Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In 作:路肩の石ころ
STALKERプログラム────それはチョルノービリのZONEを
願いを、使命を、欲望を、それぞれの思いを掲げてZONEの奥に辿り着いたストーカー達に与えられる
大抵はZONEの秘密を守り続ける為の自由意思無き
彼らは自我を保持しながらZONEに放たれ、思い思いに生きている様に見えるが、その実彼らにも自由意思など無い。
洗脳されているという自覚無きまま、自分の意思で行っていると思われた全てが、頭に刷り込まれた命令に従った物でしかない。
多種多様な人物で構成される彼らには、一つだけ共通点があった、腕に刷り込まれた「STALKER」のタトゥー、それが科学者達の操るエージェントたる
その印が刻まれるエージェントの生産施設と言える、ZONE最奥のエミッターに存在した、夥しい数の死体で埋め尽くされた部屋を見たスキフは余りの惨憺たる光景に絶句した物だ。
その様な非道な実験を、
地球を覆う人類の
◆ ◆ ◆
この世界のSTALKERプログラム──エーテル侵食を受けずに戦い続けられる強化兵士──はチョルノービリのZONEで見たそれとは全く違う存在だ、気にするだけ無駄と切り捨てれば良い。
だが、今スキフが居るのはこの世界に誕生したZONE、しかも何故かチョルノービリとそっくりな地形である。更にはデューティやフリーダム等の同じ名前の組織まで生まれている。
これで元居た世界の悍ましい実験と同じ名前の代物が出てきたのなら、ZONEを生み出した元凶たるC-コンシャスネスまで存在するんじゃ無いかと疑ってしまう。
(そもそもこの世界のZONEはどうやって生まれた…?この世界のC-コンシャスネスが生み出したと考えるのが筋だが……)
『此方トリガー、今からそちらに合流します。ゾンビはもうX-ラボに戻らない筈です。』
「了解よ、今私達は東口から入って右手の施設に居るわ、エントランスで合流しましょう。」
「……わかった。」
スキフが思考に耽っていると、トリガーからゾンビを撒いたとの報告が入る。情報が揃ってない状態でああだこうだと考察をした所で何も判明しないので、一度頭の片隅に追いやる事にした。
「なぁ11号、C-コンシャスネスという言葉を聞いた事あるか?」
「いいえ、聞いた事無いわ。入手した情報の中に何かあったの?」
「…いや、知らないならそれで良いんだ。」
一応、もしかしたらと思い11号に聞いてみたが、何も知らない様だった。チョルノービリのZONEでも存在を知る者はごく僅かしか居なかったのだ、幾らオボルス小隊の様な特殊部隊とは言え情報が開示されているとは限らない、そもそも存在しない可能性だってあるのだ。
C-コンシャスネスが存在するかどうかは、更に情報を集めなくてはならない。
トリガーに合流する為、今いた研究室を出て下の階のエントランスへ向かう途中、またゾンビと遭遇した。この施設にはまだまだ奴らが徘徊しているようだ。
スキフと11号は手早くゾンビを片付け、付近の部屋のクリアリングを行う。確認を終え、エントランスに向かおうとした時に11号がスキフの事をじっと見つめていたのに気付いた。
「……俺の顔に何か付いてるのか?」
「トーチ・スラグ、貴方軍にいた事はない?動きをずっと見ていたけれど、明らかに訓練を受けた兵士のそれよ。」
スキフがクリアリングをしている際の動きや軍隊で使われるハンドサインを使っているのを見て、11号は彼が元軍属である可能性を考えていた。
「ああ、確かに軍に3年いた。それがどうかしたか?」
