あくまたたき   作:永山てりあ

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8 体育館での戦い

 体育館入り口近くにある手洗い場。

 そこで私は、両手いっぱいに石鹸で作った泡を髪へと馴染ませてから、頭を蛇口から滝のように流れる水へと突っ込む。これで獣臭いのが取れればいいけど……。

 石鹸で洗うと髪が痛むって聞くけど、臭いままでいるよりはマシだよね。まさか最初にケルベロスによって手傷を負わされた部位が、髪になるなんて……。

 

「どうかな? 臭くなくなった?」

 

 洗い終わった頭を白狼(しろう)くんに向ける。

 

「失礼しますね」

 

 そう断ってから、私の頭に一瞬だけ顔を近づける白狼くん。深く考えずに匂いの確認をお願いしちゃったけど、なんか恥ずかしいなこれ。

 

「大丈夫です」

「よかったぁ」

 

 臭いはとれたけど、髪が濡れたままなのはちょっと気になる。 手でわしゃわしゃと髪をかき回す。うーん……いくらか水分は飛んだ気がするけど、引き換えに髪がぼさぼさになりそう。

 

「タオルがあればよかったんだけどなぁ……」

「あっ、気が利かなくてすみません、小乃葉様! すぐに探してきます!」

 

 私の呟きを聞き、はっとなった白狼くんが駆け出そうとする。

 

「あぁ、待って! 白狼くんに探しに行ってもらうほどのことじゃないから! それにほら、ケルベロスと戦ってれば火球で乾くかもしれないし。今度火球が飛んできたら、ギリギリ髪をかすめるように避けてみるよ。弾幕STGみたいにジジジジってかすり音するかもね」

「それ髪が焦げてる音ですよ。危ないから止めてくださいね」

「白狼くんがそう言うなら、やめておく」

 

 白狼くんの忠告を聞かずに段ボール作戦を強行した結果、ケルベロスの涎を浴びるという酷い目に遭ったばっかりだからね。反省した私は、彼のアドバイスに従うことにする。

 そもそもギリギリで避けるなんて器用な真似、私にできそうもないし。濡れたままの髪で我慢しよう。

 

「そういえばさ、ここなら体育館と校庭、どっちも近いよね」

 

 その二か所は私たちがケルベロスとの戦場に向いてそうと名前を出した場所。ケルベロスの涎を浴びるという悲しい出来事こそあったものの、結果的にはちょうどいい場所に来たかも。

 

「そうですね。どちらかに移動して、ケルベロスを待ち伏せしましょうか」

「うん」

 

 白狼くんの提案に大人しく従う。

 

「それで白狼くん、体育館と校庭、どっちで待ち伏せするの? どっちのが有利なのかな?」

「体育館にしましょう。そこなら小乃葉様が隠れて不意打ち出来そうな場所もありそうですし」

「おっけー」

 

 頭を洗うときに邪魔になるからと洗い場に立てかけていた〈白咬(はくごう)〉を手に取り、ずるずると先端のトゲトゲを引きずりながら体育館へと歩く。そんな私の姿を見て、白狼くんが心配そうに「〈白咬〉、重いですか?」と聞いてくる。

 

「ううん、平気。ただずーっと持ってると腕が疲れて肝心の戦闘中に影響が出るかもと思って、出来るだけ楽な持ち方してるの」

「そうだったんですね。なら、もっと良い方法がありますよ。貸してください」

 

 そう言われたので〈白咬〉の柄を白狼くんへと差し出す。私から〈白咬〉を受け取った白狼くんは、私の背中に回ってなにやらごそごそと神衣を弄っている。

 

「これでオッケーです」

「おお!」

 

 私の頭の斜め上に〈白咬〉の先端が見える。大剣を背負うゲームキャラみたいに、私は〈白咬〉を背負っていた。

 

「これなら手で持つより楽ちんだよ。ありがと」

「いえ、もっと早く教えればよかったですね」

 

 武器を背負うことでなんだか強くなった気になりながら、体育館へと入っていく。

 入り口の大きなドアは開いたままになっていた。いつもならここで体育館シューズに履き替えるけど、今日は神衣の靴のまま中へと入る。白狼くんが作った偽物の体育館だから、汚しても問題ないしね。

 中は当然誰もいない。普段皆で使っている広々とした空間が、独り占めできる。

 

「うおーー!」

 

 その光景になぜかわからないけどテンションが上がったので、思わず叫びながら体育館の中を走り回ってみる。

 私がはしゃぐワンコのように走り回っている一方、白狼くんはこの後戦場になる環境をチェックしているのか、床や天井、ステージやバスケットゴールなど体育館の設備を観察していた。うん、無駄に走り回って体力消費してる場合じゃないな。白狼くんを見習って、私も自分が隠れる場所を探すとしよう。

