Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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3.ZONEにただいま

 

 

 「ひっ…ひっ…ひいぃぃぃぃ!」

 

 突然飛んできた仲間の頭部に臆病な男は悲鳴を上げる。腰が抜けたのか立つことが出来ずにその場で慌てふためいてる。

 その仲間の頭を放り投げてきた透明なナニカに対し、既にスキフとリーダー格の男は武器を向けていた。一歩遅れる様に慌てて大男も自らのソードオフを二人と同じ方向に向ける。

 

 透明なナニカは頭部を失った見張りの死体を掴み、おそらく跳躍してスキフ達が居る立体式駐車場の上階へと連れ去った。

 

 「き…消えた?ど…何処に隠れてやがる!出てこい!殺してやる!」

 

 大男が威勢を張る様に大声を上げる中、スキフとリーダー格の男は何も言わずに天井に空いた幾つもの穴を警戒しながらゆっくりと前進していく。リーダー格の男はハンドサインで大男にその場で見張れと指示をした。

 スキフ達が居るフロアはそこまで広くは無い、二階に登るスロープはエーテル結晶と車の残骸で埋まっており警戒の必要性は低い。ならあの透明なナニカが現れるなら天井の穴か、この建物の出口からだと自然に予測がつく。

 

 スキフがガウスガンでは無くM10ゴードン(45口径SMG)を構えているのは天井をじっくり警戒するに当たって重量があるコレを構え続けるのは余計な負担が掛かるのと、咄嗟の事で取り回しの良さを優先したからである。他の二人がクロスボウとソードオフショットガンという連射が効かない武器だったのも大きい。

 

 スキフとリーダー格の男はフロア内の互いに離れた場所で何処から来ても挟み撃ちにできる箇所に陣取る。何も作戦を立ててないにも関わらず二人は互いの意図を汲んで互いの武器の射線に入らない位置に待機した。これでフロア入り口と天井の穴の何処から入ってきてもスキフ・リーダー格・大男の三人で囲む事が出来る。臆病な男は未だ腰が抜けて使い物にならなかった。

 

 

 待ち構えてるスキフ達をまるで嘲笑うかのように天井から物音が鳴り響く。コンクリートの地面を削る音、車を爪で引っ掻く音、血肉に何かを突き刺しそれをかき混ぜる音、笑う様な獣の唸り声。

 

 スキフは警戒を緩めず先ほどの透明なナニカの正体について考えを巡らせていた。どうも先ほどから背中に嫌な冷や汗が止まらない、ZONEで生き抜いてきたスキフの本能が全力で警告を発しているからだ。

 

 (ホロウに存在する怪物は全てエーテリアスだと言っていた…だが、あれにはどうにも見覚えがありすぎる(・・・・・・・・・)…!)

 

 

 スキフには透明なナニカの正体について心当たりがあるらしい。だがエーテリアスと言う怪物はそれこそ姿形、能力は千差万別でスキフの予想する正体と偶然同じ能力を持ったとしても可怪しくない。

 どちらにせよ似たような能力を持っているなら…自分の想定も無駄ではないと取り敢えず結論づけ警戒を続ける。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 ──既にどれくらいの時が経ったであろう。

 

 スキフ達が謎の敵に対し警戒を行ってから体感で数時間が経ったと感じる。実際には10分も経っていないのだが、スキフとホロウレイダー達からすれば既に数時間以上こうしている様な錯覚に陥いる。

 

 その間にも天井からの物音が止むことはない。それ以外には大男と臆病な男の息の音しか聞こえない。臆病な男に至っては過呼吸になっているんじゃ無いかと思う程だ。

 

 何時までも続くように感じられた膠着状態は──どちゃり、と肉が落ちる音で破られた。

 突然の落下物にスキフやリーダー格は咄嗟に武器を向ける。大男のすぐ近くに落ちてきたそれをスキフはそれがさっき連れ去られた見張りの死体だと一瞬で判別出来た。

 死体をズタズタに引き裂かれ、臓物がまろび出るそれを透明なナニカは子供が飽きた玩具を放り出すかの様に下のフロアに投げ捨てた。

 

 スキフとリーダー格は再度警戒を始めるが…大男はそうはいかなかった。

 

