普段の乗艦である戦艦「カレイジャス」ではなく、戦艦「デヴァスタシオン」に乗って出発することになった。
巡航艦
「アルトゥールⅢ」「ポーポルⅦ」「クレアドールⅡ」「ピペットⅤ」「アヴェリンⅢ」
駆逐艦
「パパドゥム」「プレブル」「ローレンス」「ウィンスロー」「エリクソン」「ポーター」「カニンガム」「サンプソン」「マンリー」「プレブル」
以上が護衛として付いて来る事になった。
最初は巡航艦に乗るつもりで、護衛も駆逐艦二〜三隻を付けるだけでいいと言ったんだが、そうは行かないと言われてじゃぁ任せると言ったらこうなった。
巡洋艦一個分隊、駆逐艦二個分隊が護衛って言うのは中々デカい戦力だ。仮に道中で数隻の海賊に襲われても一方的に返り討ちにする事が出来る戦力になる。
加えて身辺警護にオフレッサーが選び抜いた精鋭陸戦隊員三〇名がデヴァスタシオンに同乗している。
オフレッサーを含めて他の皆は要塞で留守番、副官二人だけを連れて行く事になった。
因みにだが、オフレッサーの説得には苦労した。
それにアンネローゼは妊娠一〇ヶ月。
出産予定日まではちょっとしか無いのに、今ハイネセンに行ったら出産に立ち会えなくなると文句を付けるぐらいは許されるだろう。
「お暇ですか?」
「まぁ、行き帰りで三週間づつ。暇にならない訳がないだろう?」
暇は暇だが、アンネローゼと子供の事が常に頭の中に出てくる。
周りには皆がいるから大丈夫だと思うが、気になって気になって仕方がない。
多少急いで行って帰ってくる予定だが、それでも往復八週間にハイネセン滞在日数一〇日。
往復八週間の行程は事実上の休暇にあたる訳だがアンネローゼはいないしやる事も無いしでまぁ、暇な訳だ。
今の楽しみと言ったら朝昼晩の食事ぐらいにまでなってしまった。
「三次元チェスは?」
「あんまり好きじゃなくてなぁ。持ってきた本も数がしれているから無闇矢鱈に読んだら余計に暇になるし、宇宙を眺めるのも三日で飽きた」
「でしたら、本でも書かれては?」
「……本気か?」
「本と言わずとも、何か文章を書いていれば気が紛れると思いますよ」
「そうかぁ……?」
ドールトン少佐に薦められて、まぁやってみるかと思って割り当てられた部屋でペンを取ってみたら意外と面白いというか、筆が進む。
何を書こうか迷ったが、まぁ自分の生い立ちから書いてみるかと始めた。
帝国に生まれた時から自由惑星同盟に亡命して来るまでを記憶にある限りの一番最初、多分二歳か三歳頃から少年時代の思い出をまず書いて、続いてまず主観的に自分の当時の気持ちや想いを書き、更に周りの客観的の両方からの視点を書いて、考察までとを一纏めに各エピソードにして書いてみたら文庫本八冊分にまで膨れ上がってしまった。
これは「纏まりの無い文章で文才が無い」とするべきか、それとも「俺の歩んだ人生が濃いものだから」とすべきか中々悩むところである。
そんなこんなしているうちにあっさり時間が過ぎてハイネセンに到着。
「……降りたくない」
「何を子供みたいな事を……」
宇宙港に停泊し、そこからシャトルで地上に降りると有り得ないぐらいの人が集まっていた。
ただ集まっているだけなら良い。
だが問題は彼らが俺の名前を叫び万歳とか、横断幕を掲げたりしている事だ。
こんなところ、降りて歩けるか!
