Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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22.ゾンビ・ハザード

 

 

 

 午前4時50分─朝日が顔を見せるまで、まだまだ掛かる時間帯。肌寒いヤンター研究基地の入り口でスキフは1人、新エリー都製の保存料たっぷりのソーセージを齧りながら暇を堪能していた。

 

 共に調査任務に挑む11号から朝5時に集合出来なければ厳罰だなんだと言われたスキフ。

 別にそこまで気にしなくても良いんじゃ無いかと思ったが、彼女の様な軍人タイプには一切の冗談は通じないとスキフは勝手に決めつけているので、こうして時間前集合をしているのだ。

 

 どうせ、昨日早く寝たせいでずっと前に目が覚めている。装備の点検も寝る前に完璧に終わらせた。

 ZONEでは伝説のアーティファクトと同等の希少さを持つ研究基地の柔らかいベッドを心ゆくまで堪能するのも良かったが、余り堪能しすぎると粗末な寝床に永遠と嘆く事になるので早々と去る事にした。

 

 「ヤンター生産複合施設…結局、前の世界じゃ禄に近寄らなかったよな…何が待ち受けてるか、ああ嫌だ嫌だ、知らない場所ってのはいつもゾッとする。」

 

 PDAの地図を確認しながらスキフは独りごちる。元居た世界のヤンターはほぼ人が居ない地域だった為、スキフも大して寄ることは無い地域だった。

 ZONEに於いては未知とは即ち、死の危険性が跳ね上がる物でしかない。この世界でもそれは同じ、エーテリアス、外来種、戦闘ロボット…これらの未知にスキフが何度死にかけたか分からないし、これからも増え続けるだろう。

 

 「防衛軍…軍隊か…」

 

 スキフにとって軍隊とは忌々しい思い出の一つでしかない。幼少期から喧嘩っ早い性格で、家族との関係が微妙だったのを理由に、家から逃げる様にウクライナ軍に入隊した。

 当時は性格を活かせるのではと思ったが、軍隊はそんな甘い所では無い。結局3年間で、地獄の様な訓練を受け、国外での戦争に送られ、地獄を味わいながら生き抜き、帰国すると同時にさっさと軍を辞めた。

 

 基本的に嫌な思い出しかないが、それでも軍時代の訓練と経験が身体に染み付いていなければZONEで早々におっ死んでいた事は想像に難しくない、なんだかんだスキフがZONEで生き残れているのはそのお陰だ。

 

 何処か感傷的に思い出に浸っていると、基地の入り口であるバンカーの重い扉が開き、11号とトリガーが外に出てきた。

 スキフが時間を見てみると5時ぴったり、驚く程正確な時間だ。

 

 「既に待機しているとは見事よ、てっきり遅れると思ってたわ。」

 

 「おはようございます、スキフさん。」

 

 「おはようお二人さん…向こうのチームはまだの様だな。」

 

 「鬼火隊長達のチームは1時間後に出発する予定ですね、スキフさんはもう準備は出来ていますか?」

 

 「出来てるよ、早速出発しよう。」

 

 時間通りに集まった3人は研究基地を出発する、まだ日は出ていないが、X-ラボに着くまでには明るくなっているだろう。

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 「貴方のコードネームを教えなさい。」

 

 「なんだ藪から棒に。」

 

 「特殊作戦に於いては、通信傍受の可能性や機密保持の観点から隊員同士がコードネームで呼び合うのは必要な行為よ、自分のコードネームを決めておきなさい。」

 

 「たかが調査任務だろ…」

 

 X-ラボへ向かう道中、突然11号から言い渡された指示だが、そんな事言われてもスキフからすればこの名がコードネームの様な物である。ZONEで本名を使う人間は殆ど居ない。

 

 「元々偽名だからな、スキフでいい。」

 

 「了解したわ、ファイヤーボール・クリスタル。」

 

 「お前は耳が聞こえて無いのか。」

 

 スキフでいいと言った矢先に、スキフの欠片もないコードネームを呼ばれて困惑してしまう。11号を見ると悪意も茶化す気も一切見えず、真剣な顔で答えているせいで尚更だ。

 

 「ミートチャンク・バッテリー、貴方の役割はZONEでの経験を活かした移動中の先導及び、戦闘中における私達の支援よ。」

 

