逃げるは敵へ   作:ジャーマンポテトin納豆

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同盟軍准将アルフレート・フォン・ノルトハイム

 

 

士官学校をなんだかんだで卒業し、少尉任官後。

無事に一年を生き延びて中尉となった俺は

人使いの荒い腹黒親父こと、シトレ元校長のお陰で刺激的な日常を送らざるを得なくなった。

 

後方勤務を希望していたのに、有望な君を後方勤務で温めておく余裕は無いと言われて参謀に引っ張り出されたりして。

 

「まさか君が中佐とは恐れ入る。流石士官学校始まって以来の大天才様は違うね」

 

「好きでなったんじゃない。今からでもキャゼルヌ先輩に頼んだら後方勤務に引っ張って貰えないもんかな」

 

「シトレ校長が許さないだろうね」

 

「だよなぁ」

 

「それで、エル・ファシルの英雄様は最近どうなんだ?」

 

「それ、やめてくれよ……」

 

「仕返しだ」

 

「大尉に昇進したばっかりだってのに少佐に昇進だってさ」

 

「はははっ、ざまぁみさらせ」

 

「君よかマシだと思うけどね」

 

シトレ校長の下で参謀やらを一緒にやった後、配属が変わって暫く顔を合わせていなかった。

新しい辞令を受ける為に統合参謀本部に足を運ぶと、偶々ヤンと出会した。

 

俺はと言うと今までだいたい戦艦2〜4隻、巡航艦2〜4隻、駆逐艦10隻、補給艦2隻ぐらいの最大でも良いとこ二〇隻ぐらいの小艦隊を率いて帝国軍や海賊相手にドンパチやっていたりした功績で割とあっさり中佐まで昇ってしまった。

戦果より、部下達を一人も欠けることなく帰って来たことを評価してほしいもんだけど、分かりやすく評価しやすい戦果にばかり目が行くらしい。

 

「よっ、お二人さん」

 

「ラップか。元気か?」

 

「ぼちぼちやってるよ。二人は大層ご活躍されておられるようで」

 

「「やめろ」」

 

「はっはっはっ」

 

三人で少しの間、話に花を咲かせてから別れると大佐に昇進の上、後方勤務を命じる辞令を受けた。

どうやら念願の後方勤務となれるらしく、内心万歳三唱だったが、一年ほど勤務したらすぐに艦隊の方で勤務となると言われた。

 

出世とかどうでもいいから忙しいが安全な後方勤務に腰を据えさせてほしい。

 

 

 

 

「久しぶりだな」

 

「兄上、お元気そうでなによりです」

 

「ラインハルト、お前随分と身長が伸びたな」

 

「何年も会っていなければ当然です」

 

アンネローゼと姉弟であると言うのは伊達では無いらしい、普通に美少年になっている。

ラインハルトは身長が160cmを超えていて、それでもなおまだ身長が伸びていきそうな雰囲気がある。

 

「成長痛は今しか味わえないぞ。思う存分楽しんでおけよ」

 

「勘弁してください」

 

ふりふりと頭を振って嫌そうにしている。

これだけ身長がぐんぐん伸びていれば成長痛もよっぽどのものだろうからな。

 

「お前、随分とモテるだろう」

 

「はぁ?」

 

「良い相手とかいないのか?ほら、ラブレターとか貰っているだろ」

 

「あぁ、確かに手紙とか貰ったりはしていますが興味がありませんから特に気にしたことは」

 

それをキッチンから覗いていたアンネローゼ共々、はぁ、と溜息を吐かざるを得なかった。

アンネローゼもそんな弟の状況を憂いているようである。

 

 

するとアンネローゼに聞こえない程度に声量を落として反撃して来た。

 

「それより、兄上こそ姉上との仲に進展はあったので?」

 

「……手痛い反撃だな」

 

「仕掛けて来る兄上が悪いのです」

 

「ボチボチ、ってところだよ」

 

「弟としてはお二人に御一緒になって頂いて、幸せになって頂くというのが最もな願いではあります。が、弟の私が言うのも変な話ですが姉上は相当異性同性問わず大変慕われているようですから、うかうかしていると何処ぞの誰とも知らない輩に横から掻っ攫われてしまいますよ」

 

「お前、追撃まで出来るようになったのか?俺より軍人に向いていそうだよ」

 

「兄上という良き手本がおりますから」

 

