ヒストリア、結婚してください   作:すしぴょ

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7話

卒業式は号泣してしまうタイプ。

 

三年の月日はあっという間に流れた。

リアとの逢瀬、友との研鑽、師弟の絆、浴室での悪ふざけ、同期と食べた質素な食事、夜の男部屋での馬鹿な恋話、教官との秘密の特訓、季節は廻り早くも卒業の日。

…教官との秘密の特訓はやめようか、意味深な響きが過ぎる。

 

前世から卒業にはめっぽう弱い。

卒業式で泣く男は弱いとメンズコーチさながら思っていたが、経験してみればハナを切って泣いていた。

恋しい時間の終わり、色々な感情が凝縮され涙でしか表せない。

恩師の表情もなぜか琴線に触れる。

友人とは気軽に会えるが、教師とは卒業後に関わりが減り疎遠になるもの。

前世の例えであって、今世ではどうだろう。

 

「教官、時々会いに来てもいいですか?忘れないでくださいね?次来たら貴様は何者だ!?何をしにここに来た!とか言わないでくださいね?」

 

今世の恩師と言っても過言ではないスキンヘッド。

初日に拳を交わし、目をつけられてからは何かと訓練と名を偽り色々された…意味深に捉えないでくださいね?

いざ明日から顔を見なくて済むと思うと嬉しさよりも寂しさが優ってしまう。

 

「あぁ会いにこい…解散式でサクのように泣く奴は初めてだ、忘れられるか馬鹿者」

 

頭をぽんぽんと叩かれ、最終日は拳ではなく抱擁を交わしていた。

今世では父という存在に恵まれなかったから面影を見ているのかもしれない。

スキンヘッドはどこか憑き物が落ちたような顔をしている、心に闇を抱えているような血色だったからホッとしている。

 

スキンヘッドの話は置いておいて、訓練兵団の成績上位10名が先程呼ばれ中には我がリアの名前があった!

幼馴染かつ数年後の夫として自分のことより嬉しく飛び跳ねて喜んでしまい、同期からは温かい目で見られ馬鹿でも流石に恥ずかしさを覚えました。

 

冗談を言ってたら、普通に「めッ!」ってされそうなので程々にしておかないといけない…ん?普通にさせたらよくない?可愛いから。

雪山以降ポジションに変化があり最近は主導権を握られている。

お姉さんみたいな振る舞いをするんだ!さらに、さりげない接触が増えた気もする!

 

…意図は何?確認だけど、他の人にはしてないよね?

 

あれ、絶対自分のこと好きだべ?と勝手に決めつけている。

それとなく「好きなん?」と解答を提出してはいるが、採点はニコニコ天使スマイルで華麗にスルーされて終わり。

新種の返事の意味を聞くのを忘れてしまうほど急所をぴとぴと触られ、内緒と耳元で言われてまう。

うんうん、内緒なら仕方ないよ。

 

冗談はさておき、多分家族愛的な矢印を向けられている。

雪山以降、見過ごせない危険な弟としてみられている気がしてならない。

弟のような存在からでも一発逆転は可能ですよね?可能と言うまで聞き続けます。

初恋が実るのは当分先になりそうです、ばあちゃん長生き必須のルートを選択してしまいました。

 

上位10名の中にはライナーの兄貴、えっちんことエレン君、それと師匠も呼ばれていた。

やはり背中で語る系の人たちは別格、別格と言えばえっちんとあっ君の幼馴染のミカサちゃん、違うミカサさん。

あのお方こそ本物、二つ名はお譲りしますね?

そう言えば、リアの格闘技はミカサさん直伝の仕込み。

余計な事を口走った際には抑えつけられながらあんなことやこんなことをされています。

お願いします、やめないでください。

今度は意味深に捉えてもいいですよ?

 

残念ながらあっ君は上位10名には選ばれなかった、自分は雪山で確定な?されていたのでなんとも言えない。

速さだけが取り柄のモブとは違いあっ君は頭脳派兵士、底知れない無限の可能性に満ちている。

 

モブにはモブの戦い方があるんじゃい!

早く見つけないと…

 

…今のうちにあっ君にごまをすってたら、お偉い方になった時に昇給とかしてもらえるかな?