降りたくないという俺に対して呆れた様子のフィッツシモンズ少佐とドールトン少佐。
「そんな嫌そうな顔をしないでください」
「どこのどいつだ、こんな事を喧伝しやがったのは……」
窓からちらっ、と見てみると明らかに見物に来た一般人とは思えないスーツ姿の一段が規制線よりもずっと前にぞろぞろと待っている。
「あいつらか……」
「閣下の人気にあやかって、票取りをしたい政治家連中ですね」
「その程度だから碌に票も集まらないんだろうよ」
「それ、絶対に直接言わないでくださいね」
「それぐらいの分別は付くさ。まぁ、連中の人気取りに使われるのも癪だからな」
ふん、と鼻を鳴らすと副官二人は顔を見合わせた。
シャトルから嫌々降りると、頭が揺れるんじゃないかってぐらいの声が襲う。
「閣下、眉間に皺が寄ってます」
いや眉間に皺を寄せない方が無理だろうが。ここまで来ると立派な音響兵器だぞ。
シャトルのタラップを降りると、なんともまぁ腹立つ笑顔を浮かべてこっちに歩いて来るクソ政治家共。しかも二団体様という腹立たしさ二乗と来た。
片方は現役なりの議員連中で、ぶっちゃけ記憶にほぼ無い。こいつら普段仕事してんのか?というのが正直な意見だ。
ただ、もう片方が問題だった。
帝国領侵攻作戦後に政治生命が吹き飛んだコーネリア・ウィンザーとか、トリューニヒトが死んでから色々不正やら汚職やらで同じく吹き飛んだ元国防委員長のネグロポンティとかまでいる始末。
多分、俺と仲良いアピールでもして政界復帰を目論んでいるんだろうが、何にしても、よくもまぁ姿を表せたもんだ。
面の皮が厚いとか言う次元じゃないぞ。
なんか握手をしようと寄ってきているが、そんなものに答えてやる義理も何も無いのでほんの〇.五秒だけ止まって適当に敬礼だけしてさっさと地上車に乗り込む。
「フィッツシモンズ少佐、連中の顔を見たか?」
「えぇ。あとで文句をつけられないと良いですね」
「何を言っている?俺は最低限の礼儀である敬礼はしたぞ。それに文句を付けて来ると言う事は、その礼儀すらいらないってことだ。と言う事はだ。次回から敬礼もしなくていいってことになるな」
そう言うと副官二人は何と言う無茶苦茶な理論を、と思っているのだろう、まだ呆れた表情で見合わせていた。
地上車に乗って、統合作戦本部に出頭するとそこにはシトレ本部長、ビュコック司令長官、ヤン総参謀長、ウランフ幕僚長など、兎に角軍のトップが勢揃いしている。
その中にはクブルスリー大将もいて、何となく話の内容に想像が付いた。
「前線勤務で忙しい中、呼び立ててすまんな」
「いえ。皆さんのせいでは無いようですし気にしないで下さい」
「にしてもTVで見たが、あの議員連中に元議員連中の対応、儂好みじゃったな」
「多分、彼らでしょう?小官をハイネセンに、とか言い出したのは」
「その通りじゃ。レベロ議長やホワン・ルイ議員は反対したんだが押し切られたらしくてな。態々ここに足を運んで説明しおった」
「なるほど。大方小官の人気にあやかりたいとかそんな低レベルな発想からでしょうね。やっぱり握手をしなくて正解でした」
そう言うとくつくつと皆が笑った。
「後で文句を付けて来るだろうが、まぁその辺の対応はこっちに任せてくれ」
「ありがとうございます、お願いします」
ウランフ大将がそう言ってくれるのは有難い。
「それで、今日ここに呼び出された理由は?まぁ、大方察してはおりますが」
聞くとシトレ本部長が頷いてから答えた。
「それなんだがね。まぁ、諸々の後始末も終えたし、後に繋げられる状態にまでなった。そこで、今年度中に私は辞表を提出する気でいる」
「なるほど。後任は?」
「後任はクブルスリー大将を据えようと思う。なので君の昇進は無しとなるが……」
「構いませんよ。それと勲章も可能なら必要ありません」
「勲章もいらないと?」
