それは貴様がスーパーマンの宿敵だからだ」

 

「だから、僕がスーパーマン……」

 

「さっそくスーパーマンが来てくださったぞ!」

 

無数の罅割れが走った岩肌。

凄まじい巨体. 今にも消滅を齎さんと発光する双眸。

剥き出しの太腿は切り詰めた腰布の下で存在感を主張している。

ダークサイドが来た。

 

「ダークサイド!!」

 

「それはお前だ」

 

「何を言っているんだ……!」

 

「全ての宇宙はスーパーマンより始まっている。

 それを反転させた。

 今、宇宙はこの我、Uxas、ダークサイドを源流としている」

 

たまに神々だの宇宙の頂点にして中心に座す存在が述べる類のものだ。

クラークにはあまりよく理解できない領域の話だ。

 

宇宙の始まりが自分と言われても、

どう考えても宇宙の方が長く生きている。

そんなことがあるわけない。

人間とスピードフォースのリンクがバリー・アレンから始まったのは理解できる。

 

何故なら、スピードスターは時間の軛を超えるからだ。

だがスーパーマンにそんな力はない。

 

「信じられないなら体感するがいい。

 このスーパーマンの力を」

 

「だから僕がスーパーマンだ!」

 

ダークサイドの巨太の大腕が迫ってきた。

眼前いっぱいに迫った拳を、

スーパーマンはすんでで避け、そのまま殴った。

攻撃が入り、ダークサイドはよろけた。

 

いつもよりも手応えがない。

通常ならもっと攻撃が通じるかもわからないはずだ。

 

「やるな……ならば次だ」

 

次の攻撃はまるで別物だ。

威力も速さも段違いになっている。

両腕を交差して受け止めた。

ギリギリのところで辛くも耐えた。

 

「まだだ!」

 

殴り返す。

ダークサイドは苦鳴を漏らし、血を吐いた。

三度目の攻撃はスーパーマンの意識を刈り取った。

攻撃を喰らえば喰らうほど強くなっているとしか思えない。

倒れるスーパーマンに、ダークサイドが足を上げ、振り下ろした。

 

無数の筋繊維が密集した太腿は、

踏みつけるだけで尋常ならざる破壊力を生み出すだろう。

スーパーマンの顔面に足が落とされれば、

それで彼の頭部は弾けるだろう。

 

気絶した彼に防ぐ術はない。

周囲に彼の味方になる者もいない。

 

「クラーク!」

 

瞬間移動でもされない限り。

孫悟空が虚空から現れ、ダークサイドを蹴撃した。

脇腹に一撃をもらい、身体をくの字に折り曲げたダークサイドは構わず、

孫悟空はクラークを抱き上げ、退いた。

 

「逃げていいのか?」

 

両目を真紅に奔流させんと蓄えた。

孫悟空はダークサイドとの交戦経験がない。

だが、何を警戒すべきかは聞いていた。

Ωの力、触れた者を瞬時に分解する幾何。

それは決して避けられない角度を数式で導き出すことで放たれると言う。

 

「この周囲1kmの人間、動物、植物を消し切るぞ」

 

今いるところは国の首都付近。

たかが1km内を虐殺されるだけで相当数が死ぬだろう。

悟空は一瞬躊躇い、冷静に返した。

 

「好きにしろ。オラの世界にはドラゴンボールってのがある。

 どれだけ殺そうと生き返らせられる」

 

「なら試すか?」

 

ダークサイドの双眸から赤い光線が放たれる。

右目と左目で二条の光が

複雑な幾何を描いて奔る。

数学者が目にすれば卒倒する複雑な神学的構図かつ、

情熱的なエネルギーが籠められていた。

 

「まっ、待てっ!!」

 

血相を変えて静止しようとする悟空の横を

真紅の道筋が奪い、一つ一つ丁寧に生命を消していく。

弾けも、貫かれもしない。

これに被弾したものは分解して消えるのだ。

全身を構築していた粒子の繋ぎ目が解けることで。

 

追いかけるにも逃げるならともかく、

超高度な数学的軌道を辿るそれの進行についていくのは至難の業。

 

瞬間移動するには時間が足りない。

 

そしてΩの赤線は生命は人間も鳥も猫も虫も魚も問わず消していこうとしている。

庇おうにも小さい気は探知しきれず、瞬間移動の座標に設定できない。

 

「────破壊!!」

 

超サイヤ人ブルーになり、

いちかばちかでΩの赤線に神の業を振るった。

 

先端ではなく光筋の半ばにかけたが、

なんとか通用した. 先端まで破壊が行き届き、Ωが溶けた。

 

同じことをもう片方にもやる. 破壊できた。

しかし、破壊したのはあのダークサイドの権能が極北。

悟空の全身に脂汗が浮かぶ。

これだけで倒れかねないくらいに、

全身がマグマに包まれたかのように熱く、重い。

 

「貴様…………!」

 

「そうだ. お前たちの世界は一つになっている。

 ここにドラゴンボールがあるか? 同じく通用するか?

