Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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27.這い寄る死体達

 

 

 

 ヤンターのX-ラボ、その地下研究施設の奥まで到達したスキフ達。

 スキフは円柱状の部屋の中央にそびえ立つモノリスの様な物を呆然と眺めていた。

 

 モノリス───どんな願いも叶える夢の願望機としてストーカー達の間で噂され、CNPPの中にあると言われていた物である。

 だがその実態はチョルノービリのZONEを生み出した科学者達、C-コンシャスネスが自らを守る為に作り上げた強力なマインドコントロール装置であり、ZONEの最奥へ辿り着いた者を洗脳しZONEの秘密を守る軍隊へと組み込む為の餌でしか無かった。

 

 元居た世界でスキフがZONEへやって来た時には、SIRCAAという研究機関と、その実質的な実働部隊として動いていたウォード(監査団)によってモノリスは回収され、彼らの本拠地で実験の為に利用されていた。

 

 結局、SIRCAAがモノリスを利用した「第二次カリブ実験」を再開した結果、ZONE中を戦火に巻き込む事態がおきるのだがそれはまた別の話である。

 

 

 

 スキフの目に映るモノリスは、元居た世界で見た物と似た巨大な青白い水晶体の様な物体だが、決定的に違う点として“声”が聞こえない事が挙げられる。

 

 かつて元居た世界でモノリスの目の前まで来た事があるスキフは、モノリスが語り掛けて来た事を覚えている。まるで囁く様にモノリスの声が頭の中に直接聞こえてきた。

 

 更には様々な願いを叶える瞬間も見せられた。不死になりたい、金持ちになりたい、世界から戦争を無くしたい、世界を終わらせたい───結局は歪んだ形で叶えられたのを体感させられた上、周りに居た人間達がスキフを殺そうとしてきた幻覚すら見せられる始末だ。

 

 かつて調査に来た防衛軍の残した記録映像や状況証拠からして恐らくこれがこの施設全体を包むPSI放射の発生源であろう。スキフの知るモノリスが見せる幻覚や声もPSIを利用していた物だと記憶していた。

 

 だが、このモノリスは何も語り掛けない、幻覚を見せる事も無い。ただ巨大な機械に繋がれただけの物体としてそこにあるだけだ。果たしてこれは本当にモノリスなのか───

 

 

 「───!……フラワーバッド・レンチド!時間の猶予は少ないわ、早くこれを止める方法を見つけるわよ。」

 

 「っ…!そうだな、すまない。」

 

 11号の呼びかけでハッとしたスキフ。この部屋に入ってから対PSIヘルメットの許容値を超えたらしく警告が発せられた、サハロフから伝えられた猶予は数分程度と言われていたので、ボサッとしている暇は無い。

 

 この部屋はモノリスを囲む様に、鉄板と簡易的な手すりで作られた一見簡素にみえる1本の曲がりくねった通路が張られており、それがスキフ達がいる階から数えて4階まで続いていた。その一部は機材が置けるように広いスペースが設けられている。

 

 下を見ると、暗くて底が見えなかった。そもそもこの部屋自体がかなり暗い、見えないのも当然だった。

 

 (暗視装置で覗くのは後だな…今はこいつを止めないと。)

 

 11号も言ったが時間の猶予は少ない。取り敢えずスキフ達のいる階層、広くスペースを取っているように見えて一本道の通路の奥にある機材を調べるが…数多の死体が散乱しておりちゃんと歩くのに一苦労だ。

 

 「さっき見た以上に改造兵士共が戦った跡があるな…エーテリアス擬き共はなんでここまで来たんだ?」

 

 先程よりも激しい戦闘が起きた事を物語る、数体のエーテリアス擬きと大量のカダーヴァーの死骸があった。

 

 取り敢えず機材を調べ上げて何か無いかと探す、この機械は部屋中央のモノリスを固定する機械に繋がっていた。

 コンソールの様々なボタンを押してもうんともすんとも言わない。同じ場所にはいかにもそれらしいレバーがあり、『第一制御モジュール』と『上の階の同じレバーを引け』と年月が経ったであろう掠れた文字で書かれていた。

 

 「……11号、トリガー、このレバーを下げてみるが良いか?これが制御モジュールのスイッチらしいが…正しい順番とかは分からない。」

 