「貰っても箪笥やクローゼットの肥やしにしかなってませんからねぇ。一応略章だけは付けてますが」
「君らしいな。まさかヤンみたいに勲章が入っていた入れ物を石鹸箱になどはしておらんだろうね?」
「あぁ、それは良い案だ。ヤン、お前も偶には家の事で良い事を思いつくじゃないか。俺はてっきりユリアン君に任せっきりだと思っていた」
「残念。今ユリアンは士官学校だ、そんな家の事を僕がほっとくと思うかい?」
「仕事にかまけたり、他にも色々と理由は想像出来るが、散らかっていても俺は驚かないな」
ヤンの事だから、仕事以外は読書で時間を潰したいとかで家の中が散らかりまくっていても俺は驚かない。
なんなら今もう、洗っていない服やゴミの山が作られていてもおかしくは無い。
「残念、僕の家はちゃんと綺麗なままだよ」
「……馬鹿なっ!?お前がマトモに家の事を出来る訳が無い!」
「ちょっと、それ酷くないかい?」
「士官学校時代、お前の整理整頓が出来ていないって理由で俺達がどれだけとばっちりを食らったか覚えていないのか?」
「それはそれ、これはこれだよ」
「いや、だが信じられない。ヤンがそんなマトモに掃除洗濯が出来るわけが……」
ヤンのざまーみろ、とでも言いたげな表情を見てますますこいつが出来るわけがないと思う。
なんせ士官学校では整理整頓はしないし、洗濯はしないしで、そのとばっちりを食らって俺達がどれだけ罰走や腕立て伏せ、スクワットをやらされたことか。こいつのお陰で俺達の分隊は他の分隊よりも体力教練の成績がピカイチだったんだ。にもかかわらず当のヤンは落第ギリギリだったけど。
それで結局俺とラップが整理整頓や洗濯を手伝う羽目になったんだから。
しかし簡単に確かめる方法がある。
服は洗濯しなければ臭いし、軍服も定期的にクリーニングに出すものだ。士官学校内には数千人にもなる士官学校生を支えるべく専門のクリーニング業者が幾つかあるぐらいだ。
なのでヤンのところに歩いて行って臭いを嗅いでみようか。
「ちょっ、なんだい気持ち悪い」
「お前が洗っていない制服を着て講義に出たことがあるからな。ちゃんと洗濯掃除をやっているなら今お前の来ている服は臭くない筈だ」
肩をガシッ、と掴んで逃げようとするヤン。
だが残念、体格に加えて陸戦評価でSを貰っている俺に、E評価のお前が逃げられる訳が無いんだから大人しくしろ。
「んん……?」
「で、ヤン大将の服の臭いはどうかね?」
楽しそうに笑っているシトレ本部長に聞かれて首を傾げる。
「なんでお前から、男からは絶対にしない匂いがするんだ……?」
なんか、ヤンの軍服からは凄くフローラルな匂いがする。
こう、香水と言うか、柔軟剤?なんだこれ?
「……あっ!お前、もしかして女が出来たか!?相手は誰だ!?」
「ちょっ」
「いや待て当ててやる」
肩を揺すってから離して考える。
ヤンに女っ気が無いのは士官学校時代からだ。なんならそれ以前から無いように思える。
ヤンにとって身近な女性と言えばジェシカと、あとは士官学校の同期先輩後輩ぐらい。だが成績は落第スレスレ、本の虫、容姿もぶっちゃけパッとしないヤンに態々言い寄るような女はいたことが無い。
そんなヤンが自分から行くとは思えないので、となると身近に居て、行動力があるとか、そういう女性になる。
で、俺にはその女性と言うのに一人だけ心当たりがあると言うか、酔狂にもヤンの事が好きだと言うのが丸分かりのバレバレの女性がいる。
「分かったぞ、グリーンヒル大尉だな!?」
「なんで分かったんだ!?まだ誰にも言っていないのに!!」
「はっはぁ!馬鹿め、隠すんならもっと上手くやるんだな!」
「くそぅっ、何で分かった?」
「野郎一人で生活していたら絶対にしない筈の匂いがお前からする。それもヤンからそんな匂いがするとかあまりにも違和感が凄い」
そう推理すると、周りも驚いている。
