DCユニバースvsプラスチック姉さん 作:スカンジナビア半島
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太陽は力を与え、時に力を奪う。
だがクリプトン星人にとって赤色太陽光は違う。
朱き光線は常にただ奪う。
牢獄に満ちるただ朱き光。
クラークが目を開けると、指先を動かすのも辛い。
強烈な倦怠感と思考の鈍麻。
力を失って飲酒をする時に味わう二日酔いは、まだ優しいと思える。
「目が覚めたか」
牢獄の外で声がする。
その方向を見ると、足を組んで優雅に本を開く男がいた。
「タル=ロー……」
「どうだそこの味は?
辛いだろう、お前が私にずっと味わわせたものだぞ」
クリプトン星の数少ない生き残りの一人がクラークに笑いかける。
かつて根絶者の異名を名乗った男、
クリプトン星の復活の生贄に地球を選んだヴィランだ。
「何が目的だ」
睨みつけるクラークに、
タル=ローは肩を竦めた。
極めて洗練された所作、クリプトン星のではなく、
地球の礼儀が芯まで染み付いている。
「まあいいじゃないか、少し話でもしよう。
仕事はどうだ? 美味いもの食えてるか?
お前の記事は欠かさず目を通しているが……先週の政治欄は良かった」
「お前と話すことは何一つない。
仕事はいつも通り。朝食のレパートリーを増やしたい。
僕としては昨日の記事の方が自信作だった」
「相変わらず真面目だな。家族はどうだ」
「元気にしているがロイスとジョンに手を出すなら……!」
「そう肩肘張るな。疲れてるのか?
私がお前達を殺すわけないだろう」
両手をひらひら振り、シニカルに笑う。
大企業の社長として敏腕を奮ったこともあるタル=ローは、
人間の懐に入り込むのに極めて長けている。
クラークごと地球を滅ぼそうとした者の言葉とは思えない。
「お前に倒されて、牢獄に入れられて、私はいたく反省したよ。
だから、恩返しをしたくてな」
「それを信じると思うのか?
こんな所に連れてきておいて」
「それを言われると辛いものがあるが…………
私はもっとお前と親しくなりたいのさ。
だから、お前の人生の負担を取り除いてやりたい」
しゃがみ込んでクラークと目線を合わせ、
タル=ローは続けた。
クラークと同じ色の瞳だが、その奥にある感情は窺い知れない。
「スーパーマンは私が代わろう。
お前はクラーク・ケントとして生きれば良い」
予想外の言葉にスーパーマンは唖然とした。
相手の表情は真剣そのものだが、
言っていることは意味不明だ。
「どういうことだ」
「いやあ、お前はよく頑張っているよ。
だが結果はどうだ。この世界がまともになったか」
「少なくとも、お前が地球で受けたような仕打ちは、
世界的に問題視されるようにはなった」
昔のことを言及されたタル=ローの目元が引き攣った。
クリプトン星から脱出し、地球に漂着したこの男は、
実験動物として隔離され、惨い日々を送っていた。
その過去を突かれると、タル=ローは冷静さをなくすことが多い。
「足りないなあ。偉大なるクリプトンとしては。
この星の猿どもを導いて、真の世界平和を齎すくらいは容易いだろう」
「そんなことが簡単に達成できると思うのか。
クリプトン星も崩壊の警告を無視して滅んだというのに。
バットマンもだがパラノイアは何故、平和が簡単に掴めるものと誤解する?」
「私を地球の猿と同じにするな!」
忍耐と寛容をもって接していたタル=ローの語気が強まった。
地球人ではなく、クリプトン星人の大声。
太陽光の力を得た状態で発せられたことから、
大気が割れ、機器が殴られたように揺れた。
タル=ローも地球暮らしは長く、力のコントロールの基礎は出来ている。
その上でこの音量。
地球人をどう見ているのかがよくわかった。
大きく深呼吸して続ける。
「なら聞くが……お前は何を達成した。
農家に育てられた凡人が、ほんのちょっと背伸びし続け、
それで得たものは1つでもあったか」
「家族と友人と出会いだ」
「それはスーパーマンにならないと得られないようなものか?
よく考えるがいい。お前の年収……嫁の100分の1だろう」
「今度は女性差別か?」
「違う。適当に言ったことだが…………否定しないとは
本当にそこまで開いてるのか?
お前……出世意欲がないのか?」
「これから出世する。
これからだ」
クラークの言葉に、タル=ローの眉間に深い皺が入り、
唾を飛ばして大声をあげた。
「そんな都合よく物事が運ぶか!!
クリプトンの名をどれだけ汚す。
でかい息子を持っておいて未だにそのザマか。
お前に二足の草鞋は無理だったのだ。
後は私に任せ、せいぜい地球人として仕事を頑張れ
さらばだ、異父弟よ」
話が終わったタル=ローが立ち上がり、背を向ける。
部屋から出ていく彼にクラークが叫ぶ。
「待て。これから何をするつもりだ!
お前を牢獄から出したのはいったい誰だ!!」
「それは私だよ」
「レックス・ルーサー!」
牢獄の裏で二人の会話を無言で聞いていた禿頭の男が、
上機嫌なのを隠しもせずに出てきた。
だがルーサーはいつも上機嫌か不機嫌かの二極。
少なくとも、スーパーマンと会う際のルーサーはそうだ。
「しかし傑作だっただろう。
あいつはお前がクラーク・ケントと勘違いしているぞ。
それに乗ってやるとは、やれやれスーパーマンも人が悪く狡猾だ」
「お前が糸を引いているのか!?」
「人聞きが悪いな。同盟と言ってくれないか。
だがいいさ、私とお前の仲だもんな」
「ふざけるな……お前の病はいつ止まる。
お前に振り回される部下の給料は
いったいいくらなんだ……?」
「観るが良い」
ルーサーが指を鳴らすと床が盛り上がり、
モニターが構成された。
映るのは第三の故郷であるメトロポリス。
パラデーモンの群れが飛び交い、
次々に人に襲いかかっている。
「お前がやっているのか!」
「めったなことを言うな。
私がやっているが、悪いのはお前という存在だ。
そしてこれはちょっとした必要な犠牲でもある」
「ふざけるな! なんなんだお前は!?
僕の何処にそうも執着する要素がある!
髪の有無くらいしか違いがないじゃないか!!!
