Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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24.その目に映る物

 

 

 

 「Идиот(バカ野郎)…!何であらかさまな不自然に気が付かなかったんだ!?」

 

 強烈なPSI放射で満たされるヤンターのX-ラボ研究施設の調査任務の途中、11号がエーテリアスによって死亡し、そのエーテリアスと戦っていると新種のミュータントに乱入され、まるでミュータントに追い出されるかの様に戦いから離脱したスキフ。

 

 その中である考えに至り、死亡した11号の遺体の下に向かっていたのだが────

 

 「11号の遺体は……無い、血溜まりも無い!」

 

 エーテリアスに殺害されそのまま放置していた11号の遺体は跡形もなく消えていた。床に広がる血の池すら、元々無かったかの様に消えている為、何処かへ持ち去られたと言う線は時間的な猶予を考えて限りなく低い。

 

 「そりゃあ、ゾンビ溢れる研究施設にエーテリアスなんか居るわけ無いよな…!どうして気付かなかったんだ畜生!?」

 

 エーテリアスとミュータントは互いに殺し合う、ならばゾンビ溢れるこの施設であのエーテリアスは一体何をしていたのか、何処に隠れていたのか、なぜ今までゾンビと戦わなかったのか。

 

 答えは単純──あれは11号だ、ずっとスキフと共に行動していたのだから、何をしていたのかもクソも無い。それが幻覚によってエーテリアスの皮を被せられ、同士討ちさせられたのだ。

 

 「あのライフル持ったミュータントはトリガーだったんじゃないか…?よく見れば戦い方も消極的だった…俺と11号を止めようとしてくれてたんだ。」

 

 スキフは、そして恐らく11号も、仲間が敵に見えてしまうような幻覚に惑わされている。

 あのミュータント──推定トリガーはPSI幻覚の影響が恐らく無い、彼女から見ればスキフと11号が互いに殺し合いをしている様に見えたのだろう、だから自分から攻撃を行わず、回避に専念していたのだ。

 

 「と言うかこのヘルメット…施設に入って半日どころか1時間半しか経って無いんだぞ!どうしてPSI放射の影響が出てるんだ…!」

 

 スキフ達の頭部に付けている「対PSIヘルメット」、サハロフは半日以上持つか分からないと言ったが、逆に言えば半日程度は持つと言うことだ。あのタイプの科学者が言うのなら、その点は間違いない筈。

 それがどうした、味方がエーテリアスに見えてしまうまで幻覚が進行してしまってるではないか。

 

 「一度撤退して……いや、11号とトリガーはどうする、連絡が取れないとは言え、あいつ等をそのまま置いていけない。だが、幻覚を見ている状態でどうやって───待てよ?」

 

 ふと、スキフはある事を思い出した。その視線の先には、スキフがエーテリアス(推定11号)に吹き飛ばされ、崩壊したバリケードが目に入った。

 

 「………11号は、彼処で何か監視していたと言っていた…俺も何か通り過ぎるのを見た、まさか…」

 

 エーテリアス(推定11号)との戦闘で確認する余裕が無かった、崩壊したバリケードの先にある、幾つかの部屋を一つ一つ確認していく。その中の一つに、何かが居る気配を感じた。

 

 スキフは冷や汗を流しながら、サイガD-12(ショットガン)を構えて、ゆっくりと扉を開けようとした瞬間───

 

 「ガッ…!」

 

 扉が開いた瞬間、凄まじい力で殴られ、床を滑るように転がる。スキフは自分を殴った相手を目視する事無く、サイガD-12を扉に向けて何発も撃ち続ける。

 痛みに呻くような声がした、スキフは声の主をその目で見ようとした瞬間───“それ”はスキフに対して掌を向けた。

 

 「────ァ!!?」

 

 突如、意識が相手に引きずり込まれる感覚に襲われる。視界が歪み、思考が乗っ取られてしまいそうだ。

 だが、目眩を起こしながらも、散弾を一発“それ”の頭部に放つと、これ以上食らいたく無いのか“それ”はその場から逃げ出そうとした。

 

