逃げるは敵へ   作:ジャーマンポテトin納豆

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第七次イゼルローン要塞攻略戦 前夜

 

 

アスターテ会戦を生き残り、ハイネセンへ帰って来ると歓呼の声を以て迎えられた。

出動した三個艦隊が事実上全ての艦隊が壊滅の憂き目となったのにも関わらず。

 

「……なんだって国防委員長閣下がわざわざ出迎えに来ているんだ」

 

「知らないよ。敗軍の将だって言うのにこの出迎え方は異常だ」

 

「実情を知らないのか?一〇〇万を超える戦死者を一度に出して置いてよくもまぁ喜べるな」

 

「報道規制が敷かれているのかもね。政治家連中ならやりそうなことだよ」

 

ヤンと共にシャトルに乗ってハイネセンへ降下する最中、窓から見えた民衆の集まり、騒ぎように溜息が出る。

面倒臭いとお互いに思いながらシャトル発着場に降りる。

 

何ともまぁムカつく笑顔を張り付けながらトリューニヒトが握手を求めるような感じでこちらに寄って来るが俺もヤンも敬礼だけしてさっさと用意されている車に乗り込んだ。

 

「おい、見たかヤン」

 

「あぁ、トリューニヒトの奴、良い顔をしていたね」

 

握手をスルーされた時のトリューニヒトの顔を思い出して二人でくつくつ、と笑う。

俺達は統合作戦本部に向かわねばならない。ちょっとは休ませてほしい所なんだが帰還報告とかも諸々をやらないとならない。

 

色々と説明をしたり、報告書を書いたり状況を報告して功罪をハッキリさせたりと言うのは後日正式な場を設け、尚且つ書面を提出すると言う形になる。

ま、帰還したって言っても結局一週間ぐらいは報告書の作成とかで結局忙しくなるだろうから、ゆっくり休めるのは最低でも一週間後ということだ。

 

「全くさぁ、命辛々戦地から帰還して来たってのにこれだもんなぁ。やっぱり軍人なんてもんはやってられないね」

 

「と言っても、多分この後俺ら昇進させられるんじゃないか?」

 

「げぇ、余計な事言って気分下げさせないでくれるかなぁ」

 

「俺だって嫌だよ」

 

あー嫌だ嫌だ、腹黒シトレ校長のせいで俺達いっつも苦労してばっかだと文句を垂れながら統合作戦本部に赴いた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

アスターテ会戦より無事に帰還してから、漸く落ち着いたのは二週間も経ってからだった。

三個艦隊が壊滅したというのはそれだけ同盟軍にとって大事だったわけだ。

 

それまでの間、俺達は統合作戦本部に缶詰状態になっていて家に帰るどころの話じゃなかった。

ヤンなんかはトラバース法で養子を取ったって言うのに全く家に帰れないし、美味い紅茶が飲めないとブツクサ死ぬほど文句を言っていた。

かく言う俺も家に帰ってアンネローゼや家族達に会えない事がかなりのストレスになって居たわけで。まぁラップが家に寄って状況を説明してくれたらしく、

 

「アンネローゼさん、ご立腹だったぞ」

 

「やっぱりか……」

 

「なんだ、なんか約束でもしていたのか?」

 

「帰還したら一番に顔を出して無事を報告するって約束していたんだ。まさか艦隊が壊滅して俺が指揮官になって報告義務を果たさなきゃならなくなるなんて思ってもいなかった」

 

「くっくっく、お前ほどの人間でも意中の女性には敵わないらしい」

 

「うるせ。で、お前は?」

 

「ん?」

 

「ジェシカだよ。お前、帰ったら正式に婚約するって言ってただろ」

 

「あぁ、うん、そのことなんだけどな……」

 

「なんだ、まさか振られたとか言うんじゃないだろうな」

 

「違うって。その、ジェシカに婚約を申し込んでな。昨日、正式に婚約したんだ」

 

ラップはなんだか気恥ずかしそうに笑みを浮かべながら言う。

なんだかんだ悪友だのなんだの言いつつ数少ない親しい友人の吉報だ、喜ばない訳が無かった。

 

「そりゃぁ、おめでとう。いやぁ、あのラップが婚約ねぇ。嬉しいよ」

 

