Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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21.ハローハローヤンター

 

 

 

 ヤンター研究基地は新エリー都におけるZONE調査の最前線である。現在のZONEに立ち入れる限界点である赤い森の目の前に存在する地域で、沼地に建てられた移動式の研究施設だ。

 

 PDAの地図で見るとポツンと一つだけバンカーがある程度に見えるだろうが近くまで行くとその物々しさに圧倒される事が想像に難くない。

 

 スキフも最初にやって来た時は、チョルノービリで使われていた台形の科学者のバンカーを更に大型化した要塞の様な建物に思わず目を奪われた程だ。

 元居た世界のZONEでは既に科学者達の拠点は放棄され、ヤンター自体が価値のある物が無くなったZONEでも一二を争う寂れた地域だったが、この世界の科学者とホロウレイダーが研究や調査の為に行き交う、比較的活気のある地域となっていた。

 

 だが今日のヤンターは、その活気さが少々鳴りを潜めているようだ。

 敷地内には、普段警備を担当していたデューティやホロウレイダー達の姿はない、代わりに新エリー都防衛軍の兵士達が基地を守っていた。ZONEで見かける駐留部隊の様な不真面目さは無く、ニ線級ではない練度と士気の高い部隊を送り込んだと分かる。そのせいか普段からどんよりしているヤンターの景色が、日が落ちかけている事も含めてより重い物に見える。

 

 「今日は一段と物々しい雰囲気だな…本物の軍事要塞みたいだ。」

 

 「そこで止まれ、ホロウレイダー。」

 

 ヤンターの調査任務に参加する為、研究基地にやって来たスキフ。彼は防壁に囲まれた基地の敷地に入ると警備を行っていた防衛軍の兵士に呼び止められる。

 

 「怪しい者じゃない、調査任務に参加する為に…」

 

 「研究員の安全の為だ、身体検査の後、PDAを確認させてもらう。」

 

 「ここの基地を襲撃する奴なんてミュータントくらいしかいないぞ。」

 

 バンディットや反乱軍でさえわざわざヤンターまで来て科学者を襲う者は居ない。通常兵器じゃびくともしないバンカーに攻撃しようとする無謀な者は居ないし、襲うならフィールドワークの為に出てきた所を襲撃すれば良いからだ。

 ホロウレイダーにしたって科学者達は高くアーティファクトを買ってくれる上客なので、余程の恨みさえ持っていなければ敵に回す様な行為は絶対にしない。

 

 「デューティの連中はここで仕事する奴を皆覚えてたんだぞ?一々こんな事するのか?」

 

 「お前の事をこっちは知らない、あと我々の前で反乱軍の名前を出すな……終わったぞ、武器は此方で預かっておく、基地から出る時に返却する。」

 

 そう言うと兵士はスキフの銃を持っていこうとする。スキフは思わず抗議した。

 

 「おい銃を返せ、そんな規則は無かった筈だ。」

 

 「何度も言わせるな、これは安全の為の…」

 

 「君!調査任務に参加するホロウレイダーに身体検査は必要ないと何度言わせる気だ!彼に武器を返したまえ!」

 

 スキフの抗議に反論した兵士に対して、丁度基地から出てきた卵型のヘルメットに緑色の防護スーツを着た科学者が割り込んで来る。

 

 「クルグロフ教授、これは安全規則に則った…」

 

 「今日明日限定の安全規則に何の意味がある、真面目なのは良いが、こっちが雇っているホロウレイダーの手を煩わさないでくれ、武器を返すんだ。」

 

 防衛軍の兵士は渋々スキフに武器を返却し、警備へと戻って行った。面倒事を解決してもらったスキフはクルグロフに礼を言う。

 

 「助かった、流石に外で銃を手放したくないしな。」

 

 「サハロフ教授から話は聞いているよ。調査任務に参加するホロウレイダーだろ?既に君以外は揃っている、明日に備えたブリーフィングを始めるからついて来なさい。」

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 「ハロー諸君、サハロフだ。今回の合同調査任務について軽く説明しよう。」

 

 バンカー内に幾つかある研究室の一つを即席の会議室にした部屋に、数人の科学者とスキフを含めた十人程のホロウレイダー、防衛軍の隊員─オボルス小隊のメンバーが集まっていた。

 

 部屋の奥に、白髪に染まった頭部の初老のヤンター研究基地の主任サハロフ教授と、その側にクルグロフも立っている。

 

 「既に聞いていると思うが、普段僕達の仕事を受けているホロウレイダー達には何時もと違う事をしてもらう。」

 

