逃げるは敵へ   作:ジャーマンポテトin納豆

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イゼルローン要塞赴任

 

 

 

帝国内での内乱が終結してから一年。

同盟軍の再建も順調に進んでいる。この再編計画は一つ、明確な修正が加えられた。

それはフェザーン回廊の守りの一翼を担うアルテミスの首飾り、と呼ばれる軍事衛星を十二基から二〇基に増やすことが決定された。

 

これは単純に艦隊を整備するよりも安上がり且つ、人員を消耗しないということから選択された。

まぁ、流石に数百基を配備するのは難しいが少なくてもあるなら十分な脅威となるからな。

 

 

そして俺は俺、と言うより第十四艦隊に艦艇数が増やされた。

総数一万五〇〇〇隻に増やされ、更に哨戒部隊三〇〇〇隻が加えられ、指揮下の艦艇は一万八〇〇〇隻となった。

これが意味することは一つ。

 

「アルフレート・フォン・ノルトハイム大将。貴官をイゼルローン要塞駐留第十四艦隊及び、要塞総司令官に任命する。ついては早急に艦隊を準備し、イゼルローン要塞に赴任せよ」

 

新たな辞令を受け取る事となった。

 

 

 

「イゼルローン要塞に赴任、ですか」

 

「あぁ。それで家族を連れて行くのも許可されているから、アンネローゼには付いてくるか聞こうとおもーーー」

 

「勿論付いて行きます」

 

凄い食い気味に答えたな。

 

「分かった。一週間後に出発するからそれまでに準備を済ませておいてくれ。荷物はトランク三つまでだ」

 

「分かりました。必要な物は向こうでも揃えられるのですか?」

 

「あぁ、商店とかそう言うのも全部ある。ちゃんと買えるよ」

 

両親はハイネセンに残り、俺はアンネローゼを連れてイゼルローン要塞に赴任することとなった。

 

ただ、帝国内情勢に於いて懸念すべき点が一つ。

ブラウンシュヴァイク、リッテンハイム両家の侯爵夫人とその娘が未だ捕まっていないと言う噂が流れている事だ。

帝国政府は貴族連合に組みしていた貴族、及びその家族や従者は全員捕まえて既に極刑に処した、と公式に発表しているのだが真偽のほどは定かでは無いし。

 

「なーんか嫌な予感がするなぁ……」

 

誰にも聞こえない大きさの声で、ぼやくことしか俺には出来なかった。

 

 

 

 

 

現状、帝国内の情勢はあまり良くない。

ブラウンシュヴァイクとリッテンハイム率いる門閥貴族が軒並み死刑を賜ったと言っても、それ以外の、どちらにも属さなかったり幼帝派に属した門閥貴族はまだまだ健在。しかもブラウンシュヴァイクが最後の最後に、自領であるヴェスターラントに核攻撃をしでかすとか言う、ちょっと考えられないと言うか、有り得ないことを盛大にやらかしたことで貴族に対する民衆の目線が物凄く厳しいものになっている。

 

お陰で帝国政府はその後始末、具体的には時折各地で反乱が発生したり、民衆の怒りを抑える為に貴族への処罰、それら対応や鎮圧に各貴族や帝国政府は追われているとのこと。

まぁ、五〇〇年も好き勝手やって、まだ小学校に通っているような年齢の子供を相手に胎ませたりしていたのだから当然と言えば当然だが、かと言って帝国政府もそこまで馬鹿ではない。問題のある貴族は片っ端からしょっ引いて首に縄を掛けたりしていると言うから、この騒動も近い内に落ち着くだろうと思う。

 

「帝国内の内乱が、ここまで長引くとは思っておりませんでした」

 

「あのまま何事も無く門閥貴族の負けで終わっていたらここまで長引かなかっただろう」

 

「ですがブラウンシュヴァイクの最後の悪足掻きが、そうでなくしたと」

 

「あぁ。まぁ、帝国民には申し訳ないが、こっちとしてはある意味で良い結果だとも言える」

 