 わかるはずもない。悟ったふりはやめろ、サイヤ人。

  お前に神仙の振る舞いはできん」

 

「わかった! 相手をしてやる。

 場所を変えるぞ。

 ここは人が多すぎる」

 

「断る。止めてみるがいい」

 

再度、目から赤い光条が通る。

破壊の再行使には疲れが大きい。

次も上手くいくか……歯噛みした悟空。

 

だがダークサイドがΩで生命を消していく前に、

大悪神の体躯が宙に浮かんできれいなアーチを描いた。

教本に載っているかのように美麗なバックドロップだ。

 

「屁の突っ張りはいらんですよ!」

 

頭頂部がアスファルトに埋まったダークサイドが意識を明滅させた。

キン肉スグルがギリギリで第二波を食い止めた。

 

「大丈夫か、悟空」

 

「サンキュ、助かった」

 

ダークサイドが静かに起き上がる。

スーパーマン、孫悟空、キン肉マンと立て続けに攻撃され、

どれもにダメージを受けても負傷を引きずっている様子はない。

 

それどころか状況が劣勢になったはずなのに

歓迎している節さえ見えた。

 

「来い、リングよ」

 

そう言うと、正義の衛星基地であるはずのウォッチタワーより

ダークサイドの命に応じてスクウェアのリングが発射された。

 

轟音と地響きを持って設置された闘場。

膝の力も使うことなくダークサイドはリングに飛び乗った。

 

「上がれい. 二人まとめてな」

 

「手招きされるまでもないわい!」

 

「やってやるから他には手を出すんじゃねえぞ!」

 

キン肉マン・孫悟空VSダークサイドの変則タッグマッチ。

マルチバース越境タッグ。

正気の持ち主なら絶対に戦いを挑もうとさえ考えない二人だ。

ダークサイドに躊躇いも逃げも一切見えない。

後手を組んで攻撃を待った。

 

アポコリプスの王が第一の信奉者であるデサード

が実況席につき、マイクを手にした。

 

「さあここに始まる世紀の大決戦!

 我らがスーパーマンこと、ダークサイド様に歯向かうは

 筋肉男と粗野な猿のタッグ、キング・オブ・ボーイズ!」

 

マルチバース有数の戦いの審判を務めるのは

秩序の大公ドクター・フェイト。

 

普段はヒーローとして活動しているが、

秩序を狂的に求めるせいで何度もヴィラン側につき

地球滅亡に加担してきた問題児の魔術師ヒーローだ。

 

古代エジプトで活躍した

歴史上最強の魔術師ナブゥの人格と力が封印された黄金仮面。

 

装着者は人格がナブゥに汚染され、狂い、

じきに秩序に狂った凶人に堕ちる。

それが最高の魔術師ヒーロー、ドクター・フェイトの運命であり、

彼は既に狂っていた。

 

彼がダークサイド側についたということは、

それはすなわち今の世界の秩序はダークサイド側に傾いているということでもある。

 

「さあ、ゴングを鳴らせ」

 

「それには及ばない」

 

「ぐおっ!?」

 

掟破りにドクター・フェイトが審判の立場から

キン肉マンにアンクレットを突き刺した。

黄金に発光する魔術製のそれは、

この戦いが秩序の名のもとに八百長とイカサマに満ちた戦いになることを示していた。

 

「スグル!!」

「余計なことをするな、ナブゥ。

 審判に徹しろ」

 

「いいだろう」

 

「おおっと!

 正義の心が先走ったDr.フェイトを

 ダークサイド様が窘める!

