超大型巨人の出現により訓練兵一同が拠点に集めらた。
訓練兵でごった返す中、一人の男の子を探す。
「ミカサ!サクを知らない!?一緒の班だったよね?どこにも見当たらなくて」
「ごめんなさい、わからない。振り返った時にはいなかった」
ミカサが見失うのも無理はない。
立体機動装置を使わせれば訓練兵一の腕前、しかし巨人と遭遇して討伐できるかと聞かれたら首を縦には振れない。
「きっと迷子になったんだよ!馬鹿だから仕方ないなぁ…」
私自身に言い聞かせるように出た言葉。
最悪を想像してしまった。
リアと呼ぶ声、眩し過ぎる笑顔、体の温もり、甘い匂いも全てが思い出の代物になる。
「サクならしれっと戻るだろ?」
「そうだと思う…ありがと、ユミル」
ユミルの方がサクを信じれている現状に嫉妬する。
頬を強く叩き、自戒する。
私のサクは泣き虫だけど約束は破らない、好きな男の子くらい信じろ。
ガスの補給、ブレードの点検を終え作戦の詳細を聞くため広場に急ぐ。
「……なお…承知しているであろうが敵前逃亡は死罪に値する。みな、心して命を捧げよ」
訓練兵に伝えられた作戦の内容に同期は様々な反応を示す。
先遣班の壊滅に己の死地を悟り嗚咽する者、夢の内地生活前に起きた災難に頭を抱える者、黙々と準備を整え戦闘に備える者、恋人と抱き合う者。
私は後衛支援班に割り当てられた。
「自分はどこですか!? 遅れました、すいません!クビだけは勘弁してください」
喧騒に包まれた中でも聴き慣れた親しみのある声だけは聞き逃せず、胸がギュッとなる。
「あぁ!?非常時に人手を減らす奴がいるか!貴様のような馬鹿は前衛に行け!」
ぬるっと現れ、上官に叱られる私の大切な人。
心配した時間を返して欲しい、サクらしくて私は好きだけど。
「サク!どこ行ってたの!すっごく心配したんだよ!?」
「リ……クリスタ!!それより、朝逃げたよね?」
昨夜の出来事を思い出し体中に別の意味で熱が広がった。
大勢の前でヒストリアが露呈する、鏡を見ずとも浮かべている表情がわかってしまう。
サクの手を引き一目に付かない場所へ移動する。
「朝のことはいいの!!これからもするんだから慣れて!」
お酒で酔ったサクに好き放題してしまった。
サクのお婆様に謝らないといけないことを犯した…ことは一度棚に上げる。
「…」
サクの顔も段々と赤くなり周りには見られない表情を浮かべている男女。
「私はサクを信じる。だから絶対に生きて私の元に帰ってくる、約束して?」
昨日はされるがままだったのに突然抱き寄せられ、甘い匂いに包まれた。
心地の良い鼓動の速なり、無意識に私も背中に手を回していた。
サクの背中にも痕を残すように力を強める。
「絶対に帰るよ。リアが他の人と結ばれるとか巨人に喰われるより嫌だから」
この残酷な世界で、なんて残酷なことが言えるのだろう。
人の心も初めても奪っておいて。
私はサク以外の誰と結ばれたらいいの?
「ばかぁぁ、ばかぁばかばか!女の子の気持ちも知らないで!」
サクは背中に回していた手を頭に持っていき子供をあやすように撫でる。
焦ったく擽ったい、もう私は大人の女の子なんだよ?