 「それは構わないが…さっきと名前が違うぞ。」

 

 「戦闘が発生した場合、コロボーグ・プラズマは必要に応じて私とトリガーの援護を行いながらミュータントに関する情報支援を行いなさい。」

 

 「な…なぁトリガー、こいつは人の名前を覚えられないのか?」

 

 「彼女なりのコミュニケーションみたいな物ですよ。」

 

 「そうか……了解だ、ナイトスター・スプリング…?」

 

 「私のコードネームは11号よ、ちゃんと覚えておきなさい。」

 

 「…………Дар(了解)。」

 

 トリガーが後ろで小さく吹き出したのをスキフは聞き逃さなかった、続いて彼女から「失礼。」と聞こえてきたので、思わず悪態をつきたくなるのを我慢してX-ラボへと歩みを進める。

 

 

 スキフの歩みはやけに足早であった。

 

 

 

 ───ヤンター X-ラボ正門付近

 

 スキフ達の視線の先、施設入口の鉄門へ続く道路に2体の人影が見える。

 

 その人間達はまるで夢遊病の様にふらつき、その目は虚ろに何処かを見続け、何かを呟きながら徘徊していた──手に銃を持ちながら。

 

 ゾンビ──映画やゲームに良くある呪術やウイルス等に侵され、死体が起き上がって人肉を食らう様なお馴染みの存在ではなく、主にPSI放射によって脳に不可逆のダメージを負い、ZONEを彷徨い続ける事になったホロウレイダーを始めとした生きた(・・・)人間達。

 

 防衛軍に残された数少ない記録に書かれたその存在を、始めてその目で見た11号とトリガーは、何処か言いようのない不快感を感じてしまった。

 

 「記録映像で知ってたけど、実際に見てみると本当にゾンビとしか言いようが無いわね。」

 

 「……スキフさん、彼らは、ずっとあの様に彷徨っているのですか?」

 

 「さぁな、少なくとも俺は奴らが勝手に飢え死にしてくたばる所は見たことない。」

 

 そう言いながらスキフは手に持つサプレッサー付き自動小銃─ASラヴィナを視界の先にいる2体のゾンビに向ける。

 銃本体の作動音と空気が抜けるような音のみ発生させ、銃口から放たれた弾頭はゾンビの頭を容易く貫通し、力無く崩れ落ちた。

 

 「知ってるとは思うが、一応言っておくとゾンビは頭を狙えば簡単に死ぬ。痛みは感じないのか胴体への攻撃は効果は薄い、倒したと思っても起き上がってくるからな。」

 

 「了解よ、胴体より頭。記録と同じね。」

 

 「11号、背中貸すから壁の向こうを見てくれ。施設の中にどれくらいいるのか確かめたい、気をつけろよ、奴らは意外と目ざとい。」

 

 「分かったわ。」

 

 スキフがX-ラボの広い敷地を囲む壁に手を付き、背中に乗るよう促す、11号がその上に乗り、壁上に張り巡らされた有刺鉄線に気をつけながら敷地内を覗き込んだ。

 

 「……かなりの数ね、ざっと見ただけでも30人は居る。」

 

 11号がスキフの背中から降りる、スキフが顔を上げるとトリガーが耳を澄ましている様な仕草をしていた。

 

 「うめき声や足音の数はもっと多いですね、少なくともその倍は居てもおかしくないかと。」

 

 「なんだトリガー、お前耳が良いのか?」

 

 「ええ、この施設の大半はカバーできますよ?」

 

 「…本当だったら凄いな。」

 

 「トリガーの能力は本物よ、信頼していいわ。」

 

 これが元居た世界ならば、スキフはホラを吹いていると思ったかも知れないがここは異世界、11号が太鼓判を押している事や、アンビーや猫又の様な身体能力が高い人間を見てきた事もあって素直に信じていた。

 実際、トリガーは過去の侵食で視力の殆どを失っているが、それを補うかの様に他の感覚が非常に優れた物になっている、盲目なのに狙撃手を務められる程に。

 

 トリガーの技能を称賛するのは一旦置いといて、スキフ達はどうやって敷地内に侵入するか作戦会議に入った。

 