「ありがとう。お前もアンネローゼさんに言うべきことがあるんだろ?」

 

「まぁな」

 

「ならさっさとこの仕事、終わらせちまおう。で、家に帰って後で良い報告を聞かせてくれ」

 

「おう」

 

「もし駄目だったとしても俺とヤンとワイドボーンと、アッテンボローと、あとヤンのところのユリアン君達で盛大に慰めてやるさ」

 

「縁起でも無いこと言うなよなぁ」

 

「あ、そうだ。アンネローゼさんからお前にさし入れだ。甘いケーキと紅茶でも飲んで頑張って、だってさ」

 

「お前のアレコレを聞かせるよりも先にそれを寄越せってば」

 

「ひでぇ奴」

 

ラップが持って来たアンネローゼからの差し入れが詰まった箱を開けると、中にはシンプルだが美味しそうな何種類かのケーキやアップルパイ、それと仕事をしながらつまめるようにと言う気配りからだろう、クッキーも入れられていた。

ポットには紅茶が入っていて小さな手紙には簡潔に、

 

『直接紅茶を淹れて上げられなくてごめんなさい。

   お仕事頑張って。

 

                アンネローゼ』

 

と書かれていた。

いやぁ、これを見るだけでなんだか元気が出て来るような気がする。

 

「おいおいアルフ、顔がだらしないぞ」

 

指摘されても一向に構わなかった。

 

「しょうがない、机に突っ伏してダレているヤンにも、分けてやろう。ラップ、ヤンを呼んできてくれるか」

 

「はいよ」

 

俺一人で楽しんでも良かったが、俺以上に死に掛けているだろうヤンにもちょっとの栄養補給をさせてやろう。

アンネローゼの作ったケーキとクッキー、淹れてくれた紅茶は相変わらずとても美味しかった。

 

 

 

 

「ぐぁぁぁ……、ようやく終わったぁぁぁ……!」

 

ようやく終わった報告書の作成から解放され、背伸びをする。

ボキボキと身体中が音を立てて、よっぽど凝り固まっていたのだろう。

まぁ何でもいいと言う事でラップに残りの後始末を任せて早々に帰宅の路に付いた。

 

 

「ただいま帰りました」

 

玄関扉を開けて、家の中に向かって挨拶をすると奥からアンネローゼが出て来る。

 

「お帰りなさい、アルフ」

 

「あぁ、ただいま」

 

「それで、何か弁明はあるかしら」

 

「おいおい帰って来て早々か?頼むよ……」

 

「一番に無事を知らせに来ると約束したのは誰だったかしら」

 

「……俺です」

 

「でしょう?約束を守れなかったのだから幾つか言われることがあっても仕方が無いのではないかしら」

 

「その通りです……」

 

あぁ、これは大変怒っていらっしゃる。

あ、奥から顔だけ出した親父が状況を見てさっさと引っ込んでいきやがった!何という薄情者だ。

 

「ですが」

 

「うん?」

 

「無事に帰って来てくれたことに免じて今回だけは許します」

 

「……ありがとう。心配掛けた」

 

「えぇ、本当に」

 

「それに、差し入れも嬉しかった」

 

「ふふっ、そう言ってくれると嬉しいわ」

 

そう言って嬉しそうに笑うアンネローゼを見ていると、自然と手を取っていた。

 

「まぁ、元々伝えるつもりではあったんだけどな」

 

「まぁ……!」

 

ポケットから宝石店で特注で拵えて貰っていた指輪を取り出す。

 

「アンネローゼ、宜しければ俺と結婚してくれますか」

 

あんまり恰好の付かないセリフに、ヨレた軍服姿ではあるけれども。

 

「……えぇ、勿論。至らない身ですが、よろしくお願いします」

 

そう答えたアンネローゼの薬指に指輪を嵌めた。

 

 

 

 

 

《そうですか!ようやく兄上も腹を括られたのですね!》

 

「あぁ、長い事心配掛けたな」

 

《いえ。これで正式に兄上の義弟となれたのです。私としても嬉しい。改めておめでとうございます》

 

「ありがとう、ラインハルト」

 

《はい。ではまだやることもあるので私はこれで失礼します》

 