「おだてるのも上手いと来た。こりゃ手に負えなくなるのもそう遠くないなぁ」

 

くつくつと楽しそうに笑いながらラインハルトは答えた。

 

アンネローゼは本当の孫娘のように可愛がっている祖父の資金出資で自前の食事処兼スイーツカフェを構えてハイネセンでも有名な店になりつつあるらしい。その盛況ぶりは聞き及んでいる。

ラインハルトは小学校をこれまた転入してからずば抜けた成績で主席を維持して卒業をするらしい。ハイネセン近郊の学校はどこも学力が非常に高い子供が多く、その中でもずば抜けているというのだから凄いものである。

 

アンネローゼの料理を皆で舌鼓を打つ。

美味しい食事に美味しいワイン、そして温かい家族と一緒となればそれはもう口が回るもので。

 

「アルフはこのままハイネセンに?」

 

「あぁ、取り合えず一年ぐらいはキャゼルヌ中佐の下で色々とコキ使われる予定だよ。だから暫くは家から通えるな」

 

「それは良かった。キャゼルヌさんなら悪い様にはなさらないでしょうから」

 

「コキ使われる俺の心配はしてくれないのか、母さん」

 

「えぇ、貴方の性格は良く知っていますからね。寧ろちゃんと働くか心配だわ」

 

「酷い話だな」

 

「兄上、日頃の行いが悪いとこうなるんですよ」

 

「俺はなんで後ろから撃たれているんだ?」

 

皆が笑い声をあげている。

これが一年は見られると思うと嬉しいものだな。

 

 

 

 

「ラインハルトは進路をどうするつもりなんだ?」

 

「兄上と同じ士官学校を目指すつもりです」

 

「ラインハルト!」

 

「なので姉上の説得をお願いしたく」

 

「いや、お前俺が士官学校に入る時にアンネローゼの説得に一番苦労したのは知っているだろ」

 

「だからこそお願いしているんです。兄上に出来ないなら誰にも出来ません」

 

「だってさ、アンネローゼ」

 

「貴方まで軍に行って、その上弟まで軍にやる言われはありません」

 

「アンネローゼ」

 

「……はい」

 

「今のところ、内定の話ではあるが来年度から後方勤務を一年ほどやってから、艦隊勤務に戻る。ビュコック提督は覚えているな?」

 

「えぇ、尉官の時に貴方が散々扱かれたとぼやいておりましたから」

 

「今あの人は第五艦隊司令官を勤められている。内定の話だからまだ分からないが、再来年度辺りに第五艦隊の参謀に転出する予定だ」

 

宇宙艦隊司令長官に就任しているシトレ校長に言われたことで、まだ内定状態の話と言うよりシトレ校長とビュコック提督が内々に話していることらしいから軍から正式な決定も通達も無いものだ。だからこの話が丸っと変わる可能性だって十分にある。

とは言え軍の体制に全く詳しくないアンネローゼを言い包めるぐらいの話には仕立て上げられる。

 

それにラインハルトはそこらにポン、と置いてそれを良しとするほどの人間じゃない。それどころか余りにも傑物過ぎて誰の手にも負えない。

だったら俺のところで一旦色々と学ばせるのも一つの手だろう。

 

「そんな……」

 

「詳しくは言えんが、順調に行けば再来年か、その次辺りには分艦隊司令官の職を頂く可能性がある」

 

「それがどうしたと?」

 

「その時は任官したラインハルトを従卒か副官として引っ張る。そうすれば多少は安全だろう」

 

「だからラインハルトの士官学校入りを認めろ、と?」

 

「それでも駄目なら俺はアンネローゼの説得を諦めるしかない。だろ?」

 

「兄上、もう少し粘ってください」

 

不満そうに言うラインハルトに肩を竦めて見せる。

 

「……分かりました」

 

「姉上!」

 

「ですが、二人とも必ず死なないように。何があっても生きることを諦めないと、ここに帰ってくると言う事だけは約束してください」

 

「「勿論」」

 

アンネローゼの言葉にラインハルトと顔を見合わせてから頷いた。

 

 

 

 

 

 

「ビュコック提督、お久しぶりです」

 

「ふん、久しいな小僧」

 

「遅ればせながら、中将昇進と第五艦隊司令官就任、お祝い申し上げます」

 

「そんなもんいいわい」

 

「そうですか?お祝いに、と思って特別良いウイスキーとワインをお持ちしたのですが」

 