 「ゾンビ達は銃をしっかりと持っていたわ、奴らは射撃も出来るのよね?」

 

 「ああ、訓練された兵士程じゃないが…素人よりか正確に当ててくる、下手に突っ込むと全身穴あきチーズになるぞ。」

 

 「正面突破は難しそうですね…スキフさん、先程ゾンビは意外と目ざといと言いましたが、どの程度の物ですか?」

 

 「ある程度の距離なら撃たれた方向を予測し、その方向に向けて撃ってくる程度だ。奴ら脳みそが完全に駄目になってる訳じゃない、弾切れすればリロードもするし敵の位置を把握する事もできる。」

 

 脳みそがPSI放射で焦げ付いてしまったと言われるゾンビだが、脳が溶けているわけではないのが肝心な所だ。銃の操作はちゃんと行える、機敏に動けず、棒立ちだが戦闘自体はしっかり出来るのだ。

 

 「…一つ案があるが、少し危険な物になる、特にトリガー。お前のその銃、狙撃銃だよな?」

 

 「私の役割はスナイパーですよ。これが軍事作戦である以上、危険は承知していますが…」

 

 「見ろ、向こう一帯はひらけた土地だ。彼処の小さな丘から施設の正面を狙う事も出来る。

 以前、X-ラボに入り込めないか周りを少し偵察した事があったんだが…こっからぐるりと回って東側の入口から入れば、X-ラボ奥側の一番大きい研究棟にすぐ辿り着く筈だ。」

 

 PDAを取り出し、X-ラボ周辺の地図を出す。X-ラボの正門を南とするなら、東側に敷地内への入口が存在した。

 

 「作戦はこう、トリガーが正門前の平原から内部のゾンビを誘き寄せ、その間に俺と11号はここのポイントから入り込む、トリガーはゾンビを撒いて俺達と同じ場所から施設に侵入して合流だ。

 ある程度引きつけておけば、ゾンビはそこら辺に散って施設に戻ってくる事はない筈…散らばったゾンビ共はいつかデューティかホロウレイダーが駆除するだろ、多分。」

 

 「戦闘を出来るだけ避けながら、内部に入り込むと言う訳ですね、了解しました。」

 

 「彼処の廃車両に手榴弾を仕掛けておく、これを撃って誘き寄せろ。」

 

 スキフの作戦を了承し、トリガーは平原と向かっていった。スキフは敷地内のゾンビにバレない様、正門近くの廃車両の狙撃がしやすい場所に幾つか手榴弾を仕掛ける。

 

 『その位置で大丈夫ですよ、スキフさん。』

 

 「そうか…よし、俺達がもう少し離れたら撃ってくれ。」

 

 『了解(コピー)。』

 

 「行くぞ11号、ゾンビにバレるなよ。」

 

 「見くびらないで、ステルスは特殊部隊の基本技能よ。」

 

 スキフと11号は身を屈めながら、敷地の東入口へと移動を開始した。

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 トリガーはスキフ達が正門からある程度離れたのを確認し、エーテルサイトに映るスキフが仕掛けた手榴弾に、彼女の愛銃である狙撃銃「プレゲトーン」の一射を放つ。

 オボルスの目であるトリガーにとってこの程度の狙撃は朝飯前だ。見事、手榴弾に命中し廃車両ごと爆発する。

 

 ヤンターにそれなりに大きな音が鳴り響く、その音に引き寄せられ、正門から多数のゾンビがゆっくりと姿を現していく。

 どうやら結構な数を釣り上げたらしい、取り敢えず、此方に引き付ける為に一番先頭のゾンビの頭に照準を向ける。

 

 

 ───おかあさん(mom)

 

 

 ほんの一瞬、引き金を引く指が止まる。

 

 聴覚が優れているトリガーは、一番手前のゾンビの僅かな呟きで何と言ったのかはっきりと分かってしまった。

 よく見れば周りのゾンビ達も、口々に家族や恋人らしき名を口にしているのが分かる、中には万歳三唱(Урааaа)しているゾンビもいるが。

 

 トリガーは軍人だ、任務で人を殺めた事など幾らでもある。凶悪な犯罪組織しかり、危険な反乱軍しかり、新エリー都やそこに住まう市民を守る為に、共に戦う仲間を守る為に、その手を汚す事を厭わない。

