逃げるは敵へ   作:ジャーマンポテトin納豆

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アスターテ会戦

 

 

 

「出征ですか……」

 

「あぁ。どうやら帝国軍が皇帝の即位何十年だかなんだかに華を添えるとかなんとかで侵攻を企てていると言う事でね。それを迎え撃つために出る」

 

「分かりました。私から言える事はただ一つ。くれぐれも、ご無事で」

 

「勿論」

 

アンネローゼは相変わらず心配そうな顔でこちらを見る。

なんにしても皆を泣かせるわけには行かないからな、意地汚くても生きて帰って来ることにしよう。

 

ラインハルトはと言うと、あいつは去年士官学校に入学し、今は二年生だ。

士官学校は二年制だから来年には卒業し、少尉任官となる。

やはりその才能は凄まじいらしく、シトレ校長やキャゼルヌ先輩達から度々その噂とやらを聞いている。それによるとどうやら教官達すら舌を巻き、手に負えないぐらいの才覚らしく頭を抱えているとか。

艦隊戦シュミュレーションでは常勝無敗、後方担当としての適性も高く、既に軍内部でどこに引っ張るかで揉めているらしい。

 

「出征から帰ってきたら、一番に顔を出すよ」

 

「えぇ、是非そうして。戦地にアルフが赴いている時と、そうでない時だと料理の腕が違うらしいですから」

 

「どういうことだ?」

 

「貴方の事が心配でお客様やお爺様達にお出しする料理に集中出来ない、と言う事よ」

 

何ともまぁ、嬉しい事だ。

 

 

 

 

「兄上」

 

「ラインハルト、久しぶりだな」

 

久々に会うラインハルトは、これまた身長が大きく伸びていた。

出征前の挨拶をする為に士官学校に顔を出して寮生活を送るラインハルトを訪ねに来たのだ。

 

「お前、身長幾つになったんだ?」

 

「184cmぐらいですね」

 

「そりゃ俺が見上げなきゃならない訳だな」

 

「兄上だって別に特別小さいわけでは無いでしょう?」

 

「176cmの男が見上げるって、相当だぞ」

 

「そうですか?」

 

「そうなんだよ。それに加えてイケメンで超が付くほど有能と来たもんだからなぁ」

 

本当に女が放っておかない男だ、ラインハルトは。

 

「それはそうと兄上」

 

「うん?」

 

「出征なさるらしいですね」

 

「なんだ、もう話を聞いていたのか」

 

「えぇ。その挨拶に来られたのでしょう」

 

「まぁな。そんなつもりは欠片も無いが、最後になるかもしれないしな」

 

「それだけは言わないでください。姉上が悲しみます」

 

「アンネローゼには言ってないよ。口が裂けても言えるか。それにーーー」

 

「それに?」

 

「帰ってきたら、アンネローゼに伝えたいこともあるし。死ぬわけには行かないよ」

 

そう言うとラインハルトは少しぽかん、とした後に笑みを浮かべて言った。

 

「漸く腹を括られたのですね」

 

「なんだ、俺が臆病者だとでも言いたいのか?」

 

「えぇ、勿論。十年以上も姉上を待たせておいて臆病者では無いと仰られるのですか?」

 

そう言われると何にも言い返せない。

アンネローゼは俺の三歳年下の二十五歳。まぁ普通に恋人がいたりいなかったり、場合によっては結婚していてもおかしくない年齢だろう。それを今の今まで引き延ばして、言うべきことを言わなかったのだから臆病者とラインハルトに言われても仕方が無いか。

 

「悪かった、悪かった。俺の負けだ」

 

「結構。もしその時は私にも教えてください。休みを取ってでもお祝いに行きます」

 

「お前、士官候補生だろ」

 

「姉上と兄上の仲が進展するんです。そんな一大事に比べればそれ以外のことなんて些末ですよ」

 

全く、相変わらずシスコンを拗らせている。

そんなんで彼女とか作れるのか?心配だぞ、俺は。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

因みにアンネローゼに対する周囲の評価は、「なんでも卒なく熟す優等生」である。

まぁアンネローゼは普通に勉強も出来るし性格は良いし、同性でも見惚れるぐらいの美人だし、おまけに社交性もあると来た。そのように評価されて当然だろう。

 

