ヒストリア、結婚してください   作:すしぴょ

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2話

「サク、貴様何をしている!?もう一度最初からだ!!」

 

チッ!なぜか教官に気に入られてしまった。一発かましてやったからか?問題児に教師が優しくなる不思議な現象のせいなのか…ちょっと待て、それだと自分が問題児になってしまわない?

 

スキンヘッドとの熱い熱いマンツーマンレッスン開始から小一時間が経つ。

 

少し離れたところでは明日の立体機動適正試験に備え友達と復習する集団がちらほら。ちょっと!青春すぎるって!…前世、友達との試験勉強、苦くも大切な思い出が蘇りノスタルジックに浸っていた。

 

「サク、大丈夫か?……これは、頭を打ち意識が朦朧としている、目が私を見ていない……医務室まで運んでやるから、診てもらい次第食事をとり明日に備えろ」

 

すっごい鳥肌が立った。

 

なぜ自分だけフルネームじゃないのだろう。その呼び方をされるとリアだと一瞬思ってしまうじゃないか!?後遺症になったらどうしてくれるんだ、保険もないし治療もできないだろ!

 

———

 

「マジで頭いてぇ、擦り傷だらけだし…見せられないなぁ………こんな汚い姿」

 

食堂が開いた直後、訓練兵たちは食堂に急ぐためシャワー室は貸切状態になる、つまり束の間の一人時間を満喫できるのだ。

 

……泣いてもいいと思える、この時間が心底嫌いだ。

 

排水溝に流れる赤みがかった水と涙。

 

なんだこの生活、貧相な食事、短い睡眠時間に過酷な訓練ときた。

 

……逃げたい、楽になりたい……と体も脳も心も言っている。祖母の待つ故郷に帰りたい、絶賛ホームシック中だ。

 

周りの訓練兵に比べ劣っているという自覚が既にある、追いつけないほどの才の差を感じる。長所とし挙げれるのは前世の記憶持ちくらい、そんな一般人は兵士などではなく祖母の家業を手伝うのが正解なのかもしれない。

 

もう隣にはいられないと脳裏にちらつき、今日一の痛みを心に味わう。

 

あぁ……

 

まじダセい、守ると豪語しておいてこのザマ。好きな子を守る自分に酔ってるオ◯ニー野郎じゃん気持ち悪いなぁ…

 

シャワー室には水の音と、固く握りしめた拳で殴る自傷の音が響く。

 

「君は、サク君だよね?」

 

「あ、はい…そうです」

 

全裸で壁に寄りかかっていると声をかけられた、厨二病みたいで少し恥ずかしい。

 

それにしても、夕食の時間に人がいるのも珍しい…

 

ん?サラサラ金髪碧眼!!!

 

「僕はアルミン•アルレルトっていうんだけど…大丈夫?顔色が悪いよ?」

 

「……心配してくれてありがと、全然大丈夫……壁に寄りかかりながら考え事ってかっこいいでしょ?」

 

「全裸で?」

 

「う……もう寝ます、おやすみなさい」

 

勘のいいガキだなぁ、サラサラ金髪碧眼だから仲良くなれそうな気がしたが少々厳しいかもしれない。

 

「待ってサク君…一緒にご飯食べに行かない?」

 

———

 

「じゃあ僕は幼馴染が待ってるから、また今度一緒に食べようね」

 

「…ん?」

 

どういうことなん?ここに放置?

 

食堂に一緒に来たはいいが一人取り残されてしまった。あまり食欲もなく、明日に備え布団に入ろうと思っていたが誘いを断れない人間の性だな。

 

誰か一緒に食べる人は……ちょっと待って……スキンヘッドと親交を深めている間にこんなにグループできてるん?

 

「サク、ご飯一緒に食べよ」

 

サク……サク…サク、教官じゃないよな?頭を打ったせいで幻聴が聞こえてて、振り返るとスキンヘッドがいて二人で食事するってなったら食堂で赤ちゃんのように泣くぞ。

 

「食べないのはだめだよ……早く行こっ?」

 

眩っぶ、これは天使だな。羽もそろそろ生えることだろう、天使の輪は既にあるし。

 

本物のリアだぁ……え、ちょっと待ってシャワー後はレアすぎない?可愛すぎんだろ!?

 

———

 

アルミン•アルレルトはクリスタ•レンズという女神の化身のような少女に一つのお願いをされた。

 

それは同室の男の子を私の元へ連れてきてというものだった。

 

「アルミンどこ行ってたんだよ」

 

「ちょっとね」

 

視線の先には定型的な表情しか浮かべなかった同室の美少年がいた、人と接する時の模範的な表情は崩れ綻ぶような笑顔を隣の少女に向ける。

 

少女の方も自分に話しかけてきた子とは違って見えた。女神の化身には到底思えない。

 

そこにいたのは月並みの男の子と女の子だった。

 

「あ…」

 

「何か渡したな、後で確認する必要がありそうだ」

 

テーブルの下で何かを渡す二人に声が漏れたアルミン。独り言に返事があり困惑する。

 

ひとまず覗き見していた自分のことは棚に上げ、アルミンは隣から話しかけてくるライナーが怖かった。

 

 

ベットの上で何時間うずうずしていただろう。明日の適正試験にアドレナリンが出て眠れない同室の人たちと同じように、自分も変なホルモンが出て眠れず目がバキバキだ。

 