 

「貴様ら!」

 

恩師からの最後の言葉に訓練兵一同が耳を傾ける、周りを見渡すが自分以外一人として泣いていない。

でも、みんな目はバキバキ。

一人前の兵士の自覚から鞭打って涙を堪えているのだろう、自分も泣いていられない。

 

「よくここまで耐え抜いたな!今日は友と酒を飲み、飯を食うといい、私からの些細な餞別だ…思い出を話し、夢を語れ、そして明日からは立派な兵士となれ」

 

…貴様は何者だ!と叫びたい。

 

「貴様らは私の誇りだ」

 

もっと癖の強い人だったでしょうに、もう教え子を思いやる最高の教師じゃない?明日にきらめきそうじゃない?

前世なら感動ドラマになってましたね、血色の悪いスキンヘッド癖強教師が生徒と共に変わっていく…

低視聴率間違いないな。

 

「教官!」

 

また抱きついてしまった。

 

———

 

「サクは泣き虫さんだね、手貸して?」

 

「しょうがなくない?兵団もばらばらになるだろうし、やっぱ寂しいよ…はい、手は貸さない、あげるよ?」

 

金髪碧眼のツインテールお姉さんと手を繋ぎ卒業パーティーが行われるトロスト区某所の会場に向かっている。

純愛と謳いながら金髪お姉さんと浮気か?いいえ、信じられないかもしれませんがリアです。

この無敵のリアお姉さんと闘いながら、必死に理性を保っているんです。

勇姿を見ていてください。

 

「サクには私がいるでしょ?」

 

…あなたは弟として見てるかもしれませんけどね?こちらはガチガチに女の子として見てます。

結婚はしてくれますよね?危ない危ない、エゴイストがわっさーしていた。

この人が「っ!」とか「んっ!?」とか言って照れて、手汗かいてた人ですよ?

時間の流れ怖っ。

 

—ぎゅっぎゅっ—

 

「何か変なこと考えてた?」

 

しれっと恋人繋ぎにフォルムチェンジ!?からの流れるようなにぎにぎには脱帽です。

俯くを選択して二次被害を防ぐ戦略的撤退っ!

 

「ん〜、楽しみだなぁ!みんなと訓練兵時代の思い出話しながらお酒飲んだりするの」

 

「サクが嬉しそうにしてると私も嬉しい」

 

…自分いっちゃっていいっすか?

夜の街に逃避行してもいいっすか?

 

「リアが笑ってくれると胸がふわって温かくなるから、こっちも倍嬉しいよ?」

 

手札の少ない抵抗から選んだ最大限の足掻き。

笑ってくれると体の芯から熱が広がるのは隠しようもない事実。

 

「本当かな〜?確かめてみるね?」

 

おい!突如路地に連れ込まれ抱きつかれたぞ?

この後はどうすればいいんですか!?教えてください、恋愛強者さん!

 

「手回して」

 

マニュアルがあるみたいです、大丈夫でした。

 

「はい」

 

「本当だ…世界で一番温かい、私の居場所」

 

姐さん、そろそろ会場に行きませんか?心臓が何個あっても足りません。

ずっと離したくないが、路地でこのままハグしているわけにもいかないだろ!

 

金糸の髪にそれとなく顔を埋めると鼻腔を擽るお日様ぽかぽか昼下がりのお花畑。

…昔、お昼寝の際に無知なリアの金髪に顔を埋めてました。

拘禁刑ではすみませんよね?罪を償う気持ちはあります。

 

腕の中に守るためなら命を懸けられる、同時に人生を懸けて幸せにしたい恋をしている女の子がいる。

散っても悔いはないとガンギマリ継続中だが、命を守れても心はどうなる?

自意識過剰かもしれない。

誰よりも強く芯のある女の子。きっとリアなら立ち上がり、前を向き歩いて行くことだろう。

でも可能性が少しでも残っているなら、死なずして守る努力をするべきだ。

一秒たりとも奪いたくない尊い表情がある。

 

努力の先で守り散るのなら悔いはあるけどないと思う。

変えられない運命だったと割り切れないけど割り切る。

リアを泣かせてしまうのを許せないけど許したい。

ぐちゃぐちゃになってきた、頭が爆発しそう。

 

結局のところ易々とは死ねないということでは?

