「アルフレート様、お早く!」
「いてっ!?」
ハルバードを担いで急かすオフレッサーに引っ掴まれ、艦の搭乗口に放り込まれる。俺一応子供だぞ?
いや、身体が原型を残しているし、痛いぐらいで済んでいるから物凄く手加減してくれたんだろう。
「アルフ!」
心配して駆け寄ってくるアンネローゼに抱き起こされる。
こうなった経緯を思い出した。
元々ブラウンシュバイク、リッテンハイムを筆頭とした門閥貴族と政争を我が家、ノルトハイム家は仕掛けられていた。
正直なところあの両家は基本的に仲が凄く悪いのだが、我が家を潰す為に態々手を組んで、しかもそれ以外の有力門閥貴族まで巻き込んで手を組んで、ノルトハイム家包囲網を作った上で政争を仕掛けてきたのだ。
連中からすればノルトハイム家の財産やら資産やらがそれはもう魅力的に映った上に、ついでに我が家を排除すれば自分達の頭を抑える目障りなのが居なくなると踏んだらしい。
結果、政争を仕掛けて我が家は潰されて絶賛夜逃げ準備、をしていたところにリッテンハイムの私兵が殴り込みを掛けてきた。
俺達を捕まえる、あわよくば殺す、ぐらいは考えているのだろう。
祖父は受け入れれば碌な目に遭わないだろうという考えから、抗うにしても、生き抜く方向に抗うことを決めたらしい。
具体的には自由惑星同盟に亡命することになるのだとか。
自由惑星同盟に亡命する為にダミーを含めて戦艦を何隻か用意して、それに色々詰め込んでいる。
そんな時にリッテンハイムの私兵が殴り込んできたのだ。
恩があるとかなんとかで、話していないのにどこから聞きつけたかオフレッサーが勝手に警備をし始め、ついさっきまで暴れ回っていたらしい。
オフレッサーの軍服は血塗れ、あと肉片とか臓物の一部っぽいものがこびりついている。
アンネローゼはよくあれを見て気分を悪くしなかったな、と思いながら部屋に案内される。
「怪我、していない?」
「兄上!」
「平気だ」
壁に打ち付けた背中が痛いけど、どこも怪我はしていなさそうだ。
「アルフレート様ァ!どうかご無事でありますよう、不肖オフレッサーは願っておりますぞォ!!!」
オフレッサーはどうやら足止めを買って出てくれたようで、他にも警備を担当していた兵達と一緒に戦っている。
「掛かってこい門閥貴族の犬ども!我が主君の道行き、邪魔はさせん!!」
最後に見たオフレッサーはハルバードをぶん回しながら罵詈雑言を撒き散らしていた。
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戦艦に乗っているのは祖父母、両親、それと一悶着あったアンネローゼとラインハルトの二人。あとは艦の運用をする乗組員の人達だけだ。
元々豪華な生活をしていた訳でも無いし、元の生活を捨てるのにも特段抵抗はない。
「兄上は気楽で良いですね」
「なるようになる。自由惑星同盟での生活も多分楽しいだろうし、生活自体も変わらないと思うよ」
「兄上が羨ましいです」
この年齢で皮肉まで飛ばしてくるとは。
何にしても、亡命する人間達が乗る艦の雰囲気とは思えないぐらい明るかった。
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フェザーン自治領を経由し、秘密裏に自由惑星同盟に亡命した俺達は正式な手続きをもって亡命と相成り、皆揃って根を張ることになった。
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亡命から数年。
亡命貴族の肩身は思いの外狭かった。持って来た財産があるから生活には困らなかったが、だからと言ってそれを食い潰して生きていくという訳にもいかない。
「……士官学校に入るの?」
「亡命貴族が就ける仕事なんて碌に無いからなぁ」
「だからって……」
食い扶持を稼ぐ為に、多分、恐らく、殆ど唯一の就職先である軍に入ることにした。
幸い学業、体力の面で問題らしい問題は無い。少なくとも入校試験の結果は首席ではあるし。首席を維持出来るかは別問題だけど。
とは言え、一番の問題は士官学校入校に反対している皆の説得だ。当然良い顔はしないだろうと思っていたけど。
「私は調理学校に通うというのに、貴方は士官学校ですか」
「まぁ、いつまでもこのままって訳にもいかないだろ」
「せっかく生き延びて亡命したのに、わざわざ自分から死ぬかもしれない場所に赴く必要も無いでしょう」
「これ以外に就ける仕事が無いからなぁ。それに、悪いようにはしないって言われたよ。対帝国用のポーズとして」
「……」
不満そうだ。
同盟軍曰く、対帝国用のポーズとして俺は、本来なら亡命者が入れられる薔薇の騎士連隊には入れずに艦隊勤務となるらしい。
才覚があれば艦隊司令官もあり得るとか言われた。基本的な希望は後方勤務だから艦隊司令官とか全くやる気が無いんだけどな。
「だからまぁ、心配しなくていい」
「……分かりました。そこまで言うなら」
そう言って、皆を納得させるに至った、
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(分かってはいたが、思いの外キツイな)
士官学校入校式が済み、隊舎に入る。
そして翌日から早速授業と訓練が始まって数ヶ月。何というか、こう、全く誰も俺と関わろうとしない。理由なんて全く分かり切っている。
(亡命貴族とわざわざ仲良くするなんて変わり者はそうそう居ないって事か)
はぁ、と溜息を吐いて椅子の背凭れに体重を深く預けて頭の後ろで手を組む。
(多分、成績で首席を維持している事も原因だろうけど、やっぱり亡命貴族出身ってのが一番のネックになっているか。中々厳しい扱いだな)
資料室はあまり人が寄り付かない場所だから、こうして羽を伸ばすのに向いている。
そう思っていると、何やら視界の隅に人の足みたいなものが見えた気がする。
「えぇ……?」
本に囲まれ、爆睡している奴がいた。
肩章を見るに同じ同学年の士官候補生らしい。
「おい、平気か?」
「んがっ?」
足で揺り動かすともぞもぞ、と動いてのそのそと起きる。
「失礼しました……」
どうやら俺を教官か、上学年の人間だと勘違いしているらしい、何とも締まりのない敬礼をしている。
このまま勘違いさせていたらどうなるかな?
「お前は何をやっていたんだ?」
「いや、資料を読んでいたらそのまま」
「寝落ちしたと」
「はい」
「さて、となると罰を与えなければならない」
「罰、ですか」
「ここはベッドではないし、ましてや自室でもない。それに時間を見てみろ」
「……」
「よって罰を与える」
「何とかなりません?」
「ならないな」
結果彼にはちょっとした罰を与えた。
後日バレて文句を言われたのは言うまでも無い。
これが、この先長い付き合いになる親友、悪友であるヤン・ウェンリーとの出会いだった。
ヤン・ウェンリー