Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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Swamp War
30.沼地の讃頌会


 

 

 

 「はっ…はっ…はっ…」

 

 ZONEの南東。濃霧に包まれた湿地帯、ぬかるんだ地面に足を取られながら、1人のホロウレイダーが必死に走っていた。

 

 ZONEで活動する人間の基準で見ても、ホロウレイダーはかなりの重装備であり、最上位のアーマーであるエクソスケルトン(強化外骨格)を身に着けている。

 通常、防御力と引き換えにその重量から走る事が不可能なエクソスケルトンだが、このホロウレイダーは走れる様に改造を施していた。

 

 ホロウレイダーが貴重なエクソスケルトンを身に着け、更に改造を施せると言うことは、それ程稼げる実力がある証であった。

 実際、彼は仲間達と共にそれなりにZONEで名前が知られる様になったZONEのホロウレイダーで、最近ベテランの(ランク)に達した者だった。

 

 仲間と一緒ならキメラ2、3体の群れでも苦も無く狩れる実力があったこのホロウレイダーは、とある依頼を受けて今この場所にやって来たのだった。

 

 ロストクで仲間と飲んでいた時に現れた依頼人、指定した地点に自分を連れて行ってほしいとの依頼に、前金の段階で報酬が非常に高かった事もあって彼と仲間達は快く承諾した。すぐさま準備を整え、完全武装で目的の場所へと向かった。

 自分や仲間の装備は非常に上等、万が一に備えた医療道具やアーティファクトも完備。依頼人自身も高い実力があり、大抵のミュータントやバンディット、反乱軍程度なら容易く排除できると確信していた。

 

 

 

 結果は大失敗────仲間達も依頼人も無残に“アレ等”に殺され、今や自分は這々の体で逃げ延びようとしている。

 自慢のアサルトライフルの弾は尽きかけ、ZONE最強の防御力を誇るエクソスケルトンは、アーマー部分がズタボロに引き裂かれていた。

 

 彼は全力でここから脱出しようとしていた、“アレ等”は無理だ、勝てやしない、逃げるんだ。

 

 

 ピッピッピピピィ──────!

 

 

 アノマリー探知機から警報が鳴り響く、突然目の前に、さっきまで無かった筈のアノマリー「Electro(エレクトロ)」が出現する。

 かなりの経験を積んでいたホロウレイダーは瞬時に方向転換して「Electro(エレクトロ)」を回避した。経験の浅いルーキー等には出来ない芸当だろう。

 

 だが、その回避した先に「Fireball(火の玉)」と呼ばれるアノマリーが出現し、突き刺さる様にホロウレイダーに襲い掛かって全身が火に包まれた。

 

 「ああああっ!」

 

 身体が、壊れかけのアーマーが凄まじい高熱に焼かれ、ホロウレイダーは叫び声を上げる。耐熱性アーティファクトを装備していた為に、なんとか即死はしないが、身体を燃やす炎が酸素を奪い、熱が肺を焼き尽くす激痛が襲う。

 幸いな事にここは湿地帯、痛みを堪えて近くの水源にその身を投げる。淀んだ泥水と湿気た草木は身体を包む炎を限界ギリギリの所で消火してくれた。

 

 「畜生ぉ…!どうしてここから(・・・・)出られないんだ…!」

 

 最後の回避キットを使いながら、ホロウレイダーは未だにこの湿地帯から抜け出せない事を嘆く。仲間が死んで逃走を図ってから、かなりの時間を湿地帯を抜ける為に走ったが、地図の通りに移動しているにも関わらず、まるで道が変化しているかのように迷い、全く違う場所に辿り着いていた。

 

 彼はホロウレイダーだ、この現象は、ZONEに来る前に活動していた領域とそっくりな事に気付いていた。少なくとも彼が知る道を迷わせるアノマリーとは違う。

 

 

 「これじゃあホロウ(・・・)と同じ───」

 

 

 ───ガサッ

 

 

