逃げるは敵へ   作:ジャーマンポテトin納豆

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大侵攻の後始末 Ⅱ

 

 

 

銀河帝国皇帝崩御。

 

その一報は自由惑星同盟にも瞬く間に広がり、大きな波紋を呼んでいた。

そんな最中、俺は統合作戦本部の会議室の一室で、シトレ校長、ビュコック総司令官、ヤンと顔を合わせていた。

 

「今日呼んだのは他でもない、帝国貴族出身の君の意見を聞きたいからだ」

 

「帝国がこれからどうなるか、ですね」

 

そう、帝国の皇帝が急に死んだとなれば当然大騒ぎ。

それは同盟、と言うより同盟軍と政府でも同じで、防衛体制やら、敵の侵攻時期やらが大きく変わる可能性があるからだ。

それによって同盟政府と同盟軍がどれだけの期間、安心して建て直しに専念できるかが変わる。

 

「その前に一つ確認を。フリードリヒ四世が後継者を立てないまま死んだ、と言うのは本当の話ですか?」

 

「それは確からしい。それが何か?」

 

「フリードリヒ四世の子は全部で二十八人、ですが現在生きているのは二人だけ。そしてフリードリヒ四世の嫡男はルートヴィヒ皇太子。ですがその当人は既に亡くなっており、男児としてフリードリヒ四世の血を受け継いでいるのは嫡孫であるエルウィン・ヨーゼフ二世だけです」

「しかし問題はそこではありません。年齢と次期皇帝を指名しなかったことにあります」

 

「何が問題なんだね?エルウィン・ヨーゼフ二世が皇帝になる、ではないのか?」

 

「彼は現在、記憶が正しければまだ五歳か六歳。まぁ普通に考えて碌に執政を執れる年齢ではありません。しかも問題は次期皇帝を指名していない、ということです」

「これの問題点は、フリードリヒ四世の孫にあたる、皇位継承権を持つ人物がエルウィン・ヨーゼフ二世だけでなく、もう二人存在するということ。門閥貴族筆頭の二家、ブラウンシュヴァイクとリッテンハイム家現当主はフリードリヒ四世の娘を娶っており、フリードリヒ四世の孫にあたる娘二人が皇位継承権を保持しております」

 

名前はなんだったかな?

確か、ブラウンシュヴァイクの方がエリザベートで、リッテンハイムの方はザビーネだかなんだかだった記憶がある。

 

この二人は母親にフリードリヒ四世の娘を持ち、フリードリヒ四世から見て孫にあたる存在だ。

皇位継承権は持っているが、順位としては二位と三位。一位は当然エルウィン・ヨーゼフ二世になる。

 

 

「なるほど、門閥貴族は自分の娘を皇帝に、とする訳か」

 

「恐らく。少なくとも血は継いでいますから、ある程度の正当性は存在します。恐らく自分の娘を皇帝として擁立し、そして自分は摂政となり政治を牛耳る、とでも思い描いているのでしょう」

 

「なるほど……」

 

「問題は、この二家の娘より、エルウィン・ヨーゼフ二世の方が直系となり、そして男児である為皇位継承権の順位としては一位になること。そんなのを受け入れるほど門閥貴族はデキておりません」

 

「と言う事は、エルウィン・ヨーゼフ二世が皇帝として擁立されたらそれに反発した門閥貴族との間で内乱になると?」

 

「間違いなく。国務尚書であるリヒテンラーデ侯爵は門閥貴族が国政に入ることを絶対に良しとしないでしょうね。となれば皇帝としてエルウィン・ヨーゼフ二世を擁立した上で、帝国軍を味方に付け、門閥貴族と全面対決に挑む筈です」

 

「内乱、というわけだな」

 

「えぇ。恐らくこれにより、帝国軍による同盟への殴り返しは怒らないでしょう。それどころでは無くなりますから」

 

「どれぐらいの期間になると思う?」

 

「さぁ?決着が付くのがどれだけ早いか、にもよるかと。ただまぁ、向こう一年は帝国も同盟に構っていられないでしょう」

 

「内乱となれば、どんな構図となる?」

 