 

「故郷のお花畑でリアとお昼寝してたの思い出すなぁ」

 

「昔、私の髪に顔埋めてたもんね?」

 

「……」

 

「サクのえっち」

 

「…」

 

「もう少し里帰りしててもいいよ?私も好きだから、サクの甘い匂い」

 

「姐さん、憲兵さんに捕まるんで行きましょうか?」

 

———

 

何もやましいことはないが会場の手前で自然と離したくない手を離し、仲のいい友達が待っている別々のテーブルに座った。

 

目で無意識に追っている、表情がころころ変わるのが見ていて面白い。

アルミンやエレンやライナーたちと、思い出話に花を咲かせ楽しそうにしている姿に頬が緩む。

 

「熱い眼差しで誰を見てるのやら」

 

「えっ……」

 

「クリスタは本当にサクが好きだね〜」

 

「うっ…言わないでよ、ミーナぁ…」

 

後悔が残らないように食事をしていたサシャまで手を止め凝視してくる。

人には見せられない痴態、今の私はクリスタを取り繕うことができていない。

サクしか知らないヒストリアが露わになっている、遅いかもしれないが机に伏せる。

まだ本当の私をサクだけに知っていてほしい。

 

「クリスタもフランツとハンナみたいになればいいじゃないですか!女神様とサクには結ばれてほしいです」

 

サシャが口に食べ物をつけたまま言う、もう少し女の子としての振る舞いをしようね?

 

「言えないよ…いつ死ぬかわからない世界で」

 

「そう簡単にクリスタを死なせることはないと思うがな?それに、サクも変わろうとしてるみたいだぜ?」

 

もう一度サクに視線を戻すと目が合い自然と綻んでしまう、お酒のせいもあるが体が熱い。

お酒を友と飲めることを喜んでいた、前世では経験がないらしく楽しみとはしゃいでいるのを見て子供だな愛らしいなと感じた数日前。

 

…って、酔い過ぎじゃない?机にとろけるように倒れてしまっている。

ニコニコ笑顔で手をぶんぶんと振ってる…かわいい。

 

「なにあれ…私、サクのとこ行くね?サシャもユミルもアニも行こうよ」

 

…「なにあれ?」って言った?

ミーナの言動と目から危険信号を感じ、警戒心を強める。

 

「なんで私は呼んでくれないの?ミーナ!?」

 

「そんな顔で行ったらねぇ?」

 

顔を触ると火傷しそうなほど熱い。

 

「うっ…もう少し後で行くね」

 

サクとユミルたちの話に耳を傾け臨戦態勢を整える。

私の好きな人が友達に失礼なことを言わないか気がかりで仕方ない。

もう一人、さっきの反応からミーナにも気をつけてないと…

 

———

 

「ユミル〜、クリスタと友達になってくれてぇ、笑顔にしてくれてありがとっ!」

 

「お礼を言いたいのは私の方だよ、サクとクリスタには本当に助けられた」

 

ユミルが見たことない表情を浮かべながら机の上でとろけているサクの頭を撫でてる、女の直感から母性を感じずにはいられない。

私にも慈愛に満ちた眼差しを向けてくれた人が、抱きしめてくれた人がいたような気がする。

サクとその人の仲良さげな様子に頬を膨らましてた、甘く苦い記憶が朧げにある。

 

「えへへぇ」

 

…とりあえず、サクは嬉しそうな顔やめれる?

イライラしてクリスタの顔を忘れてしまいそうになるから。

 

「師匠には立派なカーフキッカーにしてもらいましたぁ!今日までクソお世話になりましたぁ…ありがとっ師匠」

 

「本当に驚いたね、私の稽古に耐えるなんて根性あるよサクには…それと今日からはアニって呼びなよ?」

 

…あなたは一体誰ですか?

三年の月日で弟子に角を取られすぎてません?絆されて丸々になってるよ?

孤高のアニが頭を撫でる異常な光景から、またまた母性を感じるのですが…

もっとクールな女の子だったでしょ?

女の子の憧れでいてよアニ!

 

「わかった、ありがとっアニ〜!」

 

一旦サクは気持ちよさそうに、にぃ〜ってするのやめてもらえる?

