Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In 作:路肩の石ころ
ZONEの奥と、それ以外の地域を隔てる赤い森───そう呼ばれるのには訳がある。
まるで紅葉の様に真っ赤な葉を茂らせるこの森は、人間の脳と体内エーテルを容易く焦がす、ブレインスコーチャーという存在によってほぼ誰も立ち入る事が出来ない地域であった。
その上、少しでも足を踏み入れれば容易く道を見失い、森に囚われてしまう空間でもあり、無謀にも侵入していった者達は1人も帰ってきた事は無かった。
故に、迷い込んだ人の血を大地の根が啜り、木々が血に染まったから赤い森と呼ばれるのだ────そうホロウレイダー達は酒の席でよく語っていた。
そんな森に今、1人の男が足を踏み入れようとしている。
彼は自殺志願者でも、自らを無敵と判断した愚か者でもない、彼はなんとかなるという確信をもって赤い森に入って行く。
一歩、また一歩ゆっくりと赤い葉っぱを踏み締め進んで行く。パキッと木の枝が折れ、ササァ…と歩いた時の小さな空気の流れが地面に広がる葉を流していく。
そして、数十歩程歩いた時に、男の脳に異変が起き始めた。
この感覚はよく覚えている。浴びる程ウォッカを飲み散らかし、翌日凄まじい程の吐き気と頭痛に襲われた時の感覚とそっくりだ。
───大丈夫、この程度なら問題ない。
視界が揺れ、頭がふらつく様な感覚に襲われるが動くのに支障は無い。何せ本来なら一瞬で脳が焦がされ、ZONEを彷徨うゾンビに変えられてしまう筈だからである。
(やっぱり……幻覚も見えてこない。これなら楽勝だ。)
男はかつて、赤い森に足を踏み入れた事があった。その時はブレインスコーチャーは何年も昔に停止させられ、森には少し強めのPSI放射が満ちている程度で済んでおり、そこでハンターを営む者もいる程には人が立ち入れた。
それでも対策もなしに森の中を進むと、ミュータントや幻の兵士達にひっきりなしに襲われる危険地帯だったのだが、あの時と比べれば単に頭痛で済むこの赤い森はなんと進み易い事か。
ふと、後ろを振り返る。自分が今進んで来たルートがある筈だった……だが、本当にこんなルートだっただろうか。
また正面を見る、心なしか、先程までと違う景色に見えた。
焦燥感が生まれる、そのせいか頭痛が酷くなってくる。視界がぐるぐると回る、少し息が荒くなって、心臓の鼓動が早く────
『ここまでだスキフ、これ以上行くと帰れなくなるぞ?』
その通信と同時に、スキフの体に結びつけられたロープが強く引っ張られた。
「相棒、お前が本当にPSI放射に耐性あるなんて驚いたぜ、本当だったらすぐにゾンビになっちまうのによう。」
「それでも酷い頭痛と目眩がずっと襲ってきた……危うく道に迷いかけたしな……」
「そりゃあ赤い森には人を迷わせる力があるからな、ホロウみたく空間が面白おかしくなってないからこんな原始的な対策できるが。」
そう言ってリヒターはスキフの体に厳重に巻かれたロープを解いていく。
これは命綱だ、スキフに結ばれたロープを赤い森の外でリヒターが持っておき、ロープが続く限り歩き続ける。ロープの長さまでしか動けないが、少なくともある程度道に迷わなくて済む。
ホロウの様な領域ではクソほども役に立たない、だがZONEでは辛うじて役に立つやり方だ。結構な割合でロープの先の人間がミュータントやアノマリーに食い散らかされたり、リヒターに何かあってそのままスキフが赤い森を抜け出せなくなったりするかもしれないが、危険のないやり方などZONEには存在しない。
「しかしまぁびっくりしたよ。突然赤い森に行ってくるなんて言い出して、PSIに脳みそやられたのかと思ったぜ。」
「ヤンターのX-ラボで、防護ヘルメットを外したのにゾンビにならなかったからな。もしかしたらと思って赤い森も試しに来たんだ。」
「俺が付いてきたからいいけどよぉ…それでゾンビになっちまったらどうすんだ。」
「その時はその時だ。」
(サハロフに簡単な検査を頼んだが……俺の体はどうなってんだか。)
少なくとも、大丈夫だと言う確証は無いが、確信はあった。ZONEで直感と言うのは馬鹿にならない……生き延びる事が出来ればの話だが。