 「う…うおぉぉぉ!テメェよくも!よくも!よくもこいつをこんなんにしやがったな!?出て来いよ臆病者!ブッ殺してやらぁ!」

 

 「идиот(バカ野郎)!弾を無駄に撃つな!奴の思う壺だぞ!」

 

 「落ち着け!おい、話を聞け!穴に近づくな!聞こえてるのか!早くそいつを止めろ!」

 

 残酷に引き裂かれた仲間の死体を見て怒りが制御出来なくなったのか、大男は死体が落ちてきた天井の穴に向けてソードオフを撃ち続ける。

 スキフとリーダー格は敵を警戒しその場から動かずに大男を制止するが聞く耳を持たない。リーダー格は未だ縮こまってる臆病な男に止めさせる様命令した。

 

 そんなスキフとリーダー格は視界の横で、また何かが落ちるのが見えた。二人は即座に落下物に意識を向ける、今度は車の部品らしき物が落ちてきたのだ。

 

 

 「お…おい!止めろって言われてるだろ!止めろって!」

 

 一方、臆病な男は大男の腰にしがみついて必死に説得していた。大男は叫び過ぎたのか肩で息をし、ソードオフのリロードを行う。

 

 「な?あいつらが横から見張って、俺たちがここからヤツを待ち構えてればいいんだ。だからそばから離れないでくれ…よ…」

 

 臆病な男は自分のそばから誰かが離れるのを避けたくて大男を引き留めようとしている。実際スキフやリーダー格がその様な作戦で行動しているのだから尚更だ。

 

 妙に静かになったなと思い顔を上げると、大男に異常が起きているのを見た。見てしまった。

 

 

 

 大男の背中に、5個の穴が空いていた。

 

 

 

 

 臆病な男の悲鳴に二人は即座にその方向へ振り向く。そこには胸に幾つもの穴を空け、何故か肩と首の付け根辺りから大量に出血している大男が僅かに宙に浮いていた。いや、透明なナニカが大男を突き刺し、持ち上げて、その血を啜っているのだ。臆病な男は恐怖に震え、フロアの隅に隠れてしまった。

 大男を持ち上げているナニカにスキフとリーダー格は誤射を躊躇せずM10ゴードン(45口径SMG)とクロスボウの射撃を放つ。あの傷では大男は助からないと判断したからだ。

 

 射撃を受けた透明なナニカは大男を持ち上げたまま跳躍、そのままスキフとリーダー格の間にある車に着地し、屋根を凹ませる。そして、漸く透明化を解除し、その姿を現した。

 

 

 その姿は人間と同じだった、だが皮膚はまるでミイラの様な色に変色し、体毛が全て抜け落ち、大きく裂けた下顎からは四つに別れた触手が胸まで伸びている。その触手は人間から血を奪う為に存在した。

 

 スキフがよく知る、かつてZONEで何度も出くわして来た吸血鬼(ミュータント)に思わず彼の口から言葉が漏れる。

 

 

 「ブラッド…サッカー……?」

 

 

 だがその吸血鬼は、スキフのよく知る“それ”とは余りに異質な部分が多すぎたのだ。

 

 

 

 

 スキフはZONEで幾度もブラッドサッカーに遭遇し、排除してきた、何ならZONEに来て初めて戦った相手はこいつなのである。時には複数体を同時に相手をし、時にはトレーダーや研究者に素材を売り付けるため一晩かけて死体を解体した事は一度や二度ではない。

 だが目の前の…何故かホロウにいるブラッドサッカーは、スキフがうんざりするほど交戦し、狩ってきたブラッドサッカーよりも重装甲(・・・)としか言えなかった。

 

 まるでフルフェイスヘルメットと軍用ボディアーマーの様にエーテリアスの体躯と同じ様な物質が頭部と胴体を守っている。頭部は顔の大半が結晶に覆われ、唯一露出している下顎からは見慣れた触手が垂れている。獣の様な爪がある筈の手は、エーテル結晶で出来たより鋭い凶悪な手甲鉤に変貌していた。

 スキフは知らないが、まるで侵食症状末期の生物がエーテリアスになる過程の状態に似ていた。だがエーテリアスたる証であるコアは見当たらず、エーテルに侵食されていると言うより身に纏っているという表現が正しい。