「んん、それは、受け取っておこう」

 

「えぇ、是非そうなさって下さい」

 

相変わらずのようである。

ビュコック提督は叩き上げで中将にまで登り詰めた人だし、何より驚くぐらい有能だ。

多分、帝国で言うところのメルカッツ提督みたいな人だ。戦術も老練で多くを学ばせてもらったし。

 

「全く、シトレ大将にお前さんの面倒を押し付けられたときはどうしたもんか、と思うたがちゃんと成長しているようだな」

 

「はっ、身に余るご評価感謝します」

 

「参謀としてコキ使ってやるでな、覚悟しておけ」

 

後方勤務を勤め上げ、第五艦隊参謀に転出すると早々に出兵の計画が持ち上がった。

どうやら第六次イゼルローン要塞攻略戦をシトレ校長は目論んでいるようで、自分が直卒する第一艦隊、グリーンヒル中将の第四艦隊、そしてビュコック中将の第五艦隊の三個艦隊五万二〇〇〇隻から成る艦隊で挑むらしい。

 

お陰で参謀就任早々に大戦に挑まねばならなくなった。

 

 

 

「今回の第五次イゼルローン要塞攻略に際して、諸君らの意見を聞きたい」

 

この作戦に俺は第五艦隊参謀として、ヤンは第一艦隊参謀として参加することになっている。

だからシトレ校長の後ろに面倒臭そうな顔をしてヤンが立っている。

 

「発言宜しいでしょうか」

 

「アルフレート大佐」

 

「D線上のワルツ、大変結構ですがこの戦術には明確に問題があります」

 

「ほう、それは何と言うのかね」

 

「この戦術は帝国艦隊にコバンザメのようにくっ付いて動き、トゥールハンマーの動きと狙いを封じる戦術、という認識で構いませんね?」

 

「うむ。多くの血の代償で編み出した戦術だ。それに何か問題でも?」

 

「この作戦の重大な欠点は、相手である要塞司令官の人間性に頼っているというところです」

 

そう発言すると、皆一様によく分からないと言う顔をする。

まぁ、当然と言えば当然だろう。何故作戦に敵の人間性が関わってくるのかという疑問が当然あるからだ。

 

「どういうことかね?」

 

「この作戦は帝国艦隊にくっ付いて、トゥールハンマーに撃たれないようにする。そう言う戦術です。しかしながらこの撃たれない、と言うのは要塞司令官である相手がマトモな人間性や人格を有していることが大前提となります」

 

そこまで言ってシトレ校長を見やると、続けて話すように仕草で促される。

 

「イゼルローン要塞の防御には要塞防御司令官と駐留艦隊司令官の二人が任命されますが、問題はこの二人の関係性が過去に遡って見ても良好であったという試しが全くありません。それどころかあらゆる点で意見がぶつかって罵り合いに発展することもしばしばあるとか」

 

「すると何か?敵は我々がコバンザメになったら味方諸共撃って吹き飛ばすとでも言いたいのかね?」

 

「その通りです、グリーンヒル中将。皆さんもお考え下さい。もし要塞が陥落でもしようものなら彼らはどうなりますか?」

 

「どうなると言うのだね?」

 

「要塞陥落の責任を問われて軍籍を剥奪されるぐらいで済めば御の字。まぁ、向こうの常識的に考えれば当人のみの銃殺刑、司令官が捕虜ならその責任を一族郎党に問う可能性すら有り得ますな」

 

「そうなるとどうなる?」

 

「ド辺境に島流しされるぐらいならまだ良い方かもしれません。最悪一族郎党皆殺しすら有り得ますね」

 

そう言うと、会議室はざわつく。

まぁ当然か。同盟の常識ではどうやっても考えられない話だからなぁ。多分、この感覚は帝国で暮らし、貴族や専制政治というものに触れていた人間でないと分からないものだ。

 

「では、それを念頭に作戦を再度考える必要があるな。であればアルフレート大佐を筆頭に再度作戦を考えて貰おう」

 

「はっ、私が、でありますか?」

 

「発言したのは君だろう?であれば責任をもって考えたまえ」

 

「……承知しました」

 

不本意って訳でも無いが、自分で自分の仕事を増やしてしまった。

 

 

 

「アルフ」

 

「ヤン、それにアッテンボローとラップまでどうした」

 

「司令官閣下にアルフ大佐をお手伝いせよ、と仰せつかりましたのでね」

 

