Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In 作:路肩の石ころ
外来種との戦闘で負傷した猫又を治療する為、ZONEの中心部に位置するロストクへと向かうスキフ達。
ミュータントやアノマリーに気をつけながら、リヒターのガイドの下、プラントから西へ、ガーベジ地域の中央を進んでいたのだが……
「
「何なのよアレ!急に空が赤くなったと思ったら凄い音が響いてくるし!一体何が起きてるのよ!?アノマリーなの!?」
「スキフさん!まさか、あれがかつてZONE制圧部隊を壊滅させたって言う…!」
「ああそうだよ!あれが
一行は空を赤く染め上げ迫りくる、破滅の嵐から全力で逃走していた。
少し前───
「このルートで進めば、アノマリーにもミュータントにもあまり出くわさない筈だ。」
「リヒターのルート。確かにアノマリーが少ないわ。能力は確かみたいね。」
「俺はZONEのプロキシ、つまりガイドだからな!何処にアノマリーがあるか、ミュータント共が巣を張ってるかは大体把握してんのさ。君たちはスキフを連れてきてくれた恩人だから、今回のZONEツアーは案内料は取らないよ。だけどまた今度ZONEに来た時に雇うなら払ってもらうぜ。」
「二回目ねぇ………あっ、あのアーティファクト…」
ニコはビリーに背負われて未だに眠る猫又を見る。彼女が死にかけた事でアーティファクトを大量に回収して大金持ちにと言う計画への意欲が急速に失われつつあった。
ホロウでの活動も命懸けではあるのだが、基本的に侵食のタイムリミットに気をつけていれば脅威はエーテリアスのみのホロウと違って、ZONEでは一歩踏めば死ぬアノマリーの存在が大き過ぎた。
あの倉庫内での戦闘でも、アノマリーのせいで回避や迎撃がかなり制限されていたのだ。外来種だけなら何とでもなったがそこにアノマリーが加わると途端に危険度が跳ね上がった。それでも捌くことが出来たのは彼女達が実力者故か。
勝手知ったるホロウならともかく、邪兎屋にとってZONEは未知の場所、全く情報が無い領域だ。慣れろ、と言うのは簡単だがそこに行くまでに大事な
そう言えば、猫又の命を救ったあのアーティファクトはどうしたのだろうか、スキフが回収した覚えが無いのでニコは聞くことにした。
「ねぇスキフ、あんた猫又に使ったあのアーティファクト……あら?空が…」
「ニコ、ミュータント達が何処かへ逃げて行くわ。」
「なぁ…スキフの兄ちゃん…突然雷が鳴って来たんだけど…」
「これ…トリガーから聞いた…」
『ホロウレイダーズ!エミッションが来るぞ!外に居るやつは急いで頑丈な建物に隠れろ!近くに建物が無いなら頑張って走れ!』
『ZONE駐留の全防衛軍に告ぐ、エミッションが確認された。全ての隊員は直ちに付近の堅牢なシェルターに避難せよ。繰り返す───』
「君たち全力でついてこい!急げ!」
突如、空が赤くなり、雷が鳴り響き、ミュータントの群れが何処かへ逃げ出し始め、極めつけはスキフとリヒターのPDAから全周波数で警告放送が発せられたのである。
混乱するアキラと邪兎屋と違い、スキフとリヒターはそれを聞いて、血の気の引いた顔を合わせ、全力で走り出し、他の面々も急いで二人についていった。
「リヒター!お前が向かってるのは多分“アレ”だよな!?」
「正解だスキフ!この近くでエミッションを避けるならフリーマーケットしか無い!」
「やべぇ!店長が遅れてるぞ!」
「プロキシ先生…!捕まって!」
「ご…ごめ…アンビー…!」
「リヒター先に行け!俺はプロキシを連れてくる!」
この世の終わりを思わせる様な景色が辺りを照らす中、一番運動神経が劣るアキラが脱落していく。息は上がり、足も縺れかけそうな彼を、スキフとアンビーは二人で抱えて何とか破滅の嵐から逃れられる唯一の場所に辿り着こうと全力で足を動かす。
すると、視界の先に壁一面のみ残して崩壊した様な、ボロボロの建物が見えてきた。
「見えたぞ!フリーマーケットだ!中に入れ!」
「ねぇ本当に彼処で大丈夫なの!?どう見てもアレ防げなさそうな程開放的すぎるんですけど!?」
「だから彼処の地下しか隠れる場所は無いんだよ!スキフ!急げ!」
