DCユニバースvsプラスチック姉さん   作:スカンジナビア半島

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メメメメメメメメメメンヘラぁ…VSタイタンズ前日譚:The Back of a hero(中)

 

「親族だからこそな。言わなあかん時はあると思うよ。

 血縁を悪用とかじゃなくな。

 やっぱり小さい頃を知ってるからこそ響くってのが、おっちゃんはあると思うんや」

 

「そう思うのはかっちゃんが良い人だからよ」

 

長い舌を垂らした河童が釣り糸も垂らす。

その横で、大柄な影も釣り糸を垂らしていた。

のどかな時間であった。

戦いの”た”の字もない平和な光景だった。

 

「昔は良かったんだけどねえ。

 キッカケは、息子がパワハラとセクハラへの欲求に呑まれたことかなあ……

 そこでガツンと言ってやるべきだったのかも。

 でも、私もその頃は愚かで、好きにやれって言っちゃったんだ。

 そしたら、息子が自殺に追いやった女達の同僚がどんどん出世してね……。

 息子は憤死に追い込まれたし、父親の私も干されちゃったの。

 だから、もう全部が報いに思えて……」

 

巨大な存在の瞳が潤んだ。

 

「過去は色々や。誰もが過去は色々あるもんや、スーさん」

 

アポコリプスの将であるステッペンウルフがうなだれる。

いつからこの関係が始まったのかは定かではない。

なんとなく出会ってなんとなく並んで釣り糸を垂らし、思ったことをポツポツと語り合う。

それくらいの間柄でも、二人は不思議と馬が合った。

ステッペンウルフにとって、これほど安らげる時は初めてだった。

 

「ダークサイド様の幼い頃も知っているけれどね。

 あの御方も昔は……まあ、あんまり変わってないか。

 でも、昔は可愛く思えた気がするなあ」

 

「ちゃんと向き合お?

 もう一度現場のチャンスをくださいって言おうや。

 スーさんにはまだまだ未来がある! おっちゃんにはわかるで。

 最後にやった悪事はなんや? 言うてみぃ?」

 

「アース2のワンダーウーマンとの間に娘を作ってから、そのワンダーウーマンを殺したこと……背後から剣を刺して……」

 

「いよっ、大将!! すごい悪行や!!

 出会う場所が違ったら、おっちゃんも究極進化形態にならなアカンかったほどやで!

 ちゃんと実績があるんやから、失敗したって気にすることあらへん。

 駄目でも、ここでおっちゃんが釣り糸垂らして待ったる!」

 

「ぐすっ、ありがとう……」

 

鼻の下を擦るステッペンウルフ。

The市には過ぎた人格者と名高い「河童のおっちゃん」の優しさに触れ、職場に悩みと虚無を抱えた大人が、河童のぬくもりに涙ぐんでいた。

 

「あの二人は何をしてるの?」

 

『大人の話じゃよ』

 

ダーラを膝に載せ、宙に浮かんで揺り籠のように揺蕩う神が言う。

その口は動かず、開いてもいない。

腹話術でもないのは、彼女の喉さえ震えていないことからわかる。

この一柱が発する言葉、肉の声は例外なく破滅を呼び寄せるからだ。

名をサバエナ、または「おっぱいパックマン」と言う。

 

「大人になると悲しくなるの?」

 

『まあ、人それぞれじゃよ。

 大事なのは人にやさしくすること! 人にやさしくじゃ。

 ハッキリ言って、あそこの痴れ者は自業自得以外の何物でもないわ』

 

「あたし、よく先生に『誰にでも優しくて偉い』って言われるよ!」

 

ダーラが顔を上げてサバエナを見上げた。

そんな幼子の頭を撫でて、神は笑みを浮かべる。

 

『うむ。お利口さんじゃな。

 でも、それをずっと続けねばいけないのじゃぞ。

 毎朝毎晩、早寝早起きをし、遊んでばかりではなく勉強をし、ご両親には口答えすることなく生きるのじゃ』

 

「おう、なにウザいこと言ってるですか」

 

「そういう口うるせえこと言ってたら、懐かれてたのも台無しですよ」

 

開口一番に無礼千万なことをサバエナに言う、あどけない声が届いた。

フォースワールドやオールドゴッズの界隈で、サバエナにそのような口の利き方をする者は誰もいない。

守って慈しむべき子供だけが、サバエナに砕けた話し方をすることを許されていた。

 

『おう、悪童じゃ。あんな風になってはならんぞ』

 

「そうなの? すごく可愛くて優しそうなのに?」

 

ダーラが、頭に顎を乗せているサバエナを見上げる。

神々にも信奉者にもウザがられ、海底に封印されていた推定邪神が、ずっと膝から少女を離そうとしない。

 

「嬢ちゃん。見たところ余所者(よそもん)だな?

