財団はどうしても異世界の調査をしたいようです。   作:Kudzubug

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第2話:異常存在はニコニコと微笑んだ

「やっぱりこれはフィールドエージェントの仕事ですね、私が対処します」

 

 さて……格好よく決めたところで、やはり怖いものは怖い、これまでに出た情報以外もあるなら聞いておきたい、取れる手段の選択肢は出来るだけ増やしておきたいのだ、如月はそう思いながら情報を整理することにした。

 そもそも触れたものが消失するという現象、いったいどういう原理だ?

 いや、異常存在に原理がどうのとか問うのはナンセンスか、自然法則を無視した現象を起こすから異常存在なのだ。

 ただこいういう魔法みたいな理不尽現象を起こすアノマリーが今まで未確認だったか? と言われればそれは否。

 過去にも似たような事例は観測されている、例えば……

 

「あの能力、やっぱり現実改変者……でしょうか?」

「その可能性はあります」

 原田が資料をぺらぺらめくりながら考え込んでいる。

 

 現実改変者……こいつらのヤバさは新人の頃に講習で散々叩き込まれた……が実際に対峙するのは初めてだ……如月は顔を引きつらせながらも現実改変者に対する財団の基本方針を思い返していた。

 

 財団の理念は異常存在の"確保""収容""保護"である、これは昔も今も変わってない、だが現実改変者への対処方法は例外だ、端的に言うと――

 

 殺られるまえに殺れ、だ。

 

 "確保"のリスクが高すぎる故、終了処分が優先される。

 通常は専用のチームが編成され、入念な計画の下に実行されるもので、一フィールドエージェントが対処に当たるには荷が重すぎる。

 

「可能性はありますが、予定通り作戦を実行します」

 原田が無慈悲にそう告げる。

 だが彼もれっきとした財団研究員である、何か考えがあるはずだと、如月は思っていることを正直に口にした。

「一応、終了処分を優先しない理由をうかがっても?」

 原田が気まずそうにこう答える。

「まず対象の能力を見る限り、終了処分が難しいです、それにまだ対象が現実改変者であると断定できません、仮にあの能力が現実改変によるものだとしてもスクラントン現実錨の配備には時間がかかります、触らない触らせないことを徹底すれば情報収集する余裕はあります、現に対象は自衛目的にしかあの能力を使っていません、それに……」

 原田はちらっと谷口に目を向けたがすぐに視線を戻しこう続けた。

「対象が対話を望んでる可能性が捨てきれません、交渉次第では"確保""収容"手段が確立できる可能性があります」

 谷口が口を挟もうと体を傾けたが、すぐにふてくされたように体勢を戻した、おそらく如月が到着する前に散々やりあったであろうことがうかがえる。

 如月も谷口の言いたいことは理解している、アノマリーの特性は外見だけで判断できるものではない。

 だが、あの人型実体がこちらに向けて何かしゃべりかけているのは事実で、対話を望んでいる可能性も否定しきれない。

 

「実際のところ、アレは何をしゃべってるんですか?」

 これまた気まずそうに原田はこう答える

「ドローンを近づけて観測を続けてはいますが、一定距離に達すると映像、音声共に不鮮明になり解析が困難です。

 唇の動きで推測した限りでは……助けを求めてるようにも見えます」

 

 わかってた、異常存在あるある過ぎて言葉も出ない。

 

 

 *

 

 

「それでは如月さんの装備の確認を行います、まずカント計数器で常に周辺のヒューム値を測定してください。ヒューム値が異常に低い、もしくは通常状態から急激な減衰を観測した場合、警報が鳴るようにしてあります。警報が鳴ったら速やかに退避してください」

 

 ヒューム値とは現実性の強度を示す値の事だ、通常は1hm。現実改変者は周囲のヒューム値を下げ、相対的に自身の現実性を高い状態に保つことで、周囲の現実を改変する。

 どの程度ヒューム値が下がると危険かというと、それは相手によるとしか言えないから明確な基準はないが現実改変が行われる際の――

 

 "周囲の現実性<現実改変者の現実性"

 

  という法則は共通しているから、スクラントン現実錨がない環境下なら周囲のヒューム値が下がったら逃げる、これが鉄則だ。

 

「それから、対象周辺は通信状況が悪いことがわかっていますがインカムは常に作動させておいてください、ボイスレコーダーの役割も兼ねています。またベースキャンプに収音マイクが設置してあります、通信不能な状態でも大声を出せば音声を拾えるはずですので緊急時は大声で伝達すべき情報を叫んでください、同時に周辺に配置した機動部隊が救出に向かいます、ただし対象を刺激する恐れがあるため、慎重に判断してください」

 

 緊急時に叫ぶのは"伝達すべき情報"――音声が録音されていても、自分ごと消失する可能性があるからだ。

 まさかこのような説明を受ける羽目になるとは……。

 如月は説明を聞きながら、まるで自分がDクラス職員に降格させられたように感じていた。

 

「武器の使用に関しまして、如月さんにはすでに機動部隊標準装備を身に着けてもらっていますが、緊急時のみ使用してください、扱い方は問題ないですね?」

 

 一応、一通りの訓練は受けている。

 ……役に立つとは思えないが

 

「最後に、この実験……いえ、すいません、この作戦での優先確認事項をお伝えします」

 