 視界を埋め尽くす草木から何かが動く音がし、咄嗟にアサルトライフルを向ける。恐怖から残弾を全て撃ち込みたいが、そうするともはや抵抗の手段を無くしてしまう為理性で抑える。

 

 

 ────グルルルッ

 

 

 獣の唸り声の様な物が聞こえる、一方向からでは無い、四方からだ────囲まれた。

 

 黒い影が目の前を横切る、手が震えてきた、本能が、経験が、お前はもう終わりだと告げている。

 

 せめて一矢報いてやろうと、自らを喰らわんと獣が獰猛な口を開けて襲い掛かるのを待つが、それは無駄に終わった。

 

 「あ───ぎゃあああ!!」

 

 突如ホロウレイダーの身に強酸──「Fruit Punch(フルーツパンチ)」のアノマリーが振りかかり、手に持つアサルトライフルと壊れたエクソスケルトンが瞬時に融解していく。

 必死にもがくが、炎と違って泥水に浸けてどうにかなるものでは無い、アーマーの下にある自分の肉体にまで酸が侵食し、先程とは比べ物にならない激痛がホロウレイダーを襲う。

 

 皮膚が、筋肉が、内臓が、骨が、あっと言う間に溶けていく。耐酸性アーティファクトは持っていなかった、仲間が持っていたけど、「Vortex()」に仲間ごと圧縮された。

 

 四方から黒い影が近付いて来た、その内の一匹が自分が仕留めたぞと言わんばかりに吠える。まるで嘲笑うかの様に、死にゆく人間を面白おかしく見物するかの様に、シュウシュウと、泥水に混ざりながら溶けていく人間の周りを、4匹の巨大な獣がくるくると踊っていた。

 

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 ────新エリー都 六分街 ビデオ屋「Random Play」

 

 

 『NAR社の新プロジェクトが今朝発表─────』

 『ホロウ内の侵食に注意!侵食によって記憶障害の被害が急増────』

 『新たな戦い……未来を左右する生存競争!「エーテリアス・マンVSキング・ZONE・ミュータント」近日公開────』

 『次回の新エリー都ラーメン放浪記は、とある場所でしか食べられないと言う伝説のアーティファクトラーメンを求め、取材班は─────』

 

 ソファにもたれ掛かりながら、リンはTVのチャンネルを次々に変える。何か面白い番組はないかと探しているが、今の気分に合う物はなかった。

 その後ろ、個人用のパソコンが置いてあるデスクでアキラは何かの情報とにらめっこしている。

 

 今の時間、ビデオ屋の営業は「トワ(18号)」が行っており、2人は思い思いの時間を過ごしていた。丁度プロキシとしての仕事も無いから暇だ。

 リンはTVを消して、パエトーンが雇っている“エージェント”から先日送られてきたデータを見ているアキラに絡みに向かう。

 

 「おにぃちゃーん、何か分かったことある〜?」

 

 後ろから抱きつく様に兄の肩を掴むリン、アキラは妹にも画面が見えるように体を動かして返事をする。

 

 「ぼちぼちって所さ……スキフさんから送られてきたX-ラボの情報には驚かされてばかりだよ。」

 

 ZONEの秘密研究所X-ラボ、そこで2人の恩師たるカローレ・アルナに繋がる物がないか、調査をスキフに依頼したのだ。

 そして先日、遂にヘーリオスやH.D.Dシステムについての記録が見つかったとスキフから送られてきた情報、その内容はアキラとリンにとっては驚きを隠せない物であった。

 

 「恐らく、カローレ先生とX-ラボの上級主任は親しい関係にあった…でなければH.D.Dシステムの設計図を渡すなんて事しない筈だ。君も情報に目を通しただろう?」

 

 「うん、もう一つH.D.Dシステムがあったなんて私もびっくりしたよ……この世に存在するのはこの1つだけだと思ってたし。」

 