 公正なる御心は偉大すぎだぁ!!」

 

指を鳴らすとスグルを突き刺し、キャンバスに縫い付けていたアンクレットが消失した。

鋼鉄の皮膚とたわわに弾けるスプリングめいたバネを持つキン肉マン。

その体には傷一つなかった。

ドクター・フェイトの魔術の実力が表れていた。

 

「ならば代わりにリングを飾り付けよう」

 

ロープを張ったリングを不可視のドームが覆う。

通りがかったカラスがぶつかり、

骨も残さずに消え去った。

外からの干渉は一切認めないのが分かる。

 

同時にデサードがゴングを鳴らした。

 

「ここは私に任せろ。

 ウォームアップは万全じゃい!」

 

キン肉マンがダークサイドに右フックからのストレートを出した。

ダークサイドは避けずに受け止める。

一瞬、硬度10のダイアモンドボディの持ち主かと

スグルは疑ったがそれほどの硬さはないとわかったり

 

殴ればダメージが入る。

それは確かだとわかった。

 

「なんだ全然大したことないではないか。

 ダークサイドも超人プロレスは初心者ということかー!」

 

「おっとキン肉マンが早速のラッシュだあ!

 ダークサイド様は抵抗せずにダメージを受けている〜〜!」

 

「そんな、ダークサイド様が……」

 

「無抵抗のヒーローになんてことしやがる!

 恥ずかしくねえのか悪党どもめ!」

 

「ダークサイドさまぁ!

 その豚鼻を引きちぎってこっちに投げてくださあい!!」

 

リングがあれば観客は自然と現れるもの。

ダークサイドのΩによる虐殺が起きた後だろうとも

彼を崇拝する人々が集合し、対戦相手にブーイングの嵐を投げつける。

 

「やめろ!

 こいつがあれだけ殺したのを見なかったのか!!」

 

「わけわかんねえこと言ってんじゃねえ!!」

 

「ダークサイド様はいつでも私達を守ってくださるのよ」

 

「テメエら悪行超人はただちに瞬殺されやがれ!!

 とびっきり無惨になあああああ!」

 

「なんだこいつら。人が死ぬのを楽しみにしてんのか」

 

超人プロレスの空気感に慣れない悟空が

過激な物言いに顔をしかめた。

 

キン肉マンは一切気にせずに戦いに集中している。

彼にしてみればこれくらいのブーイングはそよ風より柔らかい。

 

孫悟空とキン肉マン。

二人の出場大会の民度の差はあまりに大きかった。

悟空のアースはスーパーマンのいる世界の中では

とりわけ人々の人格レベルが高い傾向にあった。

 

少なくとも、スーパーマンやキン肉マンのいるアースよりは。

 

「さあキン肉マンの猛攻は止まらない。

 ダークサイド様はステップしても躱せずに攻撃を受けている!」

 

「なぜこのようなことをする」

 

「答えると思うか」

 

無抵抗に殴られる敵に不審感を抱いたスグルが尋ねた。

暗黒惑星アポコリプスの首魁の恐ろしさは

スーパーマン評議会で共有されている。

 

それにしては、ダークサイドには

スグルが戦ってきた悪行超人の暴力性が見えない。

 

「私は誰とでもリングで組み合えばわかり合えると思っている。

 ダークサイドサマとやらでも例外ではないわい!」

 

「家業だ」

 

「かっ、なんだと?」

 

なんということもなく、ダークサイドは告げた。

 

「アポコリプスは悪を成して繁栄してきた。

 故にこれからも悪を成す。

 それがアポコリプスであり、我が家門だからだ」

 

「べ、べつの生き方を考えるというのは……

 みんなと仲良くするともっと豊かに暮らせますよ?」

 

「弱者を虐げ、肉親同志で殺し合ってきた星の王座に就いてなにが共存だ」

 

ダークサイドにキン肉星の実態を指摘され、

スグルは口をつぐんだ。

この悪神。孫悟空のこともキン肉マンのことも熟知している。

 

「今や反生命方程式も発動した。

 これがあれば未来永劫、アポコリプスに歯向かう者はいなくなるだろう」

 

初めてダークサイドが蹴りを放った。

腹部に強大な一撃が入り、

豚鼻マスクが苦痛に歪んだ。

 

「悪を成すのに過去が、思想があると思ったか?

