ワールド・オブ・ナイツ 〜戦国逃避行〜   作:無敵ざかり

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第1章 赤いドラゴン
第1話 ナイトが支配する世界


ナイト率99.7パーセント。超獣世界の住民はほぼ全て、魔弾を操るナイトと化した。

 

サムライはほぼ絶滅。超獣達が武を競う戦国武闘会は、いつしかナイトの為のものへと変わっていた……

 

 

 

 

『第100回戦国武闘会! 世界中のナイト達が武を競うこの戦い、本戦も残り半分と言ったところ!』

 

司会の《魔光実況ミラクル・ショー》の実況が轟く。

 

『これより、皆さんお待ちかね……グレイテスト・シーザー選手の試合を始めます!』

 

「あぁ……始まる……か」

 

シーザーと呼ばれた選手は、気だるげに佇んでいる。

 

「邪眼のシーザー!……様! このグランドクロス・天雷・ドラゴンがお相手しよう!」

 

対するのは……光り輝く銃剣を構えた、黄金の竜の騎士。

 

『それでは試合開始です! レディ……ファイトォォ!』

 

ゴングが鳴る。

 

「え……」

 

誰の声か……ともかく、誰かが声を漏らした。

 

シーザーと対峙した天雷・ドラゴンは、闘技場の端にめりこみ白目を向いていた。

 

シーザーが手に持つ魔銃から、硝煙が吹き上がっている。魔力の残穢が羽根となり、宙を舞う。

 

『け……決着ーーっっ! なんという素早い攻撃! まるで見えませんでした!』

 

「おい、お前見えたか……?」

「まさか……」

「シーザー様、今までの試合は本気を出してなかったのか……」

 

闘技場の観客席で、超獣達がどよめく。

 

「フン、あれが見えんか」

 

ナイトの四名家の一つ、邪眼。それを束ねる《邪眼皇ロマノフI世》は、居城で中継映像を見ながら呟く。

 

「ふ……」

 

シーザーは息をこぼす。喜びも達成感もない。ただ"終わった"という気持ちがあるだけ。わすかな開放感を得るが、それも束の間。次の試合はすぐに訪れる。

 

 

 

 

瞬間――

 

シーザーの頬を、旋風が掠めた。鋭利な刃物のような、一筋の風が……

 

遅れて突風が吹く。

 

「おわっ!?」

「なんだぁ?」

「今日の天気予報じゃ、風は吹かないって話だったが」

「ありゃ外れるもんでしょ」

観客席の超獣達は気づいてない。その山に吹く嵐のような風が、一人の超獣によって起こされたものだと。

 

シーザーは頬に、静電気のような衝撃を感じた。色で例えるなら、劇場の赤でもなく、冷静な青でもなく――それらが混じりあった、紫のような感覚……

 

紫電の衝撃、と言える感覚だった。

 

 

 

 

ワールド・オブ・ナイツ 〜戦国逃避行〜

 

第1話 ナイトが支配する世界

 

 

 

 

「ご利用ありがとうございました!」

「おい、見たか……?」

「見たよ……シーザー様もこういうところ来るんだな……」

 

闘技場内のレストランで食事を終えたシーザーは、武闘会の選手村へ向かう。

 

シーザーが注文するのは、いつも同じものだ。彼にとって、『新しい味を開拓する』という選択肢はない。

 

戦国武闘会で活躍する選手は注目を集める。シーザーは特に人気の選手だった。

 

道中サインをねだられる。彼は一瞬止まるが、気だるげに通り過ぎる……

 

「なあ、ラストサムライって知ってるー?」

「知ってる知ってる。絶滅寸前の、サムライの生き残りだろ?」

「ナイトハンターを名乗るテロリストで、魔銃の破壊者、だっけ? あれ、ハカイシャってどんな医者だっけ?」

「サムライって、心を操る呪術を使うんだろ。おっかねーよなー」

噂話に夢中の子供達を尻目に、シーザーは気づかれないよう通り過ぎる。

 

(心を操る呪術、か……そんな物があれば、人は苦労しないというのに)

 

 

 

 

選手村の個室にて、シーザーはベッドに横たわる。暇さえあれば横になる。それがシーザーだった。

 

木彫りの赤いドラゴンを抱きしめて、額に軽くキスをする。

 

シーザーは、戦いたくない。血を見るのが嫌いだった。

 

