Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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16.さぁ金策しよう

 

 

 

 淀んだZONEの空模様の下、スキフとニコはガーベジ地域の北西部の平野にあるアノマリー密集地に足を踏み入れていた。

 そこは周辺をなだらかな小さい丘に囲まれており、様々な廃棄物が広がるガーベジ(ゴミ捨て場)では珍しく、ゴミらしいゴミは殆ど無い。小さなゴミ山と防衛軍が制圧作戦時に運用したであろう車両の残骸が横転している程度だ。

 

 一見なんの変哲もないそんな場所であるが、よく見れば空間が幾つも歪んでいるのが判明した。球状に重力が集まっている様な形状で、空気が歪む音がしていた。

 「Vortex()」と呼ばれるこのアノマリーは、歪んだ空間に身体の一部でも入れた者を中心部に圧縮してしまう危険なアノマリーである。危険では無いアノマリーなぞ片手で数えられる程度しか無いが。

 

 そんなアノマリーが充満するこの場所で、アーティファクト検知器を片手に、もう片方の手にはボルトを持ち、歪んだ空間に触れないよう必死に、掻き分けるように歩いている。一歩一歩の位置を確かめ、検知器が指し示す場所へ、アノマリーの餌食にならない様に。互いの身体を、決して離さぬ様に。

 

 

 

 

 「探知機の音が小さくなれば安全なのよね!?大丈夫なのよね!?進んでいいのよね!?」

 

 「アノマリー自体は目に見えるだろ!怖かったら目の前にボルトを投げろ!なんで俺はこいつにやらせてるんだこのИдиот(バカ)!」

 

 まるで恋人同士の様に身体を寄せ合いながら、検知器とボルトを握るニコと、彼女の肩を抱くスキフは死のアノマリーの中を必死の形相で進んでいた。

 

 

 

 

 ───少し前

 

 アーティファクト回収にやって来たスキフとニコはロストクから出てガーベジ地域へと戻って来た。PDAの地図を確認しながら、画面にピンを打った場所に向かってスキフは進んでいる。

 そんな後ろ姿を見ながらニコは何処でアーティファクトを手に入れるのか聞いてみた。

 

 「ねぇスキフ、気になってたんだけどZONEでアーティファクトってどうやって手に入れてんのよ。」

 

 「まず基本的にアーティファクトはそこら辺に生える訳じゃない、アノマリーが集中している場所で検知器を使って探し出すんだ。」

 

 「でもアノマリーって、一歩入ったら死ぬ奴ばっかじゃない。危険でしょ?そんな所に入って行くの。」

 

 「だから命懸けなんだ。アーティファクトがあればアノマリーに突っ込んでも命は助かるが、それを手に入れる為には結局アノマリーに突っ込まないといけないからな。」

 

 アーティファクトを探すのは一苦労だ。アノマリーへの耐性が高くなるアーティファクトを所持しているなら兎も角、今のニコの様な身の着のままで探すなど自殺行為……と言いたいが装備を持っていないならそれでアノマリーの中を探すしかない。

 スキフもZONEの端に裸一貫で放り込まれて暫くは、そんな感じでアーティファクトを集めていた。今思えばよく死なずに済んだ物である。

 希少なアーティファクトを求めて、結果アノマリーの中に沈んでいったストーカーやこの世界のホロウレイダーは数知れない。

 

 「……危険とは言うが、実際ホロウの中も大して変わらないんじゃないか?聞けばアノマリーみたいな現象が襲ってくるホロウもあると聞いたぞ。邪兎屋の様な優秀なホロウレイダーなら、問題無いと思うが。」

 

 「…まぁ、慣れれば案外ZONEもホロウと変わらないのかしら?汚染に気をつければ侵食される事は無いし…」

 

 「そうやって危機感を感じなくなった連中からあっさり死んで行くんだ、気をつけろ。」

 

 「だったら煽てるんじゃ無いわよ……あっ、あっちにアノマリーが集まってるわね、彼処が目的地?」

 

 「ああ、ロストクで聞いたポイントの1つだ……ビンゴ、反応している。」

 