ルーサー特製育毛剤でも開発すれば、
すぐにでもスーパーマン以上の名声が――」
「お前は黙って見ているがいい。
今日こそがお前の敗北の時なのだ」
万物を見下し、軽蔑しているのを隠しもしないルーサーが、
せせら笑って画面を見ている。
隣には牢獄の中で手も足も出ずに事態を傍観するしかない鋼鉄の男。
自分の作戦でスーパーマンが苦しみ、悶えるのを
ルーサーはかぶりつく勢いで堪能していた。
「敵も味方も皆殺しにすれば私の総取りだ」
「このアースにはまだスーパーマンがいっぱいいるぞ」
パラデーモンが人々を次々に襲うのを、
メトロポリス在住ヒーロー達が防ぐ。
だが、それだけでは足りない。
走行中のバスが覆され、
ガソリンスタンドからガソリンが撒かれ、
画面を隔てても人々の悲鳴と絶叫が聞こえるかのようだ。
「無駄だ。スーパー・マンは経験不足。
スーパーボーイはお前の遺伝子を使っただけの我が子。
スーパーガールもまだ尻の青い小娘だ」
「スティールがいる」
「ああ? 奴の頭脳は
私どころかバットマンの足元にも及ばん。
昔から奴をスーパーマンと呼ぶ愚民どものことを理解できなかったものだ」
スティール、ジョン・ヘンリー・アイアンズの名前を出され、
ルーサーは不快感を露わにしている。
レックス・ルーサーはスーパーボーイやスーパーガール、
未来や別のアースのスーパーマンには平然と相対するが、
何故かスティールにだけはスーパーマンへのそれには及ばなくとも、
強い嫌悪感と敵意を見せる性質がある。
クラークには理解できないことだ。
「でも前に散々パワーアップした上で
彼に負けたことがあっただろ?」
「チイっ、うるせえぞ」
並んでのテレビ観戦をやめ、
ルーサーも荒々しい足取りで出ていく。
大声で誰かの名を呼ぶと、虚空が裂けて
クラークをここに連れてきた少年がルーサーをメトロポリスに連れて行く。
一人になって一切の力の無い状態にて、
唇を噛み締め、眉間に皺を寄せてクラークが画面を見つめる。
1秒、2秒、3秒……7秒後には、今の彼の眼球では捉えられない
青い光線と白銀の光線が画面の中を縦横無尽に飛び交い始める。
スーパーマンの表情に安堵が浮かんだ。
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パラデーモンの脅威さはそれほどではないが、
とにかく一度出ると無数に湧いてくる性質がある。
通常の人間には太刀打ちできないくらいの頑強さに、
理性が無いことから来る躊躇いのなさ。
人々が怯えるのに十分なものだ。
倒壊した電柱に挟まれそうな親子をビザロが砕く。
そのついでに目から放ったスーパービジョンで
火災を消火し、超スピードと腕力で道を作った。
中年女性にパラデーモンが上から群がろうとするのも
ヒートブレスで焼き払う。
「ありがとうございます!」
「ビザロ、弱い者イジメ、大好き!
みんな、殺す! 絶対殺す!!」
「ヒィー――――――!!!」
「大丈夫だ、こいつは安全だから!」
「この子に任せてみんな避難して!」
そう呼びかけつつ、
スーパーマンの逆さ存在の近くで
スーパーボーイとスーパーガールがパラデーモンを次々に倒していく。
「クソっ、ボスはどこだ!」
「慌てないの、ここにいるんでしょ!?」
「でもまずは市民の避難だろ!」
「ビザロ、怠ける! そして寝る!」
「そうね、頑張って」
ビザロが元気に高速で次々と市民を救助していく。
この極めて当たりのビザロ。
ハンク・ヘンショウから取ったデータを元に
敵の基地を特定しようとしているが上手く行かない。
スーパーボーイとスーパーガールが目を凝らして上空を睨む。
「安心しろ、手はある。
頼むぞビザロ」
スティールがそう言うと、
ビザロが目を閉じて手を回転させた。
トンマな印象を受ける彼とは正反対の神秘的な氣を発し、
魔術に敏感なクリプトン星人に鳥肌が立った。
「タガス セワラア!!」
ビザロの魔術により、上空にて透過仕様を施していた
クリプトン星の宇宙船が姿を現した。
「え、このビザロは魔法も出来るのか!?」
「聞く所によるとザターナに師事し、
魔術の天才としてすべてを継承したらしい」
「当たりどころじゃないわ、超天才ビザロよ!」
「確変だよ確変!!」
「でもビザロ、今のでとっても元気になった……」
「良いわ、十分よ」
疲れを見せたビザロを労り、
彼を救助活動に戻す。
天に姿を見せたクリプトン星の舟。
タル=ローが地球へ避難する際に乗ってきたものを
極限まで改造・拡張している。
「あそこにスーパーマンがいるはずだ」
「とっとと取り返そうぜ!」
「させないよ」
クリプトン星の舟から降りてくる、
長い銀髪を揺らした長身の美青年であるユリシーズ。
4次元人に育てられた地球人である彼が
メトロポリス襲撃を率いて現れた。
「出やがったな。四次元育ちの狂った野郎が」
「スーパーマンは何処だ」
「あなたの実の両親はまだ生きてるでしょう!?」
「だからこそさ」
ユリシーズが瞬間移動と見紛う高速で
スーパーガールの胸を蹴り飛ばした。
ソニックブームが発生し、
ビルが根本から軋み、乗り捨てられた車両が高く浮かぶ。
「この世界は僕が育ったものとはまるで違う。
不順で不完全極まりない。だから僕が浄化する。
父と母がせめて平和に暮らせるように」
「そのためにこんなことをしてるのか!?」
「犠牲はいつも必要だ」
「お前の育った故郷がそうであるようにか?」
そう言われ、ユリシーズが静かに髪を掻き上げる。
前から後ろに撫で付ける形だが、
その指には不要な力が籠もっていた。
彼の育ったグレイトワールドは完全なる理想郷を実現していた。
他の世界を収穫し、燃料にすることで。
「どこでもやっていることだろう。
この世界は違うとでも言うのかい」
「自然の摂理であることと、
それを受け入れるべきかは違う」
「クラークもそう言っていたね」
ユリシーズの眼光が鋭さを増した。
線の細い彼の全身に憤怒が湧き上がる。
「僕も彼を信じた。
きっと何か手があるはずだ、犠牲なしに僕の世界が繋がる道があると。
そんなものはなく、僕の目の前で理想郷は滅んだ!!
