「侯爵閣下、どうなさるのです?」
「どうするも何もなかろう……。このまま受け入れるか、抗うかしかあるまい」
祖父達が何やら話していた。
子供心に何を話しているのか分かっていた。
最近、ずっと同じことで祖父や父は慌ただしくしていた。
大貴族の一角を占めていたブラウンシュバイクとリッテンハイムが何やら動いていたらしいというのを友人達から聞いていた。
友人達もそれ関係で家が慌ただしかったらしく、そう言っていた。
自分で調べた限り、どうやら門閥貴族達が我が家に政争を仕掛けてきているらしい。
それによって自分達があまり良くない状況に陥っていることも十分に理解していた。
「当主様は何を話しているんでしょうか……?」
プラチナブロンドの髪を持つ、まだ一桁の年齢にしかならない弟分が不安そうに聞いてくる。
別に直接の血の関係があるわけでも無く、家臣だとか、従卒とかであるわけでもない。偶然出掛けた先で仲良くなって、彼の姉共々仲良くしているというだけの話だ。
何をやるにしても仲間は多ければ多いほど楽しい。
それが悪巧みであれば尚のこと。まぁ、流石にやり過ぎると不味いので、バレてもギリギリ許されるぐらいの悪さで済ませていたけれど。
お陰で侯爵嫡子であるのにも関わらず、警察のお世話になったのは数え切れないぐらい。
領地惑星の警察長官から拳骨をみんな揃って食らったのも何回あることやら数えることすら馬鹿馬鹿しい。
「門閥貴族達が政争を仕掛けてきているらしいから、多分それの話じゃないかな。確かラインハルトの家にも来ていたろ」
「はい兄上。姉上を皇帝陛下に差し上げるからとか言っていました」
「物凄い怒りながら俺のところに殴り込んできたからな」
「あれは……、ごめんなさい……」
「いいよ。俺だって凄いむかついたし」
弟分の顔は不満と怒りに溢れていた。
弟分は今でも既にかなりのシスコンとしての片鱗を覗かせているから、よっぽど許し難いらしいのは簡単に想像が出来た。
あの時は祖父の取り計らいで事なきを得たが、だからと言ってそれで諦めるぐらいなら門閥貴族にはなっていない。
「それにしても、どうなるんでしょう?」
「分からない。政争でどちらか一方となら平気だろうけど、どっちもは厳しいんじゃないかな。武力にしてもうちにブラウンシュバイクとリッテンハイムを同時に相手取れるぐらいの私兵なんて無いし」
我が家の私兵はどれだけ何をやっても生まれてしまう貧困層の受け皿として存在するぐらいで一〇〇〇隻にも満たない。
ブラウンシュバイクとリッテンハイムは合わせると十数万隻、下手をすると二〇万隻にまで膨れ上がっても不思議じゃない。
「では……」
「分からない。だけど、何があってもいいようにしておかないとならないかもね」
「……その時は、私達も兄上に付いて行きますからね」
「おいおい、お前が居たら悪さが出来なくなるだろ」
「当主様に兄上達をよくよく見ておくように、と言われておりますから」
ふふん、と大命を受けたかのように胸を張って言う。
だけど頼もしいのは間違いない。なんせ弟分はこの年齢で周りが驚くぐらいの非凡さを見せている。その才覚は比肩する者が無い、と思わせられるぐらい。
「アルフ、ラインハルト」
「姉上」
「貴方達、また悪巧みでも考えていたの?」
「姉上、私は兄上達を止める側です」
「でも、結局一緒になって楽しそうに悪さをしているでしょう」
「……兄上」
「俺を盾にするなよな」
痛いところを突かれたらしい、差し出して盾にしようとする。
酷い弟分であることに間違いはない。
「焼き菓子を作ったわ。皆を呼んできて、一緒に食べましょう」
「分かりました!」
姉が作ってくれた菓子を食べるのがよっぽど楽しみらしい、元気良く返事をして駆けていく。
「それで……、女の私には内緒の話ですか?」
「聞いてたか」
「聞いているも何も、私の周りで起きた事でもありますからね。分からない訳が無いでしょう?」
「まぁ、ね」
「秘密にしているようですけれど、アルフが私を助けるように言ってくれていた事もね」
「それは知っていても言わないでおくのが良い女ってやつじゃない、と思わなくもないけど」
「そうかしら。……これからどうなるのかしらね」
「さぁ。だけど死ぬ事は無いと思うからそこだけは心配しなくて平気かな」
ラインハルトがわらわらと連れてきた皆と焼き菓子を味わった。
それが皆で集まることになる最後の機会になるとも知らずに。
アルフレート・フォン・ノルトハイム
ラインハルト・フォン・ミューゼル
アンネローゼ・フォン・ミューゼル
バルドゥル・フォン・オフレッサー