逃げるは敵へ   作:ジャーマンポテトin納豆

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帝国領侵攻作戦 Ⅱ

 

 

「閣下、ご報告致します」

 

「頼む」

 

「この惑星にも食糧は小麦の一粒、水の一滴も存在しておりませんでした」

 

帝国領へ侵入し、有人惑星を幾つか占領、通過して三つ目の有人惑星でもやはりあらゆる物資が根こそぎ持って行かれていた。

 

「閣下、どうなさるのですか?」

 

「どうもこうもない。取り合えず各艦隊に連絡を取って状況を確認してくれ」

 

「はっ」

 

各艦隊の状況も、俺達と変わらないだろうが。

 

「ラップ、艦隊の物資備蓄状況を調べてくれ。艦隊用に一か月分を残して残りは提供。ただし三日に一度の提供で可能な限り提供可能日数を引き延ばせ」

 

「はっ」

 

「ラインハルト、補給艦と輸送艦の状況を調べて報告してくれ。どれぐらいの物資量があるかをな」

 

「承知しました」

 

ラップとラインハルトにそれぞれ物資の状況を調べるように言って、これからの事を考える。

 

さて、我が艦隊の現状はと言うと。

 

その前に各艦隊の共通として、どれぐらいの物資を持っているか、と言う事を説明せねばならない。

艦には基本的に乗組員が四か月は食べて飲んでいける物資を積載して出陣してきたが、ここに来るまでの進軍期間でざっと一か月半分を消費している。と言う事は残っているのは二か月半分の物資が残っているわけだ。

そして提供後の物資量はざっくり二か月分を有していると言う事になる。

 

ちょっと待て、計算が合わないだろう、と思うかもしれないがこれには特に何の特別でも無い小細工でしかないが、まぁそんな理由がある。

 

この侵攻作戦に際して、『各艦隊に補給艦及び輸送艦を二〇隻づつを配備すること』を要求した。

これは第二陣以降の補給が未定である上、十分な補給が望めるかどうかが不明であったことから要求した条件だ。総司令部は、と言うよりシトレ校長が渋る総司令部を抑えてこれを認めてくれたのである。

しかも戦闘艦艇の建造を一時的に差し止めて、輸送艦の建造を急いで進め、各艦隊に二〇隻づつ、合計一八〇隻の補給艦、輸送艦を揃えてくれたのだ。

 

補給艦、輸送艦の大きさは中型だ。

20万トン級輸送艦と比べれば、標準型戦艦の四倍程度の全長に三倍の高さがある。それでも載せられる物資量には限りがある。だが敵との交戦が少なくともすぐに想定される訳では無いから、食糧を最優先で積み込んできている。

水は宇宙空間に漂う水素と排泄物から精製出来る。それを上手く使えば水に困ることも無い。

 

この処置を取る際にシトレ校長はあの手この手で工作を図り、議会に対して作戦開始時期を丸々三週間ほど引き延ばしてみせたのだ。これによって出征日時が丸三週間引き延ばされた事になり、その間我々は準備を進めることが出来た。

この輸送艦や補給艦が運んでいる物資量は、第十四艦隊一万二〇〇〇隻の乗組員一〇〇万人以上が一か月食べていける程度の物資しか載せていないが、それでもこうなった以上は貴重な物資だ。

これをなんとかかんとかやり取りする以外に無い。

 

「取り合えず二か月分の物資があれば、敵が出てきても何とかなるでしょう。それも何時まで持つやら分かりませんがね……」

 

ラップの報告で判明したこの惑星にいる帝国民間人の数は六〇〇万人。

今まで占領した有人惑星は十四個になるが、それらに住んでいた帝国人民は全て合わせて既に三一〇〇万人に達している。

 

「占領地の民間人総数は三一〇〇万人。遠征軍総数と合わせて六二〇〇万人以上を食わせて行かなければならない、ですか。とんでもないですな」

 

「こうなっては敵が焦土戦術を採ってきているのは明らかだ。これ以上先に進むのは首を絞めるだけになるな」

 

「はい。補給が到着するまでに三ヶ月はあります。これでは足りません」

 