 ヘーリオス研究所の技術の結晶たる「H.D.Dシステム」、旧都陥落の際、死に物狂いで2人が持ち出したこの演算装置、てっきり自分達が回収したこれ以外は存在しないか、あったとしても零号ホロウの奥底に沈んだヘーリオスに残されていると考えていた。

 

 だが、ZONEの何処かにH.D.Dシステムがある。自分達のと違う、X-ラボで作られた物。恐らく「STALKERプログラム」という軍事計画に使われたカローレの技術。

 

 「だけど、スキフさんが調査したところによると、それらしき機器は持ち去られていたらしい……と言うことは誰かが、X-ラボのH.D.Dシステムを持っていると言う事だ。一体何処に……」

 

 「でもさぁお兄ちゃん、ぶっちゃけていい?」

 

 考え込むアキラにリンが率直な疑問を投げかける。

 

 「あの時ヘーリオスを襲った連中と……X-ラボってあんまし関係無さそうだよね?」

 

 「……ああ、僕もそう思った。あくまで、今手元にある情報から判断したに過ぎないけどね。」

 

 そう、スキフに調査を依頼した最大の理由が、旧都陥落の時にヘーリオスを襲った犯人、そして白い腕に連れ去られたカローレに繋がる物が無いかと探すのが目的だった。

 

 だが今の所、スキフがもたらした情報からはX-ラボの職員達が旧都陥落を聞いて驚愕する様子、そしてその直後にホロウに飲み込まれてパニックになっていた事が判明した。

 

 どう見ても──X-ラボがヘーリオスの襲撃に関与したとは思えない。

 

 「スキフさんが言うには、今まで入れなかったヤンターの施設から見つかった情報だ、ZONEにはX-ラボが複数ある……他の施設なら何か分かるかもしれないけど…」

 

 「確か他のX-ラボからは目ぼしい情報が見つかってないんだよね?」

 

 「ああ、ZONE中を探し回ってX-ラボを見つけたのに、その殆どの成果が無いってスキフさんは謝っていたよ。別に気にしなくてもいいのに……」

 

 「……ZONEって割と広いよね?お兄ちゃんと最後に別れてから2週間も経ってないのに早くない?」

 

 「僕も何ヶ月も掛かる事を予想していたんだけど……思ってた以上にスキフさんは優秀だったと言う事だ。」

 

 自身がZONEを歩いた経験から、ZONE中を調査するのにかなり時間が掛かる事を予想していたアキラ。そもそもX-ラボの場所はトレーダーのバーキープですら殆ど分かっていなかったのに、スキフはそれらを容易く見つけ出して見せたのだ。

 

 まさかスキフが元居た世界のZONEと殆ど同じ場所にX-ラボがあり、だからこそ短期間で見つけだせた事を知らないアキラは、彼の調査能力を非常に高い物だと評価していた。

 それはそれとして何も見つからないという彼の謝罪をアキラは定期的に受けており、逆に申し訳ない気持ちになってしまった程だ。

 

 「それにしても、ZONEに行ったトリガーと11号にスキフさんが出会ったなんて驚いたよ。ああ見えて、ZONEは意外と狭いのかもしれないな。」

 

 「そうそう!2人が無事に帰ってきてくれてホッとしたよ〜!前は猫又の事もあったしさぁ。」

 

 『マスター、助手二号。来客を検知しました、ヴィクトリア家政のライカン。現在、店内にて待機しています。推測──マスターへの面会。』

 

 「ライカンさん?」

 

 「何だろう、行ってみようか。」

 

 2人はビデオ屋に入って来たライカンに会いに、部屋を出ていった。

 

 

 

 店内には長身の白いオオカミのシリオンが兄妹を待っていた。片目を隠す眼帯や足の義足は一見物々しい雰囲気を醸し出すが、ぴっちりとシワ1つ無い、整えられた執事の服装と本人の上品な気質がそれを上回っている。

 