「恐らくエルウィン・ヨーゼフ二世率いる皇帝派と、それを認めない門閥貴族の対決となるでしょうね。ただ、先程も言った通りリヒテンラーデ侯、そして帝国軍のミュッケンベルガー、シュタインホフ、エーレンベルクの三元帥は皇帝側に付くと思われます。いずれにしても、大規模な流血を伴うでしょう」

 

「門閥貴族はどうする?」

 

あの門閥貴族だからなぁ、お互いにやり合いつつその余力で皇帝派と戦う、と言う事すら有り得る。

 

「いずれにしても帝国は二分、或いは三分となり流血の目を見るでしょうね。リヒテンラーデ侯爵の事ですから、これ幸いとでも言わんばかりに門閥貴族連中を一掃するぐらいの気があっても私は驚きませんよ」

 

実際それぐらい門閥貴族には帝国政府も頭を悩ませている。

なんせ事あるごとに口を出してきて、能力も実績も無いのにも関わらず政府や官公庁、軍での重要ポストを自分や親戚やらに要求してくる。しかも自分達の利権のことしか大抵の場合頭にないから、それもまた帝国政治の妨げになっている。

 

「同盟に影響はどれぐらいあるだろうか?」

 

「うーん……、向こうとしては当然、内乱中に我々に介入して欲しくない筈です。同盟でも同じようなことがあれば当然そう思われるでしょうし。問題はどういう手段で介入を防ごうとするか、です」

「帝国政府や帝国軍としても門閥貴族との戦いに総力を挙げたいところ。なんせ門閥貴族の私兵は正規軍と同規模か、下手すると上回る可能性すら十分に有り得ますからね。職業軍人の数や質で言えば間違いなく帝国正規軍に軍配が上がりますが、門閥貴族にもそれなりに頭の回る職業軍人や貴族が居ると想定すればまぁ、当然でしょうね」

 

「門閥貴族の私兵と言うのはそんなに多いのか?」

 

「えぇ。リッテンハイムだけでも一万五〇〇〇隻編成の正規艦隊のざっと六倍以上。ブラウンシュヴァイクに至っては九個艦隊規模にまで膨れ上がるレベルです。帝国正規軍の艦隊は十八個艦隊。イゼルローン回廊の警戒に三個艦隊、辺境警備に二個艦隊、フェザーン回廊方面の警備に二個艦隊、と想定しても帝国正規軍が投入出来るのは一〇個艦隊と言ったところですか」

 

「門閥貴族の方が数という点では勝っている、と言う訳か」

 

「恐らく。なので正攻法でこちらをどうにかしよう、とは思わない筈です。となればあとは絡め手です」

 

そこまで言うと、何やら考え込んでいるヤンが何か案がありそうな感じだ。

 

「ヤン、お前何か考えがあるだろ」

 

「……まぁ、一応ね。皇帝崩御を聞いて色々考えていて思い付いたよ」

 

「どんなのだ?」

 

「先ほども申し上げた通り、帝国軍としてもアルフレート大将の言う通り門閥貴族との戦いに全精力を傾けたい筈です。となればこちらを、対帝国に注力出来ない状態にする必要があります。考えられる手段はただ一つ」

 

「こちらの内側に敵を作り上げること。これに尽きるでしょう」

 

 

 

 

ヤン達との会議のあと、少しして帝国はエルウィン・ヨーゼフ二世を正式に皇帝として擁立、即位が公表された。

その摂政にはリヒテンラーデ侯が付き、三元帥が新皇帝側に立つことを表明。これに門閥貴族はそれはもうカンカンに怒ったようで、何やら慌ただしい動きが帝国各地で確認されているという。

ここまでくれば帝国がどうなるかなんて誰の目に見ても明らかだ。内乱までそう時間は掛からないだろう。

では内乱状態となった帝国がどうやってこっちを内憂状態に陥らせるか、ということに焦点を当てる必要がある。

 

と一旦、軍の再編、再建計画に話を戻す必要がある。

このとき、俺はキャゼルヌ先輩と協力してまず何に取り掛かるべきか、と言う事を話し合った。

 