リヒター達が一足先にフリーマーケットの側にある地下室へ続く階段に入って行く、一方でアキラを抱えるスキフ達の背中に、大きな爆音と風が迫って来た。
「スキフさん…アンビー…!ごめん…」
「謝るくらいなら足を動かせ!生き残ったら聞いてやる!」
「スキフ!嵐がやって来るわ!」
『ホロウレイダー!エミッションが来るぞぉ!備えろぉ!』
『エミッションが直撃する!防衛軍の全ての兵士は急ぎ───』
「もう目の前だ!頑張れお前ら!」
「スキフ!急げぇ!」
最終警告が鳴り響く中アキラは勿論、アンビーですら顔が青ざめていく。リヒターが階段入り口の前で必死に叫ぶが、後少しと言う所で無情にもエミッションの奔流がすぐ後ろに迫りくる。
「リヒター、受け止めろ!アンビーも飛び込め!」
「うげぇ!」 「うわっ!」 「くっ!」
スキフがアキラをリヒターに向かって放り投げ、アンビーもそれに続いて階段へ飛び込む。僅かに遅れてスキフは、背中が焼ける感触を受けながらも何とか地下に飛び込んだ。
──そして、ZONEに存在する全てを、灼熱の激流が覆い尽くした。
◆ ◆ ◆
何とかエミッションを回避出来た一行は暗く、ジメッとした狭い空間で肩を寄せ合っていた。未だ眠る猫又を横にしている為、狭いスペースが更に狭くなっている。
負傷しているとは言え、こんな状況でスヤスヤ眠る猫又に少し怒ったのか、アンビーは猫又の頬を優しめに突き回している。
「あぁ…エラい目にあった。すまないスキフさん。」
「アレを初めて見て面食らわない奴なんて居ないさ。生き残った事を喜ぼう。」
「あんなん食らったら全員ローストになっちまう所だぜ…」
「ローストなんてもんじゃ無い、
「最早何でもありねZONEって……ねぇスキフ、リヒター、あの嵐って頻繁に起きるの?」
「あー…確か、俺はZONEの奥地に誰かが近づくと起きるって聞いたな。」
「噂ではそうだな、或いはZONEに侵入したエーテリアスの数が一定に達すると起きるって説もある。
今日に至るまでエミッションの周期は全くわかっちゃいない。確か最初に確認されたのがZONE制圧部隊の連中がZONEの奥地に辿り着いた時だ。
そん時は突然の事にZONEに何とか慣れてきた制圧部隊が殆ど壊滅しちまって尻尾を巻いて逃げる羽目になった訳よ。
その後不定期に起きるから、外で活動するなら気をつけなくちゃいけない。まぁ一回起きれば暫くは来ないからいいんだけどな。」
突然のエミッションの襲来に全員が憔悴していた。リヒターもまさか自分の命が助かった後、真っ先に遭遇するとは思わなかったのだろう。
元いた世界でスキフは
だがこの世界におけるエミッションの原因はスキフには流石に分からなかった。
「多分、エミッションが収まる頃には暗くなってるだろうな、悪いけど皆ここで夜を越すぞ。動けない負傷者を抱えて夜のZONEの移動は危険過ぎる。スキフ、俺と交代で見張り頼めるか?」
「ああ、構わない。」
「店長…俺こんな所で寝ると身体が錆つきそうだぜ…」
「仕方がないよ、ビリー。流石に夜に猫又を抱えながらアノマリーとミュータントに対処するのは、今の僕達には厳し過ぎる。」
「そうよスキフ。あんた猫又助けた時にアーティファクト使ったじゃない。あれ、持ってこなくて良かったの?」
アキラとビリーがボヤキながら出来るだけ地面が湿ってない場所を取る横で、ニコはエミッションが到来する直前、スキフにアーティファクトの事を聞こうとしていた事を思い出し再度聞いた。
「プロキシとアンビーが猫又を引っ張り出した時、彼女の手から落ちてアノマリーの中に置き去りにされた。ああしてると、アーティファクトがアノマリーに食われて消えてしまうんだ。ああ、悪いとか別に思わないでくれ、あいつの命に比べたら安いもんだ。後、アーティファクトならまた手に入れるさ。」
「………分かったわ。あんたはZONEで生き抜いて来たみたいだしね。楽しみにしとくわ。」
「生き抜いて来た…?」
スキフとニコの会話を横で聞いていた、地下室の出口を見張っていたリヒターはスキフがZONEで生き抜いて来たと言う言葉に少しばかり怪訝な表情をした。それに気付いたスキフは最初リヒターに、自分はZONEに来るのは初めてだと言っていた事を思い出した。確かに、スキフはこの世界のZONE自体に来るのは初めてだったが、それでも嘘をついていたことには変わりない。