 ヴィクトリア家政の筆頭社員及び、現場の執行責任者「フォン・ライカン」である。取り敢えず兄妹はライカンをH.D.Dシステムのある部屋に案内した。

 

 「アキラ様、リン様。急な訪問に対応して頂きありがたく存じあげます。」

 

 「この間ぶりだねライカンさん。」

 

 この間───ヒューゴやビビアンと出会い、サクリファイス化の薬を巡って、レイブンロック家や讃頌会の幹部ランドンの娘ディナと争った時だ。

 

 「実は今回、市長閣下からお二方にご依頼したい事がございまして…」

 

 「メイフラワー市長から?」

 

 「まずは、閣下からお話を聞いて頂きたく。」

 

 すると、ライカンは新エリー都の市政を司る、メイフラワー市長との回線を繋げる。兄妹の耳に温和な男性の声が聞こえて来た。

 

 『やぁ子供達よ、“目”の調子は大丈夫かな?』

 

 「はい市長、おかげさまで問題ありません。」

 

 「私も、もう体に馴染みました!」

 

 『それは良かった……本題に入る前に、君達がZONEに行ったと耳に挟んだのだが…』

 

 「う……それは…」

 

 ギクリと、僅かにアキラが動揺する。別に隠している訳では無いし、そもそも兄妹が公的には違法であるプロキシである事は市長もよく知っている。

 それでも何かマズイ事をしてしまったのでは無いかと、市長の言葉に勘ぐってしまった。

 

 「そうなんです市長!お兄ちゃん、危ないって言ったのにZONEに行っちゃって!」

 

 「そう言う君だって了承してくれたじゃないか……すみません市長、何か問題があったんでしょうか。」

 

 『ああいや、ZONEに行った事を咎めている訳ではないんだ。ただ、ホロウ以上に未知が多いZONEに行って、無事に戻って来た事を喜びたくてね……よく帰って来てくれた、怪我は無かったかい?』

 

 リンの告げ口のような行為に抗議しつつ、アキラは市長に謝罪する。だが市長はZONEに行った事を問題視していなかった様だ。

 

 「はい、幸いな事に僕自身に怪我はありませんでした。とある人が守ってくれたので。」

 

 アキラの脳裏に蘇るのは、ZONEに来て最大の危機であった外来種のミュータントとの戦闘、そしてその後に遭遇したエミッション(光熱放射)

 どちらもスキフが文字通り身を挺してアキラを守り抜いてくれた事はよく覚えている。あの行為によってアキラはスキフの事を信頼に値する、頼れる者であると確信していた。

 

 『そうか…その人物に感謝しなくては。所で、何故君はZONEに足を踏み入れた?その理由が知りたいんだ。』

 

 「それは……」

 

 アキラとリンは互いに目を合わせる、市長は兄妹と共にカローレの無実を探し求めている言わば同志だ。ならば何故ZONEに行ったのか、そこで何を得たのかを共有する必要があるだろう。

 アキラはZONEに向かった理由と、スキフが得た情報を全てメイフラワー市長に伝えた。

 

 

 

 『………まさか、H.D.DシステムがZONEにも存在するとは思わなかった。この情報は全て、X-ラボから手に入れた物で間違いないね?』

 

 「はい、僕が雇ったZONEのホロウレイダー…さっき言った、僕をZONEで守り抜いてくれた人が集めてくれました。」

 

 『ふむ……私もカローレ君が親しかった人物を全て知っている訳では無い。X-ラボの上級主任とやらがどういう人物なのか、こちらからも調べてみようと思う。X-ラボは市政でもその全容を知っている者はいない、本格的に調査する必要がありそうだ。』

 

 市政のトップも力を貸してくれるなら非常に心強い、唯でさえ秘密だらけの謎の研究機関の事を調べるには、伝説とは言え一介のプロキシでしか無いパエトーンでも困難だ。

 

 「そう言えば市長……」

 

 ふと、リンは頭に思い浮かんだ疑問を市長に聞くことにしてみた。

 

