あくまたたき   作:永山てりあ

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 デカラビアのレーザー射出口が、私たちをとらえた。やばい、当たる。

 爆発。

 大きな音が私の耳を、熱と煙が私の背中を襲った。

 

「ツチノラ、ツチノラ!」

 

 デカラビアが何かを言いながら、ちかちかと白い光を放つ。たぶんビームが直撃して落ちていく鳩遠ちゃんの姿を見て、喜んでいるのだろう。よくも私の可愛いマイシスターを……絶対に許さないからな。

 

 ぺちっ。

 銀色の金属のように見えたデカラビアの体は、触れると金属みたいに冷たかったけど、感触はクッションみたいに柔らかかった。そのおかげで、勢い良くデカラビアにぶつかったても、痛くなかった。

 

 私は、デカラビアの体にくっついていた。

 

 ビームが直撃する直前、鳩遠ちゃんはデカラビアに向かって私をぶん投げた。

 そうして私は爆風からのがれ、今、デカラビアの体の上に乗っている。

 

 私に乗られたデカラビアは、真上向きに近い角度へと変わっていた。私、お前が傾くほど重くないだろ。失礼な奴。

 さてと……私に踏まれている巨大な海星を見下ろす。

 

「お前には〈真化〉前も合わせて、ずっと困らされてたけど……そのお返しだよ。駄菓子よりも美味しい銃弾をたくさんお食べ」

「ヌヌヌヌヌヌ」

 

 デカラビアが動くよりも先に、私は〈ピースメーカー〉の銃口をヤツのビーム発射口へと突っこみ、引き金を引く。銃撃音が鳴り響き、無数の弾丸がデカラビアの体を貫く。

 足元のデカラビアは一瞬強く光を放った後、銀の体を鈍い黒い色へと変化させていき、動かなくなる。

 やったか?

 

「……勝ったっぽい?」

 

 私が足場にしているデカラビアの体が揺れはじめる。

 

「……お、おお?」

 

 デカラビアが力尽き、その大きな星の体が浮遊する力を失おうとしているようだった。……それってヤバくない? 落ちちゃうってことだよね?

 

「ちょっとぉ、タイム! 頑張れ、デカラビア! お前はここで私にやられるような奴じゃないよ! もうちょっと生き延びて、私に都合がいい感じでゆっくり地面に落ちよう!」

 

 私の応援にこたえるように、デカラビアの揺れが止まる。ぐらぐらしていた足元が安定し、ほっと一安心。

 

「よくやったぁ! やればできるじゃん、偉い! 後でお礼にたっぷりトドメの銃弾あげるから、それまで頑張るんだよ!」

 

 なんて褒めた矢先、ふっとデカラビアの浮遊する力が消えた。

 

「ちょ、うそおおお!?」

 

 墜落しはじめるデカラビアから、振り落とされないよう必死に捕まる。眼下に広がる森が、物凄い速さで近づいてくる。やばいやばいやばいやばい! 地面にぐちゃってなるまで後どのぐらい時間あるの!? この速度だとあっという間じゃないの? どうすればいいの、これっ!

 

 周りを見るけど、何一つ物のないこの大空で、私を助けてくれそうな便利アイテムは見つかるはずがなかった。……いや、何か灰色のものが見える。

 灰色の翼。

 ……鳩遠ちゃんだ!

 

 私が鳩遠ちゃんだと気づいた次の瞬間には、すでに彼女は落下するデカラビアにしがみつく私の横まで飛んできていた。

 

「お姉ちゃんっ! 捕まってなのです!」

 

 ドレスがわずかに焦げたり破けたりしているけど、大きな怪我はなさそうにみえる鳩遠ちゃんが、私に向かって手を伸ばす。

 私は落ち続けるデカラビアから手をはなし、宙へと体を放り出して、私にむかって伸ばされた小さな手を掴んだ。

 

 鳩遠ちゃんは私の手を引き寄せ、私の体を抱いてから、翼を羽ばたかせて急停止する。

 彼女の灰色の翼が力強く羽ばたく音を聞きながら、私は地上に向かって落ちて行く銀色の星の最期を見守っていた。流れ星みたい。

 

「最新ゲーム機が買えますように」

「急にどうしたのです、お姉ちゃん!」

「流れ星みたいだから、願い事言っておこうかなって」

「やめたほうがいいのです。あいつ、悪魔だから願いを叶えるかわりに、何かとんでもない対価を要求されるですよ?」

「そうだった。あいつ召喚者の願いを叶えた後に、召喚した人とその周りも殺すような奴だった」

「そうなのです」

 

 願い事を三回口にする前に、デカラビアは山頂近くの森が開けた場所へと墜落した。

 あんな開けた場所、あったかな? それに、あの辺一帯木が生い茂っているのに、なんであの場所だけ広場みたいになってんだろ。

 

 デカラビアの最期を見届けるためか、鳩遠ちゃんは私を抱えたまま、デカラビアの墜落跡上空へと移動した。

 ん?