「……食事量を減らして提供するしかない。何とかして補給が届くまでの三ヶ月間を保つ必要がある。ラップ、ラインハルトを貸すから、そこら辺の調整を頼む。三か月と一週間、何とか保つように食糧を配分してくれ」

 

「分かった。ミューゼル中尉、行くぞ」

 

「はっ」

 

少なくとも今すぐに敵が仕掛けて来ることは無いだろう。

敵がいないと分かっているならいい。哨戒艦をしっかり配置して敵艦隊の接近を掴めるように努力する他無い。あとは敵が来るタイミングだ。恐らく来るとしたらこっちの補給部隊を叩いてからだ。

 

「各艦隊の状況は?」

 

「どこの艦隊も似たり寄ったり、と言ったところです。物資量に多少の増減差があるぐらいです」

 

「まぁ、予想していた通りではあるか……。一番最初に占領した惑星の農耕、漁業、酪農状況は?」

 

「農耕に関して、一応は収穫の目途が立ったようですが、収穫が始められるのは二ヶ月は先とのことです。これを精製して、製粉して、パンやら麺やらにして、輸送艦に載せて運んでくるとなるとどれだけ少なく見積もっても三か月は掛かるとか」

 

「まぁ、これに関しては間に合ったら良いな、ぐらいのものだ。そこまで期待はしていなかったが、改めて聞かされるとクるものがあるな」

 

なんにしても結論から言えば、やはり第二便以降の補給のアテは碌に立っていないと言う事だけ。

人が住める惑星には海や川があり、そこで魚なども取ろうと思えば取れるが、だからと言って合わせて四~五〇〇万もの人間を魚だけで賄うと言うのも難しい。

 

とにかく、各艦隊司令官と話し合いをした方が良いな。

艦隊司令部の連中は正直期待なんて出来ないし、仮に物資不足を理由に撤退を進言したところであのフォークが横からあーだこーだと捏ね繰り回して却下されるのがオチだろう。

唯一期待出来るとすればグリーンヒル大将が首根っこを引っ掴んでくれることだが……、まぁそれが出来なかった場合に備えてこっちで撤退する為の算段は立てておくべきだな。

 

 

 

 

「閣下、緊急暗号通信です!」

 

「……補給部隊が襲われたか?」

 

「何故それを御存知で……?」

 

「敵の戦略が焦土作戦である以上、補給線を叩きに来ることぐらい容易に想像出来る。で、補給部隊はどうなった?」

 

「ほんの僅かな護衛部隊の生き残りを残して、全てやられました。輸送艦は全て沈められたそうです」

 

「……これで、俺達はあと一〇日分の食糧を有するのみになったってことだな」

 

予想していた通りになった。

これで第二便の補給はどこの艦隊にも届かなくなったし、多分、各艦隊の物資状況は似たり寄ったりだろう。

 

「ラップ、地上部隊を撤収させろ。艦隊の撤退準備を進めつつ敵艦隊を警戒。各員は今のうちに休んでおいてくれ」

 

「了解」

 

「カールセン少将とメルカッツ提督を呼び出してくれるか」

 

「承知しました」

 

ラインハルトに言って、第十四艦隊第一分艦隊司令官を務めるカールセン少将を映像通信で呼び出してもらう。

 

『お呼びでしょうか、閣下』

 

「敵の出現が近日中に予想されます。お二人には交代で警戒態勢を取って頂きたい。お願い出来ますか」

 

『承知しました』

 

「お願いします」

 

カールセン少将、メルカッツ提督にはそれぞれ三〇〇〇隻の分艦隊を預けている。

そして残る六〇〇〇隻を俺が直接率いているというわけだ。

 

「提督はやはり敵が出て来るとお考えですか」

 

「補給部隊を叩いて、俺達に物資が届かなくなった今、間違いなく出て来る」

 

「……厳しい戦いになりますな」

 

本当に厳しい戦いになる。

どれだけの味方が生きて帰れるか……。

 

 

 

 

『元気そうじゃな』

 

「ビュコック提督もお元気そうで。それで、早速ですが」

 

『うむ。撤退に関してじゃな』

 

「司令部の反応は?」

 

『駄目じゃった。それどころか総司令官閣下は昼寝中、フォークの無能が呼んでも無いのに横からしゃしゃり出てきおった』

 

