「クリスタぁぁぁ!ほんまに結婚してくれ!?」
危ない死にかけた、危うく木に高速で衝突しぐちゃぐちゃになるところだった。
女の子にグロテスクな姿は見せられない。ここだけの秘密、その子の前でくらいは格好よくいたいのだ。
「もぅ!………サクふざけたこと言ってたら怒るよ!?」
So!自分には好きな子がいる!
どうしようもなく残酷な世界で金髪碧眼の美少女に恋をしている。
Z世代、日本という平和な時代で学生をしていた自分に世界のため、誰かのために自己を犠牲にする崇高な志は毛頭あるはずもなく………しかし恋は人、人格までも変えた、魔改造されたのだ!!その根拠に自分は今、巨大版カッターナイフ似の武器を持ち空をハエのように飛び回ってしまっている。
自分が怖いょぉ、好きな子のためならなんでもしてしまいそうな気がする。
「立体起動中はだめだよ……他の時ならぁ…あぁ……っ……サク聞いてないでしょ!?……それに、また怪我して血出てる…私に見せて?」
「見惚れて全部聞いてなかった…手当してくれてありがとうだけど、クリスタ?鼻血も止めてくれない?可愛すぎて出た!」
「っ、サクのばかぁ!」
頬を朱に染めたかと思えば、自分の胸に顔を埋め両拳で胸を叩く金髪碧眼美少女の一挙手一投足に心が動く、こんな世界も美しいと思えてしまう。
最も尊い己の命をこの子を守り幸せにできるのなら懸けられる。散っても悔いはないと思えるほどガンギまっている。
しかし刃を取り空を舞う理由が好きな子を守りたいというのは意外とかっこいいのではないか?と最近になって思っている。これなら訓練兵入団式の行いも黒歴史にならないだろう、確認だけど以外とエモいよね?
うん……悪くはないけど、だいぶくさいなぁ。前世なら笑われイジられていたかもしれない。
でも戦う理由には、生きる理由には十分だった。
どうしようもない世界で死んでも叶えたい唯一の夢。
恋した子を守りたい、世界一幸せな女の子にしてあげたい。
——847年
トロスト区近郊にある訓練所で104期訓練兵の入団式が行われていた。
「貴様は何者だ!」
数年前に訓練兵を卒業した青年は先程の信じられない光景を目の当たりにするまで、恒例行事の通過儀礼を感慨深い気持ちで眺めていた。
最初はある訓令兵が自分たちも畏怖していた教官に盗んだ芋を半分と言い半分の半分を渡したのだ。
それを見た時はなぜか自分が苦しくなり目を背け耳を塞いだ、立派になったと思ったのに訓練兵に逆戻りした気分になったがまだ許容範囲だった。
あの子以上の子は後にも先にも現れないと冷やした肝を温めているのも束の間、耳を疑う未成年の主張が聞こえてきた。
「ウォール•ローゼ北部出身!サク•ラサクです!」
「貴様のような色白の日弱そうなのが兵士に?笑わせるな!!!なんの目的のために兵士になる!?」
「俺には好きな子がいるぅぅぅ!!!!!!からだ!!」
「な……に?」
未成年の主張が訓練場にこだまする。
先程の子さえ大切に握っていた芋を落としている。
そして教官の一方的な罵倒の流れは終わり、反撃の狼煙が上がる。
「自分からも一ついいですか?」
「…………あぁ、なんだ」
「おいハゲ、さっきあの子を泣かせただろ?自分も一発殴られるから一発殴らせろ後で」
—-あぁ気持ちいい、心の中で喜んでしまっている自分がいる
でも、もう帰ろう。
「まだ走らされてるのかなぁ、あの芋女と本物」
「あぁ、サシャも相当だがサクというのは紛れもない本物だったな…余り関わらないようにしよう」
丸坊主と短髪金髪筋肉戦士が話をしている。外を走る二人は食事中の笑い話、貧相な夕飯のおかずにされていた。
そんな中、短髪金髪筋肉戦士が誰も気にしなかった疑問を口にする。
「泣いていたあの子とは……」
「うぅ………」
金髪碧眼の美少女は数多の視線から逃げるように二人分の余ったパンと水を持ち食堂を後にした。
(サクの馬鹿……あんな場所で言うなんて信じらんない!絶対に怒る!)