今まで俺とアンネローゼの仲を気にしていたラインハルトに報告をすると、それはもう驚くぐらい満面の笑みを浮かべて祝ってくれた。

祖父母と両親にも報告をしたら、同じく大層喜んでいた。

 

友人達やキャゼルヌ先輩、一応シトレ校長にも報告をすると、皆は漸くか、と言った感じで祝ってくれた。

ヤン曰く、

 

「あれだけイチャイチャしてて、婚約どころか付き合ってすらいなかったって言うんだから驚きだよ。ラインハルト君の心境や察するに余りあるね」

 

とのことだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

「アルフ」

 

「んん……?」

 

「今日は戦没者慰霊祭に参加するのでしょう?起きて準備をしないと間に合わなくなるわよ」

 

あぁ、そうだった今日はアスターテ会戦での戦没者慰霊祭だったな。

 

「……いや、良い。面倒臭いし嫌いな奴の顔をわざわざ見に行きたくないから休む」

 

「もう……」

 

呆れたように言うアンネローゼは、俺を説得することは最初から諦めていたのだろう、溜息だけ一つ吐いた。

 

「行かないのは良いけれど、朝食は食べて貰わないと困るわ。ほら、起きなさい」

 

そう言って俺から毛布を剥ぎ取った。

のそのそと起きて椅子に座り、アンネローゼが作ってくれた朝食を食べる。

 

「うん、久しぶりのアンネローゼの味だ……」

 

「変かしら?」

 

「いいや、凄く美味しい」

 

久しぶりに食べるアンネローゼが作った朝食は、それはもう美味しかった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

「全く、君って奴はさぁ!」

 

「あんまり怒るなよ」

 

「君が慰霊祭に来なかったお陰で僕がぜーんぶ受けなきゃならなかったんだぞ!」

 

「良いだろ。昨日の今日で婚約者と一緒に過ごしたって」

 

「それを言うなら僕だってユリアンが居るんだぞ」

 

「なら休めば良かっただろ」

 

「そう簡単に言うなよなぁ。ラップやワイドボーン達も溜息ついていたぞ」

 

「悪い事をしたな。あとで飯でも奢るか」

 

「勿論?」

 

「あぁ、お前にも奢ってやるよ」

 

統合作戦本部に出頭せよ、と命令されてアンネローゼとのイチャイチャタイムを渋々切り上げて来ると、ヤンにブツクサ文句を言われた。

どうやらヤンは律儀に戦没者慰霊祭に参加していたらしく、俺とヤンで半々ぐらいになる筈だったスピーチとかメディアからの注目が全部ヤンに集中した事に大変ご立腹らしい。

ラップ達にも迷惑を掛けたようだ。

 

「一応シトレ校長には休むって伝えたんだけどな」

 

「頷いたのかい?」

 

「いいや?返答なんて見ていないから知らんよ」

 

「因みになんて言って休んだんだい?」

 

「腰が痛くて立てなくなったので休みますってね」

 

「うわぁ……」

 

「なんだよ」

 

なんだその顔は。

 

 

 

 

 

「にしても、呼び出された理由ってなんだ?」

 

「さぁ?キャゼルヌ先輩に来いって言われただけだし」

 

昨日、俺とヤンのところにキャゼルヌ先輩から明日、統合作戦本部に一四:〇〇に出頭せよという命令があった。

今、俺達は休暇中であるが、それを差し置いての呼び出しっていうのはあんまり良い予感はしない。

 

「絶対禄でもないぞ」

 

「同感だね。何を言われるんだか」

 

シトレ校長の執務室に入室すると相変わらずの様子で笑みを浮かべて迎えられた。

 

「今回は、ちゃんと来たようだな」

 

「別にちゃんとした命令なら幾ら私でも来ますよ」

 

「君らを見ていると士官学校長時代を思い出すよ。まぁ、いい。ヤン少将、アルフレート少将、座りたまえ」

 

「「……少将?」」

 

俺達の階級は准将のはずだが?