だろうな。

フォークが作戦中止や部隊の撤退を認めるわけが無い。なんせ自分の立てた、自称「完璧な作戦」が壊れるんだから。にしてもロボスのやつ、こんな時に呑気に昼寝とは。

 

「それでなんと?」

 

『あまりにも頭に来たんでな、色々言わせてもろうたわ。そうしたら奇声を上げて白目を剥き泡を吹いてひっくり返りおった』

 

「転換性ヒステリー障害、ですかな」

 

『なんじゃ、知っておるのか』

 

「帝国貴族にも偶にいますよ。何度か見たことがあります」

 

『はぁ、そんなのがこの作戦を立案したとは。呆れて何も言えんな』

 

「第五艦隊の物資状況は?」

 

『残り一週間分、と言ったところだな。お主のところは?』

 

「一〇日分です。それも二食に減らして漸く捻出した量ですよ」

 

『ウランフやボロディン、アップルトン達のところも同じような状況だ。飢え始めるのもそう遠くない』

 

何処の艦隊も切り詰めて何とか最後の行動を起こせる程度の物資を残してある。

だからこの物資が尽きる前に潔く撤退するべきだろう。

 

「どうされますか?一応、案はありますが」

 

『ほう、聞かせて貰おうか』

 

「司令部にマトモな指揮能力無し、と各艦隊司令官が判断して総司令部にそれを叩き付けるんです。そうすれば向こうが何を言おうが撤退出来ますよ」

 

『それは、反乱と言う事かね?』

 

「前線部隊に碌に補給を行うことも出来ず、しかも補給部隊が襲撃されて全滅したと言うのに総司令官閣下は昼寝中。どう考えても指揮能力喪失状態、と判断するのが妥当なところでしょう。帰国後になんだかんだと言われようと、軍法裁判でも民事裁判でも、幾らでもやってやりますよ。負ける理由が無い」

 

『お主、中々過激だのう』

 

「部下達や皆さんを無事に帰せるのならば、多少手荒だろうが何だろうが、何でもやってやりますよ」

 

『はっはっはっ!分かった、その時はわしもお前さん側に立ってやる。一人で戦うなぞ言わんでいい』

 

「ありがとうございます」

 

『わしが代表して提出する。撤退作戦の案をお主は出してくれ』

 

「了解しました。追ってお伝えします」

 

『うむ。では、幸運を祈る』

 

互いに敬礼をして通信を切る。

これで撤退の筋道は出来た。

 

 

 

撤退作戦は基本的には難しいものではない。

最も距離の近い艦隊ですぐにでも合流し、二個艦隊ぐらいで順次撤退を開始するべきだろう。

ヴァンステイド辺りでの全艦隊合流を目指す。アムリッツァ星域だとイゼルローンにより近いので現在の我々と距離が遠く、それまでに捕捉撃滅されかねない。

 

「ワイドボーン、一番最寄りの艦隊は?」

 

「ボロディン提督の第十二艦隊です」

 

「よし、ビュコック提督からの通達が行ったら、すぐに第十二艦隊と合流するぞ」

 

「はっ。では撤退準備を進めます」

 

「頼む」

 

と言っても地上部隊の完全撤収には二日は掛かる。

それまでに敵が出て来なければ良いが……。

 

 

 

 

「哨戒艦より緊急通信!我敵艦隊発見!総数一万七〇〇〇隻!」

 

「来ましたな……!」

 

「第十二艦隊との通信は?」

 

「電波妨害により不能!」

 

「……地上部隊の撤収状況は?」

 

「あと十時間頂ければ完了致します」

 

「分かった。車両類などの重装備は廃棄していい。人員だけを撤収させろ。なんとかして七時間でやってくれ」

 

「はっ。何としてでも間に合わせます」

 

「総司令部及び各艦隊に通達。我敵艦隊と遭遇す」

 

クソッ、こっちより五〇〇〇隻も多い相手とやり合いつつ上手く撤退しなければならないとは。楽に撤退する機会を逸したな。

 

「敵艦隊と交戦距離に入るまでの時間を出してくれ」

 

「はっ」

 

「全艦戦闘用意!第一種戦闘配置!」

 

必要なら、残りの地上部隊を見捨てる決断をしなければならないかもしれない。

 