 アノマリーの集中地点に到着したスキフは懐からアーティファクト検知器を取り出す。

 黄色い箱の真ん中辺りに青いランプが付いたそれは「エコー検知器」と呼ばれるアーティファクトの位置を音と光の点滅で教える一般的な、そして最も低性能の検知器である。

 

 (まさかベルズ検知器が外来種との戦闘でぶっ壊れてたとはな…まぁこいつでもアーティファクトは探せるから良いが。)

 

 アーティファクトどころかアノマリーの位置までほぼ完璧に探知してみせるベルズ検知器は、外来種のポルターガイストとの戦いで無残にも粉砕されていた。

 ニコが止めを刺す直前、ポルターガイストがニコに悪あがきで投げつけた瓦礫や鉄筋を、スキフがその身で受け止めた時に壊れたのだろう。

 あの一撃で外来種を消し飛ばせたのだから、ニコを守った事にスキフは一切後悔していない、それでも一番便利な道具を失ったのは痛いのだが。

 

 (ヤンターにあると言われる研究基地に持っていけば、直してくれたりするのか…?だけどこの世界じゃエコー検知器しかまだ開発されて無いと言われたしな…)

 

 「うっわ…空間が凄い歪んでるじゃ無い…スキフ、確かこれってVortex()ってアノマリーだったかしら?」

 

 「そうだ、指一本でも触れてみろ。全身がボールみたいに圧縮されるぞ。」

 

 「触らないわよ!なんでどのアノマリーも人間グチャグチャにする奴しかないのよ!?」

 

 スキフの持つコンパスの様な物理防護効果の高いアーティファクトを持っているなら酷くても全身打撲程度で済むが、大怪我する事には変わらない。だから回復キットが手放せないのだ、あれが無ければZONEの死人は十倍に増えたであろう。

 

 「ニコ、そこで見てろ。アーティファクトを手に入れてくる。」

 

 「……ねぇ、あたしがそれやってもいい?」

 

 「………理由を聞かせてくれ。」

 

 「いや、ねぇ?TOPSや研究機関が夢中になっているアーティファクトってのを、あたしの手でGETしてみたいっていうか……ダメ?もし次ZONEに来た時に、自分でアーティファクト探せる様になるじゃない。」

 

 スキフはアノマリーの密集地点を見る。確かにアノマリーが集まっているが人が通れない無いレベルでは無い。ゆっくり行けば身体に触れずに進めるだろう。

 だが万が一ニコが彼処で圧縮されてしまえばスキフは邪兎屋やアキラに会わせる顔が無い。コンパスを持たせたとしてもニコの装備では回復させる前に死ぬかもしれない。

 しかしニコの興味津々と言う目と、「魚を与えるより魚の捕り方を〜」という何処かで聞いた言葉を思い出してスキフはやらせてみる事にした。

 

 「…………分かった、お前に検知器を持たせる。だが俺がすぐ後ろにいるからな。俺の指示に従ってくれ。」

 

 こうしてスキフとニコはくっついてアノマリーの海に漕ぎ出したのだが……

 

 

 

 

 「ニコ、もう少し寄れ。腕が引っ掛かりそうだ。」

 

 「…!ええ、助かったわ…まだアーティファクトは出て来ないの…?」

 

 「まだだ、検知器の音と光が激しく鳴り始めたら近くだ。」

 

 「つまり今ね!?」

 

 「まだだっつってんだろ!」

 

 アノマリーに触れそうなニコをスキフが抱き寄せる。今の2人は傍から見たらカップルに見えてもおかしくない距離感だ。だが2人の心境は、地雷原の中に取り残された兵士そのものだ、今の2人を茶化す人間がいたら、2人はそいつをアノマリーに放り込むであろう。

 

 (神経が削られる…!素人連れてアノマリーの集中地帯を抜けるなんて、詐欺師(伝説のレックス)に騙されたあのルーキーを救出した時以来だ、なんで俺は了承しちまったんだ畜生。)

 

 (アノマリー探知機があるから平気かもって思った数分前のあたしをぶん殴りたいわ…!反応し過ぎて寧ろ意味が無いじゃない!アーティファクトはまだなの…!?)

