「監視衛星、全て破壊されました!」
「目を先に潰しに来たか……!」
報告にラップが顰めっ面で答える。
これで俺達は敵艦隊が動いても、光学探知距離に入るまで分からなくなったな。
「只今戻りました」
主砲同士の応酬が終幕し、少ししてからフィッツシモンズ大尉が肩で息をしながら戻って来た。
「シェルターに奥様とお子様、それとお二人と一緒にいたクリスティーネさんとアマーリエさんも無事お連れしました」
「ありがとう」
「現状はどうなっておりますか?」
「主砲同士の殴り合いをやって、息切れしただけで決着が付かないまま第一ラウンドは終了だ」
「なるほど、ではレフェリーと第二ラウンド待ちですか」
「レフェリーなんて紳士的なものはいないがな」
冗談を言うだけの気力はある、十分十分。
「次はどのように来るでしょうか?」
「多分、艦隊を動かしつつ揚陸を狙ってくるだろうな」
主砲はお互いに睨み合いをしなければならないから、気にしなくて良い。浮遊砲台はあるが、完全に止められるものでは無い。移動速度にも制限があるが、艦艇と浮遊砲台の移動速度を比べると、艦艇に軍配が上がるからそこを突いてくる筈。
「なんたってこの要塞は帝国が建造したものだから、隅から隅まで性能は網羅されている筈だ」
「多少のアップデートでは基本的なところは変わりませんからね」
この辺は兎に角不利な戦いになるわけだ。
そもそもの性能を知られているから、こっちの対応速度も大抵分かるわけだし、そうなると相手はそれを上回る速度でこっちを攻撃してくるだろう。
しかも監視衛星と言う目を潰された訳だから早期発見、早期対策が出来なくなる。
「敵が乗り込んでくるなら、こっちも向こうに乗り込みますか?」
「それをやるなら乗り込んできた敵を、もう一度揚陸が出来なくなるぐらい叩いてからになる。じゃないとお互いに司令部を制圧して訳が分からなくなる、って状況になりかねない」
チュン参謀長が一応、と言った感じで聞いてくる。
一応反撃として視野には入れているが、それが出来るだけの兵力が敵が残り込んできて一戦やった後の陸戦隊にあるかどうかだ。生半可な兵力を送り込んでも意味が無いし。
一応こっちの陸戦兵力は、オフレッサー指揮下にある白兵戦部隊が四個連隊一万三〇〇〇名と、そして市街戦部隊四個連隊一万二〇〇〇名となる。
であれば、イゼルローンの防御と乗り込んでいくので分ける必要があるのでゼッフル粒子を散布される事も考えると、白兵戦部隊が一万人以上は残っていないと困る、ということになる。
白兵戦部隊がそこまで損害を被るほど弱いとは思っていないが、だからと言って可能性が無いとは限らないし、ましてや敵要塞に乗り込むとなったら最悪全員が戦死か捕虜になると言う事も十分に有り得る話だ。
「ただまぁ、問題としてこっちに十分な数の揚陸挺が無いって言うのと、要塞攻略準備をしていないという理由から向こうの要塞に殴り込みを掛けると言うのは難しいだろうな」
「まさか要塞を要塞にぶつけて来るとは思っておりませんでしたからね。守る事だけしか考えていなかった……」
「そう。だからイゼルローン要塞派遣部隊の帝国軍が降伏するぐらいじゃないとあの要塞は落とせないと思う」
だから別に破壊してしまっても一向に構わないのだ。
あったらあったで、こっちは金も資材も人手も使わずに巨大な軍事要塞を丸々二つ手に入れることになるんだからこんなに良い事は無い。
移動能力があるんだからフェザーン回廊側にガイエスブルク要塞を持って行って活用するとかも視野に入るだろう。
だが陥落させるには、敵要塞に乗り込む難易度が高過ぎると言う事だ。
無理にガイエスブルク要塞奪取を狙う必要も無いだろうさ。