 スキフは何とか立ち上がり、逃走する“それ”の姿を見た。一回り肥大化したような頭部、裸の上半身に巻き付けられた包帯、ボロボロのジーンズを履いた、人間の脳を操るミュータント。恐らく、スキフ達を襲う忌々しい幻覚を見せつけている犯人。

 

 「お前が犯人か…コントローラー!」

 

 強力な幻覚によってスキフと11号を互いに争わせた、ZONEでも一二を争う危険な能力を持つミュータントの背中に向けて、サイガD-12の散弾を可能な限り撃ち込もうとするが───コントローラーが咆哮をあげると、何処に隠れていたのか多数のゾンビ達が姿を現してきた。

 コントローラーは上階に続く階段を登って逃げていくが、まずは目の前のゾンビ達を排除しなければならない。

 

 「畜生、逃げるな…!聞こえるかトリガー!俺はそっちの声を認識出来ないが、お前は俺の声が聞こえてる筈だ!聞いてくれ!」

 

 通信機からは未だ雑音しか聞こえない。だが、幾ら幻覚を操るミュータントとは言え通信妨害を起こす能力は無いはず。

 だとしたら、これはスキフの脳がコントローラーによって、通信機からの声を認識出来なくなっている可能性が高い。

 トリガーがコントローラーの魔の手に落ちていない事を願いつつ、雑音に向けて情報を伝えようとする。

 

 「コントローラーを発見した!そいつが操る幻覚のせいで俺と11号はお互い敵に見えている!お前は奴の影響下に無い筈だ!半裸のジーパン野郎を見つけて殺せ!」

 

 サイガD-12でゾンビ達の頭を吹き飛ばしながら、トリガーにコントローラーの存在を伝える。

 幻覚が続けば更に危険な物が見えてきてコントローラーどころではなくなる。恐らく幻覚を見ておらず、感覚に優れるトリガーならばコントローラーの位置を簡単に探れるだろう。

 

 ゾンビを片付けたスキフは、階段を駆け上がり、コントローラーを追いかける、この地獄の様な幻覚症状を終わらせる為に。

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 ─────トリガーが施設へ向かっている最中。

 

 『トリガー、ラットキング・バブルが死亡…KIA(戦死)よ。』

 

 外にいた大量のゾンビ達を引き付ける役割を担っていたトリガーは、その役目を見事果たし、スキフと11号に合流する為にX-ラボへと向かっていた。

 引き付けたゾンビがX-ラボに戻らない位置で撒いた後、2人が施設に侵入した東口に近付いて来た時に11号から掛かってきた通信は、共にこの施設の調査を任されたスキフが死んだと言う衝撃の報告だった。

 

 「スキフさんが…!?11号、そちらの状況を、何が起きたんですか…!」

 

 『未確認のミュータントによる奇襲攻撃よ。今、私の目の前で──くっ…!交戦開始(エンゲージ)!』

 

 「11号!?応答して下さい!11号!……彼女と合流しないと!」

 

 奇襲を受けているであろう11号を援護する為に、急いで彼女の下に全力で走るトリガー。だが、東口を超えた時に通信機から聞こえてきた声に、思わず足を止めてしまう。

 

 『トリガー、聞こえるか。』

 

 「…!?ス…スキフさん、どうして──」

 

 その声は、先程11号からKIA(戦死)と報告を受けたスキフであった。突然死者から聞こえてきた通信に、トリガーは混乱してしまった。

 

 『11号が死んだ、エーテリアスが隠れていて、そいつに殺された。』

 

 「え、いや、あの、ま…待って下さい!11号からは───」

 

 スキフから送られてきたのは、11号が死亡したというさっきとは真逆の報告、理由のわからない状況にトリガーは取り乱してしまった。更にはスキフからの通信も、何か戦闘に巻き込まれた様な音を残して切れてしまう。

 

 混乱しながらも、トリガーは2人の真逆の報告を聞いて、一つの答えに辿り着く。

 