 

 短時間だが間違いなく精神的なストレスが掛かる状況で、ニコは検知器を見る。すると先程よりどんどん光と音が強くなっていた。

 

 「スキフ!反応が強くなったわ!このまま進めば…!」

 

 「もうすぐだ、このままゆっくりと行け。」

 

 ニコは検知器を向けながらゆっくりと反応が強い場所に向かう、そして検知器の光が一層強くなり、目の前の空間が僅かに揺らいで───“それ”は姿を現し、ゆっくりとニコの側に落ちてきた。

 

 ニコは震える手でそれを掴む。見た目は緑色の薄い膜で出来た心臓、それが本物の様に鼓動しているアーティファクト「ストーンハート」だ。

 

 「こ…これがアーティファクト…なんか、身体が軽くなった様な…」

 

 「おめでとう、お前が初めてその手で手に入れたアーティファクトだ。」

 

 まるで生まれたばかりの我が子の様にそれを胸に抱くニコを見て、スキフは自分が初めて自らの力でアーティファクトを手に入れた時の事を思い出していた。アーティファクトは多くの人間を魅了する、実際にその目で、その手で掴めばその神秘性に心を奪われる筈だ。

 

 

 (──いや、こいつどれだけ金になるかしか考えて無いな?)

 

 スキフはニコの目が¥になっているのに気付いた。恐らくこのアーティファクトで普段のひもじい生活からオサラバ出来ると考えているのであろう。神秘だのなんだのはクソ食らえの目だ。

 

 「はぁ…ニコ、眺めるなら安全な場所でだ。さっさとここから抜け出そう。」

 

 「そ、そうね!早くここから出るわよ!」

 

 2人はもう一度、ひいこら言いながらアノマリーの海を乗り越えたが──

 

 「よぉカップルさん、こんな所でデートたぁ変わった趣味じゃねぇか。」

 

 何とか抜け出した瞬間、下卑た声が2人を出迎えた。

 

 スキフはうんざりした様な表情で声を掛けてきた存在を見る。周囲に武装した男達が半円状に取り囲んでいた、ZONEの環境に適応した装備では無くジャージやジャケットを着込んでいる姿からしてZONEのホロウレイダーでは無い。

 

 ───バンディットだ。

 

 

 「……で、あんた達一体何の用なのよ、デートの邪魔しないでくれるかしら?」

 

 皮肉たっぷりにニコがあしらうが、その目には最大限の警戒心が籠っている。ストリートによくいるチンピラとは訳が違う、息を吸うように人を殺せる真正のろくでなし共だとわかったのだろう。

 

 「アーティファクトにも採掘権ってのがあってだな、ここら辺は俺たちがその権利を持ってんだよ。本当なら勝手に取るのはいけないんだが、お前等カップルが仲睦まじくてなぁ…今回は許してやる、そのアーティファクトでな。」

 

 「なんなら、そっちの胸のデカい姉ちゃんが俺たちを楽しませるってのもいいんだぜ?ハハハ!」

 

 スキフはある意味感激していた、どうして世界が違ってもバンディット共は同じ碌でもないセリフを喋るのだろうと。

 

 周囲を見ると二人を囲むバンディット達は8人、左翼に2人、中央に2人、右翼に4人、近くに遮蔽物は右手にあるバンディット側に近い小さなゴミ山と此方側に近い車両の残骸。スキフから見て左翼と中央からは射線が何処にでも通る、背中はさっきのアノマリーだらけだ。

 スキフが横目でニコを見る、既に彼女は臨戦態勢を取っていた。スキフが動けば彼女も即座にバンディットに攻撃を行う筈だ。

 

 「………ニコ、ZONEでこういう奴らに出会った時のルールを知りたいか?」

 

 「興味深いわね、教えて頂戴。」

 

 「ザトン以外でこいつら(バンディット)を見かけたら即撃ち殺せ。」

 