「楽に逃げさせてくれなさそうですな」

 

「本当に。こうなっては仕方が無い。戦の前に全員に腹一杯飯を食わせてやろう」

 

「はっ。では多少豪華に行きましょう」

 

 

 

 

「敵艦隊、光学照準内に入りました!」

 

その報告のすぐあと、敵艦隊との撃ち合いが始まった。

既に他の艦隊も敵艦隊に捕捉されたり、遭遇している。第八艦隊、第九艦隊は既に戦闘状態だ。

 

「シールドにエネルギーを回せ。戦艦は全面に出てシールド出力最大。巡航艦は逆撃に備えて別命を待て。空戦隊は命令次第即出撃が出来るように待機」

 

「敵艦隊、速度を上げて突っ込んできます!」

 

「カールセン提督、メルカッツ提督を」

 

「はっ」

 

『お呼びでしょうか』

 

「敵艦隊が勢い良く突っ込んできています。敵艦隊の鼻っ面に火力を一気に集中させて勢いを殺した後、お二人には左右からの挟撃をお願いしたい」

 

『はっ、お任せください』

 

両提督を左右に配置。

ついでにもう一手ぐらい入れておこう。

 

「ワイドボーン」

 

「はっ、何用でしょうか」

 

「お前に一五〇〇隻の指揮を頼む。状況によってだが、突っ込んだり展開してもらう事もあるかもしれん」

 

「承知しました。ご期待に沿える働きをして見せましょう」

 

「頼んだ」

 

 

 

 

「敵艦隊、更に増速!射撃開始!」

 

この距離なら戦艦のエネルギーシールドを貫くことは出来ない。

まだだ、もう少し踏み込んで来い。そうすればお前達は逃げられなくなるぞ。

 

「……撃て!」

 

敵艦隊の先頭集団に艦隊の火力を一気に叩き付ける。

それだけで敵の勢いを殺すことが出来る。そのまま火力を叩き付けると、敵艦隊の足が急ブレーキを掛けたように急速に衰えた。

 

それを見逃すようなカールセン提督とメルカッツ提督ではない。

すぐに分艦隊を敵艦隊の左右側面に踊り出させるとその最大火力を叩き付けた。

すると混乱した敵艦隊は艦首を左右側面に向けたりと、動きが一気に悪くなった。

 

「全艦、シールドに回していたエネルギーも全部主砲に回せ」

 

「宜しいのですか?それでは……」

 

「大丈夫だ。あの様子からすぐに立て直してやり返してくるようなら、そもそも敵は最初からこんな突っ込み方をして来ない。火力最大、撃て」

 

混乱してる混乱してる。

立て直しも上手く行っていないようだし、このまま敵艦隊を撃滅するまで、と言うのも魅力的な話だが目的はそうじゃない。

 

「全艦、一斉一点射撃を行い穴を開ける。ワイドボーン、お前に与えた一五〇〇隻で突っ込んで混乱を大きくさせろ。一撃入れたらそのまま退避。カールセン提督とメルカッツ提督もそのタイミングで一挙に撤退を」

 

『『『はっ』』』

 

「全艦そのまま攻撃を続行、機を見て撤退する」

 

「宜しいのですか?今なら敵艦隊を撃滅する好機と見ますが……」

 

だろうな。

敵の頭を押さえて鼻っ面も叩き折ってやった。しかもあの混乱のしようだ。普通なら反転攻勢に出てやろうぐらいは思うだろう。

だがそもそも、俺達の目的は撤退して合流を急ぐこと。

 

敵が各個撃破戦法に出てこなかったのは取り合えず良かったが、各艦隊との戦況が膠着して艦隊を一旦退かせてから改めて各個撃破に出て来るかもしれない。

そうなったら二倍、三倍の相手と戦わないとならなくなる。そうはなりたくないからさっさと撤退するべきなんだ。

 

「俺達の目的は撤退して味方との合流を急ぐこと。これからも厳しい戦いが続くだろうから、ここで戦力を消耗する必要も理由も無いからな。退けるときにさっさと退いて、ボロディン提督の第十二艦隊と合流してしまおう」

 

「はっ。では、そのように」

 

