反乱を鎮圧したは良いが民心の政府、軍への不信感は間違いなく強くなっただろう。
帝国領侵攻作戦での大敗と今回の反乱で軍への不信感は強まったし、積み重なった不祥事や今回ぶち撒けられた不祥事で、政府への不信感も間違いなく強まった。
「全く……」
「頭を抱えているな」
「当たり前じゃないか。ようやく再建の目処が立ったって言うのに、今回の件で早速再建計画、運用の修正をしなきゃならなくなった。お陰で仕事が増えたんだ、頭を抱えるさ」
「だな。そうだ、お前も気が付いていると思うけど」
「何が?」
「市井じゃ、ヤン提督か俺が政治家になれば良いのでは、なんて話があるらしいがどう思う?」
「冗談じゃない。絶対に御免被るね」
「だろうな。俺だって嫌だよ」
だが、市井にそんな空気があるのは事実だ。
不祥事続きで碌な成果の無い政府に、反乱を抑えられなかった軍。
対して反乱を僅か四ヶ月で鎮圧し、今までの戦功も抜群、階級は大将。それに三〇歳そこそこの俺達。自分で考えて嫌なもんだが軍を辞めて政界に転じれば有り得ないぐらいの得票率で圧勝出来てしまうだろうな。
第二のルドルフ・フォン・ゴールデンバウムには絶対になりたくないし、同盟百数十億の行く末を決めるような地位に付きたくない。
俺は今の生活に、忙しくて中々家族との時間が取れないから不満ではあるが、充実してはいるからなぁ。それを崩したくはない。
「で、そっちからは俺達になんて命令が?」
「第十三、第十四艦隊はハイネセンで一旦待機。事後処理もあるし、それが済んだらアルフ達が策定した再建計画に沿って、まぁ今回の損失分を補充したりはするだろうけど、再建、再編計画を進める、って感じだね」
「なら俺達は再来年の予算案と再建計画を策定しつつ、艦隊の訓練って感じか?」
来年度の予算案は既にキャゼルヌ先輩のお陰もあって策定済み。既に議会の承認も得ている。
あとは本格的に帝国軍と戦火を交える必要が出てくるだろう再来年だ。戦えば損失が出るし、それを織り込んで予算案を作らなくちゃならない。
一応、イゼルローン要塞に引き篭もって迎え撃ちつつ、訓練と哨戒を兼ねた帝国領の偵察、と言うのが主な戦略になるだろうから損失は今までより圧倒的に抑えられる。
物資の消耗もだいぶ少なくて済む。まぁ、軍需産業からは文句が出るだろうがそこは抑えるしかない。
例年より、今年と来年でそれぞれ三割ぐらいは予算が少なくて済む計算だ。その分を他に回して基盤を整えられるのは大きい。
ただ、再来年からは帝国軍との交戦も出るだろうから予算は一割減、多くても二割減にするのが精一杯ってところだ。
「と行きたいんだけどねぇ、流石に第一〇艦隊をずっとイゼルローンに張り付けておく訳にも行かないから、こっちとそっちがイゼルローンとエル・ファシルに交代要員として行くかもしれないんだ」
妥当だな。
イゼルローン要塞やエル・ファシルにはそれなりの娯楽施設があるとは言っても、ハイネセンには劣るし心理的にも落ち着けるか分からない。
なら一旦ハイネセンに下がらせてガス抜きと訓練を施して、また交代するという方がいい。
だが。
「……少なくとも今年中は無理だな。艦隊の訓練もあるし、再建に乗り出したばかりで主導している俺達が居なくなるのは不味いだろ」
「だよねぇ……。まぁ政府の、僕らをあんまりハイネセンに置いておきたくないって気持ちは分からなくもないけどさ」
「とりあえず、今年中と来年半ばまではなんとか抑えてくれるように頼む。じゃないと再建、再編計画まで空中分解しかねないしな」
「そうだね。こればっかりはシトレ校長とビュコック提督に頼むしかないか」
「いや、お前も一緒に頭下げに行く事になるだろ。総参謀長殿」
「……」
「んな面倒臭そうな顔されてもなぁ」
俺はまだ良いとしても、シトレ統合参謀本部長、ビュコック宇宙艦隊司令長官が行くなら総参謀長のヤンが行かないわけには行くまいよ。
その方が政府に対する心象も少なからず良くなるだろうし、俺にも来い、と言われたら行かないとならない。
何にしても、今年と来年が勝負だ。
どこまで再建と再編を進められるか、どれだけ練度を向上させられるか。
