Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In 作:路肩の石ころ
「スキフの兄ちゃん、本当に無事かぁ?どう見ても轢かれたカエルみたいになったと思ったけど。」
「何とか無事……いや少しキツイな…回復キットを持っていて良かった…」
列車倉庫「デポ」のバンディットを掃討する依頼から、彼らと取引の為に来た反乱軍とも戦闘する羽目になったスキフとビリー。
ビリーはミサイルの爆風で少し煤けた程度で怪我無く済んだが、スキフは反乱軍が持ち出して来た自律補助ユニット「重装ストライカー」の突撃に思い切り押し潰されたのだ。
何とか耐えてガウスガンを食らわせる事に成功し、撃破した物の幾つかの骨が折れ、全身打撲の様な状態になっている。回復キットと
(あんな鋼鉄の
スキフはこの世界に迷い込んだ事を嘆きたくなってきた。何故、ZONEを開放したら、更に強力な怪物や兵器が存在する別世界のZONEやホロウに送り込まれ、そこで何度も死にかけなくてはいけないのだと。
元の世界でも死にかけた瞬間は数知れないが、更に死ぬ要因が増えるのは勘弁願いたいと心の底からスキフは思っていた。
「まぁ命があって良かったじゃねぇか、動けそうか?」
「あぁ、動く分には問題ない……と言うか何でお前はミサイルの直撃コースにいた筈なのに無傷なんだ。」
「ふっ…俺には成し遂げなければならない
「答えになって無いぞ…」
愚痴りながらスキフは傷付いた身体で立ち上がり、デポを見渡す。反乱軍の兵士達に一斉射撃を食らわせたホロウレイダー達が生き延びた事を喜びあっていた。その中で年長者らしき人物が2人に近づいてくる。
「やあ、あんた等のお陰で助かったよ、このままバンディットの奴隷になって殺されると思ってた、まぁ反乱軍とまでやり合う事になるとまでは思わなかったが。」
「感謝ならあの
「そうだな…あいつ等も褒めてやらんと。助けてもらって悪いが、こっちは碌なモンを出せない。礼の代わりにここから好きなだけ奴らの物資を持ってくれ、俺たちは余り物で構わない。」
「そうこなくちゃな。よぉしビリー、お楽しみタイムだ。」
「…スキフの兄ちゃんってそんな嬉しそうな顔出来るんだな。」
スキフとビリーはバンディットや反乱軍から売れそうな物を片っ端からかき集めていった。特に反乱軍はある程度手入れされた武器やアーマーを持っていた為、バーキープに高く売れる筈だ。
バンディット達は大した物は持って無かったが、反乱軍との取引で使おうとしたであろうアーティファクトが複数見つかった。
「ビリー、機械人とやらならもっと持てるだろ。人体にバックパックは最低六個は引っ掛けられるんだ。アーマーは全部重ね着しろ、その隙間に武器を詰め込め、引っ掛けられる奴は全部付けるからな。おい、脇が空くならこれを挟め。」
「なぁスキフの兄ちゃん…!?俺に荷物持たせ過ぎじゃねぇ…!?動けねぇんだけど…?」
「そんなお前に朗報だ、こいつは「グラビ」というアーティファクト、ニコが手に入れた奴と同じく重量を少しだけ軽減してくれる優れものだ。」
「おお!身体がちょっと軽く……焼け石に水って知ってるか!?」
バンディットが持っていたアーティファクトを持たせつつ、ビリーに荷物を詰め込んでいく。ビリーが文句を言うが当のスキフはどこ吹く風だ。
スキフは楽しくて仕方なかった、元いた世界のZONEでは1人で行動していたが故、自分で必要な物を全て持たなくてはいけない。その為高性能な武器や装備を見つけても重過ぎて泣く泣く一部を諦めなければいけない時が多々あった。
「なぁ…今の俺がミュータントやバンディットに襲われたらどうするんだ…?」
「お前は俺が命に替えても守ってやるよ、ビリー。」
「俺が荷物持ちにされて無ければいいセリフなんだけどなぁ!?」
