Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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28.非常口はいずこ

 

 

 

 ──────スキフが目を開けると、つい先程まで戦っていたカダーヴァー達がこちらに迫ってきていた。

 

 咄嗟に武器を構えようとして、その手には銃もナイフも無いことに気づく。

 

 否、武器どころか、自分の肉体すら存在しなかった。まるで幽霊になったかのようだ。

 

 もしかして、俺は死んでしまったのか───

 

 そう思った矢先、自分の身体──何も無い空間──を何かの攻撃が通り過ぎる。

 

 その銃撃の様な攻撃が目の前まで来ていたカダーヴァーに命中する。その一撃はバリアを貫通し、胴体を紙切れのように吹き飛ばした。

 

 スキフは驚愕した、散々自分やオボルスの2人を手こずらせた原因である無敵のバリアを安々と突破してみせたのだから。

 

 攻撃が飛んできた方向を振り向くと、エーテリアス達が各々の武器を手にカダーヴァーに攻撃を行なっていた。

 

 違う、あれはエーテリアスでは無い。エーテル結晶のエクソスケルトンを纏った兵士……地下施設でカダーヴァーやコントローラーの死体の中に混じっていたエーテリアス擬きの兵士達だ。

 

 周りを見渡すと、先程までカダーヴァーと激闘を繰り広げていたモノリスがある部屋だった。そこで、カダーヴァー達とエーテリアス擬き達が激戦を繰り広げていた。

 

 カダーヴァー達はスキフ達と戦っていた時の様な、ゾンビよりマシ──その程度の鈍い動きでは無い。11号と同等か、それ以上の俊敏さで部屋を飛び回り、銃火器や近接武器を使いこなし、高度な戦術を以てしてエーテリアス擬き達を追い詰めていた。

 

 明らかに動きが違いすぎるカダーヴァー達を指揮しているのはコントローラーだ。部屋のあちこちにいるコントローラーが手を振りかざせばカダーヴァー達がその通りに動き、敵を排除せんとその力を効率的に振るう。

 

 だがエーテリアス擬き達も負けていない。非常に鍛え上げられた特殊部隊並の練度と連携で互いを援護しながらカダーヴァーを次々と仕留めていく。

 彼らが持つエーテル結晶で作られた様な兵器は、それぞれが容易くカダーヴァーのバリアを破壊し、その肉体を破壊していった。

 

 だが、10人に満たないエーテリアス擬き達に対してカダーヴァーはスキフ達が戦った時より遥かに多い数……数十体はいるだろう。数の差で押され、1人、また1人と倒れていった。

 

 そんな中、エーテリアス擬きのリーダーの様な者がコントローラーに向かって飛び出す。コントローラーを守ろうとするカダーヴァー達を撃ち抜き、切り裂き、薙ぎ払う。逃げようとするコントローラーに追いつき、その身体を叩き潰す。部屋を跳躍し、凄まじい身体能力でコントローラーを優先的に仕留めていくと、カダーヴァー達の動きが鈍り始めた。

 

 リーダーの活躍によって体勢を立て直した別のエーテリアス擬きが、スキフ達と同じ様にモノリスを止める為のレバーを次々下ろしていく。

 

 互いに殺し殺される光景が続き、最後のレバーが下ろされ、モノリスが停止した時、エーテリアス擬きの兵士は2人しか残っていなかった。もう1人と分かれ、リーダーらしきエーテリアス擬きはモノリスを見つめ始めた。

 

 『………生き残ったのは僕と指揮官だけか、彼らの研究があそこまで強力な戦闘兵器を作り上げてしまうとは……まぁ僕も、同じ存在になってしまったが。』

 

 『部屋の奥を確認しました、大佐やここの主任は……他の者と同じく廃人になっていたので排除を。』

 

 『そうか……大佐の事は個人的に好かない人物であったが、そんな死に方をしていい人では無かった……H.D.Dシステムは無事だったかい?』

 

 『ええ、見た所、侵食の影響も無さそうです……正直に言うとあの計画が信用できない、本当に仲間の犠牲に見合う価値があるんですか?』

 

 『それでもやるしか無いんだアレクサンダー。あのモノリスは不完全だ、完成させるには“彼ら”の協力が必要なんだよ。患者達をこの牢獄の様なホロウから解放するには…それしかない。』

 