 サハロフはプロジェクターを使い、壁にヤンター一帯の地図を投影する。そこには2つの地点に丸印がついており、一方はヤンターの南にある広大な廃車場の様な場所、そしてもう一つは研究基地の近くのX-ラボに付いている。

 

 「何時もはミュータントの素材回収やアノマリーの調査等を担当してもらっている君達だが、明日はこれらの施設の調査をしてもらいたい。

 それぞれ旧都時代の研究施設だった場所と、廃車場に新たに確認された地下の軍事基地がある、この2つをここに居る防衛軍の者達と共に情報を集めるんだ。」

 

 サハロフが操作をすると、次の画面が映し出されリストの様な物が現れる。2つに分けられたリストの片方には3人、スキフの他に11号、トリガーと書かれていた。

 

 「残念ながら期間は明日一日しか無いので、此方の方で調査メンバーの振り分けをさせて貰った。もう一方のチームにはヤンター南の廃車場を、もう一方はここの皆は知っているね、強力なPSI放射が検出されて近づけない謎の研究施設…X-ラボだ。」

 

 X-ラボの名が出てきたことにより、ホロウレイダー達の顔が引き締まる。この付近で活動するホロウレイダーなら彼処が死のエリアと化している事は常識だからだ。

 

 「ぷさいほうしゃ…?えっと…どういうのでありましたっけ?」

 

 『……オルペウス、貴様あれだけ全部読めと言ったZONEの調査記録をちゃんと読まなかったな?』

 

 「よよ読みましたよ隊長!ただ量が多かったのでちょっと見逃しがあるかもしれないでありますが…」

 

 『それをちゃんと読んでないと言うんだ!作戦前に全ての情報を頭に叩き込んでおけと何度言ったら分かる!』

 

 「尻尾が喋ってる…」

 

 聞き慣れない単語を耳にしたオルペウスが呟くと、彼女の怠慢に鬼火が烈火の如く怒りだす。先程までの真剣なブリーフィングは何処へやら、一気に騒々しくなった部屋でスキフは尻尾が流暢に会話しているのに驚いていた。

 

 「オルペウス君、PSI放射と言うのは人体に致命的な影響を与える特殊な波動の様な物だ。浴び続けるとで体内エーテルを変質させ、まるでエーテル侵食の様に脳に不可逆的な損傷を引き起こし、最終的にはゾンビになってしまう、特に赤い森やX-ラボから放出される物は僅かな時間浴びるだけでも致命傷だ。」

 

 「ひぃぃ!ZONEにはそんなおっかない物があるのでありますか!?しかもそこを調査すると!?」

 

 『一々驚くなオルペウス!こんな物ホロウでのエーテル侵食と変わらんだろう!』

 

 「その発言は我々としては余り好ましくないね、エーテル侵食と違ってPSI放射への対抗策は殆ど無いんだ…今までは。」

 

 オルペウスと鬼火にPSI放射への説明をしていたサハロフがケースを取り出し、そこから頭に装着するであろう装置の様な物が3つ出てくる。

 

 「我々が作り上げたこの試作型の対PSIヘルメットがあれば、X-ラボのPSI放射を防ぐ事が出来る。既に効果は実証済みだ…赤い森のブレインスコーチャー(脳焦がし)クラスは未だ耐えられないんだがね。」

 

 「それを着けてX-ラボに行くメンバーは決まっているようですね。」

 

 「その通りだトリガー君、残念だが試作型は3つしか用意出来なかった。なのでリストを見れば分かるがX-ラボに向かう者は当然3人。その内の1人は此方で選んだホロウレイダーだ。」

 

 周囲から視線を感じたので周りを見ると、他のホロウレイダーや残りのオボルスの隊員がスキフ達X-ラボ調査班の3人を見ていた。鬼火が何か疑問を持ったようでサハロフに対して質問を投げかける。

 

 『サハロフ教授、何故我らオボルス小隊にX-ラボの調査を任せず、ホロウレイダーをチームに入れるのか教えてもらっても?』

 

 「PSI放射は知能構造体にも作用する、オルペウス君の尾先に接続されている鬼火君やシード君と共に行動するビックシードの分まで用意するとなると、X-ラボを調査する為の人数がその分減ってしまうからね。

 それと…君達防衛軍だけを調査に向かわせるのは我々にとって政治的な都合上、問題があるのだ。」

 

 鬼火の質問に対して尤もらしい回答の後に、政治的という単語が出てきた事で鬼火は怪訝な表情をする。スキフもそこまで問題があるのかと気になった。

 