ビリーの上半身は最早人の形を成してない、大量の荷物に包まれたミュータントと表現するのが正しいだろう。少なくとも歩けるし銃も辛うじて正面に撃てる、ZONEではまだまだ戦える姿だ。
一方スキフはビリーよりか人の姿を保っている。バックパック2つを背負い、片っ端から武器や物資を詰め込んではいるが武器は自由に振るうことが出来る。
余りにも不公平なスキフとビリーの荷物配分だが、万年金欠の邪兎屋の追加報酬の為にビリーは耐え抜く事にした。
「な…なぁ…好きなだけ持って行けと言ったが、その量は大丈夫なのか?」
「ああ、心配無用だ、こいつを売るのが待ち遠しいよ。」
「俺は荷物を降ろす瞬間が待ち遠しいぜ……」
「ま…まぁ、お前らが良いならいいんだ…俺たちはここに暫くいるつもりだ、またこっちに来る時は是非寄ってくれ。」
ホロウレイダー達はここに居座るつもりの様だ、少なくともいい拠点にはなるだろう、バンディットや反乱軍の死体は残っているが、後はホロウレイダーが片付けるだろう。
スキフとビリーはデポを出て、未だ暗きZONEを進みロストクへと帰って行った。
◆ ◆ ◆
「はぁ…はぁ…スキフの兄ちゃん…まだロストクに着かねぇのか…?」
「頑張れビリー、もうすぐデューティの検問所だ。」
大荷物を抱えながら必死に歩みを進める2人、ビリーの方は視界も狭いので、アノマリーへのプレッシャーと疲労感が倍だ。
スキフの視線にロストクの入り口が見えてくる、既に朝日が姿を現しかけ、視界は明瞭になりつつあった。
2人を視認したデューティはミュータントと勘違いし武器を向けるが、すぐにとんでもない荷物を抱えたホロウレイダーと気付き、その表情が呆れた風に変わる。
「お前ら…その荷物を持ってZONEを歩いて来たのか…?良く無事だったな。」
「なぁ着いたのか?デューティの声が聞こえるって事は着いたんだよな!?」
「まだだぞ、これをトレーダーに売り飛ばさなくては。」
「もうゴールでいいだろぉ!?」
デューティにドン引きされながら2人はロストクへと入って行くが───
「ンナッ!ンナーッ!(
「うるせぇ!荷物くらい処分させろ!見てわかんねぇのかよ!」
「ンナナ!ンナッ!(ロストクにゴミなんて持ち込むな!)」
「聞き捨てならないなチビロボット、お前には大量の戦利品を必死に運んでトレーダーに売り捌くあの快感は分からないのか、なぁビリー。」
「俺もよくわかんねぇから振らないでくれる!?」
道抜くデューティやホロウレイダーに引かれながらもロストクを進み、100rads barの入り口へ向かう。
流石にこの荷物を抱えながら地下に入るのは無理なので一度下ろす事にした。漸く荷物の塊を下ろせたビリーはとてつもなく長い溜息を吐いた。
スキフは地下に入れる分だけ荷物を持ち、複数回に分けて下ろしていく。その間ビリーは見張りついでに休憩していた。
数回に分けて運び込まれる武器や装備にバーキープも少々苦笑いをしていた。
「………ZONEでトレーダーをやり始めてから、これだけの物資を個人で持ち込んだ奴は居なかったな、これ全部売る気か?」
「現金は足りそうか?足りなければ上の市場で売ってくる。」
「舐めるなよ、これくらい払えなくて何がトレーダーだ……この武器にアーマー、反乱軍とやり合ったんだな。アーティファクトも有り……よし、金は用意出来るが少し時間をくれ。」
「依頼の分と買い取り金額の二割は先に払って貰っていいか?」
「ああ良いぞ、ほらよ…おいガード!この荷物運ぶの手伝ってくれ!」
バーキープから報酬を貰い、その金を持ってビリーの元へ向かう。ビリーはまだ疲れが抜けていないようで、地面に座り込んでいる。
「よぅビリーお疲れ様、お前が飲み食い出来れば好きなだけ奢ってやりたいんだがな。」
「いや…大丈夫だぜスキフの兄ちゃん。結局これは邪兎屋の稼ぎになるんだよな、そう思うと運んだ甲斐があるぜ。」
「いいや、全部じゃ無い。ほらよお前の取り分だ。」