 

 抜き射ちで放たれたPTMピストルが、真正面にいた胸を強調する様なポーズをしていたバンディットの頭に鮮血の花を咲かせる。それと同時にニコが左翼のバンディット達に、薙ぎ払う様にスーツケースの射撃を放ち、バンディットはバタバタと倒れていった。

 スキフとニコは即座に車両の残骸へと駆け込む、その前にスキフは中央に居た、最初に脅してきたバンディットの頭に風穴を開けるのを忘れなかった。

 

 ──残り4人、一瞬で半壊した事に驚愕した右翼側のバンディット達は2人を撃ち殺そうと一斉射撃を放つが、その弾丸はスキフとニコが隠れた車両を打ち鳴らすに終わる。

 バンディットが2人飛び出し、車両の裏に左右から包囲しようと試みるが、ニコのスーツケースとスキフのサイガD−12(ショットガン)が両名を撃ち倒す。

 

 ──残り2人、スキフは車両の影から残りのバンディットを見る、バンディットが小さなゴミ山に必死に隠れているのが見えた、完全に隠れきれて居らず身体が少し飛び出しているが、わざわざ狙い撃つのも面倒と思ったスキフはロストクで仕入れた手榴弾を取り出してゴミ山に放り投げる。

 

 「グレ…お、おい!?待っ…」

 

 手榴弾が近くに落ちると、なんとバンディットの内の1人が仲間を盾にして飛び出して来た。ニコとスキフはそれに向かって撃ち込むが盾にされているバンディットに全て当たって後ろには届かない。

 最後のバンディットは逃走を試みていた。穴だらけになった仲間を捨て、追撃を避ける為にアノマリーの集中地帯を回り込む様に逃げようとするが、スキフの射撃が足に命中する。

 

 「あぐっ!あっ、ひぎゅ…」

 

 足を撃たれ、倒れ込むようにVortex()にその身を投じる事になったバンディットは、歪んだ空間の中心部に圧縮された。

 

 「うわぁ……ああなっちゃうのね…」

 

 「アノマリーの側を通るからだИдиот(間抜け)

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 「………殺さなかったんだな。」

 

 「結果的に死ぬのは兎も角、こんな奴らの血で手なんか汚したくないわよ。」

 

 ニコの射撃のみ撃ち込まれたバンディット達には息があった。勿論、スキフが撃ったバンディットは全員、赤く染まる穴が空けられて事切れている。

 別にスキフは「その甘さが〜」等と言うつもりは毛頭ない、弱い奴は死に方も選べないというが、強ければ相手の生き死にを自由に決められるのだ。そしてニコは間違いなく強者側だとスキフは思っている。

 そんな事よりもスキフにはミュータントすら消し飛ばせるスーツケース型兵器でどうやって峰打ちの様な芸当が出来るのか不思議で仕方なかった。

 

 「それよりあんた、なに死体なんて漁ってるのよ。」

 

 「ZONEでは日常だぞ?こいつらに迷惑かけられた分取り替えさないと。お前達の報酬の足しにもなるしな。」

 

 スキフはバンディット達から使える物を出来るだけ集めていた。整備されて無い銃、まだ開けられてない缶詰、僅かな弾薬等、どれもZONEでは立派なお宝だ。

 自分1人で放浪しているなら兎も角、邪兎屋やアキラへの支払いがあるなら集めない理由がない。報酬の足しと聞いて拒否感を示していたニコも悪い気がしなくなった。

 気絶しているバンディット達は、目が覚めたら裸でZONEに放り込まれる事になるが自業自得だ。ZONEでは常に奪うか奪われるかの連続なのだから。

 

 「さて…と、このくらいで良いだろう、次のポイントに行くがその前に休むか?」

 

 「別にあれくらいで疲れないわ、さっさと行きましょ……あっ次はあんたがアーティファクト取って来なさいよ、あたしはもう十分堪能したから…」

 

 「わかったよ、デートの続きと行こう。」

 

 「あらぁ?あたしとデートするならディニーをい~っぱい払って貰うわよ、報酬が足りなくなるわね。」

 