 「リスクはありますが、現状他の手段が不明な訳ですし…」

 

 「正しい手順を調べている暇も無いわ、やりましょう。」

 

 「それじゃあ…行くぞ。」

 

 11号やトリガーとしても正式な手順が不明な以上、この構造物──モノリスがどうなるか等気にしていられない。

 万が一、モノリスが壊れたとしてもサハロフからはPSI放射を止めろとしか言われていない上、防衛軍からも“これ”に関して何も命令されてないのだ。

 個人的には、防衛軍の仲間達をゾンビに変貌させたこれを残すよりか壊れてしまう方がいいと2人は思っている。

 

 2人の許可を得たスキフはレバーを下げる、するとモノリスに繋がれた機械の一つから火花が飛び───

 

 『ユニットC23が停止しました。保安要員に報告してください。』

 

 音声と共に明らかにモノリスや機械に良くない影響が起こっていそうな音が鳴り響く。どうみても正しい手順とは思えない。

 

 「上の方にも同じ様な機械が見えるわ、上りましょう。」

 

 「待って下さい、下の方から何か来る音が聞こえます。」

 

 「下…?俺が確認する、援護してくれ。」

 

 トリガーの言葉を聞いてスキフは暗視装置を装着し、下の深淵となっている階層を覗き込む。下の階の通路はボロボロで、張り巡らされた通路が所々崩落し、スキフ達がいる階に繋がる階段は無くなっていた。

 

 それらをよじ登って来る“何か”が此方に向かっていたのが見え、すぐさまスキフは警告を飛ばす。

 

 「何かよじ登って来るぞ!多分スノーク───」

 

 警告を聞いて即座に戦闘体勢に入る11号とトリガー、スキフ達は上に続く階段に向かう様に移動しながら、迫りくる敵を待ち構える。

 

 地下を住処にして、猿の様に跳び移る様な動きを見せるミュータントをスノークだと予測していたが、その正体を見てスキフは驚愕した。

 

 通路に登ってきたミュータントはスノークでは無かった。この地下施設に入ってから散々見てきた死体──この世界のSTALKEプログラムの産物、改造兵士「カダーヴァー」

 生気が無い筈のその眼は、明確な殺意を持ってスキフ達を睨み付けていた。

 

 「────じゃない!死体共(Kadaver)だ!」

 

 「射撃開始!」

 

 トリガーがカダーヴァーの頭部を撃ち、スキフはスノークでは無いと気づいた瞬間、ガウスガンに持ち替えて胴体に向けて放つ。

 未知の敵に対して咄嗟に最大火力をぶつけたスキフ、トリガーの正確無比なヘッドショットも加わり、直撃したカダーヴァーの肉体は───

 

 「なっ────」

 

 全く効いていない、カダーヴァーの体を包むバリアに阻まれ、スキフとトリガーの放った銃弾は肉体に届く前に相殺された。

 スキフのガウスガンはZONEのミュータントはおろか、デュラハンや外来種等を容易く吹っ飛ばせる事は分かっている。トリガーの持つ「プレゲトーン」も並の武器とは比べ物にならない威力を持つ狙撃銃だ。

 

 それらを食らっても多少仰け反った程度のカダーヴァーは、背中からエーテル活性の光を輝かせ、スキフ達を排除せんと歩き始めた。

 

 「畜生こいつ(ガウスガン)が通用しないのかよ!?」

 

 「2人共、下から敵の増援よ!」

 

 「上に行きましょう!ここは引くべきです!」

 

 壁やモノリスを接続する機械をよじ登る様に更に多数のカダーヴァーがスキフ達の階へと殺到する。

 一度強烈なPSI放射が満ちるこの部屋から出ようにも、曲がりくねった一本道の奥に来てしまっている為、戻るにはたった今這い上がって来た、無敵のバリアを持つカダーヴァー達を突破しなければならない。

 

 ならばPSI放射を止める為に上に登るしかないだろう。唯でさえ対PSIヘルメットの防護時間がこの部屋では数分しか保たないのだ。あの群れを突破する時間は無い。

 

 階段を登り、2階に当たる通路へと到達する。11号が先導しつつ、スキフとトリガーが足止めの為迫りくるカダーヴァーに撃ち続ける。

 幸いな事にカダーヴァーの歩行速度はゾンビよりか早い程度、禄に通じないとは言え高い威力の攻撃を与え続けるなら僅かに足止めにはなる。

 

