Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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Yantar Concerto
20.調査任務


 

 

 ───ロストク デューティ本部にて

 

 ロストクを構成する廃工場群の一角にあるデューティの本部。工場の建物丸々一つ使った本部の前は、野次馬と化したホロウレイダー達によってごった返していた。

 理由は単純、突如防衛軍のヘリコプターがロストクに飛来し、デューティ本部の屋上に着陸したからである。

 

 「下がれホロウレイダー!見世物じゃないぞ!」

 

 「おい軍曹!防衛軍がまたZONEに本格介入しやがるのか!?」

 

 「デューティが防衛軍と和解するのは本当か!?」

 

 「お前等はマスコミか!?俺も知らないんだよ!さっさと散れ!」

 

 そんなやり取りが本部正面で行われてる中、ヘリが駐機される屋上の簡易的な発着パッドではデューティと防衛軍との睨み合いが行われていた。

 

 防衛軍のヘリの側に居るのは3人と1機、1人はヘリのパイロットと思われる緑の軍服を来た青年、残り2人は銀髪とミントブルーの髪の少女、1機の方は周囲の人間より大きいロボット─防衛軍で運用される知能構造体である。

 

 一方デューティの方は一糸乱れぬ隊列で防衛軍を睨んでいた。だが、よく見れば一部の兵卒が防衛軍に対して憧れの視線を、古参兵は厳しい目線を向けているのが分かる。

 兵卒達は一切姿勢を崩さない状態で、小声で目の前の防衛軍の事を話し合っている。

 

 「あれが防衛軍の特殊部隊…!初めて見た…ロボットかっこいいな。」

 

 「将軍と同じオブシディアンの精鋭だ…サイン貰えるかな?」

 

 「貴様ら警戒を怠るな…!奴らは腑抜けの防衛軍で、デューティの敵なんだぞ…!」

 

 「しかし曹長、オボルス小隊は優秀で素晴らしき軍人達ってさっき…」

 

 「いいから口を閉じろ…!」

 

 そんな事をヒソヒソ喋る前で、防衛軍の特殊部隊「オボルス小隊」の隊員──11号とシード、ついでにパイロットもまた、デューティに対する警戒は一切解かずに、雑談に興じていた。

 

 「〜♪…隊長達遅いね〜そんなに許可もらうの大変なの?」

 

 「当たり前だ、デューティの防衛軍嫌いは筋金入りだ。イゾルデ大佐が居るなら説得出来るかもしれないが…」

 

 「デューティの兵士は流石ね…これまで姿勢を一切崩してないわ。中尉、貴方も彼らを見習ったどう?」

 

 「ヘリを操縦中、お宅の隊長さんにドヤされて疲れましたからねぇ?やれ「遠回りし過ぎだ!」だの「そんなにアノマリーが怖いのか!」だのZONEを知らない癖に散々言いやがって。」

 

 シードは鼻歌を歌いながらロストクを見下ろし、11号はデューティの練度を称賛し、中尉と呼ばれたパイロットはヘリの兵員室にだらしなく座って愚痴りながら待機していた。

 

 

 

 一方、本部の地下司令部では屋上と似た様な光景があった。しかし、屋上のそれより明らかに殺気立った雰囲気が司令部全体を包み込む。

 工場地下の広いロッカールームを改装したその司令部には、オボルス小隊の隊員─鬼火、オルペウス、トリガー、そして防衛軍のイゾルデ大佐と、彼女らを取り囲む5人の強化外骨格(エクソスケルトン)を装備したデューティの高官達がいた。

 

 オルペウスは地下司令部の圧迫される様な雰囲気に息が詰まりそうな、いや実際詰まってる状況に冷や汗が止まらない。その原因の半分オボルスの隊長「鬼火」がデューティを敵意を持って睨み付けているのが原因なのだから無理もない。

 もう半分は、今自分達を取り囲むデューティの高官達が、元々はオボルス小隊と並ぶ程の実力を持つ精鋭部隊の猛者達と言う事だ。もし一戦交える事になったら、この至近距離と数で劣る自分達は殺されるかもしれない。

 

 オルペウスと違ってトリガーとイゾルデは目の前に居る、デューティの最高司令官、タチェンコ将軍を冷静に真っ直ぐ見据えている。

 