 

 エーテルに侵食された人間の成れの果てでもあるエーテリアス相手なんて説明するまでもない、そもそも防衛軍の主な敵であるし、エーテリアスになるとかつての面影など殆ど無くなってしまう。、

 

 だが今エーテルサイトに映るゾンビ達は違う、彼らは生前の姿をそのまま残している。肌も汚れているだけで腐っている訳では無い、目が虚ろなだけの何の変哲もない普通の人間に見える。

 彼らは様々な理由でZONEに訪れ、そしてPSI放射によって脳をやられた、哀れな犠牲者達だ。

 

 ──もし、11号や、この場に居ない鬼火隊長とオルペウスが、シードが、あの兄妹(アキラとリン)がゾンビになってしまったら?

 

 (私は、引き金を引くことが出来るのでしょうか。)

 

 ホロウに飲み込まれ、人ならざる怪物になる世界だからこそ、人の姿を完全に保ったままのゾンビを見てしまうと、もしかしたら助ける方法があるのでは───と、思わずにはいられない。

 

 トリガーが放った銃弾に、一番先頭のゾンビの頭が撃ち抜かれる、周りのゾンビ達も弾が飛んできた方向を認識したのか、トリガーがいる位置に向け前進する。

 一部のゾンビはトリガーのいる位置に銃撃を始めた、確かに正確という訳では無いが、しっかり狙って来てはいる。

 

 「さて…皆さんピクニックと行きましょうか、何時までもそこに籠っていたらつまらないでしょう?」

 

 此方に発砲を続けるゾンビの頭部を立て続けに撃ちながら、トリガーは後退を始めた。その後を追い、うめき声を上げながらゾンビ達はゆっくりと、トリガーを追いかけていった。

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 ───X-ラボ施設東口

 

 「止まれ。」

 

 スキフが左手の拳を握って上に掲げる。東口の門から敷地内部を除くと、数体のゾンビがまだ徘徊していた。

 

 「……数は5体。11号、音は出したくない。お前この距離どれくらいで詰めれる?」

 

 「一足で行けるわ。」

 

 「よし、お前は右の2体を、俺は左の3体を片付ける。」

 

 「了解よ。」

 

 手持ちのASラヴィナを傾け、ゾンビに向ける。スコープを横方向に流れるに動かし、3体のゾンビの頭をリズム良く撃つ。

 同時に11号が飛び出し、ナタを振るい右側にいた2体のゾンビの首を一瞬で跳ねる。

 

 「クリア…近くにゾンビは居ない。トリガーは上手く引きつけられたようね。」

 

 「研究棟はこの建物だ……軍人の癖に何故、11号は銃を持たないんだ?」

 

 ナチュラルにナタで仕留めろと言ったが、どうしてこの世界では剣で戦う者が一定数いるのか未だ分からないスキフ。

 資源が不足して剣で戦わざるをえないという訳でも無さそうなのに何故銃という文明の利器を持たないのか、まさかこの世界では近接武器の方が強いのか。

 

 「俺も剣とか持っておいた方がいいのか…?」

 

 「何ボソボソ言っているの、早く入るわよ。」

 

 「ああ…悪い。」

 

 研究棟に入ると、中は何年も放置されていた事が一目で分かるほどの有様だった。スキフはエントランスをしっかりクリアリングする。

 隠れた敵が居ないか確認するのも大事だが、特にアノマリーを見逃すと後で酷い目に遭うのだ。何も知らない施設だからこそ地道に何もないか確認していく、これを怠ると戦闘中にアノマリーへ向かって突っ込む事になるからだ。

 

 「……クリア。トリガー応答しろ、そっちは大丈夫そうか?こっちは研究棟の調査を開始する。」

 

 『此方トリガー、まだゾンビを引き付けてます。もう少し距離を稼いでからそちらに合流します。』

 

 「無理はしないでトリガー、もしもの時は研究基地に撤退して。」

 

 『フフ…心配無用ですよ11号、二人共、どうか気をつけて。』

 

 トリガーとの通信を終えると、スキフと11号は研究棟の探索を開始した。

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 「フリーダムの連中はここにも忍び込もうとしたのか…」

 