「私は帝国一般市民を助ける為、とか言ってまた帝国領に侵攻しようとか言い出すんじゃないかと冷や冷やしましたよ」

 

「今の議会はそれがどうやっても出来ないことぐらいは分かっているし、無制限に亡命者を受け入れる事も出来ないというのも分かっている。多少なら労働力が増えるとか利点になるが、これが億単位ともなると流石にどうにも出来ん。それどころかこっちまで倒れてしまう」

 

「ですな。二千万人ぐらいなら低開発惑星に送り込んで大いに活用出来るでしょう。ですがそれですら同化政策に苦労しますよ。同盟公用語、基礎教育、識字率、閣下からお聞きしている帝国民の状況を鑑みれば……、もし私が行政のトップでこれを捌かねばならないと思うとゾッとします」

 

「と言うか、そんな状況を捌ける政治家なんて今の時代、同盟はおろか帝国にもフェザーンにもいないからなぁ」

 

正直なところ、現在の同盟、帝国の政治家や貴族の質の悪さはある意味凄いものがある。

まぁ、同盟の場合はトリューニヒトが死んだ後に色々と不正やらなんやらが溢れ出てきたので全員総辞職となったから自浄作用が少なからず働いているとは思うが、帝国はそうではない。ゴールデンバウム王朝が倒れ、新たな王朝にしろ、民主主義国家にしろ、代わりとなる政治形態が出来上がったわけではない。

 

リヒテンラーデ侯が処罰した貴族から取り上げた財貨を帝国内の開発なんかに回したりと色々内政やらで立て直しを図り、幼帝がいるから政体としてなんとかなっている感があるのは否めない。

亡命者が来るのも仕方が無いことだとは思うが、護民の軍隊を掲げている我々が助けを求めてくる亡命希望者を追い返さないとならないって言うのは、いよいよ同盟が財政的にギリギリ、という事を見せ付けられているようで何とも言えない。

まぁ、それで無制限に受け入れてしまえばせっかくあの手この手で浮かせた軍事費の意味が無くなってしまうので仕方が無いところもある。

 

「上手い事、追い返す文句を考えないとなぁ。下手したら帝国にプロパガンダに使われるし……」

 

「ですね。その辺は政府が上手いこと考えていると思いますが……」

 

「ま、俺達は与えられた任務を全うするしかない」

 

なんにしても、軍部と政府の共通認識は帝国の旧支配層である門閥貴族は可能な限り受け入れない事、そして手を組まないことである。

下手に手を組もうものなら帝国民にとって俺達は自分達の事を虐げに虐げ、搾取し略取してきたクソ共と手を組んだクソ共と言う認識になる。そうなればもう帝国との講和とか和平なんて遥か彼方に吹っ飛んでいくことになる。

もし亡命を受け入れたとしても、貴族に関する一切の権利を放棄し、一切の政治的干渉、行動を行わない、財産は最低限以外全て亡命税として徴収する、ぐらいをやらないとならない。これも結構危ない橋を渡るもので、徴収した亡命税は本来帝国民に還元される筈のものだ。それを同盟がブンどったらまぁ、帝国民の対同盟感情は悪くなる可能性は高い。

なんにしても門閥貴族の脳みそは俺達では到底理解出来ない構造をしている。惑星を一つ領地として差し出せとか普通に言ってくる可能性だってあるし。

 

色々と考えながら、四週間かけて第十四艦隊はイゼルローン要塞に到着。

現地で第一〇艦隊との交代式を形式的に行い、俺の就任式は大幅にカットとなった。

 

 

 

 

 

イゼルローン要塞に赴任してから二か月。

 

要塞司令官及び第十四艦隊司令官

アルフレート・フォン・ノルトハイム大将

 

副官 

イヴリン・ドールトン大尉

ヴァレリー・リン・フィッツシモンズ大尉

 

参謀長 チュン・ウー・チェン少将

副参謀長 ジャン・ロベール・ラップ准将

 

駐留艦隊副司令官兼第一分艦隊司令官 メルカッツ少将

第二分艦隊司令官 ライオネル・モートン少将

艦隊空戦隊長 サレ・アジス・シェイクリ中佐

 