 

 仮に称するなら──「アーマード・ブラッドサッカー」と、見たままの名称がスキフの頭に思い浮かぶ。

 

 「来るぞ!」

 

 「ガッ…クソ!」

 

 ブラッドサッカーが動き出し大男をリーダー格に投げつける、避けきれずにリーダー格は大男の死体に押し潰されてしまう。

 大男を投げ飛ばしたその背中にスキフはM10ゴードンの残り僅かな残弾を全て叩き込む。装甲部分には効き目がなさそうだが皮膚が露出している箇所はある程度効いているようだった。

 

 45口径弾の雨をうっとおしく思いながらブラッドサッカーが透明化し、左右へ動きながらスキフの方へと走り出す。

スキフは全ての弾薬を使い果たしたSMGを放棄し、咄嗟にサイガD−12(セミオートショットガン)に持ち替え、微妙に空間が歪んでいる箇所に的確に散弾を食らわしていく。

 

 ZONEで幾度も戦った事のある相手の為、ブラッドサッカーが何の能力で何をして来るかはスキフにはお見通しであった。だが、スキフの予想を超えたスピードと防御力で散弾を潜り抜けたブラッドサッカーは接近し、獲物へ長く鋭い鉤爪を食らわそうと姿を現す。

 

 事前に予測していた為、身を屈めながらそれを回避。横をすり抜け際に脇腹に散弾をお見舞いするが大して効いた様子はない。

 ブラッドサッカーの鉤爪は獲物ではなくその後ろのコンクリート柱を中の鉄筋ごと切断し、その威力にスキフは思わず目を丸くした。──明らかに彼の知るブラッドサッカーより遥かに強力な個体だ。あの爪にまともに切り裂かれたらアーマーが使い物にならない今、アーティファクトの防護効果を容易に貫通するであろう。

 

 「爆発に気をつけろぉ!」

 

 その言葉にスキフは前を向く。大男の死体を退かし体勢を立て直したリーダー格がクロスボウを構えていた。

 リーダー格が放ったクロスボウの矢は、スキフの背に飛びかかろうとしたブラッドサッカーのちょうど足元に着弾し、爆発。怯んだブラッドサッカーは透明化し、その場を離れた。

 その隙を突きスキフはリーダー格の元へ全力疾走する。その間にサイガD−12(ショットガン)からガウスガンに持ち替えた。

 

 「он выжил(助かった)!柱や壁を背にしろ!奴は隙を見せたら背後を取ってくる!」

 

 「ああわかった…!だが奴は一体何なんだ!?エーテリアスには見えないぞ!あんだけ侵食を受けてるのになんで動けるんだ!?」

 

 「それは後にしろ!奴の気配か足音を感じたら弾をぶち込め!」

 

 スキフがそう警告した瞬間──フロアに放置してある車のドアが突然引きちぎられ、二人に向かって高速で飛んでいく。スキフとリーダー格は咄嗟に身を翻して回避し、リーダー格はその車に向かってクロスボウのエーテル炸裂矢を放つ。

 炸裂矢は車のタンクに命中したのか誘爆が起きる、そこまで広くは無いフロアに衝撃と爆炎が広がっていく。

 

 スキフは目を凝らし、僅かな爆炎の中に、不自然に煙が避ける空間を探し出し───居た。

 ブラッドサッカーの頭部を狙い定めたガウスガンの引き金が引かれ、強力な.308 W弾の威力を大きく上回る弾頭が火薬式弾薬よりも疾くターゲットに向かう。

 

 が、僅かに逸れ、頭を掠めた弾頭はブラッドサッカーの頭部を覆うエーテル結晶を吹き飛ばす。

 並みの生物なら確実に首の骨が折れる衝撃でも並みの生物ではない存在(ZONEのミュータント)には耐え抜く事が出来る。ヘルメットの様に覆っていた結晶が破壊され零れ落ち、今まで隠されてた眼をスキフに覗かせた。

 

 憤怒───それが初めて見せた、このブラッドサッカーの表情であった。

 

 咆哮を上げながら透明化し、先程よりも激しく動き回りながら二人に突撃していく。余りにも不規則に動く為狙いをつけるにも一苦労だ。

 

