ワールド・オブ・ナイツ 〜戦国逃避行〜   作:無敵ざかり

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第3話 ラストサムライ

「これだよこれ。この街に来たら、生タラコをたっぷり食べたかったんだよ」

 

「う、うむ……沿岸部以外で生タラコを食べられるのは、ここくらいとは聞いている」

 

バルザックは食堂のテーブルの上で、生タラコ丼を前に顔を(ほころ)ばせる。

 

さっきまであんなにギラついたり真剣な顔をしてたのに、今度は子供みたいな表情だ。

 

シーザーはそんな彼を見て、理解に苦しむと共に、惹かれてしまう。

 

「水文明のタラコ! 自然文明の米! 歴史上の敵対者同士が融和するこの戦国の世を表す、素晴らしい逸品だ。美味いし!」

 

バルザックは箸でタラコ丼をかき込んでいる。

 

箸が得意だなんて、まるで過去の遺物と化したサムライみたいだ。とシーザーは思った。

 

実際、当たらずも遠からずな気がする。バルザックにはどこか……住む世界が違うような、そんな気配を感じるのだ。

 

「どうしたカエサル。食べないのか」

 

「あ、いやいや……た、食べるぞ」

 

バルザックを見つめていたシーザーは、スプーンを手に取り、タラコ丼を口に運ぶ。

 

「美味い……!」

 

タラコもまた、シーザーが味わったことのないものだった。

 

何故か、今度はバルザックがシーザーを見つめてくる。

 

どこの世界に自分の食事シーンの需要があるというのだ。シーザーはそう言いたいが、言葉が出ない。気まずさを紛らわすため、タラコとご飯を次々口に運び……

 

 

 

 

むせた。

 

「ゴホッゴホッ!」

 

「大丈夫かっ?」

 

シーザーの帽子がずれ――顔があらわになった。

 

食堂が沸く。

 

「シーザー様だぁぁ!」

「こんなところにいらっしゃるなんて!」

「サ、サインください!」

「最強のナイトとこの距離で会えるなんて……」

 

野次馬達が詰め寄せる。

 

最強のナイト。やはり自分は個人ではなく、その称号で見られている。シーザーの胸が、ちくりと痛む。

 

「お前、ズルいぞ! 最強のナイトと2人で食事なんて!」

 

「ははは、いいじゃないか。彼はわたしの友人なんだから」

 

「「「友人〜〜!?」」」

 

無言ながら、シーザーも驚いていた。

 

(バルザックが、私を『友人』と……?)

 

 

 

 

ワールド・オブ・ナイツ 〜戦国逃避行〜

 

第3話 ラストサムライ

 

 

 

 

「孤高のシーザー様がお前みたいな馬の骨と?」

 

「なんだ、馬の骨は嫌いか? 馬の骨は走るのに適した美しい構造で……」

 

「そんな豆知識、聞いとらんわい!」

「まあまあ、ビワ……」

「シン! お前は悔しくないんかい!」

 

周りが褒めたてる度に、シーザーは締め付けられる。

 

最強のナイトという虚像。被せられた役割。そこにシーザーの人格はなく、覆面を褒められるほど、中身のシーザーは外へ出られなくなる。

 

バルザックは続けて口を開く。

 

「別に最強のナイトでもそうでなくてもいいさ。彼は気配りができて、好奇心も旺盛な面白い人だ」

 

「わ、私が……面白い……?」

 

「炭酸ジュース一つ、タラコ一つで、ここまで表情を変える者はそうはいないぞ?」

 

「私は……表情は薄い方だと思うが……」

 

「そうだー! シーザー様は無表情だから格好いいんだぞ!」

「いつもクールなんだから!」

 

感情を押し込めた、仮初(かりそめ)のクールを褒められる。シーザーはそうして、型に押し込められる。

 

「君達は見る目がないな。彼はこんなに感情豊かなのに」

 

「なに〜っ!?」

「まあまあ、ビワ……」

 

「はははっ!」

 