そこで一番に取り掛かるべきことは、同盟内の物流を回復させることだった。

帝国領侵攻作戦に於いて、二〇万トン級輸送艦を始めとして多くの輸送艦や補給艦を同盟軍は失っている。その数は各地から可能な限り搔き集めた、という数を殆ど全て失っている。

現状の同盟内の物流は、必要な軍用物資や人員の輸送を民間に無理言ってやってもらっている状態で、民間物流も結構な打撃を被っていた。

 

そもそも戦闘艦艇の建造には多くの資機材が必要で、前線に支援基地や補給基地を設けるにしても、それらに用いる資機材を運び込むための輸送艦が大量に必要になっている。

今は取り急ぎ手持ちの輸送艦を総動員してエル・ファシル、リオグランデ、ジャムシードに送り込んで構築しているが、それ以外はまるっきり何も出来ていない。それぐらい輸送艦の数が足りていない。

 

と言う事で軍の輸送は軍で担える、という程度にまで物流能力、輸送能力を回復させて尚且つ幾らか余力を持たせる必要があると判断された。

そこで軍はまず、戦闘艦艇の建造数を一旦絞って輸送艦の建造に注力。三か月でとりあえずの数を揃える手立てと計画を立案。

 

二〇万トン級輸送艦一〇〇隻、一〇万トン級輸送艦一五〇隻、五万トン級輸送艦三〇〇隻。

算出された、最低必要輸送艦数はこれだけのものになり、それ以上の数を帝国領侵攻作戦で同盟軍は失っているということだ。

この数字に幾らか余力を持たせる、となると各級にそれぞれ三〇~六〇隻の輸送艦をプラスして建造する必要がある。

 

この数を用意出来ないかぎり、同盟軍の再建、再編計画はそもそも成り立たないと言う事もあって軍部は即座に承認。

これを提出された国防委員会、財務委員会もすぐに承認した。

 

建造が完了した輸送艦は習熟訓練を終えると片っ端から輸送任務に従事。

最初の建造が完了した五万トン級輸送艦が就役したのは再編、再建計画発足から三週間後の事だった。

 

最初の輸送艦が就役してから、各工廠や造船所ではその生産ライン、建造ライン、建造予定には向こう四カ月の間、輸送艦の建造予定がびっしり詰まっていた。

五万トン級輸送艦は毎週三隻が次々に就役し、三ヶ月で必要数三六〇隻を満たすと予想される。20万トン級輸送艦は週に一隻。一〇万トン級輸送艦も同様に週二隻の建造ペースで進められることとなった。

これら輸送艦は次々に人員、資源、資材、機材輸送任務に従事。

これにより戦闘艦艇建造の為に必要な物が一ヶ月もすると揃い始め、空きの出来た工廠や造船ドックで徐々に戦闘艦艇、支援艦艇の建造が進められた。

 

こうして整い始めた頃、イゼルローン回廊の帝国側入り口付近、そして帝国領宙域に偵察衛星を放って索敵網を構築。それと同時に機雷原の敷設も進められた。

ここまで来れば少なくともイゼルローン回廊と、イゼルローン要塞が簡単に突破されることは無くなる。

 

 

 

輸送艦の建造に着手して程なく、帝国側からの特使を乗せた艦がイゼルローン要塞を訪れた。

内容は、早い話が捕虜交換を行いたい、というものだった。

 

「敵さんはこの捕虜の中に工作員を紛れ込ませてくる、と言う訳だな」

 

「恐らく。ですがどうにも出来ません。なんせ容疑者は二〇〇万人ですよ?」

 

「全員を取り調べる訳にも行かん、と言う訳か。なんと面倒なことを考える奴がおったもんじゃな」

 

溜息を吐きながらビュコック提督は腕を組む。

 

「それで、これからどうする?」

 

「まぁ、普通に捕虜交換をやって、反乱を起こそうとする連中を片っ端からとっ捕まえるか、それともあえて見逃してそこを一掃する、の二択しか。アルフの言った通り容疑者は二〇〇万人以上ですからね。それを考えたら事が起きてからどうにかする、ぐらいしか」

 

「だろうな。で、ワシは何をすればいい?」

 

「どかっ、と座っていてください。護衛には薔薇の騎士連隊から人間を出します。どこに裏切り者がいるか分かりませんからね」

 

