逃げるは敵へ   作:ジャーマンポテトin納豆

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後始末はいつでも大変

 

 

イゼルローン要塞を守り抜き、ついでにガイエスブルク要塞も陥とす事に成功してから数日。

未だに降伏した帝国軍の降伏処理が完了していなかった。

 

「ざっとですが、集計が終わりましたので報告します。降伏した帝国軍は鹵獲艦艇一万二五四四隻、ガイエスブルク要塞の人員も合わせて二〇〇万人超となりました」

 

ラップが報告してくれる。

その表情は何とも言えないものだ。

 

「艦艇一万二〇〇〇隻超に、二〇〇万人超えの捕虜か。ハイネセンは荒れるかな」

 

「キャゼルヌ先輩が『せっかく捕虜交換で負担が軽くなったのに、たった一回の戦いで丸ごと帳消しになったじゃないか!』と私達への呪詛を吐いているのが目に見えるな」

 

「違いない」

 

ラップ以外に誰もいないから自然と口調が砕けて話し、キャゼルヌ先輩の、この報告を受けた後の様子を想像して笑う。

にしても、二〇〇万人以上の捕虜と言うのはこっちにとってはわりかし頭の痛い問題だ。

すぐに捕虜交換が行われるとはならないだろうから、それまでの間捕虜達を食わせて行かなければならない。

連絡の行ったハイネセンでは多分、早速補正予算を立てるのに大騒ぎしている事だろうが、あぁ、それを考えなくていいと言うのは何とも楽な事か。

 

「アルフ、顔に金勘定をしなくていいのは何て素晴らしい事か、って書いてあるぞ」

 

「事実じゃないか。戦うのもあまり好きじゃないが、国家予算に関わるよりかは幾分か、本当に幾らかマシだ」

 

ラップはそれを聞いて、俺達は軍人だからな、と笑った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

丸々二週間掛けて漸く降伏処理が終わった。

なんせ一度に二〇〇万人を超える降伏処理なんて経験が無いわけだ。ダゴン殲滅戦ですら、殲滅戦と名前を付けられるだけあって捕虜の数は少ない。

二週間で終わらせたのはむしろ褒められるべき事だと思う。

 

さて、何にしても先ずは捕虜の移送の段取りを整えないとならない。

イゼルローン要塞に住む六〇〇万人に加えて、二〇〇万人の捕虜を食わせられるだけの能力は無いし居住性も無い。

かと言ってガイエスブルク要塞にずっと閉じ込めて置くわけにも行かない。なので早いとこ後方に送ってしまいたいのだ。

 

「閣下、捕虜移送の手続きが整いました。ですがハイネセンから輸送艦が来るのにまだ二週間は掛かるとのことです」

 

「到着が随分早いな。手続きよりも前に輸送艦を送り出して事後承認、ってところか」

 

「はい。なのでそれまでは暫くこちらで面倒を見る必要があります」

 

「イゼルローン要塞の物資じゃ足りないな。ガイエスブルク要塞の倉庫から出すしかない」

 

ガイエスブルク要塞も奪取したので、そこにある物資も鹵獲品扱いになる。

捕虜はガイエスブルク要塞に丸ごと収容し、それをオフレッサーの陸戦隊が目を光らせている。

捕虜になった帝国兵が決起したら多分、オフレッサー達の手によって血の雨が降ることになるな。

 

流石に第十四艦隊だけで、と言うのも厳しいので捕虜移送と鹵獲艦艇の後送が完了するまで第五艦隊がイゼルローンに駐留してくれることになった。

第五艦隊とは交代で警備に就き、後送に備えている。

 

「閣下、ケンプ提督とミュラー提督がお会いしたいと」

 

「ん、仕事もひと段落したし会おう」

 

「はっ。ではお連れします」

 

何の話だ?

特に何か問題が起きたと言う報告は受けていないが。

 

「お連れしました」

 

ドールトン大尉に連れられて二人が司令官執務室に入ってくる。

やはりケンプ提督は二m近い身長の、ガタイの良い、オフレッサーと並んで陸戦士官と言われても不思議では無いし、しっくりくる人物だ。

ミュラー提督も身長は大きい筈だが、ケンプ提督と並ぶとそこまで大きく感じなくなるから不思議なものだ。

 

「お忙しい中、ありがとうございます」

 

「いえ、いずれにしろお二人には会う予定でしたから、むしろ都合が良かった」

 

「そうでしたか」

 

そこで一旦会話が途切れると、暫く無言が続く。

それを破ったのは俺とケンプ提督の笑い声だった。

 

「いやはや、やはり勝てませんな」

 

「何がです?」

 