イゼルローン要塞はその直径の大きさと質量の巨大さ故に、他の天体に比べれば随分とささやかなものになるが、それでも独自の重力圏を持っている。それは流体金属表面から上空一〇kmにも及ぶものだ。
しかし惑星ハイネセンや惑星オーディンなどの有人惑星と違って大気が無く、直接絶対零度に近い真空の宇宙空間に接している。それを突破するには艦艇で乗り込むか、専用の揚陸挺を沢山用意するかの二択で、戦うとなれば宇宙服か装甲服を着こむ必要がある。
そしてイゼルローン要塞表面には浮遊砲台が無数にあり、それは艦砲よりもずっと太いレーザービームを撃つものもあれば、近接防空用の銃座砲台である場合もある。
「敵ワルキューレの出撃を確認!」
「陽動ですな」
「あぁ。だが乗らない訳にも行かない」
「では?」
「スパルタニアンを出撃させる」
「はっ。全空戦隊、出撃!」
「空戦隊出撃。アンビルベースを浮上させます!」
「それと左側の浮遊砲台を敵空戦隊に」
「宜しいのですか?」
「どちらにせよ、敵空戦隊に破壊されたら意味が無い。まずは目の前の敵を相手しよう」
「承知しました」
半分づつ、左右側面に配置していた浮遊砲台の左側分を敵空戦隊に向ける。
「空戦隊出撃準備完了!」
「空戦隊、全機出撃」
その命令と共に、すぐに空戦隊が次々と射出される。
シェイクリ、ヒューズ両隊長もそこに姿があった。
「空戦隊より報告が」
「何か?」
「敵ワルキューレが突っ込んでこない、とのことです」
「なるほど、やっぱり陽動だったか」
「と言う事は、このワルキューレ出撃の裏で恐らく……」
「敵艦隊探知!数凡そ一万六〇〇〇隻が我が要塞を左から迂回して後背に回り込もうとしています!」
「来たな」
やっぱり迂回してこっちの背中を取ろうとしてくるよな。
「主砲を向けますか?」
「いいや、主砲は敵要塞を睨んでいてくれ。相手が主砲を向けてきているのにこっちだけ背けるわけにはいかないからな。浮遊砲台は?」
「ギリギリ射程圏外です!」
「チッ、早速か。浮遊砲台はそのまま敵艦隊が何時射程に収まっても良い様に追尾。恐らく揚陸を仕掛けて来るからその時は一斉に撃つぞ」
浮遊砲台は、要塞主砲より遥かに小さいとは言っても艦砲より極太だ。
戦艦でも一撃で沈められるだけの威力があるが、だからと言って射程外の相手に撃っても十分な威力があると言うのは些か過大評価をし過ぎる。
「敵艦隊、要塞右側面に到達!回頭中!浮遊砲台の移動、間に合いません!」
「仕方ない。オフレッサーに通信!」
『お呼びでしょうか、我が主!』
「敵の揚陸が目前に迫っている。陸戦隊は備えてくれ」
『お任せを!敵の首を我が主の御前に並べてみせましょう!』
「頼むぞ」
敬礼をして通信を切る。
ここまで来れば敵の揚陸は確実、それも浮遊砲台とかで防ぎようがない、正面からの陸戦隊同士のぶつかり合いになるな。
「艦隊を出しますか?」
「……いや、まだだ」
艦隊を出すなら、敵揚陸部隊が撤収して回収作業に入ったタイミングだ。
だから敵揚陸部隊を要塞内に一旦引き込む必要がある。
「敵艦隊、実体弾を撃ちました!」
「実体弾?流体金属には全く効果は無いはずだが……」
ラップが訝しげに言う。
実際、流体金属層を貫くにはガイエスブルク要塞の主砲並みとまでは行かずとも、威力の高いビーム砲でないと難しい。
さらにその下にある装甲を貫くには実体弾ではどうやっても不可能だな。
だがそれを撃ってきた。
であれば、何かの作戦の一環と考えるのが妥当なところだろう。
「浮遊砲台、敵艦隊を射線上に捉えました!」
「敵艦隊は射程内に入っているか?」
「入りました!」
「よし。浮遊砲台、撃て」
敵に何の意図があるにしても敵を攻撃しないというのは、何の抵抗も無く要塞内に入れてやることになる。
陸戦隊が負けるとは思わないが、だからと言って無傷で入れてやる必要は無い。