少なくとも正規艦隊編成で実戦配備状態にある第五、第一〇、第十二、第十三、第十四艦隊は最精鋭状態を保つ必要がある。
「エル・ファシルはどうなってる?」
「とりあえず、人造蛋白製造工場とイゼルローン要塞向けの各種部品、浮遊砲台製造設備の建設に取り掛かり始めたって感じだ。問題が無ければ今年中の稼働が可能って感じか。流体金属の方はまだ時間が掛かるな。多分、来年の中頃にならないと流体金属の方は生産に移れそうにない」
「そっか。一応計画通りには進んでるって事だね」
「まぁな」
「なら良かった」
「ただ本当にギリギリの数値だから、どこか一箇所でもトラブルがあれば予定値を満たすのは無理になる。そこは理解しといてくれよ」
「それはしょうがないさ。こっちもそれは承知の上で、だからね。なんせ艦隊再建と同時並行だし予算の配分もあるし本当はもう幾らか余裕のある予算案にしたかったけど、こればっかりはね」
「そこは補正予算でなんとかするしかないな」
予算の中には技術者の育成なども多く含まれている。
今の同盟は専門知識のある、専科学校卒の技術者が足りない。今までは軍備に予算を取られて教育方面はだいぶ予算的な割を食っていた。
だが今回の予算案で、軍の予算が三割減となった事で、それを回す事が可能になった。
他にもインフラや産業への投資も可能になった。これは中々大きい。
「イゼルローン要塞に哨戒用戦力として三〇〇〇隻を追加配備する予定はどんな感じだ?」
「これ以上辺境警備部隊から掻き集める訳にも行かないから、新規建造分の艦艇から一〇〇〇隻、僕らの艦隊から一〇〇〇隻づつを出して揃える予定だよ。新規建造分で年内までに二〇〇〇隻揃えられたら第十三、第十四艦隊に配備、って感じ」
「ま、妥当だな」
イゼルローン要塞駐留艦隊は一万五〇〇〇隻だが、ここから哨戒戦力を出すとなると消耗が激しくなり、数の維持が困難になる。
そこで哨戒艦隊を別途派遣しよう、となった訳だ。
現状、イゼルローン要塞には以下の兵力が駐留している。
要塞駐留艦隊
第一〇艦隊 一万五〇〇〇隻
哨戒艦隊 三二〇〇隻(予定)
一七〇万名+二〇万名(予定)
第一二三連隊(白兵戦)
第二四一連隊(白兵戦)
第二五六連隊(白兵戦)
九〇〇〇名
第三一一連隊(都市戦)
第三五五連隊(都市戦)
第三八九連隊(都市戦)
九〇〇〇名
ざっとこれぐらいだ。
戦闘があれば多少増減はするが、イゼルローン要塞駐留艦隊は基本、この編成となることが決定している。
薔薇の騎士連隊が抜けた穴はそれぞれ三個連隊の、合計九個連隊で要塞防御を担当し、この六個連隊はオフレッサーと薔薇の騎士連隊から散々鍛え上げられた精鋭だ。
彼らほどではないにしても、救援が到着するまで持ち堪えるぐらいは出来る。
さて、ヤンと色々話し続けたいのも山々だが、こっちはまだまだやる事がある。
予算案策定に掛かりっきりで艦隊人事がほっぽりっぱなしだった。
今の配置を変える気は無いが、これに追加して分艦隊司令をもう一人選ばないとならない。
元々カールセン少将とメルカッツ少将待遇(当時)が第十四艦隊の分艦隊を率いていたが、カールセン提督は帝国領侵攻作戦から帰還後の再建、再編計画に於いて、宇宙艦隊司令長官になられたビュコック提督の後任として中将に昇進の後に第五艦隊司令官に就任した事で我が艦隊から栄転となった。
その空いた席を埋める必要がある訳だ。
第十四艦隊には第一分艦隊、第二分艦隊があり、それぞれ三〇〇〇隻となるがカールセン提督には第一分艦隊を任せていた。
ここのポストをどうするか、を決める必要があった。
メルカッツ提督を第一分艦隊にスライド、と言うのも考えたが政府的には宜しくないと考えるだろうことは容易に想像が付く。
だからメルカッツ提督には第二分艦隊をそのまま率いてもらうことになった。本人も納得してくれている。
「分艦隊司令をもう一人、ねぇ……」
候補者としては二人、軍からリストアップされている。
サンドル・アラルコン少将とライオネル・モートン少将の二人だ。
