あくまたたき   作:永山てりあ

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11 二匹の悪魔

 空を飛ぶ鳩遠(くおん)ちゃんと彼女に抱えられた私の真横を、ごおおおと音をたてながら火球が通り過ぎていく。

 

「あっちぃ! ちょっと腕にかすったかもぉ! 鳩遠ちゃん、私の腕、無事ぃ!?」

「やられても大丈夫なのです。翼と比べれば、腕なんて飾りなのです」

「大切だわっ!」

 

 ビームを切り抜けたと思ったら、今度は火球かよぉ!

 眼下に広がる森。その木々の間をケルベロスは走り抜ける。時にはさえぎる邪魔な木をなぎ倒しながら、縦横無尽に駆け巡っていた。

 走り回るケルベロスはその三つもある頭から、空を飛ぶ私たち目掛けて何度も執拗に火球を放ってくる。

 

「ゲパルトみたいに鬱陶しい奴なのです!」

 

 ケルベロスを対空戦車に例える鳩遠ちゃん。私も軍艦の恐竜と戦う時に乗ったっけ。なんてレトロゲームの思い出を振り返ってる場合じゃない!

 

 大空を目まぐるしく飛び回ることで的を絞らせないようにしている鳩遠ちゃんに抱かれながら、〈ピースメーカー〉の銃口を地表へと向ける。狙うは、ドッグランに来たわんこみたいに、森を走り回ってるケルベロス。

 鳩遠ちゃんによって振り回される体と、走り回るケルベロスのせいでなかなか定まらない銃口を必死に合わせながら、引き金を引く。

 

 戦闘ヘリの機銃掃射のように地上にばら撒かれた弾丸は、葉を散らし、土埃をあげながらケルベロスを追いかける。

 あと少しで追いつくという瞬間、ケルベロスがさっと横方向にステップして銃撃を回避してしまう。

 

「くっそぉ! 避けられたぁ! ――っておわぁ!」

 

 私の体が、鳩遠ちゃんによって大きく動かされると同時に、巨大な斧が目の前を通り過ぎていった。

 斧が飛んできた方を見ると、そこには山頂に立つザガンの姿が。森を走り回るケルベロスとは対照的に、何も身を隠すもののない場所で堂々と佇んでいる。

 

「ふん、羽虫のように上手く避けるではないか。重りを抱えた状態でいつまで避けられるか見物だな」

 

 ザガンの斧は、連発してくるケルベロスの火球と比べれば脅威度は下がるけど、先ほどからその火球の隙を補うように投擲してきて絶妙に鬱陶しい。

 ……ん? 重りを抱えた状態?

 

「重りって……私のことかぁ! そんな重くねぇわ! 鳩遠ちゃんが羽のように軽いって何度も言ってたわ!」

「何度どころか、一度も言ってないのです」

 

 風評被害で私の可愛さにダメージを与えようとしてくるザガンに銃口を向け、引き金を引く。

 身を隠す場所のない山頂で銃弾の雨に襲われたザガンは、片腕を盾がわりにした。その太い腕によって、銃弾が阻まれる。あいつ、相変わらずかてぇー! 聖牛さんの斬撃を、何度も無傷で済ましただけはある。

 

「争ってばかりの悪魔たちが手を組むなんて想定外なのです!」

 

 二匹の悪魔から繰り出される遠距離攻撃を避けながら、鳩遠ちゃんが言う。悪魔が協力するのって珍しいのか。

 それにしても、こっちの攻撃は私の銃撃だけなのに、向こうは火球に斧と二体同時に攻撃してくるの、ずるいぞ。

 

「お前らー! 二対一なんて卑怯だぞぉ!」

 

 私のクレームをうけて、ザガンが口を開く。

 

「そちらも二人ではないか」

「お前が私のことを重りって言ったんだろうがっ! 私を数に入れるなぁ! 重りとしてカウントしろぉ!」

 

 でもホント、今のとこ私の攻撃は当たらない、当たっても効果ないで、役に立ってなくて、マジで重り状態。なんとかしないと。

 引っ切りなしに飛んでくる火球や斧に対抗するように、〈ピースメーカー〉の銃弾をばら撒きながら、鳩遠ちゃんに話しかける。

 

