あくまたたき   作:永山てりあ

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4 ザガンの謎

 地下のスーパーでおつかいを済ませたお兄ちゃんと悪魔退治を済ませた私は、ケーキを買いに一階へと移動した。

 ケーキ屋さんのショーウィンドウの中で宝石のように煌めくケーキたちの中から、私は定番のショートケーキを選んだ。スーパーで見たせいか、苺食べたくて。

 お兄ちゃんはなんか変わったチョコケーキを買ってた。

 そうして、このおつかいの旅のキーアイテム――ケーキを手に入れた私たちは、商業施設を後にした。

 

 雨は相変わらず降っていたけど、無事に悪魔を倒し終えた達成感と、これから味わえるケーキのことを思うと気持ちは晴れ晴れとしていた。

 駅から伸びる大通り、行きとは反対側の歩道を傘差し歩いていた私は、振り返ってお兄ちゃんを見る。

 

「ケーキ、私が持とうか?」

「いや、いい。今のケーキに浮かれてるこのちゃんに持たせると、箱振り回して中身をぐちゃぐちゃにしそうだから」

「確かに。じゃーそっちのおつかいの袋持つよ」

 

 お兄ちゃんは左手にケーキを、右手に傘、さらに折り曲げている右腕の肘近くに買い物袋をぶら下げていた。重装備。

 

「いや、いいよ。牛乳2パック入ってるせいで重いから。それよりちゃんと前見て歩きな? 転ぶよ?」

「せやな」

 

 言われた通りに前を見て歩く。そのまま歩行速度を落とし、お兄ちゃんの横に並ぶ。

 

「ならせめて、お兄ちゃんとケーキを自動車の跳ね水から守るため、私が車道側を歩きましょう」

「いや冷たい冷たい! このちゃんの傘から垂れた水が俺にかかってる! 守るどころか攻撃してるから!」

 

 背の低い私が差した傘はお兄ちゃんの傘の下に潜りこんでいた。そのせいで傘の端から流れた水がお兄ちゃんの腕へと垂れている。

 

「ごめん。でも傘が勝手にやったことなんです」

「秘書のせいにする政治家みたいだぁ」

「姫野小乃葉! 日本を良くして行きたい姫野小乃葉です! 私が当選した暁には、スマホゲームの動画広告閉じるボタンを豆粒みたいなサイズにすることを違法とします!」

「あぁ、たまに見るよね」

「ファミコンの敵弾ぐらいちっちゃいよね」

「よねって言われても、例えが全くわかんないから。それ、お父さんから貰ったゲーム?」

「そう。ちょーレトロなゲーム機」

 

 お父さんが子供の頃から買い集めたたくさんのゲームたちは今、私の部屋にいた。

 元は爺ちゃん婆ちゃんちの押入れに保管されていたんだけど、お婆ちゃんに邪魔者扱いされ、路頭に迷いそうになっていたところを、私が引き取ったのだ。危ないところだったね、ゲームちゃん。

 ちなみに流行りのゲームしか遊ばないお兄ちゃんは「いらない」と言って相続を拒否した。

 そんなわけで、私の部屋には古いゲームもたくさんあった。

 

「お兄ちゃんもやってみれば? 開始数秒で何が起こったのかわからないままやられるという貴重な体験が出来るよ?」

「理不尽すぎる。味わう必要ない体験でしょ、それ」

「えー、そうかなぁ?」

 

 それはそれで面白いのに。

 そんなふうに雨音をBGMにお兄ちゃんと雑談しながら、帰り道を歩く。スーパーの時みたいに悪魔が襲い掛かってくるような理不尽な出来事もなく、そのまま無事に家へと帰ることが出来た。

 ケーキ、楽しみだなー。

 

 

 

 夕飯前。買い物を終え自室に戻った私は神アプリを起動し、神様とザガン対策会議を開いていた。リモート会議ってやつだね。

 

「もう駄目じゃあ。ワシにこのモンスターは早すぎたのじゃあ……このままワシは三回目の死を迎えてしまうのじゃあ。小乃葉、一人で三死してしまう愚かな神を許して欲しいのじゃあ……」

「最後まで諦めないで! 私たち二人が力を合わせれば――ぐはぁ」

「小乃葉―っ! ……よし、ミッション失敗にはなってしまったのじゃが、小乃葉がやられたお陰でワシの責任が少し軽くなったのじゃ」

「私のミスを喜ぶな……ってゲームしてる場合かっ!」

 

 ゲームのコントローラーを持ったままスマホの向こうの神様へと叫ぶ。届け、私のツッコミ!