要塞防御司令官

オフレッサー中将

要塞空戦隊長

イワン・コーネフ中佐

 

以上がイゼルローン要塞兼第十四艦隊司令部の面々となる。

まぁ、特に変わったところは無く、以前ワイドボーンとカールセン提督が抜けた以外は特に何も無い。

本音を言えばもう一人か二人、具体的にはビューフォート准将を分艦隊司令官に迎えたいところだったが、人手不足で却下された。どうやら少将に昇進させた上で半個艦隊で再編される第六、第八艦隊のどちらかの艦隊司令官に就任される予定らしい。規模としては半個艦隊だから別に中将じゃなければならないと言う訳でもないので、当然の措置と言える。

 

まぁ、現状の第十四艦隊の体制に何か問題があるのかと言われるとそこまで問題があるわけでもないので構わないだろう。

カールセン提督の第五艦隊はそのままエル・ファシルに駐留しており、第一〇艦隊はハイネセンへ下がり、暫くの間、休養と整備、そして訓練に時間を費やすことになる。

フェザーン回廊の第十二はそのまま、司令官もボロディン提督が艦隊司令官を勤められる人材が不足しているという事もあって続投。

壊滅した第十一艦隊の代わりに再建されたパエッタ中将の第八艦隊が配置されている。

ヤンのところの第十三艦隊はハイネセンで待機。まぁ、話によるとヤンは参謀総長職に専念する為に艦隊司令官を離れて、その代わりにホーウッド提督が就くらしい。順当ではある。

 

 

 

 

艦隊の方は一万八〇〇〇隻のうち、哨戒用戦力である三〇〇〇隻を二個個分艦隊に分けてローテーションを組んで運用している。

 

哨戒艦隊はざっくり哨戒兼訓練と、整備休養を交代で行う。それぞれ二週間の予定としており、初期の半年間はイゼルローン回廊内や帝国側回廊入口付近の監視衛星や機雷原の増備、構築を兼ねたものとなる。

機雷原は基本的に帝国側回廊入口付近に集中し、元々ウランフ提督以下が構築していた分も合わせてその数、六〇〇〇万個にも及ぶ。ただまぁ、完全に封鎖している訳ではないので亡命者が艦艇なんかで来る場合は哨戒艦隊が通告を出し、武装解除と臨検を受けた上でエスコートする手筈になっている。

 

因みにラインハルトは哨戒隊を今も率いているので司令部にはいない。

本人も段々とコツを掴んできたのか、哨戒隊の何時ぞやの雰囲気も解消されて艦長達と談笑するところもチラッ、とこっそり見たことがあるので経過は良好らしい。

もう暫くしたら、具体的には帝国軍が態勢を整えてイゼルローン奪還に動いてくるよりも前に司令部に戻す予定だ。多少戦功があれば大佐になって艦隊の一部を任せる可能性もある。

大佐となれば艦隊司令部付参謀、或いは司令官の副官、艦隊を任せるとすれば戦艦十五隻、巡航艦二十五隻、駆逐艦四〇隻ぐらいの小艦隊を任せられる。

多分、そうなったらラインハルトの出世は早いだろうなぁ。

 

 

「機雷原の構築、六十四%まで完了しております。残りの機雷原構築は三か月掛けて行う予定です」

 

「順調順調。ま、事故を起こさないようにだけ気を付けてくれ。なんなら多少遅れても構わない」

 

「良いのですか?」

 

「今の帝国にイゼルローンに押し寄せて来るだけの余裕は無いからなぁ。これで帝国軍にそれだけの余力があったらこんなこと到底言えないけども」

 

「ですね。まぁ、このままの調子で行けば特に問題らしい問題も起きなさそうですし、暫くは安泰ですかねぇ」

 

チュン参謀長の言葉に頷く。

だがそんな期待と言うのは思いのほかあっさりブチ破られるものだと言うのを、俺達は失念していた。

 

 

 

 

「閣下、第二哨戒分艦隊より緊急通信です!」

 

「どうした、敵が来たか?」

 

「いえ、そうでは無いのですが……」

 

「そんなに言い辛いことなのか」

 

「その、帝国軍の戦艦四隻が亡命を希望しているとのことで」

 

「はぁ、それがどうかしたのか?」

 

別に珍しくない、と言うか想定していた事ではあるし皆にもそれは伝えている筈なんだが、なんでそこまで言い辛そうにしているんだ?