どうして紫電は、私の心を見抜いたようなことを言うんだろう。どうして紫電は……私の理想のような――

 

シーザーはもう、落ちていた。

 

 

 

 

「ま、シーザー様の高貴なお顔に表情を見出すお前の妄想力は評価してやる! せいぜいラストサムライに気をつけるんだな」

 

「ラストサムライ?」

 

それを聞いて、別のテーブルでもラストサムライの話がされる。

 

「お前も知ってるだろ? ラストサムライの噂」

「そりゃあな。ラストサムライと言やぁ、ナイトを狩るはぐれ者と聞く」

「でも俺達ナイトには、シーザー様が着いてるからな」

「ははっ! だから安心だよなぁ!」

 

「だよなー! シーザー様がいりゃ、サムライの生き残りなんて怖くないって!」

「ビワ、それは僕も同意……僕達生まれつきのナイトは奴が怖いけど……シーザー様がいれば、ね」

 

「ラスト、サムライ……」

 

ナイトの世を破壊すると言われる、禁忌の武器『魔導具』を振るう存在。

 

シーザーはその言い伝えを思い出していた。何を隠そう、シーザーは対ラストサムライを想定した兵器でもあるのだから。

 

「シーザー様の友達(笑)の兄ちゃん、本当気をつけろよ。あんたみたいなお上りさんのナイトが襲われるって噂だからな」

「サムライは心を操る呪術も使うそうです……本当にお気をつけください。そういえばお兄さん、お名前は……?」

 

「ああ、わたしの名は、バルザックだ」

 

「バルザックぅ〜〜? ははっ、ラストサムライの名前と似てるじゃねーか!」

 

「奴は『バルザーク』という通り名で呼ばれていますー……その名前を聞いたら、気をつけてください」

 

「しかもでっかい赤いドラゴンらしいぜ! まるであんたみたい……な……い、いや、まさかな……! あはははは!」

 

双子のナイトは笑う。

 

バキン。鎧が砕けるような、金属音。

 

紫の電光がバルザックの体をほとばしり、騎士らしい鎧が次々弾けていく。

 

魔銃も砕け散った。その中から、ゆるくカーブを帯びた剣が姿を表す。

 

甲冑を身にまとった、武者。今のバルザックの姿は、そうとしか形容できなかった。

 

「『バルザーク』の字名(あざな)を持つ拙者は、名を《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》と言う。いかにも拙者が、ラストサムライと呼ばれる者だ」

 

場が静まり返る。

 

「に、兄ちゃん冗談キツイって!」

「面白い奴だなー!」

 

紫電・ドラゴンは無言で剣を抜く。

 

「世の中はナイトばかりが跋扈する世界となった。サムライとして、その責任を取らねばならない」

 

その場のナイト達は冷や汗をかき、瞬時に魔銃を構える。

 

雨あられのごとく、魔弾が発射される。

 

瞬間――

 

ナイト達に魔弾が降り注いだ。

 

紫電は全てを弾き返していた。

 

「殺してはいない。安心してくれ」

 

シーザーは呆気にとられていた。

 

 

 

 

試合中の闘技場。

 

食堂から跳び立ち、そこに紫電・ドラゴンは降り立った。

 

『えっ、乱入者ですか? 今回そういうルールでしたっ……け……』

 

実況者もフリーズする。

 

『特級……テロリスト……?』

 

「サムライだ……」

「サムライだ……!」

 

「「「ラストサムライだ!!」」」

 

闘技場はパニックに陥る。

 

バッーー!! と、紫色の電光を轟かせる紫電。

 

その音と光で、観客は静まり返った。

 

「全員、かかってこい。命は取らん。誇りを――頂く」

 

紫電の言葉に、ナイト達は苛立つ。

 

テロリストに情けをかけられた上、命より大事な誇りを奪うと言われたのだ。

 

騎士の誇りにかけ、彼らは魔銃を手に取った。

 

観客のほぼ全てが、紫電の敵になった。

 