 機械を止めるレバーを探しながら、モノリスを囲む通路を走り続ける11号の目の前に、下の階から跳躍してきたカダーヴァーが立ち塞がった。

 

 「前方!カダーヴァー───くっ!?」

 

 11号が全力でカダーヴァーの首を刎ね飛ばそうとナタを振るう、強烈な炎を纏った斬撃がカダーヴァーに直撃するが、その一撃に身体が切り裂かれる事なく刃がバリアに僅かに食い込むだけに終わる。更にはカダーヴァーに刃を掴まれ、引き抜こうとして力を込めてもびくともしない。

 

 「ぐっ────」

 

 「その手を離しなさい!」

 

 カダーヴァーは片手で11号の首をへし折らんと首を掴む。ギリギリと締め付けられた11号の首の骨が砕かれる寸前、駆けつけたトリガーがプレゲトーンの銃剣を顔面に突き刺すと同時に発砲する。

 

 目に銃剣が突き刺さりゼロ距離で銃弾を叩き込まれたカダーヴァーは僅かに怯む。トリガーが連続で撃ち込んだ結果、自分の首を絞めていた手が緩んだ事で11号は拘束を解く事が出来た。

 

 「そこをどけ!」

 

 スキフの掛け声にその場を飛び退くトリガーと11号。顔面に銃剣と銃弾を叩き込まれたにも関わらず、目の一つすら失ってないカダーヴァーの頭に、至近距離からガウスガンを直撃させる。

 

 至近距離の一撃はバリアでも相殺しきれないのか大きく仰け反ったカダーヴァー。だが先程と同じ、背中のエーテル活性の光が輝いてスキフに襲いかかろうと───

 

 「───背中よ!」

 

 その光輝く背中を11号が切り裂き、トリガーの射撃が貫く。カダーヴァーの背中にある機械に接続された3つの小さなエーテルのコアを全て破壊すると、カダーヴァーは体のあちこちからエーテリアスが消滅した時の様な光を発生させながら、機能を停止したかの様に動かなくなった。

 

 「派手に光るものだからまさかと思ったけど…予想通りね。」

 

 「スキフさん、このミュータントは背中の3つのコアを破壊すれば倒せます!」

 

 「狙うたってこの状況でどうすれば狙えんだよ…!」

 

 無敵のバリアを持つカダーヴァーの弱点、この暗い部屋を照らす背中のエーテル活性の光を見た時に、11号とトリガーは攻撃が通用しそうな所に見当を付けていた。

 

 だがスキフの言う通り、今の状況では弱点が分かった所で気軽に狙えない。敵が多数、一本道の狭い通路、強烈なPSI放射による時間制限。この状況ではマトモに弱点を狙えない、スキフ達の攻撃では突破出来ない防御力を持つカダーヴァーの厄介さをより一層際立たせていた。

 

 とは言え、弱点が分かった事である程度気が楽にはなる。迫りくるカダーヴァーから逃れる為、通路を進み上の階を目指す。その途中で下で見つけたのと同じコンソールとレバーを見つけたので急いで引く。

 

 『ユニットC17が停止しました。保安要員に報告してください。』

 

 次の制御モジュールが停止しモノリスを繋ぐ機械から一層大きな悲鳴が鳴り響く、あちこちから火花が飛び、炎が浮き出る。

 

 「次!3階だ急げ!」

 

 トリガーはモノリスをよじ登ってくるカダーヴァーの背中を狙い撃つ。コアを一つ破壊され、苦しむ様に身を捩らせるがすぐさま2つめのコアが撃ち抜かれ、手を離してしまい奈落の底に落ちていった。

 それを見た他のカダーヴァーはモノリスをよじ登る事を止め、背中を見せない様に接近を始めた。どうやらジリジリと追い詰める戦法に切り替えたらしい。

 

 「ある程度知恵は残っている様ですね…!」

 

 「トリガーお前は先行して上から狙え!足止めは俺と11号がする!」

 

 「そうしたい所ですが既に回り込まれてます!」

 