「はぁ……。まぁ、うん、そうしてくれ」

 

にやにやと意地の悪い笑みを浮かべるヤンとラップ、アッテンボローはそれはもう隙を見せたのが悪いとでも言うべきものだった。

 

「それにしても先輩、よくあんなことを御存知でしたね」

 

「まぁ帝国軍内では結構有名な話だからなぁ。しょっちゅう家に来ていた軍人達が教えてくれていたんだよ」

 

オフレッサーやメルカッツ提督達は元気かな。

なんだかんだ良くしてくれたし、凄く慕ってくれていた。もうそろそろ五〇半ばぐらいになるだろうからあんまり無茶はしないで欲しい所だけど有能だからそうもいかないかな。

 

「ですけど先輩に代案があるんですか?」

 

「まぁ、二つか三つぐらいはある」

 

「そんなに?」

 

「まぁね。多分ヤンも思い付いている案だと思う」

 

「そうなんですか?」

 

「多分ね」

 

「お聞かせ願えます?」

 

「一つがイゼルローン要塞を無視すること」

 

「無視?どういうことだ?」

 

「何も帝国に行くための道は一つでは無いって言う事を、なんで皆は思い付かないんだろうね」

 

「あっ!」

 

帝国に行くための航路はイゼルローン回廊とフェザーン回廊、そして多くの辺境航路を大きく迂回するものがある。

帝国に最短距離で行ける航路がイゼルローン回廊であると言うだけで、何も無理してイゼルローン要塞を攻略して奪取してから通らなければならないと言うわけでは無い。

 

フェザーン回廊は現状、フェザーンの自治とかその辺が関わってくるので現状は通ることが難しいだろう。

ただそれは相手も同じだ。下手にフェザーンに軍を進めようものなら最悪フェザーンが丸々敵に回る可能性だってある。帝国と同盟の双方の財布を強く握っていることを考えればどちらの勢力もそれを避けたい筈。

だからフェザーン回廊も現状は使えない。

 

となればあとは辺境航路を大きく回り込む航路を使えばいい。

航路としては辺境だが、軍隊が通れない場所というわけでも無い。補給拠点を設置し得る小惑星や惑星だって少なからず存在する。そこを整備しつつ、戦力を十分に揃えた上で行けばいい。

 

それを説明すると皆は驚いた顔をしている。

 

「確かにその通りだ。今までずっとイゼルローンしか見ていなかったから固定観念に囚われ過ぎていたと言う事ですか……」

 

「イゼルローンと辺境航路は分かった。だがフェザーン回廊を無理矢理通るわけには行かないのか?」

 

「出来なくはない。ただそれをやろうと決断出来るだけの人間が少なくとも俺が知る限り同盟には居ないし、帝国にも居ない。お前達、同盟の政治家にそんな決定を下せる奴に心当たりがあるか?」

 

「いや、無いな」

 

「だろう?」

 

「ならフェザーン回廊は現状使えないのさ。同盟側が出来る事と言えば出入口付近に基地を設けて、万が一の帝国軍侵攻に備えて二個艦隊ぐらいを張り付けておくぐらいしか出来ないだろうな」

 

「なるほど、こうして説明されるまで全く考えたことが無かった……。それとも見なければならない現実から目を背けていたというべきか……」

 

「なんにしても、少なくとも警戒しておく程度の話になるだろうな」

 

実際問題、艦隊の駐留や基地建設すら難しいかもしれない。

フェザーンから色々と抗議を受ければそれだけで物事は停滞しかねないし、その上白紙撤回すら有り得る。

 

今さっき二個艦隊を駐留させる、と言ったが良くて一個艦隊が駐留するのが限界だろう。

あとは警備部隊と銘打って一〇〇隻ほどの小艦隊を分散して配置し、帝国軍が来たら一気に集める、という小手先の技ぐらいしか使えないだろう。これだとどれだけ頑張っても半個艦隊五〇〇〇隻を集めるにしかならない。

 

「辺境航路は?」

 

「こっちが曲者なんだよな」

 

「と言うと?」

 

「辺境航路の精密航路図なんて同盟側は持っていないんだよ」

 

「なるほど、それは確かに曲者だ……」

 

「帝国側はどうなんです?」

 

「精密とは言えなくてもまぁ取り合えず使える程度の航路図がある」

 

「何故同盟側はそれを持っていないんです?」

 