 「業突く張りめ、シドロヴィッチといい勝負だ。」

 

 バンディット達をその場に捨て置き、スキフとニコは次のアノマリー密集地帯に向かっていった。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 「ンナッ!ンナーッ!(出ていけホロウレイダー!(Get out of here Stalker !))」

 

 「……あのボンプずっと彼処にいるのかしら。」

 

 「ホロウレイダーが通る度に言ってるのかあいつは…」

 

 デューティボンプに何時もの歓迎を受けながら、漸くロストクへ戻ってきたスキフとニコ。既に日が落ちかけ、赤暗くなり始めていた。

 あの後、アーティファクトを2つ程回収し、ついでに遭遇したボア()ブラインドドッグ(めくら犬)を狩って素材を手に入れ、ある程度報酬の目処は付いたと言えるだろう。

 スキフはPDAでリヒターにロストクへ戻ったと連絡を入れる、するとすぐに返信が来た。

 

 「リヒターから連絡だ。全員100rads barに居るそうだ。」

 

 「あんたクマのシリオン見てびっくりしてたそうね、プロキシが言ってたわ。」

 

 「………あんまり見たこと無かったからな。」

 

 地下にある100rads barへ向かい、店内に入ると酒場の奥の席でリヒターやアキラ達が既に食事に入っていた。何故かアキラはかなり落ち込んでる感じだが。

 

 「おお!親分、無事に帰ってきたんだな!」

 

 「ニコ、問題は無かった?」

 

 「全然平気よ、スキフもいたしね。というかなんでプロキシはしょげてんのよ。」

 

 「あー…プロキシはどうやら妹ちゃんに何か言われたらしくてね…確か…」

 

 「リンが…今すぐ帰って来ないと家出してやるって…」

 

 「本当に何があったのよ……」

 

 ワイルドテリトリーに存在するデューティの長距離通信施設。そこでアキラはZONEからホロウを通り、新エリー都へ簡単に往復可能にする為のキャロットの構築を行っていたのだ。

 デューティの兵士達も外から物資が入りやすくなる事に異論は無いのか、終始協力的で作業は順調に進み、無事に終わったのだが…

 

 「ZONEでは珍しい、新エリー都に直接連絡が出来る施設だったから、リンに連絡を取ることにしたんだ…それで、これまでの経過報告をしたんだけど…」

 

 「ついでに俺たちも会話に加わったら、親分と猫又が居ないのを聞かれた時にアンビーがなぁ…」

 

 「猫又ちゃんが死にかけた事をプロキシの妹ちゃんに漏らしたらしくて……」

 

 「「連絡も取れないし安否も分からないのにそんな所にいるのは危険だよ!今すぐ帰って来て!じゃないと家から出ていってやるんだから!」…とプロキシ先生が怒られていたわ。」

 

 「その程度でそんなに落ち込んでどうするのよ…」

 

 実際には調べ物の成果が全く無い事や一切連絡が出来ない状況、そしてリンやFairyではZONEの状況を全く把握出来ない事などが積み重なった上に、猫又が死にかけた事でリンの不安が限界突破したのが原因なのだがアキラには結構堪えた様だ。

 

 「あー…つまりプロキシは帰るのか?リヒター。」

 

 「ああ、明日コルドンのルーキー村まで連れて行って、そこでホロウに入ってさよならになった。」

 

 「……所でニコ、スキフさん。そっちの進捗はどうだった?」

 

 「フッフッフ……プロキシ、今度こそツケは全額チャラになるわ。アンビー、ビリーもう節約生活はおしまいよ…!見なさい、これが!あたしが自分の手で手に入れたアーティファクトよ!」

 

 ニコが懐から出したストーンハートを見たアキラ達は、初めてちゃんと見るアーティファクトに感嘆の声を上げた。

 

 「これが…アーティファクト?まるで心臓みたいだ。」

 

 「どう言う物質で出来てるのかしら…凄い、持つと身体が軽くなるわ。」

 