クラークを、スーパーマンを信じたせいで!」
「それは……」
スーパーガールとスティールが沈黙する中で
スーパーボーイが飛び出し、殴りかかる。
少年とは言え太陽光を得たクリプトン星人の力、
それをユリシーズは裏拳で跳ね返す。
コンは建物5棟を貫通し、
スーパーガールが意を決してユリシーズに挑む。
「僕はスーパー・マンの氣を取り込んだ。
実質的には君たち二人分以上と言えばわかりやすいかな?」
スティールがハンマーを振り上げ、
全力で振り下ろす。ユリシーズの横の地面が砕け、
外したジョン・ヘンリーへの攻撃をスーパーガールが掴みかかった。
「退け!」
めり込んだハンマーがジェット逆噴射で
整った顔立ちを横殴りにする。
一歩揺らいだユリシーズを復帰したスーパーボーイのヒートビジョンが喰らいつく。
「スティール、あいつは俺達に任せて舟に行け。
赤色太陽光の檻に入れられたら俺達にはどうしようもない」
「……わかった。気をつけろ。
お前に何があったらスーパーマン達が悲しむ。
俺にとってもお前は大切な同期だ」
「任せとけ」
「あたしもいるわ!」
スティールが両足のジェットで飛んでいくのを
ユリシーズは両腕を組んだままに無視した。
彼が狙うのはあくまでスーパーボーイとスーパーガールのみ。
「情けでも見せたつもりか?」
「まさか、彼はただの地球人だろう。
バットマンでもあるまいし警戒に値するものか」
「この世界じゃ
そんなことを言う奴から負けていく定めなんだけどな……」
「本当に誰も学ばないわ! 本当に誰も!
人を傷つけるのを決めると戦績というのを気にしなくなるのかしら」
「たかが鋼鉄。素手で曲がる代物だよ」
「彼はスーパーマンよ!
スーパーマンが負けるわけないでしょ」
「そして俺はスーパーボーイだ」
拳を打ち合わせ、ニヤリと笑うコン・ケントに、
ユリシーズが眉間に皺を寄せた。
「スーパーガール。君は故郷の星を覚えているだろう。
この原子世界より遥かに発展した文明を」
「忘れたことはないわ」
コンの相手をせず、
カーラを向いて続けた。
「それならわかっているだろう。
この世界はさらなる良い世界にするための薪にするべきだ」
「わからないわ! 思い出はたくさんあっても
クリプトン星をそこまで褒められないもの!」
「なら君の故郷は僕の故郷より遥かに劣っているんだね」
「なんですって!?」
スーパーガールが拳を突き出す。
それを避けて宙に飛んだユリシーズに
コンのヒートビジョンが迫るが、
パワーアップした彼には追いつけない。
カーラも双眸を赤く光らせてスーパーボーイと連携し、
敵の正面と背後からの挟み撃ちを狙う。
しかし、今度はユリシーズが両手をそれぞれの熱線に向けた。
鋼鉄も隕石も氷塊も貫く熱線が
掌を介してユリシーズのパワーに転換されていく。
「クラークから聞いていないのかい?
これが僕の特性だ。力を吸い取り、変換できる」
「…………何も聞いてない!」
「だって、彼があなたはヴィランじゃないって!」
その言葉にユリシーズが目を閉じ、奥歯を噛み締めた。
「そうだぞ。クラークのためにもこんなことやめろ!」
「彼はあなたを信じているわ!」
「そして僕は彼を信じて裏切られた」
ヒートビジョンの熱量が残った掌打。
コンの顔面が煙を噴き上げ、
辛うじて避けたカーラのマントが焼けた。
「僕も、サイボーグ・スーパーマンも。
彼を信じていたのに裏切られた。
スーパーマンは信用を裏切ってはいけない。
だから、僕達が彼の役目を引き継ごう」
「こういう時、スーパーマンなら
とことん話を聞こうと頑張るんだろうけどな。
俺は容赦はしない。カンザスからクラークを奪うなら、俺は全力でお前をぶちのめす」
「だから君は後継者になれなかったんだろう。
邪悪の血を引く者」
ユリシーズが攻撃に転ずる。
ストレートを腹部にもらったスーパーガールが1kmもの距離を飛ばされ、
そこに並行して飛んだユリシーズが繰り返し乱打を浴びせる。
斜め下に向かって掘り飛ばされるスーパーガールの救助に、
スーパーボーイが1kmもの上空から速度をつけて地下を進む二人の間に割り込む。
氷の息を出そうとしたが、敵の特性を思い出して寸前で堪える。
スペースの無い地中でユリシーズがスピンをかけての
遠心力で破壊力を出しにかかる。
コンとカーラが長い銀髪を掴むが、
それごと引っ張られて
土に、地層に全身が打ち付けられた。
二人がダメージを受けたのを確認したユリシーズは
両腕を突き上げ、自らを循環するパワーを
爆発エネルギーに転換して解き放った。
周囲1kmを巻き込んだ大爆発が発生し、
爆心地にコンとカーラが横たわった。
滅んだ4次元ユートピアからの使者が見下ろす。
「君たちはオリジンが足りない。
悪の半身、子供時代の思い出、
それではこの世界を導くための絵が浮かべられないんだ。
大人になるまでそこにいた僕は違う」
起き上がろうとするが、力が入らない二人は
顔だけ上げて叫ぶ。
「お前の記憶通りに良い世界なら滅ぶかよ!」
「ユリシーズ。あなたは育った故郷が恋しいだけでしょう?
辛いのはわかるけれども、こっちの人生を考えて」
訴えるカーラだが、ユリシーズは聞こうとしない。
興に乗ったので両腕を広げ、
不可思議なくねらせ方をさせていく。
「君たちには生きてもらいたい。
けれども、それは無理なんだ。邪魔だからね。
恨むなら……君たちを戦いに導いたクラーク・ケントにしてくれ」
スーパーボーイの首を掴み、持ち上げる。
その顔に全力の拳をあて、
少年の顔を壊そうとする。
しかし、ユリシーズの力の流れがいなされ、
そのまま体がつんのめり転倒する。
「誰だ!?」
攻撃を阻害した者の乱入に、
戸惑いを露わにユリシーズが叫んだ。
そこにいたのは純白の超人拳士。
陰陽の氣を陰に傾けた陰形態に変身したスーパー・マン。
「お前は……! 確かに力を奪ったはず……!」
右の拳を左手で包み込み、
スーパー・マンがお辞儀をする。
普段の彼とは正反対の静寂・平静を体現し、
感情の動きが無い陰のアバターそのものだった。
「再見」
全身純白、埃も淀みも皆無の姿かたち。
ユリシーズがパンチを出しても
力の進行が外される。
蹴りを出すと軸足を取られ、
掴みかかろうとすると不定形の光を相手にするように抜けられる。
「無駄だ」
「なんだと」
「我が心にあるは地平線まで続く静寂、鎮静。
絶対の秩序が今や一つとなったのだ」
「スーパー・マン……?」
「しばらく見ない間にすごく関わりづらい思想に向かったの……?」
回復したなけなしの氣を抱え、
駆けつけたスーパー・マンが守護に一意専心となる。
「舐めないでもらおう」
攻撃のリズムを激しくしたユリシーズの連撃。
それも両腕を回し、極小のバランスにて
次から次へと攻撃を防いでいく。
蹴りを捌いて懐に入り、
プレッシャーを受けたユリシーズが後退した。
「クッ……たとえ攻撃を防げたとしてもこちらに攻撃するほどには!」
「喰らえーーーー!」
スーパーボーイとスーパーガールの同時攻撃が直撃し、
ユリシーズの口から血反吐が溢れた。
不意打ちに白目を剥きかけた彼の目がぎょろりと戻り、
横殴りをしかけるも、スーパー・マンが間に入って投げ飛ばす。
力を利用される形でユリシーズが放ったパワーはそのまま
顔面での転倒をして返される。
かつてスーパー・マンをイー・チン老師が屈服させたのと
奇しくも同じ戦法であった。
「ユリシーズ、もうやめろ!