 「…もう一度聞きますが、ヤンターでの調査任務の為に、地域一帯から一時的にデューティの部隊を下がらせる。そういう事で良いんですねイゾルデ大佐?」

 

 「その通りだタチェンコ将軍、防衛軍としてはわざわざ調査任務如きに反乱軍と和平はしたくないとの事だ。」

 

 「はぁ…上層部は相変わらずですね、殆ど境界線に引き籠ってる癖に外向けのアピールは欠かさないと、その為にわざわざ貴方達を説得に遣わすなんて…そうだ大佐、大尉で結構です。あくまで自分はデューティの将軍であって、防衛軍としてはいち大尉に過ぎませんでしたから。」

 

 「将軍、それでは他の兵士達に示しがつきません、相手はデューティの敵ですよ!」

 

 『当然だ、たかが大尉が自分の手先には将軍と名乗ってるなんて余りにもお笑い草だったからな!』

 

 「お…鬼火隊長…今は──」

 

 「今なんと言った、尻尾銃。」

 

 イゾルデに対するタチェンコの態度にデューティの高官が苦言を申すと、横から鬼火が侮辱する様な発言をする。オルペウスが諌めようとする前に、それに対して青筋を立てながらデューティの高官の1人が鬼火に言い返す。

 

 「お前の様な尻尾の分際で将軍に無礼な口を聞くとはな、文字通り尻尾を巻いてZONEから逃げだした臆病者共の癖に…!」

 

 『貴様らこそ命令を無視し、逃げ出した脱走兵共じゃないか!しかも高らかに反乱を宣言して、お前等は立派な反逆者だ!』

 

 「貴様──」『ここでやる気なら──』

 

 一言も喋れないオルペウスを挟んで、デューティの高官と鬼火の口論は止まらない。挙句、武器を抜きかねない状況だったが──

 

 「よせ、ボロニン。」「止めろ鬼火。」

 

 タチェンコとイゾルデの静かな、それでいて非常に重々しい口調が司令部に響く、2人を除く全員に、その場に固まってしまうようなプレッシャーが襲い掛かる。

 

 「彼女達は我々がZONEで手をこまねく間に、ホロウを始めとした脅威から新エリー都を守ってくれていた者達だ。決して制圧部隊や駐留部隊の様な連中では無い、彼女達の侮辱は決して許さん。」

 

 「彼らは制圧部隊が見捨てた多くの人員を救い出し、それでいて防衛軍の代わりにZONEと戦っているんだ。防衛軍に残されているZONEのデータの多くは、デューティから提供された物だと知っているだろう。」

 

 2人の諌める様な言葉に、鬼火とデューティの高官は口を閉ざす、だがその顔は納得いかないと言う物だ、タチェンコとイゾルデがいなければすぐに衝突を再会するであろう。

 

 「…すみません大佐、お見苦しい所を見せました。」

 

 「こちらもだタチェンコ大尉……それでだ、デューティの返答を聞きたい。君達が防衛軍に良い印象を抱いていないのは分かるが…」

 

 「……自分はかつて、部下を見殺しにして自分1人逃げ延びた過去があります。忘れもしない、旧都陥落の時にだ、彼女はその事を知っている筈だ。」

 

 そう言ってタチェンコはトリガーを見る、視線を向けられたトリガーはそんな彼の事を、目を覆うゴーグルの奥から憐れみの表情で見つめていた。

 

 「チェプルニー…コスマッチ…ザハルスク…ブンチュク…小隊の部下達を置き去りにして、自分は義務を果たす事から逃げ、1人無様に生き延びた。あの時から誓ったんだ、もう二度と、エリー都を…市民を守るという防衛軍の義務から、死んでも逃げないと。」

 

 「タチェンコ大尉、貴方はあの時逃げた訳では──」

 

 「俺は逃げたんだよトリガー君…そして、あの時の俺と同じ様に、制圧部隊はZONEから逃げ出したんだ…!その義務を果たす事を放棄して!」

 

 タチェンコは、先程までのイゾルデと話していた様な丁寧な口調から、荒々しい口調に変わっていく。その目は、防衛軍に対する失望とZONEに対する敵意に染まっていた。

 

 

 「ZONEは我々にとって未知の場所だ…この場所が何故現れたのか全く分かっちゃいない…ホロウよりも安定しているだと…?あのエミッションが新エリー都にまで広がったら…?もし旧都陥落の様な惨劇が起きたら…?何一つZONEの事を解明出来てないのに、最悪の未来が起きてしまってからでは遅いんだ。

 俺達がZONEに残り続けたのは、撤退した制圧部隊が、もう一度戻ってくると信じていたからだ…!今度こそ、ZONEを制圧し、脅威を見定め、最悪の未来から新エリー都を守る…!その義務を遂行するのだと!