対するラインハルトの評価と言うと、「常識外れの好結果をあらゆる分野で持って来る規格外の天才兼問題児」という何とも、な評価に落ち着いている。

文武双方に於いて全国模試や大会で常に一位をキープし続け、有名な中学校などから各分野で特待生として招待出来ないかと机の下で乱闘が繰り広げられるほどである。多少素行に問題があるのはこの際、悪意あっての事では無いとのことから目を瞑るらしい。

 

ただし、ラインハルトに関しては人間関係の交流が苦手なのか、意図的に避けているのかはさておき積極性に欠けるとされている。特に姉や兄の事を悪く言う奴や、虐められている者などの弱者を守るとなると頭に血が昇りやすく、殴り合いの喧嘩になることもしばしば。

アルフレートや帝国に居た頃に世話になったオフレッサー仕込みの護身術と戦い方で、複数人相手、それも年上相手でも怪我はすれど勝ちを収めると言うのだから余計に周囲の頭を悩ませた。

これが悪さをする為だけに喧嘩をしているのならば幾らでも叱りようや改善更生の仕方があったが、タチの悪いことに殴り合いになる場合、必ず相手が姉兄を馬鹿にしたり罵ったりした時や、虐められたりしている弱者を助ける時だけというのが始末が悪い。

 

心意気は大変良いが、殴り合いの喧嘩は正常な人間関係の交流では無いと評されている。

 

お陰で後見人となったアルフレートの両親が度々謝罪に赴くこともある。

しかしながらそれも本人の良さだろう、と言う事で殴り合いは兎も角として、兄姉を慕い、弱きを助けるその心意気は大事にしなさい、と言われている。

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「旗艦レオニダスより通信!哨戒艦より、敵艦隊想定宙域に発見出来ず!」

 

通信手からの報告を聞いてだろうな、と思った。

わざわざ三個艦隊を分散進撃させているのだから多少頭の使える指揮官なら各個撃破を狙えると判断して合流されるよりも前に一気に叩いてやろうとなるはずだ。

 

寧ろ何故我々は三個艦隊四万隻もの大軍でありながら、分散進撃するなんてことをしているのか疑問で仕方が無い。

相手は一個艦隊でしかないのだから二万隻しか有さない帝国軍を三個艦隊が一気に数的有利を活かして打撃を与えればいいものを、この作戦を指揮するロボス大将は何を考えているのやら。

大方、ロボス大将はシトレ校長との出世争いに負けているからそれを覆す為にダゴン殲滅戦と同じやり方で敵を叩こうとか考えているんだろうな。

 

「嫌な予感がするな」

 

「同感です」

 

「敵はどう出て来ると思う?」

 

「各個撃破を狙ってくるでしょう。相手は数的不利です。こちらを一個艦隊でも撃破すれば戦果としてはそれで十分ですし、状況によっては更に戦果を狙うことだって可能ですから」

 

(まぁ、取り合えず自分達だけでもなんとか生き延びられる算段は立てておくとするか)

 

敵がどの方向から来ても、対応出来るようにマニュアルを作成して指揮下の分艦隊に配布しておく。

 

「敵は多分、第六艦隊か、第二艦隊を最初に攻撃してくる筈だ」

 

「数を考えれば恐らくムーア中将の第六艦隊でしょう。第六艦隊の総数は一万三千隻ですからより倒しやすい相手を選ぶ筈です。敵は二万隻余りですから数的有利は向こうのものです」

 

「チェン中佐の意見に同感です。第二艦隊は数が多く撃破するのに時間が掛かる。我々第四艦隊は中央に位置している為多少時間稼ぎをされたら左右から挟撃を喰らいます」

 

「全く、この戦いは厳しいものになるな」

 

「艦隊指揮官としての初陣がこのような厳しいものだとは、准将もツイておりませんな」

 

「全くだ。ともかく、今のことを艦隊司令部に意見具申しよう。運が良ければ艦隊を合流してくれる」

 

「承知しました」

 

さて、どうなるかな。

 

 

 

 

「司令、どうやら敵の電波妨害により各艦隊との通信が途絶しているようです」

 

「だから言ったんだ、各艦隊司令官と協議するなんて言っている暇があるならすぐにでも合流すべきだって」

 