 「まさか…お互い敵に見えている…!?早く止めないと!」

 

 施設からは激しい戦闘の音が聞こえてくる。通信で何度も呼びかけるが、まるで此方の声が聞こえていない様だった。

 仲間同士で殺し合いをしているかもしれない2人を止める為、トリガーは施設の中へと入っていった。

 

 

 

 

 「11号!スキフさん!目の前の存在は味方です!目を覚まして下さい!」

 

 2人の戦闘の跡を追いかけ、広い部屋に辿り着いたトリガー。そこには互いに武器を向けて睨み合うスキフと11号がおり、戦闘を中止させる為に2人の間に向けて一発撃ち込む。

 

 「戦闘ロボット…!こんな時に厄介な状況ね…!」

 「ふざけんなよ…新種のミュータントなんてよ…!?」

 

 「2人共、私の事も分かってない…ッ!?11号…!気付いて!」

 

 11号がトリガーに斬り掛かる、彼女を撃つことは出来ない──かと言って無傷で無力化出来るほど甘くは無い。

 11号の一撃を「プレゲトーン」で防ぎながら、必死に説得を試みるが、無駄な行いに終わった。

 

 「くたばれバケモノ共!」

 

 スキフの声が聞こえたと同時に、何かのピンが抜かれる音が聞こえた。咄嗟に11号を蹴り飛ばして距離を離し、音の正体、スキフが投げた手榴弾を迎撃する。

 空中で炸裂した爆風に踏ん張っていると、スキフが11号に追撃しようとしているではないか。

 

 「させません!……武器の事、後で謝らなければ。」

 

 スキフの持つSMGを撃って破壊する。11号と同じくスキフの事も出来れば撃ちたくない。2人共、幻覚に惑わされているだけなのだから。

 

 「やりやがったな…このブサイク…!」

 

 ───やっぱり、手っ取り早く撃ちましょうか。

 

 一体、今のスキフにはトリガーがどう見えているのか。トリガーも女性である、先日出会ったばかりの人間からブサイク呼ばわりされていい気分はしない。

 

 それに加えて、盲目が故に自分の顔という物を認識する手段が無いトリガーだが、オボルスの仲間達の証言や、こっそり録音して毎日聞いている、プロキシ兄妹(アキラとリン)とお出かけした際に言われた「トリガーは綺麗だね」という言葉からして自分の顔が整っている方だという多少の自負はあるのだ。

 

 (彼は幻覚に惑わされてるだけ、私の事が怪物に見えているだけなんです。そうですよねスキフさん…?)

 

 「死ねフレッシュ顔!」

 

 ───死なない場所に一発、一発だけ当てましょう。大丈夫、支給された回復キットがあればすぐ治ります。

 

 スキフがショットガンをトリガーに向けて何発も撃ち込む。遮蔽物を利用して躱しながらトリガーは彼の手足を撃って無力化する事を決める。

 スキフの戦闘能力をトリガーは知らない。だが殺す気で襲い掛かる11号の攻撃を割と凌げているのだから、それなりの実力はあるだろう。

 11号とスキフから攻撃を受けながら2人を無力化するのは一苦労だ、だから先に1人無力化し、もう1人に対処する作戦だ。

 

 決して、こっちの苦労も知らずにブサイクだなんだと言ってくるスキフに腹が立ったからではない。バイザーのランプの色が赤くなっているが違うのだ。

 

 そんな時、トリガーの耳に銃が弾詰まりを起こした音が聞こえた。スキフを見ると、今にも11号に両断されそうな状況ではないか。

 

 「これはさっきの分ですよ、スキフさん!」

 

 駆け出したトリガーは、スキフをほんの少し(・・・・・)の怒りを込めて蹴り飛ばし、代わりに11号の斬撃を受け止める。

 

 スキフを見ると呆気に取られた様な表情をしていた。少し間抜けに見える表情にトリガーは思わず苦笑してしまう。

 

