Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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※この話にはS.T.A.L.K.E.R2本編の盛大なネタバレが含まれています。




Prologue
1.Welcome to Stalker!


 

 様々な機械やモニター類が所狭しに並ぶ部屋。その中央には大きな機械に繋がれた人一人入れる大きさのポッドが8つ、円形状に均等に並んでいた。

 その内の7つには幾つもの弾痕と血が付着している。少なく見積もっても年単位で放置されているであろうポッドと繋がる中央の機械には謎の青い石のような物が設置されている。

 見ているだけで息苦しそうになる部屋の中で一人の男がその場に立っていた。

 

 男の姿は明らかに無数の戦いを経験したと分かるほどの姿だった。

 黒いボディアーマーはあちこち銃創らしき後がある、手に持った武器は激しい戦いを経験したと一目でわかる。

 その身体は傷つき──自らの血かそれとも返り血か不明だが──あちこちが血に濡れていた。

 黒いフードの中に隠れたガスマスクに半分覆われた表情は明らかに疲れ切っていた。

 

 部屋の脇に設置してあるコンソールに大きなフロッピーディスクの様なカートリッジを挿入し、その横にあるレバーを引く。

 唯一何処も壊れていないポッドが立ち上がり、中に誘うかのように黄色のライトが点灯する。

 ポッドの正面に向かった彼は意を決したかのように入り込んだ後、内部のスイッチを押し扉が閉まっていく。大きな音を立て扉が閉め切られた途端、内部が水で満たされていった。

 

 

 

 ──男の思考は様々な感情で占められていた。

 期待・恐怖・不安・安堵……一見自殺にも見えるこの行動に彼は後悔していなかった。

 中に注水された水が彼の頭部にまで達する瞬間、彼は目を閉じ、その意識を手放した。

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 “彼の地”(ZONE)へ踏み込んだのは半分自暴自棄になっていた事も関係していたと思う。

 

 最初に覚えているのは爆発音、玄関の隙間から見えるのは炎と瓦礫、頭の中で目の前の惨状を否定しながら恐る恐るドアを開けると、なんということだ。自室が向かいの景色が見える程開放的な空間に変貌していた。

 

 (なにが、どうして)

 

 頭の中で必死に原因を考える中で一際目を誘う場所、吹っ飛んだ部屋の片隅──元々キッチンが設置してあった場所──に奇妙な光り輝く物質があった。

 外では爆発を聞いた近隣住民が何事かと窓から彼の部屋を覗き込み、消防車や救急車のサイレンが鳴り響く。

 だが彼は外の騒ぎなど気にも留めなかった──いや、気に留める余裕は無かったと言うべきか。彼の心中を占めるのは無残に吹き飛んだ自らの家と、目の前にあるアーティファクトと呼ばれる物質のみ。

 

 それを手に取った時が、全ての始まりであった。

 

 

 

 

 嫌気がさす軍隊生活に別れを告げた先はそこそこ安いマンションの狭い一室、そこが自分の家だった。大した貯蓄も無く、一人でタバコをふかし、安い酒でも飲みながらTVを観るには最適な家、ついでに力を失った石ころ同然の安物のアーティファクト「ダミー」を密輸しながら、そこで悠々自適の暮らしが待っていた筈であった。

 

 それが一夜にして吹っ飛び、気がついたら怪しい科学者の運転するトラックに乗って、2006年の二度目のチョルノービリ原子力発電所爆発が起きて以降、危険な異常現象とミュータントが蔓延る危険地帯へと変貌した空間〈ZONE〉へと向かっていた。

 

 理由は単純、ZONEでのみ手にはいる、現代の科学では説明がつかない特性を持つ物質…通称アーティファクトを見つけ出し、大金を手に入れ、家を買う。何とも俗っぽい理由だが突然自宅と全財産が吹っ飛んだ上、頼れる家族も友人もいない自分が取れる手段は少なかった。

 幸いにも自宅を吹っ飛ばしたこの謎のアーティファクトに興味をもった科学者──このトラックの運転手──と接触し、彼の協力で本来軍によって封鎖されているZONEへの侵入ができたのだ。

