「サク、朝だよ。起きよっ?」
1/fゆらぎを持つリアによるモーニングコール、慣れ親しんだお花の匂いに包囲されて迎える朝。
結婚生活が始まり何度目の一緒に迎える朝だろう、考えたことねぇや。
奥さんとの馴れ初めを語るには幼少期まで遡らないといけない、紆余曲折あり告白は成功、お付き合いを経て結婚に至った。
長年の恋心がようやく…実ってねぇよ。
結婚なんて夢のまた夢だ。
「ちょっと待って、今何時!?早く起こしてよぉリアぁ」
「寝顔が愛おしいのが悪い!もぅ、早く準備して行くよ?」
…ん?
朝から可愛さ飛ばし過ぎ、スピード違反で逮捕!
頬膨らましからの上目遣いの破壊力。
もう、落天使になってしまったんですね。
今日は兵士になり初の任務、壁上に設置されている固定砲の整備。
初任務で遅刻は流石に笑えないし、男にとっての浪漫の塊である大砲を見て触れるとなると着替えも捗る。
「上手く留めれない…」
「着替え終わったらやってあげる、こっちに来て?」
…ん?まぁ、いいや。待ってます!
心機一転新品のシャツにしたせいかボタンが硬く、留めれずにいるとリアが手際良く留めてくれた。
さりげない優しさにキュンとする、惚れそう…もうガチガチに惚れてた。
「よしっ、これでばっちり!お水飲んだらお部屋出よっか」
…ん?男物のシャツに慣れてるね?それより、間接キス!?
先にリアがコップの水を一口飲み渡してくる。
水の回し飲みくらい日常の一コマ、相手がただ好きな子というだけの話。
最近してなかったから違和感を感じるのだろう。
開拓地時代なんて普通、無知なリアに間接キスを…もう、吊ってください。
部屋を出て宿を後にする、整備班が別々なので一旦の別行動。
それぞれの集合場所に向かい始めて違和感の正体に気が付く。
…一緒に朝を迎えたよな!?おいおいおい、普通に一緒に着替えてたけどぉ!?
会場からリアに連れ出された後の記憶がほとんどない、空白の数時間が存在している。
慌てて後ろを振り返ると、リアはずっと向いていたようで目と目が自然に合う。
久方振りに遭遇する羞恥に染まった顔、挨拶をしないと不躾というもの。
長い沈黙が続いている。
シュレディンガーpart2ですか?お願いします、真実を教えてください。
しばらく見つめ合っていると、発色のいい艶やかな唇が何かを伝えるように動く。
ま?た?…………
ん?何だって?また以降唇が高速に動いて読み取れない。
直接聞きに行こうとするが、近付くことはなくリアの姿はどんどん小さくなる!?
ちょっと待て!!逃げるなヒストリア!!
———
巨人から人類を守る壁が50メートル級の巨人に破壊され生存権が後退して早数年。
眼下に広がる広大な土地は数年前まで内地だった場所。
壁上に立ち見る大地、空は広大で澄んで見えた。
前世を知っている人にとってはありふれた光景なのに拍子抜けすることはなく、寧ろ心を揺さぶられる、壁に囲まれてないだけで感動し鳥肌が立つ。
この世界の人間なんだと心が訴えている、この景色で感動を享受できるのは根を張り今世を懸命に生きている証、リアと同じ時間を生きている。
今はリアを思い浮かべたらダメっ、任務に支障をきたすほどの存在しない記憶が脳内にドバドバと流れ込んでくる。
—サクと私、一緒に大人に…
強制停止です、残りは夜に一人で再生します。
リアを思い浮かべるまで物思いに耽り熱弁を振るっていたが、高所恐怖症を紛らわすためです。
壁端に立つことができず未だに巨人を目視できない。
巨人の身長はピンキリ、この壁から頭を出すサイズの超大型巨人とやらも存在する。
いざ目の前にしたら巨大物恐怖症を発症しそう。
「サク、こっち」
整備班のトップは主席のミカサちゃん、心強いと同時にメリハリを持ち任務に挑めそう。
休む時は休み、やる時は真面目に。
無許可間接キス野郎に罪を償う機会をください、馬車馬のように働きたいんです!