あの後、すぐに司令部に各艦隊との合流を急ぐべきだと進言したが司令部は受け入れたは良いが、協議するとか言って即座の行動が出来なかった。

お陰で敵に時間を与えてしまった。

ここまで来てしまっては、少なくとも第六艦隊はもう間に合わないだろう。

 

「ノルトハイム准将の言われた通りになりましたな。通信が出来ない中での分散進撃は碌な連携も取れないでしょう……」

 

「艦隊司令部から何か別命は?」

 

「まだ何もありません」

 

「後手に回らざるを得ないか……」

 

せめてヤンと連絡が取れれば話が変わるかもしれないが、厳しいだろうな。

すぐに第六艦隊との通信が途絶したから、よっぽど強力な通信妨害を喰らったか、或いは敵の射程圏内に納められて攻撃されていると見るべきか。

 

「何とかなりませんか」

 

「第二艦隊と我々第四艦隊が今からでも合流すれば話は変わるが、多分間に合わないだろう。少なくとも第六艦隊との通信は完全に途絶したと言う事は第六艦隊はもう手遅れ。今頃、全滅の憂き目に遭っていても驚かないな」

 

ムーア中将は、まぁ分艦隊司令ぐらいなら有能と評価しても良いだろうが、それ以上となると本人の才覚に加え性格なども相まって一個艦隊司令官を務めさせて良いものか、というところがある。

正直、作戦会議で話したり接したりしたが、ロボスの参謀であるアンドリュー・フォーク共々、あまり関わり合いたくない。

というか、よくもまぁあの程度の人間が参謀まで登り詰めたものだ。よっぽど悪運が強いということだろうか。

今回の作戦もアンドリュー・フォークが考えたというし、オガクス入りの脳みそと言われても多分、驚かないだろうな。

 

 

「司令部はかなり混乱しているようです」

 

「だろうな。そもそもこうであると希望的観測を決めつけてここまで来たんだ、そうでなかったとなればよっぽどの指揮官でも無い限りどうにも出来んだろう」

 

「どうされますか?」

 

「取り合えず勝手に動く訳にも行かないから、追々命令が出るまで待機だな。少なくとも第六艦隊を撃破して、我々第四艦隊と接敵するまでどれだけ短くても三時間ぐらいはあると思う」

 

「ムーア中将がそこまで愚かだと?」

 

「俺はムーア中将が手柄を独り占めにしようと目論んで下手すれば敵の眼前で反転攻勢を命じると思っているよ」

 

あの馬鹿は正真正銘、脳みそまで筋肉に侵された奴だ。

目の前の敵に突っ込むことしか脳の無い奴だとはっきり言い切る方が良いが、まぁこれ以上言い過ぎると問題になりかねんしあんな馬鹿の為に自分を危険に晒すことをしなくても良いだろう。

 

「どうだ、第六、第二艦隊との通信は回復したか?」

 

「駄目なようです」

 

これはいよいよ、というわけだな。

 

 

 

 

「敵艦隊探知!」

 

「思ったより早かったな……」

 

移動距離も考えると、多分一時間と持たずに第六艦隊は壊滅させられたらしい。

敵艦隊もこちらに向かって移動してきている上に、こっちも敵に向かっている。接敵は当然早くなる。

 

「司令部は?」

 

「まだ何も命令が来ておりません!」

 

「全艦第一種戦闘配置!」

 

駄目だな。対応が出来ていない。

司令部からの命令は来ていないが、独断で戦闘配置を命じる他あるまい。

このままでは一方的にやられる。

 

「司令、宜しいのですか?」

 

「良い。それともこのまま何もせず一方的に撃たれる方が良いと?」

 

「いえ、小官にそのような趣味嗜好はありません」

 

「だろう?」

 

五分もすると各艦からすぐに戦闘配置完了の報告が入る。

 

「陣形再編。前面に戦艦を出して盾にする」

「艦載機隊に出撃準備。敵艦への攻撃は考えなくていい。防空さえしてくれれば構わん」

 

私の分艦隊は左翼に展開しているから、一気に中央突破を図られて火力を集中させられて大打撃を被ることは無いだろう。

問題は敵の攻撃をそのまま受けるだけでは味方艦隊の混乱に巻き込まれてしまうことだ。

 