 

 ──本来アーティファクトはZONEの外で出現することはなく、ZONEの外へ持ち出せば力を失いただの石ころと化す。それなのにこのアーティファクトは自分が持っていたダミーの代わりに突然自宅に出現し、あまつさえ部屋を丸々吹き飛ばす程の力を見せた。

 自分が手に取った時はなんの変哲もない石ころと化していたが、それでもZONEの常識を覆す現象なのは変わりない。

 協力している科学者が用意したスキャナーと呼ばれる装置を使い、どこか信用しきれない情報屋が指定した地点でこの石ころ同然になったアーティファクトを蘇らせれば、大金が舞い込んでくる。それが計画であったのだが…

 

 

 『スキフ、応答しろ! 応答してくれ! ソルダーが裏切った。聞こえてるか? あの強欲野郎が俺たちを売ったんだ! 俺は…』

 

 

 情報屋に渡された地点が次々と期待外れの結果に終わり、最後の地点に希望を託してスキャナーを起動した時、事件は起きた。

 スキャナーを見つけ近づいてきた軍人らしき集団、息を殺しやり過ごそうとしたら突如高所から軍人達が狙撃され混乱する現場、情報屋が裏切ったと騒ぎたて通信が途絶える科学者、なんとかスキャナーを持ち出してその場から退避を試みた瞬間──謎の連中に殴り飛ばされ、スキャナーが奪われたと同時に空に向けて放たれた銃口、見逃された─?と思う暇も無く顔面に迫る銃のストック。

 目を覚ました時には装備の殆どを失い、ZONEの片隅に放り出される羽目となった。

 

 ──そこからは怒涛の日々であった。

 

 メインランド(外の世界)に未練は無く帰るつもりは無い、だがZONEにはなんのツテもアテも無い、かと言って運が悪かった、死んでないだけで儲け物と全てを忘れてZONEの住人(ローナーストーカー)として生きられるほど諦めは良く無かった。

 スキャナーとアーティファクトを奪った下手人を追い求め、色んな奴からあそこへ行け、あれをしろ、これを持ってこい、こいつを殺せ。とうんざりする仕事(ミッション)を押し付けられながらZONEを走り回った。

 

 

 真実を追い求める中でZONEの扱いを巡り対立する二つの派閥(ウォードとスパーク)を渡り歩いた

 

 

 スキャナーを取り戻す為にかつて滅びた組織(クリアスカイ)の跡地へ地獄の様な旅をした

 

 

 願いを叶える願望器(モノリス)を再稼働する実験に巻き込まれ冷酷な狂信者達(モノリサー)が目覚めるのを見た

 

 

 仲間(スパーク)と共にZONE中の人間の脳を焼き焦がす(ブレインスコーチャー)事を目論む狂信者達のリーダー(ファウスト)と戦い、勝利した

 

 

 放射能とアノマリーに包まれる死の街(プリピャチ)で抗う戦士達(軍団)とであった

 

 

 ZONEを消滅させようとする組織(ウォード)と戦い、司令官(コルシュノフ大佐)を倒し、計画を挫いた

 

 

 ZONEの伝説をこの手で終わらせた(ストレロクを殺せ)

 

 

 理想郷(シャイニングゾーン)があると信じ込み、他人の記憶を入れられ操られていた哀れな男(スカー)を殺した

 

 

 ZONEの最奥、全てが始まった場所をZONEの誕生以来守り続けていた兵士達(グラナイト-3)を全滅させた

 

 

 敵対した者たちを全て打ち倒し、ようやくたどり着いた。ZONEを利用しようとする者やZONEを守ろうとする者の様な人間達の意思では無く、ZONE自身の意思に全てを委ねる。それが彼の、スキフという男が選んだ結末であった。

 

 ──思えばこれまで誰かに言われるがままに戦ってきたな

 

 自分の意思でZONEの未来をZONE自身に委ねるという選択を選んだのはつい先日、それまでは自分を陥れた犯人や真実を探し求め、利害の一致とはいえ誰かの指示に従いながら行動してきた。メインランド(外の世界)にいた時も軍人としての毎日に嫌気が差し、自由になる為に辞めた矢先にZONEへと誘われた。自分が誰かに言われるがままに行動する人生ばかり歩んできた事に思わず苦笑したものだ。