 だが来なかった…!我々が幾日待とうとも、奴らは境界線から出て来る事は無かった、ZONEの危険性は低い等とほざいて…!だから我々は防衛軍を捨て、ZONEと戦う為にデューティ(義務)を結成したんだ!」

 

 

 手前にあるテーブルに、タチェンコの拳が叩きつけられる。衝撃にテーブルが叩き割られ、卓上の物が地面に落ちていく。

 少しばかり頭が冷えたのか、タチェンコは落ち着きを取り戻しつつあった。最も、その目つきは一切変わっていないが。

 

 「イゾルデ大佐、正直期待していたんですよ…貴方やオボルス小隊の様な、オブシディアンの誇り高き将兵が、わざわざ自分達の所に来てくれた、そして我々に「防衛軍はZONEを再度制圧する準備を進めている、全てのデューティは防衛軍の指揮下に戻れ。」と命令してくれる事をね。

 結局、「旧都時代の施設を探索したいから、お前等は一旦どっか行ってろ。」なんて用件でしたが。」

 

 「大尉…我々は──」

 

 「貴方の事も、オボルス小隊の者達も、自分は尊敬しています。防衛軍の奴らには従いたくありませんが、貴方達に敬意を払ってその申し出を聞き入れます。

 期日は明日いっぱいまで、その間ヤンターからデューティの部隊を全て下がらせておく。だが期日を過ぎたその瞬間、ヤンターに部隊を戻し、防衛軍が残っていたら一人残らず排除する。」

 

 話は終わりだと、タチェンコはそれまで座っていたソファから立ち上がり、周囲の部下に命令を下す。

 

 「彼女達はお帰りだ。ズールー、丁重に送り届け給え。クリロフはヤンターの部隊に移動の指示を。ボロニンとスカルは私と共に来い。」

 

 「……すまないな、タチェンコ大尉。」

 

 「何かしら成果がある事を祈ってますよ、イゾルデ大佐。」

 

 そう言うとタチェンコ達は地下司令部から退出し、イゾルデ達はデューティの高官に連れられ、本部屋上のヘリに戻って行った。

 

 

 

 ヘリが待つ屋上に出た瞬間、オルペウスが汗だくになりながら深い深呼吸を始めた。

 

 「はぁぁぁ…!やっと息が出来ました…!なんっですかあの空気!?どうやったらイゾルデ大佐やトリガーさんはあの様な空間で平然と出来るのでありますか!?」

 

 「うわ、オルペちゃん凄い汗びっしょり。」

 

 『訓練が足りんぞオルペウス、あんな連中の威嚇なぞ、そよ風が吹いている程度の物だろう。』

 

 「原因の半分は鬼火隊長にあります!不用意に彼らを挑発して怒らせて!自分はその間に挟まっていたのでありますよ!?生きた心地がしなかったんですからね!」

 

 『そもそも奴らは反乱軍なんだぞ!挑発もクソもこちらが下手に出る必要は無い!お前はもっと毅然とした態度で奴らに──』

 

 オルペウスと鬼火が言い合いしてる横で、イゾルデはトリガーにタチェンコとの関係について聞いていた。

 

 「君がタチェンコ大尉と知り合いだったとはな、トリガー。」

 

 「彼はかつて共に戦った戦友でした。部隊は違いましたが、私の部隊と彼の部隊はよく共同で任務を行なっていましたね。

 個人的な親交はありませんでしたが、部隊間ではよく交流していたのを覚えています。当時、新米の隊長だった彼が、私の部隊の隊長に師事を受けようとしていたのも毎度の光景でした。」

 