 隠れられる場所かぁ……体育館に備え付けられている倉庫とかどうかな。

 

 倉庫のドアは、体育館の壁とそっくりのデザインの引き戸で出来ていた。そのギリースーツみたいに擬態している引き戸の取っ手を掴み、がらがらと音を立てながら開けていく。倉庫が姿を現す。

 中にはバレーボールやバスケットボールが入ったキャスター付きのカゴ、隅に並べられている跳び箱、カードゲームの山札のように積み重なっている体操用のマットなど、体育の授業に必要な様々な道具が置かれていた。

 

 ふと視界の端に中国のゾンビ、キョンシーのような姿が見えてドキッとする。ゲームで知ったその存在は、よく見たらダンスの授業に使う大きな鏡に映った私自身だった。

 そういえば私、今、白狼くんと同じような格好してるんだっけ。自分の姿確認したいなぁなんて思ってはいたけど、予期せぬタイミングでそれが叶った。

 ……意外と似合ってるかも? はーちゃんに見せて感想聞いてみたいなぁ。でもはーちゃん、私が可愛い格好するとなんかハイテンションになって怖いんだよなぁ。やっぱやめておこう。

 

 それにしても倉庫だけあって物がいっぱいある。こんなに色々あるなら、どれか一つぐらいケルベロスとの戦いに利用できる物がありそう。ボールを飛び道具にするなんてどうかな。そう思いついて、バレーボールが入ったカゴを倉庫から引っ張り出してみる。

 ボールがたくさん入ってるカゴは大きかったけど、キャスターがついているため一人で簡単に引っ張りだせた。

 

「ねぇ、白狼くん。このボール、飛び道具として使おうよ。ケルベロスの火球に対抗して、私たちは排球を投げつけよう」

 

 白狼くんは強度を確認しているのか体育館の壁を叩いていたけど、中断してこちらへ歩いてくる。

 

「バレーボール、ですか?」

 

 カゴから一つボールを取り出し、平安貴族の蹴鞠みたいに足でぽんぽんと蹴りだす白狼くん。おお、上手。

しかし、私もサッカー部の兄を持つ女。リフティングという技を知っているのだ。

 さっそく私も、白狼くんの真似をしてバレーボールを蹴ってみる。すると私が一回蹴っただけで、ボールは白狼くんの方に飛んで行ってしまった。むずっ。

 白狼くんは蹴り上げていたボールを片手でキャッチしてから、私に蹴られて転がってきたボールを空いている手で拾い上げる。両手にボール。

 二つになった手元のボールを、ぶつけ合わせて強度を確認する白狼くん。

 

「武器として使うには、柔らかすぎませんか? 当てても大してダメージにならないと思います」

 

 そういって白狼くんがバレーボールをカゴに戻す。

 

「そっかー。あっ、ちょっと待ってて」

 

 私はバレーボールのカゴを倉庫へと戻し、代わりにバスケットボールが入ったカゴを引っ張り出してくる。

 

「こっちならでかいし硬いですぜ、おにーさん。当武器屋、おすすめの一品です」

 

 カゴから一つバスケットボールを取り出し、白狼くんに向かって放り投げ……たつもりだったけど、だいぶ逸れた。その逸れたボールを白狼くんはジャンプして軽々とキャッチする。着地した白狼くんは、掴んだバスケットボールを押したり叩いたりして強度を確かめはじめる。

 

 私もカゴから一つバスケットボールを取り出し、さっきみたいにリフティングしようと右足の甲で蹴ってみる。かてぇ! でも神衣の靴のおかげか痛くなかった。まさかこんな形で防具の性能を試すことになるとは。

 私が蹴っ飛ばしたバスケットボールはころころと体育館の床を転がっていった。

 

「バレーボールよりは硬いですけど、それでも武器には向いていないと思いますよ」

 

 そう言って白狼くんは手に持ってるバスケットボールを私に向かってパスする。そのボールを受け取った私はカゴの中へと入れた。

 

「駄目かー。せっかく倉庫で良い物みつけたと思ったのになぁ」

 

 がっかりしながらバスケットボールのカゴを倉庫に戻していると、ふと気づく。……そういえばなんで倉庫見てんだっけ? 

 そうだ、隠れ場所探してるんだった。ケルベロスが来る前に潜伏場所を見つけなきゃ。倉庫の中もいいけど、他にもっと良い場所ないかな?