 

 そんな自分が真の意味でZONEの意思を解放する為に戦うことを選んだのは、誰かに言いように解釈され、利用されるZONEという存在に同情したのもあるかもしれない。

 

 装置に入ったスキフを寝かしつけるようにポッドが倒れてゆく、目を閉じ、意識を手離した彼が目覚めることは、二度と無かった。

 

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 「………なんだここ。」

 

 地面に寝転がっていたスキフが目を覚まし体を起こした際、自らが異質な状況に置かれてる事は一目で判明した。彼が最後にいたのはZONEの最奥にあるエミッター、その中枢にある部屋の中だったはずだ。しかし、彼が今現在いるのは廃墟と化した都市のど真ん中。明らかに先ほどまで居たはずの場所ではない。

 

 「どうなってる…?確かに俺はエミッターに居たはず、共同意識体に接続し、ZONEの意思を解放した…したはずなんだ。じゃあ何故こんな所に俺は居るんだ…?」

 

 自分の記憶を整理し、自分が行っていたはずの出来事を一つ一つ確かめる。だがどう考えても自分がこんな廃墟と化した都市に寝っ転がって気絶していたのか一切分からなかった

 

 「この都市…プリピャチか?いや、あの街はこんなに現代的じゃない、まさかキーウ…それならどうして廃墟になっている?文字も建物も見慣れない奴だ、恐らく違う。」

 

 周りの都市を見渡しながら、自分の記憶にある都市を思い浮かべるがどれも違うと結論づける。プリピャチが廃墟と化したのは冷戦時代、もう数十年前の出来事で、こんな最近の街並みではない。それならば彼の母国であるウクライナの首都キーウが候補に当たるが国が違えば景観も変わる。間違いなくキーウの街並みでもないとスキフは結論付けた。彼がもう少し外国の事に詳しければ日本や中国のようなアジアの都市に雰囲気が似ていると気づけたであろう。

 

 「武器の状態は…なんとか大丈夫そうだな、弾薬もそれなりに残ってる。アーティファクトも無事、アーマーも…許容範囲だ。」

 

 何時までもこうして座り込んでいても仕方ないと、装備のチェックを手短に済ませ、出発の準備を整える。幸いな事に武器弾薬は消耗こそしていたものの十分戦える水準であった。どれも冷却塔からエミッターまで百人をゆうに超えるモノリス兵や超人の如き動きで戦うZONEの伝説と真正面から戦い続けた装備だ、多少のガタはきても可笑しく無いが手元にあるのはこれしかないので仕方ない。

 アーマーに関しては手持ちの武器より激しく消耗しているが、かと言って予備は持ち合わせておらず、直す術も今は持っていない。無いより十分マシではある為これで妥協する。

 最後にスキフはコンパスとタブレットの様な電子機器を取り出し、電源を入れる。 

 

 「期待はしてなかったが…やっぱり使えないか。こりゃあキツイな…まぁいい。」

 

 取り出したPDA──ZONEで広く使われる携帯電子機器──には『OFFLINE』の文字が浮かび上がっている、更にコンパスに至っては方位磁針はめちゃくちゃな位置を指しており役には立たなそうだった。

 ──そもそもPDAの位置情報機能はチョルノービリ周辺のZONE内でしか機能していない為、使えないのは半ば理解していたのだが。諦めた様にスキフはPDAとコンパスをバックパックの中に放り込む。

 最後に手持ちに残っていた瓶入りの水を飲み干した後、空になった瓶をそこら辺に捨てる。準備を整えたスキフは立ち上がり移動する事にした。

 

 「さてと…ミュータントが出るかアノマリーが出るか。」

 

 大丈夫、裸一貫でZONEに放り出された時もなんとかなったじゃないか。

 

 『誰だろうが死ぬ時は死ぬし、死なない時は死なない』

 

 やらかして降格を食らった軍人時代の上官の言葉をそれとなく胸に刻み込み、スキフは歩き出した。

 

 この世界が彼の居た世界とは全く違う世界だと言うことも、この空間が「ホロウ」と呼ばれる異空間だと言うことも、ホロウに蠢く怪物が存在する事もスキフは何も知らなかった。

 

 それでも彼はホロウの中を進んで行く。かつて何も知らないZONEの地をその足で進んで行った時の様に。

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 「ついてくるなミュータント共!畜生、 あんな事するんじゃなかった!У, мать вашу!(このクソが!)