 悪いことは言わねえ。早く帰りな。

 これは冗談じゃねえですよ。

 全速ダッシュでここを出て、二度とこんなとこに来ちゃいけねえですよ……?」

 

「ここはオメーみてえな、愛されて育ったアマちゃんに耐えられる街じゃねえですよ。

 いや、本当……なんでこの街に来たですか……?

 親御さんは何を考えてるですか……?」

 

「だってお兄ちゃん二人が行くって内緒話してたし……

 海外にあんまり行ったことなかったから」

 

「ちょっと待て。こんな小さな妹を、クソウザおせっかい邪神に任せてどこ行ってるですか、そいつら!」

 

「場合によってはお尻をお仕置きしてもらうですよ!」

 

『落ち着け、ウノとサノよ。

 この子の兄らはもうすぐ戻ってくるはずじゃ』

 

The市、引いては宇宙で最も危険な種族、宇佐美家。

そこの幼体である双子、ウノとサノ。

この街の狂人、悪人、ヒーローと深い関わりがあり、恋愛で腑抜けたとされる姉の跡目を継ぐとも見込まれた人物だ。

 

「戻ってきたぜ、サバエナ様!」

 

「この街のヒーローが、もうなんとかしてた」

 

青いケープと赤いケープのそれぞれが空から戻ってきた。

魔法界のすべての知識がある「ロック・オブ・エタニティ」には、当然ながらThe市の魔術に関する知識もある。

この街で魔術や神秘の界隈に通じているのは、学校の購買で働くおばちゃん、河童、そしてサバエナ様などがいたが、その中でも最も強力な力を持つとされる神にコンタクトを取ったのだ。

流石はゼウスやオシリスにも並ぶ神々とされるサバエナ。

誰よりも早くジョーカーの帰還を察知し、シャザムの二人に偵察と対処の依頼をしていた。

 

『そうか。ご苦労じゃったの。

 しかし、あのいけ好かないジジイに比べて、奴の選んだチャンピオンはまこと愛くるしい……』

 

「ウフフ、背中がくすぐったぁい」

 

ダーラがくすぐったそうに身を捩って笑う。

何かが引っかかったのかと思ったフレディは、ビリーに小声で尋ねた。

 

「そういや、サバエナ様ってどこで喋ってんの?

 テレパシーじゃないよね」

 

「おっぱい」

 

「は?」

 

「乳首で喋ってるってさ」

 

「あー……それで背中の辺りにある乳首が動いて擽ったいってことなのか……

 そんなのエッチすぎんだろ……!!」

 

「そうかあ!?」

 

いつものように兄弟で話をしていると、小さな双子のウノサノがじっと見上げてくる。

双子というのは周りにもいるが、ここまでそっくりな双子は初めてだ。

それにSHAZAMに変身していても、接近に全く気づかなかった。

 

「シャザムですか?」

 

「ああ、そうだよ。あの子がお世話になったみたいだね」

 

「ウノ達は今、来たばかりなんですよ」

 

「あの子の糞兄貴は今どこにいるですか?」

 

「彼らは用事があって、俺たちにダーラを任せたよ」

 

「なぁにぃ!?」

 

「不届き者ですよ!」

 

目を吊り上げて双子がプンスカ怒る。

兄は目の前にいるが、正体は原則として隠す必要がある。

サバエナ様が極めて位の高い神なのは知識としてあるが、その上で子どもたちにもこうして慕われているのは意外だった。

 

「それでさ、他になにかやることあります?」

 

フレディに尋ねられ、神が河童の方を一瞥する。

そこにはもうステッペンウルフの姿はなく、河童のおっちゃんが釣れた魚を干物にする作業をしていた。

 

「あのおっちゃんがどうかしたのか?」

 

河童ならゴッサムにも多く生息し、時にはユーラシア大陸、それにロック・オブ・エタニティからアクセスできる妖怪の世界にも当たり前にいる。

見たところ、あそこの河童はSHAZAMの知るそれとは違っていた。

おそらくは世界の歪みが、たまたま河童の形をしているのだろう。

本物の河童にしては舌が地面に着きそうなほど長く、見た目、特に頭身が「ただの河童のタイツをつけた人間」なのもそのせいだ。

 

『うむ……もっとわかったら改めて話すとしよう。

 いつでもブラックアダムやワンダーウーマンに話が行くようにしておけ』

 

「俺らじゃダメなの?」

 

『幼すぎる。こちらの子どもたちが何かお願いをするだろう』

 

「いいですか?」

 