 倉庫から出て、体育館の中を見渡す。体育館のアリーナを囲うように作られた二階の通路が目に止まる。そういえば、この二階の謎の狭い通路は何ていう名前なんだろ。

 

「ねぇ、白狼くん。あの通路って何て名前なの」

 

 二階窓近くにある謎通路を指差す。

 

「キャットウォークですね」

「キャットウォーク……可愛い名前だねぇ」

 

 それにしてもなんで人間の私が知らないキャットウォークなんて言葉、神使の白狼くんのが知ってるのかな。白狼くんが物知りなのか、私が物知らずなのか。物知らずって、なんか奥歯の後ろから生えてきそう。

 

「決めた。犬に対抗するなら猫だよね。私、キャットウォークに隠れるね」

「そんな理由で!?」

 

 白狼くんが驚くと同時に、体育館の外から大きな物音が聞こえてくる。ケルベロスだ。

あいつが近づいてくると通り道の物を壊したり、大きな足音が響くからすぐわかる。隠密という言葉が載ってない辞書を使ってそう。きっとアイツも物知らずだな。

 

 悪魔が迫っていることを理解した白狼くんと私は、お互いの顔を見て同時にうなずく。

 すぐに体育館前方に向かって走った私は、ステージの上へと上がり、それから左右の舞台袖へと移動する。外の光が届きづらく暗い通路を駆け、急角度の木の階段を上って、

 窓の光が差し込む明るい二階のキャットウォークへとたどり着く。

 

 キャットウォークはアリーナから飛んできたボールが窓に行かないように、天井から垂れさがっている緑のネットで覆われていた。このどこの体育館にもある緑のネットにも、キャットウォークみたいな名前があるのかな? ドッグバリアとか。

 

 ネットに守られたキャットウォークを半ばまで移動してから、これから現れるケルベロスに見つからないよう、急いで伏せる。手すりの隙間から、アリーナ中央で悪魔を待ち構えている白狼くんが見えた。

 その白狼くんから体育館の入り口へと視線を移すと、ちょうど巨大な番犬が姿を現したところだった。

 

「うおおおおん!」

 

 ケルベロスの三つの頭が、白狼くんの姿を見つけて吠える。駆け出した巨体に踏まれ、体育館の床が悲鳴をあげた。

 迫る巨大な悪魔を前にしても、白狼くんは全く動じない。

 

「いい加減お前のその煩い遠吠えも聞き飽きたからな。ここで終わりにしてやるよ」

 

 おお、かっこいいセリフ。私も真似して、なんかかっこいいセリフをケルベロスに言ってやりたいな。

 そんなかっこいい白狼くんは、ケルベロスの三つの頭から休みなく繰り出される噛みつき攻撃をかっこよく躱し、反撃にかっこいい回し蹴りを放つ。セリフだけならともかく、その後のアクロバティックな戦闘は私には真似できそうにない。

 胴体を横から蹴られたケルベロスはよろめきはするけど倒れず、お返しとばかりに火球を吐きだす。その火球を、白狼くんはひらりと華麗に避ける。

 

 そんな神使と悪魔の一連の戦いをキャットウォークという特等席から眺めてる私。いや、いい加減私も見てるだけじゃなくて参加しないと。

 ケルベロスが真下に近づいてきた瞬間に飛び降りて、奇襲をしかけたいなぁ。手すりの隙間から、ちらりと下を見る。結構高い。足がぐきってなったり、折れたりしたらどうしよ? いや、バスケットボールから守ってくれた神衣の靴の性能を信じよう。

 

 ただ手すりを飛び越えるには、キャットウォークを覆うネットが邪魔だなぁ。今のうちにネットを纏めておこうか。

 私は屈んだまま緑のネットを掴み、そのままキャットウォークをそーっと移動して、ケルベロスに見つからないよう少しずつ緑のネットを束ねていく。なんだか大きなカーテンを開けてる気分。

 順調にネットを回収していた私だったけど、突然ネットが重くなり引っ張れなくなる。

 

「あれ? ちょ、ちょっとぉ!?」

 

 それどころかネットが逆に私を引っ張り始める。引きずられ、手すりに体を食い込ませ、乗り越えそうになる。やばい、落ちる。

 体が手すりを乗り越えそうになったおかげで下がよく見えた。おかげで引っ張られてる原因がわかる。ケルベロスの蛇みたいな尻尾がネットに引っ掛かっていた。そのため白狼くんと戦うケルベロスが体育館を走り回るたびに、ネットが引っ張られてしまう。びりびりと音を立てて天井から剥がれていくネット。

 

 やばい、このままじゃネットと一緒に私も下に落っこちちゃう! 急いでネットから手を放したおかげで私の体は落ちずに……あ、あれ!? 私の全身が手すりを乗り越えた。

 