 『………分かりました。後、ボンプが1体故障した状態で放置されていました。型番からしてX-16のH.D.Dシステムと合わせて製造された戦術ボンプと思われます。』

 

 『その子も連れて行こう、修理すればここで何があったのか分かるかもしれない。』

 

 『了解、“讃頌会”の連中を呼びますか?』

 

 『呼んでくれ、人を狂わせるエネルギー波は消滅した。H.D.Dシステムを運びだすのに人手が必要だ。』

 

 讃頌会?H.D.Dシステムを運ぶ?こいつらは一体──そう思った瞬間、スキフの意識は浮上するかの様に覚醒していった──────

 

 

 

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 スキフが目を覚ますと、心配そうな顔で11号とトリガーがこちらを見下ろしていた。

 

 2人の美人に心配されていると言うのは案外悪い気分では無い────2人共、武器をスキフに向けていなければの話であるが。

 

 「…………よぉ。」

 

 スキフが声を発すると、一瞬武器が構えられそうになるがすぐに下ろされた。恐らくゾンビになるかもしれないと警戒していたのだろう。

 

 「俺が倒れてからどれくらい経った…?」

 

 「20分といった所ね、PSIに耐えられず死んでしまったかと思ったわ。」

 

 「ああクソ……結構寝てたな。」

 

 「スキフさん、本当に大丈夫ですか?何か記憶に障害とかないか教えて下さい。」

 

 スキフが無事で11号は一安心した様だが、トリガーはスキフの身が問題ないか疑っているようだ。僅かな時間でゾンビ化させる強烈なPSI放射の中で、対PSIヘルメットが壊れたトリガーに自らのヘルメットを投げ渡したのだから仕方ないが。

 

 「強いて言えば、まだちょっと頭が痛い……それより、足の骨がヤバいが。」

 

 「貴方に助けられてこんな事を言うのはなんですが……もう少しご自分の身を大切にしたらどうですか?」

 

 「秘蔵のギリギリ耐える策があっただけだ……それに、オボルスに犠牲が出たら面倒くさい事になるとサハロフが言っていた。」

 

 「貴方が研究基地にそこまでの忠誠心を持っているとは思えませんが…」

 

 「俺個人としてもお前達に死んで欲しくなかったしな、コントローラーの幻覚から助けてもらったお返しだ。」

 

 「はぁ…」

 

 トリガーはため息をついていた、どうやらスキフの理由に少々呆れた様だ。だがすぐに笑みをスキフに向けて浮かべ、感謝の言葉を述べた。

 

 「まぁいいでしょう……感謝します、スキフさん。おかげさまでゾンビにならずに済みました。この恩は決して忘れません。」

 

 「私からも改めて礼を言うわペリクル・シリエイト、足を見せて、骨折がどの程度か診るわ。」

 

 「取り敢えず、足を真っ直ぐに戻してくれ。」

 

 11号はカダーヴァーにへし折られたスキフの片足を診る、膝の部分が明らかに曲がってはいけない方向にひん曲がっていた。

 回復キットやアーティファクトの治療効果は筋肉組織なら短時間で治るが、骨となると数日は掛かる。ハート・オブ・チョルノービリの力でもここまでの骨折は1日は安静にしていなければならない。と言う事は、今日はマトモに歩けないと言うことだ。

 

 11号は取り敢えず、先程の戦闘で壊れたガウスガンを添え木代わりに、包帯で足を固定する応急処置を行う。スキフの言う通りに骨を無理やり真っ直ぐに戻したが、凄まじい激痛がスキフを襲い、歯を全力で食いしばった。

 

 「畜生……アーティファクトでも早々に治らないなこれは……2人共、俺をここに置いて先に脱出してくれ、俺は暫くここで泊まり込みだ。」

 

 「何を言ってるの、絶対に貴方を置いて行ったりしないわ。」

 

 「1日待てば普通に動けるまでに回復する筈だ、負傷者を抱えて飛び回ったり出来ないだろう?」

 

 そう言ってスキフは指を指す、その方向にはカダーヴァーとの戦闘中に吹き飛んだ通路があり、それを飛び越えた先に奥に続く道があった。

 正直に言って、足の骨を折った状態でこの道を進む事は出来ない。下に戻る道も同じく吹っ飛んでいる。

 

 「今の状態でミュータントが襲ってきたらどうするんですか。」

 

 「何とかするさ、幸いカダーヴァー共はもう居ないみたいだしな、スノーク程度なら問題ない。」

 