 

「それが、その戦艦に乗り込んでいる亡命希望者と言うのが、その内の一隻にクリスティーネ・フォン・リッテンハイム、ザビーネ・フォン・リッテンハイムとその配下が。そしてもう一隻にアマーリエ・フォン・ブラウンシュヴァイク、エリザベート・フォン・ブラウンシュヴァイクの配下が乗り込んでいるそうです……」

 

「な ん で だ よ ! ! !」

 

 

 

 

 

思わず大きな声で叫んでしまった。

と言うか同盟にとって一番の厄ネタみたいなのが亡命してきたって言われたら、共通認識のある俺達なんだ、頭を抱えない方がおかしい。

と言うかイゼルローンに来る道中で感じた嫌な予感が思いっ切り当たってしまったじゃないか!あんなこと考えなければ良かった……。

 

この報告を聞いていたチュン参謀長やラップ、そしてメルカッツ提督も渋かったり難しかったりと、なんにしても良い顔はしていない。

 

「オフレッサー」

 

「はっ!!」

 

「一応言っておくが殺しちゃ駄目だぞ」

 

「何故!?!?」

 

「良いから、その場で待機しててくれ」

 

今にも装備を取りに行って、シャトルを分捕って殴り込みに行きそうなオフレッサーを止めておく。

放っておいたら肉片がこびりついた戦艦だけを回収することになりかねない。

 

 

「……とりあえず、この事実を知っている者全員に箝口令を敷く。それとハイネセンに連絡。レベロ議長とルイ議員、あとシトレ本部長達も交えて会議するしかない。俺の一存だけでは決め兼ねる」

 

「はっ。では、取り急ぎ亡命希望者達をどうしますか?」

 

「うーん……」

 

どうするかなぁ。

ぶっちゃけ艦艇から降りないでほしい。降りられたらもし同盟で受け入れないと言う決断が下された時抵抗されると面倒だ。かといってそのまま戦艦に押し込んでおくと言うのも問題がある気がする。

 

「……クリスティーネ・フォン・リッテンハイム、ザビーネ・フォン・リッテンハイム、アマーリエ・フォン・ブラウンシュヴァイク、エリザベート・フォン・ブラウンシュヴァイクの四人だけ、一旦こっちの部屋に通そう。あ、一応言っておくが隣の部屋で、ただし同じ部屋にはするなよ。もし何かあったら困るからな」

 

「配下の者が反発したらどうされますか?」

 

「俺の名前を出して黙らせて構わない。多少は静かになるだろう」

 

「はっ。では通します」

 

「あぁ、それとドールトン大尉とフィッツシモンズ大尉は装備を身に着けて護衛に付いてくれ。万が一がある」

 

「オフレッサー中将ではなく、ですか?」

 

「……あの顔、見えるか?」

 

「「あぁ……」」

 

「分かりました。装備は完全装備で宜しいですか?」

 

指差した先には、それはもう、血走った目に何時切れるのか分からないぐらい浮き出た血管、とんでもなく荒いは鼻息、そして周りを近付けさせないほどの怒気を纏って、おっそろしい形相で今にもハルバードを担いで帝国軍艦艇に殴り込みに行きかねないオフレッサーが。

一応、行っちゃ駄目、と命令をしているので我慢しているが、腕組みして掴んでいる軍服が滅茶苦茶沈んでいる。

 

それを見た二人はスンッ、と真顔になって頷いた。

 

「それでいい。必要であれば陸戦訓練を受けた女性兵を何人か選んでくれて構わない。ただし、人選には気を付けるように」

 