嘘ではあるが、事実でもある。新エリー都防衛軍では無く、元居た世界のウクライナ軍に所属していたのだが、これを正直に言った所で信じて貰えないので言うつもりは無い。スキフは何か11号の気に障ってしまったのだろうか気になった。
「何故軍を辞めたのか、聞いても良いかしら。」
11号の問いに特に深い意味はない、ただ気になっただけだ。
「……命令されるのに嫌気がさしたんだ、そもそも理想を持って入隊した訳じゃ無かったしな。最後の任務から戻ってきてすぐ辞めたよ。」
「そう。」
「……ん?それだけか?」
スキフは11号がなにも言わなかった事が気になった。てっきり軍人の鑑の様な彼女の性格なら、スキフの語った理由に否定的な言葉が返って来るのではと思ったからだ。
「貴方が服務中に脱走したり、反乱軍に寝返ったのなら話は別だけど、正式な手順を踏んで軍を去ったのなら何も問題は無い筈よ…それとも、不名誉除隊でも食らったのかしら。」
「いいや、普通に退役したさ。同じ時に上官は降格食らったけどな。」
「ならいいじゃない。兵士としての適性は人それぞれよ…尤も、貴方の能力は非常に優秀だから、軍で活かせなくなるのは惜しいわね。」
「優秀…?俺が?」
思いの外、自分を高く評していた11号に驚いたスキフ。確かにZONEに来てから人間もミュータントも大勢倒して来たが、スキフの身体能力自体は常人並みでしかない。
そして、このX-ラボでのスキフの活躍もゾンビを倒した程度の物の筈だ、防衛軍の精鋭であるオボルス小隊の11号から見て、そこまで評価される物だろうか。
「貴方、研究棟に侵入してから、ゾンビを引き寄せないようアノマリー探知機を切っているでしょう。私やトリガーの探知機みたく、アノマリーの位置が視覚的に分かる訳じゃ無いのに。」
実は施設に入ってから自らのアノマリー探知機を停止していたスキフ、従来の音で警告するタイプであった為、狭い建物内ではゾンビに気づかれる可能性を考えてスイッチを切っていたのだ。
「あんな物ただの慣れでしか無い、ZONEで生きていれば勝手に身に付くさ。」
「命を落とすこと無く、適応する事が出来るほどの能力があるという事よ、貴方、軍では優秀な
「残念、軍にいた頃は一般部隊のただのライフルマンだ。」
「意外ね、貴方程の実力だったら特殊部隊でもやっていけたと思うのだけれど…」
ホロウでもそうだが、容易く死に引きずり込まれる特殊環境で行動する者達の中で、自らの経験として刻み込める程生き残れる人間は限られるものだ
ZONEに来てから日が浅い11号はアノマリーを完璧に判別出来る訳では無い。ベルズ検知器によるアノマリーの視覚化と、ZONEに来る前にアノマリーに関する記録を読み込んでいるからこそアノマリーに対応出来ているが、それでも付近を通る時は最大限の警戒を払い続けなければならない。
だからこそ、ゾンビを手際よく掃討する射撃技術の他に、クリアリングをしっかりしながら、探知機無しでスイスイとアノマリーを超えるスキフの能力を11号は高く評価していた。
「へぇ、俺が
「軍に戻る気があると言うなら、私が上に掛け合ってもいいわ。貴方の能力を活かせそうな──」
「冗談だよ、俺の能力が活かせるのはZONEだけだ。ホロウは専門外だな。」
「そう……でもその気があるなら、防衛軍は何時でも歓迎するわ、私もね。」
11号は先程までクリアリングしていた部屋から出て、階段を下ってエントランスへと向かう。
その背中を追いながらスキフは、軍人らしく堅苦しく見えて、人の名前をヘンテコに改造してしまう彼女と少しは打ち解けられたのでは無いかと感じた。
彼女から殺しの腕では無く、ZONEで培った自分の感覚を評価されて、思いの外悪い気はしなかった。
◆ ◆ ◆
「トリガー、我々はエントランスに戻ったわ、そちらの現在位置を。」