「分艦隊に通信。これからは生き延びる事だけを考えて行動する。分艦隊司令から命令があるまで一旦耐えてくれ」

 

「了解。通信を送ります」

 

「艦隊全艦にもデータを送信。救える味方は可能な限り多い方が良い」

 

「はっ。ですが後々独断専行と取られかねませんが宜しいのですか?」

 

「構わない。俺の地位なんぞ将兵の命に比べれば軽い。独断専行で首になっても実家の会社か、知り合いの店で雑用でもしながら働くことにするさ」

 

生きて帰れると言う事が重要なんだから。

わざわざ無能に付き合ってやる必要もあるまいよ。

 

 

 

「敵艦隊、光学探知距離!」

 

「砲戦用意!戦艦、巡航艦はシールドにエネルギーを回せ。火力にエネルギーを回さなくていい!」

 

流石に分艦隊司令官が乗る戦艦まで前に出ると撃破された時に不味いから後ろに下がっているが、それ以外の戦艦と巡航艦は全て前面でシールドを最大出力で盾にする。

 

「敵艦隊、射撃開始!」

 

「応戦!撃ェ!」

 

前衛の戦艦と巡航艦のお陰で我が分艦隊の損害は少ない。

だが他はシールドも碌に張れていないし、反撃もまばらだ。対応出来ていないと言う事だろう。

 

「応戦しつつゆっくり後退。敵が艦載機を出して来たらこっちも出すぞ」

 

「はっ」

 

「敵艦隊突っ込んできます!」

 

オペレーターの一人が叫ぶ。

 

「やはり中央突破を狙ってくるか」

 

「どうされますか?」

 

「このままゆっくり後退。敵がもっと深く突っ込んで来たら一気に前進。上方向に全力で離脱を図る。別命まで各個撃破に専念せよ」

 

なんとか粘って戦い、可能なら第二艦隊の来援を期待したいところだが多分間に合わないだろう。

 

「旗艦レオニダス、被弾!轟沈しました!パストーレ中将も戦死!」

 

「閣下、次席指揮官は閣下となります。艦隊の指揮をお願いします」

 

「全艦に圧縮データ通信。ノルトハイム准将、艦隊の指揮を継承する。残存各艦は我々の動きに付いてこい、ただそれだけでいい」

 

「はっ」

 

「こちらの指示のタイミングで一気に動くぞ。突破した後一気に逃げに転じる。残存艦艇は腹を括れ」

 

敵艦隊はこちらの旗艦を沈めて一瞬指揮が混乱し、停滞した瞬間を見逃さず火力を集中させて瓦解しつつあった艦隊中央に突っ込んでくる。

艦隊運用、戦術、どちらを取っても敵の指揮官は優秀だな。これだけ優秀なら多分、今の同盟に敵の艦隊司令官とまともに正面から戦えるのはビュコック提督やボロディン、ウランフ提督ぐらいなものだろう。あとはヤンかな。

 

「右翼と左翼に分かれ、ゆっくり後退して合図で一気に前進。そのまま推力全開で一気に離脱を図る」

 

敵艦隊が我々を分断しきったところを狙って合図を出す。

 

「合図を出せ。艦隊全艦推力全開、一気に前進!そのまま全艦離脱!」

 

凄まじい相対速度で帝国軍が横を通り過ぎていく。

その最中で敵に撃沈される艦もあれば、敵艦や味方と衝突して宇宙の塵となる艦もいる。

 

「閣下、上手く敵艦隊を抜けられました!」

 

「良し。敵艦隊はどうか?」

 

「追撃の様子は見られません。恐らく再編を行って第二艦隊へ向かうのでしょう」

 

「タイミングを見て残存艦艇に集合を掛ける。彼我の損害集計を急いでくれ」

 

「はっ」

 

どれだけ手元に戦力が残ったかでこれからどう行動するかが変わる。

敵艦隊を警戒して確実に追撃をして来ないと判断出来てから残存艦艇に集結するように命令を出す。

 

「閣下、損害集計が終わりましたのでご報告させて頂きます」

 

「頼む」

 

「我が分艦隊の損害は撃沈艦五九五隻。損傷を負って戦闘に参加不可能と判断された艦は四三三隻とな、戦闘可能艦艇は二五一一隻となります」

 

「生き残った残存艦艇は?」

 