 「私の知る大尉は防衛軍の鑑の様な人物だった、それが旧都陥落で一人逃げ出したと言っていたが…その事については知っているか?」

 

 「……彼の部隊は旧都陥落の日、先遣隊の一つとして送られていました。たった1人生き延び、あの地獄から自力で帰還し、重傷を負いながら現地の記録を多く持ち帰ってきたんです。

 その記録には、彼が部下を見捨てるどころか、負傷して動けない部下を全員助け出そうとした映像が残っていました。他ならない彼の部下の頼みで、置いていくしか無かったんです。」

 

 「どうも彼の発言と食い違うな。」 

 

 「後で知ったのですが、当時受けた侵食の影響で脳に異常が起きたようで…私が防衛軍に復帰してから再会した時は、性格がかなり変わっていました。元々の彼は少し気弱な性格だった筈です。」

 

 「それが旧都陥落で変質し、今ではZONEで軍閥を率いるカリスマ指導者って訳だ…人間、変わってしまう物だな。」

 

 人は変わってしまうというイゾルデの言葉に、トリガーの顔が暗い物に変わる、旧都陥落によって変わってしまった昔の戦友が、かつてライアー小隊で1人生き残り、仲間の幻想を追い求めていた自分や、トリガーと同じ様な境遇で復讐の身に堕ちた人物に重なる所があるからだ。彼に限らず、旧都陥落で色々狂ってしまった人間は非常に多い。

 

 「何はともあれ、デューティが防衛軍の手柄の為に手を引いてくれた。オボルス小隊はこれよりヘリでヤンターの研究基地へ向かい、調査任務に参加せよ。ソコロフ中尉、彼女達を現地まで頼むぞ。」

 

 「了解ですイゾルデ大佐…あれ?大佐は…」

 

 『なんだイゾルデ、一緒に来ないのか?』

 

 「実は個人的な仕事があるんだ。オボルス小隊はZONE駐留部隊のカルテット司令の指揮下に一時的に入る形となる。私の事は心配しなくていい、既にガイドを雇っている。」

 

 上官であり戦友でもあるイゾルデが共に来ないと知り、鬼火が残念そうに視線を向ける。

 

 『またお前と一緒に戦えると思ったんだがな…』

 

 「そう言うな鬼火、近いうちに機会が来るさ…皆、ZONEでは気をつけろよ、ここじゃ我々は新兵同然だ。」

 

 「「「了解!」」」

 

 オボルス小隊がソコロフ中尉の操縦するヘリに乗り込み、離陸していく。ヘリが飛んだ事で本部の下ではホロウレイダー達がまた騒々しくしていた。ヘリが飛び去るのを見守ると、イゾルデは待機していたデューティの高官に向き合う。

 

 「待たせてすまない…ええと、何という名前だったかな?」

 

 「名前は気にせんで下さい、本部の出口まで案内しますよ。」

 

 2人はデューティの本部を歩きながら、イゾルデが高官に語りかける。

 

 「…一つ良いか?君はデューティの使命を何だと思っている?」

 

 「ZONEの脅威から市民を守る盾となる。それが俺達の使命だと思ってますよ。兵士達の中にはZONEを破壊するのが使命と思ってる奴もいますがね。デューティが生まれたあの時、将軍が言った事を俺は忘れない。「防衛軍に背を向けても、防衛軍の義務を決して忘れるな」と、それを捨てたら俺達はただの武器を持ったならず者だ。」

 

 「防衛軍の義務…か。」

 

 ──力強い即答だった。坊主頭に口周りに髭を蓄えた大柄のデューティの言葉に、イゾルデは彼に聞こえないように呟く。そうしてる内に、本部の出口に辿り着いた。

 

 「ここで良い、ありがとう……私の個人的な仕事について将軍に報告しないのか?オボルスとヤンターに行かないのはどう見ても怪しいだろう?」

 

 「将軍はアンタを信用しているみたいなんでね、かく言う俺もアンタは信用している。但し外では気をつけて、ZONEじゃ防衛軍は嫌われている、安全の為にホロウレイダーの様な恰好をしていって下さい。」

 

 「フフ…親切にどうも、ズールー。未だにその機関銃を愛用しているんだな。」

 

 「全く、俺の事覚えてたんですか…意地悪なお方だ。」

 