「鳩遠ちゃんは何か攻撃手段ないのっ!?」

「重火器があるのですっ! でも大きい武器なので両手がふさがっている状態では持てないのですっ!」

「なら鳩遠ちゃんの両手をふさいでいるものを捨てちゃおうっ!」

「いや、それお姉ちゃんなのです」

「そうだった。お願い、捨てないでっ! ――いや、捨てるのもありかな? 私さえいなければ武器が使えるってことだよねっ? だったら私を地上に降ろしちゃって、二人で攻撃しようよ!」

「それは危険なのです! お姉ちゃんが機動力のあるケルベロスに狙われたら、ひとたまりもないのです!」

「大丈夫! ケルベロスとは一度戦ったけど、ひとたまりどころか、さんたまりぐらいは粘った気がするから! 確か段ボールに隠れて華麗にやり過ごしたような出来事があったような気がするっ!」

「なんか記憶がふわっとしてて事実かわからず不安なのです!」

 

 話している間にも火球と斧が飛んでくるけど、鳩遠ちゃんは鳩なのにまるで燕のように飛び回って回避する。

 その結果、遠心力や目まぐるしく変わる視界によって、彼女に抱えられている私の三半規管と内臓が悲鳴をあげた。

 あかんこれ。地上に降りる前に追いつめられてるわ。

 

「やばい鳩遠ちゃん。お姉ちゃんはすでに危険だわ」

「どういう意味です?」

 

 ぐるぐると回る視界。もう無理。悲しい事実を伝えないと。

 

「もし口からお昼のお弁当を地上に降らしても、鳩遠ちゃんは私のこと、まだお姉ちゃんって呼んでくれる?」

「大至急、降ろすのです」

 

 鳩遠ちゃんが急下降しはじめる。私たちが高度を下げたことに気づいたケルベロスが、木々の間を駆けながら、おってくるのが見えた。

 

 枝葉を散らしながら森の中へと突っ込む。次々とせまりくる木々を左右に移動してさけながら、低空飛行を続ける。

 鳩遠ちゃんに抱えられながら後ろを見ると、ケルベロスが猟犬のように追いかけてきていた。

 

「どっかいけっ!」

 

 追い払おうと弾丸をばら撒くが、あっさりと避けられてしまう。これじゃあ、降りられないよ!

 

「お姉ちゃんが安全に降りられるよう、鳩遠がケルベロスを引きつけるのです!」

「わかった!」

「お姉ちゃん! 手を放すので、覚悟が出来たら合図お願いなのです!」

「わかった! 3、2、1」

「リリースなのです!」

「0ってカウントダウンするから、本番の0の時に手を放してねってえええええええ!?」

 

 リハーサルで落とされちゃったぁ!?

 高速飛行する鳩遠ちゃんから投下され、草むらに落ちた私の体は慣性によって勢いよく転がっていく。

 

「おわあああああ!?」

 

 唯一の武器である〈ピースメーカー〉を落とさないよう、必死に両腕で抱きかかえながら、青色のハリネズミのように地面を転がり進み続ける。

 

「あ痛ぁ」

 

 背中から木の幹に当たって、やっと私の体が止まった。体を起こすと、視界の端に鳩遠ちゃんの後をおっていくケルベロスの姿が見えた。

 神衣や髪の毛に付いた葉っぱを払い落としながら、立ち上がる。

 

 さて、二手に別れちゃったけど、どうしよう? 鳩遠ちゃんも攻撃できるようにするってことに夢中で、その後のことまで考えてなかった。

 うーん……鳩遠ちゃんと合流して、二人がかりで一体の悪魔を集中攻撃するのがいいかな。

 

 目標となる悪魔たちの位置だけど……ザガンは山頂、ケルベロスは鳩遠ちゃんをおっているはず。それなら鳩遠ちゃんと合流できれば、自然とケルベロス相手に二対一で戦えるかな? ザガンがじっとしてれば、だけど。

 おっし、そうしよう。

合流しに行こうと思い、鳩遠ちゃんが飛んでいった方を見ると――。

 

「げぇ!?」

 

 森を駆け抜けながら、私に向かってくるケルベロスの姿が見えた。

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