 

「サクちゃん〜私には何もないわけ?」

 

き、きたぁ…気をつけないといけない女の子。

 

「えっ、ミーナちゃん?うーん、ツインテール!ツインテールが似合ってる、世界で二番目に!」

 

あっ、ようやく失礼なこと言ったと机の下でガッツポーズしてしまった私は悪い子だ。

 

…なんで、ミーナは嬉しそうにしてるの?

えっ…今失礼なこと言われたんだよ?なんで嬉々としてサクの頭をなでなでしてるの?サラサラ青黒髪だけどご利益なんてないから手を離して。

 

あと、サクは破顔しないでもらえる?

 

「クリスタの次ってことは実質一番でしょ?」

 

サクの近くに行くのがどんどん遅れるから、余計なこと言わないでと念を送る。

本当は今すぐ駆け寄って口に手を突っ込み黙らせたいが、嬉しさが規定値を超え火照りが再燃してしまっている。

 

「それにしてもサシャはいっぱい美味しそうに食べるね?これも食べていいよ?サシャのおかげで孤独に走らなくてよかった…いてくれて本当に助かったよ?ありがとっ戦友!」

 

「っ…私の方こそサクの存在に助けられたんですからね?だめです、貰えません!サクはもっと食べないと、私の分も少し食べますか?」

 

「はい、あーん」

 

サシャが誰かに食べ物をあげる異常性には流石に恐怖が勝つ。

ぎゅっと口を結びサシャの分を食べないようにしている。

…なにあれ?あんな顔知らない、近くで見れるのずるい。

やっと私の望む行動をしてくれたサクに心の中で頭を撫でる。

 

「みんな、クリスタの真似してみようぜ?気分を味わえるぞ」

 

ユミルが変な悪戯を考えたのか満面の笑顔で机の上でとろけきっているサクの肩を揺すっていた。

焦点が合っていないし顔も紅い、このまま放置していると全てゲロっちゃいそうで慌てて駆け寄る。

 

「だめっ!私のサクに変なことしないでっ!」

 

「私のサクに?」

 

咄嗟にこぼれてしまった本音、クリスタの仮面は一旦置いてきた。

サクのこととなれば我を忘れてしまう、悪い癖だが治せそうにない。

 

「あっ、っ!いいでしょ?何か文句があるのユミル?」

 

「開き直りやがった」

 

会場のあちらこちらから聞こえる喧騒の一つに過ぎない私と親友の小競り合い。

 

近所では新たな喧騒が起ころうとしている。

ジャンは女の子に囲まれているサクが気に食わなず悪態をついている。

なぜわかるのか?私も同じ気持ちだから。

ジャン頑張って、人たらしにお灸をすえてと心の中で念じる。

お願い、私を気持ちよくさせて!

 

「いいご身分だな?エレンもサク、お前も…クソ羨ましいな!まぁいい、俺には憲兵になり内地での優雅な暮らしが、春がもうすぐ訪れる」

 

「ジャンじゃん!そっか、憲兵さんになるのかぁ…民に優しい立派な憲兵さんになりそぉだね、めっちゃ応援する!したい!」

 

「あぁ、ありがと…サクも元気でいろよ、寒いの苦手だろ…布団しっかり着ろよ?風邪とか引いたらダメだぞ?」

 

…ジャンはサクの何なの?

せっかくブレードを向けたのに、既にブレード折れてるよ?

流石に堕とされるの早過ぎるよ、ミカサにも一瞬で惚れてたし…

もう少し対抗して人たらしに一泡吹かせてよ。

 

と思っていると嵐は新たな嵐を呼んだ。

 

「おい、内地がとか言ったか?」

 

エレンは外への憧れと巨人への憎悪を語る。

巨人に勝てるわけないと言う同期の訴えに答え、周りを鼓舞した。

エレンの目から人類の勝利を確信していることくらい誰が見ても察する。

同期たちは希望の灯を見て考えさせられることがあるのか会場はお通夜のような状態になった。

 

「ミカサにおんぶに抱っこなお前にできるかよ…どうせ、調査兵団にミカサを連れて行って不幸にさすんだろ?」

 