 

 自身の迂闊さを呪いながらホロウの中をスキフは全速力で疾走していた。

 口汚く罵りながら狙いを付けずに真後ろへ向かって自動小銃を乱射する。狙いを付けていないにも関わらずその大半がスキフの後ろを追うミュータント──黒と緑の結晶の様なボディと一際目立つ小さなブラックホールのようなコアを持つ、ホロウの中に生息する怪物「エーテリアス」──に運良く命中し、何体か倒れていく。

 しかし先ほどの射撃で数体のエーテリアスを撃破した事にスキフは一切気付かなかった、なにせ今、全身全霊で逃走するスキフを追いかけてるエーテリアスは、数十は下らない数なのである。

 

 

 

 ───スキフが大量のエーテリアスに追いかけられる少し前

 

 「……あれは新種のミュータントか?」

 

 スキフがホロウを当てもなく彷徨っている中、突如妙な存在が彼の目に写った。周辺の建物を侵食している謎の物質と同じ様な、黒と緑のボディと身体にある黒い球体を持つ存在、離れた場所から銃のスコープで観察しながらスキフは自らの経験則からミュータントの一種なのでは?と考えていた。

 だがその怪物はスキフが遭遇した事のあるZONEのどのミュータントとも特徴が一致しなかった。ZONEのミュータントはどいつもこいつもグロテスクな見た目が主で、一応有機生命体だと言うことが一目でわかる存在だった。

 それに引き換えにスコープ越しに見える怪物はどう見ても生物に見えず、どちらかと言うと彫像の様な見た目をしていた。少なくともタンパク質で構成されてそうには見えない。

 

 (……よし、少し撃ってみるか)

 

 スキフは銃のセレクターを解除し、狙撃姿勢を取る。一見、未知の敵に対し迂闊に手を出そうとする愚か者に見えるが、当てもなくホロウを彷徨う中であの様な怪物に遭遇するのであれば、自身の持つ武器が通用するのかどうか確かめる必要があったのだ。

 幸いこの距離なら気づかれてもどうにでもなる位置だったのも大きい。

 

 スキフが今手に持っている『ASラヴィナ』と言う自動小銃は9x39mm亜音速弾を使う貫通力が高いアサルトライフルである、重装備の兵士や頑丈なミュータント相手でも致命傷を与えられるこの銃は狙撃用の小銃を自動小銃化した物でスキフが気に入っている銃だ。もしこの銃が通用せずとも今のスキフはちょっとした軍隊並みの装備を保有している。

 

 スリングにぶら下げて何時でも構えられる様にしてあるドラムマガジンをつけた強力なセミオートショットガン『サイガD−12』

 背中のバックパック上部に括り付けているのは7.62x54mm弾を数百発連続で撃てる機関銃『RPM−74』

 バックパックの中には非常用の武器として片手で45口径弾を瞬時にばら撒く事の出来るSMG『M10ゴードン』

 腰のホルスターには大半のミュータント相手には流石に火力不足が否めないが最後の手段でもある軍時代から愛用している『スキフのPTMピストル』

 

 これらの武器に加えて多数の手榴弾と切り札(・・・)を保持しているのだからあの未知の人型ミュータントくらいはなんとかなるだろうという考えでスコープ越しの怪物──エーテリアス──に銃弾を放った。

 ライフルから放たれた弾丸は一瞬でスキフとエーテリアスの距離を通過し、エーテリアスの胸に命中する。サプレッサーが搭載されている為銃声は殆ど吸収された。

 突然の攻撃に撃たれたエーテリアスは混乱し、自らを撃った敵を探し出そうとする。しかし更にもう数発弾丸が飛来、弾丸はエーテリアスの身体を貫き、黒い人型の怪物は倒れ、消滅していった。