3対1になったら流石に勝てないぞ!」
「クラークもあなたの両親も、きっと今の貴方を悲しむわ!」
「断る。君達がこの星で正義を学んだとしたら、
僕は四次元世界で理想を学んだ」
「なら今から正義も学べよ。
遺伝子が半分禿げてる俺も学べたんだ。
できないことなんてない」
「あたしは正直、地球で正義を学んだってわけではないけど。
ここに来てまだほんの数年だし」
「理想は……どんなことをしてでも達成する価値がある。
それが犠牲に基づくものだとしても、理想郷が続くなら、呑み込むべきだ」
「我は元イジメっ子の腐れヤンキー」
純白の形態のまま話そうとしたが、
上手く行かないと判断したケイナンが氣を陰陽調和状態に戻す。
「カウンセリングの人は母親がいないからとか
父親がテロリストなせいとか、育児放棄喰らったからとか言ってたけど。
結局は俺がムシャクシャしたら八つ当たりするクソ野郎だったってことだと思う」
「僕もそうだと言うのか?」
「さあね。とにかく決着つけようぜ」
3人と1人が向かい合う。
ユリシーズが両掌を胸にあて、
体内を循環する四次元力場を集極させていく。
彼のエネルギーが爆発的に上昇していき、
3人の額を冷や汗が伝う。
「これは目の前で故郷が滅んだ瞬間を元に身につけた業だ。
世界が滅ぶ直前の燃焼。それを自らに行う」
上位次元を動かす根幹を取り込んだ別世界のスーパーマンから、
不可視、理解不可能の物質が表皮から溢れ出す。
銀髪が残像を残して1つの線となって伸びた。
先程とは比較にならないスピードで
スーパーボーイに迫る。
これまでの数十倍ものスピード。
パワーに至っては30倍にも及ぶ。
そこをコンの爪先が深々と敵の喉を捉えた。
「馬鹿な……!」
パワーを集中させたユリシーズが
これまでと違って攻撃を当てられたことに動揺を隠せずにいた。
身体能力は大きく引き離されても、
敵の動きを読み切ることでコン・エルが的確にカウンターを浴びせる。
相手の蹴りをさらに横蹴りでかぶせて
ユリシーズの肉体が600mほど転がった。
「勉強は苦手だけどな。戦いなら覚えは速いんだぜ?
お前の動きはだいぶ覚えた。
地球人が音速、亜光速を見切れるんだ。
半分地球人の俺に出来ない道理はない」
ケイナンが一瞬怪訝そうな顔をしてから、
それから陽の形態にシフトする。
コンがユリシーズの四次元粒子を
両腕に充填させた横殴りを避け、
攻撃を着弾させていく。
有効なダメージを与えるには行かなくとも、
敵の動きを鈍らせるには十分。
何より、孤軍奮闘というシチュエーションが、
四次元を故郷と謳うユリシーズの
戦う意志に傷をつけていく。
「轟撃!」
なけなしの氣を攻撃一辺倒に傾けた
拳士超人のローリングソバット。
「スーパァフレア!」
大きく宙を舞ったユリシーズの下に回った
スーパーガールが両手を上げて
自身の細胞に蓄えられたエネルギーを解放した。
「まだだ!」
太陽の光の柱と四次元の極彩色の柱が衝突する。
半径4kmを光の柱が広がり、
音も何もかもを呑み込んでいった。
光と光の柱が押し合い、
拮抗した状況が一瞬だが訪れた。
だがたちまちにスーパーガールが押され、
そのまま光に押し込まれてしまう。
「終わりだ。
君達にもう勝ち目はない」
力を消費しきったユリシーズが息も絶え絶えに宣言する。
まだ光の余韻が抜けないままに、
爆心地の中央部分に穴が開く。
「そんな!?」
力を使い果たして倒れたはずのスーパーガールが
士気もパワーも喪わずに、
小指を突き上げてユリシーズに飛んでいく。
「There's always another way.(第三の道を探し続けろ)が
Sの字の合言葉よ!!」
その手に握られているのは、
スティールに持たされた特別製クリプトナイトの
X‐クリプトナイト。
スティールがアーマーの動力源にしていた物。
念の為にと一つ持たされていた。
太陽を背にし、スーパーガールを無表情に見ていたユリシーズが、
諦めたように目を閉じた。
「ごめんなさい、父さん、母さん」
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クリプトン星の舟を進むスティール。
地球とは比較にならないほどに発展した文明。
極めて高度な機械群は
ジョン・ヘンリー・アイアンズには理解に時間がかかった。
「うちは猿を飼っていないぞ」
背中に声がかけられ、
声の主を理解した瞬間、光線を放った。
「おっと、ハハハ。痛いじゃないか」
掌で熱を受け止め、
大げさに手を振った。
タル=ロー、かつてはモーガン・エッジと名乗ったエラディケーター。
クラークの異父兄であるクリプトンの末裔が一人。
「久しぶりだなあ、ジョン・ヘンリー・アイアンズ。
いや、スティールと呼んでやるべきか」
「クラーク・ケントはどこだ」
「おいおい、落ち着いてくれよ」
人を喰ったような振る舞いでスティールの質問を無視した。
いっそ、ハンマーを投げるか考えたが、
ここは聞くべきだと思った。
「ラナ・ラングは元気か?」
「なぜ……? そんなことを聞く」
「別れていたら言ってくれ。
彼女はこの星の低能にしてはかなり上等だ」
「お前が選ばれるとでも思うのか?