 「知り合いから防衛軍もX-ラボについて調べていたと聞いたんですけど……どうしてZONEが“ホロウだった時”に何処も調べようとしなかったんですか?どうして今になって…ZONEになってから調査を始めたのか気になるんです。」

 

 その疑問を聞いてアキラもふむ…と顎に手をやる。市政やTOPS、防衛軍の様な組織なら、X-ラボ自体は旧都陥落以前から存在している事がある程度分かっていた筈だ、かつてあそこを飲み込んでいたホロウがZONEに変わったことで始めて存在が分かった訳では無いだろう。

 

 新エリー都を囲む、零号ホロウから生まれた六大ホロウは、それぞれが調査を困難にする程の危険で特殊な現象が存在するが、それでも人が全く立ち入れない訳では無い。

 

 『鋭い質問だ、答えは単純───ZONEの前に存在したホロウには“誰も干渉する事が出来なかった”んだ。正確には、エーテル活性が凄まじく、少し深く踏み込めば一瞬でエーテル侵食に侵されるせいで殆ど調査が行われる事が無かった。

 更に、それほどまでのエーテル活性の強さにも関わらず、ホロウの拡大も縮小もこれまで一切観測されなかった。これも調査がされてこなかった理由だ、言わば脅威度が低くて後回しにされていたのだよ。』

 

 「……そう言えばリン、僕達がプロキシを始めてから1回もあそこのホロウでの依頼は無かった筈だ。その周辺の共生ホロウの仕事は何度かこなしたけどね。」

 

 『その共生ホロウというのも、実は違うんだ。記録では、今はZONEとなっているホロウと同時期──旧都陥落の時に囲む様に周辺に出現した物だ、あのホロウを閉じ込めるかのようにね。更に言えば、そのホロウから新たにホロウが生まれたという報告は、これまで一つも無かった。』

 

 「え……ZONEになる前のホロウって、そんなに変わったホロウだったんですか!?てっきり原生ホロウの一つかと……」

 

 今のZONEに負けず劣らず奇妙な存在であった、今は上書きされて存在しないホロウに驚くリン。

 何せ拡大も共生ホロウを生み出す事も無い、ある意味ZONEと似通ったホロウだったとは思いもよらなかった。

 

 『誰も中に入れず、かと言って拡大することも無い、まるで他のホロウに閉じ込められた様な、あのホロウはこう名付けられた───「タルタロス」と。』

 

 「タルタロス……」

 

 『だからこそ、ZONEに変化し、ホロウが消滅して内部の調査が出来るようになった事で、あらゆる機関が共同で人員を送り込んだのさ。今まで幽閉されていた、未知の領域(ZONE)にね。その結果が……無残に壊滅と言うことになってしまったが。』

 

 だからあれだけ大規模な部隊をいきなり送り込んだのか───アキラとリンはZONE制圧作戦が行われた理由に納得した。そもそも「タルタロス」自体が、他のホロウより謎めいた存在だったと言うわけだ。謎の秘密が詰まった、誰も寄り付けない領域が開かれたなら、あらゆる組織が我先に入り込もうとする筈だ。

 

 『さて……話が長くなってしまったね、そろそろ本題に入るとしよう。』

 

 「僕達に頼みたい依頼とはなんですか市長?」

 

 『……君達にはZONEのとある地域に向かい、プロキシとしての仕事をこなしてほしい。』

 

 「「……え?」」

 

 意外な依頼に兄妹は驚いてしまう。ZONEでプロキシの仕事をしろとは一体どういう事だろうか。

 

 「えっと……市長、実はZONEではH.D.Dシステムが使えないんです、それにZONEにはガイドという案内人が居て…」

 

 『H.D.Dシステムが…?それは奇妙だな……だが、今回の依頼は現地のガイドでは無く、一流のプロキシが必要なんだ。』

 

 「分かりました、まずは詳細を聞かせて下さい。」

 