『まもなく施設東門に到着します。』
「了解、待機する。」
「一応、周囲を警戒しておく。」
エントランスは既に安全を確保しているが、1階のフロア全体を全て確認出来ている訳では無い。ミュータントと言うのは、どんな奴でもいつの間にか背後を取ってくるのだから、こうした索敵が欠かせない。
学校の様な部屋の配置になっている研究棟は、エントランス入口から入ると、左右に伸びた通路の片側に多数の部屋が連なる形となっている。右側通路の先は行き止まり、左側の通路の先は、木箱や戸棚で防がれたバリケードとなっており容易く先に進めない。
軽く見張っているが、今の所ミュータントは見当たらなかった。ゾンビのうめき声も聞こえない事から近くには居ないのだろうか。
「全ての部屋を確認した訳じゃないから何匹か取り逃しはあると思うんだけどな…」
「待って、上から何かくるわ。」
エントランスに入ってすぐの階段から、何者かが降りてくる音がしてきた。ふらついているような足音と何かを呟く声からしてゾンビだろうか。
スキフと11号は階段を見張れる位置に移動し、足音の正体に対して待ち構えるが…
「この施設には何匹ゾンビがいやがるんだ……11号?」
案の定、足音の正体はゾンビだった。スキフはASラヴィナで頭を撃ち抜き、制圧する。
うんざりした表情で階段を転げ落ちるゾンビを見てると、11号が左側の通路の先、S字の様な形となっているこの建物の突き当たりへと続く通路を封鎖しているバリケードを警戒していたのに気付いた。
「何かいたのか?」
「一瞬、あのバリケードの先に何者かが私達を監視していた気がしたのだけれど…」
そう言われて、スキフもバリケードを見張る。だが一見、何も居ない様に見えた。
「……何かいるかもな。」
スキフは見間違いとは思わない。そう思い込んで安全確認を怠り、ミュータントに奇襲され、奴らの晩飯になる結末なぞ幾らでも有り得るからだ。
バリケードの先を何者かが通り過ぎた気がした。それが何なのか判断する前にスキフは銃撃を加えた。反応も、反撃も無く、まるで見間違いだったのかと思う程、何も居ない様に見えた。
「11号、援護してくれ、確認してみる………11号?」
ふと、11号からの返事がないので、振り向いたスキフ。
11号はスキフを見つめていた───生気を失った目で。
11号の胸部から、エーテルの剣が飛び出していた。
11号の後ろに、エーテリアスが音もなく忍び寄り、その武器を背中に突き立てていた。
剣が引き抜かれ、11号は力無くその場に倒れ込む。彼女を殺したエーテリアスは此方に向けてエーテルの剣を構えた。
凄まじい殺気が目の前のエーテリアスから向けられたのと同時に、スキフはその“敵”に向けて、ASラヴィナの銃撃を叩き込んだ。
「ガッ──!?」
その銃撃をくぐり抜けて、エーテリアスが剣の一撃を腹部に見舞う。既の所で銃のストックによるガードが間に合ったが、剣の一撃を受け止めたストックがアーマーに食い込む様にめり込み、吹き飛ばされる。
吹き飛ばされたスキフはバリケードに突っ込み、崩壊させた事によって積もった埃が舞い上がる。痛みに呻きながら脳裏に蘇ったのは、この世界に迷い込んだ時に放り込まれたホロウ、駅の連絡通路でデュラハンに切られた時の記憶だった。
何とか顔を上げると、目の前に、既に此方に剣を振り上げていたエーテリアスが視界に映る。
後ろか、左か、右か、一瞬の間に何処に避けるか思考が巡る。スキフが判断したのは前への突撃だった。
スキフはエーテリアスの腹部に全力で頭と身体を突っ込む。一瞬、エーテリアスが驚いた様な反応を示し、押し込む様に突き飛ばす。
何とか距離を稼いだスキフは、11号を殺したエーテリアスの姿をしっかり認識する。
