あくまたたき   作:永山てりあ

34 / 43
8 鳩遠

 青空に浮かぶ銀色の星を見ながら、鳩遠(くおん)ちゃんにたずねる。

 

「なんで?」

「『なんで?』とは何がなのです?」

「デカラビア、せっかく〈真化〉したのに、なんで飛んでいっちゃったの?」

「鳩遠には悪魔の考えることなんてわからないのです。……いえ、恐らく鳩遠からあふれる強者のオーラに恐れをなして逃げていったのです」

 

 小さな鳩遠ちゃんがえっへんと胸を張る。かわいい。

 

「なるほど。鳩遠ちゃんからあふれる愛らしいオーラにやられて戦意を喪失したか……」

「もしもし、お姉ちゃん? 鳩遠の言葉、聞こえていますか? 強者のオーラなのです」

「ぐはぁ! お姉ちゃんって呼ぶの、かわいい! 凄い威力のオーラだぁ。私、もう虫の息だよぉ……」

「まだろくに戦ってすら、いないのです!」

 

 危ない、危ない。妹が欲しくなるとこだった。

 それにしても、なんでデカラビアは私を放っておいて、遠くに飛んでいっちゃったんだろ? カラスに憑いていた時は頻繁に嫌がらせをしてくるぐらい、好戦的だったのに。なんか嫌な予感がするなぁ。

 ……いろいろ考えてもしょうがないか。

 

「どっちにしろ、悪魔はやっつけなきゃいけないんだ。鳩遠ちゃん、デカラビアを追いかけよう!」

 

 そらの彼方に浮かぶ、銀色の星をみる。

 よーし、すぐ追いついてやるぞぉ。

 ……。

 

「……どうやって追いかけよう?」

 

 飛行機みたいに飛んでいるデカラビア。あいつに近づく手段がない。

 どうしよう? なんて思っていると、鳩遠ちゃんが自分の胸をぽんっと叩く。

 

「ご安心を、なのです。そのための鳩遠なのです」

 

 鳩遠ちゃんが私の背中に抱きつく。

 

「急にどうしたの鳩遠ちゃん!? あっ、そっか! 可愛いパワーで私を憤死させて、肉体という(かせ)から解き放たれた幽体状態にすることで、空へと飛ばそうっていうわけだね?」

「それ天に召されてるのです。そうではなく――こうするのです」

 

 私の足がふわっと浮き上がり、地面から離れる。足だけじゃない、鳩遠ちゃんに抱きかかえられた私の体が浮き上がっていた。

 なんか地に足着かないと、落ち着かないんですけどっ!? 私、どうなるなのっ!?

 

「追いかけるです」

 

 バサッと大きな音が聞こえる。鳩遠ちゃんが大きな灰色の翼を動かした音だった。

 彼女に抱えられた私の体が、天に向かって急加速する。

 

「うわああああああ」

 

 風圧で、髪が凄いことになってる。私を襲う風は、遊園地で乗ったジェットコースターよりも激しかった。

 

 青空にぽつんと浮かぶ銀色の星がどんどん大きくなっていく。このままいけば、あっという間にデカラビアのところまでたどり着けそう。

 なんて思ってたら、近づいてくる私たちに気がついたデカラビアが、動きはじめる。

 

「鳩遠ちゃん! あいつ、逃げる気だよ!」

「逃げるなぁ! 卑怯者なのですー!」

「いや、逃げたからって卑怯者とはかぎらないと思う」

「敵前逃亡は死刑なのですー!」

「いや、それは罪が重すぎると思う」

「お姉ちゃん!? さっきから、なんで悪魔の肩を持つのです!?」

 

 それはね鳩遠ちゃん、私も戦闘中に散々逃げ回ってきたからだよ?

 今回の戦闘は、退くも進むも私を抱えている鳩遠ちゃん次第だけど。

 

 デカラビアは追ってくる私たちを振り切ろうと、上下左右、さまざまな向きに方向転換しながら飛ぶ。その動きに合わせて、王に仕える兵隊のように付き従う銀色鳥の群れも、飛行先を変える。

 

 そんな不規則な動きで逃げ回る悪魔たちをものともせず、鳩遠ちゃんは背中の大きな翼を羽ばたかせながら、じわじわと追い詰めていく。

 距離が縮まるってことは、逃げるデカラビアよりも、私たちのほうが速いんだ。

 

「鳩遠はこのまま飛行に専念するので、お姉ちゃんには攻撃を担当してほしいのです!」

「まかせて! 鳩遠ちゃんの姉として頑張るよ!」

「いつの間にか、血縁関係になっているのです」

 