「なんと、あの魔術師ヤンに遂に春が来たか!」
「あぁ、皆さんもご存知無かったと」
「うむ、これは驚きじゃのう」
ウランフ提督が立ち上がって驚き、ビュコック長官は顎を撫でながらしげしげと頷く。
そう口々に言われてヤンは照れ臭そうにはぁ、と一息吐くと、
「えぇ、まぁ。この場をお借りしてご報告しますが、小官はグリーンヒル大尉とお付き合いさせて頂いております」
「そうかそうか……。遂に君もか」
あのヤンが、ねぇ。
なんとも感慨深いもんだ。
となるとユリアン君にとって、グリーンヒル大尉は養母となる訳か。うんうん、良いもんだね。
因みに俺とアンネローゼの子は既に皆には伝えてあるので心配はいらない。
「ヤン大将の話に逸れたが、ともあれ話を戻そう」
「今回君を呼び出したのはさっき言っていた通り議員連中だ。だがまぁ、こっちとしても要件があったのでね、ついでにという訳だ」
「なるほど。それで、その要件と言うのはなんでしょうか?」
「今年度中に私が引退して、クブルスリー大将に本部長職を譲ることにはなっているが、問題は宇宙艦隊司令長官のほうだ」
「あぁ、確かに」
シトレ本部長が言うように、宇宙艦隊司令長官の席もそう遠くないうちに空くことになる。
と言うのも今、その席に座っているのはビュコック大将となるが、宇宙暦七九六年年の時点で七〇歳。今は八〇〇年なのでもう七四歳になる。
基本的に軍の定年は階級によって決まる。
佐官の場合は六〇~六五歳。将官になると六八~七五歳。
そう、ビュコック提督は来年には定年退職される年齢なのだ。
「儂も来年には定年じゃ。じゃからその後任を決めておく必要がある」
「なるほど、それで今回小官を」
「うむ。任期の関係で数年しか務めらんがここにいないボロディン提督を含めて、ウランフ、ヤン、ノルトハイム、ホーウッドの五人でそれぞれ四年ずつ。二〇年は同盟軍は安泰じゃな」
統合作戦本部長、宇宙艦隊司令長官はそれぞれの任期が四年となる。
シトレ校長の場合は特例として任期延長措置が取られている。一応同盟軍基本法にはそれぞれの役職を複数回やることを禁じている法は無いのでやろうと思えばやれる。
ただ法律に明記されていないのは、基本的にそれぞれの職に就く者が少なくとも六〇代とかの時に就任するので、次回が回ってこないから、という理由がある。
俺とヤンは年齢としては三十三歳なので、まぁ、あと四〇年は軍歴が残っているということだから、階級も大将なので、元帥になったら下手すると二~三回はやる可能性がある。まぁ面倒臭いのでやりたくないけども。
「もう二〇年は?」
「それはお主のところのミューゼル准将がおるじゃろう。彼の才幹はとんでもないからの。お主ら合わせて三人、それとユリアン君もおる。安泰じゃろうて」
ラインハルトは二十四歳。
軍歴にしてあと五〇年はあるわけで、そうなればラインハルトの才能なら元帥なんて余裕だろう。
ユリアン君も士官学校卒業後の少尉任官後から数えて途中で辞めるかどうかはともかくとして将官にまで上り詰めれば最長で五五年の軍歴がある。
二人がいれば少なくとも軍は変な方向に舵を切らなくて済む。
「もしかして、全員に?」
「本部長の方もな。クブルスリーもずっとは出来んだろうて」
「と言うことは、ボロディン提督とクブルスリー大将を含め、五人で順繰りに統合作戦本部長と宇宙艦隊司令長官を暫くの間はやれ、と仰られる訳ですか」
「そうだ。それぐらいの年数があれば同盟の状況も随分と改善するだろうし、軍も同様だろう。要らぬ事をしなければね」
「まぁ、そうでしょうが政府が納得しますか?」
「元々は最高評議会のせいでこうなったとも言える訳だから、頷かせたよ。その辺の根回しは既に済んでいるから気にしなくて良い」
なんとまぁ、準備の良い事で。