 

「何だろあれ?」

「赤い円があるのです……」

 

 鳩遠ちゃんの言葉どおり、墜落したデカラビアを囲うように、大きな赤い丸が作られていた。なにあれ? よく見ると円のところどころに点が見える。

 ……点じゃない。デカラビアの取り巻きの銀色鳥だ。主が倒されたせいかピクリとも動かないけど、生きてるのかな?

 

 いつもなら倒された後の悪魔は体が透明になっていきそのまま消えるのに、デカラビアの体はいつまで経っても色を失わない。

 

 失うどころか、黒色から元の銀色へと戻ってしまった。

 一瞬、復活するのかと警戒したけど、そんなことはなく、デカラビアの体はすぐに溶けはじめた。

 今度こそ、終わりかな? それにしても……。

 

「ねぇ、鳩遠ちゃん。普段の悪魔が消える時と違うけど、どうしてかな?」

「……わからないのです。しかし、何かおかしいのです」

 

 鳩遠ちゃんは様子のおかしいデカラビアをもっとはっきり見るために、ゆっくりと高度を下げ、地上へと近づく。何か、さえずりのようなものが聞こえてきた。

 

 地上の赤い円に近づくことで、どこからさえずりが聞こえてきているのか、わかった。

 円周上に立つ銀色鳥たちが、その場からピクリとも動かずに、嘴だけを動かして、音を奏でている。

 

 そのさえずりに応えるように、デカラビアの体がどろどろと溶けていき、銀色の液体となる。水銀のように見えるそれは、墜落跡に広がる赤い円の中で、地面へと染み込んでいく。

 その主の体と同じように何かを囁いていた銀色鳥たちも一斉に溶けはじめ、銀色の液体となって土へと還っていった。

 

 デカラビアが溶けたことで、その巨大な星の体に隠されていた地面が見えるようになり、広場に描かれていたのが円ではないことが判明する。

 円だと思っていたものは、私の左手の甲の図形と同じ形をしていた。

 

「赤い五芒星……」

 

 悪魔を呼び出すための、魔法陣のよう。そして、その例えがあっていることがわかる。広場に描かれた大きな魔法陣が、大きな穴のように真っ暗になり、そこから、丸太のような巨大な右腕が飛び出てきたから。

 

 右腕に続いて、左腕。その両腕に導かれるように、腕の持ち主が大穴から地上へと出て、私たちに姿を見せる。

 周りの木々よりも巨大な体をした、牛の頭とグリフォンの翼を持つ悪魔。

 

「ザガン!?」

 

 怪物の名を叫ぶ私の声は地上に届いたと思うけど、ザガンは何の反応もせずにただ足元の魔法陣を見ていた。

 

「デカラビアめ、奴らを甘く見るなと忠告したのに、我慢できずに単騎で仕掛けおったか。まぁ、よい。このザガン様を召喚するという役目は果たしのだからな」

 

 相変わらずの偉そうな物言い。そういえばこいつ地獄の王様なんだっけ。

 魔法陣から現れた地獄からの侵略者は、王様だけじゃなかった。

 

「うおおおおおおおん!」

 

 ザガンに続いて、赤い魔法陣から飛び出した三つ首の番犬――ケルベロスが、山中に響き渡るような遠吠えをする。

 ……いやいや!

 

「こいつら、懲りずにまた来たのぉ!? しかも二匹同時とか反則でしょ! ……大体、どうやってここに〈悪魔顕現〉したのっ? いきなり〈真化〉した状態だし、〈器〉とかはどうなってんのっ?」

 

 混乱しながら叫ぶ私に、鳩遠ちゃんは地上に現れた二匹の悪魔を睨みながら答えを教えてくれる。

 

「〈悪魔顕現〉ではないので〈器〉は必要ないのです」

「どういうこと?」

「ザガンとケルベロスは〈悪魔顕現〉ではなく、〈悪魔召喚〉で現れたのです」

「召喚って……誰が呼びだしたのっ?」

「デカラビアなのです。ヤツは銀色鳥に〈魔法陣〉を用意させ、自身の体を〈触媒〉として、仕上げに鳥に〈呪文〉を唱えさせることで、かつて人間がやっていた〈悪魔召喚〉を成功させたのです」

 

 地上のザガンが、空に浮かぶ私たちを見上げる。私たちの会話が聞こえているようだ。

 

「そのとおりだ。もっともデカラビアの予定では生贄は自らの体ではなく、お前たちにするつもりだったみたいだがな。まんまと返り討ちにされおって。――さて、人間」

 

 ザガンは、私をにらみながら、両手に斧を出現させた。

 

「今度はこの前のようにはいかんぞ」

 

 ザガンの意見に呼応するようにケルベロスが「うおおおおん!」と吠える。

 それが延長戦開始の合図だった。

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