自分の体質を調べてもらう為にヤンター研究基地に検査を頼んでみたものの、結果が出るのはまだまだ先だ。
取り敢えず、幾らブレインスコーチャーにギリギリ耐えられそうな体だと言っても、迷って野垂れ死ぬ危険もある。スキフはこれ以上赤い森に侵入を試みるのは一度中断する事にした。
(モノリス……ZONE最奥のX-ラボ……そして“夢”の連中……全部、赤い森の向こうにある気がするんだけどなぁ。)
根拠は無いが、チョルノービリとよく似たこの世界のZONEの最奥に、全ての秘密があると思っているスキフ。元居た世界でもZONEの核心部分はCNPPに集中していた。
ならばこの世界でも同じ筈だ、何とかして辿り着ければいいが……少なくとも生きて帰れなければ意味が無い。
人生の退路が無かった元居た世界と違って、ZONEの奥に辿り着きたいのは自分の興味だけではなく、アキラの依頼もあるからだ。
とは言え、アキラの依頼を除いてしまえば、そこまでする価値があるのかという思いも強いが。
「なぁリヒター。」
「どうしたスキフ?」
「赤い森の先には何がある?フリーダムの連中はこの先に行くのが目的と言っていたが……」
PDAの地図は赤い森以降はモザイクがかかっており観測が出来ていない。ブレインスコーチャーで通れない以上、ガイドでも知ることは出来ないだろう。だからこれはダメ元だった。
「フリーダムの目的なんかアーティファクトしかないさ、奴らが言うには、ZONEの最奥では伝説のアーティファクトがたっぷり眠っているらしい。それこそ新エリー都の全市民に配ってお釣りがくる程あるって噂だ、そんなどんぶり勘定でフリーダムの連中は奥を目指してるって訳。」
「なんだ、結局そんなもんが目当てなのか。てっきり何でも願いを叶えてくれる願望器でもあるのかと。」
「願望器ぃ…?ZONEでガイドをしてて色んな所行って話を聞いたけど、そんなのは酒の席でも聞かないなぁ。大抵ブレインスコーチャーにビビって近寄りもしねえ連中ばっかだし。」
拍子抜けだ、元居た世界でストーカー達がZONEの奥に向かう理由と言っていい「
「それじゃあフリーダム以外にZONEの奥に行こうとする奴は居ないのか?」
「いや、デューティも一応奥を目指している。ホロウみたく、最奥に異常共生体エーテリアスに相当する奴が潜んでいて、そいつを倒せばZONEを縮小、ないし消滅させられるって説を唱えてる……一度もそんな物見たこと無い癖にな。」
「……お前って割と連中の思想に否定的なんだな。」
ZONEの奥へと進まんと意気込むデューティとフリーダムに対し、呆れる様な反応を見せたリヒター。どちらかの思想に賛同している訳では無いというのは知っていたが、スキフとしてはそんなリヒターの反応を意外に思っていた。主にロストクでデューティの兵士達とよろしくやっていたのを見ていたからである。
「個人単位ではいい奴もいるんだけどよ……組織として見ると、デューティもフリーダムもウマが合わないのさ。ZONEが新エリー都を救うとか滅ぼすとか、妄想で勝手に決めるんじゃねぇよって話だ。」
「お前らしいな……だが同感だ、俺もそう思う。」
「だろ!?俺はZONEはありのままで良いと思うんだよ、人類に対してどうこうとか知った事か。何というか…自然?そのままのZONEが俺は大好きなんだ。」
元居た世界のリヒターと似たような、ZONEに対するスタンスに思わずスキフは苦笑する。世界が違ってもこいつはこんな感じで、殆どの人間の様なZONEが“何をもたらすか”ではなく“ZONEという存在”に価値を強く見いだしているのかと。
それこそ元居た世界のリヒターや
自分がZONEを解放してからどうなったか知るべくもない、元居た世界の親友に思いを馳せていると、自身のPDAに着信が来たのに気付いた。
「ん…すまんリヒター、バーキープからだ、なんの様だ?」
「またおつかいでもさせられるのねぇ……」
スキフがバーキープと通話している間、リヒターは赤い森に振り返った。
「………デューティもフリーダムも、当たらずとも遠からずって所なんだけどな。」
その声は、側のスキフにも聞こえない、小さな呟きであった。