 「クソっ!炸裂矢はもう無いのか!?」

 

 「実はさっきのでカンバンだ!ここに来るまでもっと節約しとくんだった畜生!」

 

 リーダー格の男がクロスボウに通常矢を装填しながら後悔を口にする。スキフは一瞬サイガD−12(ショットガン)に持ち替えるか悩む、連射が効かないガウスガンでは一発外したらこの状況では致命的と成りうる。だがショットガンではこの特殊なブラッドサッカーを仕留めきれない可能性が高い。リーダー格の持つクロスボウの通常矢では奴相手じゃ大したダメージにすらならないだろう。

 

 一瞬悩んだ末、スキフは一つの作戦を思いつく。

 

 「なんとかして奴を引きつける!」

 

 「は?え?おまっ、何を!?」

 

 「それであいつを狙い撃て!引き金を引けばいい!」

 

 スキフは自身の切り札──ガウスガンをリーダー格に押し付け自身はブラッドサッカーに向けて突貫する。

 先程覗かせたコイツ(ブラッドサッカー)の憤怒の眼。それは明らかにスキフに向けていた物だった。

 

 間違いなく自分を執拗に狙ってくる──その可能性に一縷の望みを賭けサイガD−12(ショットガン)を構えてブラッドサッカーに突っ込んでいく。

 突然の大役に困惑するリーダー格を置き去りにし、こちらへ向かって走り出して来たスキフにブラッドサッカーはほんの一瞬狼狽するが、直ぐに嗜虐的な笑みを浮かべる。

 

 ─獲物がわざわざ自ら向かってきたのだ、これを喜ばない捕食者はいない─

 

 

 

 ブラッドサッカーに突撃したスキフをコンクリートや金属を容易に切断する爪が出迎える。何とも温かい歓迎だがこんな物受けてはスキフの身が持たない。

 左爪からの一撃をスキフはギリギリで躱し、右爪の攻撃を左回転で受け流す。

 受け流す、と言ってもアメリカンコミックや日本のマンガの様に無傷で華麗にという訳にはいかない。スキフのそれはできる限り攻撃の威力を低く抑える為の無様な一回転だ。

 

 その結果スキフの背中はアーマーごとバックリ切り裂かれ──バックパックはキャンプに置いてきた──鮮血が滴り落ちる。アーティファクトが無かったら針を縫う必要があるだろうが、直撃したらこれでは済まないので上手くいった。

 

 痛みを堪えながらブラッドサッカーの顔面目掛けて散弾を放つ。これが普通のブラッドサッカーなら後二,三発撃ち込んでゲームセットなのだが生憎目の前の個体は一発食らったら即座に顔面を爪で庇いながら透明化で視界から外れようとする。

 何とも小賢しい──そう考えながらスキフはブラッドサッカーのいる地点に向かって的確に散弾を放ち続ける。透明化していてもよく目を凝らせばそこに何かがいるのは分かるのだ。

 ブラッドサッカーは透明化が意味を為さない事に気付いた為、姿を現しスキフと戦う事を選んだ。

 

 直後、カチンとスキフのサイガD−12(ショットガン)が散弾を吐き出さなくなる。ドラムマガジンの弾が全て無くなったのだ、スキフの持つ武器はブラッドサッカー相手には力不足すぎるピストルとナイフしか残されてない。

 ブラッドサッカーは笑みを浮かべた。目の前の獲物を漸く八つ裂きに出来るのだ、そう思いながら爪をスキフに突き立て───ようとして後ろに飛び退く。

 

 

 その目の前をガウスガンの弾頭を通り過ぎた。

 

 

 嘲笑うかのような表情を浮かべるブラッドサッカーがガウスガンを撃ったリーダー格の男に顔を向ける。

 肝心な所で外してしまったリーダー格の男の顔は窺い知れない。ガウスガンはまだチャージの途中だ。

 

 また弾頭が飛んでくる迄の僅かな時間があれば目の前のスキフを切り裂く事など造作も無い。

 ブラッドサッカーは目の前の獲物(スキフ)に止めを刺そうとし。

 

 「こ…こっちだ!クソ野郎!」

 