見た目は盾を持たない、スキフより小さいデュラハンの様な姿だ、エーテリアスらしい結晶で出来た様な身体だが、先程触れた際の感触はそれ程硬く感じなかった、意外とエーテリアスと言うのは柔らかいのだろうか。
床に倒れる、既に事切れた11号を見る。生気の無い目は未だ虚空を見ており、胸部から血を流れたままだ。
せめて彼女の瞼を閉じてやりたいが───まずは目の前のこいつを殺してからだ。今ここに向かっているトリガーにも、手を貸してもらわないと。
「……トリガー、聞こえるか。」
『…!?ス…スキフさん、どうして──』
通信先のトリガーは、スキフからの連絡に取り乱していた。
「11号が死んだ、エーテリアスが隠れていて、そいつに殺された。」
『え、いや、あの、ま…待って下さい!11号からは───』
トリガーとの通信が終わらぬ内に、エーテリアスが動き出した。スキフの首を両断せんと振るわれた斬撃を、後ろへ飛ぶことで回避。同時にASラヴィナの残弾をエーテリアスに撃ち込む。
「嘘だろ…!?」
そのエーテリアスは銃弾を剣で弾き返して防御してみせた。現実離れした光景に呆気に取られそうになるのを我慢して、スキフは次の一手、スモークグレネードを取り出す。
その場にスモークグレネードを落とし、周囲に煙幕が撒き散らされる。相手は銃弾を切り落とす様な化け物だ、一度耐性を立て直す必要がある。
位置的にエーテリアスの横を通り過ぎないといけない為、エントランスから外へ出るのは厳しい。ならばスキフがぶつかった事によって開通したバリケードの先、PDAの地図が正しければ、倉庫の様な建物に繋がっている筈、そこに逃げ込む。
「トリガー聞こえるか!トリガー応答しろ!クソ…なんで応答しないんだ!?」
先程までトリガーと通信出来ていた筈だ、なのに無線からは雑音しか流れてこなくなった。
調査任務は失敗だ、撤退するべきじゃ無いのか──全力で走りながら、この任務はどうすべきか逡巡を巡らす。11号が死亡、トリガーは通信不可、どう見ても状況は最悪だ。
通路の突き当たりまで辿り着くと、スモークを越えて此方にエーテリアスが迫って来た。スキフはASラヴィナを向けようとするも、それよりも疾い横薙ぎの一閃が脇腹を裂く。
アーマーとアーティファクトのお陰で深い傷にはならないが、このエーテリアスの動きはデュラハンより遥かに素早い。隙を見せると斬り殺されそうだ。
痛みに耐え、何とか頭部のコアに向けて発砲しようとするが、両手に衝撃が走る。エーテリアスの剣の振り上げがASラヴィナを叩きつけ、銃が天井に飛ばされたのが見えた。
「マジか──ごふっ!?」
エーテリアスの蹴りがスキフの腹に突き刺さり、壁に激突、間髪入れずに剣が串刺しにせんととスキフに迫る。
背中のガウスガンや│サイガD-12《ショットガン》を取り出す暇は無い、サイドアームの│M10ゴードン《45口径SMG》とPTMピストルでは良くて相討ち、この剣を止められない───なら。
「うおおお────!」
スキフが全力で振るった“それ”に、エーテリアスの剣が弾かれる。スキフの手にあるのは幅広の長いナイフ、マチェットの様な見た目の近接武器。
X-ラボでのちょっとした事故でナイフを失い、代わりに11号がスキフに渡してくれた代物。
特殊なエーテル合金で出来ているらしいこの試作型ナイフは、全力でエーテリアスの剣にぶつけたにも関わらず傷一つ付いて居なかった。
エーテリアスから次々と振るわれる斬撃、その全てを11号のナイフで受け止める。一撃一撃が重く、腕が痺れ、次の瞬間手からナイフを落とすのではないかと思われる程の衝撃がスキフを襲い続ける。
「お前のお陰だよ、11号…!」