 3階の通路に登ると一体のカダーヴァーが壁や機械を蹴って先回りしてきた、挟み撃ちを狙う知能も残っているらしい。

 スキフは目の前の通路に陣取るカダーヴァーに対して数個の手榴弾を取り出す。トリガーと11号に目線で合図を送ると2人はすぐさまスキフの意図を理解した。

 

 「граната(グレナータ)!」

 

 カダーヴァーに向けて手榴弾を投げつけるスキフ。カダーヴァーの上まで来たタイミングで手榴弾をトリガーが撃ち抜き、爆発───多少怯んだが、それでもバリアに阻まれカダーヴァーは全くの無傷だ。

 

 「はあぁぁぁ───!」

 

 その隙を狙って11号の一閃がカダーヴァーを斬る、ダメージこそ無いがカダーヴァーの背後に辿り着いた。一瞬、カダーヴァーは背後の11号と正面のスキフとトリガーのどちらに対処するか迷い、一番近い11号にその拳を振るった。

 11号は此方に攻撃の矛先が向いた事を認識し、咄嗟に防御するが余りの力に殴り飛ばされてしまう。何とか通路の手すりに激突する形で下に落ちる事を免れるが、その凄まじい腕力に先程首の骨を折られかけた事も含めて驚く他無かった。

 

 だが11号を殴り飛ばしたカダーヴァーの背中にトリガーとスキフの射撃が襲い掛かる。3つのコアの内2つが破壊され、苦しむカダーヴァーはスキフとトリガーに憎悪の視線を向ける。

 

 「行けトリガー!」

 

 スキフの掛け声と共に、カダーヴァーに向かって走り出すトリガー。スキフはガウスガンの矛先をすぐ後ろまで迫ってくるカダーヴァー達に向ける。

 通路を塞ぐカダーヴァーが突貫するトリガーに向けて腕を薙ぎ払う様に攻撃する。それを滑りながら避けたトリガーは背中に残る最後のコアを撃ち、そのカダーヴァーは機能を停止した。トリガーはすぐに11号の下に駆け寄る。

 

 「11号!動けますか!?」

 

 「問題ないわ…彼を援護しないと…!」

 

 2人が後方のカダーヴァーを抑えているスキフを見ると、必死に攻撃を躱しながらガウスガンを撃ち、チャージ中の時間を稼ぐためにPTMピストルを連射しながらジリジリと後退していた。

 ガウスガンは辛うじてバリア越しに怯ませる事が出来るが、PTMピストルの9x18mm弾は全く効果が無い、撃たない方がマシなのではと思うくらい程だ。スリングにぶら下げているASラヴィナとサイガD-12は片手で撃つには禄に制御できないし、持ち替える暇もない為、チャージの隙を埋めるにはこれしかない。

 

 だがPTMピストルに装填されているマガジンの弾が空になり、丁度チャージが終わったガウスガンで迫ってくるカダーヴァーの一体を撃って怯ませるが、その仲間を押し退けた別のカダーヴァーが腕を振り下ろす様にスキフに殴り掛かってきた。

 躱せない、そう判断しガウスガンを盾にして防御する。金属がぶつかり合う衝撃と、カダーヴァーの拳の一撃に思わずその場に膝をつく。膝パッドを身に着けているとは言え硬い鉄板についた膝が悲鳴を上げ、痛みに悶える。

 

 キュゥゥゥン───

 

 不吉な音がスキフの耳に入る、銃にチャージされている電力が抜ける音がする。もう撃てませんという降伏宣言がガウスガンから発せられる。ちらりとガウスガンを見ると銃身が思い切りへこんでいたのが見えた。

 殴られて頭蓋骨がへこむよりマシ、そう思う事にして自分の最大火力の喪失と高額な修理代金の請求という現実から目を逸らす。

 

 次の打撃が来る前にトリガーからの援護射撃が飛来し、同時にスキフに追撃しようとするカダーヴァーの攻撃を11号が受け止める。2人の援護が到着した。

 流石にスキフと違って膝をつくことは無いがそれでもカダーヴァーの強力な腕力を前に11号は歯を食いしばって耐える。

 

 「立ちなさい!時間が無いわ!」

 

 「すまん助かっ────」

 