『ただし、夜遊びは禁止。お酒とタバコも禁止。

 不埒な……エッチなことも禁止。

 

 お年寄りと自分より歳下には常に優しくするのじゃ』

 

「う、うぜえ……他所ん家の子どもにかける言葉じゃねえ……」

 

『返事は”ハイ”でよろしい』

 

「はーい!」

 

ウノサノやシャザム達の代わりにダーラが元気よく手を挙げた。

サバエナの鼻の穴がひくひくと膨らみ、頬が振動し、喜びに肩を震わせた。

普段からしつこいくらいに子どもたちに声をかけるも、返ってくる善意には弱いのがサバエナだ。

 

「ところで、その子も連れてっていい?」

 

『ダメじゃ。一緒に動物たちのもとへ遊びに行かんとの。

 千里眼で、この子が必要になったらすぐ向かわせるから心配はいらん』

 

「うさちゃんやリスさん達の村に連れてってくれるって!」

 

全身で喜びを示す妹に見送られ、兄二人はウノサノに手を握られた。

可愛らしい顔立ちだが、小柄すぎるせいか、フレディは特にはしゃがない。

 

「まあ、サバエナ様もそう言ってるし、なんか困ってることある?

 あと、この街にすっごいイヤらしいお姉さま達がいるの知ってる?」

 

「種族のことですか?」

 

「それなら家のことですよ」

 

「ええっ!?」

 

「いやいやいやいや……それはちょっと……エスターかよ」

 

こんなに幼い外見の子どもがそんな役割を担えるのか、この国は。

あまりに冒涜的で禍々しい事実に、ビリーは顔をしかめた。

ウノサノの見た目はせいぜいダーラと同じか少し上くらいだ。

それには早すぎる。しかし、適した年齢とは?

 

「マジかあ…………つか、小さすぎるだろ。

 これも異文化ってやつなのか」

 

ナイスバディの美女軍団を想像していたフレディが、すっかり気落ちしてうなだれる。

かの種族とのファーストコンタクトに向けて、この国の文化を夜中まで熱心に学んでいたのが彼だ。

同情する意味はないけれども、気の毒には思える。

はっきりと意欲が減退したシャザム達を、ウノサノが見定めるように頭のてっぺんから爪先まで注視する。

 

「どうするウノ? こいつら差し出す?」

 

「多少は搾り取っても死なないと思うよ、サノ」

 

「一応は死なせないように気をつけようね」

 

「死んだらその時はその時だけどね」

 

シャザムになったことで感覚が強化された二人には、双子のヒソヒソ話も容易く聴き取れるが、話の意図はわからない。

互いに顔を見合わせてフレディは頷いた。

 

「とりあえず、普通にメアリーの手伝いをしようぜ」

 

「メアリー…………?」

 

「忘れてんじゃねえよ!」

 

叱られてようやく、ここに来た根本の理由を思い出した。

予想以上にこの街の空気に呑まれていたようだ。

ビリーは気まずさに咳払いをして誤魔化した。

 

########

 

The市、引いては宇宙最悪のヤリマン一族とされるのが宇佐美家だ。

彼女らの家は家ではなく巣穴であり、持ち帰った獲物を取り囲んで喰らうための調理場だ。

一度呑まれたら生きて帰ることは不可能だが、それでも呑まれる者は後を絶たない。

 

宇佐美の美しさに誘われ、理性を喪い欲求に支配されることで、この家から逃れられなくなるのだ。

 

「さあ、着いたですよ」

 

ウノサノに案内されるままに、双子を抱えて飛んできた。

一見するとよくある民家だ。

とてもここに無数の者がいるとは思えない。

 

「なんだこれ……!?」

 

しかし、それは魔の世界に通じない者の感想だ。

神々の力、特にゼウスの全能を持つビリーは、近づいただけで己の力が激しく暴走しているのを感じた。

たまらず両手で腹を押さえ、地面に横たわって体を丸める。

 

「なんだこれ。少し……体が熱くなったかも」

 

ヤリマンの「氣」にあてられたフレディが、自分の手を見下ろして首を傾げた。

 

神の力とは神の存在とリンクしているもの。

 

ヤリチン……否、“エッチできればなんでもいい”の性質を持つゼウスの残滓が、

全能を通してビリーの内臓で灼熱となって蠢いていた。

 

 

まるで昔、グリーンアローの激辛料理をブラックキャナリーの紹介で食べさせてもらった時のようだ。

内側に干渉不可能な耐え難い高温があり、しかもこれは出口に向かわず股関周辺を暴れまわる。

 

「チン……いや腹が痛え……!!」

 

「大丈夫かよ」

 