その間に、スキフはバーキープとの話が終わったらしく、リヒターに今後の予定を聞いた。
「……分かった、すぐに向かおう。丁度リヒターも側にいる、俺から伝えるよ。」
「何だ?俺にも用があるのか?」
「リヒター、お前今日から数日何も予定は無いか?」
「まぁ急ぎの仕事は無いけど……何ニヤついてんだスキフ。」
リヒターの言う通りスキフは少し笑っていた。まるで久しぶりに友人に会えると喜んでいる顔である。
「俺が連れてきたプロキシを覚えてるか?あいつがまたZONEに来るみたいだ、“ZONEで一番頼れる”俺たちに護衛を頼みたいんだと。」
「へぇ…あのプロキシが。そんだけ頼りにしてくれるんなら、それに応えねぇとな!」
「ああ、すぐ向かうぞ、コルドンで待ち合わせだ。バーキープから聞いた詳細は道すがら教える。」
スキフとリヒターは意気揚々とコルドンへと向かった、アキラの様な優しく、好ましい人間から高い評価を貰うのは気持ちが良いものだ。どんな仕事であれ、絶対にこなしてやろうという意欲が湧いてくる。
2人が去った後の赤い森は、何時ものように赤い木々を揺らしていた。
◆ ◆ ◆
ホロウを介さずZONEに立ち入れるルートは複数存在するが、公的に使われるルートは主に2つ存在する。
一つはレッサーゾーンの最南にある防衛軍基地。
規模、人員、兵器……その全てにおいてZONE駐留部隊における中核とも言えるこの基地は、許可を得てZONEにやって来た“観光客”の為の物資を運び入れる重要な施設である。
ZONEを監視する任務を受け持つ小隊の大半はこの基地を拠点とし、日々ミュータントやアノマリーに出会わない事を祈りながら、任務の為にZONEとそれ以外──ホロウや新エリー都──を隔てる境界線を警備する。
もう一つがコルドンの前哨基地。
レッサーゾーンより規模が小さいが、コルドン自体がミュータントやアノマリーの危険度が比較的少ないという事もあり、まずはこちらから入ってくる者もかなり多い。
そうした人間を相手に、許可のある無しを問わず検問を敷いているのがこの前哨地だ。
新エリー都からZONEに直行出来る道路を1台の車が、大して整備されていない道路をガタガタ音を鳴らしながら、ZONEのコルドンへと走っている。
そのせいで控えめに言って乗り心地は最悪だ、自分の車で行ったらバンパーやサイドシルがボコボコになっただろうな──そうアキラは思いながら窓の外の景色を眺めていた。
この車はメイフラワー市長がZONEまでの移動手段として手配してくれた物だ、リンを家に残していく事にしたアキラは彼女が移動に困らないよう自家用車を残していく判断をした。
現在運転を担当しているのはライカンである。流石はヴィクトリア家政の執事、こんなデコボコ道でも可能な限り助手席のアキラに負担がかからないような運転をしてくれていた。
窓の外に映る森を見ながら、ため息をつくアキラにライカンが反応する。恐らく出発前に起きた兄妹の言い争いで悩んでいると判断し、少々お節介かと思いながら話しかけてみた。
「………プロキシ様、差し出がましい ようですが、本当にリン様をお連れしなくてよかったのですか?」
「うん、足手まといになりそうな人間は僕一人で十分だからね。」
「そうご自分を卑下なさらないで下さい、貴方様のプロキシとしての能力は非常に───」
「ライカンさん、今回は偶々プロキシとしての出番があるから良いんだけど…本来ZONEにプロキシは必要な存在じゃないんだ。」
純然たる事実、そうきっぱりと自らを“足手まとい”と言うアキラ。バレエツインズで出会ってから彼と幾度もホロウで行動を共にしてきたライカンからすれば、少々物申したくなる言い分だ。それが例えアキラ自身からの言葉であっても。
「プロキシもホロウのガイドだ……だけど、ZONEで求められるガイドにはなり得ない。同じガイドでもホロウとZONEじゃ全くの異分野だと言う事を、前にZONEへ足を踏み入れた時に思い知らされた。」
観測データとアルゴリズムから複雑な迷路の様になっている空間を正しく計算して導くのがホロウのガイドたるプロキシだが、無数のアノマリーやミュータントと言った脅威を事前調査と第六感で感じ取りながら進むのがZONEのガイドだ。