だがまぁ、この人選となるとどっちを分艦隊司令に据えるかは殆ど決まっている。
因みにヤンのところはアッテンボローとグエン・バン・ヒュー少将を指名している。
「ラインハルト、ライオネル・モートン少将を呼んでくれるか」
「はっ」
少しして部屋の扉がノックされる。
「ライオネル・モートン少将、参りました」
部屋に来たモートン少将はピシッと敬礼をしている。
それに対して答礼で答える。
「今回少将を呼んだのは他でも無い、モートン少将に第十四艦隊の分艦隊司令をお任せしたいのです」
「はっ、謹んで拝命致します。ですが私でよろしいのですか?その、私は士官学校を卒業しておりません」
「先の帝国領侵攻作戦に於いて、第九艦隊の指揮を引き継いで率いられた手腕はお見事でした。そのお力をお貸し頂きたいんです。それに能力に叩き上げも士官学校卒も関係ありませんよ。なんせ我々は士官学校卒でも共通の無能を知っています」
「仰られる通りです。我が能力の全てを注ぎ込みましょう」
「お願いします。で、早速で申し訳ないが明日にでも着任、指揮を執って頂きます。二週間後には演習宙域を抑えたのでメルカッツ中将と共に練兵をお願いします」
「はっ。では早急に準備を進めます」
これで人事は終わり。
あとは俺の仕事を進めるだけだ。
基本的に訓練は航宙訓練、砲撃訓練、艦隊運動訓練、艦隊戦演習、機雷敷設訓練、機雷除去訓練、補給訓練、などなど多岐に渡る。
基本的にハイネセン近郊の演習宙域でやる場合は、アクセスが楽で良いが、大規模にやるのは航路や機雷が流れた場合に民間船舶に被害が出る可能性があることから中々難しい。
逆に辺境演習宙域は、アクセスが悪い(具体的には行って帰って来るだけで一ヶ月は掛かる)が演習宙域自体が広く、大規模艦隊の展開が容易であるから正規艦隊同士の艦隊戦闘演習もやれる。
今回抑えたのはハイネセン近郊の演習宙域だ。
演習のラインナップは艦隊運動演習、砲撃演習を基本とし、最後に艦隊を半分に分けて、それぞれメルカッツ提督、モートン提督の指揮の下で半個艦隊同士の艦隊戦演習を行う予定だ。
メルカッツ提督には三五〇〇とモートン提督には三〇〇〇隻の分艦隊を任せ、俺は五五〇〇隻を直接率いている。
現在、第十四艦隊の戦力は一万三〇〇〇隻。
内訳は、戦闘艦艇一万二〇〇〇隻、五〇〇隻の工作艦、五〇〇隻の補給艦、輸送艦を有する。
工作艦は同時に二隻の艦艇修理能力がある。なので一〇〇〇隻の艦艇を同時に修理する事が出来る訳だ。
補給艦や輸送艦は艦隊全部にエネルギー、弾薬、食料、水、嗜好品を補給する事の出来る物資を積んでいる。他にも艦艇修理用資材も積んでいる。
この補給艦隊には二〇万トン級輸送艦五隻、一〇万トン級輸送艦十五隻、五万トン級輸送艦二十五隻も含まれ、何かあっても当面の間、戦えるだけの物資量を誇る。
ただ、平時には訓練や演習の場合に限り少量の物資を積み込んで補給訓練をするに限り、大抵は各地を結ぶ輸送任務に従事したり、艦隊運動訓練などを行っている。
この様な編成が加えられた理由は帝国領侵攻作戦に於いて、補給能力不足が理由となった。
当時の戦訓から、艦隊に独自の大規模補給能力を持たせておく事が大変有用である、となった。
そこで、各艦隊に輸送艦隊を編成に入れよう、となった訳だ。
輸送艦の数はどちらにしても足りていないから、未だ建造計画の中に沢山入っている。
そこに各艦隊分が加わっても大差ない、と言う事らしい。
何はともあれ、同盟は軍と民間経済の立て直しに奔走する日々がまだまだ続きそうだ。
「ビュコック提督、お時間頂きありがとうございます」
「どうした、お前さんが相談なんて珍しい事もあるもんじゃのう」
「それがですね、ラインハルトの事なんです」
「ミューゼル少佐?貴官の義弟に何の問題があると言うのかね。あんな優秀なやつに問題があるとは思えんがのう」
訝しげに髭を撫でながら聞いてくる。
今日は態々昼食を一緒に摂ってもらいながら、相談をしたいと話した故にこうしてテーブルを挟んでいるわけだ。
ビュコック提督との繋がりが出来たのは、七八八年にマーロヴィア星域方面管区に赴任した時だ。