 直後、ブラッドサッカーの背中にソードオフの散弾と投げつけられた高電圧に改造されたスタンバトンの電撃が襲いかかった。

 予期せぬ方向からの攻撃に思わずブラッドサッカーは振り向こうとし──スキフからPTMピストルの射撃を眼球付近に受け、思わず怯んでしまう。

 

 捕食者(ブラッドサッカー)が取るに足らないと今まで放っておいた存在に攻撃を受け、一瞬混乱してしまった代償は、ガウスガンのチャージの完了だった。

 

 「ホロウレイダーをなめるな、バケモノが!」

 

 リーダー格の男が放ったガウスガンの第二射はブラッドサッカーの胸部の結晶を砕き、吹き飛ばされた先の車に衝突した。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 「Молодець(やったな)!お前が居なきゃ危なかったよ。お前が武器を持って準備しているのを見て、信じて飛び出して正解だった。」

 

 「お…俺は二人が戦ってるのに隠れてるだけで…」

 

 「それでも武器を手放さず、最高のタイミングで奴にかましてやったじゃないか。お前はヒーローだ、誇って良い。」

 

 スキフの考えた即席かつ無謀な作戦の功労者に二人は惜しみない称賛を送っていた。

 スキフとリーダー格が今まで戦ってた時に隠れていた臆病な男…彼が隠れ続けていたのは何も恐怖だけが理由ではない。

 彼は自分が割り込んでもスキフとリーダー格の邪魔になると考え、大男の落としたソードオフと自らの武器を手に取り、奇襲のタイミングを窺っていた。

 そして、見事に最高のタイミングでブラッドサッカーに致命的な隙を作ることに成功したのだ。

 

 「ヒーローと言えばお前もだな。お前が居なきゃあのバケモノはきっと殺せなかった、本当にありがとう。怪我は平気なのか?」

 

 「怪我は放っておけば後で治る、それよりさっさとここから離れたほうが良いだろう。ZONEへのガイドはまだ来ないのか?」

 

 「ああ、予定の時間より少しばかり遅れてるが…」

 

 リーダー格がキャンプの跡地でバックパックを背負い直したスキフに礼と心配の言葉をかける。

 スキフはそれを適当にあしらい、早くこの建物から出る事を推奨する。早くこのホロウから出て、武器やアーマーの修理か補給をしたいという思いからだった。アーティファクトのお陰で怪我は治るがこんなギリギリの戦闘を続けていては幾らなんでも身体が保たない。

 

 フロアの出口付近にいる二人に合流する途中、スキフが何気なく撃破したブラッドサッカーに目をやる。ピクリとも動かないその身体は車の車体を大きく凹ませ、胸のエーテル結晶は凄まじい程ひび割れ、血が滲み出していた。その中央にはガウスガンの弾頭が深々と刺さっている(・・・・・・・・・)

 

 それを見たスキフは徐にガウスガンを向けようとする。そして、頭に向けて引き金を引こうとした矢先────死んでいなかったブラッドサッカーの咆哮が建物全体を揺らした。

 

 

 突然の事にリーダー格の男と臆病な男は突如、全身が硬直する感覚に襲われる。そしてスキフは必死にガウスガンでブラッドサッカーに止めを刺そうと照準器を向けるが咆哮による硬直化で狙いが定まらない。

 ブラッドサッカーがこちらに向かって駆け出してくる。スキフは一か八かガウスガンを発射するが上手く照準が出来なかった結果、横を掠めるだけで終わってしまう。

 ブラッドサッカーはスキフではなく、出口付近のリーダー格と臆病な男に襲いかかる。リーダー格も臆病な男も咆哮の影響を受けており、その攻撃を避けられそうに無かった。

 

 ブラッドサッカーの爪が二人を引き裂く瞬間、リーダー格の男はギリギリの所で臆病な男を突き飛ばす。そして吸血鬼の爪は、リーダー格の男を一瞬でバラバラの肉塊に変えてしまった。

 

 「う…うあぁぁぁぁ!」

 

 「走れ!援護する!」

 

 臆病な男が出口に向かって走り出す、それを防ごうとするブラッドサッカーの背中にガウスガンに狙いをつけ────視界が赤で染まった。

 