敵艦隊の一点に火力を一気に叩き付け、穴を開けた瞬間にワイドボーンを突っ込ませる。

一撃を入れたワイドボーン分艦隊はそのまま勢いを利用して離脱する。

 

「全艦撤退。第十二艦隊との合流を急ぐぞ」

 

この戦いで第十四艦隊は一二〇〇隻の撃沈破となり、対して敵には六〇〇〇隻超の敵艦隊を沈める事となった。

少なくとも敵は再編を終えるか、戦力補充を与えられるまで戦闘に参加することは難しいだろう。それなりに時間を稼げたと見ていい。

 

 

 

 

 

「前方に反応!数一万二〇〇〇!識別信号有り!第十二艦隊です!」

 

「旗艦ペルーンより通信!」

 

「繋いでくれ」

 

投影画面に映ったのはボロディン提督だった。

敬礼をしてから会話を始める。

 

「お疲れ様です、ボロディン提督」

 

『アルフレート提督も、ご苦労。その様子だと我々とは違って上手く敵艦隊を追い返したようだな』

 

「敵が突撃馬鹿で助かりました。少ない損害で乗り切れましたから」

 

『そうか。だが我々の敵は些か手強くてな。手を貸して貰いたいが、構わんかね』

 

「勿論。さっさと追い返して撤退してしまいましょう。それと各艦隊の状況は?」

 

『やはりどこの艦隊も膠着しているか、分の悪い戦いらしい。第十艦隊は半包囲下にあるようで今のところは耐えているが何時まで持つか分からないそうだ。唯一第十三艦隊は上手くやっているようだが……』

 

「なるほど。では、私達は目の前の敵を追い返したら、味方を助けに行くとしましょう」

 

『そうしたいのは山々なのだが、物資状況が不味くてな。味方を助けに行って、そこから撤退するまで保たせるのは厳しいのだ』

 

「なるほど、承知しました。ではこうしましょう。第十二艦隊はこの戦いが終わったら可能な限り速やかにイゼルローンに帰投してください。我が艦隊の輸送艦を全てお預け致します。それに物資を載せて、ここの宙域で合流、補給を受け次第、我々は再び前に出ます」

 

『……分かった。だがタダで君らを行かせるわけには行かない。最低限の物資以外は君らに預けよう』

 

「ありがとうございます」

 

『では、とりあえず目の前の敵の対処をするとしよう』

 

「はっ。では」

 

通信を切ってから、すぐに行動を開始した。

 

敵艦隊の数は一万七〇〇〇隻。

こっちは第十二艦隊と我が艦隊を合わせて二万ニ八〇〇隻。よっぽどのミスを犯さない限りは順当に勝てるだろう。

 

敵艦隊を押し止めつつ、左側に第十二艦隊がいる。メルカッツ提督にワイドボーンに預けていた一五〇〇隻を加えて牽制を加える。

 

「敵ワルキューレの出撃を確認!」

 

「駆逐艦で防空。主砲火力最大。……撃て」

 

ワルキューレを出すなら側面から回り込ませるべきだったな。

真っ直ぐ来るなら敵艦隊の射線上にワルキューレが入ることになる。同士討ちが怖くて敵艦隊は中々撃てないだろうよ。

 

「空戦隊、雷装で出撃。側面から回り込んで遠距離雷撃。少しづつでいい、敵を削るぞ」

 

側面に空戦隊を回り込ませ、ついでにその支援にカールセン提督の第一分艦隊を同じく側面に送り出す。艦隊が空戦隊を伴って側面から回り込もうと見えるだろう。

敵はそれを防ごうとして艦隊戦力のうち、幾らかを回そうとする。

すると敵はボロディン提督側の戦力をこっちに回し、対処しようとしたところを、それを見逃さなかったボロディン提督が敵艦隊左翼を一気に攻める。

 

「流石ボロディン提督ですね」

 

「だな」

 

傍に控えるラインハルトは感嘆、とまでは行かないものの賞賛の声をあげる。

ボロディン提督はヤンを除けば間違いなく同盟軍将官の中で三本指に入る実力を持っている人だ。これぐらいのことは容易いと思っているのかもしれないが、あのタイミングで適切に動いてくれる、動けるだけの戦力を残していてくれたというのは凄い事だ。