だが、デュラハンよりも遥かに素早い剣撃を捌ききれているのはこの11号が貸してくれたナイフのお陰だ、それまで持っていたステンレス鋼のナイフでは、最初の一撃を受け止める事すら出来なかっただろう。
これがあれば、11号を殺したこのエーテリアスも倒せるかもしれない。
共に行動した時間は短いが、それでも11号はいい奴だった。少しは打ち解けられそうだったのだから、彼女の仇くらいは取ってやるのが筋という物だ。
「
11号のナイフを構え、啖呵を切るスキフ。それに応える様にエーテリアスが、スキフを断ち切らんと、エーテルの剣を振るった。
◆ ◆ ◆
ヤンターのX-ラボの地上施設の中で一際大きな建物の一つ、スキフと11号が侵入した研究棟の左端の、室内実験場らしき体育館の様な建物があった。
広い空間となっているその建物の、研究棟へと続く扉から勢いよくスキフが扉ごと吹き飛ばされて来る。
「
無様にゴロゴロ転がり、何かの機材に当たって漸く止まる。
スキフのアーマーは全身切られた跡で覆い尽くしていた。装備の修復を頼めばそこそこ高額な値段を取られるだろう。
スキフが飛ばされてきた出入口から、エーテリアスが歩いてくる。その姿は軍人の様に規則正しく、それでいて女性的だ。
(……そもそも俺、ナイフだけで戦った事殆どねぇよ。)
軍人時代に経験した戦争でも、ZONEでもナイフだけで戦った経験は無いスキフ。現代の軍人として格闘訓練は受けたが、このエーテリアスの様に剣を使いこなす相手と斬り合う経験はない。敵の背後に忍び寄ってナイフで掻き切るのが精々だった。
ZONEの何処かにいると言う噂の、ナイフ一本でミュータントに挑む変態ストーカーなら、このエーテリアスと斬り合えそうだが、生憎スキフはそんな変態ではない。
仕方ないので11号のナイフと共に、左手に
「あー…まだやるか?正直俺はもう疲れた。
言い終わらぬ内にエーテリアスが攻撃を仕掛けてくる。同時にスキフは左手のM10ゴードンを相手に銃撃を放ちながら、斬撃を回避する為に駆け出す。
M10ゴードンは連射速度が異常に早い、片手で制御するのは一苦労だが、動きをけん制するのには最適だ。片手で持っている今、弾切れしたらリロードは困難になるのだが。
「やっぱり片手持ちは失敗だったか…!?」
エーテリアスの剣をナイフでなんとか防御しながら、エーテリアスと切り結ぶ。片手で振るっている為、さっきよりもナイフで受け止めるのに力不足だ。
相手の一撃をギリギリの所で受け流しながら頭部に当たるコアに向けてM10ゴードンを向けて射撃。平然と躱され、もう一度腹に蹴りを食らわされる。
「ゲホッゴホッ……と言うか、トリガーの奴は大丈夫なのか…?あいつは生きてんのか…?」
蹴り飛ばされながら、マガジンが空になるまで銃撃を放ち、エーテリアスに回避を強いる。
トリガーが生きていて、加勢してくれるなら何とかなりそうなのだが、連絡が取れない以上どうしようもない。
「睨んで来やがって、リロードしようとしたら…やられるよな。」
此方を警戒しているのか、エーテリアスは剣を構えたまま動かない。睨み合うスキフもM10ゴードンを手放して再度ナイフだけで戦うべきでは?と思っていた矢先────
「ッ!!銃撃!?」
突如、スキフとエーテリアスの間に銃弾が通り過ぎた。銃弾が命中した機材に穴が空いて破壊される。
「ふざけんなよ…
スキフは銃撃が飛来した場所、研究棟への出入口を見ると、そこには長身のミュータントが此方に向けて、大型のライフルを向けていた。
ブラッドサッカーの様な体躯に、人間サイズの顔の半分に達する一つ目を持つ、フレッシュに見えるグロテスクな顔。そして、両手に持つのはソビエト製の対戦車ライフルに見える銃火器。
チョルノービリやこの世界のZONEで見たこと無い、未知のミュータントがスキフとエーテリアスとの戦いに乱入してきたのだ。