「分かった。そうしよう。君らは?」

 

「艦隊を取り合えず、訓練の名目で一旦イゼルローンに送っておきます。今すぐには起きないでしょうから、少ししたら帰ってくる必要はありますけどね。ですが今反乱が起きてもカールセン提督とウランフ提督なら、まぁ事が起きても何とかしてくれるでしょうから」

 

「護衛は?」

 

「私のところには薔薇の騎士連隊から。アルフのところには何も言わなくてもオフレッサーさんが護衛に付きますよ。ま、ご家族の安全を守る必要があるので薔薇の騎士連隊からも護衛を出しますけどね」

 

「おいおい、大丈夫か?オフレッサー将軍はアルフレート提督が害されたとなったら何をするか分かったものではないぞ」

 

「それなんですよねぇ。下手したら反乱兵が皆殺しにされるかも。……血の海は見たくないぞ」

 

「本当に心配だよ。最近、君のところの陸戦隊もオフレッサーに汚染されてるってシェーンコップ少将から聞いてるけど」

 

「うん、なんか性質がオフレッサーに似てきてる。すげぇ野蛮になってきてる」

 

本当にオフレッサーと陸戦隊のせいで反乱軍の血の海が出来かねないんだ、それだけが俺の唯一の心配事だ。

忠誠心は高いんだが、何と言うか、本当に狂暴過ぎて俺や両親ですら手に負えないと思ってるんだから。しかも忠誠心故に暴走する危険性もあるし。

もうちょっと落ち着いてくれたら、とも思うけど落ち着いていたらそもそも陸戦一本で上級大将にまで登り詰められないか。

 

「ですが悪い事ばかりじゃありません」

 

「えぇ。二〇〇万人分の遺族年金や、その周りに掛かる金が丸々浮くことになりますし、その中から少なからず軍務に復帰したい、と言う者も出て来るでしょう。そうなれば人員不足が幾らか解決して、軍務復帰を望まない者も民間に復帰出来ます」

 

「それに、送り返す捕虜二〇〇万人分の維持費が丸ごと浮くことになる。財政的な負担は軽くなるか」

 

とは言ったものの、すぐに軍務に復帰できるわけでは無い。

精神的な面での問題や、帝国の捕虜の扱いも同盟ほど良いわけでは無いから身体的な理由で長期の療養を余儀なくされるのは明白だ。

 

「にしても、本当に嫌なタイミングでの捕虜交換ですね」

 

「まぁ、それが向こうの狙いだからなぁ。で、ラインハルト。お前には捕虜交換式典の手伝いを命じることになるんだけど」

 

「キャゼルヌ中将のお手伝いですね、承知しました」

 

「そうなるな。ま、大抵のことはキャゼルヌ先輩がやるから、それを近くで見て色々と学んで来い、っていうことだ。そこまで大事にはならないと思うから頑張れよ」

 

「はい。では、行ってきます」

 

キャゼルヌ先輩はハイネセンに戻って早々、捕虜交換式典や、それに付随する諸々の業務を丸ごと任されることになり、一時的な副官としてラインハルトを預けた後にイゼルローン要塞に出向。

 

双方、二〇〇万の捕虜交換は只事ではない。

なんせ今まで前例のない事だからだ。その業務たるや複雑煩雑、それに何もかも初めての事だから色々と大変だろう。

ラインハルトは色々と使いっ走りにされるだろうが、ま、良い経験になるだろうよ。

 

 

 

 

 

捕虜交換式典が無事に終わり、またまたキャゼルヌ先輩はイゼルローン要塞からラインハルトと共にとんぼ返り。

で、ここまでやってきて漸く財政状態の改善に着手することが出来るわけだ。

 

一応言っておくとキャゼルヌ先輩とラインハルトには二週間の休暇を取って貰ってからの仕事初めだ、ブラックと言われることも無いだろう。

ラインハルトは二週間もの休みなんて貰ったことが無いから何に使うか分からない、と言った感じで態々俺のところに休みに何をしたらいいか、と電話まで掛けてきたぐらいだ。

 

 