 残念だったな. これは政治方針、国家の運営だ。

 共存・共栄で栄えるならそうすればいいだろう。否定もせん。

 最後に覇権を握るのはこのダークサイドであるだけよ」

 

キン肉マンは慄然とした。

せめて野心や大願があるのだと思っていた。

だが、ダークサイドの言葉には

悪になった悲哀もヤケもない。

 

淡々と事業展開を語る共同体の長たる姿が見えた。

 

「……私は諦めんぞ!」

 

キン肉マンが低空タックルをした。

そこをダークサイドが足払いで牽制する。

 

「さあ、このままフェイバリットに持ち込むつもりか──」

 

ミドルキックで距離を取り、助走をつけ、本命の始動に切り替えようとした。

そこでキン肉マンがスリップを起こした。

大きくバランスを崩して転倒したところに、

ダークサイドが下段Ωを放つ。

足元で縦横無尽に絶対破壊の光が踊りのたくった。

 

「ぬわぁっ!?」

 

辛くも避けるキン肉マン.

しかし、ダークサイドはその頭脳によって

相手の動きを予測しきることができる。

背後で数十の黄金三角形を描いて標的に迫る。

 

「ぬわわっ」

 

「ロープ際に行け! そこで避けるんだ!」

 

言われた通りにリングの端に転がりながら逃げる。

 

「ひえぇぇぇ!」

 

みっともない悲鳴をあげて丸まったことで、

赫い光の筋が頭上を通った。

ロープに密接する体で構築されたドームに直撃して、

Ωの光が砕けた。

ダークサイドは巨悪であり邪悪ではあるが、無法者ではない。

有史最高の数学者である彼は、

ルールとリングの調和を愛好し、

フェイトの定めたリングを壊さないようにしていた。

 

「ふう……ハッ、ハハハ。

 対処法がわかったらもうお手のもんじゃ!」

 

「違うぞ。よく考えろ。

 いつもよりすごく疲れてるんじゃねえか?」

 

悟空に指摘されて気付いた。

キン肉マンの全身が冷や汗をかいている。

攻撃一辺倒のはずなのに、だ。

 

スグルも悟空も戦ったことがない類の相手。

底知れなさにキン肉マンも生唾を飲み込んだ。

 

「オラも加勢する。

 二人で一気に攻めるぞ。

 あいつは底が知れねえ」

 

「ほぅ。このダークサイドと一対一を演じる名誉を求めないか」

 

「悪く思うんじゃねえぞ。

 おめぇは危険過ぎる」

 

悟空の髪が銀色に変じ、

常時纏っていた強い気が極度の指向性に定まる。

身勝手の極意。 武術の極みだ。

 

「同時に来い」

 

「言われなくても」

ダークサイドの背後に悟空が瞬時に移動する.

一陣の風が吹いて数百の打撃が入った.

そのどれもが急所に多種多様な角度とタイミングで刺さっている。

 

ダークサイドの膝がキャンバスについた。

スグルが追い打ちに火事場のメガトンパンチを突き刺す。

悟空が最初から本気を出しているのを察し、

スグルも火事場のクソ力を発動した。

 

「ぐううっ!」

 

肩を抑えて攻撃をしたはずのスグルが苦しむ.

 

「スグル!!」

 

「気をつけろ、悟空。この男は攻撃の沸点をずらす!」

 

打撃は強力になればなるほど

距離とエネルギーの流れが重要になるもの。

最大効率の打撃、その衝撃が解放されるには

スーパーコンピューターでも計算しきれない計算が絡む。

そしてダークサイドはスパコンよりも遥かに速く、

複雑で膨大な数式を処理できる。

この神なら攻撃する側がダメージを受ける被弾の仕方も計算できるだろう。

 

「お前達も心当たりがあるはずだ。

 訓練も経験もないが、恐るべき強さを持つ者を。

 それは、知性を持っていなかったか?」

 

スグルも悟空もそれぞれの智慧者を思い浮かべた.

両者がイメージしている者は

どちらも恐るべき存在だった。

 

「このダークサイドはその最果てに立つ者だ。

 そしてこちらはお前たちのことを全て把握している. 何故かわかるか。

 ドラゴンボールとキン肉マンを全巻読んでいるからだ。 続編も含めてな。

 おっとここで懺悔をしよう。ゲームは数が多いしボリュームもあるから追いきれてはいない」

 

「ダークサイド様は“知らない”ことさえ容易く認めてみせたー!!」

 

「かめはめ波!」

 

瞬間移動をし、相手の真横から

ゼロ距離で光弾を浴びせた。

知っていても対処できないものの代表例だ。

瞬間移動と必殺技の融合。

 

「ぐっ!」

 