ただシトレ校長は後を託すのに、やっておかねばならない事は、現時点で考えられるものは全てやってくれたと見て良い。一〇年か、二〇年先の事であっても何も無しにいきなりやれ、と言われるよりかは遥かに良い。
「分かりました」
「本音を言うなら、君とヤンの二人にそれぞれ本部長と司令長官をやって貰いたいところだが、政府としては必ずどちらかを前線に置いて帝国軍に備えておきたいらしくてな。だからヤンも君も暫くはこのままだ」
「ビュコック提督の後任はもう決まったのですか?」
「ウランフを任じるつもりじゃ。クブルスリーと同時にスタートで、次は彼が決める」
「なるほど。では次期本部長閣下、司令長官閣下。宜しくお願いします」
二人は頷いて返した。
「君は暫くイゼルローンにいて貰うことになる。具体的には四年程度。ヤン大将はこのまま参謀総長を勤めて貰う予定だ」
「了解しました」
終わると、旅の疲れもあったから宿舎ですぐに寝てしまった。
夜にこっそり護衛を数人連れて久々にミハイロフの店に向かって、フィッシュ&チップスを食べた。
護衛の皆にも奢り、宿舎で待機している皆にも幾つか食べ物を買って帰る。
ミハイロフの店の味は士官学校時代を思い出す懐かしい味だ。
ヤン、ラップ、ワイドボーン達と共に、門限破りに夜間の脱柵のお供とくればこれだった。懐かしいもんだ。
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叙勲式を終えて、統合作戦本部に来るように言われ、ある一室に通される。
そこでキャゼルヌ先輩に待つように言われると、書類を渡された。
「これは?」
「ブレンダン・ビューフォート准将。お前さんのところに新しく着任する分艦隊司令官だ」
以前、モートン提督と一緒に分艦隊司令官を頼もうとしていた人物ではあるが、実のところ顔を直接見た事も、話した事も無い。
ビューフォート准将は以前、少将に昇進の上で半個艦隊として再建される艦隊司令官に着任するらしい、と話を聞いていたがパエッタ中将や他に何人か居たためそっちになり、艦隊司令官の話は流れてしまったようだ。
「なるほど。ありがとうございます。因みに人柄とか全く知らないんですが、どんな人です?」
「悪い人物じゃない。ただ人相が悪くてな」
そう言われて添付されている写真を見ると確かに人相が悪かった。
左目は何故か眼帯を付け、顔には幾つかの向こう傷。さらに鋭い目端は、軍人というよりかは明らかに何処かの時代の海賊と言われる方がしっくりくる。
今の時代、義眼も良いものが幾らでもあるのに、何故わざわざ眼帯を選んだのやら聞いてみたいところだ。
「能力人格に問題が無いなら構いません。それで、着任は何時に?」
「お前さんと一緒に補充の艦とイゼルローンに向かってもらう」
「もしかして、今日は顔合わせとかだったりします?」
「流石。よく分かったな」
そのタイミングで、部屋のドアがノックされる。
「入ってくれ」
「失礼します」
入室してきたのは、書類に添付されていた写真と同じ人物。
俺より一〇歳年上の、叩き上げの人間特有の雰囲気と数多くの戦場を生き抜いた凄みがある。
「ブレンダン・ビューフォート准将、キャゼルヌ中将の命により参りました」
直立不動に敬礼をするビューフォート准将に、俺とキャゼルヌ先輩も立ち上がって答礼をする。
「ご苦労。座ってくれ」
「はっ。それで本日はどのようなご用件でしょうか?」
「既に辞令は出ているだろうから知っていると思うが、君はイゼルローン駐留第十四艦隊分艦隊司令官になる」
「はい。一週間前に人事部から辞令を頂きました」
「君の、一番上の上官と顔合わせだ」
「そう言う訳でしたか。ご挨拶が遅れました、この度第十四艦隊分艦隊司令官を任ぜられました、ブレンダン・ビューフォート准将であります。よろしくお願いします、閣下」
「アルフレート・フォン・ノルトハイム大将だ。いきなりの事で済まないが、宜しく頼む」
