さて、超特大の亡命者を受け入れたのは良い。
だが問題が一つ、と言うか想定外の事が起きた。
「亡命税の名目として徴収した金額が余りにもデカすぎる、と言う事で宜しいでしょうか?」
『うむ……。我々もここまで大きい、いや大き過ぎる金額になるとは思っていなかったのだ』
そう、亡命税の名目で徴収することとなった金額がこっちの想定よりも余りにも大き過ぎてその対処に困ると言うか、どうする?と言うレベルになってしまったのである。
「総額五四五八兆ディナール、ですか。同盟の年間国家予算のざっと六倍。よくもまぁここまで貯め込んだものですなぁ……」
そう、四人を筆頭に亡命した貴族が亡命税として同盟に払った金額は自由惑星同盟の平均年間国家予算の凡そ六倍ちょっと。
どうやらブラウンシュヴァイク、リッテンハイム両家の元当主達は内乱になる前にフェザーンの銀行とかに貯め込んだ資産の大部分を移していたらしい。しかも金だけでこれであるから、まだ換金されていない物品の方も含めるとざっとまだまだ膨れ上がる予定だ。
概算ではあるが、七〇〇〇兆ディナールにまで膨れ上がるのではないか、とすら聞いている。
同盟の一年あたりの国家予算はざっくり九〇〇兆ディナール。多少の増減はあれどこれぐらいの国家予算となるわけだ。
因みにこの一件は全て最高機密指定を受けており、口外しようものなら軍法会議送りである。
ただまぁ、どうせ人の口に戸は立てられないのでその内発表はしなければならなくなるだろうが、だが今はそのタイミングではない。帝国内の反貴族感情が高い現状で発表するのは得策じゃないのは間違いない。
で、今はその金をどうするか、で財務委員長を勤められているホワン・ルイ議員と会議中なのである。
何故俺が選ばれたのかと言うと、元々帝国貴族であったことで帝国内の事も配慮した解決策を用意出来るかもしれない、という理由だ。
『貴官が亡命した際に払った亡命税はどれぐらいだったか、参考までのお聞きしても良いかな』
「確か、一人当たり一万ディナールか、それぐらいだったかと。そもそも持って来る物も何もありませんでしたからねぇ。唯一売って金になったのは亡命する際に乗っていた戦艦だけですよ。それを売り払ったら全員が一生困らないどころか、お釣りが来る金額が入ってきたと両親から聞いております」
『そしてその金銭を使って、今や同盟有数の大企業を経営するに至ったと』
「えぇ。まぁ、あの時は今回の様な条件とか一切課されませんでしたから」
『今回は事が事だからなぁ。なんにしても、この金をどうするか困る。変に国庫に入れようものなら帝国民が黙ってはおるまいし。難しいものだなぁ』
「本当に。ですが事は簡単ですよ。帝国に金を返すか、それとも同盟政府国庫に入れるか。この二択しかありません。ま、どちらを選んでもいばらの道を歩むことになるでしょうけれど」
『本当にその通りだ。困ったものだよ……』
しかも、問題は金額だけではない。
問題は七〇〇〇兆ディナールにもなるとされる金を国内の投資に一気に流し込むことも難しいということだ。
短期的には大いに潤うのかもしれないが、亡命税で一時的に得た大金なので継続して同じ規模、金額の投資を行うのが難しい。そうなったらその大規模投資をアテにして何か事業とかをやった連中が無くなった瞬間に大爆発を起こしかねないという大問題もある。
なので同盟国内の投資に回すなら、精々一〇〇兆ディナールづつぐらいを小出しにするしかない。
そう言った面でもこの七〇〇〇兆ディナールと言う亡命税で得た金は、こちらの頭を大いに悩ませるものになっている。
「同盟の財政状況を考えれば、国庫に入れて大いに国内の投資に活用するべきでしょう。ですが決して帝国側に悟られてはなりません」
『と言う事は君が言っていた、フェザーンに通じている口を何が何でも封じる必要がある、と言う事だな』
「えぇ。もしその手間がお嫌でしたら帝国にさっさと返還してしまえば宜しいのです。少なからず帝国民の同盟に対する心象は良くなるでしょうし。まぁ、帝国政府がそれを帝国民に還元するかは分かりませんが」
『だがもし帝国政府が国民に還元しなければ、帝国民の帝国政府に対する心象はすこぶる悪くなる。メリットデメリットが余りにもはっきりし過ぎていて困るなんてことがあるとは』
「えぇ。ですが我々は決定に従いますよ」
『丸投げじゃないか』
「軍人があんまり関わるもんじゃないですから」
『そう考えられる君とヤン総参謀長だからこそ、こうして相談を出来るんだがねぇ。ま、この臨時収入の上手い使い道はこちらで色々と考えておくよ』
「えぇ、その方が宜しいかと」
『それで、そっちの状況はどうかね?』
「今のところは平和ですね。ただまぁ、帝国内の動乱が収まれば要塞と回廊奪還に動いてくるのは間違いないかと」
『そうか。まぁ、私に出来るのは金勘定だ、それでも君の役に立てることもあろう。何かあったら相談してくれたまえ』
「ありがとうございます。では失礼します」
にしても、まさか金が足りない、金が足りないと頭を抱えていたら、でっかい金がいきなり転がり込んできた。と思ったら金額が余りにも大き過ぎて使おうにも使えないという何とも言えない状態になるとは思ってもいなかったな。
にしても、政府はこれをどうするのかな。
一か月後、政府、と言うよりホワン・ルイ財務委員長は国庫に入れることを決意。