すると、浮遊砲台が今まさに撃つ、という瞬間に事が起こった。
「爆発!?」
「流体金属内にて多数の爆発が発生!それにより想定外の高波が発生して浮遊砲台の狙いが狂っております!」
オペレーターの叫ぶような声と装甲部や浮遊砲台に取り付けられたカメラから送られてくる映像を見る事で何が起きたのか俺達は漸く理解した。
どうやら流体金属内で、さっきの実体弾が次々と炸裂したようである。
その爆発の規模はそこまで大きいわけではないし浮遊砲台にも損傷は全く無かった。それでも高波を発生させて浮遊砲台を大きく揺らし、照準をまったく狂わせるには十分なものだった。
発射されたビームは悉くが高波が影響して的外れな方向に、あちらこちらに飛んで行って正確に敵艦隊を捉えたものはマグレ当たりとなった極々少数を除いて他に無かった。
「こんなタイミング良くどうやって爆発を引き起こしたというんだ?」
「多分、極少量のゼッフル粒子を内蔵していたのかもしれないな」
ゼッフル粒子の威力は折り紙付きだが、散布したりする量を調整することは可能だ。
今回の実体弾は、親弾頭となるものが射出され、ゼッフル粒子を少量詰めた子弾が着弾前にばら撒かれたのだろう。
浮遊砲台は射撃を行う際に艦砲よりもより高い熱を持つ。艦砲であれば宇宙空間の寒さや機械側の冷却装置で冷却が間に合うが、この大きさともなればそうもいかない。そしてその冷却も兼ねているのが流体金属だ。
恐らく子弾のゼッフル粒子はその砲撃の際の熱に反応し、一番近くの子弾が爆発、それが次々に連鎖すると言った具合だろうか。
流体金属に浮いているだけの浮遊砲台は確かに固定砲座に比べれば汎用性や機動力、射界に優れているが、だからこそ高波を起こされれば無理に破壊せずとも無力化出来ると言うのは確かな話だ。
「閣下、これでは高波が収まるまで敵艦に照準を付けられません」
「光学探知!敵艦隊の一部が本隊を離れて要塞へ接近、数六〇〇〇!大型輸送艦の艦影を確認しました!」
「間髪入れずに揚陸部隊を前進させてくるか。良い手腕だな」
「コーネフ中佐」
『なんでしょうか!今こっちはワルキューレの相手で忙しいんですがね!』
「敵輸送艦が前に出た。恐らくすぐに揚陸が開始される。コーネフ中佐の空戦隊は敵揚陸挺の迎撃に向かって貰いたいが、可能か?」
『ここから離脱して、新しい敵に取り付けと?良いでしょう、同盟軍空戦隊四天王を自称するのですからそれぐらいはやって見せないとね!』
「頼む。帰ってきたら空戦隊にウイスキーを一杯俺から奢らせてもらうよ」
『そりゃないでしょう、せめて二杯ですな!』
「分かった、二杯にしよう」
『では、任されました。ですが全てを叩き落すのは無理ですよ』
「流石にそこまでは求めないさ。数を減らしてくれればそれでいい」
『了解。では!』
コーネフ中佐を揚陸挺迎撃に差し向けるが、そもそも揚陸挺の数がかなり多い。
あの様子だと、二個か三個装甲擲弾兵連隊は投入してきていると見て良いか。
「光学探知、敵輸送艦から多数の反応が分離、急速接近してきます!」
「揚陸部隊がついに出てきたか。オフレッサーを呼び出してくれ」
「はっ!」
オペレーターがコンソールを操作して、すぐに装甲服を着こんだヘルメット内のオフレッサーの顔が映る。
『我が主、何用で御座いましょう?』
「敵揚陸部隊が前進して来た。コーネフ中佐に迎撃を頼んだが全ては落とせない。要塞内に少なくない数が入るだろう」
『お任せ下さい!連中に我が主の居られる要塞に無礼にも土足で踏み入ったことを盛大に後悔させてやりましょう!』
「では、頼んだ」
『はッ!!』
相変わらず元気だな、オフレッサーは。
「オフレッサー中将が今ほど頼もしく感じたことはありませんよ」
「だな」