 

 余りにもあっけなく倒せた事にスキフは些か拍子抜けした。確かに強力な徹甲弾を使い、人間の急所に当たる心臓部を狙ったとはいえ数発程度で倒せるならあのミュータントは大した事は無さそうだなと、幾ばくか気持ちが楽になった。

 スコープを動かすと仲間がやられた事に気付いたのか似た形状のエーテリアスが多数ノロノロと奥の建物から現れる。

 少数ならば殲滅も視野に入れていたが、あくまで目的は武器が通用するかどうかのテストだった為、早々にその場を離れようとした瞬間──スコープ越しにエーテリアスと目線が合った気がした。

 

 そもそもエーテリアスに顔が存在するのか分からない、頭部に当たる部分は黒い球体が浮いており表情なんて存在しない…が間違いなくスキフとエーテリアスの目が合った。

 とっさにスキフはバックパックの中に手を突っ込み、缶のドリンクを出来るだけ取り出しポケットに入れ──全速力で走り出した。スキフと目が合ったエーテリアスは雄叫びを上げたと同時に奥の建物から次々と大量のエーテリアスが飛び出し、スキフの元へ向かって走り始めた。

 

 そして現在、スキフはものの見事に大量のエーテリアスとの追いかけっこを繰り広げる羽目になったのだ。

 

 (数が多すぎる!ドリンクももう無い、あの数に追いつかれたら骨も残らない…というか奴ら捕食なんてするのか!?)

 

 大量の怪物に食い殺される最悪の結末とそもそもアレは捕食行為なんてするのかと頭の中で思い浮かべながらスキフは最後の缶を取り出し「NON STOP」と書かれたエナジードリンクを走りながら器用に飲み干す、すると失った活力が戻り削られたスタミナが一瞬で回復していく。端から見て非常に重装備のスキフが全速力で走り続けられているのはひとえにこのエナジードリンクのお陰であるが、手元にある分は全て使い切ってしまった。

 

 「クソっ!何か手を打たないと。あれは…踏切と…駅か?……よし!」

 

 最後のドリンクを使い果たし、スタミナを瞬時に回復させる手段を失ったスキフは視界の先に踏切とその近くに駅の様な建築物を発見した。

 即席であの大群をなんとかする作戦を立てたスキフは踏切に入り線路に侵入する。エーテリアス達が踏切に入り込んだ瞬間、足元で小規模な爆発が起き複数のエーテリアスを巻き込む。踏切に逃げ込む瞬間、手榴弾を転がしておいたのだ。

 スキフは駅のホームへ登り、迫りくるエーテリアスにASラヴィナの徹甲弾をありったけ叩き込むが突如金属が噛む音が鳴り響き、引き金が引けなくなる。

 

 畜生、と心の中で悪態をついた、ちらりと排莢口を見ると見事に空薬莢が挟まれてる。少しでもエーテリアスの足止めをする為に走りながら撃ち続けた結果給弾不良(ジャム)を引き起こしたのである。

 給弾不良を直してる暇はない、ただの金属の塊と化したASラヴィナを適当な場所に放り投げ、手榴弾をホーム下のエーテリアスに向けて投下する。ホームによじ登ろうとしたエーテリアス達は更に多数が吹き飛んだ。

 

 僅かに時間を稼いだスキフはホーム間を繋げる連絡通路へと階段を駆け上る、その間手持ちにある幾つもの手榴弾を一つ残して全て階段にばら撒いて置く。

 ホームを乗り越えたエーテリアスが階段に殺到する、それなりに数を減らした筈であるが全くその様子を見せない、連絡通路へ続く階段の最上段にスキフは待ち構えていた。

 

 「Підірвися!(吹き飛べ!)