 「すげぇぞ親分!スキフの兄ちゃん、これ本当に親分が取ってきた奴なのか!?」

 

 「ああ、俺の手助けありだが間違いなくニコの力で手に入れたアーティファクトだ。」

 

 アキラや邪兎屋の面々が沸く中、リヒターが微妙な表情をしながらスキフに小声で話しかけてきた。

 

 「なぁスキフ…ニコさんが借金全額返済とかセレブ生活とか言ってるけどあれストーンハートだろ?そこまでの大金にはならねぇんじゃねえかな…」

 

 「初めて手に入れたアーティファクトなんだ、夢くらい見させてやれ。俺の方も2個くらい手に入ったから、全部纏めて売れば価値は誤魔化せる。」

 

 ニコが生活レベルが激変すると思い込んでいるストーンハートは大して珍しくない普通のアーティファクトである。

 腐ってもアーティファクトなので結構な価値はするが、その程度でしか無い。だがニコの喜び様を壊したく無いスキフは誤魔化す方法を考えていた、どうせ報酬用に集めた物を纏めて売れば大金にはなるだろう。

 

 「俺はアーティファクトを売ってくる。ニコ、それを渡してくれ。」

 

 「嫌よ、これはあたしが手に入れたアーティファクトよ。出来るだけ高値で売ってやるわ。」

 

 「ガイドの忠告だニコさん。ZONEのトレーダーはTOPSの連中と口八丁でやり合えると言われてる連中だ、下手に吹っ掛けると痛い目見るぞ。スキフに渡した方がいい。」

 

 「ふん!あたしだって交渉事は得意なのよ、ヴィジョンとの裁判だって担当したんだから!」

 

 「Нет(止めろ)ニコ、まだ間に合う、よせ!」

 

 「私、ニコが死んでしまう気がしてきたわ。」

 

 「奇遇だなアンビー、俺も親分が帰ってこない気がするぜ。」

 

 「死亡フラグって奴じゃ無いかな…」

 

 そう言ってニコは自身満々にBarのカウンターへ向かっていき、客の対応をしているバーキープにアーティファクトを突きつける。

 

 「さぁトレーダー!あたしにこの店の有り金全部出す用意はいいかしら!?」

 

 「なんだ?アーティファクトを売りたいのか、どれどれ…なんだ、ストーンハートじゃないか。じゃあこのくらいだな。」

 

 「………ねぇトレーダー、流石に桁が2つくらい少ないんじゃないかしら?アーティファクトよ?あたしが死ぬ思いして取ってきたアーティファクトなのよ?ねぇ?」

 

 「はぁ…ルーキー、どんなアーティファクトも大金出して買い取る時代はとっくに終わった。今はある程度、効果や希少さを鑑定して、需要を見て値段を決めてるんだ。そして今、一番熱いのは侵食を打ち消してくれるアーティファクトだ、ストーンハートは持っていると少し侵食されやすくなるから価値はそれなりに下がる。」

 

 「どういう事よ!?アーティファクトは侵食されないんじゃ無かったの!?」

 

 「アーティファクトそのものはエーテルに侵食されない、持ってる奴が侵食されやすくなるだけだ。つまり今の需要にはそぐわないって訳だ。まぁ重量が少し軽減されるから、ZONEのホロウレイダー相手に売れるだろう。だからこのくらいの値段だ。」

 

 「うぐぐ……」

 

 思っていたより値段が少なかった事にニコが憤慨しバーキープに抗議するが、しっかり理由を説明されて流石のニコも黙るしか無かった。価値も高くは無いが安くも無いので何とも言えない様だ。

 そんなニコの横に割り込む様にスキフがバーキープに手持ちの物資の取引を始める。

 

 「バーキープ、アーティファクト2つ、それとバンディットから取ってきた武器や物資、後はミュータントの素材だ。どれくらいになる?」

 

 「武器の状態は悪いな…まぁこの程度だろう、アーティファクトは…いいじゃないか、これくらいの値段だな。」

 

 「ズルいわよスキフ!あたしより多いじゃない!」

 