あの時、ビュコック提督は准将、警備司令官としておられた。その時に色々とお世話になり、交流が続いている。
実際、俺の家にご夫婦で食事に招待したことも何度もあるし、逆にビュコック提督のご自宅に招かれた事も何度もある。
なんなら結婚式のスピーチもお願いしたぐらいだ。正直、シトレ校長よりも恩義があるし、感じている。
「私生活や勤務態度には何の問題もありません。問題は、彼は現在少佐ですが、部隊を率いた事が全く無いのです」
「あぁ……、それは、確かに問題だな……」
言われて気が付いたと言わんばかりに顔を顰めた。
普通、少佐と言えば陸戦部隊なら大隊、艦艇乗組員なら戦艦の艦長を務めていてもおかしくはない階級だ。
何れにしても五〇〇人以上、八〇〇人未満の部下を持つことになる。
だがラインハルトは士官学校卒業後の少尉任官から、今に至るまでずっと俺の副官をやっているから部下を持った経験が無い。
これは致命的で、シトレ校長にしてもビュコック提督、シトレ校長の後釜であるクブルスリー提督にしても、ラインハルトはその能力的に将来軍のトップを担うことは間違い無いと言っている中で、この話がどれだけ不味いか判っていただけている。
「ずっと副官として縛り付けてしまっていた私の責任です。ですが、将来を考えれば今からでも部下を持ち、どう接するかを慣れておく必要があるかと思います」
「だろうな。言いたくは無いが、ミューゼル少佐はコミュニケーションがあまり得意ではないようだからなぁ、今経験を積ませないと後々、彼の事を相当良く分かってくれる副官でも居ない限り、大変な事になると言う事か」
「はい。そこでビュコック提督の知恵をお貸し頂きたく……」
「なんじゃ、そんなもん部下を持たせてしまえば良かろう」
「ですが、本来なら順々に数が増えていくのに、今部下を付けるとなったら陸戦部隊や巡航艦でもいきなり五〇〇人とかですよ?」
「数が多過ぎてどちらも潰れかねない、か」
「はい。なので何か良い考えを頂けないかな、と」
「うーむ……」
腕を組んで考えるビュコック提督。
昔から色々迷惑を掛けてお世話になっているが、まさかこんな事まで相談する事になるとは。
「何にしても、まずはどんな人数でもよいから部下を持たせる事じゃな。でなければ話が始まらんし、今までの功績や儂らからの評価もあって来年ぐらいまでには大佐になるじゃろう。明確な戦功が一つか二つでも付いたら准将まで一っ飛びも有り得る」
「そんなに早いんですか?」
「ミューゼル少佐と話せば、彼がどれだけの天才か分かる。儂等には敵いっこない次元のな。今の同盟にはそんな有能を下に居させる余裕は無いんじゃ。儂も楽をしたいしのぅ」
実際問題、今の同盟には三〇隻程度の艦隊を率いる中堅士官や艦長をやれるベテラン士官が、帝国領侵攻作戦の大損害の影響で全く足りていない。
本来ならラインハルトは三〇隻ほどの哨戒部隊を率いていても何らおかしくは無いし、倍ぐらいの相手なら何の問題も無く勝ててしまうだろう。
そこら辺の人材育成をする事に注力しなければならないが、ラインハルトは若手の中でも一番の最優先候補の一人だ。
因みにアッテンボローもその内の一人で、早ければ来年辺りに中将昇任が内定している。
年齢で言えば俺やヤンより早い、同盟軍史上最速の正規艦隊司令官になる予定だ。
「それならお主の艦隊に、哨戒隊を一つ新設してそこの司令官にするのはどうかね」
「哨戒隊ですか。確かに良いかもしれません」
哨戒隊は基本的に戦艦五隻、巡航艦五〜一〇隻、駆逐艦十五〜二〇、輸送艦五隻、工作艦三隻の最大四十三隻から編成される部隊だ。
ただまぁ、基本的に三〇隻ちょっとで編成される場合が多く、一番多い編成としては戦艦五隻、巡航艦六隻、駆逐艦十五隻、輸送艦三隻、工作艦三隻の三十二隻編成だ。
中には戦艦五隻、巡航艦十五隻、駆逐艦一〇隻、輸送艦五隻、工作艦三隻、なんて編成もあったりする。
因みにこの編成は俺が初めて部隊司令官として受け持った哨戒隊の編成だった。
まぁ要は決まった編成はあるがそれに準じた編成であることはまず無いというのが哨戒隊というやつである。