「こうして直接話してみて、改めて理解しました。何にせ味方の心配だけでなく、我々の心配までする余裕があるのですから、そんな余裕の無い私には到底勝ち目が無かった」

 

「結果論ですよ、それは」

 

「私も同感です。揚陸戦を仕掛けた時の対応、お見事でした。いえ、揚陸戦を仕掛けた時点で我々の負けだったのかもしれません」

 

ミュラー提督もやたら高評価をくれるもんだからなんか変な感じだ。

 

「殆どの指揮官がより多くの敵艦を沈め、敵兵を殺すことばかりに囚われる中で、貴方はそうでは無かった。心の余裕が違う」

「それに、司令部に来てみて、その内情を見ても士気と練度が高く、何より司令官であるノルトハイム提督を十二分に信頼しているのがよく分かりました。これでは到底勝ち目は無い。そう思ったのです」

 

そう言われてもなぁ、と後頭部を掻く。

まぁケンプ提督がどうやら俺を高く評価してくれているらしい、という事は分かったが、別にそんなとんでもないことをやった訳でもない。

なんだか変、というか、むず痒いというか。

 

「我が最後の戦相手がノルトハイム提督であったこと、大変光栄でした。ノルトハイム提督の今後の武運をお祈りしております」

 

幾らか話してから、ケンプ提督とミュラー提督は入ってきた時と同じように、一寸の狂いもない完璧な帝国式敬礼をして部屋を後にした。

 

 

 

「閣下、後方勤務本部長のキャゼルヌ中将から電文が届いておりますが」

 

「中身はどうせ、仕事を増やしてくれた俺と、ついでにラップに対する怨みつらみだと思うが、当たっているかな?フィッツシモンズ大尉」

 

「その通りです」

 

俺とラップ、キャゼルヌ先輩の関係性を知っているフィッツシモンズ大尉は苦笑いで頷く。

 

「まぁ、しょうがないさ。二〇〇万人を超える捕虜に、一万二〇〇〇隻以上の鹵獲艦艇の後送に後始末なんて俺でもやりたくないからな。多分、キャゼルヌ先輩は暫く家に帰る事すら出来なくなるんじゃないか?」

 

「閣下は自宅がイゼルローンにありますからすぐですものね」

 

「そりゃぁ、特権ってもんだよ大尉」

 

 

 

 

捕虜の移送はあの後すぐに完了したが、鹵獲艦艇の後送が完了したのはそれから更に四ヶ月後の事だった。

ハイネセンから陸戦隊が送られてきて、必要最小限の捕虜に鹵獲艦艇を動かさせる事二回。

漸くイゼルローン要塞のそばにずらっと並んでいた鹵獲艦艇群が綺麗さっぱり無くなって維持管理にヒィヒィ言わなくて済むとイゼルローン要塞艦艇整備部が万歳三唱までやったんだから維持管理の大変さがよく分かる。

 

しかも第十四艦隊は、こっちはこっちで戦いの後だから入念な整備作業の為に交代でドック入りに加え更に損傷艦の修理、要塞各所の損傷箇所修理と、要塞工廠部、要塞整備部、艦艇整備部は休む暇無く二十四時間三交代制でフル稼働。

その過重労働からようやく解放されたんだからそりゃ万歳三唱もしたくなる。

 

何にしても彼らを休ませる為というのもあり、第十四艦隊は一カ月ほどの休暇となる。

艦艇勤務要員以外は交代で休暇となり残りは普通に仕事なので、また帝国軍が攻めてきても要塞主砲も浮遊砲台も即座に反撃出来る。

 

しかし司令部は一週間ほど休みをとって、すぐに仕事開始だ。

なんせ諸々の指揮指示をしなければならないし、他にも色々とやらなければならない事が多数ある。

 

まず一つが上は俺、下は兵まで勲功の査定。要は昇進とか受勲、叙勲とかそういうやつ。

これはモートン提督辺りまでならとくに難しい話は無い。なんせ全員が抜群に働いた訳だから昇進しない、叙勲されない訳がない。

兵から下士官なんかは全員が一階級昇進した。

 

司令部の面々で昇進したのはドールトン、フィッツシモンズ両副官二人は少佐に昇進。

メルカッツ提督は中将、モートン提督も同じく中将に昇進し、メルカッツ提督はどうかは分からないが、モートン提督は艦隊司令官を任せられるようになった。シェイクリ、コーネフ両名も大佐に昇進。

 

逆に据え置きとなったのがチュン参謀長とラップ、オフレッサーの三人だ。

人事の都合上、今回昇進させてしまうと不都合、と判断されたらしい。まぁ艦隊司令部の参謀長と副参謀が中将と少将では、という気持ちも分からなくもない。

代わりに二人には幾つかの勲章が授与され、今回はこれで納得してくれ、という事だな。

ラインハルトも准将に昇進、階級的には分艦隊司令を任せられる。

 