 モノリスを止めてからと言う物、下から這い上がってくるカダーヴァー達の気配が何故か消えた。ガウスガンは今使い物にならないが残っている武器ならスノークが這い上がって来ても何とかなる。

 

 「そう…トリガー、反対側を持って。」

 

 「了解です11号。さぁスキフさん、一緒に脱出しますよ。」

 

 「おい待て、置いていけと言ったろうが。」

 

 「どんな脅威が残っているか分からないのに、負傷した貴方を置いていったりしないわ。」

 

 「同じ任務を共にし、命を救いあった仲間ですしね、引っ張っていきますよ。」

 

 困惑するスキフを無視して、11号とトリガーはスキフの両脇を持つ形で抱え通路の崩落した手前まで連れて行く。

 助けてくれるのは素直に嬉しいがどうやって負傷者を抱えてこの距離を飛び越えるのかスキフには分からなかった。

 

 「なぁ…俺を抱えて飛び越えられるのか?」

 

 「私達に任せて下さい。11号、行きますよ。」

 

 「分かったわ。」

 

 スキフの武器やバックパックを外し、腕と背中を掴んで2人で吊るす様に持つ。この時点でスキフは嫌な予感しかしなかった。

 

 「やっぱりいい、俺はここで回復するのを待つから…」

 

 「大丈夫よ、私達に身を委ねて……」

 

 「Нет(よせ)、俺は何か怒らせるような事したか?」

 

 「そんな事はありません、幻覚に惑わされて私をブサイクとかフレッシュとか言われた事とか全く気にしていませんとも。」

 

 「あ、いや、その、トリガーあの時の事は謝る。すまなかァァァァ────」

 

 言い終わる前に全力で向こう側へとぶん投げられるスキフ。思ってたより2人の力が強く、崩落した通路を飛び越え、床に上手く滑り込む、ぐえっと言う声が出たが無事に渡れた様だ。

 しっかりと受け身はとったものの、足の骨折の痛みはどうしようも無かった。

 ついでにスキフの装備も投げられ、それに続く様に2人も部屋の奥に続く通路に軽々と跳び移る。痛み止めに回復キットを打ちながら、スキフは2人に抗議の意味を込めた疑問を投げつけた。

 

 「У, мать вашу(ンー…マツオバショー)…………本当にこうする必要があったのか?」

 

 「下からスノークらしき声が聞こえていたので、置いていくにしても四方から襲われるあそこにいるよりも、一本道のこっち側の方がミュータントへの対処がしやすい筈です。」

 

 「トリガー、私が彼を支えるから偵察を。」

 

 そう言うと11号はスキフの肩を支える様に持ち、トリガーは通路を進み始めた。

 先程の部屋に張り巡らされた簡易的な通路と違い、別のフロアへ続くしっかりした道を進みながらスキフは先程の“夢”について思考を巡らせていた。

 

 (さっきの夢……あのモノリスが見せた幻覚か?いや、幻覚というより、ここの過去の記憶の様に見えた…あの連中は何者なんだ、讃頌会とやらと関わりがあるみたいだが……)

 

 H.D.Dシステムを手に入れる為に、カダーヴァーやコントローラーと戦ったあのエーテリアスの様なアーマーを身に着けた兵士達。2人しか生き残らなかったみたいだが、一体いつの話なのか、ホロウから解放するとは一体どういう事なのか、讃頌会とは一体何者なのか。

 

 (あの光景をモノリスが見せたと仮定して、あれが“本物”とは限らない。PSIで散々偽物の光景を見せられて来たからな……)

 

 スキフとしてはあの“夢”が幻覚──偽物の光景だと半分疑っている。元居た世界でモノリスや特殊なPSIによって見せた物の中に本物など一つも無かったからだ。

 

 取り敢えず、ここから無事に戻ってから情報の整理をしよう。そう結論づけ、11号の助けを借りながら部屋の奥へと進んでいった。

 

 

 

 

 部屋の奥は司令室の様な部屋へと続いていた。多数のモニターやコンソールが壁に並べられている。奇妙な事に部屋の奥はぽっかりと穴が空いたかのように機材が無かった。恐らく、あそこにH.D.Dシステムがあったのだろうと推察出来る。

 部屋の中央には、死後数年が経ったであろう軍人らしき遺体と白衣を着た遺体が転がっていた。

 

 「……階級章から見て旧防衛軍の大佐と思われます。頭部が無いので個人の特定は難しいですが。」

 

 「恐らく、ここの責任者だった人間よ。」

 

 (“夢”では大佐と主任を排除したって言ってたな……こいつらがそうかもしれない。多分あそこにH.D.Dシステムもあった筈だ、やはり“夢”はかつて起きた出来事なのか?)