夢を見たいなら朱色の牢獄が寝床にいいぞ」
「魅力的な提案だが黄色の照明じゃないと入る気は無いな。
もしや……今のは命乞いか? 猿の言葉にはまだ疎くてね。
申し訳ないがもっと跪いて、床に頭をこすり付けてくれ」
ペラペラと口が回るタル=ローを無視し、
スティールは敵に背を向けてクラークを探しに行こうとした。
その背後にて大気が大きく動いた。
素早くスティールがハンマーを取り回し、
長柄でクリプトン星人の突撃を止めた。
「久々なんだからもっと話につきあってくれ」
「そんなに猿と話したいなら動物園にでも行ったらどうだ」
タル=ローの目からヒートビジョンが放たれ、
スティールの装甲、腕部分で受け止めた。
片手でハンマーを振るい、柄頭で頬を叩いた。
「何故クラークを攫った、モーガン・エッジ」
「可愛い異父弟を解放してやるためさ。
メトロポリスには一旦犠牲になってもらう。
弟の信用を失墜させ、それから我らがスーパーマンを名乗る」
「それでジャスティス・リーグが納得するとでも?」
「奴らも子供じゃないんだ。
こちらから誠実に説得すれば納得してもらえる」
「無理だな」
両手で槌を握りしめ、振り上げて下ろす。
タル=ロー、かつてモーガン・エッジと名乗っていた
クリプトン星人の拳が迎え討つ。
衝撃でブラックホールの潜航すら耐える強度の
クリプトン星の舟が大きく揺れた。
「地球人のブリキにしては中々やるじゃないか」
ヒートビジョンが真っ直ぐに来るのを
ハンマーで迎え撃つ。
弾いた熱線が敵に戻っていく。
しかし、眼球が放つ赤い光線よりも速く、
タル=ローが脚を突き出してきた。
腹部に攻撃をもらったスティールが壁に突き飛ばされ、
背中を打ち付けてしまう。
「それならこんなのはどうだ?」
赤い光線が舟の内壁に何度も跳ね返り、
通路中を灼熱の網で埋め尽くす。
クリプトン星の物質が持つ硬度を利用した反射。
被弾を避けられず、アーマー越しの光熱で皮膚が焼ける。
「そんなキグルミを着ていては避けられないだろう」
前から後ろから横から斜めから下からの反射攻撃。
さらにはタル=ローはおかまいなしに熱線の
二の矢、三の矢を放っていく。
子供の背丈でも余程縮こまらないと被弾は不可避。
その中をスティールはアーマーをパージし、
腕力増強の腕部外骨格と両脚のジェットのみをつけ、
鼻が床に接するほどの低空飛行をする。
不意を突かれたタル=ローが反応するより速く、
鋼鉄のハンマーが顎を痛烈に打った。
白目を剥きかけて留まったクリプトン星人が、
顎を抑えてスティールを睨みつけた。
「俺はスーパーマンになろうとしたんだ。
スーパーマンは隕石を砕く腕力、
世界中を見渡して盗聴できる五感をセーブしてきた。
俺も訓練でこのアーマーを人体同然に操る術を修得した」
「傲るなよ、地球人!」
そう叫んでタル=ローが
万物を凍らせるスーパーブレスを放つ。
前方は氷の息、後方はまだ飛び続ける灼熱の網。
壁は簡単には壊せず、逃げ場は無い。
パージしたアーマーが細かい部品に分かれ、
再度スティールのコスチュームを形作っていく。
そして、スティールは前でも後ろでもなく横の壁を叩いた。
僅かな壁の凹みが反射角に変化を齎し、
彼の脇を通って氷の息を溶かす。
残存していたヒートビジョンの反射を操り、
炎と氷で相殺させていく。
10発のヒートビジョンをスティールが
ハンマーを巧みに操り、
極小の精度を要求される技術によって
敵の焼き付く視線を利用し、制御していた。
「アーマーがあろうとも、
俺はこの力で鍛冶も編み物も料理もできる。
お前はその力をろくにコントロールしようともしなかったんじゃないか?」
「言わせておけば囀るな、スティール。
弱者の工夫を修めたくらいでなにをのたまう?
そんなものは偉大なるクリプトン星の者には無用だ」
「その工夫をしているのがお前の弟だが……」
「黙れ」
タル=ローが大きく飛びずさり、
スティールが後退方向にハンマーを投擲する。
激しい回転をし、弧を描いて戻ってくるのをスティールの両手から出す
光弾が立て続けに相手の体に直撃していく。
口から血を出して被弾をしながらもタル=ローとスティールが
真正面から指を絡ませて組み合う。
指四つの体勢から互いの膝が相手の脇腹に叩き込まれる。
両者の肉体に猛烈なダメージの蓄積が入り、
タル=ローの背には戻ってきたハンマーが陥没して嵌まり込んだ。
鋼鉄のボディが軋みをあげて煙を噴くが、
太陽の力を取り込んだ肉体もあちこちに傷が生まれている。
「ぐっ!!」
ダメージ競争に最初に負けたのは
タル=ローの方だ。
弟とは比べ物にならない気品に溢れる顔立ちを苦悶に歪め、
指の力が抜けていく。
「俺の勝ちだ」
手を離したスティールが床に手をつく
スーパーマンの兄の頭部にハンマーを振り下ろした。
「ぐあっ!!」
だが攻撃が当たる寸前、
スティールの頭部にレーザーが撃たれ、
体勢を崩してしまう。
深緑の装甲、スティールと違って
頭部だけは露出させているルーサーが
不意打ちを仕掛けてきた。
「馬鹿な……! あの男と組んだのか!?
ルーサーと!? お前の弟に何をしてきたと思っているんだ!」
予想外の人物にジョン・ヘンリー・アイアンズが
驚愕を隠せずに叫んだ。
「おい、何故手を出した!?」
それに呼応するかのように怒りに任せてタル=ローが怒鳴った。
「負けそうだったからな。
同盟者を見捨てるほど、私は薄情じゃないぞ」
「私が負けると言うのか!?
弟の後を追った程度の地球人に!!
私がクラークに劣るとでも言いたいのか!!