 

「君達は本日付けで昇進、少将となる」

 

「私達は敗軍の将のはずですが」

 

「ニュースぐらい嫌でも見るだろう。アスターテの英雄『ヤン・ウェンリー』。艦隊が壊滅しても残存した味方を指揮して帝国軍に大打撃を与えた勇猛果敢な英雄『アルフレート・フォン・ノルトハイム』。そう言われているらしい」

 

多分、俺もヤンも相当苦々しい顔をしていると思う。

 

「なんにせよ、あれだけの功績を出した君達を昇進させない訳にも行かん」

 

「エル・ファシルの時と同じように、作られた英雄に成れと仰いますか」

 

「そう言う事だ。諦めたまえ」

 

面白そうにシトレ校長が言うのを見て、何時か一発殴ってやろうと思った。

 

 

 

 

「それと、もう一つ」

 

「まだあるんですか?」

 

「そう嫌そうな顔をするな。内容は軍の編制に一部変更が加えられることになった」

 

「変更?」

 

「うむ。第二、第四艦隊の残存部隊を主軸に、第六艦隊の生き残りと新規兵力を加えて新たに二個艦隊が創設される。第十三艦隊と第十四艦隊だ」

 

「まさかと思いますが、我々にその指揮を執れと仰るのですか?」

 

ヤンが聞くとシトレ校長は深く頷いた。

 

「艦隊司令官は中将を以てその任に充てる、と記憶しておりますが」

 

「なに、両艦隊の規模は通常艦隊の半分。第十三艦隊が六四〇〇隻、第十四艦隊は艦艇六七〇〇。兵員はざっと七〇~八〇万名というところだな」

 

「それで、新艦隊の指揮を執る我々に何をしろと仰るので?」

 

「気付いていたか」

 

「校長が仰った程度の事で我々を呼び出す訳がありませんからね。他に何か明確に要求があると想定するのが自然でしょう」

 

そう俺が言うと笑って答えた。

 

「第十三、十四艦隊の最初の任務はイゼルローン要塞の攻略だ」

 

「「はぁ?」」

 

思わずヤンと一緒に間抜けな声が出てしまった。

 

 

 

「総数一個艦隊でイゼルローン要塞を攻略せよと仰られるので?」

 

「そうだ」

 

「冗談でしょう?」

 

「冗談ではない。至極本気だよ」

 

「まさか、本気で可能だとお考えになられているのですか?」

 

「二人に出来ないならこれから先、誰にも不可能なことだと考えているよ」

 

嫌な言葉だ。

少し黙って考える。今まで三個艦隊、四個艦隊という数の兵力を動員しても尚、陥落せしめなかったイゼルローンを、幾らヤンと一緒にとは言え総数一個艦隊で落とせと?

 

「もし君らがイゼルローン要塞を攻略せしめれば、それは間違いなく偉業と言えるだろう。そうなれば二人に対するどんな感情があろうとも、君達が嫌ってやまないトリューニヒト国防委員長も認めざるを得んだろう」

 

そう言われて、いよいよやるしかないと言う事らしい。

 

「「微力を尽くします」」

 

「そうか」

 

満面の笑みで頷くシトレ校長に、内心溜息が漏れ出ていた。

 

「新艦隊の編制と訓練を急ぎ行いたまえ。要塞攻略やそれまでに必要なものがあるのならばキャゼルヌ少将に言うように。私からも権限を与えて最大限用意させるようにしよう」

 

こうして第七次イゼルローン要塞攻略戦実施が決定された。

シトレ校長にはイゼルローン要塞攻略の為、最低でも四か月の準備、訓練期間が欲しいと要求したところ、これを認めてもらうことが出来た。

最低限の練度を持って攻略に取り掛かることが出来ると言うのは有難い。

 

この出兵の意図としては、恐らくシトレ校長の軍内部での政治的立ち位置の強化、というものがあると思う。

シトレ派閥とされる軍人は軒並みロボス元帥やトリューニヒト国防委員長派閥と仲が悪い。それに対抗してのことと言うわけだ。

 

 

 

 

「それで?あのイゼルローンを落とすのにどんな仕掛けを用意するって言うんだ?」

 

キャゼルヌ先輩とヤンの三人で士官用ラウンジで、取り合えずのところ必要となる物資や人員を調達する為に話し合いをしていた。

 

「それは秘密です」

 

「おいおい、物を用意するのは俺だぞ?」

 

「あとで知った方が驚くし、楽しいでしょう?」

 