 デューティの高官が本部に戻って行く、イゾルデは雇ったガイドとの合流場所へ向かう前に、デューティの本部に振り替える。

 

 (そうだよなタチェンコ…防衛軍の使命は、市民を守る事だ…その義務を果たす事を、最初から捨てる様な奴は……)

 

 イゾルデの視線はデューティの本部に向いていたが、本部を見ていなかった。遥か遠くの、ZONEを超えた先の新エリー都に居る誰かに届かせる様に。その瞳の奥に、復讐の炎を宿しながら。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 ──オボルス小隊がヤンターへと向かったのと同時刻

 

 地上のちょっとした騒ぎのせいで、いつも人がいる筈の100rads barは少しの間だけ閑古鳥が鳴いていた。バーキープは何時ものように大きなクマの手でグラスを拭いている。

 

 そのカウンター席でスキフは酒を飲みながら、PDAの地図に何か書き込んでいる。その地図にはあちこちバツ印があり、それを険しい顔をしながら眺めていた。

 

 「ファクトリー…存在、収穫無し。アグロプロム…存在、書類関係は僅かに見つかったが、肝心の情報は一切無し。前の世界でSIRCAAがあった地域…ホロウに覆われていて存在しない。ドゥーガ…X-ラボの痕跡無し。ヤンター、未だに近寄れない。……畜生め。」

 

 ブツブツと何かを呟きながらPDAを見つめているスキフ、そんなスキフにバーキープは追加の酒を提供する。

 

 「よぉスキフ、その様子じゃプロキシからの仕事は上手く行ってないみたいだな。流石秘密の研究施設、中身も秘密って訳だ。」

 

 「Помогите(助けてくれ)バーキープ…全く手掛かりが見つからない。今まで見つけたX-ラボの中に、殆ど何も残ってないんだ。」

 

 そう、アキラからの依頼でZONE中のX-ラボを捜索しているスキフだが、今の所収穫は全く無い。

 元いた世界とZONEの地形が殆ど同じなのを見て、前のZONEでスキフが訪れた事のあるX-ラボの位置と同じ場所を捜索し、その結果幾つかの場所でこの世界のX-ラボを発見したのだが…

 

 「ここまで何も見つからないとは思わなかったんだ…フリーダムめ…」

 

 「俺もまさかフリーダムの奴らがX-ラボについて探し回ってるとは思わなかったな…アーティファクトにしか興味が無いと思ってたが…なんか匂うな、後で調べてみる。」

 

 スキフが訪れる前に、研究施設にあった筈の情報は全て持ち去られていた。そしてその犯人が恐らくZONE二大派閥のフリーダムであると予測していた。

 

 その理由が、スキフが各地のX-ラボを探索中、内部のアノマリーやミュータントに引き裂かれたであろう、フリーダム兵の死体が存在したからである。

 今まで誰もX-ラボの事など気にかける者が居なかったのに、フリーダムがその研究施設の中で活動していたとなると、自ずと情報を持ち去った犯人の見当が付く物だ。

 

 それ以外にも、スキフには頭を悩ませる物があった。

 

 (ヤンターのX-ラボが無理なら、いっそZONEの奥に行ってしまえばいいと思ったが……冷却塔前があんな大亀裂になっているとは…流石にあれは渡れない。ならばブレインスコーチャーを止めてしまえと思ったけど…)

 

 元いた世界で冷却塔の地域からZONE最奥のエミッターまで突っ切ったスキフ、この世界でも同じだろうと思って、冷却塔の地域と繋がるセメント工場一帯へ向かったのだが…スキフの記憶では地域を跨ぐ冷却水等の用水路となっていた場所が深い亀裂となっており、おまけにアノマリーの大群が犇めいていたのだ。

 

 あえなく冷却塔に行くのを断念したスキフは、次はブレインスコーチャーを停止させて赤い森を突破してやろうとしたのだが…

 

 

 (まさかマラカイト(・・・・・)のブレインスコーチャーが存在しなかったとはな……もしや赤い森の中にあるのか?どうやって行けばいい?)