シーザーは、選びたくない。責任を負うのが嫌いだった。

 

シーザーは、選べない。自由を持つ身ではなかった。

 

四名家の一つ、氷牙。それの実質上の当主《マクシミリアン王》に財力で傘下にされた……同じく四名家の邪眼。

 

その邪眼が生物実験で生み出したのがシーザーである。試合を勝ち進ませ、スターにするために。

 

氷牙は『金は力』を心情とする派閥である。経済効果を産む人気者は、彼らにとって生物兵器と言える。

 

 

 

 

「もし……すまない」

 

個室の戸を、何者かがノックする。

 

シーザーに友人はいない。尋ねてくるのは、主にミーハーな追っかけだ。

 

しかし……この声は追っかけのものには聞こえない。

 

「わたしは大闘技場があるこの街に……大闘技街だったか、に来たのは初めてで。案内して貰えないだろうか」

 

怪しげな男の声に、シーザーは(いぶか)しむ。

 

「なぜ、私に」

 

「気配りを感じた」

 

「……何?」

 

「ドア周りの掃除が行き届いているし、外出中なのか部屋にいるのか……それを示すプレートも掛けてある。訪問者にとって親切な、気配りがある。そんな貴君は、信頼できると思った」

 

「……」

 

シーザーは思う。誰もそんなことを言ってはくれなかった。実際それらは、訪問者に不快な思いをさせたくなかったからだ。この声の主は、初めてそれに気づき、声をかけてくれた……

 

シーザーは言う。

 

「夜だ」

 

「夜?」

 

「私はこう見えて人気(にんき)がある。野次馬が集まらない、人気(ひとけ)のない深夜なら、街を案内してやっても……構わ、ない」

 

「そうか。それはありがたい。わたしの名は《バルザック》だ。発言の責任は取る。必ずまた、深夜に来よう」

 

シーザーはドアの覗き窓に近づき、去っていく訪問者を見る。

 

ナイトの証である魔銃を持ち、鎧に身を包んだ……赤い、ドラゴン。

 

シーザーの鼓動が乱れた。

 

彼は病気を疑った。

 

 

 

 

深夜。

 

シーザーとバルザックは、とある通りを歩いていた。

 

肩を並べて友のように歩く。生物兵器として作られたシーザーには、初めての体験だった。

 

「なるほど。昼間はこの辺りは、出店で埋め尽くされるのか」

 

「あ、ああ……屋台とか、だな……」

 

シーザーはバルザックと目を合わせようとしない。

 

「街の最大の名物、大闘技場はあっちか?」

 

「ああ……しかし、セキュリティの関係で、勝手には入れない」

 

「なんだ、そうなのか」

 

「……入りたかったか?」

 

「うむ……戦国の世に生きる、ナイトとしてはな」

 

バルザックはニカッと笑う。

 

シーザーはそんな笑顔を向けられたことはなかった。

 

バルザックは問う。

 

「チケットを買えば入れるのか?」

 

「そ、そうだ……今週のチケットは全て売れているだろうが、来週のチケットならまだ、予約できるはずだ……」

 

「そうか。しかし一人では、心細いな……大闘技場は下手な街より広いと聞くし」

 

「……ツアーガイドを着けるというのも、あるぞ」

 

「分からないか? 貴君と一緒に見たいのだよ」

 

ドキン……再びシーザーの鼓動が乱れる。

 

「……いつだ?」

 

「いつ?」

 

「来週の、いつの試合だ、チケットを予約するのは……」

 

「ああ、来週は魔光の《パーフェクト・ギャラクシー》選手の試合があると聞くから、それを予約しようかな」

 

「……分かった。私も、予約しておく……」

 

「今日は案内をありがとう。私は適当な宿に泊まるよ。発言の責任は取る。来週はちゃんと待ち合わせ場所に来るから安心してくれ。おやすみ、シーザー」

 

「あ、ああ……おやすみ……」

 

 

 

 

シーザーの個室。

 

彼は木彫りの赤いドラゴンを抱きしめながら、眠りにつこうとしている。

 

脳内で電気信号がほとばしり、眠気が生じない。

 

シーザーは思う。あの赤いドラゴンは……初めて目立たないことで私を褒め、初めて私と肩を並べて歩いたあのドラゴンは……何だ。

 

鼓動の乱れが、止まらない。

 

私は、大変な病気なのかもしれない。

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