 案の定、研究棟にもゾンビが徘徊していた。外にもホロウレイダーやデューティ、バンディットや反乱軍等の多種多様なゾンビは見かけたが、遂にフリーダムのゾンビまで発見したのだ。

 

 「これで全ゾンビコンプリートってか?」

 

 「フリーダム…確かデューティと敵対している勢力だったわね、ZONEは新エリー都を救うと主張しているホロウレイダーの集団だった筈。」

 

 「ああ…俺の逆恨みだが、嫌いな連中だ。」

 

 アキラから受けた仕事の為に、ZONE中のX-ラボを回っているのにいずれも先回りされ、めぼしい情報は全て持ち去られており、もぬけの殻となったX-ラボには決まってフリーダムの死体が残されていたのだ。仕事が難航し、アキラに良い連絡が取れていない怒りから勝手にフリーダムを嫌っているが、自身で自覚している通り逆恨みも甚だしい。

 

 今いる通路の安全確保の為に、スキフは手際よくゾンビを掃討していくが、マガジンの弾薬が無くなる。目の前にはまだゾンビが居て、銃を此方に向けようとしていた。

 

 「リロード。」

 

 「了解。」

 

 短い一言、11号が飛び出し、ゾンビを斬り伏せるが、彼女が通り過ぎた扉から別のゾンビが突然姿を現した。そのゾンビは銃を既に11号へと向けている。

 

 サイドアームのPTMピストルは音が出る、室内ではよく鳴り響くので他のゾンビを寄せ付けるかも知れない。

 咄嗟にスキフはナイフを取り出し、ゾンビの後頭部へ投げつけ、さっくりと突き刺さった。

 

 「あっ。」

 

 ナイフが刺さると同時に、そのゾンビの頭を11号のナタが切り裂いた───スキフのナイフごと。

 

 「………」「………」

 

 2人の間に気まずい沈黙が訪れる。

 

 「…援護は要らなかったか?」

 

 「いいえ、助かったわ……ナイフ、謝るわ。」

 

 スキフのナイフはただのサバイバルナイフに過ぎないので、殆ど戦闘に使う事は無かった。

 ミュータントの解体に使う時か、こっそり敵兵の首を掻き切る時か、缶詰の肉を食べる時くらいしか使わない。因みに使用頻度はミュータントの解体と缶詰の肉を食べる時でほぼ半々である。

 

 だがPTMピストルと同様、ZONEに初めて足を踏み入れた時から使い続けたナイフだった──たった今、異世界で臨終したが。

 

 「まぁ、缶詰開けるくらいにしか使ってなかったしな…気にすんな。」

 

 ただの手入れがしやすい、ステンレス鋼のナイフがナタで真っ二つにされただけの事、もしかしたら寿命だったのかも知れない。

 だが11号は気にしているのか、腰に装備していたナイフを取り出してスキフに手渡そうとする。

 

 「これを持っておきなさい。」

 

 「気にするなと言った筈だぞ、必要ない。」

 

 「兵士にとってナイフは最後の武器よ、もしもの時に必ず必要になるわ。」

 

 「そこまで言うなら……いやこいつデカいな。」

 

 11号が予備の武器として持っていたナイフは、幅広で刃先が長い。ナイフと言うよりマチェットに近い代物だ。首を切るどころか刎ね飛ばせる代物だろう。

 

 「特殊なエーテル合金で製造された試作型よ、ZONEに向かう際、オボルス小隊に試験用として配備された武器の一つね。」

 

 「へぇ…そりゃ凄い。一体どんな能力を持つんだ。」

 

 「軽くそれでいて硬くて鋭い、そして血がつかないわ。」

 

 「それだけか?なんかこう…特殊能力とか。」

 

 「ナイフにそこまでの性能が必要?」

 

 ───まぁ普段、缶詰開けるくらいにしか使わないナイフに謎の変形機構があっても困る。血がつかないのは非常に便利だ、11号の厚意に甘えてこのナイフを借りるとする。

 

 スキフは11号のナイフを腰に付けて、内部の調査を再会することにした。

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 ゾンビを排除し、アノマリーを避けながら研究棟を捜索していると、様々な書類が散らばる広い研究室に到達する。幾つかの機材は未だに稼働しており、そこからデータが閲覧出来そうだった。