未知の出来事にフレディがおろおろした。

ここに先代シャザムやブラックアダムがいればまだ対処ができただろうが、アトラスの力を継いだフレディにシャザムの異変がわかるはずもない。

 

「呼応して全能が強まっているんだ。

 このままだと俺そのものがゼウスになる気がする。

 とにかく股間が熱ィぜ…………燃えてないよな?」

 

「ど、どうすればいい!?」

 

試したことはないが、シャザムの力からゼウスの全能を切り離すしかない。

メアリー、フレディ、ダーラにアキレスの勇気、アトラスのスタミナ、ヘルメスの神速を分けている以上、今はペドロとユージーンのヘラクレスの剛力とソロモンの叡智の二柱で賄う。

腕を天に突き出し、胸部の稲妻に意識を集中させる。

いつもの声量の6分の1を意識して、ボソリと呟いた。

 

「SHAZAM」

 

ゼウスの全能が天の向こう側、ロック・オブ・エタニティに戻っていき、ゼウスの共鳴が収まったビリーに小康状態が訪れた。

 

額に浮かんでいた大粒の汗を手の甲で拭い、赤い衣装のヒーローが立ち上がる。

ゼウスの全能が取れたのは初めてだが、思ったよりも変化はない。

むしろ気分が頗る良い。

 

まるで自分の中にある欲求の根源が消え、脳髄を惑わせるものが一つ消えたかのようだ。

心、身体、思考から枷が外れ、一足で火星まで跳び上がれそうな気がする。

 

「悪い、もう大丈夫だ」

 

「本当か? なんかあったらすぐ言えよな」

 

「お前ら、もういいですか?」

 

「そっちの事情はわかりようねーですよ」

 

玄関からウノとサノが覗いてくる。

もう平気だと親指を立てて見せた。

ついにその居城へ足を踏み入れると、神の力で大人になった青少年二人の全身を、強大なエネルギーが蹂躙した。

 

「ぐおっ……!!」

 

「ゼウスを捨ててなかったら腰が爆発してたわ」

 

フレディも含め、神の力を持つ王者が、強烈な力場に冷や汗をかいた。

息を整えて階段を上がり廊下に出ると、開いたドアの隙間から、すらりと伸びた脚が出ていた。

ウノサノとは確実に違う、成熟した身体だった。

 

「おい、家族が倒れてるぞ!」

 

慌てたフレディが、倒れている女性を抱き起こして双子に言う。

その女性はウノとサノにそっくりだったが、年齢層が明確に違っていた。

ウノサノがせいぜい12〜13歳ならば、この女性は18歳、どころか20代でも通じる美貌だった。

 

「姉ですよ」

 

「お前らが鼻の下を伸ばして探してた相手です」

 

「ええっ!? 来た甲斐がありすぎるけど、なんでこんなにぐったりとしてんだよ。

 病気ならすぐに……この人がそうなんだな、よっしゃああ!!!!!!!」

 

そうしていると、当人がうっすらと目を開けた。

見れば見るほど綺麗だ。

先程のハルナという真に美しい人とは違う。

意志の力強さ、存在感は、憔悴した中でも普段の無尽蔵なる生命力を伺わせた。

まさに、ヤリマン版セミスキラの戦士といったところだろう。

 

「あなた……だあれ?」

 

「楽にしてください、お嬢さん。

 俺はシャザム。バットマンとナイトウィングに『君こそがオス度100%』と認定された偉大なる精力家です」

 

「お前、そんな口からデマカセを……」

 

そう言いながらも、ビリーは壁にもたれかかって精一杯にクールなゴッサム・ヴィジランテ的ポーズを取っている。

 

「んむ」

 

しかし、ビリーを無視して宇佐美家の女がフレディの唇を奪った。

突然の出来事に心底ビビり倒した魔法のチャンピオンが、壁から床にずり落ちて顎を打った。

目を見開いたフレディが目の前の女を凝視し、それからビリーの方へ視線をやった。

口づけをしている女の全身に、みるみる力が漲ってくるのが見える。

今やフレディの顔を両手で挟み、熱烈な接吻に移行していた。

 

十代ヒーローと言えども、世界トップクラスなら相応の経験はしているもの。

歴代ロビンの恋愛事情なんて二代目以外は聞きたくもない。

きっと嫉妬で全身が焼けるほどに分厚い。

 

しかし、シャザムだけは常に例外であった。

あらゆる出会いがあってもどういうわけかチャンスを逃していた。

 

しかし、この日は違った。

兄弟で最も欲求の強い少年の唇が、不埒に祝福されていた。

ビリーは正気に戻り、他に倒れている者を探した。

一族というのであれば、他にもいるのが必然である。

ヒーローとしての気高き人命救助の精神が、シャザムのあどけなさを打ち消していた。

 