 「このヤンター研究基地は新エリー都の様々な組織や団体から多くの出資と支援を受けている。市政、TOPS、TOPSに属さない企業、各研究機関…そのお陰で、我々は誰かがZONEでの成果を独占しない様に注意しないといけないのだよ。」

 

 『それが防衛軍だろうと変わらないと。』

 

 「今回の調査は普段境界線から出て来ない防衛軍からの要請だが、出資者達からすればそれが気に入らないらしい。ZONEで得た利益は皆の物、引きこもりの癖に防衛軍が勝手にZONEから物を持ち出すのは気に入らないという訳だ。裏じゃ皆、成果の奪い合いをしてる癖にね、本当に面倒な事だよ。」

 

 思ってたよりもヤンターの中はドロドロしているらしく、サハロフは面倒くさそうに説明していた。よく聞けばその“面倒”と見ているのは出資者だけではなく防衛軍も指している様に見えるが。

 

 「それと、君達はZONEの事を知らない。ZONEのホロウレイダー達の方がアノマリーやミュータントに対する幅広い対応が出来る、君達オボルス小隊の足りない部分を彼らに担当してもらう事になる。」

 

 『我々だけでは力不足と言いたいので?』

 

 「端的に言えばそうだね。」

 

 バッサリとサハロフは言ってみせた。オボルス小隊の実力を疑われて鬼火は不服な表情をしている。

 

 「かつて制圧部隊として送られた者達はホロウで様々な任務をこなし、多くの知識をもったベテランの精鋭が多く含まれていたにも関わらず、ZONEという未知の環境を前に多くの犠牲を出し、制圧作戦は失敗した。

 ここではホロウでの経験や知識は通用しない、君達もZONEの記録を閲覧して知識はある様だが、実際に見て経験した訳では無い…みすみす君達をZONEの餌食にする訳にはいかないのだよ。」

 

 気遣いの様な、そうではないようなサハロフの言葉に鬼火も口を閉じた様だ。これ以上質問が無いのを見て、サハロフはブリーフィングを終える準備をする。

 

 「廃車場の方に行くメンバーにはクルグロフ教授が共に同行する、彼と共に明日の調査について打ち合わせしてくれ。それと…X-ラボの調査チームは此方に、ヘルメットを渡そう。」

 

 サハロフに呼ばれたスキフ、11号、トリガーは対PSIヘルメットを渡されていく。手に取ったスキフは自分の頭とサイズが合わないのではと思ったが、よく見れば頭のサイズを変更出来る様になっていた。

 

 「フリーサイズだから各自でサイズを合わせてくれ、実は明日君達が向かうX-ラボで調査の他にやって欲しい事があるんだ。」

 

 「やって欲しい事とは?」

 

 「彼処のPSI放射の発生源を探し出して、可能なら停止して欲しい。」

 

 「X-ラボのPSI放射は人口的な物なのですか?我々が見た記録ではアノマリーの一種だと書かれていたのですが…」 

 

 トリガーが確認した記録とは少々食い違うようなサハロフの言動に疑問を持つ、サハロフもそれ自体は間違ってないと頷いた。

 

 「確かにPSI放射は時たまZONEの一部で確認される現象だ。だがX-ラボや赤い森のそれと違って、極短時間で脳に異常を来す物ではないし、自然物の様にそこに存在している。

 しかし、最近判明した事だが、X-ラボの物からは明らかに発生源の様な物が存在しているのが観測されたんだ。彼処が旧都陥落以前は秘密の研究施設と呼ばれていたのも相まって、何かPSI放射を引き起こす装置が存在するのではと僕は考えている。」

 

 「施設の何処にあるかも分からない物を、PSI放射とゾンビが蔓延する中、他の調査と並行して探し出せと。本当にこのヘルメットはPSI放射を耐えられるんだろうな?」

 

 スキフが掲げた対PSIヘルメット、後頭部に装着する細い形状のそれはスキフから見て少し頼りなさそうな見た目であった。

 

 「間違いなく耐えられるが、半日以上持つかどうかまでかは分からない。」

 

 「効果は実証済みと言ってたじゃないか…さっきと言ってる事が違うぞ。」

 

 「長時間耐えられるかどうかまでは試験してないのでな、だが君達の能力ならそこまで時間は掛からない筈だろう?」

 

 マッドサイエンティストめ、スキフはそう思わずにはいられなかった。元居た世界での経験も含め、何回も仕事して分かったがどうにも科学者という人種は此方に対して「まぁ大丈夫だろう」という感覚で危険な実験をやらせてくる傾向がある。