ダークサイドが打ち上げられ、

飛行して追撃しようとするも、

かめはめ波と同時に撃たれたΩエフェクトに悟空側が追い立てられた。

無数の黄金比率と幾何でなぞられる致死の赫線。

 

「今のオラには通用しねえぞ」

 

最小の動きで赫線を避け、ドームに追いやる。

 

「ツープラトンだ! 私に合わせろ!!」

 

スグルがダークサイドの下に潜り込み、

ブリッジで天高く飛ばす。

悟空とスグルが同時に

セットアップし、相手の腕と脚を左右それぞれで決めた。

呼吸を合わせ、気を通じさせる。

 

「「Wキン肉バスター!!」」

 

「ぐはあっ!」

 

血を吐いて倒れたダークサイド.

ドクター・フェイトが静かにカウントを刻む。

 

「ファーイブ……」

 

ラスト5秒でダークサイドが立ち上がった。

孫悟空とキン肉マンという

マルチバース広しと言えども指折りの強者による

息ぴったりなタッグ技をもらった。

 

物理的に計算すると威力は通常のバスター技のおよそ三十倍にまで上昇しているだろう。

ダークサイドの纏った戦衣装に大きな罅が入っている。

 

「見事だ。その技、連携。 惜しみない賞賛に値する」

 

「おおおおーーーっと!

 ダークサイド様のアーマーの罅が広がり、

 新たな姿が下より現れていく〜〜!!」

 

アーマーが崩れると、

その奥には未知の鉱石で錬成した同色同系統のアーマーが出た。

別人になったり強大なパワーを纏ったりなどはしていない。

何が起きるか固唾を呑んでいたところだった二人は安堵に胸を撫で下ろした。

 

「え、えがったぁ……オーバーボディが割れてとんでもないのが出てくるもんかと」

 

「やったな. ただのお色直しだ。

 このまま押し切れるぞ!」

 

笑い合うスーパーマン2人に

Ωのビームを一条ずつ放った。

もう数度見た攻撃。

いつまでも苦戦するようなレベルにはいない。

避けるタイミングを合わせ、

Ω同士を誘導、衝突して相殺させた。

キン肉マンが火事場のクソ力を発動させて

頭部にドロップキックを仕掛けた。

 

見切った攻撃、そこに意識が向いたところに

瞬間移動した悟空が完璧なムーブで足刀を仕掛けた。

 

「ぎゃああああっ!!」

 

狙いを読み切ったダークサイドがスグルの脚を掴み、

悟空を踏みつけた。これまでとは違う異常な威力の攻撃。

脚の骨が粉砕され、胴体まで歪んだ。

 

「な、何だ!? ドーピングか」

 

「違う。セックスだ」

 

「シックスだと……! 硬度6くらいで悟空がそんなことになるものか!」

 

首を振り, 装いを新たにした悪神が言う。

 

「セックスクリプトナイト製アーマー。

 お前達を直々に鏖できると確信した最後のピースだ。

 不思議に思ったことはあるだろう。

 何故、これほど鍛え抜いた体で同衾しても、相手は無事なのか。

 あまつさえ自分は疲労しているのか.。その理由がセックスだ」

 

エルボーを掴んだ手に振って抜け出し、

悟空に肩を貸して立たせた。

絶叫するほどの負傷。

まともに動く気力が残っていると言わんばかりに悟空は笑みを見せた。

 

「平気だ。 片足でもやれる!」

 

「無理をするな。後は私に任せろ」

 

「身勝手の極意を使うか?

 無駄だ。我が演算はすでに繰り出しうる最適解を分析し終えている。

 火事場のクソ力を高めようにも、相手を理解するのが必須とされる第三段階は

 このダークサイドに発動できん。 逃げ場なく屠られるのみ。

 リングを出したのはこちらが流儀に合わせてやったと思うか?

 リングは初めから、貴様らを処刑するためのステージだ」

 

「うおおおおおおおお!!

 ダークサイド様かっけええええ!!」

 

「めっちゃ決まってる、抱いてくれ!!」

 

「そのクソ生意気なゴミどもの血でキャンパスをペイントしてくださいよ〜〜!!」

 

「言い過ぎだろ、オメエら!」

 

悟空が観客の悪質な振る舞いを咎めた。

慣れたもののスグルは気にせずに挑みかかった。

 

「わかるだろう。スーパーマンがいた座は全て引き継いだ。

 受けていた名声は全てこちらが引き継いだ。

 どれだけ足掻いたところで、この世界は牙を剥くぞ」

 

「守る人々に石を投げられるなんて日常茶飯事だぜ!