「それもそうだな」

 

ヤンと話し込むキャゼルヌ先輩。

実際に攻略を担当するのはヤンに任せる、と決めた。

 

だからその辺の話は全部ヤンとキャゼルヌ先輩で話し合ってもらう必要がある。

 

話し合いの途中、どこかの士官が俺達の陰口を叩いているところにビュコック提督が通り掛かり、俺達を庇ってくれた。

 

「どうする?礼を言いに行くかい?」

 

「ビュコック提督だからなぁ、鼻で笑われるのが関の山だろうよ。結果で示そう」

 

「だね」

 

ラウンジでの会話が終わってすぐ、俺とヤンは艦隊編成や訓練計画の策定に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、どうするかな」

 

基本的な人事は分艦隊司令部のものを引き継いで形にしたが、問題は俺の指揮下で分艦隊を指揮する提督を誰にするかと言う事だった。

第十四艦隊の規模だと、分艦隊司令は艦隊副司令官も兼任することになる。だからそれだけ慎重な人選をせねばならない。

正直、有能な艦隊副司令官を勤められる准将は軒並み何処かの艦隊に所属しているし、候補だったフィッシャー准将はヤンが艦隊運用を任せたいと言って持って行ってしまった。

 

まぁヤンは作戦を考えたりする頭は超が付くぐらい有能なんだが、それ以外がからっきし。艦隊運用の〔か〕の字も無いような奴だからそこを補えるフィッシャー准将がいないと第十三艦隊は目も当てられない状態になるだろうから譲るほかあるまい。

 

となると別候補を探さないとならない。

あと一人だけ、今のところ配属先が決まっておらず宙ぶらりん状態の人がいる。

第十四艦隊の副司令官はその人に任せることにした。

 

「ラルフ・カールセン准将、入ります」

 

「どうぞ」

 

「ノルトハイム少将。この度は非才な我が身にお声掛け頂き、ありがとうございます」

 

「いやいや、寧ろ頭を下げてお願いするぐらいです。ウチの艦隊は残兵に新兵ばかり。熟練のカールセン准将が居てくれるだけで楽になります」

 

「はっ。全身全霊で全うさせて頂きます」

 

こうして第十四艦隊の陣容は整った。

訓練に関しては早急に計画を策定し、カールセン准将とラップ、そしてワイドボーンに頼んだ。

編成や訓練準備などに一ヶ月ほど掛かり、出征まで三か月しかないから時間を無駄には出来ない。

三か月でどこまで形に出来るか分からないが、まぁカールセン准将、ラップやワイドボーンもいるから最低限の形にはなるだろう。

 

ヤンとの話し合いで、第十四艦隊は敵艦隊の陽動を担当することになった。

攻略方法は内部から切り崩すと言う事で意見は一致し、そのためにヤンは薔薇の騎士連隊を艦隊指揮下に加えた。

 

と、そんなこんなで事を進めていたところ。

 

 

《アルフ、今平気か?》

 

「キャゼルヌ先輩?どうされたんです?」

 

《いやな、忙しい時に悪いんだがお前さんにどうしても会わせろと言う御仁が居てな》

 

「俺に会いたい?」

 

《取り合えず来てくれるか。俺達じゃ手に負えん》

 

そう言われて呼び出された俺は、誰なんだ?と疑問符を浮かべながらチュン副参謀長と顔を見合わせて共に向かった。

 

 

 

 

 

 

「アルフレート様、お久しゅうございます!オフレッサーにございます!大変ご立派になられてオフレッサーは嬉しく思いますぞォ!」

 

「アルフレート様、申し訳ありません……。私ではオフレッサーを止めることが出来ませんでした……」

 

「オフレッサー!?メルカッツ提督まで!?」

 

通された部屋には、絶対にここにはいない筈の、なんか凄く嬉しそうなオフレッサーと凄く申し訳なさそうなメルカッツ提督がいた。

 

 

 

「どういうことだ……?」

 

なんだか痛い頭を、こめかみを抑えながら聞く。

というかあんまり考えたく無い現状なんだが?誰が帝国軍上級大将達が亡命してくると思うんだ?