 

「敵艦隊、後退を始めました!」

 

その報告に安堵の声と歓呼が響く。

ふぅ、取り合えず一旦は急場を凌げた、と言った感じだな。

 

『アルフレート提督』

 

「お疲れ様です、ボロディン提督」

 

『私は貴官の思惑通りに動けたかな?』

 

「そんな、と言うよりもありがとうございます、と言った方が良いのでしょうか」

 

『そう言ってくれ。窮地にあった我が艦隊がそれを脱し得たのは君と君の艦隊のお陰だ。心の底より感謝申し上げる』

 

「はっ。では、この後のことは先程話したように」

 

『うむ。君も幾ら味方を救う為とは言え無茶はしてくれるな』

 

「勿論です。では」

 

『健闘を祈る』

 

第十四艦隊の損耗はざっくり一〇〇〇隻ほど、残存戦力は一万隻。

第十二艦隊は五〇〇〇隻程度で残存戦力は一万一〇〇〇隻。

 

損害を集計した後、以上のようになり、まだまだ戦える状態ではある。

第十二艦隊から物資を受け取り、各艦それぞれ三交代制で食事と睡眠を取らせて次に備える。

 

「次に助けるのは何処の艦隊ですか?」

 

「ヤンとウランフ提督のところは上手く合流したらしいから心配は要らない。ビュコック提督も上手く下がれたようだ。問題はホーウッド提督第七艦隊、アル・サレム提督第九艦隊、アップルトン提督第八艦隊、ルフェーブル提督第三艦隊のところだな」

 

四艦隊が逃げられなかったのは敵艦隊に捕捉された位置が悪かったことに加えて、自艦隊よりも一万隻も多い敵に襲われたからだ。

未だ抵抗は続けているようだが、壊滅となるのも時間の問題だろう。

 

ビュコック提督の第五艦隊も物資の関係で救援に動くのは難しく、一旦補給を受けないと次の作戦行動は難しい。

ヤンとボロディン提督のところは合流は果たしたが、それでもまだ二個艦隊と戦闘中。となれば今すぐに動けるのは俺達第十四艦隊だけ、と言う事だ。

 

「各艦隊との通信状況は?」

 

「……第八艦隊と辛うじて通信を繋げるかもしれません!」

 

「よし、やってくれ。アップルトン提督を呼び出せるか」

 

「やってみます」

 

数分の後、通信妨害の影響で鮮明こそ無いものの、アップルトン提督が出てくれた。

 

「お疲れ様です、アップルトン提督」

 

『おぉ、アルフレート提督か。無事な様で何よりだ』

 

「お陰様でなんとか。それで、第八艦隊の状況は?」

 

『損害は大きいが、何とか逃げられそうだ。まぁ、逃げたところでまた戦えると言う状態では無いがね。貴官のところは?』

 

「最初の敵艦隊と交戦、逃げてからボロディン提督の艦隊と合流して敵艦隊を追い払いました。ボロディン提督は現在後退、補給後に輸送艦と共に我が艦隊と合流して各味方艦隊の救援に動くつもりです」

 

『なんと……。我が艦隊に通信を取ったのはそれが理由か』

 

「はい。もしご迷惑でなければお手伝いを、と思ったのですが」

 

『それは感謝する。だが先ほども言った通り何とか逃げられそうなのでな、出来れば他の艦隊の救援に動いてほしい』

 

「承知しました。では、第八艦隊の幸運を祈ります」

 

『ありがとう。では』

 

どうやらアップルトン提督のところは平気そうだ。

 

となれば後は何処の艦隊を、というわけだが。

 

「一番近い艦隊は?」

 

「ホーウッド提督の第七艦隊かと。第九艦隊は些か遠い位置に」

 

「よし。まずは第七艦隊を助けに行くぞ。余力があれば第九艦隊だ」

 

第十四艦隊は第七艦隊駐留宙域に向かった。

 

 

 

 

 

「感あり!数、五〇〇〇!識別信号あり、第七艦隊です!」

 

「随分と数が減っておりますな……」

 

「ホーウッド提督を呼び出せるか」

 

「繋ぎます」

 

『私はアントン・ウィーラー少将であります』

 