人員は最大五〇〇〇人と言ったところで、まぁ直接接する艦長や各分隊指揮官を考えても五〇人ぐらいとのやり取りをすることになる。丁度良い人数だ。
「ですが階級が足りません」
「そこはミューゼル少佐の能力を買っているという事で、シトレ本部長に言って中佐に昇進させる他あるまい。あれだけ能力があるなら儂はさっさと大将にでもなって貰って構わんと思うとるがね」
哨戒隊は司令官には中佐か大佐を置くとされ、副官は人手の問題もあって、付いたり付かなかったりする。俺には二人、時期は違うが副官がいた。どちらも女性でアンネローゼほどでは無いにしても、十分に美人さんだった。今はどこで何をしているやら分からないが、元気でいれば良いが。
まぁ、ラインハルトの事を考えるなら副官を付けた方が良いのは間違いない。あとは誰を付けるか?という問題。
下手な奴を付けようものなら副官が潰れてしまうし、ラインハルトも怒るだろう。
「では、そうしましょう。ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありません」
「なぁに、気にせんでよい」
好々爺のように、朗らかに笑ってビュコック提督は言った。
相談を終えると、雑談をしながらの昼食となった。
何度も言う通り、第十四艦隊は第十三艦隊と、訓練艦隊となった第一艦隊と共にハイネセンに駐留し、訓練訓練、また訓練、とひたすら訓練に勤しんでいる。
お陰で実戦経験もある上に、今のところ一年ぐらい訓練に明け暮れている訳だから、第十三艦隊共々最精鋭になった。
ヤンのところも俺のところと大して変わらないが、元々はフィッシャー少将を中将に昇任させた上で艦隊司令官に、という話もあった。
だが第十三艦隊の艦隊運用に於いてフィッシャー少将が担っているものは大きく、抜けたらマトモに艦隊運用が出来なくなるとヤンがシトレ校長、ビュコック提督に泣き付いた事で無くなった。
フィッシャー提督は「その方が宜しいでしょう」と笑って言っていたから、フィッシャー提督もその辺はよく分かっていたらしい。
一カ月訓練をやったら、だいたい二〜三週間は整備や補給の都合で待機か休みになる。それをずっと繰り返している訳だ。
俺は予算案の作成に忙しく、かと言って艦隊司令官の仕事をおざなりにも出来ない為、中々のハードワークだ。
艦隊の運用とかに関してはメルカッツ提督とモートン提督に任せられるが、決裁なんかは俺が最終的にやらなければならない。
そこで活躍していたのがラインハルトだ。
ラインハルトは前線部隊指揮官としても天才だが、後方勤務士官としてもまた、天才だ。
あいつがいるお陰で仕事が回っていると言っても良いぐらいだ。
だがまぁ、ラインハルトの事を考えればずっとそうも行かない訳で。
「ラインハルト・フォン・ミューゼル少佐。貴官には◯月*日付けを以て、中佐に昇進。同時に第十四艦隊所属第五五七哨戒隊の司令官の任を命じる」
「はっ、謹んで拝命致します」
手筈を整えて貰い、ラインハルトは中佐に昇進。
同時に新設された第五五七哨戒隊の司令官に着任することとなった。
「それにしても、今の時期に新編された哨戒隊の司令官を私に、というのは何故ですか?予算案の方も色々と忙しいでしょうに」
ラインハルトは、単純に理由を聞きたいらしい。
俺が自分の事を嫌う、とはならないだろうし、と言った顔だな。
「何、ちゃんと理由はある。聡いラインハルトの事だから理由はすぐに分かるだろう。上官として、そして兄としての宿題だ」
「なるほど、分かりました。ご期待に添えるようにしましょう」
変な理由は無いとちゃんと分かったからか、朗らかに笑って答えた。
ま、部下の扱いってのは色々と大変だから頑張れよ。
で、だ。
ラインハルトが抜けた副官席を、どうするかが大問題。
ぶっちゃけラインハルトレベルでオールマイティに満点の仕事が出来る人間なんて他にいる訳が無い。
ラインハルトには艦隊の方も、予算案の方もどちらも手伝って貰っていたから、キャゼルヌ先輩には事情を説明して可能なら二人ぐらい寄越してくれ、と言ってあるが、さてどうなるかな。