そうしてスキフは先に貰った金を全てビリーに渡す、結構な金額であるそれにビリーは驚きを隠せなかった。
「こ…こんなに貰って良いのか?いや、それくらい働いたと自分でも思うけどよ…」
「分かってるじゃないか、それはお前個人の報酬だからニコ達には内緒だぞ。」
「へへへ…これだけあれば最新パーツだって簡単に買えるぜ、ありがとな。」
「お前が居たからこんなに儲かったんだ、ボーナスくらい当然だ。」
真夜中のバンディット退治は大成功に終わった。一晩経って朝帰りとなってしまったが、大きな黒字を抱えて晴れやかな気持ちで皆の所へスキフとビリーは戻って行った。
ロストクの宿泊所に戻るとリヒター以外はまだ寝ていた。2人がベッドに居ない事にリヒターが心配していたが、バーキープの依頼をこなしていた事を知ると、納得した様だ。
リヒターは猫又が入院しているデューティの病院に様子を見に行っていたと2人に報告した。
「デューティの軍医曰く、そろそろ目覚めそうだってさ。猫又ちゃんが目を覚ましたら、朝飯食ってすぐ出発だな。」
「一時はどうなるかと思ったけど…猫又が無事で良かったぜ、そういやコルドンって所までどれくらいかかるんだガイドさんよ。」
「ガーベジのここ通ってレッサーゾーンを抜ける感じだ、このルートなら何も問題起きなければ、午後には到着できるさ。デポを根城にしてたバンディットが消えたならガーベジ南部も少しの間は安全な筈。」
リヒターの提示したルートは、道路に沿わず野原を突っ切るルートだ。しかし、地図のあちこちにメモされたミュータントの巣の配置などが詳細に記載されている。アノマリーの位置は書かれてないがエミッションで配置が変わってしまう為、最初から記録されていない様だ。
「おはよう皆……意外と早起きなのね。」
「おはようアンビー、よく眠れたか?」
「私はよく眠れたわ、意外とここも悪くないわね、所でビリーは昨日ベッドに居なかったけど何処に居たの?」
「いやぁ実は眠れなくてよ、スキフの兄ちゃんとずっと過ごしてたんだ。」
「ふぅん……まぁいいわ、ニコとプロキシ先生はまだ眠ってるみたいね。」
アンビーが欠伸をしながら起きてきた、エミッションの際に逃げ込んだ狭い地下室に比べたら、この宿泊所の簡易ベッドでも非常に心地よく眠れるだろう。
その後、アキラとニコが起きるまで少しの間、4人で暇を潰しながら待ち、2人が目覚めると病院にいる猫又の下へ向かっていった。
◆ ◆ ◆
「ふっふーん!猫に七生ありってね!猫又サマの完全復活だぞ!」
「死にかけたとは思えない程元気になったね…」
「後遺症が無いなら良いことだ。」
アノマリーに落ちた時の猫又を覆っていた電気火傷や焼けた髪は何も無かったかの様に治っていた。
デューティの医療施設は完璧に仕事をしてくれたらしい、猫又の様子は重傷を負う以前の様子に戻っていた。
「全く、本気で心配したのよ。本当に身体は大丈夫なの?」
「ニコ〜!あたしは全然平気だぞ、ほらこの通り!」
猫又がニコに抱き着いた後、まるで猫の様にその場で華麗な一回転を周囲に見せ付ける。ここまで動けるのなら身体に異常は無いだろう。
「アンビ〜?あたしが死にかけて泣いちゃったって〜?」
「ええ、あの時は貴方が死んでしまうと本気で思っていたから…本当に…本当に、良かった。」
からかう様な猫又の言葉に対し、アンビーは本気で心配した表情で応える。ニコの方を見ればアンビーと同じ様な顔をしていた事に気付く。その顔をみて、何かが決壊した様に猫又の瞳から大量の涙が溢れ出た。
「う…うああああん!みんなぁぁぁ!」
「もう…!本当に生きてて良かったわ…!」
「猫又が無事で本当に良かったぜ…!」
猫又の無事を邪兎屋の全員で喜び合う、しっかり生きている事を確かめ合う様に皆は猫又を抱き締める。その光景にスキフやアキラも微笑んでいた。
「よがっだねぇ…!猫又ちゃん…!皆に生ぎて会えるなんで本当によがっだよぉ!」