 立ち上がろうとしたスキフの腹に、カダーヴァーのヤクザ蹴りが炸裂する、身体がくの字に曲がりながら蹴り飛ばされ、通路の手すりに激突して金属のパイプが歪む。蹴られる瞬間、11号の驚く表情が見えた。

 

 「スキフさん大丈夫ですか!?」

 

 「か…はっ………おぇ……!」

 

 駆け寄ってきたトリガーに大丈夫だとジェスチャーを向けながら、肋骨に罅が入り胃の中の物を吐き出しそうになるのを耐えるスキフ。コンパスの物理防護がなければ内臓が破裂し、背骨が砕け、胃液では無く血を吹いて死んでいたであろう。

 

 「私が食い止めるから制御モジュールを!」

 

 スキフとトリガーを先に行かせ、自身は時間稼ぎに徹する事にした11号。戦術を変え、バリアによってダメージが通らないカダーヴァーとマトモに打ち合うのでなく攻撃を受け流し、できる限りその場で自分に引き寄せる事で先に行く2人にターゲットが映らないようにする。狭い通路なら多数を相手取る事も難しくない。

 彼女に後を託して、3階の制御モジュールのレバーを引きに行くトリガーと腹を抑えるスキフ。通路に散らばる「Burner(バーナー)」アノマリーを避けながらコンソールに辿り着き3つ目の制御モジュールを停止させる。

 

 『ユニットC12を解除しました。保安要員に報告してください。』

 

 「まだ止まらないのか!?」

 

 「次が最後だと祈りましょう!」

 

 「11号!援護するから階段まで走れ!」

 

 4階──この部屋の最上階に続く、何かのタンクが横に設置されている階段を登る前に殿を務めている11号を援護する為、スキフはカダーヴァーへASラヴィナを発砲する。ほんの一瞬カダーヴァー達の意識がスキフへと向いた隙をついて階段へ11号は走る。

 トリガーは先に4階に登りコンソールを探そうとした瞬間、後ろに気配を感じ、咄嗟に回避行動を取った。

 

 「ここにもカダーヴァーが…!」

 

 4階に潜んでいたカダーヴァーの攻撃をギリギリで躱し距離を取ろうとするが、その前に強烈な拳がトリガーに届く。何とか防御する事が出来たが、思い切り壁に頭を打ち付けてしまう。

 運よく対PSIヘルメットが緩衝材となったお陰で、頭への致命傷は最低限防げたが、それでも強い衝撃によって昏倒しかけていた。

 昏倒しかけるトリガーに追撃を仕掛けようとしたカダーヴァーの背中に、4階へと上がってきたスキフの銃撃が襲い掛かりコアの一つが破壊され、カダーヴァーが苦しみに悶えた。

 

 「こっち向きやがれバケモ───」

 

 「離れて!爆発するわ!」

 

 スキフがトリガーを援護する為に更に追撃を与えようとした瞬間、11号の叫びと共に先程登ってきた階段から突然爆発が襲い掛かり、背中が焼ける感触を味わいながら軽く宙に浮いて、硬い床に叩きつけられる。

 

 

 一体何があったのか───丁度同じ頃、4階に続く階段でカダーヴァーを抑えていた11号は先程と同じ様な戦術でカダーヴァーの攻撃を凌ぎ続けていた。だが、その内の一体の攻撃が階段横のタンクに当たってしまう。

 大きくへこんで損傷したタンクから謎のガスが漏れる匂いがした、11号はそれを嗅いですぐにそれが可燃性のガスだと気付く。自身の武器から炎を出さないように気をつけていると、視界の先に燃え上がるカダーヴァーを見つけた。

 

 (アノマリーを踏んで───マズイ!)

 

 恐らく3階通路に発生していた「Burner(バーナー)」に引っ掛かり体に引火したカダーヴァー、バリアのお陰かそれとも痛覚が鈍いのか、その個体は平然と11号に食らいつく同胞の集団に加わっていた。

 11号は足止めを止めて階段を駆け上がる、炎に包まれたカダーヴァーが可燃性ガスを噴き出すタンクの近くに来た瞬間───部屋を揺らす爆発が階段と通路を吹き飛ばす。

 

 階段の近くに密集していたカダーヴァー達は爆発と崩落に巻き込まれ、部屋の底の暗く見えない暗闇へと落ちていった。

 幸いな事に今のでカダーヴァーの殆どは消えたらしい、ギリギリ4階に辿り着いた11号は爆風の影響を受けながらも何とか立ち上がろうとして、足から崩れ落ちる感覚を味わう。