 『ありがとう、実は2週間程前、私宛にとあるタレコミが来てね。』

 

 「タレコミって…何があったんですか?」

 

 『その内容が……ZONEで讃頌会が大規模な活動を計画しているという物だったのだ。』

 

 讃頌会───その名前にアキラとリンは身を引き締める。「始まりの主」と言う存在を信仰する、危険な宗教団体。

 数々の騒動の中心、ブリンガーの事件や、ディナの件など、パエトーンを取り巻く様々な事件に関わっていた組織だ。

 

 「こちらをご覧ください。」

 

 ライカンがスマホの画面を差し出すと、画面に映し出された画像には白いスーツの様な服を来た謎の集団と、彼らに協力しているらしき科学者の様な者達がいた。

 画面中央には謎の巨大な花が存在し、その花に繋がる大量の機械が見える。

 

 『これらは謎の……匿名の人物から送られてきた物だ、ここが撮られた場所の情報と、ZONEに讃頌会がいると言う文と一緒にね。専門家によると、フェイクの可能性は限りなく低い。』

 

 「……でも待って下さい、この件と僕達のプロキシとしての力を借りたいとはどういう事なんですか?」

 

 「そうですよ、私達も何であれ讃頌会の計画は止めなくちゃと思いますけど……」

 

 兄妹としても、カローレを連れ去った白い腕の事を知っていそうな讃頌会を追う事に異論は無い。だが、ZONEというプロキシが必要無い領域で何故、プロキシの力が必要なのだろうか。

 

 『そこが話の主旨だ。この画像が撮られた場所は、ZONEの南東部──沼地と呼ばれる地域だ。だがこの場所は今、誰も寄り付けない一帯となっている。』

 

 「誰も……?ZONEのホロウレイダーやガイドでもですか?」

 

 『ああ、この画像が撮られて以降、沼地の一帯はホロウの様な環境に逆戻りし始めているらしい。』

 

 その言葉を聞いて兄妹はまたもや驚いてしまう。ZONEの一部がホロウに戻っているとはどういう事だろうか。

 

 『現在の沼地は、ホロウの様な空間になっているらしく、プロキシがいなければ進む事も戻る事もままならない状況だ。その上アノマリーやミュータントは据え置きだ。』

 

 「なるほど…それで僕達にプロキシとして沼地をガイドをしてくれと。」

 

 『その通り……なのだが、もう一つ伝えたい事があってね。』

 

 「伝えたい事…?」

 

 『実のところ…既に私の手の者を2度送っているんだ。1回目はホロウの様な空間となっている事に気付いて撤退、そして2度目は………中で消息を絶ってしまった。』

 

 その言葉に唾を飲み込むリン。アキラも軽く冷や汗をかいた、唯でさえ危険なZONEの環境にホロウの特性が混ざったのだ。讃頌会という脅威もいる以上、沼地の探索の危険度は計り知れないだろう。

 

 『そこで、私が尤も信頼しているライカン君と共に、伝説のプロキシ、パエトーンである君達に沼地のガイドを依頼しようとしたのだが…H.D.Dシステムが使えないとなると、直接向かうしかない、だがそれはあまりにも危険だ。』

 

 「大丈夫です市長、僕も一度ZONEのアノマリーを経験しましたし、ホロウをそれなりに歩き回る事が出来ますから。」

 

 アキラのその言葉にメイフラワー市長は少しばかり沈黙する、ある意味ホロウ以上に孤立した領域であるZONEで、直接パエトーンを行かせるのは抵抗があるのだろう。

 

 『……分かった。ライカン君、必ず彼らを守り抜いてくれ。』

 

 「閣下、このライカン。命にかえてもプロキシ様をお守りする所存でございます。」

 

 だが、ZONEにおける讃頌会の計画を調査しなくてはならない、背に腹は代えられないとライカンにパエトーンの身を託す事にした。

 

 「ZONEに行くのはライカンさんだけ?」

 