「了解しました。では」

 

「頼んだ」

 

一応、護衛も付けておく。

門閥貴族が原因で亡命してきた人間や、その二世もこの艦隊には居るからなぁ。一応そんな事をするような部下じゃないとは信じているが、恨みつらみってのはそれを簡単に飛び越えて来る可能性がある。万が一が有り得るから、同性で、尚且つ信が置けるドールトン大尉とフィッツシモンズ大尉に頼んだ。

 

多分、配下としてくっ付いてきた連中は少なからずブラウンシュヴァイク、リッテンハイムに忠誠を誓っているだろうし。

故当主に忠誠を誓っていなくても、その妻と娘である四人に、と言う場合もあるし。変に暴走されても困るから、艦で待機していてもらうしかない。

 

艦隊には陸戦訓練を受けた女性兵士も少なからずいるので、まぁ二人を合わせて一〇人もいれば問題無いだろう。

 

 

 

 

 

 

『うぅむ、どうしたものか……』

 

ビュコック司令長官のボヤキは、今ここにいる面々の心情を大いに代弁していた。

 

『その、本当に本人なのかね?』

 

「直接、顔を合わせて確認致しましたが、少なくとも母親の方は間違いなく本人です。娘の方も遺伝子検査で血縁関係が認められましたので、本人達で間違いないかと」

 

『そうかぁ……、いっその事偽物であってくれたほうが……、と意味の無い考えか……』

 

クブルスリー大将も渋い顔をしているし、レベロ議長もルイ議員も難しい顔をしている。

まぁ、下手をすれば帝国がこれを利用して、帝国政府や貴族に向いている敵視を一気に同盟に向けて来る可能性だってある。それを考えたら当然だろう。

 

『ヤン総参謀長、どう思う?』

 

『同盟のことを考えるなら、厳しい決断も止む無しと、小官は考えます』

 

ヤンに聞いたのは、俺への配慮か、それとも判断力を鈍らせないためか。

なんにしても俺は別に門閥貴族に対して特に何ら感情は無い。強いて言うなら愚かな連中が自業自得の結果を招いた、ぐらいか。

 

結局この会議は数日掛かった。

もう厄ネタ過ぎて決め兼ねると言うか、どう決めても悪い方向にしか転がって行かないんじゃないかと言う気がしてならない為、今ある選択肢の中で最も最善の策を考えるのに時間が掛かったというべきか。

 

 

結果として決定したのは、持ち込んだ財産のほぼ全てを亡命税として納める事。所有して良い財産はどうしても手放すことの出来ない物(家宝など)を少量残してよいものとする。

職に就き、自立して生きていけるまでその生活は同盟政府が保証する。ただし期限を設けるものとする。

貴族としての身分は一切無し、配下として付いてきた者は全員が同盟公用語を習得し、尚且つ職業訓練を履修した上でそれぞれバラバラに各地に送る事。

 

クリスティーネ・フォン・リッテンハイム

ザビーネ・フォン・リッテンハイム

アマーリエ・フォン・ブラウンシュヴァイク

エリザベート・フォン・ブラウンシュヴァイク

 

以上四名に関しては、身辺の安全の為(何かあった場合即座にドカンと死んで貰う為)、イゼルローン要塞居住とし、貴族称号であるフォン及びブラウンシュヴァイク、リッテンハイム姓を捨て別の姓を名乗ること。

身柄はアルフレート・フォン・ノルトハイム大将預かりとすること。

この亡命に際して、亡命を希望する者は今後の事を考慮し、政治活動及び大規模な経済活動を禁じ、参政権に於いては次代から数えて三代後に認めるものとする。

 

 

以上の事がざっくりと決められた。

まぁ、他の亡命者だったら別に要らないだろ、という条件ばかりなんだが、ちょっと今回ばかりは話が一気に変わっている。なので物凄く厳しいと取られるかもしれないが、この条件を提示するに至った。

 

 

「ーーーー以上が同盟政府からの亡命を受け入れる為の条件です」

 

「な、な、なっ!!」

 