 未来の子どもにはタダメシ喰らいって馬鹿にされるよう

 私が今の、全ての悲劇を止めてみせる!」

 

「ならば全てを振り絞って来い!

 キン肉星の大王よ!」

 

両腕を広げ、ダークサイドが全ての攻撃を待ち受けた。

全身全霊の技を撃てという合図と見たスグルは、

最強の奥義を放ちに行く。

始動でダークサイドを打ち上げる。

スグルのバネはカメハメの技術指導のお陰で、

打ち上げれば打ち上げるほど敵が脱力する合気を備えている。

 

キン肉王家最大奥義の一つ、マッスルスパーク。

正確にはスグルだけが完成形に到達した考案者にも未踏の領域。

全身の体が弛緩しきったダークサイドに、

マッスルスパーク天をかける。

 

トドメに移行するための繋ぎ。

だが、それでも全身の関節を外し、

筋を伸ばす効果はある。

だがスグルがかけた天は相手の首と手足を四散させた。

マッスルスパークは天と地が合わさっての

天地一指となって完成する技。

まさかの空振りでスグルの全身が無防備になった。

 

「馬鹿な!?」

 

スグルがかけたのはダークサイドではない。

それが率いる無数の雑兵の一人、パラデーモン。

でかい羽虫を分解しただけの感触に、キン肉マンは目を見開いた。

 

「お前達との違いは善悪ではない」

 

瞬間移動は孫悟空のお家芸ではないのだ。

アポコリプスは全並行時空最先端ガジェットのマザーボックスにより、

誰もがブームチューブを召喚し、瞬間移動できる。

 

普通の決闘なら物言いも入るだろう。

 

しかしこれは超人プロレス形式の戦い。

マザーボックスはコスチュームの一種として認められる。

 

変わり身に最強奥義を仕掛けていたスグルは

完全に体が硬直し、動けない。

 

ダークサイドがスグルの首に手を添え、後頭部にもう片方の手を回し。

Ωを顔面に放射しながら落下する。

 

「圧倒的な合理性だ。

 この身は不死身ではない。元気玉、マッスルスパーク。

 喰らうと敗ける技を、受けてやるわけがないだろう」

 

「キン肉マン、ダウーーーーーーーーン!

 ダークサイド様万歳! ダークサイド様万歳!!」

 

リングにクレーターが生まれた。

顔面が焼け爛れたキン肉マンは両脚をピンと硬直させてから、

力なく倒れ伏した。

 

「騙したな……!」

 

「馬鹿を言うな。この男は友人でもなんでもない.

 危険を冒してまで全力を受けてやる義務があると思うか」

 

超人パワーを燃やしていたスグルだからΩを受けてもなんとか生きている。

悟空では直撃すれば消失は免れないだろう。

 

「瞬間移動をするがいい。

 逃げればこの場の生命を残さず殺すがな。

 見逃すくらいはしてやろう」

 

その誘いに、悟空はキッと相手を睨めつける。

どちらにせよ、愚弄せんとしているのがわかる。

このまま戦っても勝ち目はない。

 

優れた武術家である彼は、冷静に状況を分析した。

 

「……一つ約束しろ. オラ達を倒したら、無駄な殺しはすんな」

 

「断る」

 

「どうしてだ。 そんなに強くて凄えじゃねえか。

 無駄に殺さなくたって支配できるだろ」

 

「共存・共栄の文化。それが生み出したものを愛好してはいる。

 TRPG、コミック、映画、ドラマ、格ゲー、カードゲーム、バイト。

 どれも余興に相応しい。今もSNSでフォロワーと推しジャンルについて情報交換をしてもいる。

 文明というものに敬意を払ってさえいる」

 

「そうだろう。無駄に殺したら、そいつらも全部楽しめなくなっちまうぞ」

 

「悪いが、これは文化だ。

 弱きを虐げ、対立者を根殺しにし、強者は従順にならないなら滅ぼす。

 アポコリプスはそうやって栄えてきた。これからも栄えていく。

 これは政治なのだ. 政治とは数式の実践場だ。

 見事、成功してアポコリプスが全ての文化・価値観を滅ぼした後は……

 そうだな。今度は共存・共栄の数式を求め、復興させてもいいか」

 