興奮は止まらないがすることもないので耳をすましているとちょくちょく巨人という言葉が聞こえるが隠語か何かかな?よくよく考えればワイヤーに吊るされるのは何の試験なん?警察みたいなものかと思って、リアの追っかけ志願したが自分は何になろうとしてるのだろう…

 

堂々巡りの考察をしていると周りの人は眠りにつき、アルミン君たちは数人で外に出て行った。

 

やっと読める!ヒストリアと幼き日から続いてる交換日記!そう言えば小学生の時交換日記してた人たちいたなぁ…交換日記なんてと冷笑していたが、楽しさがわかる!何年経ってもドッキドキするよ、これ。馬鹿にしてごめんなさいと心の中で強く思う。

 

月明かりに日本語が映し出される。

 

—リアとサクの交換日記—#7—-

 

この文字を使えるのは自分が教えた祖母とリアのみ、それが嬉しくも寂しい。

 

ページを捲る音が静かな部屋に響くが周りは既に深い眠りについていた。

 

丸みを帯びた拙い字、簡単な漢字とひらがなが混じり混じりで読みにくいが少年は一文字一文字を噛み締めるように読み、愛おしそうに字を撫でる。

 

——

 

きょうは、りったいきどうそうちのくんれんをしたよ。

 

とってもとってもむずかしかったな…じゅう心とかよくわからなかった…

 

やっぱり回りのみんなはすごいね、私なんかとちがってたやすくこなしてたから。

 

それにくらべてサクはあたまをうってばっかり!私とにてるね、へたっぴなところ。

 

なのに何どもちょうせんするから、かくれてみてたのにとびだしそうなの一ぱいがまんしたんだよ?

 

でもそんなサクが一ばんかっこよかったの…

 

おうえんしたくないのに、かえってほしいのに、気がつけばがんばれっがんばれって思ってた。

 

サクは私のひーろー?だから負けてほしくないのかなぁ、さいごには大したことない平気だって笑っててほしいのかも。

 

たよりないけどね…私がサクのとなりにいるから、一ばんちかくでおうえんするから。

 

あしたは一緒にがんばろっ?サクならきっと大丈夫

 

おやすみサク。

 

——

 

なんだこれ、逃げる選択肢なんて出会った日からないじゃないか。

 

日記帳を抱きしめ、枕に顔を埋め布団に篭る。

 

ばあちゃんごめん、まだまだ帰れそうにないや。

 

—恋した子を守りたいなんて……素敵な理由じゃない!立派な志願理由だよ、

私の孫だからサクはきっと大丈夫

それと、リアちゃんから返事をもらうまで帰ってくるんじゃないよ?—

 

危ない帰ろうとしてた、祖母との会話をふと思い出し冷や汗が出る。

 

帰るのいつになるだろう……ばあちゃん死ぬな!リアを連れて帰ったらいないなんてやめてね?

 

————————————

 

「準備はいいか?」

 

「はい!」

 

崖っぷち?ありがとう……最高だ!

 

熱血テニス指導者さんの声が聞こえてきそうだ、ネタ枠だと笑っていたがどこまでも眩しい人だったんだなと「頑張る」を知って知る。

 

諦められない気持ちがある。

 

まだまだ君の隣にいたい、リアの笑った顔が最も近くで見れるこの場所は誰にも譲れそうにない。

 

———

 

誰が失敗したか、開拓地送りになったかはもう覚えていない。

 

開拓地に行くことを喜ぶ人も、わざと失敗する人もいた。サクにとっても不合格が幸せになれる道だと思う。

 

一人で泣いているのを、全身の傷を荒んだ心を隠すため私の前で道化を演じているのを知っている。

 

強い子ではないのに昔から私の前では強くあろうとする、逃げずに何事にも立ち向かってしまう。

 

私の幼馴染は根っからのひーろー?というものなのかもしれない。私だけのひーろーではいつかいられなくなってしまいそうで寂しい。

 

でも今だけ、あと少しだけ。

 

サクを独り占めしていたい、私だけのひーろーでいてほしい。

 

———

 

「ふぉーーー!ガチ気持ちいいー!!大したことないなあ」

 

それは奇声だった。

 

指定された時間は経っていないのに少女は拍手して飛び跳ねている。

どこか私の幼馴染はすごいだろうと誇らしそうな表情をしている。

 

浮いている事に気がつき少女は羞恥に耐えられず下を向いてしまう。

 

「クリスタ!ぶぃー!」

 

両手を前に突き出しピースしたせいでバランスを崩した少年は再び頭を打ち意識を失う。

 

少年のドジっぷりに金髪の少女は頬を紅く染めながらくすくすと笑い、小さくピース仕返した。

 

「かわいい」

 

「結婚しよう」

 

想い慕う人ができてもなお、少女の仕草に心撃ち抜かれる人もいるくらいの破壊力。

 

先程の壊れた部品で立った時のような歓声はない、サクという少年が立った時に声を上げたのは四人のみ。

 

それは初めて姿勢制御に成功したサク、そしてサクが恋慕う幼馴染のヒストリア、そして昨日少しだけ話し仲良くなったサラサラ金髪ヘアのアルミン。

 

そして拳を握りしめてガッツポーズする、スキンヘッドのキース教官だった…

 

 

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