 

 11号は近くにあった椅子にスキフを座らせ、トリガーと共に部屋の調査を始める。スキフも近くのコンソールや机から何か見つからないか探し始めた。

 コンソールを弄くっていると、どこかのカメラに記録されたらしき映像が見つかった……日付からして、11年前の旧都陥落から少し経った辺りだと思われた。

 

 「2人共、11年前の記録が見つかったぞ。」

 

 「今再生できますか?」

 

 「ああ、ちょっと待ってろ……」

 

 スキフは映像を再生し、11年前の記録が部屋中に届き始めた。

 

 

 

 ▼  ▼  ▼

 

 『───やはり危険です大佐。最悪の場合、エーテル操作機能が暴走して人体に重度の侵食症状の様な後遺症を引き起こす可能性が……』

 

 『ならこのまま侵食されてエーテリアスになるか!?数カ月は持つ筈の輝磁製のシェルターが全く役に立たないんだぞ!貴様は言ったよな…中継機もX-1の本体と同じ能力を持たせられると!』

 

 『り、理論上と言っただけです……“アレ”の中身を知り尽くしているのは上級主任だけなので……畑違いの私ではどうしても不安が……』

 

 『X-1との通信が途絶して本体とのネットワークが途切れた以上、“アレ”が使えなければカダーヴァーは動かせないしコントローラーの制御も出来ないんだ!

 外のエーテリアス共を駆逐してエーテル活性を下げるにしろ、エーテル操作機能で侵食を抑えるにしろ“アレ”を動かせなければ話にならん!』

 

 『我々の研究は非常に重要な物なのですよ…?待っていれば必ず助けがやって来て……』

 

 『博士、いい加減に現実を見ろ!最後の通信で零号ホロウが暴走してエリー都が吹っ飛んだらしいのは知っているだろ!?ここを助ける余裕のある者は居ない!いたとしてもこのエーテル活性では虚狩りすら近寄れん!自力で何とかするしか無いんだ!』

 

 『わ…分かりました…起動準備します…起動まで5秒…』

 

 『よし……起動と同時にカダーヴァーは全て投入だ。コントローラーは調整が終わってる奴を出せ。このシェルターを攻撃してくるエーテリアス共を皆殺しにしてやる…!この戦術ボンプも出撃させるぞ!』

 

 

 ▲  ▲  ▲

 

 

 最後に大佐と呼ばれた人物が、映像を撮っていたカメラの方向に指を差した所で記録が終わっていた。

 

 「………恐らくこいつらがここのPSI放射を撒き散らした犯人だ、“中継機”とやらを弄くった結果カダーヴァーとコントローラーを解放した状態でゾンビになったのか……」

 

 「そうなると、制圧部隊がここに来た時にPSI放射が止まっていたのはどういう事かしら……」

 

 「そこまでは分からん、誰かが止めたのか…あのエーテリアス擬きの仕業かもな。」

 

 本当かどうかはともかく“夢”の中でモノリスを止めたのは彼らだ。あそこに散らばる死体から見てもエーテリアス擬きの兵士達がやった可能性は高いだろう。

 

 「記録から推測するに、あの機械が停止したことでカダーヴァーも停止したという事でしょうか。制圧部隊はカダーヴァーに出会っていなかった様ですし……」

 

 「良い知らせだな、あいつ等とやり合うのはもう懲り懲りだ。」

 

 「悪い知らせもあるわ、他に道は無し。ここで行き止まりみたいね。」

 

 カダーヴァーの脅威が完全になくなったと思ったら今度は出口が見当たらないという問題に直面する。戻るにしろ退路が吹っ飛んでそう簡単に戻れない状態だ。

 せっかくPSI放射を止めたのにどうやって帰るか3人で唸っていると、トリガーが何かに気付いた様だった。

 

 「……風の流れる音がします、地下とは違う匂いも……もしかしたら外に繋がる場所があるかもしれません。」

 

 「記録ではエーテリアスの襲撃を受けていたみたいだ、その時に空いた穴とかあるのかもしれないな。」

 