「ミカサは関係ないだろ?」

 

静寂を割る、ジャンからの悪態にエレンは胸ぐらを掴みにかかる。

訓練兵舎で暮らす中で見慣れた光景、水と油の関係の二人の喧嘩にまたかと内心思う。

 

「喧嘩するほど仲がいいって言うからね…でも、今日は仲直りしよ?はい握手して!」

 

サクはふらふらと二人の間に立つと手を取り無理矢理恋人繋ぎを作る、何が起きているのかわからずされるがままの水と油。

握手をする頃には喧嘩の原因も忘れ、間に立つ潤んだ瞳の泥酔状態サクを見てとりあえず謝るエレンとジャン。

 

「あの時あんなこと言えばとかならないようにしないと、言葉は一生心に残るから…あとえっちん、大切な人って一番近くにいるから気がつかないよね、自分もそうだったから…でも後悔したら絶対にダメだよ、怒るからね?」

 

「わかったよ…」

 

エレンもサクには優しいのね…

 

エレンとアルミンとミカサのシガンシナ区組は夜風にあたりに行くと外に出て行き、ジャンはマルコたちとテーブルに座り他愛もない会話を始めた。

いつ死ぬかわからない世界だからこそ後悔してほしくないのだろう、サクの哀しそうな表情を見ていると私まで苦しくなる。

104期訓練兵の同期が大好きだからこそ、終わりだけは綺麗であってほしいと願っているのかもしれない。

 

「それで、サクの大切な人は誰なんだい?」

 

「よくぞ聞いてくれましたぁ!ユミル〜それはね…」

 

「サクはお口の穴がゆるゆるだね?そろそろ、私と一緒に宿に行こっか?」

 

「みんなともう少し…」

 

「みんなの前で耳触るよ?今日恥ずかしい思いしたばかりでしょ?」

 

座ってお酒を呑もうとするサクの頭を胸に押し付けるように背後から抱きしめ、口を覆い耳元で囁くように話しかける

弱点を知らない人からしたら悶えているようには見えないはず。

 

「わかったよ…もぅ、呑まない!」

 

「クリスタってこんなに破廉恥な女の子だったの?もう襲ってるよね?」

 

「ミーナは少し静かにしててね?」

 

「クリスタ、感想聞かせてよ私の弟子だから…」

 

「アニはちょっと何言ってるかわからない」

 

「食べちゃうんですね…」

 

「…サシャ?」

 

「クリスタ!やるんだな!今日!この後!」

 

「ユミルは本当に黙って」

 

———

 

月光に照らされ、夜風に当たりながら好きな子と手を繋ぎ歩くトロスト区こそ至高。

デートを重ねた街、新婚旅行中には仲を深めた街として寄り道したいくらい街並みも人々も好き。

 

大切な物が増えると、前世から何を手放そうかと悩み結局捨てれず溜まっていく一方のタイプ。

 

「…吐きそう」

 

お酒による気持ち悪さと明日から始まる地獄の日々に吐き気を催す。

これから始まるのは前世とかけ離れた、訓練兵期間とも比べ物にならない非日常の毎日、友の死が身近な惜別の日々。

友が死んだ時何を思うのだろう、想像すらできない。

朝食を一緒に食べた人が夕食ではこの世にいない時、何を思い咀嚼し喉を通すのだろう。

夜は眠れるだろうか、朝起きたら友のいない世界を受け入れ日常に戻るのだろうか。

 

「サクは一人で背負いすぎるからね…」

 

リアは調査兵団に来ないでとは雪山以降一度も口にしない、臆病者の唯一の夢を心から応援してくれている。

リアだけは守りたいと思っている、でも同じ釜の飯を食べた同期にも死んでほしくない。

二者を迫られた時自分は間違いなく、躊躇することなくリアの手を取る。

力なき者は両者を選ぶ権利などない、より大切を選びもう一つの大切は手放さないといけない。

きっと心はすり減り死んでいく、好きだと言ってくれた笑顔を忘れずにいられるだろうか。

 

「サクはブレードを持ってなかったら人類最強さん?より速いから、巨人を殺す兵士じゃなくて、兵士を助ける兵士なんてのもいいかもね?」

 

刃を取り空を舞う理由が好きな子を守りたいとか語ってたのに刃の部分消しちゃう?