 

 爆発によって支えに損傷を受けたせいで自分のいる通路が崩れていた、11号は咄嗟に崩落していない箇所に飛ぼうとするが、タイミングがズレた影響でその手は空を切る。

 

 落ちる───そう思った瞬間、その手はギリギリの所で掴み取られた。

 

 「ツーリスト・ブレックファスト…!」

 

 「掴んだぞ!引っ張り上げ……畜生こっち来るんじゃねぇ!」

 

 かなり無理な体勢で11号の手を掴んだスキフ、そんな彼に先程までトリガーを追い詰めていたカダーヴァーがスキフへとターゲットを変え迫ってくるが、背中に一撃を受けて一瞬怯む。

 

 「スキフさん!11号を早く──」

 

 「トリガー聞こえる!?カダーヴァーが一体、下からよじ登ってくるわ!」

 

 「くっ…!一体どれだけいるんですか!」

 

 痛みが残る頭を押さえながら、スキフに迫るカダーヴァーのコアの2個目を撃って破壊したトリガー、最後の1個を狙おうとした時、11号からの警告が聞こえると同時にトリガーの目の前に、モノリスを登ってきたカダーヴァーが姿を現してトリガーに襲い掛かる。

 

 よじ登ってきたカダーヴァーのコアは一つしか残っていなかった。トリガーは気づかなかったが、この個体は2階通路での戦闘中に、モノリスをよじ登ってきた所でトリガーが撃ち落としたカダーヴァーであった。

 明らかにトリガーに恨み骨髄と言わんばかりに飛び掛ってくるカダーヴァーへの対処で、別のカダーヴァーに追い詰められているスキフ達への援護が遅れてしまう。

 

 「私をあの機械に投げて!このままじゃ2人共やられるわ!」

 

 「分かったけどその前にこいつが…!」

 

 落ちないように11号の手を必死に掴むスキフの下に、カダーヴァーが接近してくる。

 銃やナイフを取り出そうにも片手は支えに、もう片方は11号を掴んでいる為応戦出来ない。振り子の要領で11号をモノリスへと投げろと彼女は言っているが、その前にカダーヴァーがスキフへと襲い掛かる。

 

 「こんにゃろ近寄るんじゃ────」

 

 せめてもの抵抗で後ろ蹴りを食らわせたのが不味かった、その足は呆気なく受け止められ、思い切りへし折られてしまう。

 凄まじい痛みによって声にならない叫び声が出るが、それでも11号の手をしっかりと離さない様にする。尤もそうするだけで精一杯なのだが。

 

 「あそこに投げるから準備しろ…!」

 

 「手を離しなさい!自分の身を守って!」

 

 カダーヴァーはスキフの身体を砕かんと足を振り上げる、11号が手を離せと言っているが、そうしたら彼女は奈落の底に落ちる事になる。せめて掴む力が無くなる前に彼女を安全な場所に着地させようと力を込めた瞬間、スキフを殺そうとしていたカダーヴァーの背中にある最後のコアが撃ち抜かれ、痙攣を起こしてそのまま最下層まで落ちていった。

 

 「クソっ…トリガーがヤバい!」

 

 スキフが振り向くと、トリガーが2人を助ける為にこっちのカダーヴァーを撃ったのが分かった。

 だが、今トリガーと戦っているカダーヴァーにとってそれは大きな隙を見せる事と同義であった。明らかに動きが鈍いトリガーとの距離を詰め、プレゲトーンを抑え込み、トリガーの首を折ろうとしていた。

 

 「11号ォ!あっちに投げるぞ!」

 

 骨折した足の激痛を無視して全力で11号を部屋中央のモノリスの方に向けて投げるスキフ。

 投げられた11号はモノリスを蹴って跳躍し、4階に到達する。トリガーの首を掴むカダーヴァーの背中のコアを自身のナタで突き刺す。最後のコアを破壊され、体からエーテルの閃光を撒き散らしながらカダーヴァーは機能停止した。

 急いで11号は動かなくなったカダーヴァーを押しのけトリガーに怪我がないか確認する。

 