 「さぁ早く逃げて下さい、その為に出入口まで蹴ってあげたんですから……先程の件は、これで帳消しにしてあげます。」

 

 トリガーの意図を理解したのか、スキフは研究棟に撤退していった。一対一の状況に持ち込めたトリガーは11号の前に立つ。

 

 11号は未だ此方に武器を向けている。トリガーには案があった、彼女は洗脳されているのではなく、幻覚を見ている。

 

 なら、先程まではスキフがいる三つ巴の状況だったが為、出来なかった事をする。

 

 「11号…やはり、訓練でも無いのに貴方に武器を向けるのは憚られます。ですから、私は貴方を信じます。オボルスの仲間として。」

 

 そう言うとトリガーは、臨戦態勢の11号を前に、ゆっくりと武器を下ろした。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 「武器を…下ろした?一体、何の意図が…」

 

 11号は目の前の戦闘ロボット(・・・・・・)の行動に困惑していた。

 通信が出来ず、スキフを殺した新種のミュータントを追撃していたら、突如乱入してきた謎の戦闘ロボット。

 割り込んできたにしては、自分と新種のミュータントに対して、妙に反撃を行わない事に疑問を持っていたが、ここに来て戦闘の意思が無いかの様に、手に持つ大型ライフルを下ろしたのだ。

 

 (最初はこの施設の警備ロボットかと思ったけれど……一体いつ起動したかが問題ね、ゾンビの様にPSI放射で故障しているにしては動きが良すぎる……そう言えば。)

 

 「何処となく、動きがトリガーに似ているわね…」

 

 「───!?────!」

 

 数え切れない程、共に任務をこなしてきたオボルスの狙撃手に、動作が何処か似ているロボットに思わず呟く。すると、ロボットが11号に対して、まるで友人に出会ったかの様な反応を示し始めた。

 

 「…………トリガー?」

 

 「───!───!」

 

 11号の言葉に、更にロボットは反応を良くする。よく分からない動きの上、何を言っているのかも分からないが、少なくとも肯定している様な感じだ。

 取り敢えず11号は、目の前のロボットをトリガーなのだと判断する事にする。

 

 「本当にトリガーなのね…?でも何故そんな姿に?まさか、別行動している間に何者かに捕まって…」

 

 「───…!?───……」

 

 「どうやら違うみたいね、だとしたらどうして…」

 

 呆れた様な動きを見せたトリガーらしきロボット、だが11号は何故、彼女がこの姿になっているのか分からなかった。とにかく、この状況を何とかする為に動かなくては。

 

 「……一度、この施設から撤退すべきね、貴方が何時までもその姿に見えるのは困──!?何、通信機が…!」

 

 新種のミュータントに出会ってから、雑音しか発してない通信機から、更に酷い雑音が耳を劈く。必死に誰かを呼びかけている様な雑音に、トリガーらしきロボットは付いてきてくれと言わんばかりに動き始めた。

 

 「誰か呼んでいるようね、ついて行くわ、トリガー。」

 

 

 

 エントランスへと戻った11号とトリガー、上階から銃撃音が鳴り響き、エントランスにはゾンビの死体の数が増えているが、それよりもスキフの遺体が無い事に11号は気が付いた。

 

 「彼の遺体が無い…?そんな筈は無いわ、彼は私の目の前で……最初から死んでいなかった?あれは幻覚……貴方の様に彼も違う姿に見えていたのかしら?」

 

 「────、──────…」

 

 その通り、そう言っているかの様に頷くトリガー。先程まで曖昧な動きしか目には映らなかったが、今では、ジェスチャーで意思疎通が出来る程度には分かる───まるで、認識が元に戻りつつあるかの様だ。

 

 そんな折、また通信機から雑音が鳴り、そして上階から爆発音が鳴り響く。それに対してトリガーは11号に待機しているよう促し、自分は外に出ようとしていた。

 

 「……恐らく、彼は上で戦っているのね?私も援護に向かうわ。」

 

 「───…?───」

 