 

「どうもこうもありませぬ!アルフレート様が同盟で立身出世なされたと聞き及び、家臣として黙って見ている訳にも行かないと思い立ち、同じくノルトハイム家忠臣であるメルカッツを誘って亡命してきた次第であります!」

 

「いや、それはおかしい」

 

「帝国は現在、ノルトハイム家が同盟へ亡命してからというもの、ブラウンシュバイクとリッテンハイムが好き勝手しております。ノルトハイム家に仕え、親しくしていた私やオフレッサーには度々ちょっかいが掛かってきておりました。オフレッサーは余程腸が煮えくり返っていたのでしょう。そこにアルフレート様の話を聞き、という訳でございます」

 

メルカッツ提督が説明してくれるが、それでも分からない。

どうしてそうなる?いや、普通に考えてそう判断はしないだろう。

と言うかメルカッツ提督は多分、オフレッサーに拉致られたみたいなものだろう。表情がそれをありありと物語っている。

 

「キャゼルヌ先輩、俺を呼んだのはこれが理由ですか……」

 

「あぁ。お前に会わせろと言って聞かないし、ましてや俺達の言葉を聞くような御仁でも無さそうだったからなぁ。暴れられたらそれこそ統合作戦本部が瓦礫の山になりかねんし。俺は嫌だぞ、統合作戦本部が血の海になるのは」

 

「俺に押し付ける為、と言う事ですか……」

 

「よく分かっているじゃないか。あの二人の扱いなんて出来るわけがないからな。ま、軍部は面倒だと判断したらしい、二人の処遇をお前さんに一任するとさ」

 

「要は丸投げってことじゃないですか……」

 

小声でキャゼルヌ先輩と話し、ちら、とオフレッサーを見るとそれはもうキラキラと顔を輝かせている。

あぁ、あれは何を言っても聞かないやつだ。どんなに言っても絶対に俺のところで働く気満々だ。

 

「……分かりました。オフレッサーとメルカッツ提督両名、アルフレート・フォン・ノルトハイムがお引き受けいたします」

 

「頼んだぞ」

 

こうして大変不本意ながらも、オフレッサーとメルカッツというとても頼りになる味方が増えたのだった。

 

 

 

不本意とは言え、今の俺にとってメルカッツ提督とオフレッサーと言う人物は貴重だ。

メルカッツ提督はただでさえ人手が足りない上、さらに少ない艦隊司令官を務められる貴重な人材かつ、安心して戦域を任せられるだけの技量と経験がある。

ヤンやラインハルトみたいな天才ではないが、部下にいれば間違いなく心強い。

同盟軍でメルカッツ提督とまともに渡り合えるのはヤン以外だと、ビュコック、ウランフ、ボロディン提督ぐらいしか思い当たらない。

他提督も優秀だが、メルカッツ提督には一本劣るだろう。

 

オフレッサーも陸戦畑を歩んできたから艦隊を任せることは出来ないが一個人の戦闘力としては間違いなく宇宙最強と言って良い。

下手するとイゼルローン要塞に一人で殴り込ませればそのまま司令部まで一直線、たった一人で陥落させかねない。

薔薇の騎士連隊が総力を上げて挑んでも勝てないかもしれない。

 

一応言っておくと同盟軍と帝国軍、中将、少将ぐらいで見た場合、どちらが将の質で優っているかと言うと平均値で見た場合間違いなく同盟軍に軍配が上がる。

というのも、同盟軍は基本的に能力があれば幾らでも階級が上がる実力主義、帝国軍は貴族優位の社会であり、軍内部の昇進や人事も基本的には貴族が優遇され、平民出身者は後回しにされる傾向があるからだ。貴族からの推挙などがあれば変わるが、そう言ったパトロンを見つけるのは中々難しい。帝国軍で立身出世するのは中々、やはり難しいと言う事である。

故に才覚ある者が上に上がりやすく、揃い易い同盟軍に軍配が上がるという訳である。

 

ただ、帝国軍にも当然優秀な艦隊司令官や分艦隊司令官は揃っている。気を抜くことは出来ない。

調べた限りでは、少なくとも平民出身者ではあるが、複数人の才覚ある分艦隊司令官や参謀などが存在するらしく、その中でもミュッケンベルガー元帥がどうも気に掛けていると思われるジークフリード・キルヒアイス大佐と言う人物が気になる。