今日は看守さんと囚人の関係でいい、それ以下でもそれ以上でもない。
「おはようミカサちゃん、今日はよろしくお願いします!」
「うん」
———
ほほぅ、大砲整備というのも奥が深い。
整備を始めて小一時間、看守に見られていることもあり真面目に取り組んでいると思いの外早く終わった。
先輩兵士が来てくれるまで時間ができたので大砲の弾を磨き時間を潰している。
気分はまるで高校球児、磨いているのが硬球じゃなくて大砲の弾だけど。
綺麗にしてたら一発撃たしてくれないかな…
「サク、昨日はありがとう。エレンとジャンの喧嘩を止めてくれて」
「うん、最後くらいはね。最後にさせる気は毛頭ないけど」
看守さん改めミカサちゃんも一緒に大砲の球を磨いてくれている。
「サクといる時のエレンは楽しそうだから、私も嬉しい」
「えっちんはミカサちゃんとあっくんといる時の方が活き活きしてるし、楽しそう。素敵な関係だと思う、ずっとそのままでいてほしい」
「うん、クリスタとサクもね」
104期1の逸材、主席ということもあり勝手に神格化し話しかけるのも恐れ多いと思っていた。
でも恋する普通の女の子だった、大切な人のために強くあろうとする姿が勇ましく思えた。
さらにリアとお似合いとも言ってくれた!
相手を知れば自然と会話も弾む、もう看守と囚人の関係じゃない。
まるで高校球児とマネージャーが他愛もない会話をしながら弾を磨いているように見えるだろう。
弾違いで少し物騒だけど…
「サクが104期の子って言われる理由がわかった」
「えっ…それ自分だったの?」
一気に物騒になったぞ?
聞き覚えのある隠語がミカサちゃんの口から飛び出して来た。
「本物」が表で「104期の子」が裏でしたか、異名のアキンボですか?どちらも不名誉過ぎるよ、いや「本物」はいいのか?そもそも「本物」ってなに?
温かい目を時々向けられていたのにも納得がいってしまった、嬉しいのやら悲しいのやら。
とにかく自分だけ知らない隠語が存在したなんて酷い!
晴れた日、心地よい風、3年越しに親しくなった同期と他愛もない会話を続けていた。
油断は禁物だが油断してしまう、災害は突然訪れるものなのに。
—ばきぃぃぃん—
青天の霹靂、目を閉じたくなる強烈なフラッシュ。
不自然な空気の揺れに辺りを見渡し目撃する。
遠くの壁から頭を出している赤い巨顔、筋繊維剥き出しの肌はこの距離からでも目視できる。
でっかぁ…
壁がしなるように揺れる、壁を蹴り破る轟音が鳴り響く。
壊された壁の破片がトロスト区の至る所に飛ぶ。
リアとデートを重ねた場所。
いつのまにか大切になっていた街と人々、第二の故郷が壊れていく。
絶望の産声に耳を塞ぎたくなる。
「新兵、超大型巨人出現時の作戦は心得ているな?」
すいません、全く知りません。
班のリーダーミカサちゃんは呆然としている、ひとまず自分が聞いとかないといけない。
「舐めてるのか貴様は!訓練兵からやり直せ、教官の顔が見てみたい」
「壁門付近にはエレンがいる…」
馬鹿だから同時に話されると困る、何をすればいい、どこに行けばいいの?