明らかに求められる物が違う、どっちが優れているなどと比べる物では断じて無いが、互いに畑違いなのは確かだ。
アキラもリンも戦う力は持っていない、だからこそホロウでは誰かに守ってもらう代わりにプロキシとしての仕事を全力で遂行する。
ではZONEでは?プロキシの能力が活かせられない領域ではアキラとリンは完全にお荷物だ、ZONEを研究している科学者達の様なアノマリーやミュータントに対する知見も無い。
「ZONEに始めて来た時、目に見えないアノマリーを踏まないよう祈りながら歩いた事はよく覚えている。あそこは生半可な気持ちで素人が行っていい場所じゃない。僕の通ったルートは比較的安全な地域だと聞いたけど、にわかには信じられなかった程だ。」
「故にリン様の身を案じて……そう仰るのですね。」
「まがりなりにも僕は一度ZONEを出歩いた、そこに潜むアノマリーやミュータントも少しは経験した。だけどリンはZONEの中を全く知らない……彼女の能力を信じていない訳じゃ無いけど、兄としては大切な妹を全くの未知の、危険な場所に連れて行きたくなかったんだ。」
リンもアキラの気持ちも言い分も分かっている、とは言え彼女からすればもっと自分を信じて欲しいと思ったことだろう。リンもアキラと同じ伝説のプロキシ、兄妹2人で「パエトーン」なのだから。
最終的には、リンが以前と同じく折れる形で決着がついたが、暫くは妹の機嫌が悪くなる事間違いなしだ。帰ったら何か言うこと聞いてあげないとな───そう思っていると、コルドン前哨基地が見えてきた。
「どうやら到着したようですね。プロキシ様、許可証のご準備を。」
「ライカンさん、ZONE駐留部隊は少しばかり規律がなっていないんだ。一応注意した方がいい。」
「承知致しました。」
延々と続くフェンスと鉄条網、その間に敷かれた道路に置かれた検問所、ここがコルドン前哨基地だ。
零号ホロウの前に設置されたスコット前哨基地より遥かに規模が小さいこの基地には三十人程度の兵士が配属されている。
本来ZONEへの不法侵入を拒む為の検問であるが、監視塔に設置された機関銃はZONEの外では無く内の方を向いている。やはりミュータントが新エリー都にやって来ることを警戒しているのだろうか。
基地から発せられる放送はZONEに近づく者に対して警告を発している。これをしておけば、侵入者へ問答無用で銃弾を叩き込んでも問題は無いのだろう。
車が近づくにつれ、前哨基地の防衛軍兵士達が慌ただしくなり始めた。一応こちらに来ることは事前に伝えてあるのだが、やはり大丈夫なのかと心配してしまう。何せアキラは彼らが腐敗している様を見たことがあるのだから。
『接近する車両に告ぐ!その位置で停車せよ!』
基地のスピーカーからこちらに対して呼び掛けられ、ライカンは検問の手前で車を停止させる。
防衛軍の制服にチェストリグを装備し、頭にバンダナを巻いた駐留部隊の兵士達が武器を構えながら近付いてくる。
「ゆっくり車から降りるんだ、妙な真似をしたら撃つぞ!」
「……一応市長の方から僕達のことは伝えてあるんだよね?」
「その筈ですが……プロキシ様、私が前に出ます。お気をつけ下さい。」
「よしそのままだ、動くんじゃねぇぞ、お前らがどんな人間かなんてこっちには関係無いからな。」
情報が行ってないのかどうにも乱暴な態度を取られ、警戒体勢に入るライカン。場合によってはアキラを守る為に彼らと一戦交える可能性すら考慮する。
(成る程……規律がなっていないとはこの事ですか。)
コルドンの防衛軍兵士達の行動は封鎖区域に入ろうとする者に対して、一見真っ当に見える態度かもしれない。
だが彼らをよく見ると、治安の悪い地域で勝手に通行料をせびってくるギャングに雰囲気がよく似ているとライカンは感じ取った。恐らく相手から金を巻き上げられるかどうか値踏みしているのだろう。
アキラとライカンは許可証を取り出し、駐留部隊の兵士に手渡すが、受け取った兵士は許可証を確認すると疑わしい目つきで2人を睨んできた。
「本当にお前ら調査員なのか?そんな格好でZONEに?」
「どの様な格好をしていようと我々は市長閣下から任を受けた正式な調査員です。よろしければこの場で確認の連絡を入れましょうか?」