「ホーウッド提督はどうされた?」

 

『被弾時に重傷を負われ、現在医務室で手当てを受けられております。命に別状は無いとのことですが……。その為、私が第七艦隊の指揮権を継承し、指揮を執っております』

 

「分かった。現状は?」

 

『敵艦隊の猛攻を受けて三分の一を残すのみとなりました。小官が至らないばかりに……』

 

「いいや、寧ろ良く今まで耐えてくれた。これより第十四艦隊は第七艦隊救援に動く。合流の際は指揮下に入って貰うが、構わないか?」

 

『ありがとうございます。喜んでアルフレート提督の指揮下に入ります』

 

「よし。我が艦隊が到着するまでもう少し耐えてくれ」

 

『はっ。ではお待ちしております』

 

なんとか間に合ったようだ。

それにしてもホーウッド提督は重症か。命に別状は無いらしいが、少なくともこの作戦で艦隊指揮は執れなくなったな。

 

第十四艦隊と合わせて一万四〇〇〇隻。

敵は一万八〇〇〇隻か。これまた厳しい戦いになるな。

 

 

 

「……決め手に欠けるな」

 

「えぇ、敵も良い動きをします」

 

数は向こうの方が上、しかも動きが良い。

 

「メルカッツ提督とカールセン提督、どうですか」

 

『駄目です。動こうとすればすぐに牽制を入れられて上手く動けません』

 

『こちらもです』

 

「レーダーに新たな反応!識別信号無し、敵艦隊と思われます!」

 

「チッ……、ここで新しい敵か。数は?」

 

「敵艦隊の数、一万四〇〇〇隻!」

 

「合わせて三万二〇〇〇隻か」

 

「こちらの倍です。どうなされますか?」

 

「戦艦を最後尾に出してシールド出力最大。後ろに巡航艦と駆逐艦を配置して耐えるぞ」

 

「「「「「はっ」」」」」

 

数に勝り、そして指揮に優れて練度もある。

簡単に逃がしてくれる相手では無いとなれば、多少犠牲を承知の上で最後尾に最も装甲とシールドの分厚い戦艦を置いて耐えながら徐々に後退していくしかない。

 

 

 

「このまま下がり続けるぞ。戦艦隊の状況は?」

 

「前列と後列を入れ替えつつ戦っておりますが、このまま耐えられるのは残エネルギー量と残戦力の関係であと五時間と言ったところかと」

 

「流石に三連戦は欲張りが過ぎたか……。もしこれで全員めでたく捕虜になるか、運悪く死んだら俺を恨んでくれていいぞ」

 

「何を仰いますか。味方救援の為に働いたのです、責められる言われはありません」

 

「もし責められるとしたら我々では無くこの作戦を決定し主導した総司令部と最高評議会の連中ですよ」

 

「だな。取り合えずフォークだけは何が何でも許さん」

 

「ですな」

 

少しの笑いが生まれる。

これは良い傾向だ、こんな状況でも少しだけでも笑えるというのはそれだけで十分だ。

 

それにしても、ボロディン提督の艦隊と別れてからもう一〇日も経っているのか。

そりゃぁ、当然エネルギーも物資も尽き掛けているのも当然だな。余裕をもって計算したつもりだったが、ここまで大きい敵とやり合うのは流石に想定外だ。増援が来ても丸々一個艦隊が来るなんてな。

いいや、俺の想定が甘かっただけか。

 

 

「レーダーに新たな反応!敵艦隊左上方より突入する艦隊あり!」

 

「どこの誰だ?」

 

「……識別信号あり!第十二艦隊です!」

 

「「「「「おぉっ!」」」」」

 

「提督、ボロディン提督が助けに来てくれたのです!」

 

「旗艦ペルーンより通信!」

 

画面に映ったボロディン提督に敬礼をする。

先任は向こうだから、こちらから敬礼をするのが順当だ。

 

「ご助力、大変助かりました」

 

『先日助けて貰ったお礼だ。さて、敵の混乱を誘えたところで幾らかやり返して、撤退するとしよう』

 

「はっ」

 

本当に助かった。

このままじゃ消耗するだけで、機を見て無理矢理損害覚悟で撤退せざるを得なかったところだった。

 