で、昇進するかしないかで揉めたのが俺の処遇。

今のところ元帥なのはシトレ校長の一人だけ。それも統合作戦本部長で実働部隊のトップであるビュコック提督ですらまだ大将。

そのビュコック提督を差し置いて俺が元帥に昇進、というのも色々と不味い話な訳だ。

ビュコック提督が元帥ならサクッと決まったかもしれないが、そうじゃないので紛糾したらしい。

 

案として、ビュコック提督をイゼルローン要塞に赴任させ、俺を宇宙艦隊司令長官に入れ替えるという話も出たらしいが流石にそれは無いだろう、という事でお流れに。

ビュコック提督はそれでも良いんじゃがな、とか言ってそうだ。

 

結局俺の昇進は今回は見送り。

暫くの間は大将のままらしい。俺はもうこのままでいいんだけどね。

 

昇進に伴って人事の移動が行われる事になった。

まずモートン提督が中将に昇進したので、ウランフ提督と交代で第一〇艦隊司令官に栄典。

ウランフ提督は代わりに宇宙艦隊総司令部幕僚長になられた。

 

代わりに俺のところは新しく分艦隊司令を選ばねばならず、ラインハルトを分艦隊司令にそのままスライドさせようかと思ったが、人事から待ったが掛けられてしまった。なので他を指名しないとならない。

 

「と言っても、アラルコン少将は論外だし、他にとなるとビューフォート准将ぐらいしかいない」

 

「何が問題でも?」

 

「アラルコンは、アレは駄目だ。民間人、捕虜に対する虐殺の疑いがあるにも関わらず軍法会議では無罪。しかも複数回だ。そんないわくつきの奴を俺の指揮下に置きたくないし、話した事もあるがアレはそもそも人格に問題がある」

 

フィッツシモンズ少佐が新しい分艦隊司令官を決めるのに悩む俺に候補の者で何が問題なのかを話す。

 

「ではミューゼル准将を据えられては?」

 

「統合作戦本部の人事課から待ったが掛かった。だから今回は無理だな」

 

これはかなり痛手だ。

ラインハルトなら手放しで喜べたし、仕事を丸投げしても最良以上の結果を引っ張ってきてくれたのに。

そう説明するとフィッツシモンズ少佐は、人事課は馬鹿の集まりか?みたいな顔をしている。

まぁ、目の前でラインハルトの優秀さを見せつけられているから言えることだ。見たことがない人事課が一旦足踏みさせようというのも分からなくもない。

 

「ビューフォート准将も駄目なのですか?」

 

「駄目じゃ無いが、全く知らないんだ。能力的には問題無いだろうが、人格やらの話になるとまるで分からない。だから悩んでいるんだよ」

 

「アラルコン准将が駄目ならもう一択じゃないですか」

 

「だな。よし、次の第二分艦隊司令官はビューフォート准将に決定」

 

という訳で、モートン提督が離れた第二分艦隊司令官に、後日ビューフォート准将が着任することになった。

 

これに伴い、第十四艦隊の編成に色々と改変する事になった。

なんせ今までは少将が分艦隊を率いていたが次に第二分艦隊を率いるのはビューフォート准将。階級が一個下になるから今までと同じ規模を任せる訳にはいかない。

少将なら、半個艦隊を率いた俺とヤンの前例があるから六〇〇〇隻ぐらいまでなら任せても問題無いんだけどな。

 

メルカッツ提督に四〇〇〇隻、ビューフォート准将に三〇〇〇隻を率いてもらい、残りの一万隻を俺が直卒。

直卒のうち、二〇〇〇隻をラインハルトに任せて事実上三個分艦隊体制を取る事になる。なので俺が直卒するのは八〇〇〇隻になる。

 

別に分艦隊司令官にラインハルトを任命してないのでセーフである。なんならビューフォート准将に三五〇〇隻、ラインハルトに三〇〇〇隻ぐらい任せても全然良かったんだけど流石に不味いだろ、とチュン参謀長とラップに止められた。

そう説明したら全員苦笑いだったのは言うまでもない。しょうがないだろ、出来るだけ楽をしたいんだから。

実際の運用としては、俺、メルカッツ提督、ビューフォート准将の三人で前線を張りつつ、ラインハルトは予備兵力兼遊撃隊といった形で運用して行こうと思う。

何にしても第十四艦隊の総兵力は一万七〇〇〇隻で、その内の九〇〇〇隻を任せているわけだ。

 

 

次にガイエスブルク要塞の処遇。

これはわりかしあっさり決まったというか、むしろその選択肢以外にあるか?というものだった。

ヤンから送られてきた案は三つ。

 