 

 そう叫んだスキフは最後の手榴弾を階段に密集したエーテリアスに向けて転がし、自分はとっさに連絡通路の奥へと駆け出した。

 スキフが転がした手榴弾は事前にばら撒いて追いた手榴弾のそばで爆発──その瞬間次々と手榴弾が連鎖爆発を起こし階段のエーテリアス達を粉々に吹き飛ばした。

 大量の対人手榴弾の爆発は駅の階段を激しく揺らした。流石に階段全体を破壊する程の威力は無かったが、爆発の衝撃が余すこと無く階段に集まったエーテリアスに全て直撃する。

 

 さしもの威力にエーテリアスの集団も半分以下まで減っているが、残存するエーテリアスは怯むどころか寧ろスキフに対する怒りが最高潮に達していた様に見えた。

 大勢の仲間を殺した人間を必ず仕留めてやると誓う──果たして彼らにそうした知性や感情が存在するのか不明だが──エーテリアス達は階段を駆け上る、そこに何が待ち受けてるのか知らずに。

 

 

 駅の連絡通路の先、反対側のホームへ続く階段のそばにスキフは陣取っていた。バックパックからRPM−74機関銃を取り外し片膝を立てた姿勢で構える、床にはすぐに手が取れる様に予備のベルトリンク(弾帯)が詰まったボックスマガジンが置いてあった。

 腰と左肩にはサイガとSMGを即構えられるようスリングを調整しており、エーテリアスが突破した時の備えもしていた。

 スキフのすぐ横にあるホームへの階段からはエーテリアスは来ないだろう、最初に駅を見た時に反対のホームは脱線した電車と結晶の様な障害物で乗り越えるのは難しいと判断した。後ろは気にしなくていいだろう。

 この位置はスキフが登ってきた階段から入って来たエーテリアスを一方からの突撃に限定し、機関銃の射線を最も効果的に通す事の出来るキルゾーンであった。もし仕留めきれずに突破されそうになるなら横の階段を降りていけばキルゾーンを維持しながら後退もできる。

 

 「Давай!(来やがれ!)ミュータント共!」

 

 7.62x54mm徹甲弾を毎分750発で発射可能な機関銃が火を噴き、次々と連絡通路に押し寄せたエーテリアスを大量の鉛玉が粉砕していく。それでも少しずつスキフとの距離を縮めていくがその度に多くのエーテリアスが倒れ、消滅していった。

 300発が詰まっている弾倉は休まず撃ち続けた為に銃身が加熱しあっという間に空になる、対するエーテリアスはあれ程居た数を減らし、僅か数体にまで減っていた。

 

 それでもエーテリアスは目の前の人間を引き裂こうとスキフに向けて突っ込んでいく。スキフは機関銃を手放し、冷静に肩に掛けたスリングからセミオートショットガン・サイガD−12を装備し、残りのエーテリアスへと向け、発砲する。装填されているバックショット弾から飛び出た無数のペレット弾は僅かに残ったエーテリアスを容易く排除し、漸く目の前からエーテリアスが消え伏せた。

 

 

 

 「終わった……のか…?はははっ!ザマァ見ろミュータント共!あっははは………あークソ腹が減った。後で銃も回収しないとな…」

 

 エーテリアスが全滅した事を確認したスキフはその場に座り込む、安心したと同時に腹の音が盛大に鳴り響く。逃走中に浴びるほど飲んだNON STOPエナジードリンクの副作用の一つだ。

 何か腹に入れたいがその前に機関銃のリロードだけ終わらせておく。装填作業を行いながら先ほど放り捨てた自動小銃を回収しなければと考える。

 

 (なんとか切り抜けたが状況は何も変わってないよな…弾薬も残り僅かだし手榴弾ももうカンバンだ。クソ、どっかに補給出来る場所はあるのか?)