 「トリガーの事が分かったのだから、彼の見た目が違っても大丈夫。…もう、幻覚には惑わされない、彼を助けに行くわ。」

 

 11号がそう言ってみせると、トリガーは折れたかのように11号にスキフの救援を任せるジェスチャーをする。共に行動しないのはスキフの通信で伝えられた、強力な幻覚を見せるコントローラーに対して、未だ影響を受けてないトリガーが一人で立ち向かう方が良いと判断したからだ。

 

 トリガーはエントランスを出て、研究棟と連絡通路で繋がる向かいの建物へと駆け出し、11号は階段へと登って行った。それぞれの役目を果たす為に。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 ────研究棟3階、連絡通路付近

 

 

 「敵がいたぞ!」「撃て!」

 

 「畜生!待ちやがれコントローラーァ!逃げるなぁ!邪魔するなゾンビ共に幻影共ォ!」

 

 逃げるコントローラーの追撃を続けるスキフは、コントローラーが呼び出した大量のゾンビに加え、PSI放射による幻覚の進行によって現れる幻の兵士達とも戦っていた。

 外から見れば今のスキフは奇妙に映るだろう、何故なら彼は、何も居ない虚空に向かってサイガD-12を乱射し続けているのだから───だが。

 

 「うぐっ……クソがぁ!」

 

 「1人やられた!」「カバー!」

 

 背中から撃たれたかの様な反応を見せたスキフ、ゾンビに撃たれた訳でもないのに、突然アーマーと身体に銃創が浮かび上がる。そしてスキフの視点では間違いなく後ろにいる、幻覚の兵士に向けてサイガD-12をお見舞いし、幻覚の兵士は血を噴いて倒れた。

 

 これがPSI放射による幻覚の兵士の恐ろしい所だ。本当は何も起きてない筈なのに、頭では理解している筈なのに、まるで身体は撃たれたかの様に傷付いていく。

 プラシーボ効果と言い張るには何故かアーマーもダメージを受けるのは謎ではあるが、幻影を無視しようとすると結局、幻覚の銃弾によって撃ち殺されてしまうのだ。

 

 ───対処方は一つ、幻覚の兵士達もしっかり撃ち殺す事である。

 

 「トリガー!コントローラーは3階連絡通路から向かいの建物に逃げている!お前はあっちから回り込んでくれ!俺はゾンビと幻覚のせいでマトモに追いつけない!」

 

 湧き出てくる幻覚の兵士は兎も角、ゾンビ共は一体何処から湧いて来るのか謎だった。連絡通路に辿り着くと、そこにも多数のゾンビが待ち受け、その奥でコントローラーが背中を見せて逃げている。

 トリガーにコントローラーの逃げ道を伝え、スキフはゾンビを無理やり突破する事を試みる。

 

 サイガD-12のマガジンを入れ替え、ゾンビ達の頭を次々と粉砕していく。その中で、一際大きな武器を持ったゾンビが奥から姿を現れた。そのゾンビの呻き声を聞き、手に持つ武器を見たスキフは、思わず目を見開いてあらん限りの声で叫んでしまった。

 

 「あぁるぴぃぃぃ───」

 

 「───Gィィィィ!!!」

 

 そのゾンビがスキフに向けて発射してきたロケットランチャーが、ふらつく照準によって連絡通路の天井に着弾する。弾頭に詰め込まれた火薬による爆風と熱が、連絡通路に密集するゾンビとスキフを巻き込み、スキフは視界が暗転した。

 

 

 「У, мать ……(ンー…マツオ……)

 

 

 朦朧とする意識の中、歪む視界の先にゾンビ達が迫ってくるのが見える。爆風に巻き込まれたゾンビの一部は立ち上がろうとしているのが分かる。持っていた筈のサイガD-12は近くに無い、何処かに飛んでいってしまったのだろうか。

 

 「вашу…!(バショー…!)