 「リナ達は他の業務が重なっていたのと、私共々ZONEに関しては素人ですので。その代わりと言ってはなんですが、閣下から多額の資金をお預かりしております。」

 

 『そうだ、その資金を使ってZONEのホロウレイダーを護衛として雇って欲しい。君達の安全を守れる様な、沼地を突破できる人間をね。その為なら幾らでも使って貰って構わない。』

 

 その言葉を聞いた瞬間、アキラは既に候補を2人決めていた、1人は今雇っているエージェント、もう1人は優秀な現地のガイド。あの2人なら他の優秀なホロウレイダーも知っているだろう。

 

 「分かりました、市長。ZONEの讃頌会の事は任せて下さい。」

 

 『くれぐれも、自分の命を最優先に行動してくれ。君たちを失いたくない。ライカン君、例のものを渡してくれ。』

 

 「アキラ様、リン様。こちらをお受け取り下さい。」

 

 ライカンが差し出したのは2つの証明書、兄妹の顔写真と名前がついた、何かの許可証だった。

 

 『今渡したのはZONEの公式調査許可証だ。これがあれば、ホロウ内の非合法なルートを進まず、新エリー都から直接ZONEに入ることができる。境界を守っているZONE駐留部隊に見せてくれ。』

 

 「ありがとうございます市長!」

 

 『ではこれで失礼するよ……もう一度言うが、君達の無事が最優先だ、気を付けてくれ。』

 

 「プロキシ様、私は何時でも出発の準備が整っています。」

 

 「ごめんライカンさん、少しばかり待っててもらってもいいかい?」

 

 そう言うとメイフラワー市長と通話が切れた、ライカンはすぐにでもZONEに向かえる様だ。

 だがアキラは少しばかりやる事があった、これから雇う予定のZONEのホロウレイダー、その予約をして置かなければ。

 

 「ZONEで活動している僕のエージェント…そして非常に優秀なZONEのガイドの2人に連絡をしたい。彼らの能力は必ず必要になる。」

 

 「承知致しました、アキラ様がそう仰る方々…会うのが楽しみです。」

 

 「ねぇお兄ちゃん!」

 

 繋がりを持っているバーキープと連絡を取ろうとするアキラ、だがリンはそんな兄を一旦呼びとめる。手にはリュックサックがあり、こちらも出発の準備を進めている様だ。

 

 「ZONEに必要な物って何かな?現地に141みたいなお店は無いでしょ?ホロウと違うからやっぱり缶詰とか水筒とかバックに入れといた方が良いよね?そうだモバイルバッテリーもいるでしょ───」

 

 「リン、聞いてくれ。」

 

 「?」

 

 

 だがアキラはリンを少しばかり厳しい目で見つめる。当のリンはキョトンとしていた。

 

 

 「君は留守番だ。」

 

 

 真っ直ぐな眼差しで、アキラはリンに、兄として自宅待機を命じるのであった。

 

 

 そこから暫く、ライカンの目の前でリンの猛烈な抗議運動が始まったのは言うまでもない。

 

 







 もうすぐVer.2.7が配信されるね!新しい設定とか出てきても僕ぁ独自設定でそのまま突き進むよ!


 ◇沼地
 2作目CSの最初のステージかつ、S.T.A.L.K.E.R2本編メインストーリーで必ず向かう地域。
 その名の通り広大な湿地帯だが、殆どの場所が足を取られ、移動能力が制限される為、必然的にルートが限られる。

 CSの時期は、最初のステージと言うこともあって脅威度は比較的少なかったが、S.T.A.L.K.E.R2では中盤に向かう事もあってかなり危険度が高い

 2本編のメインストーリーで向かった場合、必ずエミッションに巻き込まれ、遥か遠くの避難場所に少しでも遅れた場合、エミッションに強制的に放り込まれる事になる。
 筆者はそれで装備を全損し、弾も尽きた状態でザトンに帰還しなければいけなかったのがトラウマ。

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