「なんなんだ貴様……! ふざけたことを言うな!!」

 

「お前は長年修行して身につけた力を実践することに高揚しないのか?」

 

悟空は押し黙った。

その様に頷きかけ、すべての宇宙の中心になったダークサイドは

黒い太陽を浴びて掌に掲げた。

 

「想像するだけでワクワクするものだろう?」

 

悟空は敵を説得したことはない。

戦った相手が仲間に成ることは数多いが、それも何度も共闘し、時間をかけたからだ。

そして、大半は説得不可能と判断して命を奪ってきた。

今回もそうではある。

 

そして、

この男は絶対に説得不可能な者だということだ。

 

「リングを利用するのはおめえだけじゃねえ」

 

両腕を天に翳し、

孫悟空はこの星の生命から生命力を分けてもらう動きをした。

気は溜まりきらないだろうが、どれだけ妨害されても解きはしない。

 

ここで悟空が死ねば集めた気がリング内で爆発する。

それなら犠牲は悟空・スグルとダークサイドだけで抑えられる。

 

「頼む! みんなの元気をわけてくれ!」

 

元気玉を集めようと、悟空は叫んだ。

そして、その瞳に絶望が見えた。

 

「わからないか? この宇宙では私がスーパーマンだ。

 そして、キン肉マンであり孫悟空だ。

 邪悪な者に協力する生命はない」

少しの気も来ない元気玉を止め。

悟空はだらりと両腕を降ろした。

戦術家、互いの戦力差を見極めることに長けた武道家として理解した。

ダークサイドには勝てない。

 

「……ちくしょう」

 

「さらばだ」

 

首を掴み、目線の高さまで持ち上げ、ダークサイドが赫を注ぐ。

その場の生命全員が消滅しようとした瞬間。

悟空とキン肉マンを薔薇色の泡が包んだ。

 

「ピンクダイアモンドの泡か……!」

 

外部から何者かが干渉したことに気づいた。

ドームを維持したドクター・フェイトが青い閃光に弾かれた。

外部からの干渉が可能になり、スグルと悟空が、スーパーマンと一緒に回収された。

 

「何者だ!?」

「おおっとあのダークサイドも田舎のおのぼりさんってわけか。

 このソニック・ザ・ヘッジホッグ様を知らないとはね!」

 

マルチバースには無数のスーパーマンがいる。

中にはシャザムがスーパーマンを担うこともあり、

グリーンランタンが担うことも、

火星人が担うことも、バットマンが担うこともある。

だから、フラッシュのようなスピードスターが担うこともある。

 

「追わせない」

 

アポロという人造のスーパーマンが、

太陽の光を発してダークサイドを殴った。

一人で勝てる相手ではないが、

この状況において、アポロは足止めに適していた。

 

青い閃光が一目散にその場を走る。

追いかけて赤い光線が迫っていく。

小柄なソニックが三人も無理に抱えれば、

速度は落ちて当然だ。

 

「おおっと、いけないよ. サイン会も握手会も本人が来てくれないとさ。

 オーケー、了解. 厄介ファンを捌くのもスターの宿命だ」

 

Ωを初見で避ける。

だけではなく自分を消滅させるΩを

スピードの増減と左右のステップで翻弄し、

さまざまな光線アートに仕立て上げた。

 

「どうよ、この美しいアート。

 しまった両手が塞がってるから自撮りできない。

 ちょっとごめんよお三人さん!」

 

一瞬、手を離してスーパーマン達を宙に浮かべ、

その間に入ってΩアートを背景に自撮りをした.

 

「……っとっとっと。

 映えは後で確認するか」

 

「逃さん」

 

ブームチューブでソニックの進行方向に現れたダークサイド。

方向転換も退却も不可能なタイミングを計算し、

位置と時間を特定して現れた。

 

「おっとスマホと一緒にリングも出してた。

 悪いけど拾ってくれない?」

 

数回弾んで転がる金の輪。

ソニックとダークサイドの間に、

金色のリングが落ちて転がり、

ワープホールが展開されていた。

 

迷わずそれに飛び込み。

ダークサイドの前でスーパーマン達が逃げ切った。

 

#########

 

「しっかりして」

 

逃げ延びたアポロに揺さぶられ

スーパーマンが目を覚ました。

そこは孤独の要塞ではない。

ウォッチタワーでもない。

 