 

 ゾンビ達が一斉に発砲し、スキフに次々と着弾していく。撃たれた痛みに耐えながら、近くのゾンビの死体を盾にして隠れる。多数の銃撃を前に動けず、何とかしようと後方を見ると、ゾンビが数体現れたではないか。

 

 「畜生…八方塞がり───!?」

 

 途端、後方に来たゾンビ達が斬り倒される。その下手人は、散々スキフとやり合ったエーテリアス(推定11号)だった。

 ゾンビ達の銃撃の矛先がスキフからエーテリアスに移る、エーテリアスは銃弾の雨を物ともせず、狭い連絡通路の壁を巧みに利用してくぐり抜け、あっという間にゾンビ達を片付けてしまった。

 ゾンビ達を掃討したエーテリアスは、ゆっくりとスキフに近づく。恐らく11号である事は分かっているが、スキフには確信はあっても確証は無い。

 

 よく見れば、11号らしきエーテリアスも此方が本当にスキフなのか、少々迷っている感じがした。

 

 「11号で合ってる…よな?あー…でも、声が聞こえないか……待てよ。」

 

 スキフは、腰に装備していたナイフを取り出す。11号がスキフに貸してくれた、幅広の長い、マチェットの様なナイフ。

 それを持ち手の部分を向けて11号に渡すと、11号は恐る恐る受け取った。すると漸く確信を得たかのように、ナイフをスキフに返し、その後、手を差し伸べた。

 

 スキフは力強く、11号の手を取って立ち上がる。連絡通路の先、コントローラーが逃げた場所からゾンビ達が向かって来る足音がする。更にスキフには、後方から幻覚の兵士が近づいてくる音もしてきた。

 

 11号はナタを構え、スキフは11号のナイフとPTMピストルを両手に持って、2人は背中合わせになる。

 

 「11号、俺には幻覚の兵士が見えているんだ…そいつらにも対処しないと撃たれて死ぬ。変な所に攻撃するかもしれないが…まぁ、気にしないでくれ。お前はゾンビを頼む。」

 

 今のスキフの言葉を認識できるはず無い──だが、11号は理解しているかの様に頷いた。

 

 ゾンビと幻覚の兵士が連絡通路に殺到する、飛び出して来たゾンビの頭を刎ね、幻覚の兵士の頭部を撃ち抜く。

 スキフは同時に11号の援護射撃も行い、11号も、彼女から見れば虚空に向けて武器を振るうスキフを不審に思わず、ゾンビからの攻撃を防ぐ様にスキフを庇う。

 

 ナタの一撃がゾンビの首を飛ばし、PTMピストルの9x18mm弾がゾンビと幻覚の兵士の頭を貫通し、ナイフの一振りが幻覚の兵士を切り裂く。

 

 共に協力しあい、ゾンビと幻覚の兵士を合わせて数十は倒しただろうか、スキフと11号は目の前に残る、最後の敵を倒した瞬間───

 

 

 『此方トリガー、コントローラーを排除。繰り返します、コントローラーを排除しました……2人共、ちゃんと聞こえますか?生きてますよね?』

 

 「聞こえてるわ、トリガー……マジックキューブ・ソウルも無事。彼の姿、ちゃんと分かるわ。」

 

 「やっと2人の声が聞けたよ……お前の事も、はっきり見える。」

 

 

 倒したゾンビに埋め尽くされた連絡通路の真ん中で、互いの本来の姿を認識出来たスキフと11号、短い時間だった筈なのに、やけに久しぶりに聞く様な気がするトリガーの声に、漸く幻覚から解放された事実に2人は安堵した。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 「この中で一番ZONEでの経験があるのに、まんまと奴の幻覚に引っ掛かったのは言い訳のしようが無い。本当にすまなかった。」

 

 「何を言っているの、幻覚に惑わされた状態で、貴方は自力で犯人を見つけてみせたわ。私の方こそトリガーが居なければ、更に状況を悪化させた可能性が高いのに…」

 

 「2人共、責任の背負い合いは後に、今は全員無事に生き残った事を喜ぶべきです……スキフさんは無事と言うには少々程遠く見えますが。」

 