「ざっと二三〇〇隻が生き残っており、その内一八〇〇隻が戦闘可能です」

 

「敵に与えた損害は八〇〇隻程度と言ったところでしょう。惨敗です」

 

損害集計を終えたチュン中佐が報告を行い、ラップは敵の損害を概算で報告してくる。

 

「とすると第四艦隊の生き残りは戦闘可能艦艇だけで四三〇〇隻。生き残りは半分以下か。手酷くやられたな」

 

「何をおっしゃいますか。閣下が居られたからこそこれぐらいで済んだのです。閣下が居られなかったら本当の意味での全滅すら有り得たのですから」

 

「チュン中佐、そう持ち上げないで欲しいな。調子に乗ってしまうだろう」

 

「閣下は少なくともこの戦いに於いてそれだけの事を成されたのです。一度ぐらい調子に乗られても良いでしょう。乗り過ぎた場合は我々が多少力業であったとしても諫めさせていただきます故ご心配されなくと構いません」

 

「そうか?それならちょっとだけ調子に乗っておこう。第六艦隊の方は?」

 

「幾らかの救難信号が発されております。如何致しますか?」

 

「ワイドボーン、そうするべきだと思う?」

 

「第六艦の生き残りの救助に向かう、と言いたいところですが……、まずは第二艦隊の救援に向かいましょう。第二艦隊がどれだけ持ち堪えられるか分かりませんが、仮に八〇〇〇隻程度でも生き残っていてくれれば我々と合わせて一万二〇〇〇~三〇〇〇隻程度になります。数的不利は否めませんが、取り合えず撃ち合うぐらいの数にはなります」

 

ワイドボーンの意見に同意するように頷いて返し、ならばと指示を出す。

 

「ワイドボーン大佐とチュン中佐は艦隊再編を急げ。戦闘不能艦艇の健在な乗組員は最低限の人員を残して戦闘可能艦艇に移乗。戦闘不能艦艇は纏めて指定宙域に後退し、それに二〇〇隻の護衛を付ける。一〇〇隻を第六艦隊展開宙域に派遣し救助を行わせてくれ」

「ラップ、第二艦隊までの距離と到達に掛かる時間を計算して出してくれ。可能な限り早く到達出来るようにな」

 

「「「はっ」」」

 

艦隊再編を二〇分で終え、ラップも同様に計算を終えて第二艦隊まで、補給部隊からの補給をするとして、エネルギーを気にせずに進軍すればざっくり一時間半。

後方に控えている補給部隊に戦闘不能艦艇の収容と戦闘後の補給を要請しておいて、指揮下の五〇〇〇隻を率いて第二艦隊へ歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

「やっているな」

 

「第二艦隊の状況は?」

 

「パトロクロスが被弾したようで、パエッタ中将が重症。ヤン准将が指揮を執っているようです。六〇〇〇隻まで撃ち減らされているようです」

 

「なるほどな。ま、ヤンの指揮なら負けることは無いだろうが……」

 

「どうされますか?」

 

少し考える。

現状の俺達は敵に発見されないように距離を取っているが、こちらが採れる戦術は殆ど無い。

このまま見ているというのも手段としてはアリだ。あのヤンが何にも考えていない訳が無いし、少なくとももう何かしらの手を打っていると考えるべきだろう。

攻撃を仕掛けるとしても、第二艦隊と合流して正面戦闘と言うのは意味が無い。

 

「艦隊第一種戦闘配備!敵艦隊に一撃加えるぞ」

 

「一撃離脱ですか」

 

「まぁ、あの戦いに横から第二艦隊に合流しても損害が大きくなるだけ。それなら一気に敵に突っ込んで一撃を加えて第二艦隊が少なからず立て直せる時間を稼ぐ方がよっぽど良い」

 

「承知しました。陣形を紡錘陣に変更します」

 

数分で陣形の再編が済むと、号令を下した。

 

 

「艦隊全速前進。一撃を加えて一気に離脱するぞ。深追いも何もしなくていい」

 

艦隊は高さを一度確保してから、第二艦隊から見て左横斜め上方から凄まじい速度で突っ込む。

主砲を撃ち、距離が詰まればミサイルを撃ち、側面に敵艦がいれば舷側砲を撃つ。艦尾からも射撃を行い、敵艦隊を一気に通過して全艦が離脱していく。

 