スキフが説明しようとするがリヒターの「事情があるんだろ」と言っている様な表情に気がついた。彼に心の中で謝罪をし、次の見張りの時間まで眠る事にした。
◆ ◆ ◆
「君たちおはよう!そろそろ出発するぞ!ロストクまでもう少し頑張ろうか!」
「お前ら、よく眠れたか?」
「おはよう、スキフさん…リヒターさん…身体中バキバキだよ…」
「うっわ店長、ほっぺたにすげぇ跡が付きまくってるぜ。」
「ああ…早くシャワーとベッドが待ってる家に帰りたいわ……アンビー?どうしたのよ。」
「ニ…コ…」
地下室の階段に朝日が差し込み、一行はぞろぞろ起きていく。アキラと邪兎屋は慣れない場所で肩を寄せ合って固まって寝たが為に、体中が凝り固まってしまった様だ。一方スキフとリヒターはZONEで寝る生活には慣れているのでこの程度何ともない。
ふと、ニコがアンビーを見ると、猫又の側にへたり込んで悲痛な表情をしていた。
「っ!まさか猫又の容態が!?」
「嘘だろ…!回復キットの副作用か!?猫又を見せてくれ!まだ生きてるなら…」
ニコの言葉にスキフは最悪の状況を予測する。咄嗟に猫又に駆け寄って、コンテナから
───生きている。正確には、昨日と変わらず穏やかに寝息を立てている。未だ眠っているが、少なくとも容態が悪化はしていない。
スキフは思わずアンビーを見る。よく見たら彼女の表情は、朝起きたら友達が亡くなってた悲劇のそれでは無く───
「お腹が空いたわ。」
スキフ達は盛大に鳴るアンビーの腹の音を前に、呆然とするしかなかった。
◆ ◆ ◆
「アンビー?確かに私達、昨日から何も食べてないからお腹が空くのは当然よ?でもあの顔は時と場合ってのがあるんじゃ無いかしら。」
「ごめんなさい…ニコ。このホットドッグ、あげるから許してほしい。」
「あんたがお腹空いてるからってスキフがあげた奴でしょうが。さっさと食べちゃいなさい。」
「分かったわ………ごちそうさま。スキフ、それなりに美味しかったわ。」
「…………口に合って何よりだ。」
「スキフの兄ちゃん……なんか疲れてるな…」
ロストクまでの道を進みながら、アンビーはスキフがバックパックから取り出したパンとソーセージを組み合わせた即席のホットドッグを頬張っていた。
元いた世界のロストクで作られたZONE製のパンと、保存料たっぷりの謎の肉が使われているソーセージはアンビーの口に合ったようだ。因みにこれでスキフが元いた世界から持ち込んだ弾薬以外の消耗品はほぼ使い果たす事になる。
「ロストクに着いたらその子を医者に預けて飯を食おう。俺が奢ってやるよ。」
「リヒターさん、疑う訳じゃ無いんだけど、ロストクは安全な場所なのかい?ZONEのほぼ全てが無法地帯と聞いているから、僕は心配なんだ。その医者も信用できるのかと言う事も。」
アキラの懸念は尤もだ。治安局は疎か、防衛軍ですら禄に足を踏み入れないZONEと言う環境で、ホロウレイダー達が集まる街等の治安が良いとは全く思えない。
目を覚ましていたならストリートで育ってきた猫又はそこらのチンピラくらい訳ないが、薬で眠っている現状で良からぬことを考える連中もいるかもしれない。医者に預けると言っても、本当に信用できるのかという問題もある。
だがリヒターはアキラの懸念に問題ないとばかりに笑っていた。
「心配ご無用だプロキシ。何せロストクを仕切っているのは……この足音は?」
「誰か後ろから近付いてきてるな……いや多分俺たちに迫って来てるぜ親分。」
「何よ、何が迫って来てるって言うのよ。アンビー、数は分かる?」
「足音が多いから数は分からないわ。…凄く多い。」
「同じ様なやり取り昨日見たな……誰か来るぞ。」
一行が昨日経験した様な気がする掛け合いと共に、迫る足音に備えアキラと猫又を除く全員が武器を構えるが、彼らの目に映ったのは一人の負傷した必死に走る男だった。
恐らくZONEのホロウレイダーであろう彼は、武器すら持たず、只管走り続けたせいか足がふらついている。だが、スキフ達を見かけた途端、まるで祈りが届いたかの様に歓喜の声を上げた。
「よかった!助けてくれぇ!もう足が動かない!仲間が皆やられ───」
その助けを求める声はスキフ達に届かなかった。後ろから現れた、迫って来た足音の正体である黒い影の集団に跳ね飛ばされ、ボロ雑巾の様に転がっていく。跳ねられて空を飛んでいる時に、遠目から身体のあちこちがあらぬ方向にひん曲がっていたのが見えた。