 「貴方はここで待ってて、私とトリガーが探すわ。」

 

 再度、出口に繋がるかもしれない所の捜索を始める2人。スキフはさっきの記録から判明したこの世界のモノリスの情報について考える。

 

 (ここのモノリスは“中継機”と呼ばれていた……“本体”と基本的に同じだが、機能が限られているらしいと大佐と科学者は言っていた。

 本体はX-1にあるらしいが、赤い森の先、ZONEの最奥にあると言われるX-ラボの事かもしれない……だけど、それは本当に俺の知っているモノリスと同じ物なのか?今の所、“アレ”の名前も分かって無いのに…)

 

 「スキフさん!外へと続いてそうな亀裂を見つけました!」

 

 トリガーの声によって思考が中断される、取り敢えずここから脱出が出来るかもしれないと希望が出てきた。今のスキフが通れるかどうかは脱出経路を確かめて見てからでも遅くはないだろう。足手まといになりそうならその場で置いていってくれればいいだけだとスキフは考えていた。

 

 亀裂がある場所行ってみると部屋の片隅にあった、何か用具をしまうための小部屋の床に亀裂があり、耳を澄ませると微かに風の音がした。

 11号がナタを振るって亀裂に何度か攻撃を行うとガラガラと音を立てて崩れ、人一人入れそうな通風口が見つかった。

 3人の中で一番小柄な11号が先に入ると、通風口の途中で外に繋がっていそうな、人が入れる裂け目が存在した。恐らくここから風が入り込んでいたのだろう。

 11号、スキフ、トリガーの順番で降りていくと、古い下水道の様な場所に繋がっていた。

 

 「……ここにもゾンビとスノークが居ますね、声が聞こえます。」

 

 「そいつら程度ならピストルで何とかなる、俺も戦えるぞ。」

 

 「無茶はしないで。トリガー、先導をお願い。」

 

 耳が良く、狙撃銃「プレゲトーン」を持っているトリガーが前に進み、スキフを支える11号が後に続く。

 下水道は砂利と瓦礫で埋もれており、通る事はできるが視線が遮られてしまう程には積もっていた。

 

 先行するトリガーが警戒しながら進んで行くと、スノークが2体現れた。それを危うげなく排除し、奥へと進んで行く。

 曲がりくねった道を進むと、また砂利と瓦礫で埋もれた道に当たる、影に潜んでいるスノークを処理しながら進むと、十字路の様になっている場所に辿り着いた。

 トリガーは視線の先にいるゾンビを片付けようと「プレゲトーン」を構えるが、何かが接近してくる足音が聞こえ、引き金を引くのを止める。

 

 「何か近付いて来ます、大きい…いや重い足音が。」

 

 「私も聞こえるわ……ホルン・リラ…?顔色が真っ青よ、体調が悪化したの?」

 

 「待て待て待て、この足音はまさか……」

 

 聞き覚えのある足音に、スキフは血の気が引いていく。この重たい足音、ドタドタと鳴り響く音、極め付きはあの唸り声。

 トリガーはエーテルサイトの向こう側、十字路の奥に何故か積み上げられた木箱の先で何かが接近してきたのが分かった。

 

 「巨大な怪物が来ます!」

 

 「畜生!急いで逃げるぞ!こいつは────」

 

 木箱を派手に吹き飛ばし、ついでに近くにいたゾンビを轢き潰してきた、下水道の奥から走ってきた巨大な肉塊。

 腫瘍だらけの大きな頭に極太の丸太の様な手足がついた様な、軽自動車程のサイズの醜い巨人「シュードジャイアント(偽の巨人)

 狭くはないが広くもないこの下水道ではギリギリの通過できるサイズの、ZONEで尤もタフなミュータントが全速力でこちらに向けて突撃してきたのだ。

 

 トリガーは咄嗟にシュードジャイアントの目に向けて銃撃を加える。ロケットランチャーすら耐えるシュードジャイアントの強固な皮膚だが、流石に目玉は柔らかいのか一撃で片目が潰れて痛みに悶える────だが全く気にしていないかの様にそのままの勢いで突撃し続けた。

 

 「シュードジャイアント!よりにもよってこんな所にいんのかよ!?」

 

 「私が引き付けます!2人は先に行って下さい!」

 

 接近してくるシュードジャイアントに対しトリガーは逆に撃ちながら突貫していくがその途中で十字路の左に曲がる。片目を奪ったトリガーに怒り心頭なのか、シュードジャイアントも後を追いかけて行った。