突然の五〇〇〇隻から成る艦隊に奇襲を受けた帝国軍は少なからず混乱し、離脱していく俺達を追い掛けようとする一群すらいる。

とは言え敵の司令官も余程有能なのか、その追撃を思い止まらせ、目の前の第二艦隊に集中する。

 

ヤンはその隙を突いて艦隊を出来るところまで再編し、持ち直した。

それでも数的不利は否めず、俺達を合わせても倍の差がある敵は十五分ほどで混乱を収拾させると第二艦隊に再度攻撃を仕掛け始めた。

 

「准将、これからどうなさるのですか?」

 

「もう一度、とは行かないだろうな。と言っても何もやらないと言う訳にもいかないからヤンに集中しきれないようにちょっかいを掛ける程度にしよう。さっきの攻撃でこっちの損害は?」

 

「二〇八隻です」

 

「まぁ少ない方か」

 

一定の距離を保ってちょっかいを掛けていると、一旦目の前の第二艦隊を片付けてしまおうと判断したのだろう、帝国軍は一気に勝負をかけ始めた。

するとヤンは敵の紡錘陣形をそのまま利用して背後に回った。

 

「何という陣形でしょうか……」

 

「さぁな。何処かで同じものがあったかもしれないが、多分誰も知らないだろうよ」

 

第二艦隊は帝国軍の後背に食い付き、帝国軍は同じように前進して第二艦隊の背後に食らいつく。

 

「こうなれば消耗戦だな。相手の尻を互いに噛みついて、どっちが先に根を上げるか」

 

「我々はどうしますか?」

 

「おいおい、アレに突っ込む気か?」

 

ワイドボーンがどうするか聞いてくるのでおどけて聞き返す。

 

「そんなつもりは欠片もありませんよ。タイミングを間違えば同士討ちになります。このまま一定の距離を保って何かあった時すぐに動けるようにしておくのが関の山かと」

 

「だな。じゃ、警戒をしつつ待機」

 

暫く見ているとお互いに兵を引いた。

帝国軍も既に二個艦隊を大した損害も無く撃破し、第二艦隊にも大打撃を与えているのにこれ以上戦果を求めて損害を食らうことを嫌ったのだろう。

 

「旗艦パトロクロスより入電」

 

「繋いでくれ」

 

ヤンが疲れた顔で笑みを浮かべていた。

 

《第四艦隊は全滅って聞いていたんだけどな》

 

「俺達以外は全部沈んだか、戦闘不能で後退させた。第四艦隊で残ったのはここにいる三八〇〇隻だけだ」

 

《第六艦隊は?》

 

「一応救助に一〇〇隻ばかりを出したがどうか分からんな。どうする?第六艦隊と第四艦隊の救助に向かうか?」

 

《そうしてくれ。こっちは損害集計と艦隊の再編が終わったら救助に合流するよ》

 

「了解」

 

通信を切って、第六、第四艦隊が攻撃を受けた地点に向かう。

艦隊を半分に分け、一九〇〇隻づつをそれぞれ救助に向かわせた。

 

 

 

 

 

 

結果としてアスターテ星域の防衛に成功はしたものの、我々同盟軍が被った損害は決して無視出来るものではなかった。

 

特に第六艦隊の損害は甚大だった。

艦隊司令官ムーア中将以下、大部分の将兵が戦死。

しかし幸いなのは第六艦隊分艦隊司令であるラルフ・カールセン准将が生き残っていたことだ。とは言っても第六艦隊の残存艦艇は一三〇〇隻程度で残りは撃沈させられたか、航行不能などの損害を被って自沈処分となった。

一万三〇〇〇隻のうち、一万一七〇〇隻を失う事となり、第六艦隊は壊滅となった。

 

第四艦隊もまた一万二〇〇〇隻のうち生き残ったのは四五〇〇隻余り。

帰還途中に廃棄されることとなった艦も多く実際に生き残ったのは四二〇〇隻と言ったところ。三分の一が撃沈破となり、第四艦隊もまた壊滅。

 

第二艦隊は残存艦艇六三〇〇隻。

一万五〇〇〇隻のうち六割を損失することとなった第二艦隊もまた、壊滅となった。

 

 

 

 

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