 ついでにモニター画面に写っている私のゲームキャラを操作しエモート機能を使って、神様のキャラへとツッコミを入れておく。二重ツッコミ。

 最初はザガンの話をする目的で通話したのに、気づけば通信プレイで一緒にゲームを遊んでた。

 

「とはいえのう、ザガンが現れないかぎりはこちらから干渉できることは何もないのでのう。受動的にしか対応できない以上、今ワシらに出来ることといえば、ハンターのランクを上げることではないかのう?」

「絶対に違うと思う。……思うんだけど、神様の言うとおりゲームするしかないのかなぁ。あっ、それじゃー知っておくといいザガンの話とかはないんですか? 弱点とか、倒し方とか」

「弱点は聞いたことがないのう。倒し方じゃが……真っ二つにして、上半身と下半身に分けてやれば倒せるのではないか?」

「大抵の生物はそうでしょーが。その結果に辿り着くのが大変なんですって。〈真化〉したケルベロスも、倒すの一苦労だったし」

「それが当然なのじゃ。〈悪魔顕現〉したてのマスコットキャラみたいな悪魔ばっかり見ていて感覚が麻痺しておるのかもしれんが、奴らは本来、人にとっては対峙しただけで身が竦み、絶望するような存在なのじゃ。しかし、そんな奴らとまともにやり合わずに済むよう、ザガンのことを知るというのは良い考えかもしれんのう。相手を知れば〈真化〉を防ぐ可能性も上がるじゃろうし」

「今のところ弱点も倒し方も手に入らなくて対峙する前から絶望してますけど、他になんかザガンについての情報があるんですか?」

 

 ザガン対策の話をしてる最中だけどゲーム画面では神様のキャラが、私のキャラを新しいモンスター退治のミッションへと誘っていた。ゲームしながら「悪魔は恐ろしい」って話されても、いまいち迫力にかけるなぁ。

 神様はキャラを操作しながら「ふーむ、そうじゃのう……」と少し考えてから、ザガンの話をはじめる。

 

「思い出したのじゃが、ザガンには特殊能力があったのじゃ」

「特殊能力? ケルベロスが吐く火球みたいな奴ですか?」

「そうじゃ」

 

 ザガンの能力かぁ。牛の頭をしてるし、食べたものが反芻できるとかかな。もしそうなら、万が一ザガンに食べられても、ワンチャン胃袋から口に戻った時に脱出できるかもしれない。

 ザガンの力を反芻と推測する私に、神様が正解を発表する。

 

「ザガンはワインを水に、水をワインに変えると言われておるのじゃ」

「……なんのためにそんな理科の実験みたいなことを?」

「……なんのためかのう? 悪魔のやることは、わしらには理解できんことばっかりじゃのう。あと、血をワインに変えるとも言われておるのじゃ」

「急に理科の実験からホラーになるじゃん」

「そういうわけじゃから、ザガンにとってワインも関係性の深いものなのでのう、〈器〉にしてくる可能性があるのじゃ。頭の片隅に入れておくと良いかも知れんのう」

「おぉ、意外なことにちゃんと役立つ情報だった」

「意外って……ワシの話をなんだと思っておるのじゃ。無駄話と遊んでばっかりの神とでも思っておるのかのう?」

 

 でも、せっかく教えてもらった情報だけど、家では使わないかも。お父さんもお母さんもお酒飲まないから。

 モニターの画面では、神様のキャラがバフ効果を得るために料理を食べていた。ジョッキを掴み、お酒を一飲み。ワインかな?

 神様のキャラと同じように自分のキャラにもご飯を食べさせながら、もうそろそろで私自身もバフ効果が得られる時間だなぁと思った。今日の夕飯、何かなぁ?

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