どの道彼が助からないのは転がった後に群れに轢き潰されたので分かるだろう。
成人男性の胸辺りまでありそうな大きな体躯を持つ、鋭い牙を幾つも備えた口と、軽自動車くらいなら簡単にひっくり返せそうなパワーを持つ。ZONEの自然に住まうミュータント、書いてそのまま「
「あの馬鹿!なんでボアの群れなんか連れてくんだよ!君たちロストクまで走れ!彼処なら何とかなる!」
「あーもう!なんか昨日から走りっぱなしなんですけど!?」
「流石にあの群れに突っ込まれたら俺スクラップになっちまう!」
「アンビー、プロキシを引っ張って行け!エミッションよりマシだがあの数は不味い!殿は俺がやる!」
この人数と邪兎屋の実力であれば、万全な状態なら対処できる数だ。だが猫又が眠っている現状、動けない人間を抱えて戦うのには余りにも不安な数だ。
スキフは漸く取り戻した切り札である
弾頭は複数体を貫通して突撃せんと迫る群れに穴を開けるが、直ぐにその穴が他のボアによって埋まってしまう。
これがボアだ、一度突進してしまえば銃撃なぞに怯む事はしない大猪。恐怖など理解できる程の頭が無いとも言うが。
スキフが殿を務めつつ、リヒターが全力で一行をロストクまで率いて行く。そうしてる内に、廃工場群が姿を現して来たのが見えた。
アキラや邪兎屋が一瞬あれがロストクか、と喜びを顕にするが直ぐにその表情が凍りつく事になった。
『ミュータントの群れを確認、エリア一帯の殲滅を開始せよ。』
「ちょ、ちょ、ちょっと!まだあたし達がいるんだけど!?」
「あれは…防衛軍の戦闘ロボット?それに兵士達も防衛軍の服を着ているわ。」
「彼処の堀が見えるか!?鉄骨が刺さってるから気をつけて飛び込め!」
突然、防衛軍の運用する大型ロボットが姿を現し、攻撃を宣告する。よく見れば防衛軍の兵士達が正門らしき場所に設置された、コンクリートバンカーや監視塔から此方に向けて無数の武器を向けてきた。
リヒターは目の前にある、鉄板の橋が掛けられた──恐らくミュータント避けの──深く掘られた堀に飛び込み、一行も障害物として突き刺さる鉄骨を避けながら滑り込んだ瞬間───
『
スキフ達の頭の上を無数の銃弾、ロケット、挙句にレーザーの掃射が通過し、ボアは次々と肉片に変貌していく。僅か数秒の掃射だが、ボアの群れは跡形も無く消滅し、辺りにはボアだった肉片や爆発の後が残されていた。
銃声が聞こえなくなり、恐る恐る一行は堀から頭を出す。最早、戦場の跡としか言いようが無い光景が広がっていた。
「……リヒターさん、彼らは、一体…」
「少なくとも、あいつらホロウレイダーには見えないぜ店長…」
「プロキシ、さっきロストクの治安は大丈夫なのかって聞いたよな。はっきり言うが、ロストクだけに限れば奴らが目を光らせてるから全く問題ない。」
「防衛軍は既にZONEの境界線に撤退していると聞いてたわ、リヒター。彼らの装備…防衛軍のよ。」
「ZONE制圧作戦が大失敗に終わった時、ある連中がZONEを放っておけば「旧都陥落」並みの惨劇を生み出すと信じて撤退を拒んだんだ、そいつらはZONEを破壊すれば、新エリー都を守れると信じてやまない元防衛軍や元
「それがZONEの二大派閥の片割れ…「
一行の前には、新エリー都防衛軍の装備を赤く染め上げた、重装備の軍隊が、ロストクの門に立ち塞がる様に配備されていた。
「デューティ…?フリーダムじゃないのか…?」
一方スキフは自分の元いた世界とは違うロストクの支配者に、少しばかり困惑していた。
◇エミッション
初代ではブロウアウトとも言われている。ゲームでは突然空が赤くなり通信で直ぐに避難するよう警告される。避難できないと急速に体力、スタミナ、武器アーマーの耐久値が低下していき死ぬ。NPCにも容赦なく襲い掛かる為、先程まで戦っていた連中が同じ建物に避難し始め、中で戦いを続行することになる。
とあるミッションでは強制的にエミッションの中に放り出される事になる。
◇ボア
猪のミュータント。只管突進攻撃をしてくる奴だが、ショットガンがあると倒すのが楽なミュータント。ただ集団で向かって来ると吹き飛ばし効果もあって味方NPCがバンバン死ぬ。