「ウノちゃんサノちゃん、他のお姉さんはどこか、お義兄さんに教えてくれ」

 

こうしてはいられない。

二人で盛り上がっているフレディを置き、治療を必要とする女性達の元へチャンピオンが馳せ参じようとした。

 

「狙い通りだね」

 

「シャザムなら何があってもたぶん復活するよ」

 

「早く早く!」

 

「ほいほい、ここですよ」

 

「良い餌になりやがれ童貞」

 

リビングのドアが開かれ、ビリーが両の瞳を輝かせて飛び込んだ。

 

「みなさん安心してください。俺はハンサムで強くて逞しくてチューも上手いです!

 あっ、ちょっと待ってくださいね、ミントを……無い。

 いいやもう口を焼けばキレイになるだろ、ぐおおおお痛ええええ!!!」

 

消毒に電撃を使い、初体験の痛みに悶絶した。

しかし歩みは止まらない。

広めのリビングルームで要救助者を探した。

 

「あら? 何をしているの」

 

キッチンらしいところから、りんごを齧りながら姉のメアリーが出てきた。

胸元が乱れ、スカートもずり落ちそうなのを手で支えていた。

何かがあったようだが、頭が特定の言葉、

ヤリマンの四文字に支配されたビリーにはどうでもいい。

 

「おい、なんでこんなとこに姉貴がいんだ!

 今はそれどころじゃねえだろ、出てけ出てけ!」

 

「はぁっ!?」

 

彼女が何をしていたかも考えられないくらいに脳味噌が茹だっているビリー。

メアリーの睨みを無視して探していると、腰に誰かが抱きついてきた。

 

「ボーナスだあ」

 

見下ろすと、フレディとキスをした女性と何もかもが瓜二つな女が、股間に鼻を埋めていた。

魔法によっておよそ完璧に拵えた体躯、その下半身に野獣のような息吹が生暖かくかかっていた。

 

「おおおおおおお!!!

 こんなに積極的だなんて……あれ、ちょっと引くな……でも良いや!」

 

「こいつから離れてくれる?」

 

「えー」

 

メアリーが女の首根っこを掴んで持ち上げる。

猫のような扱い方だが、女は大人しく従っていた。

 

「なにやってんだよ、女の人は優しく扱おうぜ?

 なんか具合悪いらしいし……知ってるか!? キスが必要らしいぞ」

 

「もうほぼ治したと思うけど……

 あと、そんなことしなくてもこの人たちは魔法に通じてるの。

 魔力を流したらすぐ治ったからそうして」

 

「ちょっとネタバレやめろよぉ!」

 

反射的に耳を塞いだがもう遅い。

それとは別に、次から次へと元気になった者たちが抱きついてきた。

腰、背中、腕、首。

 

「ボーナスボーナス」

 

「みんなで美味しく食べよ」

 

「病み上がりのチャレンジやろ」

 

「チャレンジターイム」

 

一様に顔が同じであり、体つきもまったく同じだった。

 

「ど、どれも同じ顔ってけっこう不気味だけど……

 それはそれとして、すっごく興奮するぞ!」

 

「ちょっとやめなさいって」

 

メアリーが言うと、女たちが次々に離れていく。

気づけばあまり広いとも言えない空間に、同じ外見のナイスバディが数十人は集まっていた。

見たところ、二人一組で動くのが基本らしい。

 

「おいおいおい、お前がちょっと夜遊びしても何も言わないでやってんだぞ!?

 俺がどうなろうと気にしないでくれ! 向こうにフレディがいますよ!」

 

「ちょっと!?」

 

「やべっ」

 

うっかりフレディの名前を出したがもう遅い。

 

「えー、フレディくんって子が仲間にいるんだー」

 

「どうしよっかなー。一緒に遊んでくれないと忘れられないかもー」

 

「あーー……仕方ないな。母さんには友だちの家に泊まるって伝えといて!!」

 

「そもそも来るなって言ったでしょ!」

 

何故か気分が落ち着いていたメアリーだったが、徐々に弟たちがここにいる意味を理解し、怒りが湧いてきた。

 

ビリーがここにいることを糾弾しているが、そもそも異性に興味がある青少年にとって、ヤリマン属性は絶対のパワーを持つ。

ブラックアダムが童貞二人の暴走に諦め気味だったのも無理はない。

 

「そもそも私はまだ調査中よ。彼女たちの精力を奪っていた物が必ずあるはずなんだから」

 

「じゃあいっちょ、俺は言いつけを守って大人しくするか」

 

「おいやべえぞこいつら!!」

 