・イゼルローン要塞と共にイゼルローン回廊内に配置する。

これは帝国軍がまず間違いなく今後も押し寄せ続けるだろうイゼルローン回廊に、イゼルローン要塞共々配置してより強固な防御体制を整える事が目的になる。

ただ、回廊内はそこまでの広さが無く、必然的に前後に配置する事になるが正直なところ戦術、戦略的に見ても余り意味があるものじゃない。

だったらガイエスブルク要塞でなくてアルテミスの首飾りを幾つかの方がまだ意味や価値がある。

 

・イゼルローン回廊帝国側出口付近に配置し前進前哨基地とする。

一つ目の案よりかはまだ意味があるが、だったらイゼルローン要塞自体を移動させるでもいい。

要塞自体に移動能力が無いだけで、頑張れば引っ張って行ける訳だからな。

問題はそこまでの最前線に出して、継続して一定値以上の戦力を配置しつつ要塞自体も問題無く稼働させ続けられるのかという課題がある。

当然、そこまで前線に配置したら帝国軍の猛攻を全方位から受ける事になる。イゼルローン要塞がそれたる理由は狭い回廊内に配置されているからだ。

ガイエスブルク要塞をわざわざ広い場所に配置して、全方位から猛攻を受けるようにする必要はない。

そもそも偵察監視衛星をばら撒いているんだからデカブツを出す必要はない。

 

 

・フェザーン回廊入り口付近に移動させ、同回廊の防備を固める。

三つの案の中で、ぶっちゃけこれ以外に意味あるか?と思わなくもない。まぁ案を色々出すことに意味がある訳だから一概には言えない。

フェザーン回廊は現状、アルテミスの首飾りと第十二艦隊が守りを固めているが、その拠点はジャムシード星系にまで下がる。

フェザーン回廊には要塞なんてものは無いし、あるのはフェザーン自治領だけ。

この距離的な問題は結構大きく、哨戒行動をするにしても出て戻ってくるまで二週間以上は掛かる上、哨戒監視をしなければならない範囲が広過ぎるという問題もある。

この問題を解決出来るなら、それに過ぎることはない。

ただ唯一懸念的があるとしたら、フェザーン自治領からの干渉が酷くなると予想される点だ。そうなると軍事的に意味のある配置に出来なくなる可能性が出てくる。

まぁ、これは定期的に配置換えを行なって可能な限りそうならないように気を付けるしかないな。

 

問題は政治家、官僚の連中がフェザーンを刺激するのではないかと騒いでいる点だ。最悪、配置が出来なくなる可能性だってある訳だ。

シトレ校長も、ビュコック提督も説得するのに色々と頭を悩ませているとかなんとか。

 

結局、ガイエスブルク要塞はフェザーン回廊同盟側出入り口付近に配置される事になった。

えっちらおっちら、一ヶ月も掛けて漸くフェザーン回廊に配置完了。

ガイエスブルク要塞駐留艦隊には第十二艦隊が暫定的にスライド。

技術解析やらなんやらもやらなければならないとかで向こうは艦隊の引っ越しから何からで、大騒ぎ大忙しらしい。

 

 

 

 

 

 

「えぇ……?ハイネセンに来いぃ?」

 

「はい。どうやら叙勲式に出て頂きたいと」

 

のんびりアンネローゼの側に居ようと思った矢先にか。

というか俺がハイネセンに行ったところで何の意味も無いと思うけどなぁ。

 

「イゼルローンの守りはどうするんだ?司令官がどっかに行ったなんて帝国軍が大喜びするじゃないか」

 

「ハイネセン曰く、一回派手に痛い目を見たんだから暫くは平気だろう、らしいです」

 

「んな妄言をどこの馬鹿が言ったんだ?」

 

まぁ、政府の差し金か。

レベロ議長やホワン・ルイ議員が言い出す訳が無いし、とすると他の政治アピールに使いたい馬鹿議員共か。

シトレ校長やビュコック提督、ヤン達がそれを良しとする訳が無いしな。多分、無理矢理押し切られた形か?

 

「はぁ……。まぁ、分かった。留守はメルカッツ提督に任せる」

 

「護衛は?」

 

「要らんだろう」

 

敵地に乗り込む訳でも無いんだから、そんな仰々しくする必要もないだろう。

 

「何も言わなくてもオフレッサー中将が付いて行きますからね」

 

「今回はオフレッサーも連れて行かない。要塞防御指揮官が留守にしたら不味いだろうからな」

 

「一応言っておきますが、司令ご自身で伝えてくださいね。私はそんな役御免です」

 

なんつーことを言うんだこの副官は。ドールトンも頷くなよなぁ。

 

 

 

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