「全く、休暇明け早々この業務量か。コキ使う気満々じゃないか」

 

「捕虜交換式典、お疲れ様です」

 

「知っているぞ、お前とヤンが俺の処遇に助言をしたらしいじゃないか。お陰で一か月も掛けて辺境星域に赴任したと思ったら、ほんの数日でまたハイネセンに戻ってこいと言われたんだぞ?戻ってきたらすぐに捕虜交換式典の総指揮を執ることになって……。その苦労がお前さん達に分かるか?」

 

「しょうがないじゃないですか、そう言うポーズも大事なんですから」

 

「そうですよ。それに後方業務を丸ごと任せられる人が先輩以外いないんですよ?」

 

「家内なんて、辺境に飛ばされるって言った俺になんて言ったと思う?」

 

「さぁ?あのオルタンスさんの事ですからねぇ、さぞご辛辣な言葉が飛んで来たと思いますね」

 

「『ヤンとアルフの口から出た結果、と言う事はどうせすぐに帰って来る予定なんでしょ?だったら私が付いて行く必要は無いと思うわ。ちょっと長めの出張、ぐらいの感覚で待ってるわ。出来たらお土産、よろしくね』だと」

 

「はっはっはっ!そりゃオルタンスさんらしい!」

 

先輩とオルタンスさんのやり取りが目に浮かぶよ。

この人もオルタンスさんの尻に思いっ切り敷かれているからなぁ。

 

 

 

「取り合えず、軍政と軍略を大まかに分けてからにしよう。なんせ、俺はお前とヤンの女房役をどっちもやらなきゃならなくなったんだからな」

 

「本当にありがとうございます。キャゼルヌ先輩がいなければこう言ったことはまるで収まりが付きませんから」

 

「で、数字の面での仕事は全部俺に丸投げか?」

 

「えぇ、まぁ。俺達が数字や数値を出しても結局先輩が出したものの方が確実だし正確です。なら最初から任せてしまった方が俺の仕事も減るし」

 

「私の仕事も減って、面倒な手間を挟まなくて三人ともwin‐win。でしょう?」

 

「お前達なぁ……」

 

あっけらかんと言う俺とヤンに、キャゼルヌ先輩は呆れたように笑いながら肩を竦めて、それでもその通りだと頷いた。

 

まず俺達がやるべきは金勘定。

輸送艦の用意と若干の戦闘艦艇を建造するのは、急いでやらなければならないから補正予算で何とかしたが、それ以外はそうもいかない。

 

ともかくまず最初に俺達が取り掛かったのは来年度の軍予算を急いで策定すること。

基本的に予算と言うのは正規予算と軍人年金基金の二つに分けられ、そこに緊急で必要になったりした場合に政府予備費から捻出される補正予算が加わる。

 

ここでまず俺達が一番最初に用意する必要があるのは正規予算の策定。

そして予想される帝国軍との戦闘で発生するであろう、予想損失艦艇数と戦死者数、それに掛かる補正予算。

 

策定するのに最も簡単なのは軍人年金基金の政府負担分だが、ある意味では現在の同盟の状況的に、正規予算と補正予算を先に何とかしないと来年以降どうにもならなくなると言う喫緊の問題がある。

後回しにするようで申し訳ないが、同盟軍の状況はそれぐらい悪い、と言う事だ。

 

正規予算は人件費と艦隊の維持運用費、建造費など、まぁ当たり前のものが含まれる。

これは今ある艦隊、艦艇、人員の年間必要予算を算出するだけで一旦事足りる。これに軍人年金基金を足したのが正規予算と言うわけだが、政府からは可能な限りこの予算を小さくして民需やインフラに予算を回せるようにしてくれ、と言われている。

これに関しても一番手っ取り早く予算を削ることが可能だ。と言うのも捕虜交換で戻って来た二〇〇万人分の遺族年金が浮くことになるからだ。

この数字はとても大きく、一人当たり毎月二十八万ディナールが支給されるが、二〇〇万人分ともなると五六〇〇億ディナールになる。まぁ、傷痍年金とかもあるのでここまで大きい減額値にはならないだろうが、それでもざっと四〇〇〇億ディナールは浮くことになると計算出来る。