「カールセン提督、メルカッツ提督、お願いできますか」

 

『はっ。お任せ下さい』

 

『やられた分、しっかりやり返すとしましょう』

 

こうして第十四艦隊、第七艦隊残余は救われた。

 

 

 

『貴官との約束だからな、補給物資も持って来たぞ。水、食糧、嗜好品にエネルギー。全艦を満タンに出来る分をな』

 

「感謝します。本当に助かりました」

 

『なに、先に助けて貰ったのはこちらだ。第十四艦隊の補給が終わり次第、撤退に移るとしよう』

 

「はっ。一つお聞きしたいことがあります。宜しいですか」

 

『構わんとも』

 

「他の艦隊はどうなったのでしょうか?」

 

『君達第十四艦隊、そして我々第十二艦隊、第五、第十艦隊、第十三艦隊は何とか上手く逃げられた。だが第七艦隊は知っての通り四〇〇〇隻を残すのみでホーウッド提督も重傷。第八艦隊は撤退途上に補給線への攻撃を行っていた敵艦隊に捕捉されて壊滅した。なんとか生き残った二五〇〇隻が生き残って逃げたがアップルトン提督は戦死なされたそうだ。第九艦隊も壊滅。アル・サレム提督は重傷。一命は取り留めたようだが軍務への復帰は望めないとのことだ。第三艦隊も壊滅。ルフェーブル提督も戦死なされたよ』

 

「……そうですか」

 

『アップルトン提督のことを気にしているのか?』

 

「えぇ、まぁ」

 

『少なくとも君のせいでは無い。逃げる事は出来たが道中で捕捉されるのは君でもどうしようもない。だろう?』

 

「お言葉、ありがとうございます」

 

『こちらこそ。助けて貰った借りを返せて良かった。では、イゼルローンで再び直接会うのを楽しみにしている』

 

「はい」

 

各艦隊の状況を聞かされて、なんとも言えない気分になった。

 

 

補給に丸一日を費やし、艦隊全艦のエネルギー、物資を満載にして第十四艦隊と第十二艦隊はイゼルローンへの帰路に付いた。

第十四艦隊の残兵力は九三三七隻。この帝国領侵攻作戦で約二七〇〇隻を失ったことになる。

 

 

第三艦隊 

一万六〇〇〇隻のうち、一万四〇〇〇隻喪失。

ルフェーブル提督以下一二〇万名戦死。

 

第五艦隊

一万七〇〇〇隻のうち、六五〇〇隻喪失。

戦死 約七〇万名。

 

第七艦隊

一万五〇〇〇隻のうち、一万一〇〇〇隻喪失。

戦死 約一〇四万名

ホーウッド提督重傷。

 

第八艦隊

一万四〇〇〇隻のうち、一万一五〇〇隻損失。

戦死 約一三〇万名

アップルトン提督戦死。

 

第九艦隊

一万四〇〇〇隻のうち、一万三〇〇〇隻喪失。

戦死 約一四五万名

 

第一〇艦隊

一万七〇〇〇隻のうち、三七〇〇隻喪失

戦死 約三十七万名。

 

第十二艦隊

一万七〇〇〇隻のうち、四〇〇〇隻喪失。

戦死約四〇万名

 

第十三艦隊

一万二〇〇〇隻のうち、二五〇〇隻喪失。

戦死 約三〇万名

 

第十四艦隊

一万二〇〇〇隻のうち、二七〇〇隻喪失。

戦死 約二十九万名

 

 

喪失数

艦艇 七万一〇〇〇隻超(正規艦隊のみの喪失数)

兵員 五八五万名(地上兵力を含まず)

 

 

 

イゼルローン要塞に命辛々帰った各艦隊はそれぞれ大打撃を被っていた。

輸送艦隊やその護衛部隊などを足せば総損失艦艇数は更に一万隻は多くなり、兵員損失数も八〇〇万に達する。

出征した二〇〇〇万もの兵力のうち、八〇〇万人が戦死し、戦傷により退役となった者を含めれば一二〇〇万人超。

 

同盟軍三四〇〇万名のうち、一二〇〇万人を永久的に失うこととなった。これは総兵力のざっくり三分の一に達する途轍もない数字であることは言うまでも無い。

 

 

 






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