 

 「ここなら何か情報が見つかるかもな…」

 

 「手分けして探しましょう。」

 

 取り敢えずスキフは、奥にあるデスクのデータ端末から当たって見る事にした。スキフの知るパソコンと同じ様な操作方法だったので楽に起動する事に成功した。

 データの殆どは破損していたが、一部メールの履歴が残っており、閲覧を試みる。

 

 ▼ ▼ ▼

 

『◇月✕日 X-ラボ上級主任研究者■■■■■博士へ

 プロジェクト■■■■と相性が悪いのか此方で再現したH.D.Dシステムに不具合と故障が頻発している。やはりデータだけではなく向こうの技術者を回して貰えないか交渉して貰いたい。

 貴方はヘーリオスの上級主任とは知己の仲なのだろう、H.D.Dのデータを借り受けた時と同じ様に人員を借りれないだろうか。

  X-16ラボプロジェクト責任者■■■大佐』

 

 『△月〇日 X-16ラボ主任研究者■■■へ

 被験者の数が足りないとの事だが、だからと言ってウチのラボに被験者のクローンを作れなんて無茶を言うな。こっちの設備じゃ臓器を培養するので精一杯なんだぞ。

 追伸:メールを送る寸前に間に案を思いついた、予算と機材を代わりに調達してくれるなら短期間で実現出来るかも知れない、大佐に相談してみてくれ。

 X-18ラボ主任研究者■■■』

 

 『〇月△日 X-18ラボ主任研究者■■■へ

 クローンの提供、実に感謝する。ただ頑丈なのはいいが知能が低い個体が多いのはどうにかならないものか、まぁこれで我々の研究に必要な数の被検体が確保出来た。

 ■■■■■博士はこの様なやり方は好まないのは知っているな、次からはここの地下研究所に直接配達する様にして欲しい。

 

 追伸:防衛軍がクローン兵の分野に興味を持っていてね、君の所からデータを送って欲しいそうだ、君が望むならクローン兵のプロジェクトリーダーに推薦してもいい。

 X-16ラボプロジェクト責任者■■■大佐』

 

 『〇月〇日 X-16ラボ主任研究者■■■へ

 ヘーリオスから私宛に抗議文が送られて来た。

 先日行われたX-16ラボのホロウ内実験によって向こうの機材に大きな障害が発生したとの事だ。ヘーリオスも同じホロウで実験していたそうだが、一体何をやらかしたんだ。大佐は単なるトラブルと言うだけで話にならん。

 X-ラボ上級主任研究者■■■■■博士』

 

 『〇月□日 X-16ラボプロジェクト責任者■■■大佐へ

 ご命令通り■■■■■博士とヘーリオスとの通話記録を傍受しました、ファイルを送ります。

 X-16ラボ警備責任者■■■』

 

 『✕月〇日 X-16ラボ研究員■■■へ

 ミネルヴァ地区の家族と連絡が取れない、向こうで何があったか知らないか。ずっと地下にいるから外の様子が分からないんだ。

 X-16ラボ研究員■■■』

 

 ▲ ▲ ▲

 

 「無事なデータは殆どメール関係、一部は機密処理をされて解読不可だが…ヘーリオスにH.D.Dシステム、漸く手掛かりが手に入ったぞ…!」

 

 やっと見つかった情報に思わず拳を握り締める。スキフにはヘーリオスやH.D.Dシステムがどういう物なのかよく分からないが、特殊な研究をしているのは文面を見れば理解できる。

 クローン兵や盗聴など後ろ暗い物を見かけたがこの手の研究施設では有りがちだ、チョルノービリのZONEでも散々見た。

 

 「音声ファイルもあったな…」

 

 メールを出来るだけPDAに抽出しながら、一つだけ残っている音声ファイルを開く。すると、研究員らしき男女の声が会話をしていた。堅苦しい物では無く、友人同士のやりとりに近い声質だった。

 

 

 『僕だ、この前の件について直接謝罪したくてね、あれは本当にすまなかった。まさかH.D.Dシステム同士で干渉を引き起こすとは思わなかったんだ…子供達に大事は無かったかい?』