 スキフと11号はシュードジャイアントが来た道に進む、ここまでの道のりは一本道でしかない為、前に進むしか脱出の道は無い、後退すればいずれ追い詰められる。

 

 「あいつの頑丈さはZONE1だ!トリガーの火力じゃ厳しいぞ!」

 

 「彼女なら大丈夫よ!貴方を安全な場所に置いたら援護に──」

 

 「どうやら道が繋がっていたようですね!11号!一緒にスキフさんを運びますよ!」

 

 シュードジャイアントを引き付けたトリガーだったが、どうやら最終的にスキフと11号が進んでいた道と繋がっていた様だ。

 2人の後ろから走って来たトリガーの更に後ろをシュードジャイアントが壁に激突しながら追いかけてくる。その両眼はトリガーの射撃によって潰れており、嗅覚を頼りに追いかけている状態だろう。2人でスキフの両脇を持ち、出口があると信じて走り続ける。

 

 「目を撃てば流石に体内にまで届くと思ったのですが…!」 

 

 「奴は対戦車ロケット(RPG)でさえ耐える!もっと広い場所じゃ無いと対処は厳しい!」

 

 「鉄筋格子よ!あそこなら奴を撒けるわ!」

 

 3人の進む道の先に穴の空いた鉄筋格子が見えてきた。スキフ達なら楽々通れるが、シュードジャイアントが通るのは無理だろう。

 グロテスクな巨人の吐息がすぐ後ろにまで迫ってくる。人体を簡単に潰す事のできる足音が少しづつ近づいて行く。

 11号とトリガーに両脇を抱えられながら、スキフは早く走ろうと骨折した足の激痛を耐えながら必死に動かす。

 

 「飛び込むわ!」

 

 「スキフさん!手荒ですが耐えて下さい!」

 

 「1回投げられたんだから平気だ!」

 

 11号とトリガーはスキフを抱えて鉄筋格子の隙間にその身を投げる。その直後───ガァァンと言う音が下水道に響いた。3人が後ろを振り向くとシュードジャイアントが激突し、太い鉄筋が思い切りひん曲がっているのが見えて思わず冷や汗をかく。

 

 「間一髪……だったわね。」

 

 「この狭さと負傷者を抱えている状態でこのミュータントとは戦いたく無いですね……何発撃っても効き目が見られませんでした。」

 

 「カダーヴァーは背中撃てば倒せるが……シュードジャイアントは全身装甲車レベルだからな……ライフル弾何百発も撃って漸く死ぬかもしれない程だ。」

 

 ガウスガンですら仕留めるのに数発は必要なこのミュータントはまさしく生きる装甲車だ。装備を消耗し、足が折れて禄に動けない人員を抱えて戦えるミュータントでは無い。

 

 「取り敢えず、先に進みましょう。風と匂いからしてこの先が────」

 

 トリガーの言葉を遮るようにメキリ、という音がした。まるで鉄筋がへし折れて行く様な音だ。

 3人が鉄筋格子に視線をやると、シュードジャイアントがその力の全てを注ぎ込んで格子を押し込み、穴が広がり、鉄筋が曲がっていく光景を目にした。

 

 「撃て…撃ちまくれ!突破されるぞ!11号これを使え!」

 

 スキフとトリガーは格子に何度も突撃し、無理やり突破しようとするシュードジャイアントを撃ち続ける。11号にはサイガD-12(ショットガン)を渡し、射撃に加わるよう促す。

 基本的に銃を使わない11号だが、射撃の訓練はきちんと受けている。サイガD-12を受け取ると、手慣れた様に構えてシュードジャイアントに散弾の雨を降らせた。

 

 プレゲトーン、ASラヴィナ、サイガD-12。それぞれの銃から放たれるありったけの銃弾がシュードジャイアントに突き刺さるが、表皮に刺さるだけで大したダメージは無い。

 3人が何発も撃ち込んでいるのを嘲笑うかの様にシュードジャイアントが鉄筋格子から少しずつ飛び出してくる。遂には3人の弾がほぼ尽きてしまった。PTMピストルの弾はまだ残っているが、目の前の巨人に対しては小石を投げ付けるに等しいだろう。

 

 「記録で存在は知っていましたが…ここまでタフだとは思っても見ませんでしたよ…!」

 