あんなヌクヌク不自由なく生きてきたボンクラに!!」
「フハハ、こいつまだクラーク・ケントがスーパーマンと勘違いしてるよ。
おおっと、失礼。口が滑ったな。申し訳ない。
万が一というのもあるだろう? 私からの信頼の証と思ってくれ」
二対一というのは実際に深刻な状況だ。
スティールは常にフルパワーを出してきたが、
タル=ローはクリプトン星人である以上、
如何なる疲労も傷もたちまち癒えてしまう。
数秒前まで痛みに苦しんでいたとは思えない健康体で、
タル=ローがスティールを見下ろした。
倒れている彼を踏み潰しにかかると思いきや、
手を貸し、肩を抱いて立たせた。
「さあちゃんとして。安心しろ、決闘として倒してやる」
ルーサーに注意を払いながら改めて
かつてモーガン・エッジと名乗った男が
鋼鉄のスーパーマンと構え合う。
「邪魔が入って悪かった。
もちろん私はあの男を信用していない。
だが彼は有用でね。お前よりも遥かに高い知能を持っている」
「必ず足元を掬われるぞ」
「弟を解放するためだ。
あの不出来な弟を」
戦いが再開し、光速の連打をスティールが全て防ぐ。
至近距離で片手の光弾を放ち、
それと同時に死角の箇所へハンマーを振るう。
攻撃は当たり、ダメージも通る。
タル=ローが床に拳を叩きつけ、衝撃波をドーム状に発生させた。
浮かんだスティールがジャイロ機能を使い、
空中で上下を反転させ、逆さ吊りの体勢を取る。
車くらいは破壊可能な光弾を放つがタル=ローの表皮を破りはしない。
微かなダメージとして蓄積するかどうかだ。
鋼鉄を曲げる素手がジョン・ヘンリーの顔に迫る。
手から出るものを光弾からジェット噴射に切り替え、
ぐるんと長足で上下に回った。
両足に固定させていたハンマーがその移動エネルギーを載せて
タル=ローの喉元を攻撃が迫る。
「デカブツのクセに工夫だけはいっちょまえだな。
それもスーパーマンに憧れたからか?」
両腕で攻撃を防ぎ、片方の腕の骨が折れる音がした。
慣れない激痛にモーガン・エッジの顔が歪む。
「お前のような者がいるから悪いんだ。
たかがスーパーマンに救けられたくらいでヒーローになる。
そんなクソ益体もない成功例が、あいつをいつまでも
見込みのないヒーロー業に縛り付ける」
「何が言いたい」
「生かしてやる。望むならかつて私がやったように
地球人の猿に偉大なるクリプトンの叡智と肉体をやろう」
「人格と引き換えにか?」
「冷血非道のように言わないでもらおうか?
弟に尽くしてくれた礼だ。
人格はそのままにしてやる。そしてこちらと組め」
腕組みをして聞いているルーサーの
気味の悪いニヤニヤ笑いが崩れ、舌打ちをした。
聞いていないはずはないが、
クリプトン星人の地球育ちは続ける。
「これは弟のためだ。
あいつはそろそろ本当に世界を導くに足る存在に、バトンを渡すべきだ。
そして、それはあいつの異父兄である私に他ならない」
片腕でスティールを弾く。
着地した鋼鉄の鎧が揺らめいた。
それだけではない。
指を動かすのも、足に力を入れるのも、
急速に力の伝わりが遅くなっていく。
「地球人は確かに私達に並ぶ頭脳と科学力を手に入れたかも知れない。
だがしょせんは資本主義の枠内の話だ。
力を振るうには常に金がかかり、資源を喰らう。
バットマンが無敵といえど、それは金という無限の血液、
本来は貧者が手にするパイを大量に奪ってのみ成り立つ
極めて限定的な条件下に過ぎない。お前も同じく」
タル=ローの話にスティールは冷静に頷く。
「そうだ。俺は、短期戦ならともかく、長期戦なら確実に息切れを起こし、
ただ肉体だけで強力なクリプトン星人の燃費の良さに負ける」
「わかっているじゃないか。
なあ、ジョン・ヘンリー・アイアンズ。
何故スーパーマンを名乗った?
バットマンやルーサーの足元にも及ばない知能で何故?」
装甲と飛行にまわすエネルギーを断ち、
攻撃にのみエネルギーを傾けるように調節する。
全身が重くなり、ジョン・ヘンリー・アイアンズは己が酷く脆弱になった気がした。
「生命を救けられた」
「みんながそうだ。彼は宇宙を救っている。
なら全生命体がスーパーマンになるか?
お前のオリジンは軽いんだ」
「かもしれない」
ハンマーを握る両手に力を入れる。
勝負は後5手以内で決めなければならない。
そうしなければ、スティールは敵にどころか
アーマーの崩壊と熱暴走でグロテスクに死んでしまう。
「正確に言えば、そうだ。
彼は俺に生命をくれた。ずっと、逃げて腐るのみだった俺に。
命を助けるという形で、俺の生命に息吹を吹き込んでくれた」
大振りと奥の手の仕込みを出す用意をする。
両の足を開いて腰を落とし、
ハンマーを肩に担いで手招きする。
「俺を倒せないならお前はスーパーマンに決してなれない。
お前は鋼鉄の男じゃなく、俺が鋼鉄だ。
”鋼鉄の”ジョン・ヘンリーだ」
不敵な笑みを浮かべ、
眼光を赤く光らせる亡星の男に力強く告げた。
「来い、クリプトン星人。
鉄を素手で曲げられようと、
この鋼鉄を曲げることは誰にもできない」
「…………!!」
静観しているルーサーの口に笑みが浮かんだ。
それはみるみる広がって深まり、
ついには満面の笑みの形になる。
「そうか、弟には勇敢に戦って死んだと伝えてやる」
無表情にそう吐き捨て、
タル=ローが全身全霊を籠め、
拳を叩きつけに走る。
「なら俺からの遺言として受け取っておけ」
構えを取ったスティールが
マスクの口元を強引に歪め、
スティールがタル=ローを嘲笑した。
「お前の話し方、地球の実業家そのものだぞ」
「言ったな、貴様!!!」
怒りを引き出すための言葉だったが
予想以上にタル=ローの逆鱗に触れたようだ。
舟に大穴が空き、中の空気が飛び出していく。
クリプトン星の舟は自己修復機能があったはずだが、
それでもスティールの気が逸れてしまった。
「捕まえたぞ……!!」
憤怒の顔で睨みつけ、
クリプトン星人が馬乗りになった。
マスク、アーマーをあますことなく殴打し、
一発一発が気絶しかねない威力。
無言でひたすらにタル=ローが
鋼鉄のアーマーを殴打し続ける。
これは非常に危険極まりない。
敵のコンプレックスに踏み込んで
相手の嗜虐心を煽ろうとしたが逆効果になった。
恐らくタル=ローは地球人を猿と見下すことはあっても
嬲り殺しにするといった油断は見せないタイプだ。
多くの場合、超人のヴィランはそんな遊びが原因で
地球人に倒されるものだが、
逆に言えばそれがないと大変にやりづらい。
「どうだこの威力。この威容! 覇気!!
お前のような弟の紛い物が出せるものではない。
私の何処が地球人の――」
「こいつは俺の獲物だぁっ!!」
言葉が途切れ、またもルーサーが手を出してきた。
今度は味方のクリプトン星人にレーザーを放ち、
スティールから引き剥がした。
頬を抑えて呆然としたタル=ロー。
事態を認識し、放心から憤りに変じていく。
「何だ貴様……何なんだ貴様ァ、さっきからァ!!!!」
「黙りやがれぇ!!