 

 『ええ…あの子達が傷つく様な事は何も。あの時はヘーリオスでも大混乱だったわ、何せシステムが突然シャットダウンしてしまったんですもの、一体──原因なの?あれは───現象とは思えないわ。』

 

 『恐らく僕の──リ─シス──とX-ラ──H.────テム───が───そっちの──不具─────』

 

 「おいおい…ちゃんと動いてくれよ…」

 

 ファイルが破損しているのか、途中から音声が途切れ途切れになっていく。スキフは端末を軽く小突きながらぼやくと、ほんの少しだけ調子が良くなった気がした。

 

 『とにかく、またあの実験をす──ら事前に伝えておいて欲しいの、大佐が機密事項とか言っ──ちに何も伝えないのは困──。待って、今送───ータは?』

 

 『今回の埋め───だ。取り敢えず何時もの贈り──加えて、───スのエーテル───能を───晶体に適応──るよう──みた。まだ不完──が、上手く行──の子達のエー──適正を元に──るかも───い。』

 

 『それは本─?─の子達───』

 

 「Нет(よせ)Нет(よせ)もう少し耐えてくれ畜生。」

 

 先程より更に音声が途切れ始め、何も言わなくなってしまった。再度ファイルの再生を試みるが、読み込み中のマークが延々と続いて、遂に画面が止まってしまった。

 

 「クソッ録音しとけば良かった、ファイルのダウンロードは…失敗してるよな。」

 

 挙句に端末から変な音がし始める、端末の大きさから持ち帰るのも得策では無い。仕方なくスキフは諦める事にした。

 近くに散らばる書類に目ぼしい情報は見つからない、取り敢えず回収するだけして11号に合流する事にした。

 

 

 

 「11号、何か見つかったか?俺は研究員のメールのやり取りを見つけたぞ。」

 

 「……ここで何の研究をしていたのか分かったわ。」

 

 11号が手に持って居たのは人体が描かれた設計図、明らかに肉体を改造されており、図面だと言うのに非常に痛々しい見た目だ。

 

 「このX-ラボでは強化兵士みたいな物を研究していた様ね。一切のエーテル侵食を受ける事なく、ホロウで永遠に戦い続け、エーテリアスを狩り続けるハンター達。

 この施設では2つあるプロトタイプの内、もう一つの方を進めていたみたい……サファイア・シェル?どうしたの?」

 

 「……ああ、何でもない。」

 

 スキフは設計図のプロジェクト名を見て険しい顔をしていた、見たことのある名前が、そこに書かれてあったからだ。

 

 ここは異世界のZONEだ、11号の言った通りなら自分の知る“それ”とは全く違う物だ。中身が違うのだから偶然として片付けるべきであろう。

 

 ────それでも、スキフの警戒心を呼び起こすには余りにも十分な名前であった。

 

 「ここで作られていたプロトタイプの名前は「Kadaver(カダーヴァー)」…死体と言う意味ね、何故こんな名前を付けたのか理解に苦しむわ。もう一つは「Granite(グラナイト)」と言うらしいわ。こっちの情報は殆ど見つからなかった、別のX-ラボで研究が進められていたようね。」

 

 11号が何か言っているが耳に入らなかった、スキフは設計図を只管眺めていた、そこに書かれていた物は───

 

 

 

 

 

 『対エーテリアス、エーテル完全適応兵士計画────プロジェクト・STALKERプログラム』

 

 

 「まさか…“奴ら”は関係ないよな…?」

 

 スキフの呟きに応える者は、誰一人居なかった。

 

 







 本作は勢い100%で書いております。


 ◇ゾンビ
 書いてそのままゾンビの様に動くミュータント。
 PSI放射に頭をやられた人達の為、バイオの様に感染して増えるとかしないが毒電波みたいなので増える為ウイルス性のゾンビよりたちが悪いかも知れない。銃を割と正確に撃ち込んで来るため集団だと中々手強い。

 S.T.A.L.K.E.R.2のとあるミッションでは、ゾンビは洗脳されている状態に近いかも知れないという説が、元々同じ様に洗脳されていた人物から語られ、ゾンビについて色々考えさせられる物がある。

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