苦笑いとも取れる笑みを浮かべる皆の気持ちを、チュン参謀長が代弁していた。
要塞内部における陸戦部隊同士の戦いは、帝国軍にとって苛烈で、困難で、そして地獄の門を自ら解き放ち通ってしまったかのように厳しいものになった。
「なぁ、アルフ」
「なんだ、ラップ」
「俺達は本当に同じ人間同士の戦いを見ているのかな?」
「少なくとも生物学、遺伝学上は同じ人間同士だと思う」
「じゃぁ、アレは一体なんなんだろうな」
「俺に分かる訳無いだろ」
ラップが見ているリアルタイムの映像の先には、オフレッサー率いる白兵戦部隊とそれを後ろから援護射撃を浴びせる市街戦部隊が殆ど一方的に帝国軍装甲擲弾兵を蹂躙している様子が映っていた。
時は少し遡り、帝国軍揚陸艇が敵輸送艦から出撃し、要塞に取り付き始めた頃。
オフレッサーは俺に防御戦計画を報告して来た。
「敵を多少引き込んだところで迎撃か」
『我が主のご希望は、敵揚陸部隊を阻止し追い返す事、そして敵に対して二度目の揚陸を考えられない程度には打撃を与える事だと愚考致しますが』
「だな。揚陸部隊を殲滅しなくても二度目を出来ない程度の打撃を与えれば十分だ」
『ならば水際で叩くより、多少引き込んだ方がより効率良く、こちらの損害を少なく敵を叩けましょう。故にこの作戦を立案しました。如何でしょうか』
「十分だ。陸戦は頼んだ」
『はっ!お任せを!!!!』
とまぁ、敢えて数ブロックほど戦いながら押されている様を演出して交代し、予定していたブロックで白兵戦部隊が盛大に出迎えた。
オフレッサーが鍛え上げた名実ともに宇宙最強を名乗れる白兵戦部隊は、その圧倒的な実力で帝国軍装甲擲弾兵を全ての場所に於いて蹂躙しつつあった。
更にそれを援護するように、高台から市街戦部隊が実弾ライフルで援護射撃を加えているから敵は連携も何も無くなっている。
帝国軍装甲擲弾兵が着込む装甲甲冑にはビームを弾く為に特殊コーティングと鏡面処理が施されている。
それを十分に知っているオフレッサーは敢えて実弾ライフルを市街戦部隊に装備させたらしい。
貫かずとも、簡単に弾かれるビームライフルよりは十分な牽制、威圧効果があるからな。
そんな風に戦い続けていると帝国軍揚陸部隊は、僅か一時間程度で七割以上の戦力を失っていた。
司令室の中には初めて見る白兵戦の様子に顔を青白くさせてトイレに駆け込んだりもしていた。
ドールトン大尉やフィッツシモンズ大尉はトイレへ、チュン参謀長やラップ、モートン少将でさえ顔を顰めている。
「失礼ですが、閣下は陸戦を何処かで見たことがお有りで?」
「エル・ファシル奪還作戦の折にな」
「なるほど」
チュン参謀長が聞くので、隠すでもなく答える。
「あの時は、艦隊から連絡士官として陸戦部隊に赴いていた。そしたら敵の抵抗がかなり激しくて俺も銃を握ったし、なんなら装甲服を着て少しだが戦った」
「その話は聞き及んでおります」
「慣れたとは言わないが……」
ここの最高司令官が映像を見ただけで、なんて士気に関わるし、例えキツくてもなんとも無い風に耐えただろうな。
「敵陸戦部隊、撤退を始めました!」
「オフレッサー中将より通信!」
『我が主!敵艦に乗り込んでの追撃許可を!!」
「待て待て。逃げるなら逃してやれ」
『何故!?』
「陸戦隊ばっかりが派手な手柄を立てたら妬む奴もいるかもしれないだろう?」
『なるほど、我が主には策がお有りであると言う事ですな!』
ニヤリ、とオフレッサーは笑う。
「少しばかりな。だからオフレッサー、適当に追い掛けて追い出すだけでいいぞ」
『はっ、お任せを!!』
通信を切る。
だがあの様子じゃ、随分と張り切ってやるだろうから敵陸戦部隊がどれだけ残るか分からんな。
「チュン参謀長、艦隊出撃準備を」
「はっ」
「作戦を伝えます」