となればそのまま来年度の軍正規予算はそっくりそのまま四〇〇〇億ディナールが削減される。

 

 

で、補正予算のほうは、これが思いのほか少なくすることが出来そうだ、と言うのがキャゼルヌ先輩談だ。

 

「多分、アルフの言う事が正しければ帝国は内乱でゴタついて同盟との戦争どころじゃなくなる。帝国は内側でドンパチやらなきゃならないからな。その分、こっちに派兵する余力もない。となったらその分の損耗や遺族年金が発生しない。そしたら予算が浮く。ある意味、運が良いな」

 

「ですが、内乱の予兆があります。それをどのように、どれぐらい損害を抑えられるかでそれも変わってきますね」

 

「あぁ。話は聞いたが、まぁ捕虜交換式の要請タイミングを考えればな。犯人の目星は付いたのか?」

 

「ラインハルトに言って色々調べさせてますが、捕虜に加えて反乱に参加しそうな人間が思いのほか軍内部にも多くて。どうせのことなら反乱を起こさせてそれを一気に鎮圧してしまおう、という算段を付けています」

 

「だろうな。事前にどうにかするっていうのは事実上無理な話だ」

 

本当に、帝国には頭が回る奴がいるらしい。

多分、帝国領侵攻作戦での焦土作戦を提案し立案し、実行させたのも同一人物なんじゃないかと睨んでいる。人の心も何もない奴なのか、それとも非情に徹することが出来る人物なのかは分からないが、ここまでやるべきことを徹底してやれるというのは素直に賞賛せざるを得ない。

 

「反乱に参加する可能性が高いのは、今のところ第十一艦隊のルグランジュ提督ですね」

 

「あぁ、あの人はな……。だがそれならハイネセンに置いておいて監視した方が良いんじゃないか?艦隊を率いられでもしたら面倒だぞ」

 

「逆ですよ。今、第十一艦隊に配属されているのは下士官や兵から将官に至るまで全員が反乱に参加する可能性があるとされた思想の人物です」

 

「なるほど、もし反乱を起こすなら艦隊丸ごと反乱を起こさせて一掃してしまおう、と言う訳だな?」

 

「えぇ。艦艇を失うのは困りますが、まぁ、反乱を起こす奴はいなくても困りませんからね。別にルグランジュ提督はそこまで優秀と言う訳でもありませんし。一応、予算の中に第十一艦隊七〇〇〇隻分の損失補填予算を入れておきますか?」

 

「どうするかな。反乱で勝手に自滅したんだから、と言われるとこっちは弱い。多分補正予算に入れる方がまだ現実的だよ」

 

「そうですね。ならレベロ議員とホワン・ルイ議員に話を通しておきましょう。反乱は避けられないもの、と想定するべきですし」

 

トリューニヒトはどうせ感付いていて勝手に対策してるだろうから別に良いだろ。

あいつは殺しても殺しても死ななそうな奴だし。

 

「そうしてくれ。だが第十一艦隊への艦艇補充はどうする?」

 

「艦艇建造が遅れ気味、って言って誤魔化してます。まぁ全く補充しないと言う訳にも行かないので要らないと判断された人員を現存の中でも幾らか古い艦艇に詰め込んで送ってます」

 

「新しい艦を作って送ってやる必要も理由も無いって訳か」

 

「えぇ。古い艦なら沈んでも困りませんからね。第十一艦隊に送り付けた分は新規建造艦艇で補充すればいいだけですし。要らない奴も古い艦も押し付けられて一石二鳥です」

 

第十一艦隊をボロディン提督の第十二艦隊の支援部隊としたのはこれが理由だ。

ボロディン提督相手にルグランジュ提督が勝てるわけもないし、時間は多少掛かるがエル・ファシルの第五艦隊を向かわせて第五、第十二艦隊の二個艦隊で半個艦隊を鎮圧することも出来る。

ここまでを想定していたわけでは無いけども。

 

ハイネセンでの反乱は待機状態にあるヤンの第十三艦隊、俺の第十四艦隊で十分対処可能だ。二個艦隊合わせて二万六〇〇〇隻。

艦隊の陸戦隊と、それにオフレッサーを加えればまぁ、反乱軍の鎮圧なんて余裕だろうよ。

 