 

 

 この世界に、ブレインスコーチャーの施設は存在しなかった。

 

 

 正確には、元いた世界ではマラカイトに存在したブレインスコーチャーが、この世界では全く別の、普通の倉庫に変わっていたのだ。

 

 だが赤い森を覆うブレインスコーチャーは存在する、だからスキフはあの中に施設があるのではないかと思っているのだが…流石にあの強烈なPSI放射を突破する事は出来なかった。

 

 「チョルノービリと似た地形だから行けると思ったんだけどなぁ…何が「俺に任せておけ」だよ、お手上げじゃないか…」

 

 「ようスキフ!さっきデューティの本部の上に防衛軍のヘリが来てたの知ってるか!?」

 

 

 アキラから自身満々に仕事を請け負って見せたスキフだが、ここまで進展がない為、彼のプライドが傷付き落ち込んで行く。

 そんなスキフとは対照的に、何故か上機嫌のリヒターが店に入って来た。

 

 「見物してたらデューティの本部から緑髪のすっげえ綺麗な美人が出てきてさ、しかもめっちゃナイスバディ!」

 

 「そうかそうかリヒター、そんなに美人ならさっさとケツ追いかけていったらどうだ?ブラインドドッグ(めくら犬)みたいによ。」

 

 「な…なんでそんなに不機嫌なんだよ、プロキシからの仕事が上手く行ってないのか?ここんとこずっと調べ物してたみたいだけど。」

 

 「その通りだ相棒、全くもって進展が無い、バユン(人喰い猫)の手を借りたいくらいだ。」

 

 「そうか…あっそう言えばさっきの防衛軍のヘリなんだけど…」

 

 美人を見かけて気分が良いリヒターをあしらい、調査が上手く行かない事を愚痴る。だがリヒターが何か思いついたらしい。

 

 「どうやら奴らヤンターで何かするらしいぜ、デューティがヤンターから撤退を始めてるらしいとも聞いた。お前、ヤンターの科学者と関わり持ってたよな?何か聞いてないか?」

 

 「ああ…何回か彼処で仕事したけど何も…待て、PDAに何か来た。」

 

 スキフのPDAに何者かから連絡が入る、そこにあった名前は───ヤンター研究基地の主任研究者─サハロフ教授とあった。

 

 『ハローハロー、スキフ君。サハロフだ、今話せるかい?』

 

 「どうもサハロフ教授、何かあったのか?」

 

 何故この二人が知り合いなのか、それはスキフが元いた世界から持ち込み、壊れてしまった「ベルズ検知器」を修理してもらえないかとヤンターに来訪した時にサハロフと出会ったのが始まりだ。その後、ヤンターで何度か仕事を請け負ったりしたのもあって連絡を取り合える様にしている。

 

 『実はだね、ヤンター研究基地で警備を担当してくれていたデューティが一時的に去る事になった。理由は防衛軍がやって来るからだ。』

 

 「さっき噂で聞いたな…それを何故俺に?」

 

 『ヤンター研究基地と防衛軍とで合同の調査を行うことになったんだ。その目的が、ヤンターにある旧都時代の施設…その対象には、基地の近くのX-ラボも含まれている。』

 

 「っ…!本当か!?彼処のPSI放射を何とかする方法を見つけたのか!?」

 

 「うおっ冷た!」

 

 サハロフの言葉に、スキフは側の酒瓶を倒してしまうくらいの勢いで驚いた。バーキープが顔を顰め、隣にいたリヒターに酒が掛かる。

 

 

 『君は我々と仕事するホロウレイダーの中で、一番あの施設にご熱心だったからね、あの高性能検知器や今までの仕事の成果を顧みて、君にX-ラボの調査を任せようと思うのだが…今すぐ此方に向かえるかね?』

 

 

 それは今のスキフにとって、願ってもない提案であった。

 







 ◇タチェンコ将軍
 デューティの創設者、どの作品でも既に故人となっており会話等は出来ない。
 ZONEが誕生した際に投入されたウクライナ軍の大尉で、なんと核兵器を使ってZONEを破壊する任務を受けていた。
 だけど防護服もアノマリー探知機もないのに突っ込まされたせいで多くの部下が死亡、更に撤退命令が下されてブチ切れた彼は軍を見限り、ZONEを破壊する為に部下達を纏め上げ、デューティを結成する。
 初代の後日譚CoPでは彼の身に起きた悲劇を知ることが出来る。
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