 「トリガー、何処か負傷してない?」

 

 「ゲホッゲホッ…大丈夫、と言いたいですが頭をぶつけてしまいまして……」

 

 息を吸い、頭を押さえながら立ち上がるトリガー。今も頭痛に襲われており、足もふらついている。この頭痛が無ければ、隙を突かれてカダーヴァーに首を掴まれる様な遅れは取らなかっただろう。

 だが単に頭をぶつけたにしては奇妙な痛みだとトリガーは感じていた。壁にぶつかった時に対PSIヘルメットのお陰で衝撃が和らいだ事を思い出し、壊れていないか確かめようと手で触れる。

 

 「もしかしてヘルメットが故障────」

 

 ずるりとヘルメットがずり落ちる、不味いと思って咄嗟に抑えようとするが遅かった。11号は目を見開いて驚愕していた。

 

 「────────あぁぁ!!?」

 

 「トリガー!」

 

 対PSIヘルメットが壊れた事により頭を抱えて倒れ込んでしまうトリガー。頭に四方から杭を打たれているような、脳に手を入れられてかき混ぜられている様な感覚が頭に襲い掛かる。

 11号は最後の制御モジュールのレバーを探すが、コンソールが何処にあるのか一目で分からなかった。

 時間が無い────兎に角レバーを見つけて下げなければ、そう動こうとした瞬間、11号の方に飛んできた“何か”を咄嗟にキャッチする。

 

 「それを被せろ!」

 

 その声に従い、咄嗟にトリガーの頭に壊れていない(・・・・・・)対PSIヘルメットを被せる。

 

 「…………トリガー?」

 

 恐る恐るトリガーの反応を伺うと、頭の痛みに悶えていたトリガーが少しづつ落ち着きを取り戻してきた。息は荒いが、ゾンビにはなっては無さそうだ。

 

 「11号……私、ゾンビになっていませんよね…?」

 

 「ええ……貴方の頭は問題ないわ…!」

 

 「その言い方は少し語弊を生みそうな気がしますが…」

 

 何時ものクールな表情を崩して、トリガーが無事な事に安心する11号。だがすぐにその表情が暗くなっていった。間一髪トリガーがゾンビになるのを防いでくれた、自分の対PSIヘルメットを投げた人物である。

 その人物──スキフは、爆発によって下に落ちそうになった11号の手を掴み取った場所で、頭を抱えて苦しんでいた。

 

 「11号……その…」

 

 「……私がやるわ。」

 

 スキフは足を折られながらも11号の手を決して離さず、自分を顧みずトリガーの窮地を救ってくれた。

 幾つもの任務を共にしてきたトリガーの命と、窮地を救ってくれた恩人とは言え昨日今日あったばかりのスキフの命。どっちが一つしか助けられないとしたら11号は迷いなくトリガーの方を選ぶ。

 

 ならばせめて、脳を焼かれてZONEを彷徨うゾンビとなる前に、彼を楽にしてやるのが筋と言う物だろう。介錯を行う為、ナタを握りしめてスキフに近付いていく。彼は虚ろな瞳で11号を見た。

 

 「じゅ……いちご…」

 

 「手を離して自分の身を守れと言ったのに聞かなかったわね、それに自分の身を顧みないでヘルメットをトリガーに渡してくれた……貴方には助けられたわね。」

 

 スキフは懇願する様な目で11号を見つめていた。勿論、彼の言いたい事が伝わっている11号はやるべき事をするつもりだ。

 

 「はやく……してくれ……」

 

 「ええ、わかってる。ゾンビになる前に…それが私に出来るせめてもの礼よ………ごめんなさい。」

 

 「違う…!制御モジュールを止めるんだよ!残り時間がもう無いぞ!」

 

 「っ!?貴方無事なの……そうね、早くこれを止めないと…!」

 

 「11号!恐らくスイッチはあそこの小部屋です!」

 

 介錯よりもPSI放射を止めて欲しかったスキフ。トリガーにヘルメットを投げた時には残り時間のタイマーが1分を切っていたのだ。11号は急いで制御モジュールのレバーを引きに走る。トリガーが指さす方向には制御室の様な部屋があった。

 

 危うく11号に首を刎ねられる寸前だったスキフは、彼女の背中を眺めながら中途半端(・・・・)な頭の痛みと戦っていた。

 