 

 大量のエーテリアス達を殲滅したものの、スキフ自身が置かれた状況は何一つ好転していないどころか大量の弾薬や手榴弾等を失い寧ろ状況は悪化したと言える。

 機関銃のリロードを終え、コッキングをし弾薬を薬室内に送り込む。これからどうするかと気分が重くなり空を見上げる。

 この連絡通路の屋根は一部が崩壊しており、ちょうどスキフの真上から空が見えた。

 

 

 ──ZONEの空よりもずっと澄んだ空を映す連絡通路の屋根に“ソレ”は立っていた。

 

 

 先ほどまでスキフを追いかけてたエーテリアスよりもはるかに背が高く、明らかに身に纏う雰囲気が違っていた。

 右手はまるで剣のように変貌しており、左手は全身を覆うように盾となっている。

 首無し騎士(デュラハン)を思い浮かべるような風貌のエーテリアスが、スキフを見下ろしていた。

 

 ───一撃目

 

 スキフが声に鳴らない叫びを上げながらとっさに”機関銃そのもの“を目の前の怪物に向ける。この判断は彼の命を救った、もし銃口を向けようとしていたら彼は死んでいただろう。

 長身のエーテリアスが放った斬撃は機関銃を真っ二つに切り裂いた。地面に機関銃だった物や弾帯から飛び出た弾薬が地面に落ちる。

 

 機関銃本体を盾にした事で僅かに斬撃がズレ、スキフが回避できる隙を生み出した。スキフは回避した先──真横のホームへ続く下り階段に飛び込み転がり落ちていく。

 段差に身体を打ちつけながらも頭部はしっかり守る。ホームまで落ちたスキフは直ぐにショットガンを取り出し階段の上の連絡通路へ向ける。だがそこにはあの首無し騎士は居ない。

 何処に消えた…?と考える暇も無く連絡通路の壁が破壊される音が鳴り響く。

 

 ───二撃目

 

 連絡通路の壁を破壊し、電車に飛び降りたエーテリアスはスキフに向かって跳躍し、剣を振り下ろす。

 間一髪で回避したスキフはショットガンを構えるのでは無く腰のスリングにぶら下げたM10ゴードンを片手で乱射、マガジン内の45口径弾が一瞬で吐き出されるが巨大な盾に防がれ、全く通用する気配が無かった。

 空になったSMGを手放しショットガンに持ち替え残った全弾を目の前のエーテリアスにぶつけようとする。

 しかし、ショットガンを構え直した僅かな時間でエーテリアスはスキフとの距離を瞬時に詰めて来た。

 

 ───三撃目

 

 ショットガンの引き金を引くより早く、エーテリアスの巨大な剣がスキフの腹を切り裂いた。質量差も相まってスキフの身体は跳ね飛ばされたかのようにホームの隅へと吹っ飛んでいく。隅に無造作に積み上げられた箱やコンテナ類に衝突し、積もった埃が舞い上がる。

 勝負あった。エーテリアスの剣には血がべっとり付着していた。確実に致命傷であろう。止めを刺すためにエーテリアスはゆっくりと歩いていく。まるで断頭台の処刑人の様に。

 

 

 

 ───一発目(・・・)

 

 

 

 突如、スキフが吹き飛ばされた方向。埃と残骸に包まれた箇所から甲高い音が鳴り響き、埃が吹き飛ばされ、エーテリアスの右足を引きちぎった。

 

 片足を失ったエーテリアスはその場に崩れ落ちる、何が起きたのか理解していない様だった。

 舞い上がった埃が消え失せ、スキフの姿が見える。彼は大型のライフルの様な、肉厚の銃身に多数のコイルを兼ね揃えたガウスガン『EM−1』をこちらに構えていた。

 スキフの姿はボロボロであったが、先ほどの攻撃で明らかな致命傷を受けたようには見えなかった。いや、寧ろ肉体的には無傷の様に見える。

 彼が保有する、科学では説明のつかない現象を引き起こすZONEの奇跡「アーティファクト」その力がスキフを先ほどの攻撃からその身を救ったのだ。

 

 

 階段や壁に何度も打ち付けた筈のガウスガンに傷はない(リキッドロック)

 

 回避し続け消耗した筈の体力は既に回復している(サンダーベリー)

 

 腹を切り裂かれ流れ落ちていた筈の血は完全に止まった(ハイパーキューブ)

 

 容易に命を奪う筈だった斬撃と衝撃の威力は致命傷を回避する水準まで低下した(コンパス)

 