ダークサイドが地球侵略に現れて、

失敗したせいで打ち捨てた基地の一つ。

ピットの残骸にいた。

 

「キン肉マンと悟空はスティーブンが治療している。

 彼らは敗北したが、意義ある敗北だ。

 私達でThe市に反撃の狼煙をあげに行こう」

 

大統領のスーパーマン、カルヴィン・エリスが

その場に残ったスーパーマン達に告げる。

突如として無数の世界を一つに詰め込まれ、

一網打尽とされるために誘い込まれた各世界のスーパーマンが集まっていた。

 

マルチバース部門専門家として活動していることで知られる

大統領スーパーマン、カルヴィン・エリス。

 

「我らは誰もがスーパーマンではなくなった。

 しかし、胸のSの字を捨てるつもりがある者はいないと信じる」

 

「端から無いものもいるがのう、ニョホホ」

 

老獪な口調で黒髪の少年が笑った。

とにもかくにも、スーパーマンは頷いた。

 

「スーパーマンがこれだけいれば怖いモノなし。

 そんな上手くはいかないことは僕達全員が知っている。

 でも、頑張ろう. スーパーマンはスーパーマンだから信じられる。

 みんな揃ってくれてきたから、僕達も自分達を信じる番だ」

 

########

 

「今年は雪が酷くなるそうよ、ジョナサン」

運命の日、それは宇宙の幾末が決まった瞬間。

カンザスの寒村、スモールヴィルの農家だったジョナサンとマーサは

いつものように軽トラックを走らせていた。

そこに黒い太陽から何かが降ってきた。

 

クレーターが生じ、

土埃と轟音がケント夫妻のトラックをひっくり返した。

巨大な流星の衝撃にもみくちゃにされた夫妻は、即死した。

 

「オギャー! オギャー!

 パラデーモンと成りて我を育てるがいい」

 

そう言ってパラデーモン化ウィルスを注入すると、

二人の死体が内側から変形し、

昆虫型の怪人になった。

「さあ、育てよ。

 手始めに出生届を偽造するのだ」

 

「ゲギャー!!

 

「For Darkseid!」

 

ケント夫妻だったもの、

スーパーマンを育てるはずの両親はパラデーモンになって傅いた。

ダークサイドはダークサイド・ケントになってすくすくと育った。

親友のピート・ロスとはいつも一緒に遊んでいた。

 

「ダークサイド様……お願いします.

 この俺もあなたにお仕えさせてください」

 

「失せるがいい.

 貴様の役割は我が子供時代を彩る親友というだけに過ぎん」

 

中学に入り、ダークサイドは未来のリージョン・オブ・スーパーヒーローズに参加した。

否、参加することなくその日に滅ぼした。

高校を卒業したダークサイドはメトロポリスに引っ越しをした。

デイリー・プラネットにて新聞記者に就職を果たした。

 

「ひれ伏すがいい.

 我こそはダークサイド。貴様らを統べる者ぞ」

 

「ハハーーっ! ダークサイド様!

 さっそくインターンシップをこなして

 正式採用になってください」

 

「よかろう。 雑用をよこせ」

 

真面目に働くダークサイドは

少しずつだが社会人としてのキャリアを積んでいったり

デスクはまだまだ彼には小さいが、

そんな日々を気に入ってもいた。

 

「ああん、ダークサイド様ぁ、

 今日も一面記事をスクープだなんてなんて素敵なのかしら!」

 

「足だ。足で稼ぎ、人脈を広げろ。

 我に真実を暴かねば命はないと悟らせるのだ」

 

そして、ダークサイドは人々を救うため、

ヒーローにもなった。

 

「ダークサイド様! ダークサイド様!!」

 

「強盗に劣る弱者など我が領土にいらん.

 疾くと滅べ。我が前に弱さを晒すのは反乱と識れ」

 

「ダークサイド様! 正義のヒーロー! 我らの導き手」

 

そうして、世界はダークサイドをヒーローの中のヒーローと認めていった。

彼は孤高ではなかった。

最高のヒーローは、最高の仲間に恵まれるものだ。

 

「ダークサイド様。 俺が手伝おうか」

 

「私達はいつもお前のためにいる」

 

「そして、いつか頂上決戦で私と超人プロレスの王者の座を競い合おうではないか!」

 

「そうだな。 軍を集めろ、クリリン。

 お前たちがスーパーマンを滅ぼすのだ」

 

 

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