スーパーマンは全員俺がぶっ殺してやる!!」
容赦なくクリプトナイトのナイフを振りかざし、
ルーサーが仲間を殺さんとした。
それを阻止するために、ジョン・ヘンリーが
ルーサーの丸い頭をハンマーで殴りつけた。
「ぐうっ!!」
壁に頭部が激突し、同じ地球人からの不意打ちに
信じられないかのようにルーサーは歯軋りをし、
憎悪に塗れた声で呪詛を吐いた。
憎悪に塗れた声で呪詛を遺した。
「この裏切り者がぁ……」
そう言い残して意識を喪い、
零れ落ちたクリプトナイトが修復によって埋まる穴を通って
広大な暗黒宇宙に落ちていった。
「無事か?」
「…………これで貸し借りは本当に無しだ」
ルーサーの不可思議な暴走を目の当たりにし、
ヴィランとしての正体を露わにして日が浅いクリプトンの男が立ち直った。
今度こそとタル=ローが殴りに来たが、
この男、まだヒーローとヴィランの戦いの日が浅すぎる。
突然の出来事からの切り替えがまだ出来ていなかった。
スティールは一旦、ダメージから相手の撹乱にスイッチし、
ハンマーを分離させ、トマホーク二刀流にした。
鎧を人体と遜色なく動かせることから
有効打は入らずとも敵の意識は細かく削っていくことが出来る。
相手の突きを避けて身をかがめ、
すれ違いざまに脇腹を叩き、
さらに背骨にも一撃を入れる。
距離を取ってトマホークを投擲し、
何千の回転がかかったものをタル=ローが避け、
そこをもう一方のトマホークが飛んできて鼻に激突した。
「小細工ばかりか!」
業を煮やしたタル=ローが勝負を焦って
半ば無理矢理に攻撃を仕掛けてきた。
戻ってきたトマホークを掴み、
ハンマーに戻したジョン・ヘンリーが
待っていた好機に発奮する。
スティールのハンマーが
敵の攻撃を上向きに逸らし、
返す刀で柄頭を腹部に当てて音速で飛ぶジェットを噴射させた。
何か仕掛けてくると覚悟していたタル=ローが
その場に踏ん張って留まらんとする。
両足が浮かんでも超音速で飛べる彼を飛ばすには至らない。
だがその間に仕掛けておいた鉛でコーティングした手榴弾を起動する。
詰まっていた緑色の粉塵がタル=ローを包むが、
彼はむしろ高笑いをした。
「ハーーー―ハハハハハ!!
やってくると思った。クリプトナイトだろう!!
我らを殺すための技術がお前の命取りと知らずに!」
虚空に線が走り、ジャケットにハーフパンツの少年が
ビザロを連れて現れた。
クラークを連れ去った少年、
スティールとかつて戦ったスプリットというヴィランだ。
「言われた通り連れてきたぜ。
こいつの殺戮ショーを楽しませてくれるんだよね?」
「ああ、そうだ。
なあスティール。よく考えてみろ?
野良のビザロが都合よくいると思うか?
私の差金だよ。付近を歩いている野良のビザロを回収し、
たった1つのことだけを行動方針に組み込んでお前の所に送った」
急に連れてこられたビザロが不思議そうに辺りをキョロキョロしている。
やがて、友達のスティールを見つけ、嬉しそうにジャンプした。
「スティール、いない!
ビザロ、怖くなかった!
けど、不安になった!」
「ハハハ! 懐かれたもんだな! だがそれもここまでだ!
奴に仕込んだ命令は唯一つ!
”クリプトナイトを使う地球人を殺せ”だ!
お笑い草だな! スーパーマンの背を追った身の程知らずが
スーパーマンを殺す術を備えていたから死ぬのだ!
これを皮肉と言わずに何と言う!
さあビザロ、せめて苦しませること無く殺してやれ!!」
「ビザロ! 隣の男を捕まえてスーパーマンの所に案内させろ。
多少は脅しても構わない。」
「ビザロ! わかんない!
お前、スーパーマン、連れて来い!」
「何ィ!?」
会心の策が全く機能していないのを見て、
モーガン・エッジは目玉が飛び出る程に仰天した。
「嘘つきぃ」という悲鳴を残して、
ビザロに首を絞められたスプリットが
スーパーマンの所へと空間を跳んだ。
高笑いをしていたタル=ローが
髪を掻きむしり、罵詈雑言を呟いた。
「何故、何も起きない!?」
「俺はクリプトナイトを使わないからだ」
「馬鹿な……! スーパーマンが怖くないのか!
"奴が敵に回ったときを恐れよ”というお題目で
飽きもせずに自分らの首を締め続けるのが地球人だろう!?
信じたことは後悔しても疑ったことは後悔しないのが
お前達の習性のはずだ!」
「俺はクラーク・ケントを信じている。
仮に彼が敵に回っても、その時はクリプトナイト以外でどうにかするさ」
「ならこれは……!!」
自らを包む粉末の正体を探ろうとしたタル=ローに異変が訪れた。
口からは舌が伸び、両眼からは止めどない涙が流れ続け、
喉を掻き毟り始めた。
「これは……!?」
「人間の五感で最も強力なものは嗅覚だ。
この粉末にはスーパーガールから聞いたクリプトン星の風土の香りを再現してある。
お前の警戒心を無意識に解かせ、そこに味覚を責める。
地球人ならばすでに目も舌も鼻孔も爛れる程に強烈なものだ。
最初は気づかずとも、数億倍に味覚が強化されたクリプトン星人なら……」
苦しんでいるタル=ローにスティールはハンマーを振り下ろした。
甲高い音が舟の中を響き渡る。
頭を押さえる余裕もなく、五感を翻弄されて
クリプトン星人が呻き、苦しむ。
「があ! おのれ地球人……!!」
攻撃の反動がジョン・ヘンリーの骨まで響くが、
歯を食いしばって耐える。
耐えるのは得意だ。
ジョン・ヘンリーだから。
頬にハンマーを振り抜く。
クリプトン星人の歯が折れて床に刺さった。
次も、その次も、骨に微細な罅が走るのを感じながら、
スティールはハンマーを振り続けていく。
「舐めるなよ……!!」
がむしゃらに掴みかかられ、
手からハンマーがすっぽ抜けた。
空虚な音を立てて転がっていく武器。
徐々に目も舌も適応してきたのか、
こちらを視認し、タル=ローが勝ち誇った。
一発でも貰ったらアウト。
その状況下でスティールは前に出て、
相手の顔を殴りつける。
甲高い音がし、続けて両手を相手の顔に押し付ける。
残った全エネルギーを解放して
腕部の装甲が砕け散り、焦げた臭いが辺りに充満した。
「負けるか……私が最後のクリプトン星人だ!