ケープが乱れて全身にキスマークを拵えたフレディが駆け込んでくる。

その腰には真珠のネックレスのように女たちがしがみついている。

そして、シャザムの変身が解除されかかっているのか、フレディを覆う神の力が弱まっていた。

 

「今すぐここを離れよう! もうヘトヘトだ!」

 

「この人がフレディくん? かわいいじゃーん。脚のことは気にしなくていいからね〜」

 

「大事なのは真ん中の脚だからねー」

 

さらに女が首元に抱きつこうとするのを、あのスケベなフレディが怯えて逃げた。

アトラスの体力を持っているフレディをして、群がられるのはこれほどの消耗を要するということか。

宇宙一の種族、その呼び名に言い過ぎはないということだろう。

 

「えっ、なんで俺の名前を……?」

 

「悪い、俺がうっかり」

 

「お前、それはねえだろ!? ずっとヤリマンの影に怯えろってか!?

 さんざん僕は冷静ですって顔しといてよぉ、このむっつりビリーが!」

 

「仕方ないだろ、彼女が欲しいんだよ!!!

 もう先にチューしたからって落ち着いてんじゃねえよ!

 こっちはこれから迫ってもらい待ちしねえといけねえんだよ!」

 

「ゼウスの全能でも全員に群がられたら絞られ過ぎて権能が消えるって!!」

 

「あのゼウスの最期だぞ? むしろボランティアだよ!!

 みなさーん! 俺ぜんぜん気にしねえっす!!」

 

手を振ってアピールすると、四方八方から女が群がってきた。

それをフレディが手で振って追い払う。

 

「散って散って!」

 

「何やってんのさあ!?」

 

スケベさで兄妹一のフレディに裏切られ、シャザムは膝から崩れ落ちた。

 

ビリーにも恋人がいたことはもちろんある。

スターガールことコートニー・ウィットモアという、JSAで可愛がられる十代ヒーローだ。

友好的な関係だったが、変身をすれば30代半ば以上の見た目になるのがビリーの力である以上、同年代との恋愛には無理があったのだ。

 

だが、今でも後悔する。

 

そもそも正体(シークレット・アイデンティティ)を明かしていればよかったのでは、と。

弟二人を無視し、メアリーは宇佐美に話しかけた。

 

「ごめんなさい、家の中で騒いで。

 ところで、どうしてフレディの正体を知っていたの?

 変身は解いていないでしょう」

 

「えー?」

 

ニコニコして躱そうとするのを、長姉が相手の頬を片手で挟んで凄む。

 

「とぼけないで。脚のことを言っていたでしょ」

 

「わかったわかった。メアリーちゃんってば怖ーい、鋭ーい。

 私たちには超能力が基礎能力としてあるの。サイコメトリーで正体を見ちゃったから、ごめんねー」

 

「スゴイけどちょっと厄介すぎるわね。

 とりあえず、どうしてそんなに具合が悪かったの?」

 

メアリーは大学生なので、弟や妹に比べて非常に優れた学力を持っていた。

ヤリマン種族にはあまり詳しくないが、あらゆる未知に直面するのが魔法の王者というもの。

リーダーのビリーと、親友のフレディが年齢制限に触れる事態であることを除けば、非常に理性的に動いていると言えるだろう。

 

「ごめん。俺、ちょっと無神経だった」

 

「いやいいよ。俺もスカしてたところがあったし」

 

和解した兄弟を無視し、宇佐美の女は下を指差した。

 

「魔界?」

 

大きな都市、そして治安の悪い都市の地下には魔界があることが多い。

どういった魔界かは場所それぞれだが、The市にあるのは自明の理過ぎた。

 

「それよりちょっと上の、地底、マグマだと思う」

 

########

 

地底、マグマが吹き荒れる中で、The市の市長は上半身裸でいた。

足元には溶岩があり、常人ならこの距離でも蒸発必至だ。

しかし、市長にはパワーがあったので、

シャツを脱ぐだけで耐えることができた。

 

「経過は順調のようだな」

 

「これはこれは、ステッペンウルフ先生」

 

万物を断ち割るとされる戦斧、

そして地獄の炎を餌にする馬に跨り、

アポコリプス屈指の名将が隣に立った。

 

「テラはどこだ?」

 

「もう完成しましたから上に戻しました」

 

「独りでか?」

 

「アレが命令を聞くわけもありませんよ」

 

「それもそうか」

 

宇宙でも極めて特殊な環境にあるThe市。

その気をまとめ、特殊な個体で強化した土台はすでに出来上がった。

あの死声の持ち主であるサバエナを縛ってきた土壌は、すなわち怪異と終末(Ω)に肥沃だ。

アポコリプスとの相性は抜群と言っていい。

 