「余りにも酷過ぎるではないか!」

 

「申し訳ないが、皆さんの立場はそれだけ危ういものであると言う事です。受け入れる同盟としても、はい分かりましたどうぞ自由に暮らしてください、と言えないのです。なにせ自らの命を落とし兼ねないほどのものですから」

 

「だが、これは……」

 

「あんまりではないか……」

 

配下の者達、従者から貴族に至るまで現状は理解して貰えたらしい。

なんか以外とあっさり現状を理解してくれたから拍子抜けだ。もっととんでもねぇ反発があるもんだと思っていたんだけど。

 

「ーーーーノルトハイム大将、私達親子はご提示された条件を全て受け入れます」

 

「私達も、条件を全て受け入れます」

 

「奥様!」

 

「良いですか、私達は受け入れてもらえるだけ、人としてマトモに扱って貰える環境に身を置けるというだけ有難い事なのです。命があることだけを感謝しなさい」

 

アマーリエ夫人、と言うべきだろうか?が反発する者達を諭す。

なるほど、意外と理解が早かったのは多分、亡命してくる道中で同じような事を言ったんだな?だからここまで大人しいのか。

 

まぁ、なんにしても帝国に戻されれば全員死刑は確実なんだから呑むか、それとも死ぬか。

フェザーンに亡命すると言う手段もあるにはあるが、あの国で彼らは商人達にとって良いカモにしかならないだろうし、暗殺なんかの身の危険は同盟国内に比べれば格段に上だ。

だから彼らがこの先も生き残るには選択肢は実質一つしかない。

 

結局、亡命希望者全員がこちらの出した条件を呑むことを承諾。

四人以外の全員はすぐにエル・ファシルに送られ、そこでの生活を送る事となった。

 

クリスティーネ・フォン・リッテンハイム

ザビーネ・フォン・リッテンハイム

アマーリエ・フォン・ブラウンシュヴァイク

エリザベート・フォン・ブラウンシュヴァイク

 

以上の四人に関しては、条件通り身柄を俺の預かりとし、安全を保障するものとしているのでイゼルローン要塞内の、俺とアンネローゼの居室の隣に二部屋用意して、そこで生活してもらうことになった。

ラインハルトとドールトン大尉、フィッツシモンズ大尉特例としても彼女達の部屋を挟んで住んでいるので、何かあっても対応がしやすいように手配した。

と言っても今まで通り、従者が何でもやってくれると言う訳には行かず、最終的には自分達で一から十までやって貰うしかない。なんにしても楽に暮らせるわけではないのは確かだな。

 

にしても、なんか体よく押し付けられた感があるなぁ。

 

 

 

 

「ノルトハイム大将、この度は我々を受け入れてくださったこと、何とお礼を言ったらいいか……」

 

「お気になさらず。何かありましたら遠慮無く言ってください。最終的には自立して頂きますが、それまでの間は可能な限り支援とお手伝いをしますから」

 

部屋が決まり、となったところで四人は深々と俺に頭を下げてきた。

別に俺が口利きしたわけでもないから、礼を言われる筋合いも何も無いんだが。

 

「必要であれば幾らでもこの身をお使い下さい」

 

「ちょっ、妻の前でそんなとんでもない事を言わないで下さい!」

 

後ろに立ってるアンネローゼからものすんごく冷たい視線を感じるし、四人の背後にいるラインハルトも目線で、

 

(兄上、もし姉上を裏切りになられたらどうなるか、分かりますね?)

 

って語り掛けて来てるし!

ドールトン大尉とフィッツシモンズ大尉もそんな目で見ないでくれ、俺にそんなつもりは欠片も無いしアンネローゼ一筋なんだ、勘弁してくれ。

どういう意味で言ったのかは分からないが、変な意味が無くてもそんな言い方をされたら困る。

四人は名前こそそのまま名乗ることになったが、フォンと姓を捨てて新しい姓を定めて生きていくことになった。

 

 

最終的に四人はイゼルローン要塞内の幾つかの商店で働くこととなるのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

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