もう生身同然の貴様に、この雄偉たる私が、
王であることを宿命付けられた私が負けるはずは……!」
「高く……」
全ての意識を今の動作に凝縮させる。。
素手で砲丸投げをする容量でハンマーを回し、
回転が最高潮に至った瞬間に手放した。
「もっと、高く!」
放たれたハンマーが無回転でタル=ローの胸に突き刺さった。
両足のブーツによる飛行で
足の裏を槌の柄に置き、飛び蹴りの形でダメージを倍増させた。
「クソ……! またあの牢獄に戻れというのか……!!」
「クラークには面会に行くように伝えておこう」
胸に両手をやり、ハンマーを外そうと悪戦苦闘していた
モーガン・エッジが、歯軋りをして叫んだ。
「だから何だ! あいつは私のことなどとうに……」
「彼はお前が家族になることを望んでいる」
その言葉を聞き、スーパーマンの兄が、
ハンマーから手を離して苦笑した。
「鋼鉄め」
一言だけを告げ、意識を無くしたタル=ロー。
倒れた彼を見下ろし、黒いインナーにブーツだけをつけたスティールが
肩で息をしていると背を叩かれて振り返った。
「ありがとう、スーパーマン」
両腕を腰にやり胸を張っているクラーク・ケントが
スーパーマンとして立っていた。
「もう少し頑張ってもらえるかい?
地上の被害を確認したい」
「もちろん」
ハンマーを担いでスティールは
スーパーマン、ビザロと共にその場を後にした。
##############
「いやあ本当に君がいてくれて助かったよ」
「不安じゃなかったか?」
スモールヴィルのダイナーにて、
クラークとジョン・ヘンリーが並んで食事を取っていた。
昔から寂れた施設だったが、味はクラークの思い出にあるままだ。
「どうして?」
「どうしてって……俺は地球人で、
肝心の頭脳も地球一というほどでもないからな」
「でも君はスーパーマンだ。
スーパーマンが負けたりするもんか!」
「いや負けるだろう。お前だってちょくちょく負けてるじゃないか」
「アハハ、まあいいんだよ」
朗らかに笑ってクラークがパイを食べていく。
ジョン・ヘンリー・アイアンズは時にスーパーマンと呼ばれるが、
彼はクラークの復活後は一度も自称したことがない。
初めは律儀に訂正してきたが、
じきにもうスーパーマンと呼ばれるのを諦め始めてきた。
「俺はスーパーマンなのか?」
「そうでしょ、胸にSの字をつけてるじゃない。
まさか外すっていうの? やめてくれよ、そういうの。
君のコスチュームの着想は母さんの手作りから来ているのを忘れないでほしい」
「しかし……どこがスーパーマンだ?
力も頭脳も残念だが決して誇れるものではない……」
「僕もそうさ。僕はね、スティール。
腕力の暴走と同じくらい、智の暴走も恐ろしいと知っている。
バットマンやルーサーといつも会ってるからね。
ブルービートルやMr.テリフィックすら、心のどこかに底の知れない闇がある」
カンザスの日常に誰よりも溶け込む風貌なクラークに、
あの日、自分の腕を掴んだスーパーマンの姿を
ジョン・ヘンリーは確かに見た。
「君は智のスーパーマンだ、ジョン・ヘンリー・アイアンズ。
僕は君ほど信頼に応え続ける智の人を知らない」
面と向かってそう言われ、
ジョン・ヘンリー・アイアンズは言葉を返せない。
感謝の言葉を告げれば良いのか、
それとも意気込みを見せれば良いのか。
「なんと言えば良いのか……」
「言葉はいらない。とにかく、ここにいてくれ」
腕を掴み、真摯な表情でクラークが言う。
先程までの荘厳な雰囲気とは大きく変わり、
クラークに恐怖と怯えの表情が強く見えている。
「何があった? ここに何か来るのか?」
警戒しているのを周囲に悟られないようにしつつ、
いつでもアーマーを展開できるようにしておく。
「ラナがここに来る」
「…………彼女に何かあったのか?」
ジョン・ヘンリー・アイアンズとラナ・ラングは恋仲だ。
彼女に何かがあっては、
彼も平静でいられる自信はない。
「カミングアウトしようと思う」
思い詰めた表情でクラークが切り出した。
真剣さ、言葉と合わさってスティールは熟考の後に納得した。
クラーク・ケントは両性愛者だったということか、
これまでまるで素振りがなかったが、
バットマンとの親密さを思えば納得行かなくもない。
幼馴染であり親友の彼女にそれを隠していたとは、
彼女は受け入れるだろうが、恐れても無理はないのかもしれない。
日常で着用している遠視用の眼鏡を光らせ、
ジョン・ヘンリーは安心させるように頷きかけた。
「安心しろ、怖いなら俺が側にいる。
ロイスにはすでに告げたのか?」
「…………は? もしかして勘違いしてる?」
「………………すまない、何をカミングアウトするんだ?」
「僕がスーパーマンだってことだよ。
もうジョンがあんなに大きくなったし、
子供の頃の息子に会ってるんだから隠せるわけないじゃない」
「あぁーーーー……」
自分の勘違いに気づき、納得した。
だが本当にここにいるべきなのだろうかと
ジョン・ヘンリーは考えた。
クラーク・ケントは彼が知る限り最も強く、高潔な人物だ。
カミングアウトの恐怖はもちろんあるだろうが、
それよりも幼馴染、親友と
正面から向き合う重要性の方を見るべきという捉え方もある。
「まあ……まずはラナから打ち明けて、
もしかしたら世界中に公開ってこともあるでしょ?
そうなるとラナをその他の人と同じには扱いたくないんだ」
「よくわかった……わかったが、
それはふたりきりでやるべきじゃないか?
幼馴染なんだし積もる話もあるだろう。
最初は席を外しておくから、合図をしてくれれば……」
そう持ちかけるジョン・ヘンリーの腕を
クラークが縋るように掴んだ。
「ちょっと待ってよ。行かないでよ、怖いよ!
困った時は助けてくれるものなんじゃないの!?」
そうしている間に、
ダイナーのドアが開き、赤毛の女性がこちらに手を上げてきた。
クラークがこれから起こることに
様々な想像をして怯えて震えている代わりに、
スティールが手を上げて彼女を出迎えた。
「ヒィーーー―、怖い。怖いよスーパーマン」
アポコリプスの軍勢を相手にしても
絶対に見せることはないだろう純然たる
”スーパーマンの心底ビビった”姿。
両手をすり合わせてスーパーマンがぶつぶつ呟き、
そんな彼の腕を掴んでスティールが元気づけた。
「大丈夫だ。俺がついてる」