 (まだゾンビにならないし、幻覚も見えてこない………一体、どうなってるんだよ。)

 

 トリガーを助ける為に自分の対PSIヘルメットを投げたのは、何も自分がゾンビになっても構わないと覚悟していたからでは無い。

 

 サハロフに聞いた“この世界のPSI放射”ならば、異世界から来た自分なら効かないのではと言う可能性に賭けたからだ。

 とは言え、この地下施設で見たコントローラーの記録から浮き出た、“この世界は未来の世界”という別の可能性、それを踏まえるとスキフの行動は余りにもリスクの高い行為であった。

 前者の可能性なら体内エーテルの変質という現象を理論上無視する事が出来るらしいので問題無いが、後者ならばスキフの体内にもエーテルが存在する可能性があるのでゾンビ化してしまうかもしれない。

 

 だからと言ってトリガーを見殺しにする気もさらさら無い。防衛軍の残した記録映像を見る限り、ゾンビ化するまで僅かな時間はあると踏んでいた。

 ヘルメットを失ったトリガーに自分のを渡し、スキフはかつて強力なPSI放射への対策としてZONEで広まっていた「ひたすら回復キットを撃ち続ける」という策で凌ぐつもりであった。

 

 結局、どれだけ待ってもゾンビになる事は無く、幻覚も見えてこない。酷い二日酔いの様な死なない程度の痛みが襲ってくる程度の影響はあるのが余計に混乱を引き起こしていた。

 

 (俺の知ってるPSIの影響も出ない……1回、サハロフにでも俺の身体を検査してもらうか?)

 

 元居た世界の話だが、エミッション(光熱放射)が直撃しても何とか生き残れる体質を持つ人間がいるらしいと噂で聞いた事がある。

 もしかしたら自分もそんな特別な体質なのかもしれない、気が向いたら調べてもらうかと思いながら頭痛に耐える。

 

 『全ユニットを停止します。保安要員に報告して下さい。』

 

 11号がレバーを引いた事で中央の機械から動力が無くなっていく音が響く。ヘルメットの警告やタイマーが停止したことで、PSI放射もちゃんと停止している様だ。

 トリガーも、11号も、全員ゾンビになるという最悪の結末を避けられて安堵していた。

 漸くこの地獄が終わる────安心したスキフは頭痛と骨折した足の痛みに呻きながら、PSI放射が消えるのを待つ。

 

 

 

 モノリスを繋ぐ機械が壊れていく、構造物に罅が入るのが見え、機械の部品が崩壊して次々と落ちていった。

 モノリスが悲鳴を上げた気がした。PSI放射が消える筈なのに耳鳴りが酷くなっていく。目の前が真っ白になっていく気がする。

 

 

 ─────そして、スキフは意識を手放した。

 

 







 ◇カダーヴァーの弱点
 今話で描写されているカダーヴァーの背中の3つのコアは、コンセプトアートでKadaverの背中に制御装置っぽい赤いランプが3個付いてる事から。
 ゲーム的に言うなら弱点を撃たないと無限復活してくる近接ゾンビのイメージ。



 ◇スキフの対PSI対策
 「ひたすら回復キットを撃ち続ける」……初代SoCのメインミッションでヤンターのラボX-16に向かう必要があるのだが…ここにPSIヘルメット無しに突入すると、もの凄い勢いでPSIによる継続ダメージが入ってあっという間に死亡してしまう。
 なのでエコロジストのバンカーにいるサハロフの依頼をこなして、ダメージを防ぐPSIヘルメットを手に入れてからX-ラボに突入するという流れになる。

 なのだが、継続ダメージと言っても一瞬で体力が無くなる訳では無いし、地上とブレインスコーチャーがある部屋以外はPSIダメージを受けないという仕様の為、回復キットを大量に持ち込めば、ヘルメット無しでも無理やり突破する事も出来る。

 ただ常に回復キットを摂取し続けて、PSIダメージの他にゾンビやスノークの攻撃を耐え、なおかつ初見時は道やギミックが分からない状態で進まなければ行けない為めちゃくちゃ死に、最悪詰む可能性がある。
 皆はちゃんとサハロフからヘルメットを受け取ってから挑もうね(初見1敗)

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