とは言っても金額が金額で、出所を探られるのも面倒などなど、色々な理由で一気に使う訳には行かないので、少しずつ小出しにしながら国内投資に回すことにしたらしい。
最終的に亡命税として徴収した金額は、物品の換金など(歴史的に貴重な物を除く)も合わせると七二〇七兆ディナールにも達し、本当に凄まじい金額となった。
これに関して政府は一部の者以外に一切知らせない最重要機密に指定するに至った。
なんにしても、年間五〇兆ディナールづつ使ったとしても一四四年は掛かる計算であるし、一〇〇兆ディナールだとしても七十二年も掛かる。俺やヤンは一〇〇歳超えてる年数だぞ。
一〇〇兆ディナールともなると同盟の国家予算の九分の一に相当する訳で、それをぶち込んだら当然いい方向にはならないわけで。使う金額とかも色々と考える必要があるのだ。
にしたって門閥貴族の連中、本当にとんでもない金額を五〇〇年も掛けて貯め込んでいたんだなぁ、と改めて思わされる。
あの亡命騒ぎから、度々亡命希望者が来るようになった。
現時点で十五万人にも達するが、まだ同盟でも受け入れて色々と自立させるまで面倒を見ることの出来るレベルだ。
だがこれが一気に膨れ上がったら駄目になる。なので一定ラインを設けており、それに達した場合は亡命拒否とすると決定されている。
子供なども多いので、実際の労働人口としては六万人と言ったところ。貧民あるあるの子供が多いというヤツが当てはまる訳だ。特に帝国の貧民なんて初等学校を卒業していないとかすらザラだし、当然避妊とかそんなものも知らない場合が多い。
と言っても今の同盟にとって六万人の労働人口と言うのは意外と貴重だ。特に開発を進めている辺境惑星はどこでも人手不足だから、もっと人手を寄越せの大合唱が鳴り響いている。
そこに一万人でも入れればまぁ、だいぶ変わる。
因みに亡命手段として多いのは、貧民だと商船に貨物扱いで乗り込んでフェザーン経由で来るパターンが多く、貴族だと自前の艦艇にありったけの財貨を乗せて従者とかと一緒にイゼルローン回廊経由で亡命してくるパターンが多い。
貴族が何隻かの艦艇で、それに貧民から金を取って亡命してくる、とかもある。まぁその金も全部同盟に亡命税として納めてもらうんですけどね。
凄い亡命方法だと、帝国軍人の協力があったとは言え帝国軍の艦艇を貧民が分捕って亡命してきたとかあったしな。
どうやら未だガタついているらしくイゼルローン回廊付近の帝国軍哨戒網はかなり甘いらしい。貴族はその甘さを付いて一気に最短距離を突っ切って来るらしい。
貧民から貴族まで幅広く亡命してきているが、対応としては特にあの四人と変わらない。
貴族連中からは亡命税として資産の殆どを徴収しつつ、職業訓練施設にぶち込んで自立を促す。
貴族位も放棄させて本当にただの一市民として生きていく。まぁ納得して貰えないなら引き返して頂くだけだし。
貧民には同盟に逃げて来る為に有り金全てを払ってしまって亡命税を払うことすら出来ない、と言う者も多い。
その場合はその時は免除とし、同盟公用語の読み書きを習得し、職業訓練施設を経てから手に職を付けた後に、自立していけたら後々徴収、ということになる。
現状、イゼルローン要塞と、駐留第十四艦隊の仕事は回廊出口付近の哨戒と、亡命希望者の武装解除と臨検、受け入れ、一時的に面倒を見る業務が大部分を占めている。なのでまぁ平和と言えば平和なわけだ。
「貴方、お話宜しいですか?」
「ん?どうした」
艦隊を率いての訓練を終えて帰って来た翌日。
休日をのんびり過ごしていたら、アンネローゼに話があると言われる。
顔を見る限り、変な話ではないと思うがなんだろうか。
因みにアンネローゼはイゼルローン内で食事処兼菓子店を開いている。
かなり繁盛しているらしく、ドールトン大尉やフィッツシモンズ大尉から、奥様のお店のお菓子や食事は凄く美味しくて、物によっては中々買えないものもあるんですよ、と教えられて驚いた。
興味が無いわけではないのだが、変に俺が干渉するのも良くないと思って経営とかには一切口出しをしていない。どんなものを提供しているのかとか、新作の味見役を皆でやるのが精々だな。
身体をソファから起こして、聞く姿勢を取る。
「多分、喜んでくれると思うのだけれど……」
「悪い報告じゃなければ喜ぶだろ。で、なんだ?」
「その、妊娠したわ」
少し気恥ずかしそうに、だけど嬉しそうに伝えて来る言葉に、俺は理解が追い付かず固まってしまった。
「アルフ?」
「……おぁ、えぁ、おぉ……!」
なんか変な、情けない声で答えて、段々と実感が湧いてくる。
「おぉ!!」
言葉にならないが、まぁ嬉しいので立ち上がって喜びを表現する。
「そんなに嬉しい?」
「当たり前だろ!これで喜ばない奴なんていないって!」
「そんなに喜んでもらえると、この子も嬉しいと思うわ」
何日か前、俺が艦隊を率いて訓練に出ていた時に病院に行って分かったらしい。
それで今日、一番に俺に教えてくれたらしい。こんなに嬉しい事は無い。
皆にも報告したが、まぁ異口同音祝福してくれた。
特にラインハルト、メルカッツ提督、オフレッサーは物凄く祝ってくれたし、なんならパーティーを開こうとか言い出すんだからなぁ。流石にそれは断ったが、あの勢いだと多分生まれた時は絶対にやるだろうな。
余談だがオフレッサーが感極まり過ぎてうるさすぎたのは笑い話だろう。