 トリガーによって見事コントローラーを撃破した後、3人は研究棟の外で合流した。そこで行われるスキフと11号による自分が悪い合戦に対してトリガーが間に入り、強制的に話を終わらせる。

 幸いな事に、11号とトリガーは殆ど怪我はしていないが、スキフの方は斬撃の跡や爆風による火傷、多数の銃創だらけでボロボロだ。

 

 「色々言いたい事はありますが…ここは一旦研究基地に戻った方が宜しいかと、スキフさんの治療をしましょう。」

 

 「人体を治癒できるアーティファクトがあるから俺は大丈夫だ…だが一度戻るのは賛成だ、装備の修理をしたい。」

 

 「まだ調査の時間は沢山残っているわ…少し研究基地で休むべきね。」

 

 一度、ヤンター研究基地に戻る事に決めた3人はX-ラボを離れる事にした。コントローラーによって呼び出され、スキフと11号によって殆ど殲滅されたのか、地上施設にゾンビ達の姿は一切無かった。

 まだ午前中だと言うのに濃密な時間を過ごした調査任務はまだ終わらない。だが、一旦小休止としよう。

 

 「なぁトリガー、残っているゾンビ共の気配は感じないか?」

 

 「ええ、取り敢えず、一帯からは駆逐出来た様ですね………あれ?」

 

 「どうしたのトリガー、まだゾンビが残っているの?」

 

 敵が居ないか感覚を研ぎ澄ますトリガーがおかしな反応を示した事に、何か残っているのかと問いた11号。トリガーは施設に振り返り、じっと見つめていた。

 

 「今、誰か居た様な気がして……ゾンビの生き残りでしょうか……」

 

 「多分そうだろ、1体くらいなら放って置いても問題ない。」

 

 「また戻って来た時に対処すればいいわ、トリガー。」

 

 X-ラボの正門を抜け、道路に沿って研究基地に戻って行く3人。地上施設には、彼らに排除されたゾンビ達の遺骸しか残されていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やはり、視覚無き者は、目に見えぬ物が見えるらしい、少々油断しすぎたか。」

 

 

 「彼らが施設に入った時点で、既に対処は終わっていた。」

 

 

 「あの時トリガーの認識を変え、2人を撃たせる事も出来た。彼があの部屋から撤退する事無く、戦闘を続けさせる事も出来た。トリガーが武器を下ろした瞬間、11号に首を刎ねる様に誘導する事も出来た……幾らでも、自滅に追い込む事が出来た。」

 

 

 「だが、彼が居た。彼の姿が、その存在がはっきりと見えた時、()は干渉を止め、貴方(・・)は喜びに震えた、何故だ?」

 

 

 「分かっている筈だ、彼らの調査を止めねば、この施設は放棄せざる得ない。ここにはまだ必要な物があるのだ……それでも、彼の存在に比べれば、ここを捨てる意義がある……貴方(・・)はそう言うのだろう?」

 

 

 「しかし本当に、最後のコントローラーを身代わりに使う価値はあったのか?……()はあると言うのだろうな、私と違って。」

 

 

 「ああ…勿論、貴方(・・)の愛する彼を、排除する様な真似はしない……()が気に入る彼の事は、私も気になるからな。」

 

 

 「我が主(・・・)の目として、見守らせて貰うよ……使者よ。」

 

 

 

 







 ◇コントローラー
 ZONEお馴染みのジーパンミュータント。初代等の作品では攻撃キャンセルしてくるウザい敵程度だったのだが、2ではPSI放射が凶悪な物に変化した為、連鎖的に、PSI放射を引き起こすこいつも凶悪な能力持ちになってしまった。
 単体ならばまだ大したこと無い敵なのだが、真価を発揮するのは近くに死体やゾンビがいた時。攻撃キャンセル時にゾンビにめった撃ちされるわ、そこら辺の死体を復活させてくるわ、時間をかければPSI放射の影響で幻覚の敵まで相手する羽目になるわで非常にヤバいミュータントである。大人しく遠距離からチクチク撃とう。

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