「はっ。栄えある第十四艦隊に着任出来ることを嬉しく思います」
ピシッと、綺麗な敬礼をするビューフォート准将。
経歴書によれば、彼は専科学校からの叩き上げ。今年で四十九歳だと言うから准将に上がるまでかなり苦労をした筈だ。
兵からのビュコック提督よりかはまだ楽かもしれないが、どんぐりの背比べ、ぐらいの違いでしかない。
士官学校卒なら、正直なところ戦功を上げれば准将ぐらいまでならよっぽどの事が無い限り昇進出来る。
例えそれが本人の才覚に寄らないものだとしてもだ。フォークなんかは特に良い例だな。
「あー、気を悪くするかもしれないが一つ質問をしても良いか?」
「構いませんが」
何を聞かれるのか、と少し眉を動かした。
それでもすぐに元の表情に戻す辺り、やはり経験豊富らしい。
「気になったんだが、何故眼帯を?その、今どきなら幾らでも良い義眼を使えるだろう?それこそ軍から五割の補助が出るし」
そう質問すると、少しきょとん、としたような拍子抜けしたかのような表情を浮かべて笑い声を上げた。
「確かに気になるでしょうな。まぁ、金が無いとかそう言う理由では無いのでご心配なさらず」
という事は、ギャンブルや女、酒タバコで身を持ち崩し掛けたりしてはいないって事だな。
本人も言外に言っているし、書類にもそう言った問題は無し、と書かれている。
「では何故?」
「だって、義眼なんて無粋なものより眼帯の方が格好良いでしょう?」
能力、人格に問題は無いが些か変わった人物という印象に落ち着いたビューフォート准将との挨拶から四日。再び統合作戦本部に赴いていた。
「それで、話というのは?」
「以前、軍の一部が反乱を起こした際に、トリューニヒトが撃たれて死んだ事は覚えておるな?」
「勿論ですが、それが何か?」
「あの時、何故かトリューニヒトは軍ではなく地球教徒に守られていたと話したがそれも覚えているかね?」
「えぇ、まぁ」
「ちと嫌な予感がしてな、情報部、諜報部に調べさせておいたんじゃがその結果が出たからお主にも教えておく」
「ほぅ……、それで結果はどうだったんです?」
「贈収賄はまだ可愛い方で、サイオキシン麻薬まで見つかった。流通の形跡もあったからな。なんにしても真っ黒だったよ」
「それは、また……。確かに良い噂は聞きませんでしたがそこまでとは」
正直なところ、地球教の噂で良い噂を聞く事は少ない。
「色々と、勘繰らざるを得ませんね……」
「うむ。今も調査は続けているが逮捕者はどんどん増えるだろう。問題はどこまで増えるか、だ」
シトレ校長の表情はかなり険しい。
地球教絡みの件はそれほど、という訳か。
「軍内にも、ですか?」
「既に数名が手錠を掛けられている。最悪、トリューニヒトの元シンパが丸ごと、なんてことも有り得る」
嫌な話だな。
ただでさえ、反乱で軍の信頼、信用は失墜しているのにそこにコレが加わればゼロがマイナスになる可能性すらある。
「それで、小官は?」
「君はトリューニヒトが大嫌いだったろう?疑う必要は無い。問題はあるリストに君の名前が載っていた事だ」
「リスト?」
「そのリストは地球教側に取り込む、或いは取り込みが失敗したら暗殺する人物のリストと思われる。そこには君と、そしてヤン大将がトップにあった」
「まぁ、平気だと思います」
「君のところにはオフレッサー中将、ヤン大将のところにはシェーンコップ少将がいるからな」
ヤンの護衛にはシェーンコップ少将が付いているし、俺にはオフレッサーが何も言わなくても付いている。
事が起こったらオフレッサーは周りを無差別に攻撃しかねないぐらいの劇薬だからなぁ、むしろ心配はそっちの方だ。
「この話、絶対にオフレッサー中将には話せませんね」
「だな」
話を聞いたら、地球に殴り込みを掛けて地球教を文字通り殲滅しかねない。
何にしても、地球教やそれに関わる連中にガサ入れがされるのは決定した。