「残念やで、スウさん」

 

赤熱した空間に、湖畔のように爽やかな中年の声がした。

球体の武装モービルに騎乗し、手の甲からブレードを展開させた河童が、悲しげに眉を寄せて地底空間にやって来た。

今の河童は俗に言う「究極進化形態」。

機動力を落とすが、それを遥かに圧倒する破壊力を持った姿だった。

そんじゃそこらの課金では到底達成できない「人権」であった。

 

「やはり来たか、かっちゃん。出来ればこの予感も外れて欲しかったものだが」

 

究極進化が極太のレーザーを射出。

小彗星一つは収まりかねない大きさの空間、その端が砕けて崩落した。

 

「警告や。アポコリプスの将軍さんでも、究極進化にはタダじゃすまんやろ」

 

「この我を誰だと思っている」

 

ステッペンウルフが跨る軍馬が嘶き、襲いかかる機銃を踏み潰して距離を縮めた。

ステッペンウルフが片手で戦斧を下ろし、究極進化を両断せんとした。

そこに釣りで友誼を交わした間柄への情けは少しもない。

 

「ぬぅっ……!」

 

だが、河童の究極態は天に座す者直々に下された力。

ステッペンウルフといえども、そう易々と砕けるものではない。

戦斧が武装球体モービルに触れるか触れないかのところで停止している。

逆にバランスを崩し、落馬してマグマの上を転がる。

河童は相手が接近し切る前に球体を降り、超低位置から甲の刃で馬の脚を切りつけたのだ。

 

本来の河童ではなく、怪異としての河童の模倣である「おっちゃん」ならではの、俊敏な動きと究極進化による剣の切れ味だった。

 

「お馬ちゃんの腱は断たせてもろたで。さあスウさん、早よ帰り」

 

「流石だあ、かっちゃん」

 

顔にこびりついた溶岩を手で払い、倒れた馬を見下ろした。

アポコリプスといえど、これほどの名馬はいないだろう。

究極進化の攻撃を潜り抜けるほどともなれば、ダークサイドでも並ぶ馬はすぐには用意できまい。

 

「その子もただの馬やないんや、安静にしてたら元通りやろ」

 

「必要ない」

 

ステッペンウルフが両手で獲物を握り直し、立ち上がろうとしている名馬の首を一太刀で落とした。

神の眷属に数えられる者は、獣でも溶岩で確実に死ぬことはない。

 

しかし、首を落とされれば別だ。

それも、ニューゴッズによる錬鉄ともなれば。

首が転がり、ステッペンウルフは静観していた市長を見やった。

 

「約束の褒美をやろう。その成果をこいつで試せ」

 

「おお、良いのでゃー!?」

 

笑顔を浮かべて市長が肩を上下左右に回した。

不味い状況だと、河童は内心舌打ちした。

ステッペンウルフとのタイマンでも斬り伏せられないのが限度。

だというのに市長まで参戦されては。

 

「ええい、させへんで!」

 

河童ががむしゃらに球体モービルの操作盤を叩き、打開策を求めた。

古い存在である彼には、こういった最先端技術には全く無知であった。

とにかくボタンを押してレバーを引いたことで、究極進化が自爆モードに移行した。

 

「アカン、自爆モードに移行してもうた!

 これ他に方法なかったかな? とりま勢いに乗らせてもらうでえ!!

 おっちゃんには守らなあかん命と、嬢ちゃん達の日常があるんや!」

 

「ちいっ、急げ!!」

 

自爆モードのモービルがマルチプルアームを展開し、

ステッペンウルフを絡め取る。

藻掻けばもがくほどに絡め取られ、その手から斧がこぼれた。

 

「まったく、急かさないで欲しいものだがしょうがない。

 速さはパワーだ。IBAC!!」

 

本来はルシファーが管理していた物だが、先だっての決勝戦でアポコリプスが収めた権能。

 

市長が求めていたパワーであった。

現れたのは筋骨隆々たるThe市の長。

名字を羽賀という、キング・オブ・パワーそのものの怪物だ。

 

それにIBAC――雷帝イヴァンの恐怖、ボルジアの狡猾、アッティラの苛烈さ、カリギュラの冷酷さという、人類史の各分野でトップを張った偉人の力を持っている。

邪悪な偉人の力は、並大抵の残虐などは歯牙にもかけない。

彼らの冷酷無比な所業は世界中の歴史の教科書に記され、その記述は全少年少女を震え上がらせてきたものだ。

 

「ひょ、ひょえ〜〜!!

 あっちと自爆するんやったかも!