「掴んでない、ネット掴んでないからぁ! 何か不思議な力が作用してるよぉ!?」

 

 思わず上を見る。ネットが背負っている〈白咬〉に絡まっていた。

ケルベロスに引っ張られたネット、に引っ張られた〈白咬〉、に引っ張られて私の体が下の階へと落ちていく。大きなかぶかな? 言ってる場合か。

 

「うわああああああ」

 

 そのまま体育館の床に叩きつけられる――かと思ったけど。

 

「いたぁ……くない?」

 

 獣臭いクッションのおかげで落下ダメージはなかった。

 

「うおん?」

「小乃葉様ぁ!?」

 

 驚く白狼くんの背が低く見える。なぜなら私の目線が高いから。二階から落ちた私は、タイミングよく真下にきたケルベロスの背中に着地していた。

 

「うおおおおおおおん!」

 

 背中に私が乗ってることに気づいて暴れはじめるケルベロス。

 

「わかった、わかったから! すぐ降りるから暴れないで一旦止まって! むしろ私を背中に乗せてるこの瞬間を幸福に思って! ユニコーンとかいう乙女狙いの変態生物だったら大喜びしてるよ! ふぎゃっ!」

 

 説得空しく振り落とされる。急いで顔をあげると、暴れていて隙だらけだったケルベロスが、白狼くんに蹴り飛ばされているところだった。

 吹っ飛ばされたケルベロスが衝突し、体育館ステージが派手にぶっ壊れる。

 

「よし。不意打ち作戦成功」

 

 立ち上がりそう呟くと、私の真横に来た白狼くんがぼそっと言う。

 

「小乃葉様の方が不意を打たれていたように見えましたけど……」

「騙されたようだね白狼くん。敵を騙すにはまず味方から。不意を打つにはまず不意を打たれないと」

「そのプロセス、必要あります?」

 

 ない。

 

「うおおおおおおおおおん!」

 

 起き上がったケルベロスは三つの頭を上方に向け、凄まじい音量で吠える。

 

「うわぁ、怒ってるぅ! 白狼くんが蹴るからぁ!」

「いや背中に乗られたことを怒っているんじゃないですか?」

「何だよあいつ。失礼だな。私が乗ってやったんだぞ、喜べよ」

 

 怒りを露にしながらケルベロスが突っ込んでくる。その悪魔を迎え撃つためか、それとも私を守ろうとしたのか、白狼くんがすかさず前に飛び出た。遅れて私も〈白咬〉を背中から取り、構える。

 正面からぶつかる白狼くんとケルベロス。白狼くんみたいに正面から挑むのは私には無理に思えたので、回り込むように駆け出す。

 

 よく見たら体育館、火球の爆発で出来た穴だらけ。穴に足を取られないよう気をつけないと。戦闘中に転んだら命取り。

 

「あ痛ぁ!?」

 

 穴に気を取られていたら、何かを踏んで転倒する。背中を体育館の床に打ち付け、手に持っていた〈白咬〉を落としてしまう。一体何が私の足に割り込んできたんだっ! ……バスケットボールだ。

 

「誰だぁ! こんなところにバスケットボールを出しっぱなしにしてる奴はぁ!」

「さっき小乃葉様が蹴っ飛ばしたボールですよ!」

 

 そうだった。転んだ私に狙いをつけたケルベロスが口の中を赤く輝かせる。やばい、急いで立たないと!

 けど私が立つよりも先に駆け付けてきた白狼くんが、転んだままの私の襟首を掴んで……ちょっとーー!? 白狼くんに投げられて、私の体が宙を舞う。開いたままの倉庫の中へ。そしてマットの山へと着弾する私。ぐへぇ。

 でも、白狼くんのおかげで火球に丸焼けにされずに済んだ。

 

 再び戦闘に参加するため、急いでマットから這いずり出て、倉庫から飛び出す。白狼くんとケルベロスが戦ってるのを横目に、落とした〈白咬〉を拾いに駆け出す。

 それにしても体育館、戦闘の影響でそこら中破壊されて見るも無残な姿になっちゃってる。可哀想。

 なんて体育館の心配をしてる暇はない。ケルベロスは白狼くんと戦いながらも〈白咬〉を拾った私めがけて火球を飛ばしてくる。

 

「おわぁ!」

 

 なんとか避ける。外れた火球は体育館の壁にあたり爆発する。天井からぱらぱらと埃が落ちてくる。ちらりと上を見ると……ボールが落ちてきたので、さっと避ける。天井に挟まったまま放置されてたボールっぽい。