 デカラビアとの距離が縮まる。どんどん大きくなっていく標的を前に、銃をかまえ――撃つ前に、あることに気づく。

 

「ねぇ、鳩遠ちゃん。この〈ピースメーカー〉の射程距離ってどのぐらい? FPSゲームだと、サブマシンガンって近距離戦の銃器ってイメージなんだけど」

「ウージーぐらいはあるのです」

「なるほど聖牛(せいご)さん一人分ぐらいか。思ったより短いな」

「それはうーしーなのです。牛じゃなくて、ユー・ゼット・アイ、サブマシンガンのウージーなのです」

「あぁ、戦争物FPSの実況動画で見たことあるかも。そのウージーって射程距離はなん聖午さんなの?」

「有効射程は百五聖午ぐらいなのです」

「よし。自分から聞いておいてなんだけど、思ったよりわかりづらいってことがわかったぞ」

「お姉ちゃん……二百メートルぐらいなのです」

「わかった」

 

 結構遠くまで届くな。大空だと周囲に物がなくて距離感がつかみづらいけど、弾薬の心配はいらないし、ある程度まで近づいたら積極的に撃ってみようかな。

 なんて考えていると、デカラビアは逃げる速度を緩めないまま、その銀色の海星のような体をチカッと一瞬だけ光らせた。

 

「ニノイ、ニノイ!」 

 

 デカラビアの声に反応し、それまで付き従って飛行していた鳥の群れが、とつぜん左右にばらける。

 二手にわかれた鳥の群れが、反転し、こちらへ向かってくる。

 

「エンゲージなのです!」

 

 攻撃を仕掛けてくるつもりらしい鳥の群れをみて、鳩遠ちゃんが叫んだ。

 

「らじゃー! ゲームのイクラ集めで鍛えた射撃技術を見せてやるぅ! かかってこいシャケどもぉ!」

「お姉ちゃん。敵はシャケじゃなくて、鳥なのです」

 

 真っすぐ飛ぶ私たちと、そのまま私たちに向かってくる鳥たち。お互いの速度が加わって、あっという間に距離が縮まっていく。

 

「って、敵の数多すぎぃ!」

 

 青空をバックに、前方から二手に分かれて襲い掛かってくる銀色鳥の群れ。

 その左側の群れに向かって〈ピースメーカー〉を掃射。一瞬で鳥の数をはるかに上回る量の弾丸がばら撒かれる。被弾した鳥たちは次々と地上に向かって落ちていった。

 

 数を減らすことには成功したけど、依然、左の群れは数えきれない数の鳥が飛んでいた。さらに、右側には無傷の群れ。

 銃弾の前に散っていった仲間をまったく気にせず、鳥たちが突っ込んでくる。

 

「ヤバい鳩遠ちゃん! 倒しきれない!」

「了解なのです! 一度ターンして距離をとるのです!」

「ターンっ? ターンってどっちに! ライトターン、レフトターンどっち!」

「インメルマンターンなのです!」

「なんとかマンって――誰それぇ!」

 

 右か左かわからなかったけど、ターンする際に生まれる遠心力に備え身構える。

 

「お、おお?」

 

 私の体が反っていく。鳩遠ちゃんによって作られた複製世界の地上の風景――山や森がどんどん視界の下方へ流れて見えなくなっていき、代わりに青空が増えていく。

 

「ターンって左右にじゃなくて、上方向なのぉ!?」

 

 お日様の光が、私の眼に飛び込んでくる。水平だった飛行方向が今は垂直九十度。さらに百八十度へと方向転換して、水平飛行に戻った。

 

 ターンの結果、さっきまでは鳩遠ちゃんに上から持ち上げられるような形で空を飛んでいたけど、今は下から抱っこされる形に変わっていた。

 

「お姉ちゃん、敵をっ!」

 

 そうだった! ターンに驚いている場合じゃない。顎を引いて、自分の足側へと視線を移す。進行方向が反転した私たちを、鳥の群れが追ってきている。

 

「うおおお、落ちろぉ!」

 

 〈ピースメーカー〉を乱射。銃弾に直撃した鳥たちが落ちていく。私たちに追いつけず、一方的に数を減らしていく銀色鳥たち。

 

 そんな状況を不利と判断したのか、それともデカラビアから何か指示がきたのかわからないけど、銀色鳥の群れは私たちを追うことをやめ、逃げはじめた。

 

 ふぅ、助かったぁ。

 鳥の襲撃を退けて一息つけるようになる。

 鳩遠ちゃんは空中で停止し、ばさっ、ばさっ、と力強く翼を羽ばたかせて、その場でホバリングをはじめた。

 