 ブラッドサッカーが肉塊にしたリーダー格をスキフの方に全力で投げつけたのだ。視界が血と臓物とバラバラになった身体で埋まり、スキフに降り掛かる。その中の頭部がガウスガンに当たり、弾頭があらぬ方向へ発射された。

 

 スキフが臓物を振り払うと──出口で断末魔が鳴り響いた。

 

 

 

 

 畜生、とスキフは呟く。出口の少し手前で臆病な男は爪によって引き裂かれていた。最後の獲物を仕留めようとブラッドサッカーがこちらに向かって迫って来る。スキフは後退り、ガウスガンを発射する準備を整える。

 

 スキフが引き金を、ブラッドサッカーが爪を突き刺そうとした瞬間───「閃光手榴弾(フラッシュバン)!」という声と共に幾つもの閃光手榴弾がフロアに投げつけられた。

 

 スキフは咄嗟に目を塞ぐがブラッドサッカーはそれを爆発物だと思い込み飛び退こうとする。

 その瞬間、フロア全体が凄まじい光と音で包まれる。目が潰れるのを防いだスキフが出口に目をやると一人の男が手を振りながら何か叫んでいた。

 

 「………!……………………!」

 

 閃光手榴弾の影響で耳は潰れてる。だがその男がこちらに来いと言ってるのは何となく理解出来た。ブラッドサッカーは目と耳を潰され混乱し、手当たり次第に爪を振り回している。

 チャンスだ───スキフは男の下に走り出した。近くまで行くと耳が治り男の声が聞こえ始めた。

 

 「遅れてすまない!エーテリアスの群れを回避してたら、まさかアンタ等(依頼人)外来種(ブラッドサッカー)に襲われてるなんて!」

 

 「Давай (行け)давай (行け)давай(行け)!奴は直ぐに追ってくるぞ!」

 

 「ああ!ZONEへの出口まで走るぞ!付いて来い!」

 

 スキフと謎の男──おそらくZONEへの案内人(ガイド)は全力で先程まで死闘を繰り広げていた建物を脱出し、ZONEへの出口に向かって走りだした。

 少し遅れて凄まじい咆哮と共にブラッドサッカーが飛び出し、鬼の様な形相でスキフとガイドを追いかけ始める。

 

 「クソっもう起きて来やがった!さっきの閃光手榴弾(フラッシュバン)を使え!」

 

 「動き回ってちゃ大して効果は無い!このままじゃZONEまでついてくる……こっちだ!」

 

 ホロウ内の都市を疾走中、突然ガイドは横道に入りスキフも慌てて付いていく。ブラッドサッカーも周囲の外壁を切り裂きながら横道に突っ込んで行く、二人とブラッドサッカーの距離はどんどん縮んでいる様だった。

 

 「おいガイドォ!このままじゃ追いつかれるぞ!どうするんだよ!」

 

 「もう少しだ!この先に崩落した橋がある!全力で飛び越えろ!」

 

 そうガイドが言うと、確かに崩落した橋が眼に映る。あそこを飛び越えると言っているが今のスキフのスタミナでは少し厳しいかも知れない。

 ガイドがジャンプし、上手く反対側に着地する。スキフも続いてジャンプするが、装備の重さや限界近いスタミナのせいで僅かに飛距離が足りなかった。

 

 落ちる───スキフの手が反対側へとたどり着くこと無く落ちて行くと思われた時、その手をガイドがギリギリで掴み取った。

 衝撃で互いの腕が軋みガイドは痛みに呻く。だがその手はしっかりスキフを持ち上げていた。

 

 「ヤバい、奴が来る!」

 

 ガイドが絶望に満ちた表情で橋の向こう側を見る。ブラッドサッカーが橋を飛び越え、スキフとガイドを引き裂こうと迫り──

 

 

 

 

 飛んできたブラッドサッカーに向けて、スキフが片手でガウスガンを構えていた。

 

 「お前は!お呼びじゃ!ねぇよ!」

 

 重量7kgにのぼるガウスガンを片手で器用に保持しながら発砲された弾頭はブラッドサッカーの左手を肩から引き千切り、その衝撃で橋の下に叩き落として行く。

 