 白狼くんとケルベロスの間には、ボールより怪我しそうな照明が落ちていった。照明を避けたため、白狼くんとケルベロスの間合いが広がる。

 

「大丈夫なのこれ!? 体育館くん、崩れたりしないよね!? もうちょっと頑張れそう!?」

 

 体育館くんの身を心配する私をよそに、ケルベロスはさらに火球を吐き体育館を虐める。……ん? ケルベロスは白狼くんや私にめがけて火球を飛ばすだけじゃなく、やたらめったら色んな方向へと飛ばし始めた。スプリンクラーみたい。出してるのは水と反対の火だけど。

  STGでいう自機狙い弾だけじゃなくばら撒き弾が混ざった感じだけど、自分目掛けて飛んでくる弾の割合が少なくなったおかげで避けやすい。白狼くんだけじゃなく、私も難なく避けられる。

 

「ばーかばーか! そんな適当に撃った弾にあたるような私じゃないぞ!」

 

 天井から降ってくる埃や、火球の爆発の煙や焦げ臭さがちょっと気にはなる。

 

「ってあぶなぁ!」

 

 天井からまた照明が落ちてきた。火球によって壊されたキャットウォークの手すりや、バスケットゴールまでも落ちてくる。

 

「ちょ、ちょっと一旦火球ストップで。これ以上は体育館が崩れるから……ってお前、まさかそれが目的かぁ!?」

「ちっ! こいつもこの場所の脆さに気づいたみたいですね」

「えぇー!? 頑張れ体育館ー! 私は最後までお前を応援するぞぉ!」

「いやもう無理です! 逃げましょう!」

「らじゃー! ごめん体育館。君を見捨てて逃げる無力な私を許して」

 

 飛び交う火球を避けながら急いで白狼くんと二人で体育館正面の出入り口へと行き、そこから外へと飛び出す。

 体育館の外に出たとはいえ近くに居ると崩壊に巻き込まれる可能性もあるので、私と白狼くんはそのまま走り続け校庭まで逃げた。

 

 振り返ると、ちょうど体育館が轟音をたてながら崩れるところだった。すげー、こんなの初めて見た。ゲームで魔王城が崩れていくシーンみたい。灰色の煙が体育館のあった場所に立ちこめる。

 

「あっぶなー。……あいつ、あのまま崩れた体育館の下で押し潰されてたりしてくれないかな」

「そんな間抜けな相手なら苦労しないんですけどね。……来ましたよ」

「来ちゃったかぁ」

 

 煙の中から、ゆっくりと歩くケルベロスが姿を現す。敵の癖にかっこいいじゃねーか、ちくしょー。

 

「ねぇ、白狼くん。私もアレやりたいな。煙の中から現れるの。かっこいい」

「やめておいた方がいいですよ。煙で目と喉が痛くなりますから」

「そっかー、かっこいいのになぁ。私も何かかっこいい振る舞いしたいなぁ。ほら、さっき白狼くんが体育館でさー『ここで終わりにしてやるよ』ってかっこつけてたやつみたいの」

「格好つけていたわけではないですから! それに体育館で決着がつかなかったから、今その話されると僕が格好悪くなっちゃうじゃないですか!」

「言われてみればそうだね」

 

 よし、私は同じミスをしないように気をつけよう。

そう心に誓った私は、巨体を自慢するようにゆっくり堂々と歩きながら校庭の私たちへと近づくケルベロスに〈白咬〉の先端を向ける。

 

「おいケルベロス! この校庭で終わりにしてやる! ただそれは予定だから、未定であってこの先違うところで決着になる可能性もあるけど、そうなっても後で弄らないでください」

「小乃葉様、それ格好悪いですよ」

「やっぱり? 私も言ってる途中でそんな気はしてた」

 

 ケルベロスが三つの頭を空へと向ける。

 

「うおおおおおおおおん!」

 

 決戦の前の合図なのか、今までで一番大きな声量の遠吠えだった。耳痛ぇ。苦情言ってやる。

 

「うっさいぞアホ犬ー! 神器でミンチにするぞボケぇ!」

「小乃葉様、それ口悪いですよ」

「あら、失礼。ではお上品に……」

 

 こほんと咳払いして〈白咬〉をバトンのようにくるりと一回転させてから、先端を地面に突き立てる。

 

「かかってきなさいわんこ。お相手してあげます」

 

 そう口にしてから白狼くんを見る。

 

「どう? かっこよかった?」

「最後に僕に聞きさえしなければ。……さてと、犬ころ。そろそろ散歩の時間は終わりだ。お前に狼と犬の差を教えてやるよ」

 

 いいなぁそれ! 私もそういうかっこいいセリフ、言いたかったなぁ!

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