「やったね鳩遠ちゃん。悪魔の手先に私たち姉妹の力を思い知らせてやったよ」

「もう完全に血縁関係にされてるのです。お姉ちゃんって呼んてしまったのが、鳩遠最大のミスだったのです。恐ろしい罠なのです」

「呼ばれてしまえば、こっちのもんよぉ」

「まぁ、かまわないですけど。それより、デカラビアはどこに逃げたです?」

 

 忘れてた。手下の鳥を退けて満足してたけど、肝心のボスが手付かずだったわ。ほとんどが青空でうまる視界の中、デカラビアの姿を探す。

 ポツンと浮かぶ銀色の星は目立つので、すぐに見つかった。

 

「いたっ! 鳩遠ちゃん! あっち!」

「タリホーなのです!」

 

 私が指し示した方向に向かって、鳩遠ちゃんが急発進する。

 鳩遠ちゃんの飛行速度って、どのぐらいの速度がでてるのかな。自動車やバスと違ってむきだしの体に直接風が当たるせいか、とても速く感じた。

 

「それにしても――お姉ちゃんも言ってましたが、デカラビアはなぜ私たちから逃げるのです? 好戦的な性格と聞いていたのに行動が一致しないのです」

 

 飛行速度を維持したまま、不思議そうにつぶやく。

 たしかに。神様から聞いた、皆殺し悪魔のエピソードと行動が一致していない。

 ……はっ!

 

「もしや、私たちが繰り出す必殺のシスターコンビネーションに恐れをなしてるのかも」

「鳩遠の知らない名称の技が、知らない間に繰り出されてるのです。……〈悪魔顕現〉を使って自分から攻めてきておきながら逃げだすなんて、とっても怪しすぎるのです」

 

 言われてみれば、今まで逃げる悪魔なんていなかったよね。ケルベロスとザガン、どちらも〈真化〉してすぐに襲ってきたっけ。

 その点から考えても、デカラビアが逃げるのはおかしい気がする。

 

 逃げなきゃいけない理由って何だろ?

 例えば……。

 

「デカラビアには、直接攻撃する手段がないとか? 自身は戦わずに、周りにいる銀色鳥を支持して戦う悪魔、なんてことはない?」

「お姉ちゃんの言うとおり、昔、人間界にあらわれた時は、自身の軍団を率いて国を襲ったらしいのですが……」

 

 神様から聞いた話だ。

 鳩遠ちゃんは話を続ける。

 

「その時は配下の攻撃だけでなく、デカラビア自身も直接ビームを放って人や建物を薙ぎ払ったと聞いているのです」

 

 そんな話はきいとらんぞ。

 

「なに、そのビームで薙ぎ払うって。火山にいる鎧竜かよ。そんなヤバそうな情報、神様教えてくれなかったんだけどぉ。初耳だよぉ」

 

 今までの悪魔と違って、デカラビアだけ宇宙船みたいな生き物っぽくない見た目してるし、ビーム出すしで、世界観違いすぎる。

 

「初耳でしたか。では追加情報として、ビームは五芒星の中心から放つことを伝えておくのです」

「それ知って、私はどうすればいいの」

 

 ビームなんてどうやって防げばいいの。

 こういう時、ゲームだと……。

 

「鳩遠ちゃん。ビームって、鏡で跳ね返せないかな?」

「鏡ごと貫かれるのです」

「むねん」

 

 私がひねりだしたビーム対策案は、あっさり貫かれた。

 

 でも、デカラビアには強力な攻撃手段があるってことがわかった。それなのに、なんで逃げるんだろう。ますます不気味。

 鳩遠ちゃんも私と同じことを思っていたのか「ぜったいに怪しいのです」とつぶやく。

 

「念のため、神様にこのことを連絡しておき、いざという時に備えておいてもらうのです。ということで、伝書鳩を発射なのです」

 

 鳩遠ちゃんの合図で、何かが天空へと飛んでいく。一瞬みえた感じ、たぶん鳩遠ちゃんの胸あたりについていた鳩型のバッジ。

 バッジは凄い速さで天へと飛んでいき、すぐに見えなくなった。

 デカラビアが何を企んでいるかわからないけど、これで安心かな?

 

「よーし、デカラビア! 首を洗ってまってろよぉ!」

 

 ……あの星型の体の首ってどこだ?

 そんなどうでもよさそうなこと考えている間にも、青空に浮かぶ銀色の星との距離は、どんどん縮まっていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。