でも昔のように撫でてくれるのが嬉しい。
「そんなに馬鹿なら多分死なないよ?前世の言葉にもあるんだ、馬鹿は風邪ひかないって、それの上位互換。
例え、死ぬとしてもリアの膝の上っ異論は認めません」
きらっと白い歯を見せるサクに笑いが漏れてしまった。
「かっこよく言う言葉じゃないよ?……その理論なら、サクは不死身だから膝は必要ないね」
「え、張っ倒してもいい?不死身は通り越してるよ?嫌だ嫌だ膝頂戴!」
「昨日は張っ倒されてたのに?」
「…なかなか強いカウンターを待ってるね。そろそろ行かないと、帰ったら」
「ん?またしたいの?いいよ」
「一回落ち着こっか?暴走リアになってる!」
遁走する愛しい人。
角を曲がり見えなくなるまで見送る。
行ってらっしゃいサク、私の元に絶対帰ってきてね。
「まるで夫婦だな」
「……」
「私の天使がとうとう否定もしなくなった」
———
暴走小悪魔リアと別れエレンの班に合流した。
流石に任務中はエレン、アルミンと呼ぶことにした。
この状況下、あだ名で呼べる程心臓に毛は生えていない。
上官に叱責されお咎めを受けるかもしれない、張っ倒されるのはリアだけにしてもらいたいね。
よくない言葉を使った、「張っ倒す」は禁句にしよう。
「サクも巨人と遭遇したんだよね?」
「うん、なんか覗き込んでくる奴。根に持たれてないといいけど…」
アルミンの久し振りの名前呼びにキュンとする。
サックーもいいが、金髪碧眼からの呼び捨てにははくるものがありますよ。
任務中だけはアルミン=リアと思うことにしよう、頑張ったら見れなくもない。
リアは後衛支援班に配置されている。比較的安全な場所、近くにはユミルもいる。その上、自分が頑張ることにより安全になる場所。
「こりゃあいい機会だと思わないか?スピード昇格間違いなしだ」
仲間を鼓舞する一言を放つエレンが眩しく、物語の主人公のように思えたのは何度目だろう。
エレンの激に班員も思いの丈を語り答える。
班員が一斉に立体起動に移るが我先にと持ち前の速さで先頭に立った。
最高峰の速さを見せつけるべく先頭を飛ぶ、誰にも追い付かせない、何人たりとも自分より前を飛ばさせない。
アンカーを刺し巻き取るの繰り返しなのに距離は離れる、巨人の首を斬るのが下手な自分にとって索敵と囮くらいしか役に立てることはない。
一定の速度を超えると世界が静止して冷静になれる、心拍数も落ち着き馬鹿なりに冷静な判断を下せる。
周りがクリアになり音も鮮明に聞こえる、研ぎ澄まされた状況下で飛び掛かってくる奇行種の動きにも容易に反応できた。
「避けてっ!」
空を飛んでくる巨人はスローモーションのように感じ背後を飛ぶ班員にも危険を知らせた。
自分の常識を他者にも押し付け避けれるものだと信じ疑わなかった。
「ト…トーマス!」
背後から聞こえてくるエレンの叫ぶ声に反転する。
「た、助けて」
初めて捕食される人間を目撃し目の前が真っ白になる。
友が今から死ぬというのに体が動かない。
唯一行動に移せたのは、仲間を食べた巨人に刃を向けれたのは班の中でトップの成績かつ数年前の地獄を体験したエレンのみ。
エレンに続き戦闘を始める班員が次々と捕まる。
「うわぁぁぁ!やめて!やめてください!」
「うっ!あ…」
巨人に抵抗するも捉えられる二人の同期、ミーナちゃんまでもワイヤーを引っ張られ壁に体を打ち付け地に落とされた。
—手の届く範囲の人を助けてたくさんの人に感謝されるの、笑顔にさせちゃうの—
手の届く範囲から零れ落ちた一人の命。
これ以上失うな、心折れそうでも今は動け、悲しんでいる暇は一秒もない。
全てが終わったら沢山謝ろう、守れなかったことを一生背負い生きよう。
—サクが泣いてるの耐えられないよ私—
今は泣くな、逃げるな、現実を見ろ。
まだ手のひらの上に救える命がこんなにもある。
もう一度好きな子の前で笑っているためにも。
—うなじの斬撃が浅い、それでは巨人を殺せない!
どうすればいいんですか、教官との秘密の特訓の意味がないですよぉ!
目を潰せ、視界を奪うんだ
ほうほう…その後はどうするんですか!?