「「「「「はっ」」」」」
皆を集めて敵艦隊に多少打撃を与えられる作戦を話す。
「……なるほど、これならば少なくとも敵揚陸部隊を抱えた六〇〇〇隻は叩けますな」
「上手くいけば一万八〇〇〇隻を一網打尽ですか。やりましょう」
「メルカッツ提督、モートン提督、敵の動き次第ではあるが艦隊を率いる御二方の動き如何に掛かります。宜しくお願いします」
「「はっ」」
「艦隊、出撃」
すぐに艦隊出撃準備が整えられ、敵揚陸挺が輸送艦の方に引き返して収容作業を始めるよりも幾らか先に出撃。
「前進している敵艦隊の数は六〇〇〇隻で変わりはないな?」
「ありません。こちらの動きを察知したのか慌てて収容作業をしております」
「よし」
「敵艦隊、射程に捉えました!」
要塞に接近していたのもあって、敵艦隊を射程に捉えるのに数分と掛からなかった。
「全艦、撃て」
率いる一万隻に射撃を命じる。
今回は哨戒艦隊も含めた総力出撃だ。
揚陸部隊を収容していた帝国軍輸送艦隊の動きは鈍く、効果的な反撃をして来ているとは到底言えない状態だった。
敵もイゼルローン要塞攻略、と言うよりイゼルローン回廊攻略の為に精鋭を編成してきていると思うが、こっちが思っているより動きが鈍いな。
いや、別に遅いわけではない。反応速度的には恐らく一般的な程度だろう。だが、精鋭と言えるほどかと言われると、と言ったところだな。
一応、敵もイゼルローン攻略に軍を出せるぐらいには国内の立て直しが済んだ筈なんだが、この様子を見るにちゃんとした体制が整うよりも前に政治側から何らの圧力とかがあって、事に挑まなければならなくなったと考えるべきだろうか。
だがリヒテンラーデが早まってそれを命じるか?アレもそこまで愚かではないし……。いや、今考えても分からんからそう言うのは情報部とかに任せとくか。
「敵本隊、前進しつつあります」
「このまま耐える。目の前の敵は?」
「数、三五〇〇まで減少。未だ動きはありません」
まぁ、本隊が助けに来ている訳だし、合わされば一万五〇〇〇隻になる。
こっちは一万隻だから、まぁ数の利を生かして潰せると考えたのかもしれない。
「後退しますか?」
チュン参謀長が一応、という感じで聞いてくる。
「いや、このままでいい。敵が合流したら全艦シールドにエネルギーを回してくれ」
敵は合流したら、そのまま数の差でこちらを圧倒して殲滅しようと試みるかもしれない。
そうしたらこの艦隊戦に関してはこっちの勝ちだ。まぁ、合流したらさっさと撤退してくれるかもしれないが、そんなことを選択するような司令官はまぁ何処にもいないだろう。
「敵艦隊は合流しました。そのままこちらを押してきております」
「だろうな。符号を第一分艦隊と第二分艦隊に通信。手筈通りに」
「はっ」
符号を送ると、少しして敵艦隊の左右斜め後方からメルカッツ、モートン両提督率いる五〇〇〇隻づつが全力攻撃を仕掛ける。
その瞬間に敵艦隊に一斉に動揺が走る。
「全艦、攻撃を強化せよ。ただし無理に前に出なくていい」
今俺達は三方向からの包囲戦を仕掛けている状況だ。
何もしなくてもこっちは二万隻、向こうは一万三〇〇〇隻。特に何も難しい事をしなくても、こちらがヘタを打たなければ何の問題も無く勝てる。
「包囲戦に誘い込むとは……」
「敵本隊が襲われている輸送艦隊を助けに来るかどうかはある意味賭けではあったが、敵が味方を見捨てられない司令官で助かったな。多分、部下思いの良い司令官なんだろうが今回はそれが裏目に出た」
「ですね。もし見捨てていたとしてもこちらは揚陸部隊を乗せた六〇〇〇隻を丸ごと叩けるし、来たら包囲を仕掛けられる。どちらの選択を敵が採っても我々は戦果を挙げられる」