 

 「彼処のPSI放射を停止する事が出来れば、ここに向かってくるゾンビの数も減少する筈だ。ここら一帯のゾンビの発生源は彼処だからね。」

 

 「理にかなってるわね、敵の出所を潰せば周辺の安全確保が容易になるわ。調査もしやすくなるでしょう。」

 

 「お前等防衛軍は調査期間が明日一日しかないのを忘れてないか?あの手の建物には強固なセキュリティがあるもんだ、制限時間がどれくらいあるのか分からないのに、内部が分かってない施設を捜索する手間もあるんだぞ。」

 

 「十分よ。」

 

 (この女の自信は何処から来るんだ…)

 

 思わず名前も知らない女兵士に文句を言ってしまったスキフ、これが彼と11号との初の会話である。

 

 「11号君、トリガー君、君たちに渡す物がある。新型のアノマリー探知機だ、バイザーやゴーグルにダウンロードする事で視覚的にアノマリーの位置を把握する事が出来る。他のオボルスの者達にはクルグロフ君から渡される筈だ。」

 

 「その様な物があるとは…ZONEでは音で知らせるタイプの探知機が主流だと聞いていました。」

 

 「とある親切なホロウレイダーが開発(・・)に協力してくれたのでな、これで移動中にアノマリーに巻き込まれる可能性は大幅に減らせるだろう。」

 

 「まてサハロフ教授、俺の分は無いのか?」

 

 新型の探知機とは間違いなくスキフが元居た世界から持ってきた「ベルズ検知器」だ。彼に出所を聞かない事を理由に修理出来ないか頼んだのだが、この世界の技術力で修復に成功し、量産出来たらしい。なのに持ってきた当人のスキフには渡されないようだ。

 

 「残念だがオボルス小隊の分しか用意出来なかった、君には引き続き、従来の探知機と豊富な経験でアノマリーに対応してもらう。」

 

 「畜生め…初心者には優しくってか?」

 

 「軍人たるもの、デバイスに頼らずに戦場を進める様訓練するものよ。」

 

 「俺は軍人じゃない、その探…まぁいい。」

 

 その探知機は俺が持ってきた奴なんだぞ─そう言いかけてスキフは止めた。無いものは無いのだから、さっさと諦める事が肝心なのだ。

 

 「明日の調査については君たちで計画を組んでくれ。それでは健闘を祈るよ、ホロウレイダー達とオボルス小隊の寝室はそれぞれ用意してあるから、明日に備えて存分に休んでくれたまえ。」

 

 そう言うとサハロフは部屋から退出していった、無茶な仕事の追加や探知機を貰えなかった事に釈然としないスキフは隣にいる11号とトリガーに向き合う。

 

 「……一応自己紹介しておくか、俺はスキフだ。」

 

 「防衛軍オブシディアン大隊、オボルス小隊所属、11号。」

 

 「同じくオボルス小隊のトリガーと申します。明日は宜しくお願いしますね、スキフさん。」

 

 「明朝5時に出発する、遅れた場合は厳罰の対象よ。」

 

 「もう一度言うが俺は軍人じゃない、軍隊の厳罰なんて知ったことか。」

 

 「同じチームで動く以上、勝手な行動は許されないわ、それを肝に銘じておきなさい。」

 

 一見物腰が柔らかいトリガーは兎も角、11号はスキフにとって苦手なThe・軍人タイプの人間だ。

 まるでウォード(監査団)の司令官、コルシュノフ大佐を思い出させる11号にスキフは内心外れを引いた感覚を覚える。尤も、向こうの調査チームにいる鬼火よりかはまだマシに見えるが。

 

 「心配されずとも遅刻はしない、バンカーの入り口に集合で良いな。」

 

 スキフは明日の準備をする為に充てがわれた部屋に向かっていく。その背中を11号とトリガーは見つめていた。

 

 「……名前が同じだった、彼から聞いた人と同一人物かしら。」

 

 「もしそうなら、彼は頼れる人と言う事になりますね。」

 

 そう呟いた2人はスキフが部屋から出ていくのを確認すると、丁度向こうの打ち合わせが終わった鬼火達に合流していった。

 

 







 ◇ヤンター
 初代SoCおよび前日譚CSでメインミッションで必ず訪れる地域。ウクライナ政府から支援を受けている科学者のバンカーが設置されており、無数のゾンビやスノークに襲われながらも付近にあるラボX-16の調査等を行っていたが、2の時代には人っ子一人居ない完全に寂れた地域となっている。
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