 6メートル程の高さを落ちて地面に叩きつけられるが、それでもまだブラッドサッカーは生きていた。

 肩ごと腕を奪われた痛みが怒りを引き起こす、あの人間を必ず殺さなくては。この程度の高さなら直ぐに追いつく──上に登ろうとすると、突然ブラッドサッカーを何者かが襲った。

 

 いつの間にか、ブラッドサッカーをエーテリアスの群れが取り囲んでいた。まるで体内に入り込んだ病原体を排除せんとする白血球の様にエーテリアス達は片腕を失ったブラッドサッカーに襲い掛かる。

 残された片腕を必死に振るいながら、自身の鎧を破壊し、己の腕を奪った人間を探し出そうと橋を見上げるが既にスキフとガイドは何処かへ消えていた。

 

 ブラッドサッカーは怒りの咆哮を上げるが、そんな物はスキフ達の耳に届くはずも無く、エーテリアスの群れの中に消えていった。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 「あそこはエーテリアスの群れを撒く時に利用した場所だったんだ。まぁ外来種にはお似合いの場所だろ。さっ早く入らないと亀裂が閉じちまうよ。」

 

 そう言ってガイドはホロウの出口、そしてZONEへの入り口である空間の亀裂へと入って言った。

 

 やっとこの異空間(ホロウ)から出られる───スキフはさっさと出口に入ろうとするが…立ち止まり、ホロウへと振り返った。

 スキフが思うのは、このホロウで目覚めてから初めて出会ったホロウレイダー達。僅かな時間しか関わらなかったが共に共闘し、そして目の前で死んでいった人間達。

 

 ある意味ZONE以上に歪んだこの世界(ホロウ)で死んだ人間の魂は何処へ行くのだろうか。そんな事を思いながら、軽く彼らに十字を切り、ホロウの出口に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 ホロウから出たスキフは慣れ親しんだ景色に圧倒された。

 曇った空、廃墟と化した古い時代の建物、遥か遠くに見える冷却塔。どれもスキフがよく知るZONEの景色だった。

 まるでさっきまでいたホロウでの出来事は夢で、異世界なんてなかったんじゃないのかと思う程である。

 

 目の前のガイドはZONEを眺めるスキフに語りかける。先程の逃走劇ではしっかりと顔を見ることはなかった。

 ガイドの顔を見たスキフはこのガイドに何処か知り合いに似ている雰囲気を感じた。

 ガイドはお構い無しにスキフに語りかけてくる。

 

 「凄いだろ!ホロウを打ち消して出現した奇跡のZONE!ここじゃ新エリー都の常識どころかホロウの常識すら通用しない!折角だからZONEに連れて来た皆に聞いてるんだ。教えてくれ、ZONEを見てどう思う?」

 

 「ん…ああ…ZONEは人の…いやまだよくわからないな」

 

 「そうか…まぁ慌てなくて良いさ。とにかくここでは目と耳を研ぎ澄ませろ!きっとZONEは応えてくれる!」

 

 何処かで同じ様な問答をした覚えがある。そう、確かゴミ山(ガーベジ)の天辺で…

 

 「なぁガイドさん、ここで会ったのもなんかの縁だ。あんたの名前を教えてくれ。」

 

 思わずスキフは名前を聞いた。

 

 「俺か?良いぞ、俺はリヒター。ZONEで主に案内人(ガイド)をしてるんだ。」

 

 その名前は、スキフが知るZONEで出会った、守護天使と同じ名前だった。

 






 次こそ…次こそ多分ゼンゼロキャラが登場しますから…

 ◇ブラッドサッカー
 S.T.A.L.K.E.Rシリーズのアイドル。通称「さっちゃん」過去作ではゲームに慣れ始めた辺りから登場し始めるミュータントなのだが、S.T.A.L.K.E.R2ではなんとチュートリアルから登場し、多くの新米ストーカーと帰還したベテランストーカーにZONEの洗礼を浴びせてきた。
 2本編では透明化からの強力な引っ掻き攻撃の他、スキフ君を押し倒したり、雄叫びで硬直状態にしてきたり地味に嫌な攻撃をして来るニクい奴。但し良いアーマーを身に着け、セミオートショットガンが手に入り始めると途端に狩られる物になる。
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