「こんな戦い方が出来るのはメルカッツ提督とモートン提督って言う、最高レベルの分艦隊司令官が二人も居るからだな。あの二人じゃなかったらこんな作戦、やっても成功しなかっただろうよ」
この作戦は、簡単に言えば俺が直接率いる一万隻を囮にした包囲戦だ。
敵輸送艦隊を攻撃して、それに敵本隊が乗ってくれば第一、第二分艦隊に符号を送って包囲陣を完成させる。乗ってこなければ別の符号を送って我々は全艦を合流させて二万隻で六〇〇〇隻の敵輸送艦隊を一気に叩き潰す、というものだ。
今回の作戦の要となるのは二つ。
一つがメルカッツ、モートン両提督率いる二個分艦隊だ。
これは敵艦隊の索敵範囲外ギリギリをくるっと左右から迂回して、敵艦隊の左右斜め後背に陣取る必要がある。ここの動きが悪いと包囲陣は完成しないし、それどころかアスターテのように各個撃破の憂き目に会うだろう。
二つ目は敵司令官の資質。
まぁ、こっちは有っても無くても別に構わない。
と言うのも先に言った通り、敵本隊が輸送艦隊を助けに来るにしても、来ないにしてもこっちは別に構わないからだ。敵司令官が高潔な人間で多数の敵に襲われている輸送艦隊を見捨てられない人物であれば間違いなく助けに来るし、そうでなく非情な決断を下せるのであれば助けに来ない、と言うだけの話だ。
それから一時間ほど、包囲下にある敵艦隊は次々に数を摺り減らしながら最初一万八〇〇〇隻も居たのが九〇〇〇隻にまで数を摺り減らしていた。
そのタイミングで敵は突破を企図し始めた。
「敵は左翼モートン提督と我々の境界を突破しようとしております」
「左翼側を伸ばす。モートン提督は……」
「あちらも既に伸ばしておりますね」
「言う必要も無かったか」
笑みを浮かべて言う。
流石はモートン提督だ、すぐにこっちの動きに呼応して突破阻止を図ってくれる。
俺のところからは真っ先にラインハルトの小艦隊が動いて敵の先頭に集中火力を叩き付けて鼻っ面を叩き折った。
それに続いて伸ばした包囲網に阻まれた敵艦隊は突出した箇所に集中砲火を食らって損害を増す。
このまま殲滅かな、と思っていたところに急報が入る。
「哨戒艦二三三号より通信!」
「読み上げてくれ」
「我、敵救援艦隊と思われる一万三〇〇〇隻を発見。以上です!」
「どうしますか?」
報告を聞いてチュン参謀長が聞いてくる。
「このまま戦っても良いが十分な戦果は挙げたし、欲を出して下手に損害を食らうのも嫌だからな。ここは潔く撤退しよう」
にやり、と笑いながら言うとチュン参謀長もラップも笑みを浮かべて頷いた。
「承知しました。では第一、第二分艦隊に撤退命令を出します」
「頼む」
殿をメルカッツ提督に任せて要塞内にさっさと退く。
メルカッツ提督は撤退の際も損害らしい損害も受けないまま整然と撤退を完了した。
このままでも良かったが、どうせなら、とラップが射程内に居るのなら浮遊砲台に攻撃を命じたらどうか、と言う意見を採用し撤退が完了すると間髪入れずに浮遊砲台に射撃を命じた。
これの効果は大きく、包囲下にあった敵艦隊はより損害を増すことになる。その数は九〇〇〇隻を大きく下回っていた。
「敵艦隊、撤退して行きます」
「これで向こうの要塞に予備兵力があったりしない限りは二度目の揚陸は仕掛けて来れないだろうから、取り合えず山場は超えたか」
「はい。あとは敵がどう出て来るか、こちらがどう出るか、ですね」
「一先ず、第五艦隊の到着を待とうかな?向こうは向こうで暫く艦隊再編に時間を使わなきゃならないだろうし、こっちは艦隊の補給に幾らか時間がいる」
「エネルギーやミサイルの消耗はそこまで多い訳ではありませんが、あるには困りませんからね」
「ラップ、艦隊の補給作業の指揮を頼む」
「了解」
すぐにラップは作業を指揮する為走っていく。
要塞同士の睨み合いを指揮するべく俺達は要塞指令室に向かった。