反乱はある意味起きると想定して備えておけば、それに加担する面倒な連中を一掃出来る良い機会だ。

シトレ校長やビュコック提督を始めとした各艦隊の提督には既に伝えてあるし、要人の退避手段や経路、それら関係人物の中で人質にされると対応が遅れたりする人達の護衛と、安全な場所へ退避させるための手順は整えてある。

なんにしても備えられることは備えておく。

 

 

 

 

 

 

なんとか来年度予算を作り上げ、どうにかこうにか輸送艦の数を揃えて同盟軍の物流を回復させた。

これにより工廠や造船所を戦闘艦艇の建造に大部分を回せる。戦闘艦艇と支援艦艇の建造比率はざっと八:二の割合で建造を進めている。

各艦隊には多少の損害なら現地でなんとか出来るようにする為に工作艦などの支援艦艇を配備してある。例えば一万五〇〇〇隻の艦隊にはそのうち数百隻が工作艦や補給艦、輸送艦などの支援艦艇になる。だがこの支援艦艇も帝国領侵攻作戦でかなりの数を失っている。

 

今は前線に展開している第十、第十二艦隊に各艦隊から搔き集めて配備している。

第十艦隊はイゼルローンの艦艇修理設備が使えるがそもそも最前線であるから揃えておく必要がある。

第五艦隊はエル・ファシルの設備が使える。第十一艦隊はリオグランデのものが使えるが、ジャムシードは最前線に加えてイゼルローンのような要塞も何もない。

ジャムシード星系内に宇宙港やその設備は揃えられたが、その分随伴出来る支援能力を整えておくことに越したことはない。

なので前線に出ていない第五、第十一、第十三、第十四艦隊からそれら支援艦艇を丸々第十、第十二艦隊に配備することを決定したのだ。

 

そうなると不足分をどうにかして補う必要がある。

と言う訳で支援艦艇の建造も急いで進める必要があるわけだ。

 

 

「支援艦艇の建造はどうなっていますか?」

 

「今のところは順調だ。搭載している設備が特殊だから数が揃うのに時間は掛かるが、取り合えず半年で第十三艦隊と第十四艦隊分はなんとか揃えられる。第五艦隊の分も含めると九ヶ月、といったところだ」

 

「ありがとうございます。他の再建予定艦隊分を入れると丸一年、ってことですね」

 

「だな」

 

「なんにしても半年あれば最低でも四個正規艦隊が実戦投入出来る練度と編成を整えられます。内乱が予想される帝国が侵攻を仕掛けて来るとは思えませんが、備えておくに越したことはありませんしね」

 

キャゼルヌ先輩と軍備に関する当面の話をする。

四個艦隊の体制がしっかり整えば防衛に専念するだけでいいならばこれで一旦十分な数となる。戦略予備を考えればまぁ、という数が七個艦隊になる訳だ。

この七個艦隊にそれぞれ半個艦隊が予備戦力として置かれる。そうなればどの艦隊も二万隻程度の戦力となる。

 

ではこれがどういう理屈で軍縮に繋がる、という話なのだが、同盟軍は十四個正規艦隊を備えていた。

それを七個正規艦隊に削減した上で、七個の半個艦隊とすれば、丸々三個艦隊ぐらいの艦隊が削減となる。そうなればその分だけ予算が減る。

 

「と言っても……。恐らく取り合えず整えるべきものを整えるとなれば予算は大して変わらなくなると思うがね」

 

「それはどうしようもないですよ。損失分や遺族年金分が丸ごと減るだけでも喜ぶべきですから」

 

「それに毎年、総数で言えば一個艦隊分の艦艇と人員を失った分も減る。まぁ、総合すれば例年よりは少ない予算でなんとかなるかな」

 

キャゼルヌ先輩とヤン、それにグリーンヒル大尉、ラインハルト達も加えてうんうんと金の計算とその運用方法に毎日頭を使う俺達だった。

 

 

 

 







お金の価値はまぁ、そのまま日本円に換算しました。
多分その方が筆者にとっても読者にとっても一番分かり易い。
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