 確実に失われた筈の生命力はあの短時間で元に戻った(ハート・オブ・チョルノービリ)

 

 ───二発目

 

 エーテリアスが剣を振り上げようとした刹那、右腕が肩ごと粉砕される。

 

 ───三発目

 

 咄嗟に身を守ったエーテリアスの盾に衝撃が走り、盾がひび割れる。

 

 ───四発目

 

 二度目の直撃で完全に盾が崩壊し、スキフの攻撃に抗う手段が失われる。

 

 ───五発目

 

 最後に残った左足を吹き飛ばされ、力なく地に伏せる。

 

 四肢をもがれたエーテリアスにガウスガンを構えたスキフがゆっくり歩いていく、まるで断頭台の処刑人の様に。

 最早抵抗する力を失ったエーテリアスを脚で踏みつけ、胸に当たる部位に銃口を押し当てる。

 

 「倍返しだ、クソミュータント。」

 

 ───六発目

 

 放たれた弾頭は胸部を粉砕し、光の点滅の様なエフェクトを残して首無し騎士のエーテリアスは消滅した。

 




 
 スキフ君の装備は自分がゲームをクリアした時の装備を参考。


 ◇アーティファクトの解説
 アーティファクトとはZONEの中で生成される特異な物質。主にアノマリーが集中している地点で探知機を使うと入手可能。
 ゲームに於いては装備すれば様々なバフを与えてくれる一方、大半のアーティファクトは放射能汚染を引き起こすデバフがある為、放射能汚染を軽減するアーティファクトを同時に装備したり、アーマーをアップグレードするなどして対策する必要がある。

スキフ君が持つアーティファクトは全て伝説級と呼ばれる最高レアのアーティファクトであり、その効果はゲーム性を変えると言っていいと断言出来るもの。

 ◇リキッドロック
 化学汚染防護、放射能防護、装備の耐久値増加の効果を与えてくれる優柔なアーティファクト。特に伝説級の中で唯一最大の放射能防護効果を持つ為、伝説級のアーティファクトを組み合わせるには必須とも言える。

 ◇サンダーベリー
 最大レベルの放射能汚染を引き起こす代わりにスタミナの回復を凄まじい程上げてくれるアーティファクト。少し足を止めれば2秒程度でスタミナを全回復してくれる物。これが有ると無いとで移動のストレスが大幅に違う。

 ◇ハイパーキューブ
 同じく放射能汚染がかかる代わりに出血状態を一瞬で治してくれるアーティファクト。このゲームでは敵の攻撃を受けると出血状態になり、包帯等で止血しないと体力がどんどん減っていく。しかしこれがあれば攻撃を受けなければ数秒で血が止まる為、戦闘難易度と荷物容量がぐっと下がる優れもの。

 ◇コンパス
 前作にも登場した事のあるアーティファクトで、汚染の代わりに物理防護力を最高まで上げてくれる。終盤、敵の一部がほぼ一撃死や瀕死にする攻撃を行ってくるがこれがあればダメージを大きく下げ、ゲームの難易度そのものを下げてくれる。特に最終ミッションでその効果を実感できるだろう。

 ◇ハート・オブ・チョルノービリ
 ST.A.L.K.E.R.2のサブタイトルにもなっている物語の根幹を成す最重要アーティファクト。ZONEの伝説にして初代SOCの主人公ストレロクが持っている伝説のアーティファクトで、最終盤の一連のミッションで入手が可能なクエストアイテム。効果はゲーム内に書かれていないものの装備すれば攻撃を受けていない時に体力を自動回復してくれる効果を持つのだが…
 
 ストーリー終盤、ルート次第でストレロクと戦う事になるのだが彼はこのアーティファクトの力を凄まじい程引き出し、ZONE内を自在にテレポートしたり超スピードで瞬間移動じみた動きをしたりアノマリーを生み出したり等、ゼンゼロ世界でもやっていけるんじゃないかと思わせる動きを見せてくる。

 ゲーム全体の戦闘がリアル寄りなもっさりした様な感じなのに対して出るゲームを間違えてる様な動きをしてくる彼は流石の初代主人公とも言えるだろう。
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