「キリモミ・ヤマアラシ」

 

紫電は消えた。

 

そして100人のナイトが倒れた。

 

「速えぇっ!」

「嘘だろっ……!」

 

また100人、さらに100人と倒れていく。

 

「バケモンがぁ!」

 

二丁の魔銃を構えたナイトが、紫電を狙う。

 

「双竜斬」

 

見えない速さで、紫電はそのナイトの背後まで跳んだ。

 

二丁の銃は粉々に砕かれていた。

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ……」

 

シーザーは必死で闘技場まで駆けていった。

 

今、紫電はどうなっているのか。それが気がかりで仕方がない。

 

彼が闘技場に踏み入ると……

 

膝を着いた血まみれの紫電と、彼に銃口を向けた大勢のナイトが目に入ってきた。

 

「バルザック!! いや、紫電!!」

 

シーザーが叫ぶ。

 

紫電は立ち上がる。

 

ナイト達が倒れ伏す。

 

「シーザー。全て……返り血だよ」

 

紫電は妖しく笑う。

 

シーザーは安堵した。安堵してしまった。そして……胸の内に暖かいものが広がった。

 

「こっちだ! ラストサムライを捕え……いや、殺せ!」

「いたぞ! かかれ!」

 

武闘会を守護する特殊部隊が駆けつけ、紫電を狙う。

 

紫電は応戦しようとするが、1万のナイトを切り伏せた後では、流石に立ちくらみがする。

 

まだ大量に残っている観客達も、紫電に銃口を向ける。

 

立ち向かおうとする紫電だが、しかし体が浮く感覚を覚えた。

 

シーザーが紫電を抱え、空へと飛び去ったのだ。

 

ナイト達は、唖然としていた。

 

 

 

 

「何の真似だ……シーザー」

 

「責任を取れ」

 

時折翼を羽ばたかせながら、シーザーはぽろぽろ涙を零して泣いていた。

 

「お前は『責任を取る』が口癖だっただろう」

 

「そうだが……」

 

「責任を取れ。私をおかしくした責任を取れ。サムライの呪術を私にかけたんだろう」

 

シーザーは続けて言う。

 

「1日中お前のことを考えてしまう。お前の表情1つで胸が暖かくも痛くもなる。お前が、お前が気になって仕方がない。お前のそばに居たい。お前に触れたい。なぜこんな気持ちにさせる。この術を解くまで、私はお前を許さない」

 

シーザーは、自信の持つ愛という感情を理解していなかった。

 

 

 

 

「……貴殿は、やはり面白いな」

 

「ふざけるな。私を弄んで、何が目的だ。何が、何が目的なんだ、紫電・ドラゴン」

 

「ナイトだらけの歪んだ世を正す。それが拙者の目的だ。今日の目的は宣戦布告だった」

 

「なら、なら私をくれてやる。最強のナイトを交渉カードに使え」

 

「……いいのか?」

 

「いいわけない。だが、何故だかそうしたい。お前の願いが叶って欲しい。全てお前の術のせいだ。卑劣な手を使うお前を、許さない。許さない」

 

「サムライが呪術など、根も葉もない噂だよ」

 

「嘘をつくな。私は騙されない。お前が私にかけた呪術を解くまで、私はお前を許さない」

 

「しかし、余計なことをしてくれた……ちまちま出てくる特殊部隊を倒し続けて、戦力を削ぐはずだったのに……」

 

紫電は続けて言う。

 

「これじゃ戻っても、1000万人級の大部隊が揃ってるじゃないか。こうなったら、逃げながら少しづつ倒すしかないな……」

 

「うるさい、うるさい。お前が悲しむと私も悲しいんだ。後でいくらでも協力してやる。今は私の呪術を、少しでも解け。それが最優先だ」

 

「……人目のない、例えばそう。森にでも、行くか?」

 

「……」

 

シーザーは紫電を抱えながら羽を傾け、無言で森の方へ飛んで行った。

 

2人の逃避行が始まった。

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