 「アーティファクト2つに他のものまであるんだから当然だろ!それにこいつはお前に払う報酬なんだぞ!?」

 

 100rads bar全体に響くくらい騒いでいるニコとスキフを、アキラ達は苦笑いしながら見つめていた。暫く騒いでいた後、バーキープからの支払いが終わったのか、アキラ達の下にスキフとニコが戻ってくる。

 

 ニコは何故か敏腕交渉人の雰囲気を漂わせて戻ってきた。

 

 「やっぱりこの子(ストーンハート)の価値が分からない奴は駄目ね、他の価値のわかるトレーダーに任せましょう。」

 

 「バーキープは売り買いに関してはまぁまぁ良心的なんだけどなぁ…」

 

 「なぁビリー、アンビー、お前等が貧乏なのは半分こいつのせいじゃ無いのか?」

 

 「………」「………」

 

 「スキフさん、それは聞かないで上げて欲しいな…」

 

 食事を終わらせ、夜も更けた為にスキフ達はロストクの宿泊施設へと向かって言った。

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 ロストクでは、ホロウレイダーが寝泊まりする場所は2つある。

 一つは空いている廃工場の中、焚き火の周りに集まり、硬い床に寝転がっている。酷い寝床だがタダだ。

 もう一つは、料金は掛かるがロストクの市場に利用されている大きな倉庫に併設されている宿泊所、マトモなベッドや個人用のスタッシュが利用できる、ZONEに於いて非常に上等な寝床だ。まるで野戦病院の如く、ベッド間に壁は存在しないのだが。

 

 アキラやニコ達が眠る中、スキフは1人起き上がり外へ向かっていた。その手にはASラヴィナ、背中にはガウスガンを装備している。他の嵩張る銃火器はリヒターのスタッシュに預けてある。

 

 「よぉ、スキフの兄ちゃん。まさか夜逃げじゃねぇよな?」

 

 「ビリー、お前起きてたのか。いや、機械だから眠らないのか?」

 

 スキフが市場を抜けようとした時にビリーに話しかけられる、セリフは警告風だが、表情と声質から明らかに冗談だとわかるのでスキフは気にしなかった。

 

 「まぁ機械人でも眠ったりするんだけどよ……一応、他の奴が変な事しないか見てたけど、そんな心配無かったな。」

 

 深夜のロストクを見ると、デューティの兵士が真夜中にも関わらず哨戒を行なっている、ホロウレイダー達も武器を片手に寝ているので寧ろ、ストリートの裏路地よりも治安がいいかもしれない。

 

 「所で兄ちゃんよぉ…なんでそんな完全武装なんだ?まさか誰か殺しにいくのか?」

 

 そんな事よりビリーが気になったのはスキフだ、まるで誰か暗殺しに行く様な雰囲気を漂わせている。

 

 「……ビリー、お前もついて来るか?」

 

 「えっ俺も?」

 

 「なに、簡単なバンディット退治さ…お前がいれば邪兎屋に払う報酬も増えるぞ?」

 

 

 薄く差し込む月明かりに照らされたスキフの顔は、ニヤリと笑っていた。

 

 






 バンディット死ぬべし慈悲は無い、ただしザトンの連中とルーズベルト君は除く。

 ◇バンディット
 S.T.A.L.K.E.Rお馴染みの敵集団、Falloutに置けるレイダー枠。
 シリーズ自体割とリアル寄りの難易度なので序盤の敵とはいえ油断すると一瞬で死ぬ。初代の最初のミッションであるバンディット退治は装備がショボいのも相まってめちゃくちゃ難しい。2だと装備が整っていても割と死にかける。
 ザトン地域のバンディットだけは出会い頭に撃ってこない為癒し。

 ◇Vortex()
 よく見かける重力系アノマリー、触れると中心部に引っ張られる様に移動しダメージを受ける。他のアノマリーと一緒になっているとすっごいウザい。
 ただし、物理防護の高いアーマー等を来ているとダメージが目に見えて低くなるため、アノマリーの中ではまだ癒し枠になる。
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