 せやけど、これはもうワンチャン狙うで!!」

 

己の判断ミスを疑うが、そのまま河童は自爆を敢行する。

相撲で知られる河童である彼は、レスリングにおいて極めて秀でた技術を持っていた。

機械とは別に低空タックルからステッペンウルフの背後を取り、裸絞めで敵の気道を締めていく。

 

「図に乗るなよ、怪異風情が!

 古き神の一柱でもないバグの残滓風情が!

 究極進化如きで、スーパーマンも砕けはしなかった鎧に傷がつくものか!」

 

怒り任せに友だった河童を罵り、究極進化と河童から逃れようと腕を振り回す。

 

アイバックの加勢が来るよりも先に、自爆のカウントダウンが進む。

ダークサイドに看破されたステッペンウルフの最大の欠点、性根の圧倒的矮小さが顔を出した。

涎と鼻水を垂れ流して河童に提案をする。

 

「考え直せ。お前は河童そのものでもない。

 せいぜい海と川の周辺しか動かず、小娘程度としか関わらないのがお前の日常だ。

 どこに自爆するまでの価値がある?」

 

「それはあるよ。おっちゃん的には、間違いないわ」

 

いつもの気さくさであっても、河童のおっちゃんの眉が凛々しく吊り上がる。

それだけで、万力でも曲がらない意志が見えるというもの。

ペースが加速的に増す自爆の電子音が遠大に引き延ばされた。

究極進化が大爆発を引き起こす前に、紫色の流星が神速で河童を退避させた。

 

「助けに来たよ、カッパさん!」

 

「嬢ちゃん!? サバエナの姐さんと遊んでた子か!

 アカンで、こんなとこおったら!

 はよお家帰ってクレイグかスパイファミリー観ぃ!

 特に『クレイグ・オブ・ザ・クリーク』は子供が安心して観れる良質カートゥーンや!」

 

SHAZAMにてヘルメスの神速を駆るダーラが、河童を抱きかかえてとにかく走る。

 

スピードフォース無しでも超音速は軽いスーパースピード。

置いていかれたステッペンウルフは、叫ぶ暇もない。

次の瞬間、広大な地下空間を埋め尽くして余りある、小島くらいなら消滅も容易な爆発が巻き起こった。

The市の居住エリアくらいなら容易く地図から消せるほどの規模だ。

 

「おおおおおっ……ごっつい爆発やぁ……!

 おっちゃんがあそこおったら、いくら甲羅あってもおじゃんやったでえ。

 サンキュな、お嬢ちゃん。ホンマにサンキュな」

 

「ううん、全然大丈夫だから!」

 

爆発が収まり、河童が辿りうる進化の究極たる球体モービルの残骸の中で、ステッペンウルフが半壊した鎧と砕けた半身から動き始めていた。

恐るべきニューゴッズの生命力。

腐ってもダークサイドの叔父であるだけのことはあった。

 

「まだだ。IBACの加勢もあれば、仮にシャザムがいようが、必ずや――」

 

『ここで何をするつもりか、答える気はあるか?』

 

爆心地、未だ熱も冷めぬ中で、乳首で喋る神が、恐ろしいほどに冷悧な眼差しでステッペンウルフを見下ろしていた。

オールドゴッズであり、主神ではないサバエナだったが、ステッペンウルフを怯ませるに十分な神格があった。

 

「…………!」

 

『なんじゃ、答えぬのか』

 

サバエナの表情は変わらない。

乳首で話す彼女はポーカーフェイスめいていた。

しかしわかる者にはわかる。

これは、相手に一切の興味も愛情も抱いていないからだ。

 

「ま、待てサバエナよ。ともに子を作る気はないか?」

 

突然の申し出。

サバエナが眉を上げ、首を傾げた。

この邪神、存在して永劫の時を生きてきたが、未だに乙女だった。

子供を作る方法は知っていても、口説かれる経験には全く未知である。

 

「我らの子なら、ワンダーウーマンとの娘も超えた……ダークサイド様にも並ぶ子供が生まれることだろう」

 

不躾にじろじろと全身を眺めるステッペンウルフ。

はだけた胸元を手で隠し、普段は男の視線も一顧だにしない神が、口をへの字に曲げた。

口説かれ経験のない数万年純血のサバエナでも、「不愉快な口説かれ方」というのはわかる。

 

「我らでフォースワールドを統べるのだ。なあ、いいだろう? お前にもわかるはずだ」

 

聞くに堪えない。

サバエナは静かにステッペンウルフの顎に手をやり、相手の口元に己の唇を近づけた。

ステッペンウルフが歓喜に目を細め、死声の神は一言囁いた。

 

「フウッ」

 

ただの一息で、ステッペンウルフは塵になって消えた。

 

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