と言うのも明らかに優秀としか言えないレベルでの戦績や戦功を残しており、しかも後方で使っても良いし艦隊司令官として使っても良いし、参謀で使っても良いという、明らかにオーバースペック染みた人物らしい。

これ以外にも、ミッターマイヤー、メックリンガー、ケンプ、ビッテンフェルト、ルッツ、ミュラー等々多くの優秀な者がいる。

貴族出身者でも顔見知りのオスカー・フォン・ロイエンタール、エルンスト・フォン・アイゼナッハなどもいる。

 

彼らに艦隊を任せれば、少なくとも明確な脅威となる九個艦隊が出来上がる。

出来れば相手をしたくないものであるが、まぁ彼らの内、間違いなく艦隊司令官になれるのはロイエンタール、アイゼナッハの二人。

年齢的にジークフリード・キルヒアイスは作戦参謀とかその辺になる筈。他は年功序列とか、他の艦隊司令官の席が空いたりすれば、と言ったところか。

 

一応父の経営する貿易会社を通して継続して帝国内での情報収集は進めているが、民間貿易企業が集められる情報には限りがある。

まぁ、手に入れないよりはマシだな。

 

 

 

「というわけでウチの艦隊でオフレッサーとメルカッツ提督を預かることになった」

 

「「「「「……」」」」」

 

うん、皆色々と言いたいことあると思う。俺もだから。だけど諦めてくれ。

 

「アルフレート少将、我が第十四艦隊でお二方をお預かりすることは承知しました。ですが具体的にはどういった待遇になされるのでしょうか?帝国軍での階級は上級大将。そのまま来て頂くと艦隊司令官よりも高い階級の者が二人も、と言う事になってしまいます。これでは指揮系統に混乱を来たす恐れが……」

 

チュン中佐が言う事は当然一理ある。

これで俺の階級がもっと高ければ問題にはならなかったが、俺の階級は少将。

 

「そこに関しては二人も納得の上で、准将待遇とすることで落ち着いた。シトレ校長には俺の階級が一つ上がれば二人も元の階級に近付く、という処置も取ると言うことも決定した」

 

「よろしく頼む」

 

「いきなりの事で色々と驚き、混乱されているでしょう。ですが閣下への忠心は人一倍強い物だと自負しております。どうか、よろしくお願いします」

 

オフレッサーは腕を組んで仁王立ちで手短に、メルカッツ提督は丁寧に挨拶を済ませると一歩下がった。

その挨拶に対して敬礼を以て皆が答えるとオフレッサーとメルカッツ提督もまた、敬礼を以て答えた。

 

どうやら顔合わせは取り合えず無事に終わったようだ。これでギスギスだったら頭を抱えたが、何よりだ。

 

「お二方の役職は?」

 

「オフレッサーには取り合えずウチの艦隊とヤンのところの陸戦隊を鍛えるのを手伝って貰おうと思ってる。オフレッサーほど陸戦が強い人間を俺は知らないからな」

 

「でしょうな」

 

「メルカッツ提督は?」

 

「司令部で参謀の一人としていてもらおうかと。分艦隊司令官がカールセン提督だけだと手数の問題で不便なので必要になれば分艦隊を任せて動いてもらおうと思います」

 

この言葉に驚いたのはメルカッツ提督だった。

 

「宜しいのですか?」

 

「メルカッツ提督の人と成りは良く知っていますよ。だから心配はしていません」

 

驚いた表情をして、少ししてから笑みを浮かべて答えた。

 

「ご信頼とご期待に沿えるよう、働かせていただきます」

 

「よろしくお願いします」

 

 

 

 

第十四艦隊に受け入れられた二人は翌日から早速訓練に参加し始めた。

オフレッサーは陸戦隊の訓練に、メルカッツ提督は分艦隊を率いてカールセン提督率いる分艦隊と艦隊戦模擬演習を連日繰り返すことになる。

 

その成果は凄まじく、出征一か月前に艦隊を指揮すると、驚くぐらい艦隊運用がやり易く、各艦の動きが明らかに三か月前とは違っていた。

 

「凄いな、これは……」

 