「リヒター、お前はお前で泣きすぎだ。そこのデューティ、哨戒の任務はどうした。ホロウレイダー共も見世物じゃないぞ。」
「ZONEの人達もこういう光景に弱いのかな…?」
リヒターは猫又に負けず劣らず泣いていた、偶々近くを通りかかったデューティやホロウレイダーもこの光景を見て涙ぐんでいるのが分かる。
命を落としかけた少女が生きて大切な者と再会する──物語としてはありきたりだが間違いなくハッピーエンドな結末に、色々一物抱えたZONEの住人達でも胸を打たれる様だ。
一頻り、泣き終えた猫又が少し赤く腫れた目を擦りながらスキフの方へ向く。
「………スキフ!」
「……どうした、猫又?」
「ありがとう!スキフのお陰で皆とお別れしないで済んだぞ!あたしの命の恩人だ!」
「……お前の生き延びたい気持ちが命を繋いだだけだ。」
猫又の身体が耐え抜いてくれたからこそ、
「……助かって何よりだ猫又、俺も嬉しいよ。」
ともあれ、目の前の少女を救えた事に、スキフが心から喜んでいる事に変わりがない。彼女が無事に生き延びてくれたのなら、アーティファクトを失った甲斐がある物だ。
「あー泣いた泣いた、よーし皆、朝飯を食おう!俺の奢りだ!」
「所でリヒター、お前ずっと奢ってばっかだが金は足りてるのか?」
「………正直かなりキツイ。」
このままでは邪兎屋の感動物語の裏でリヒターが破産しそうなのでスキフは昨晩手に入れた報酬を使う事を決心し、全員でアリーナのBarに朝食に行ったのだった。
「ここにはどんな料理があるんだ?何々…おお!採れたてのサバ料理だって!ニコ、あたしサバが食べたい!」
「止めなさい猫又、きっと碌でもない物が出てくるわ。絶対ミュータントか何かよ。」
「猫又、ZONEは海に繋がって無いのにサバの採れたてが出てくるのはおかしいと思わないかい?」
「ニ…ニコもプロキシもそんな本気の目で……いや確かに何で海が無いのにサバなんて採れるんだ?」
「俺に聞かないでくれ……なぁリヒターお前は…何も知らないか。」
猫又は謎のサバ料理に疑問を持ち、その答えを知るべくスキフを見るが、当のスキフも謎のサバ料理の正体は知らない。元いた世界のZONEでもそんな物存在しなかったのだ。
助け舟を求めてリヒターを見るが、彼は静かに首を振るだけであった。
そんなこんなで朝食を終え、一行はロストクを発つ準備をした。スキフはバーキープから戦利品を売った金を回収し、全ての武器装備を身に着ける。準備を終えて一行の下に戻ると、既に皆揃い、全員に向けてリヒターが進行ルートを説明していた。
「今回通るルートはこの辺りだ、ミュータントもバンディットも巣を張っていない筈だから順調に進めば午後には着く。だが油断しないでくれ、新しいアノマリー地点やエミッションに出くわす可能性があるから予定が遅れる事も考慮してくれ、皆忘れ物は無いな?」
全員が大丈夫とリヒターに意を示し、一行はロストクを出発する。倉庫に入るとデューティボンプの何時もの侮蔑の言葉を浴びせられる。
「ンナッ!ンナーッ!(
「……皆あのボンプに何か嫌われる様な事したのか?あたし達に出ていけと言われてるぞ。」
「あのボンプは何時もああらしいわ。」
「ンナンナッ!ンーナッ!(それと、気をつけて帰れよ!)」
「おい待て!あいつ人を心配する言葉も喋れたのか!?」
デューティボンプの新たな一面に驚きながらも倉庫を抜け、ロストクの入り口たる門へ向かう。
「リヒター、そのガキ元気になったんだな。お前ら、もうZONEへは来るんじゃないぞ。」
「あれ?どうして僕達が帰るって分かったんだい?」
「雰囲気を見ればコルドンに行くってわかる。昨日、新エリー都への帰り道がルーキー村に出来たと皆言っていた、道中気をつけてな。」
デューティの警備からの言葉を送られがら、一行はロストクを出ていった。今度は全員、ちゃんと立ちながら──
一度限界まで戦利品を積んだバックパックでZONEをマラソンした事は皆あると思う。