…刃なしは本当の本物にならない?ガンギマリとかの問題じゃなくて、単純に意味不明過ぎる。

 

巨人討伐数が物を言う世界、永遠に昇格なしの一生下っ端調査兵だろう。

 

そんな奴と調査兵一のアイドルのリアがお付き合いなんて笑われそう…

酔っているせいで妄想が捗ります。

 

「ブレード不所持の調査兵なんて馬鹿にされるよ?かっこわるいったらありゃしない!」

 

「何言ってるの?私のサクがかっこ悪いわけないでしょ、ふざけたこと言ってたら殴るよ?…全ての人を助けるなんて誰にもできない、だからサクは手の届く範囲の人を助けてたくさんの人に感謝されるの、笑顔にさせちゃうの」

 

「できるかなぁ、そんな大層なこと」

 

「しちゃうと思うな、私のヒーローなら…でも、ちゃんと私のことも守ってね?」

 

「ふっふ…この速さは誰よりも速くリアの元に駆けつけるための力なのだ!」

 

「頼もしいなぁ」

 

リア以外は手の届く範囲の人を守るか…

きっとそれが自分の幸せを許せて後悔もしない、リアが好きだと言ってくれた笑顔を忘れない及第点、ボーダーラインだと思う。

巨人殺しを第一に掲げるではなく、仲間を助けるに重きを置く調査兵。

大多数にかっこ悪い、調査兵の恥だと言われてもいいじゃないか。

恋した女の子がかっこいいと言ってくれるなら、それに優る戦い方はないと思う。

 

でも流石にブレードは持っておこう、退職させられたら無免兵になってしまう。

リミッターなんてものは知らん、ゾーンはスピリチャアルの世界!なら自分はブレードという枷を外しスピードに縋る。

これこそモブの戦い方、リアが示してくれた道。

キタキタ、スピ中には最高の展開!

 

「それでも心折れそうになったり、苦しくて泣きそうになったら私の元に逃げてきなさい」

 

「ださいなぁ、みんなに笑われる」

 

「笑われてもいいよ、私だけサクの良さを知ってたら」

 

リアは変わってしまった。

本当は人の上に立ち、照らし、導く人なんだろうなとお姉さんリアになり感じ始めた。

優しさを一身に受け触れてしまうとついつい弱さを見せてしまう。

幸せすぎる境遇、前世で徳を積みすぎたのだろう…

積んでなくない?

前世の記憶持ちでヤバいやつなら、前世からヤバいやつじゃない?

 

「サクが私を守ってくれるように、私がサクを世界から隠して守ってあげる…哀しみも苦しみも全て私が忘れさせるから」

 

忘れさせるって何をするんですか!?デモンストレーションとかって…

 

「だから早く逃げて来てよ…サクが泣いてるの耐えられないよ私」

 

「なにそれ…意味わかんない」

 

手を広げてリアが待っている、逃げてこいってこと?

涙なんて流して…

ダメだ、この子の前では弱さを見せてしまう。

 

「…みんなを守れる力がほしかった、両方を選びたかった」

 

溢れた本音。

リアのおかげでどんどん大切が増えていった。

我儘だ、でもアニお墨付きのキッカーだから今だけはエゴを許してほしい。

一年、二年、三年後、その先も今日のように会い、食事しながら他愛もない話をする、時には喧嘩もするが仲直りして、誰かの幸福をみんなで祝福したい。

別れなんて嫌だ。

 

「サク、私と一緒に逃げよっか?全部一緒に忘れるの」

 

「…」

 

「ハイは?そこは迷わず頷くとこだよ?」

 

「…はい」

 

意識が朦朧とする。

安心感と温もり、故郷のお日様ぽかぽか昼下がりのお花畑の匂いに包まれる。

憩いのお昼寝時間の序章、幸せな夢を二人で見る合図。

 

 

すっかり立場が逆転してしまった二人の関係。

訓練兵になりトロスト区でデートした時は手を引いていたのに今は引かれている。

路地裏に連れ込もうとしたのに、路地裏の宿に連れ込まれている。

卒業の時、やはり青年は泣いている。

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