「よく考えろ、これはチャンスかも知れない。ミュータントとエーテリアスは互いに殺し合う、何とかこの場を切り抜けられるか…?」
ミュータントは唸り声を上げながら近付いてくる。エーテリアスはスキフとミュータントを交互に見ながら、どちらに対処するか迷っている様だった。
だが、スキフが今の膠着状態を狙ってM10ゴードンのリロードを行おうと試みた瞬間──エーテリアスはミュータントに斬り掛かった。
「よし、そのまま殺しあえ、吹っ飛ばしてやるよ…!」
エーテリアスからの攻撃を受けたミュータントは明らかに狼狽していた。反撃より回避に専念する様な動きを見せてくるミュータントに容赦なく攻撃するエーテリアス。剣と対戦車ライフルの鍔迫り合いが始まった時を狙って、身を隠しながらスキフは手榴弾を2つ取り出して2体の怪物に投げつける。
「くたばれバケモノ共!」
手榴弾が投げられたのを見たミュータントは咄嗟にエーテリアスを蹴り飛ばして、スキフが投げた手榴弾を空中で迎撃する。2つの手榴弾の爆発が広い部屋全体を揺らす。
まさか撃ち落とされるとは思わなかったスキフは呆気に取られてしまったが、ミュータントに蹴りを入れられ、多少爆風の影響を受けたのか、倒れたエーテリアスにM10ゴードンの銃撃を加えようとする───
「なっ───」
すると、左手に持ったM10ゴードンが撃ち抜かれ、破壊されてしまう。銃撃を受け、左手が吹き飛びそうな程の衝撃が襲い掛かる。
それを行なったのは勿論、対戦車ライフルを持つミュータントだ。
「やりやがったな…このブサイク…!」
左手の痛みを堪えながら、
「死ね
元居た世界から愛用していた武器を奪われた恨みを込めて、散弾をミュータントに向けて放つ。ミュータントはそれを周辺の機材を利用しながら巧みに躱す。
移動する方向を予測しながらサイガD-12を撃ち込んでいると、背後から殺気を感じ、咄嗟にその場に伏せたその瞬間、頭の上を斬撃が通り過ぎる。
「クソ、お前がいるのを忘れてたよ!」
エーテリアスがスキフに剣を振るう。ナイフを収めてしまった為、サイガD-12で受け止めたら恐らく破損するので回避しか出来ない。銃口を避けるように動くエーテリアスに、何度か発砲するも全て外れ───突然引き金が引けなくなる。
「ふざけんな!こんな時にジャ───」
「ガハッ……!?」
突然、スキフの体にミュータントの強烈な蹴りが入れられ、エーテリアスの斬撃から強制的に回避させられる。そのままスキフは研究棟への出入口近くまで転がっていった。
やけに怒りが籠った様な蹴りの一撃をスキフに入れたミュータントは、そのままエーテリアスと相対していた。
ミュータントはスキフを一瞥し、まるで早く逃げろと言わんばかりに唸り声を上げ、エーテリアスに向き合う。
「助けた…のか…?とにかく、一度ここから離れないと…」
エーテリアスとミュータントが戦闘を始めるのを尻目に、スキフは立ち上がり、体勢を立て直す為に研究棟に撤退する。思考を巡らせ、今の状況をどうするか頭を捻る。
「いや待て、考えろ、そもそも……まずはあいつの所に…!」
ある考えに至ったスキフは走り出した、その目的地──11号の遺体の所へ。
◇ナイフ
シリーズ御用達の武器、基本的に小型の雑魚ミュータントくらいにしか使われないが、偶にこれでキメラやスードジャイアントに挑むプレイヤーがいるらしい。
人間相手だと中々高威力であり、回復キットが有り余っていればエクソスケルトン兵も割と倒せる。
STALKER2ではナイフのモーションが豊富になっており、敵兵を暗殺出来たり、缶詰を開けて肉を食べたり、ミュータントを解体するのを一本のナイフで行う、ミュータントや敵兵の血が付いたナイフで肉を食うのは何時もの光景。