 ・対象が現実改変者であると確定した場合、作戦は即時中止。

 ・対象との意思疎通が可能かどうかの確認。

 ・意思疎通が可能な場合、対象の要求内容の確認。

 ・"確保""収容"手段確立に必要な情報収集。

 

 妥当な内容だ、対象が現実改変者だと確定出来れば、財団としての警戒レベルも格段に跳ね上がり、専門のチームが編成される、フィールドエージェントの役目はそこで終わりだ、如月個人としてはその方がありがたいと不謹慎ながらもそう思っていた。

 

「以上ですが、如月さんいけそうですか?」

 いけそうですか? なんて聞かれても『いけないですねぇ』なんて言える状況でないことくらい察して欲しい、如月はそう思いつつも威勢よくこう返答した。

「了解しました」

 

 *

 

 会話可能で且つ対象の不意の動作に対応できる距離は……ぎりぎり1.5mってところだろうか……。

 如月はそんなことを考えながら、アノマリーを目指して歩を進めている。

 

「現在距離、対象まで10m付近……」

 インカムはボイスレコーダーも兼ねている為、現状をつぶさに報告する、ベースキャンプからの応答はない、既に通信阻害領域に到達しているようだ。

 

 ……今、対象と目が合った。

 以降ずっと目で追われている……異常存在に自身の存在を認知されるのは気分の良いものではない、こればかりは未だに慣れることが出来ない。

 

「現在距離、対象まで1.5m付近、これより会話によるコンタクトを……」

 そうつぶやいた瞬間、気付いてしまった。

 対象は地面に接地していない、足元の地面が数センチえぐれていてその分、体が浮いている。

 

「異常現象を確認、対象は例の能力を常時発動させています」

 

(カント計数器は!?)

 如月はすぐさまヒューム値を確認する。

 針が揺れている、すごい揺れてる、が振れ幅はぎりぎり正常範囲内だ、警報も鳴ってない。

(うそでしょ!? 目の前で異常現象起こってるのにぃぃ!)

 本当は今すぐ逃げ出したい、この状況で対象に飛びかかられたらと思うとぞっとする、が退避条件を満たしていない。

 カント計数器をもっと、それこそ対象に触れるくらいまで近づけたら警報が鳴るかもしれないが、これ以上は危なくて近づけない、任務を続行する。

 

「対象から1.5m付近、カント計数器による測定ヒューム値は正常範囲内、これより会話によるコンタクトを開始します」

 そうつぶやき、バイザーを外して対象を改めて確認すると、異常存在はニコニコ笑っている。

 笑顔というのは人間にしか当てはまらない概念だ、自然界において人間がいう所の笑顔はたいてい威嚇や不快感を表す仕草である。怖い!

 そんなことを思っていると、対象が口を開いた。

 

「タスケテ……タスケテ……バケモノガ……」

 

 化け物? あのトカゲゴリラの事だろうか?仲間ではないのか?

 だが、あれを仲間と認識していないのなら、一応意味が通ることを話している。

「化け物はもういません、安心してください」

 こう返答すると……

 

「ダレカー、ケイサツヲー」

「キミタチハ、カンゼンニホウイサレテイル、タダチニハカイコウイヲヤメ……」

 

(あ、これは……)

 捕食者が獲物の"鳴き声"を真似して更なる獲物をおびき寄せるやつだと直感した。

 全身に鳥肌が立つ、反射的に逃げる体勢をとってしまうが恐怖で足が動かない、いや動かなくて正解かもしれない、確かにおびき寄せられたことに違いはない、が。

(まだ私は殺されてない、攻撃される様子もない、あきらめてはいけない、意思疎通!意思疎通の確認だ! 意思疎通意思疎通意思疎通……)

 

「わ、私の名前は 如月 華 です!」

 

 如月は、自分でも何を言ってるんだろうと思った、だが意思疎通といったらまず自分から名乗るのが筋だしセオリーだと、必死に自分を指さし、泣きながら自分の名前を連呼する。

 

「私の名前は 如月 華 です!」

「私の名前は 如月 華 です!」

 

「ワタシノナマエハ……」

 

 対象が如月の"鳴き声"を真似し始める、自身の手を自身の胸に押し当てて――

 

「ワタシノ、ナマエハ……」

 

 おかしい、キサラギハナと口にしない。

 もしかしたらこのアノマリーは自身をキサラギハナではないことを認識しているのかもしれないと、如月はそう希望を感じ取り、より激しく身振り手振りを交え自己紹介を繰り出し続けた。

 

「私の名前は 如月 華 です!」

「あなたの名前は何ですか!」

「あなたはいったい誰なんですか!」

 

 顔面をぐしゃぐしゃにしながらまくしたてる、すると――

 

「アナタノ、ナマエハ、キサラギハナ、デス」

 

「ワタシノ、ナマエハ……縺�▲縺ア縺�≠縺」縺ヲ縺ェ」

 

 !?

 目の前の異常存在は自分の鳴き声を”自己紹介”だと理解した。

 そう確信した如月はベースキャンプの収音マイクに向かってこう叫んでいた。

 

「ああああああーーーー!! 誰か! 誰か幼児向け国語教材持ってきてーーーー!!」

 

 異常存在は相変わらずニコニコと微笑んでいる。

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