「私一人ではどうにもならなかったでしょう。メルカッツ提督が居たことでより実戦的な訓練を施すことが出来ました」

 

「カールセン提督が居なくてもこれは成し得なかったんですから、胸を張って誇ってください」

 

「ありがとうございます」

 

ま、これで少なくとも第十四艦隊は戦える状態になったというわけだな。

 

「なぁ、アルフ」

 

「なんだ?」

 

「その、陸戦隊の連中なんだけど」

 

「……」

 

「無視するな」

 

「俺は知らん」

 

オフレッサーが張り切って陸戦隊相手にそれはもう、千切っては投げ千切っては投げを繰り返す地獄の訓練を施している事なんて俺は知らない。

ラップがこいつ陸戦隊を売りやがった、という目で見て来るが知らないったら知らない。

 

 

 

 

 

「ラインハルト・フォン・ミューゼル少尉。ただいま第十四艦隊司令部付として配属となりました。よろしくお願いします」

 

「よろしく」

 

出兵二か月前となる四月二日。

ヤンにはいて、俺にはいなかった副官としてラインハルトが着任した。

 

元々キャゼルヌ先輩に、副官を付けてくれと要求はしていたのだが、総数一個艦隊でイゼルローン要塞攻略に乗り出すというところに副官として行きたい、なんて酔狂な奴は当然いない。

そこで暫く待ってくれと言われて、このままだと多分副官は来ないかな、と半ば諦めていたところ、今年度士官学校卒業者から一人、わざわざ志願してまで行きたいと言った奴がいると言われ、有能かどうかは兎も角、取り合えず副官が居てくれると色々と楽になるので喜んで寄越してくれ、と返答したところ、まさかのラインハルトだったのである。

 

ぶっちゃけラインハルトが着任するというのはバタバタもあってつい先日知ったばかりで驚いたが、ラインハルトの天才ぶりは重々知っているので諸手を挙げて大喜びする他無い。

 

「兄上、いえ、少将とお呼びした方が宜しいでしょうか」

 

「公的な場だから少将で頼む。そうじゃなければ何と呼んでも構わないよ」

 

「はっ」

 

早速ラインハルトに幾つかの仕事を任せると、すぐに取り掛かり始めた。

それを見届けて司令部の皆が聞いてくる。

 

「アレがお前の義弟か。すげぇ美人だな」

 

「あの姉にしてあの弟、ですな」

 

「にしても、士官学校を歴代の記録を大幅に塗り替えた上でぶっちぎりの主席で卒業か。なんじゃこりゃ」

 

「艦隊戦シュミュレーションは全勝無敗、か。これ、司令官付き副官なんてやらせておいていい人材じゃないですよ」

 

ざっとラインハルトの経歴を見ると皆が驚きを口にする。

そりゃそうだろうよ、俺だって驚いたもんだ。

 

「正直、ラインハルトの才能はどう考えても艦隊司令官どころの話じゃない。色々と経験を積ませて、将来的に軍の未来を担ってもらう予定だ」

 

「そこまでですか?」

 

「あいつとマトモに戦えるのは多分、ヤンぐらいじゃないか?俺を含めてそれ以外だと手に余る」

 

「少将がそこまで言う人物ですか」

 

「身近で接してきていたから分かる。あいつほどの天才を俺は他に知らない」

 

ラインハルトの着任で、第十四艦隊司令部の陣容は整った。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、行こうか」

 

「上手くやってくれよ」

 

「敵艦隊を引き付けるそっちこそ」

 

「ま、そんなことよりさ」

 

「「生きて帰って来よう」」

 

 

宇宙暦七九六年六月二七日。

第十三艦隊、第十四艦隊、イゼルローン要塞攻略に向けて出征。

 

 

 

 

 






第十四艦隊

艦隊旗艦 カレイジャス
司令官 アルフレート・フォン・ノルトハイム少将
副司令官 ラルフ・カールセン准将
参謀長 マルコム・ワイドボーン准将
副参謀長 チュン・ウー・チェン大佐
主席幕僚 ジャン・ロベール・ラップ中佐

客将(仮) バルドゥル・フォン・オフレッサー
客将(仮) ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ

艦艇数 六七〇〇隻
兵員数 八〇万名


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