 「弾切れよ、予備の弾倉を!」

 

 「すまん、そいつでカンバンだ!」

 

 「……なら近接戦闘で倒すしかないわ。」

 

 「もっと広い場所ならともかくここじゃ狭すぎる、こいつには接近戦は───」

 

 ナタを構える11号を制しながらスキフが後ろを見ると、一つのドラム缶が目に見えた。如何にも可燃物の様な、赤いペイントのドラム缶。

 スキフはシュードジャイアントへの対抗策としてそれを使う事に決めた。

 

 「11号、あのドラム缶は多分爆発物だ、シュードジャイアントを仕留められるかもしれない。」

 

 「……分かったわ。トリガー、彼を安全圏まで引っ張って行って。」 

 

 ここで仕留めなければ出口を探す間に格子を突破される可能性が高い、未だに何処に出口があるのか分からない以上、足の折れたスキフを抱えて戦う事は難しい。

 スキフの言葉を信じて11号はドラム缶をシュードジャイアントのそばまで転がす。トリガーはスキフを出来るだけ離れた場所まで引っ張っていく。

 

 「11号!トリガー!爆発に備えろ!」

 

 2人が頷くのを確認し、スキフは赤いドラム缶に向かってPTMピストルを発砲。ドラム缶に着弾したと同時に、中に残っていた可燃物が爆発を引き起こし、シュードジャイアントを炎で包みこんだ。

 下水道に響く爆風の衝撃と熱によって叫び声を上げるシュードジャイアントだが、なんとまだ死なない様だ。炎に悶え苦しみながら鉄筋格子を抜け出そうともがき続ける。

 だがそれを黙って見ているスキフとトリガーでは無い、2人は残っている残弾全てを炎に焼かれる巨人に向けて撃ち続け───遂に、シュードジャイアントは動かなくなった。

 

 それを見た3人は安堵のため息をつく。無敵のバリアを持つカダーヴァーとの戦いの後は、禄に銃弾を通さない皮膚をもつシュードジャイアントまで相手取る羽目になるとは思わなかった、だがそれもこれで終わりだ。

 

 「………早くここから出よう、もう疲れた。」

 

 「同感です……恐らく、この先が出口になると思われます。」

 

 「爆発で崩落しなくてよかったわ、さぁ立たせるから手を───なっ!?」

 

 「まだ死んでいないんですか!?」

 

 「だからこいつは嫌いなんだよ!」

 

 ─────グオォォォォ!!!

 

 黒焦げになり、無数の銃創で死亡したと思われたシュードジャイアントが鉄筋格子を破壊しながら最後の力を振り絞るかの様に無理やり突破してくる。

 最悪なのは、鉄筋格子を抜け出した瞬間、爆発によって限界を迎えたのか周囲の下水道が崩落を始めた事だ。コンクリートが崩れ落ち、スキフ達に雨の様に振り注ぐ。あっと言う間にシュードジャイアントは瓦礫に生き埋めになってしまった。

 

 「畜生踏んだり蹴ったりだ!」

 

 「引きずって行くわよ!」

 

 スキフを支えて行くより引きずる方が早いと判断した11号とトリガー。尻が砂利と瓦礫で削られる感覚がするが気にしている余裕は無い。

 先程までいた場所が瓦礫の山で埋もれて行くのを眺めながら、3人はあるかどうかも分からない出口に向けて急ぐ。

 しかし、ここまで来て逃げ道が無いなんて事は無かった。視界の先に上に続く梯子が見える。

 

 「見えました!恐らく出口です!」

 

 「最高だ!どうやら生き埋めにならずに済み────」

 

 「スキフさん!?」「モールド・アイ!?」

 

 2人に引っ張られながら、無事に下水道を抜け出せそうな事を喜ぶスキフの頭に、丁度大きなコンクリートの瓦礫が直撃し、スキフの視界は暗転した。

 

 

 

 







 ◇シュードジャイアント
 ZONEで一番タフで最強格なミュータント、通称グロ肉。非常に体力が多く、アサルトライフルの通常弾では倒すのに数百発は要する節約プレイの敵。S.T.A.L.K.E.R2のメインミッションの一つで強制的に戦わされるが、基本的に周囲に爆発物がある状態で戦う事になるのでそれを利用して戦う様にしよう。

 初代SoCのX-16を命からがら抜けた後の下水道で突っ込んでくる個体はちょっとしたトラウマ。
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