通過儀礼で盛大なスタートダッシュを切った男の子と少女は幼馴染になる、少女は誰もが気付く少年の恋心を未だに理解していない。
早く説教をするため幼馴染の元へと急いでいると、到底人とは思えない何かに抱き締めていた二人分のパンと水を奪われた。
「これはパン!?」
「それだけしかないけど……でもそれ……」
手に持っていた二人分の食事は既に捕食され、幼馴染の分は既に彼女の胃の中にある。
本音を言えば少女より幼馴染が心配だった。お腹は空いていないか、教官に馬鹿なことをして倍返しにあっていないか不安で仕方ない。
「女神様ぁ……ありがとぅ………」
疲労からの食事で少女は意識を失うように眠りについた。
「何やってんだお前?」
気配なく現れたもう一人の少女に声をかけられてビクッとしながら振り返る。
「お前いいことしようとしてるだろ?それはそこで倒れている芋女と本物のためにやったのか?」
苛立ちを隠せず威圧的に話すユミルという少女、しかし金髪の少女は入団式の時のような動揺はしない。
少し恥ずかしがるように視線を逸らし目で追いかける、芋女ことサシャより多く走らされている馬鹿な幼馴染を。
「違うの……そこに倒れている子のためでもサクのためでもない
私のためなの…」
困ったように笑う少女にユミルも困ったように笑い返した。
「そうか、とりあえずその馬鹿を運ぶか」
「うん」
ベッドにサシャを寝かせ戻ると走っているはずの幼馴染の姿が見えず慌てて食堂など紹介された訓練場内を探し回った。
冷や汗が噴き出る、心臓の鼓動が速くなり胸が締め付けられる。少女にとって幼馴染は自分でも気がつかないうちにそういう存在になっていた。
「リア?」
私の本当の名前を呼んでくれる唯一の人。
後ろにいるのは皆から本物と呼ばれ笑われていた私の幼馴染。襟足が長く青みのある黒髪、男子とは思えないくらい細い体、開拓地にいた時は大人の女性に連れて行かれそうにもなったくらい顔が整っているが、信じられないほど馬鹿だ。
「サクの馬鹿。怪我してる…見せなさい」
「ツンツン、リア…だと!?」
ふざける幼馴染の手を引き誰にも見られない場所へと連れて行く、胸に額を押し当て拳で胸を叩く。
「ッ!……それより痛かったんでしょ?………傷ついたらやだよ、サク」
「一つ言わせて、全く痛くなどない!逆に一発かましてやったわ!」
教官に殴られたであろう腫れた頬を優しく撫でる、明らかに幼馴染が悪いが泣いてしまった私も悪い。
「目が赤いけど?」
「っ…痛くないもん
それは置いといて……これはデレデレリアってことでいい?すっごい力で抱きついてるけど」
「ッ!?馬鹿なことばっかり言ってるとパンあげないよ!?」
そして思い出す、二人分あったはずのパンと水がないことに。余りものを探しに行こうとする私の手を強く握り離さない幼馴染。
「お腹も胸も誰かさんの仕草のおかげで一杯だからなぁ、食べられないや……その代わり、もう少し一緒にいて」
「ぅん…いいよ…」
会話がなくても心地良い時間、永遠に続いてほしいと思う時間は水のように流れ、日が沈み始めた頃には静かな寝息が聞こえ始めた。
そっと隣に座る幼馴染の頭を動かし膝の上に置き前髪を耳にかけたり鼻や唇を触り遊ぶ、こうしていると幼少期を思い出す。
私の白黒の世界を瞬く間に彩った幼馴染、誰にも必要とされない愛されないのが当たり前、自分自身でさえ存在価値はないと思っていたのにサクだけは違った。
起きてる時に言ったらサクは怒るだろうなと可笑しくなる。
「どうしてサクは私にこだわるの?なんにもしてあげられないのに、なんにもない私を……」
人並みの幸せは知らないが、膝の上で眠る幼馴染だけには安らぎと幸せだけが待っていてほしい。
「ッ……」
繋いでいた片方の手が強く握られ声が漏れそうになり、慌ててもう片方の手を口に当てる。
いつもは能天気なのに急に怒るから困ってしまう、寝てるふりをするなら顔は顰めたらだめだよ、いつもは下がり気味の眉も上昇気味。
やっぱり私の幼馴染は馬鹿、そして馬鹿がつくほどに優しい。
「ありがとサク……」
今度は嬉しそうに笑う幼馴染が面白く少女は声を押し殺し笑った、目尻から溢れる涙が少年の顔に落ちないように袖で拭いながら。
食堂から聞こえる喧騒は二人には届かない、ただ時間が流れる。
一分一秒が惜しい、二人だけの愛しい秘密の時間が。