アッテンボローが至極当然の疑問をぶつけて来る。

まぁ、これは物凄く単純な理由がある。

 

「早い話が国力差ってやつだろうな。正直なところ、帝国の国力は例えどういう経緯で整えられているとしてもどれだけ低く見積もっても1.5倍はある。厳しく見るなら同盟の倍ぐらいと見ておくのが良いだろう。それだけ国力差があるなら、辺境航路の航路図を粗くても用意するぐらいは出来るからな」

 

それに、攻める帝国と守る同盟、と言うお互いの立場も関係しているだろう。

攻める側はより多くの攻め手を模索する。その際に少なからず辺境航路に目を付けた事実がある。

ただ、そっちに補給拠点を設ける手間や大艦隊の航路を探索するぐらいなら、普通にイゼルローンから攻め込んだ方が早いからあまり注目されていないだけだ。

だから互いの現状の関係で辺境航路は注目されていないと言うわけだ。

 

「帝国との国力差はそこまであるんですか?」

 

「あぁ。単純な軍事力だけで見ても、帝国正規軍の正規艦隊だけでざっくり十八個艦隊以上。そこに貴族の私兵艦隊が加わる。こっちは正確な数字が分からないから何とも言えないがこれも帝国正規軍と同数程度はあると見て良い。合わせて三十六個艦隊、同盟と同じ艦隊編成で計算しても戦闘艦艇だけで六〇万隻以上の艦隊戦力がある」

 

「なっ……」

 

「それは、また……」

 

「こっちの戦力は正規艦隊だけだと十二個艦隊、辺境警備艦隊や部隊を全て搔き集めれば、まぁ十五か十六個艦隊、戦闘艦艇数二十万隻ぐらいの戦力があるだろうが、それでも帝国の予想戦力の半分にも満たないな」

 

実際問題、軍事力という点だけで言うと同盟と帝国の戦力差は1:3以上になると見ていい。

貴族の私兵艦隊を正規軍指揮下で動かせるとは到底思えないし、碌な軍事教育も受けていない貴族連中がどれだけ艦隊運用が出来るかというレベルの話だ。多分、マトモな艦隊編成もクソも無いだろうな。

 

「どれだけ貴族の艦隊が烏合の衆だったとしても、数があるのは間違いない。倍の数を誇る帝国正規軍と戦い、仮に勝ったとしても艦艇数が減って、疲労している最中にまた同じ数の敵を相手にしないとならない。質で勝っていても数で負けていては意味が無い」

 

「向こうの内情を知っている人間から言われると、現実問題としてズシンと重く圧し掛かって来るなぁ……」

 

「だろう?にもかかわらずイゼルローン要塞攻略がどうとかこうとか言っているんだからなぁ」

 

「僕は歴史学者を目指していたのに、なんだってこうなったんだろう」

 

「まぁ、俺はお前が歴史学者に向いているとは到底思えないけどな」

 

「なんでさ」

 

「お前、演説とかそういうの全く得意じゃないだろ」

 

「まぁ……」

 

「そんな奴が論文とか、本を書いて出してみろよ。碌なモンが出来上がらないぞ」

 

「ぐっ、それは、はぁ……」

 

思い当たる事があるらしい、何か言い返そうとしたが諦めて項垂れた。

まぁ、士官学校で色々と文章を書く課題を出された時、余りにも酷くて泣き付いてきたくらいだし。

 

「ヤン、お前に文才は無いよ。それは俺も思う」

 

「ラップ、お前なぁ」

 

ボリボリと頭を掻いている。

別にヤンが歴史学者になるのは構わんが、こいつの場合それで生きていけない可能性の方が高いって事なんだよな。歴史学者を名乗りながらアルバイトで生計を立てていくなんてことも十分にあり得る。

正直今の同盟の状況はアルバイトで食い繋いで行けるほどのものではない。

 

「この話、シトレ校長達に話すのかい?」

 

「まぁ、話しても良いと思うけど、実際に何か対策をしようとしても今すぐにとは行かない。多分、シトレ校長が軍のトップに座ってからになるだろうな」

 

「ま、計画書ぐらいは纏めて置いて良いと思うけどね」

 

 

「それで、イゼルローンを落とす為の策の二つ目は?」

 

「ハイネセンが帝国から脱出した時に使った策を真似る」

 

「……あぁ、そう言う事か」

 

「どういうことですか?」

 