仲間に託せ、討伐のアシストに回れ。サクには沢山の仲間がいる、信じろ。
人任せ過ぎません!?—
「やりますよ、教官。華やかな討伐なんてできないなら、泥臭く戦ってやる」
ブレードを逆手に持ち、二人の同期を掴んでいる巨人に突っ込む。
眉間にアンカーを刺しワイヤーを巻き取る。
高速で近付く醜悪な顔。
鼻上に着地し速さを力に変え両目にブレードを突き刺し刃を残す。
二人を持っていた巨人は悲鳴を上げ蹌踉めき、手に持っていた同期が投げ出される。
より高所から落ちる方を拾い、もう一方は落下による痛みを伴うが我慢してもらう。
「ミーナちゃんのところ行ってくる、討伐は任せてもいい?」
「お、おぅ」
ブレードという枷が少し外れたことによりミーナちゃんの元に駆け付けるスピードが増す。
捕食しようとしていた巨人とはさっきぶりの再会。何度でも横取りしてやる、友達をこれ以上喰われてたまるか。
「二度目の横取りごめんねぇ?」
手をブンブンと振り回すが覗き込み巨人はワイヤーを掴めない。
獲物を奪われた上、ハエのように周りを飛び回られたらさぞかしストレスが溜まるだろう。
ちっぽけな存在にも譲れないものくらいある。
「サク?なんで、私なんか」
お姫様抱っこ状態のミーナちゃん。
「日記もっと読みたいから」
リアの日記には女子友達との出来事が綴られている。
文字でも伝わる喜怒哀楽、昔のリアを知っている自分にとっては何よりも嬉しかった。
ニヤニヤしながら読んでいたのは憲兵団に通報されたらいけないので内緒にしておかないと…
とにかく、友達と笑い合っている姿が心に沁みる。
昔とは違う、リアを大切に思っている人が周りには沢山いる。
増えるのは許せるが減るのはダメだ。
沢山の人に囲まれていてほしい。
突然ミーナちゃんに抱きつかれた。
浮気になる!自分はリアのものだから!と言いたいが虚言になる。勝手な思い込み、葛藤もあったが背中を優しく摩る。
教官とも抱擁を交わしたのにリアは嫉妬してくれなかった、今回も大丈夫だろう。
アルミン=リアと思うよりミーナちゃん=教官と思う方が遥かに簡単。今はそれで乗り切ろう。
「ほんと馬鹿なんだね…クリスタが惚れるのも…」
「サク、本当に助かった。俺たち二人で巨人倒してきたぞ!」
さっきまで捕まえられていた二人が巨人をパパッと倒して駆けつけてくれたではないか。
おかげでミーナちゃんの大事なお告げが聞けなかったがなぁ!?
…それより、見違える面構えになってない?
巨人のうなじを斬れない自分とは大違い、早くも討伐数が0から1に増えた同期。
「二人に先を越されたね、じゃあ今度は…」
「サク、私にあの巨人は倒させて。倒さないといけない気がする」
ミーナちゃんの決死の覚悟を目の当たりにする。
視界を奪うため、アシストをするため、ブレードを持ち目に体当たりさせてくれとは言えなかった。
鞘に残る四本のブレードを手放したい、もっと速さを求めたいが我慢しよう。
「倒してきて、ミーナちゃん」
少年漫画のようハイタッチを交わした。
「私が相手だ!かかってこい」
——
「サク見た!?私も倒したよ巨人、これで討伐数1!」
ミーナちゃんの機敏な動き、ゾーンという現象は存在するのかもしれない。
巨人とミーナちゃんの一対一の激闘ではなく、蹂躙を繰り広げている間、巨人を倒し慣れた二人が周りの巨人の掃討を行なってくれた。
…自分の役目ってなんですか?
「…」
沈黙が続く。
エレンが片足を喰われ壁に叩きつけられる姿を横目に見てしまった。
あれで生きていられるほど人は丈夫にできていない。
目の前の巨人を倒しアドレナリンが収まると急激に押し寄せてくる喪失感。
一度屋根に上がり周りを見渡すがアルミンの姿はない。
もしかするとアルミンも…
考えないようにしよう、きっと生きてる。
ここにいるメンバーはtheモブ兵士、いや巨人も倒せない自分だけモブ、なり損ないの兵士だ。
「サク、これからどうする?」
既に巨人討伐に成功した一人前の兵士3人に頼られても困る。
何で、リーダーを見る目になっているんだい?
自分の一言が仲間を地獄に導くかもしれない、頼られるようなリーダーの器じゃない。
何か答えないとと考えていた時、撤退の鐘が鳴った。