ワールド・オブ・ナイツ 〜戦国逃避行〜   作:無敵ざかり

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第2話 2人で見る試合

陽炎が昇るような熱気。

 

魔導回線を張り巡らせる石柱。その表面温度は、50度を超えているだろうか。

 

ここが地球の日本なら、蝉の声が聞こえるはずだ。

 

赤いドラゴン……バルザックは、夏らしい冷えた水を飲み干し、そして彼を見つける。

 

「カエサル、石柱の後ろで何をしているんだ」

 

「バ、バルザック……!」

 

石柱に隠れもじもじしていたシーザーを、バルザックは偽名で呼ぶ。

 

今日のシーザーは変装をしていた。野次馬避けの為に、わざわざ数店舗を巡り、買い揃えたコーデである。

 

シーザーも属するナイトの名家『邪眼』の一員アウグストが展開する高級ブランドの帽子やジャケットを身につけ、だいぶ張り切っている。彼の額を、色んな意味の汗が伝う。

 

シーザーはあの夜、来週は自分のことを『カエサル』と呼んで欲しいと伝えていた。

 

変装は上手くいっているのか、野次馬は集まってこない。

 

グレイテスト・シーザーのビジュアルは、鎧と武器の比率が多いからだ。

 

「さあ試合だ試合だ。行くぞ。私はE-A-X-Lの4934番で予約したが、カエサルはちゃんと隣でとれているか?」

 

「あ、ああ…ちゃんと4935番だ……問題ない」

 

そう。問題はない……シーザーは乱れる鼓動を抑えつつ、自分にそう言い聞かせた。

 

彼は今日までの1週間、木彫りの赤いドラゴンを強く抱き締めて過ごしていた。

 

 

 

 

ワールド・オブ・ナイツ 〜戦国逃避行〜

 

第2話 2人で見る試合

 

 

 

 

『本日も注目の対戦カード! 実況は《魔光実況ミラクル・ショー》がお送りします!』

 

2人が見守る中、試合が始まろうとしている。

 

『まずご紹介するのは、《魔光の不滅パーフェクト・ギャラクシー》選手! 魔力の残穢を羽根として振りまく魔銃が似合いすぎです!』

 

「完全な魔術とは何か……教えましょう」

 

『対するは、天雷の奇跡ミルザム選手! 天使対決、精霊対決です!』

 

「争うのは無駄なのですよ、すぐに終わらせて差し上げます」

 

『それでは試合開始です! レディ……ファイトォォ!』

 

「魔光の鉄槌です!!」

 

「静まりなさい!!」

 

二人の精霊の魔弾が、激突する。

 

 

 

 

「すごいなカエサル! これが戦国武闘会か!」

 

「バ、バルザックは……見るのは初めてか?」

 

「ああ。わたしは電子端末の使い方がよく分からなくてな。映像も見たことがないのだ。だから感動だな!」

 

「……そうか、試合を見るのは、やはり楽しいか?」

 

「ああ、楽しいぞ!」

 

ズキン……シーザーの胸が痛んだ。やはり自分は病気なのだとシーザーは思ったが、それよりも気になることがある。

 

彼は思う。バルザックは自分の目立たない気配りに気づき、褒めてくれた。対等に隣を歩いてくれた。生物兵器として作られた自分には、初めてのことだった。バルザックを近くに感じていた。

 

しかし、シーザーは戦いが好きではない。試合を楽しむバルザックを見て、急に彼を遠くに感じた。

 

「こう暑いとすぐ喉が乾くな。ほら、カエサル」

 

「え……」

 

バルザックの言動がシーザーの思考を打ち切った。

 

彼は冷たいドリンクを差し出している。

 

シーザーはそれを受け取り、言う。

 

「あ、ああ……体調を、崩してはいけないからな。水分補給は大事だ……」

 

「それもそうだが、暑い中飲む冷えたドリンクは美味いからな。これを楽しまなきゃ損ってもんだ」

 

シーザーは驚く。彼は生物兵器として必要とされる存在だ。彼は健康でなくてはならないが、楽しみは必要ないとされてきた。

 

なのに、この赤いドラゴンは『楽しめ』と言う。有り得ない。

 

こんなの、絶対にヤバいことだ……

 

シーザーは貴族らしい語彙を失い、内心そう思う。

 

顔が赤くなっているのは、きっと暑さのせいだ。そうに違いない。それ以外ない。

 

シーザーはドリンクを一口飲み、面食らう。

 

気泡が口内を刺激し、喉を流れ落ちていく。二酸化炭素を溶け込ませたドリンクの存在は知っていた。だが、こんなにも刺激的だとは……

 

「どうした?」

 

「い、いやその……初めてで」

 

「炭酸ドリンクが初めてなのか? 選手村で暮らす選手としては、珍しいのでは? この街ではどこでも売ってるのに」

 

「試しに飲んでみようと、思わなかった……」

 

「そうなのか、あまりこういう物は好きでは無いか? 口に合わないなら責任を取るぞ。水でも買ってこようか……」

 

「興味は……あった。だが試そうと思わなくて……でも、これは良い物だ」

 

「そうか。ならよかった」

 

甘くて刺激的で……そのドリンクはシーザーにとって、バルザックと重なった。体の内側に流れ込んで、内側から骨まで溶かしていくような……

 

シーザーは二重の甘さに浸る。

 

 

 

 

「攻撃が効かない……やはり、シールド・フォースですか」

 

闘技場で戦っている選手の片方、ミルザムが言う。

 

「不滅の精霊の究極の光盾……破れる者はいませんよ」

 

もう片方、パーフェクト・ギャラクシーは舞い上がり、背後の機構から光線を発射する。

 

光線が、ミルザムの装甲を貫く。装甲の中から、輝きが放たれる。

 

「奇跡の閃光で――世界を照らしましょう」

 

魔弾チェーン・スパーク! その魔弾が輝く時、敵対者は光の鎖に縛られる……!

 

「これは……なるほど、奇跡の力ですか」

 

「ダメージが通らないなら、身動きを封じてギブアップさせるまで。違いますか?」

 

「合理的な手ですね。しかしッ!」

 

パーフェクト・ギャラクシーは胸の装甲を開く。そこには砂時計があった。

 

「フォトン・クロック!」

 

光の砂時計は時ではなく、光の流れを司る。

 

「何っ!?」

 

光の鎖が逆流してパーフェクト・ギャラクシーから離れ、今度はミルザムを縛る。

 

「そんなものを仕込んでいたとは……!」

 

パーフェクト・ギャラクシーはエネルギーを集め、光の球体を作り出す。

 

「聖なる鉄槌を前に、言い残すことはありますか」

 

「……ありませんよ。言い争うのも、無駄ですから」

 

その言葉で、シーザーは甘さから現実に引き戻される。そう。主張をしても無駄なのだ――

 

光球が振り下ろされる。

 

『決着ーーっ! 《魔光の不滅パーフェクト・ギャラクシー》選手の勝利です!』

 

会場から歓声が上がる。

 

対照的に、シーザーは消沈していた。

 

「言い争うことは、無駄だと思うか?」

 

「……え?」

 

歓声が響く中、バルザックはシーザーに問いかけていた。

 

「主張をすることは、無駄だと思うか?」

 

「……私、は……」

 

シーザーはそれ以上、何も言えなかった。

 

大音量の歓声が、だんだん聞こえなくなっていく。音量はむしろ、増しているのに。

 

2人だけの世界が、そこにあった。

 

沈黙。

 

「……食事でもしに行くか!」

 

バルザックは、またニカッと笑うのだった。

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