「質量が大きい岩塊や氷塊にエンジンを付けて要塞に向けて突っ込ませる。ついでに無人艇を一万艇ほど用意して突っ込ませる」

 

「それなら人的損害も少なく済みますね」

 

「ただ、これも正直なところ賭けに近い。成功するかどうか五分五分ってところだな」

 

「ではもう一つは?」

 

「内部から切り崩す」

 

「古来からのやり方だな」

 

「ま、俺が考え付くのはこれぐらいだよ」

 

 

 

 

「それで、今回はどうするんですか?」

 

「だな。今の三つの策はどれも長期間の準備期間を必要とするし、どうやったって間に合わない」

 

「で、実際問題どうするんだ?イゼルローン要塞攻略はお前の言葉の通りなら今回も失敗と言う事になるだろう」

 

ラップは腕を組んで聞いてくる。

 

「正直な話、今回も攻略失敗だな。となれば考えるべきはどれだけ少ない損害で乗り切るかってところに焦点を当てるべきだな」

 

「うん、それには同意だ。となるとトゥールハンマーで大損害を食らわず、かつ各個撃破されない程度に分散させると言ったところかな」

 

ヤンの言葉に俺達三人は頷いて同意を返した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

結果として第六次イゼルローン要塞攻略戦は同盟軍の敗北に終わった。

一応損害は可能な限り少なくするように努力はしたし、要塞駐留艦隊にも大損害を食らわせた。要塞駐留艦隊の損害の一部がトゥールハンマーによる味方撃ちであるという事実がある事も忘れてはならないだろう。

それでもこちらの損害は丸々一万隻もの損害を出すことになった。参加艦艇五万数千隻のうちのざっと4分の1ほどの戦力を失ったわけである。

 

「で、昇進ですか」

 

「不本意か?」

 

「えぇ、負け戦に参加したというのに昇進すると言うのは甚だ不本意です」

 

帰還後、シトレ校長に呼び出された俺は昇進が伝えられた。

これにより准将となり、何処かの艦隊の分艦隊司令か、参謀長辺りを拝命することになる。一応後方勤務を希望したがにべも無く却下されてしまった。

 

「なんにしても、君は一旦准将になる。その上で四〇〇〇隻ほどの分艦隊司令をやってもらう。どこの艦隊かはまだ分からないが、取り合えず分艦隊司令部の人事をざっくり決めておいてくれ」

 

「……承知しました。謹んで拝命致します」

 

「うむ」

 

全く、何だってシトレ校長の顔はこんなにムカつくんだろうか。

多分同じく呼び出されているヤンもおんなじことを思っているかもしれない。

 

結果として准将となった俺はパストーレ中将が指揮する第四艦隊の分艦隊司令となり指揮下に三五〇〇隻を持つこととなった。

同じく准将に昇進したヤンは第二艦隊パエッタ中将の幕僚となった。

 

俺の分艦隊にはマルコム・ワイドボーンを主席幕僚として招き、チャン・ウー・チェン中佐を分艦隊幕僚として配置。副官には気心しれたラップを招いた。

空戦隊長にはサレ・アジズ・シェイクリを、副隊長にウォーレン・ヒューズを据えている。

 

この辺の人事を決めるのは兎に角大変だった。

なんせどこも人手不足で有能な人間は喉から手が出るほど欲しいわけで、この人事が叶ったのも多分シトレ校長が色々と手を回してくれたからだろう。

 

「我らが出世頭たるノルトハイム准将閣下に置かれましてはーーー」

 

「おいおい、ワイドボーンまでラップと同じようなことを言い出すのか」

 

「なんだ、ラップの奴も同じことを言ったのか」

 

「あぁ、茶化すようにな。まぁ、これからよろしく頼むよ」

 

「はっ。小官の持てる能力の全てを発揮させて頂きます」

 

久々に会ったワイドボーンにもラップと同じような茶化し方をされて肩を揺らして笑った。

 

こうして編成された分艦隊を指揮下に、パストーレ中将の下に轡を並べることになる。

 

 

 

 

そうして俺達はアスターテ会戦に挑むことになる。

 

 

 

 

 

 





シドニー・シトレ大将
アレクサンドル・ビュコック中将
ドワイト・グリーンヒル中将
パストーレ中将
パエッタ中将
チャン・ウー・チェン中佐
ジャン・ロベール・ラップ少佐
ダスティ・アッテンボロー大尉
マルコム・ワイドボーン大佐
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