その言葉遣いをする人です、似てますよ貴方。
でも…
「貴方の喋り方に似てる教官です!自分はいいけど、教官を馬鹿にしないでください!」
「えっちんはそう簡単に死ぬ男じゃない!そうでしょ?」
「キース教官だと…とりあえず本部に向かえ」
「ありがとう、サク」
一対二捌いてやったぜ。
ミカサちゃんを先頭、自分を殿に作戦本部を目指した。
超大型巨人の元に行き応戦するんじゃないのか…モブ兵士過ぎるだろ。
———
「誰か助けて…」
聞こえるのは助けを求める声。
リアの声を一言一句聞き逃さないために搭載されている地獄耳のせいで聞こえてしまった。
これは、きっと手の届く範囲。
前を飛ぶミカサちゃんや班員に命令違反はさせられない。
音を殺し進路を変える。
道の真ん中で泣いてる金髪の女の子。
「キュートガールどうした?言ってごらん、この新兵に…」
数年前のリアにめちゃくちゃ似てるなこの子!強制的に助けます。
勝手にリアに重ねて勝手に助ける自分勝手新兵を許して欲しい、今度は助けたいと思い助けたい。
「お姉ちゃんがまだ家の中にいるの、みんな先に逃げちゃって、兵士の人も諦めて逃げろって」
「了解!この、新兵を連れて行ってほしい!必ず助けるから」
誰彼救える物語のヒーローには到底なれない、手の届く範囲をコツコツと救い助けた相手にだけ名前を覚えてもらえるヒーローでいいじゃないか。
リア似の女の子に連れて行かれたのは通い慣れた店、立地が悪いが質だけは良いリアとデートを重ねた場所。
この子、♯2の妹!?ってそれより中にまだいるの!?ダメダメダメ死ぬなんてダメだよ、結婚指輪どうなる!
「ぱぱっと救ってくる」
「ありがとう、お兄ちゃん」
わ、悪くない、良過ぎる。
———
「また、来たわね」
倒壊した木に片足と片腕が挟まれ身動きが取れなくなっている。
前世では見たこともない状況、片腕と片足は潰れ機能を失っている。
一刻も早く外に出し安全な場所へと連れて行かないといけない。
「早く外行くぞ、妹が待ってる」
「私はいいから…どうか、あの子をお願いします。利き腕も片足も潰れました…あの子にまた苦労させてしまうなら…」
「うるさ…大切な人を妹を泣かす奴にさせるか…一緒に生きるのを諦めようとするな」
カスハラ野郎に耐え腕を磨いたのはお金を稼ぎ妹を連れ戻し、一緒に暮らすためだったのだろう。
決まったな、さっさと連れ出してリア似の妹ちゃんに褒めてもらう!
…ん?木が重くて全然動かないけど。
ドスンドスンドスン
なんか変な足音も聞こえてきた、ひとまず妹ちゃんの元に行こう。
…なんか全裸の巨人が近付いて来てる。巨人って裸なのか…裸の想像は今はダメっ!
とりあえず妹ちゃんを担ぎ屋根の上に登る。
諦めている悲しそうな顔を見ると出会った時のリアを思い出す。
世界を変えてあげたい。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんを助けようとしてくれてありがとう」
こんな顔されて、助けられなくごめんなんて言えるか。
やるぞ、今ここで。
とりあえず、倒壊した店の中を覗き込んでいる巨人どうにかしないとな…
覗き込む巨人に手伝ってもらったら良くね?あの瓦礫の山動かして貰えばいいじゃん、窮地に追い詰められ活性化する頭脳、やっぱり天才なのかもしれない。
———
「一応縛ってるけど、しっかり掴んでてね?」
覗き込む巨人は倒壊した瓦礫を退け、中にいる捕食物を見つけ手を伸ばす瞬間、目の前にいた捕食物は姿を消す。
「やっぱ、速いんだって自分!これしかないんだって!」
「お兄ちゃん飛んでるよ!?」
「妹よ、お兄ちゃんは飛べるものだ」
「だから嫌だったのよ、あんたにお姉ちゃんって呼ばれるの…この子のお兄ちゃんになるじゃない…」
よからぬことをすると思われていたのか?だから一度も会わせてくれなかったのか…犯罪者かな?
「まぁ、結婚指輪は気長に待つよ。言ってくれたら、隣で囁いてあげるよ?まぁ、あんたの結婚指輪をあの子に渡したい、他はヤダっ!」
「そこはお姉ちゃんって言いなさいよ」
青年はまだまだ戦わないといけない。
ヒストリアと海で泳ぐため、ヒストリアと二人で世界を旅するため、二人で逃げれる居場所を世界に作るため外の世界に行く必要がある。
幼き日の約束を守るため兵士を続けないといけない。
恋した女の子を守り救う戦いの始まり。
恋した女の子が好きと言ってくれた笑顔を忘れないため、心を殺さないために手の届く範囲の人を仲間を助ける戦いが今始まる。
「トロスト区から始めようかっ!」
戦闘って書くの難しいですね。
でも、頑張ります、頑張らせてください。