『そいつらを通せ兵卒。そいつらは間違いなく市長が送ってきた調査員だ、“通行料”はいらん。』
基地のスピーカーから目の前の兵士の上官らしき男の声が聞こえてくる。兵士は渋々、検問所のゲートを開き車を中に入れるように誘導する。
『そんな車でZONEに入ろうとするなよ!基地に停めておいて、降りたら俺の所へ来い!』
指示に従い、前哨基地の内部に車を移動させ、適当な場所に停める。基地の中は如何にも小さな駐屯地という感じであった。四方に監視塔が建てられ、果たしてミュータント相手にどれだけ役に立つのか分からない壁に囲まれた、恐らく事務所のような役割を果たしている建物と兵舎が一つあるだけの基地。
アキラとライカンは事務所の方に入ると、アキラにとって見覚えのある人物が部屋の中に座っていた。
「部下が悪かったな、今度はちゃんと許可を取ってZONEに来たとは何よりだ。」
「へぇ…一度も話さなかったのに顔を覚えていたのか、クズネツォフさん。」
以前ZONEに来て、新エリー都に戻る途中にコルドンの中心で賄賂を強要していた防衛軍の将校クズネツォフ。
2週間程前にちらりとと顔を見ただけなのにも関わらず、この男はアキラの事を覚えていたようだ。
「そりゃあよく覚えているさ、ZONEにピクニックにでも来たような格好していた連中をリヒターの奴が連れ回しているんだからな。また性懲りもなくZONEに侵入しに来たと思って警戒させて貰った。」
「つまり市長閣下からの紹介は、上層部から貴方の耳に届いていなかったと言う事ですか?」
「ZONEに入り込もうとする為に書類どころか顔さえ偽造する奴がいるもんでねぇ?ここでしっかり検問するのが俺たちの仕事よ、文句言われる筋合いはないね。」
睨みながら相手の不手際を指摘するライカンに対して、暗に市長からの紹介なんて俺たちに知ったことかと言って見せるクズネツォフ。
バチバチと火花が飛びそうな雰囲気だが、両者共にここで問題は起こしたくないのは一致しているようだ。
「一応、簡単なチェックだけさせてもらう。ZONEに適した装備やアノマリー探知機は持っているか?金さえ払ってくれればこっちのもんをくれてやるぞ。」
「探知機に関しては既に、装備は現地のトレーダーに用意して貰っておりますので必要ありません。」
(金で装備をくれてやるって、それ横流しじゃ…)
事前にアノマリー探知機だけは市長から支給されているライカン、アキラの方は以前スキフが拾ってきた物をそのまま持ち帰ったので、それを持ち込んだ形だ。これが無ければZONEをマトモに歩く事が出来ないのはライカンも知っている。
「そうかい、許可証は問題無し……所でお前ら、何処に向かうんだ?」
「それに関しては守秘義務ですので、お伝えする事が出来ません。」
「市長から予算は貰っているんだろ?少し分けてくれれば装甲車で送り迎えだってしてやれるぞ。」
「結構です。もう宜しいでしょうか?現地のガイドを待たせておりますがゆえ。」
何かにつけて金を払えと言わんばかりのクズネツォフを相手にせずライカンはさっさと話を切り上げる。
タカれないと分かったのか軽く舌打ちをし、クズネツォフは通信機で何処かに指示をだした後、2人に許可証を返却した。
「そこのお前は知っているだろうが、橋の下には俺の部下がいる。許可証を見せれば通してくれる筈だ、何か言ってきたら俺の名前を出せ……ようこそZONEへ。」
クズネツォフから許可証を返してもらい、アキラとライカンは前哨基地を出る。クズネツォフも言っていたが、探知機が搭載されていない車でZONEを走り回るのは自殺行為なので基地に置いていくしかない。
「ここからは徒歩となります、現地のホロウレイダーとの合流場所はルーキー村となっていますが……」
「その場所なら知っている、この道を真っ直ぐ言った所だ。僕が案内するよ。」
「承知致しました。プロキシ様、どうかアノマリーにお気をつけ下さい。」
検問所を抜け、境界線を越える。
淀んだ空、自然に侵食された土地、エーテリアスと違う怪物ミュータント、謎の異常現象アノマリー。
内心、不安と恐怖を抱えながら、もう一度アキラはZONEへと足を踏み入れた。